バッセSSまとめ   作:アフロダイB

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アルバイトサンタさん

幼い頃、ヒーローに憧れた。

男ならみんなそんなもんだろう。

ダーザインの食堂でノートから視線を外した葛城烈斗はそんな時代もあったと過去を振り返る。

 

だがヒーローを続けるのは難しい。

嫌な事、面倒な事、理不尽な事、ヒーローの障害はたくさんある。

それらの積み重ねに嫌気が差して、簡単でカッコイイ存在に切り替える奴も多い。

怠惰や逃避を社会への犯行と自由への闘争のように見せる、即ちワルである。

 

少なくともワルだった頃の自分は「弱きを助け、強きを挫く」という信念の元にケンカと抗争に明け暮れる日々を送っていたが

便利な言葉を盾にして楽な方に逃げていた一面もあったかも知れない。

正義のヒーローじゃむかつく野郎をぶっ飛ばせないからな。

 

幸いにも自分には悪人に至る才能がなかったので、今は足を洗って大学で医学を志している。

とりあえず今の自分には満足しているが、子供の頃に憧れたような正統派なヒーローにはなれなかった。

だからだろうか、少女漫画から飛び出して来たような2人の少女に少しだけ負い目のような物を感じるのは…。

 

もっともあれは苦労知らずの子供だからこその振る舞いだろう。

いつかあの2人も変わる時が来るとしても、見守ってやるのが大人である自分の務めだと思う。

 

そして大人になった自分には新しい障害が立ち塞がっていた。

そう、ヒーローを続けるにも金がいるのだ。

金に執着するような大人にはなりたくなかったはずなのにな。

 

 

 

今日はバースセイバー達の給料支払い日である。

 

当たり前だがバースセイバー達は希少な技能職であり危険手当料も相当なため支払額は大きい。

だが、世界相ごとに物資や金の価値が異なるため全員が満足しているとは限らない。

 

食堂でノートを広げ難しそうな表情を浮かべている葛城烈斗もまた、生活に苦労している一人であった。

 

一見すると暴力的な男に見えるが、こう見えて医大生であり学費を稼ぐために日夜アルバイトを掛け持ちしている勤労青年である。

少々ぶっきらぼうな口調だが気さくで明るい性格であり、学生セイバー達にとっては頼もしい兄貴分である。

そんな彼が珍しく悩んでいるのだから力になってやりたいと思わされてしまうのは自然な事だろう。

悩める烈斗に同じダーザインの女子中学生コンビ、三条こはると太刀花藍が話しかけた。

 

『烈斗さんどうしたの?お顔怖いよ?』

 

『何かお悩みでしょうか?』

 

こはるは両手の人差し指を鬼の角のように見立てて、藍は不安そうに手を胸に当てて尋ねる。

 

そんな2人を見るとつい大人の振る舞いを意識してしまう。

烈斗は心配かけさせまいと出来るだけ自然な態度で対応する。

 

『よぉ、ランランにこはるんじゃねぇか。

いや、大したことじゃねぇよ。ちっと金が足りないってだけさ。』

 

そう言うと烈斗は改めて厳しい現実を見せるノートへ視線を向ける。

 

『そんなに生活が苦しいのですか?』

 

『えー?烈斗さん色々な所で働いてるのに?』

 

不思議そうに話す2人に少しだけ学費について説明をする。

医大と言うのはとにかく金が掛かる。

高額な所になれば年間1千万もの学費が掛かるのだからアルバイト程度では実は焼け石に水である。

もっともそんな話を2人に詳しく聞かせるのはまだ早い。

2人が進学の際に両親に遠慮したら大変なので、烈斗は軽く説明だけすると話題を変える事にした。

 

『そういや2人は給料どうしてるんだ?そんだけありゃあ…・』

 

途中まで口にして我に返る。

2人は恐らくは並の大人以上の金額を受け取っているはずである。

 

『いや、マジで学生が持つ金額じゃねぇよな。ホントどうしてんの?』

 

烈斗は2人に食い入るように尋ねる。

恐らくは親が管理しているのだろうが、仮に給料が全額使い放題だとしたらそれはそれで大問題だ。

念のため確認した烈斗だったが、藍からの回答は彼にとって予想外な物だった。

 

『お給料は全額を地元の老人ホームや孤児院に寄付しています。』

 

『お、おぅ…ランランは偉いな…』

 

実家が裕福だからというのもあるだろうが

それを踏まえても尊い金の使い方に、自分の学費で悩んでいたのがなんだか申し訳なくなる。

 

『自分の住む街を良くするためですから偉くはないと思います。

それに皆さんが日夜働いてくださるおかげで私は勉学に励んでいる身ですから。』

 

更に純粋な言葉を浴びせられる。

頼むからそんな目でこっちを見るのはやめて欲しい。

 

『烈斗さんは立派なお医者様になってからお返しするのですから、立派なのは今を苦しみながら励んでおられる烈斗さんの方ですよ』

 

おまけに励まされた。

断じて自分が恥ずかしいと言うわけではなく、むしろ頑張ってる方だとは理解しているが

現時点で子供に社会貢献度で負けてると思うと少し凹む。

真っ直ぐすぎる瞳から目を逸らすように烈斗は話す相手を切り替える。

 

『こはるんはどうなんだ?』

 

烈斗はこはるに話を振った。

いつも悩みなく笑顔を振りまいている彼女ならばこの空気を壊してくれると願っての事だった。

 

『私は全部お姉ちゃんに渡してるよ』

 

妥当な線だと思うが、命を懸けて戦っているのに実質無給なのは自分ならばかなりきついと思う。

こはるも常人ならば精神的にはとても厳しい状況のはずだが、彼女が笑顔を絶やしている場面を見た事がほとんどない。

2人ともまさしく種類は違えど少女コミックから飛び出したような正統派なヒロインだ。

金に困りもしなければ執着もしていない。

執着しないからこそこはるはいつも笑顔を絶やさず、藍はいつも正しい生き方が出来ている。

守ってやらねばならないと思う反面、自分が少し汚れていると感じる事もある。

良くも悪くも自分は大人になったという事だろう。

 

『ま、まぁとにかく金がねぇんだ』

 

そう言って話を切り上げようとした烈斗だったが、ふと藍が何かを思い付いたようで言葉を繋ぐ。

 

『それでしたらこちらはどうですか?』

 

藍はダーザイン支給品の小型端末を取り出し烈斗に見せた。

娯楽品としては使えないがダーザインの活動にはとても役に立つ。

それ以外にも保養施設の案内や制度の変更などを伝えてくれるありがたい存在だ。

 

『えっと、サンタのアルバイト募集?サンタ…サンタかぁ…』

 

どうやら臨時のアルバイトを募集しているようだ。

サンタのアルバイトという書き方が実に曖昧だが、おおかたサンタの格好をして呼び込みをしたりケーキを売ったりするのだろう。

この冬空ではなかなか厳しいバイトだが、それだけに支払いもいいはずだ。

 

『私達とは違う世界でのクリスマスですので、24,25日ではないようですよ。』

 

それもありがたい。

自分もクリスマスには予定がある。

 

『そうだな。うっし、じゃあランランの紹介って事で話を聞いてみるか。』

 

烈斗がようやく重い腰を上げて立ち上がると、藍とこはるは烈斗の後ろをついて食堂を出て行った。

 

 

『君達も知っての通り別の世界ではサンタが実在する。

だがサンタ役だった男が急に倒れてしまったためバイトを募集しているのだ。』

 

職員から話を聞いて烈斗は頭を抱える。

サンタのアルバイトとはサンタ行為そのものを指していた。

 

『深夜を徘徊し、鍵を外して他人の家へ侵入、プレゼントを置く。

向こうには事前に知らせていない完全なサプライズだ。

正体は秘密と言うわけではないが見られると大体ロクな目に合わないぞ。』

 

『報酬3万円だって、凄いねー』

 

言葉にすると嫌な仕事だが、深夜手当も付いて給料はすこぶる良い。

いつもなら投げ出すが烈斗の悩みの種の1つであった。

 

『君ならば太刀花君と三条君が一緒という条件でならば採用だ。』

 

『?何で2人が必要なんスか?』

 

深夜に他人の家に侵入してプレゼントを置くのが2人に向いてるとは思えない。

 

『君達の担当する配達には成人男性もいるのだよ。

彼らが密かに願っているプレゼントをサプライズで自宅に置くのが任務だ。』

 

なんか嫌なサンタだった。

その世界のサンタとは子供に限らずランダムでプレゼントを配るらしい。

愛は平等に、というテーマだそうだ。

 

『願ってるプレゼントって、どうやって調べてるの?』

 

『サンタ組合が間者を放って事前調査している。』

 

シノビかよ、ますます嫌なサンタ像になる。

そして2人の必要性がますますわからなくなる。

子供にプレゼントを配るならともかく成人男性を相手に2人が対応するのは危険ではないだろうか?

烈斗の抱く当然の質問に対し職員が質問で返す。

 

『クリスマスの日にサンタの格好をした男性が家に侵入してたら君はどう思うかね?』

 

『泥棒でしょうね。ぶっ飛ばして警察に突き出します。』

 

烈斗が即答する。

 

『ではサンタの服を着た少女が部屋に侵入して来たらどうかね?』

 

『友達ん家と間違えたんスかね?それか夢ッスね。普通に話しかけますよ』

 

自分で言って理解できた。

少なくとも即座に大事にはならないのである。

 

『サンタ制度そのものは知られているが、実際に遭遇するのはあまりにもレアケースなため

自信が遭遇してもニセモノと思うのが妥当なのだよ』

 

それはそうだろう。

サンタが何人いるかわからないが、世界の人口を考えれば全く足りない。

ほぼ全員が無関係なまま一生を終える。

 

『彼女たちの身の安全を考えて君を雇う。

女の子も3人で行動すれば安心だろう。』

 

確かに自分と2人だけだと緊張するだろう。

言われてみれば適切な人数と人材だった。

烈斗は納得すると横にいる2人の少女に目を向ける。

 

『私は大丈夫だよ。サンタさんしたい!』

 

『私も問題ありません。

こはるちゃんと一緒なら楽しいですし烈斗さんのお手伝いもしたいです。』

 

ありがたい事に協力してくれるらしい。

こはると藍は快く承諾した。

 

『ッス、じゃあ俺もよろしく頼んます』

 

『よろしい。ならば君達で決まりだ。

当日は23時半にここへ集合して欲しい。』

 

その後は些細な説明を受けて解散となった。

当日を楽しみにしているこはると藍を眺めながら烈斗は責任感の違いについて冷静に分析する。

これは2人にとっては遊びまたは慈善行為なのだろう。

だが金が支払われる以上はそんな態度ではいけない。

当日は大人である自分がフォローしなければいけないだろう。

 

(…もしかすると今回の事がきっかけで、2人の活動がヒロインから仕事に変わるかもしれないな。)

 

それは少し悲しいが、多分良い事だろう。

 

それから数日後の深夜23時半。

3人はそれぞれに支給されたお互いのサンタ衣装をお披露目していた。

 

『ど、どうでしょうか?』

 

『おぉ、いいんじゃねぇか。

2人とも誰が見ても可愛いサンタだと思うぜ。』

 

『えへへーありがとー!烈斗さんも可愛いよ!』

 

烈斗は一般的な赤いサンタクロース風。

藍はヒラヒラしたミニスカートでこはるはショートパンツスタイル。

2人ともロングソックスを履いているが寒いので藍はアフロ(トナカイ風)を連れてきていた。

道中はコートを着込みアフロを足元に置いて防寒対策するらしい。

 

女の子は大変だが、この寒中に付き合うペットも大変だ。

暖かい格好の烈斗はそれぞれに同情した。

 

『お、ソリはトナカイじゃねぇんだな。動かしやすくて助かるぜ。』

 

この手の乗り物は動かしやすい事が重要だ。

藍とこはるは少し残念がっていたが、バイトの身としてはこだわりよりも効率重視であって欲しい。

こちらの世界のサンタ同盟はその辺をよくわかっている。

 

『こちらが鍵の開錠装置だ。これを使ってどこからでも不法侵入したまえ。』

 

人を泥棒みたいに言うんじゃない、気が滅入る。

職員から開錠装置を受け取ると、全員がソリに乗り込んだことを確認する

 

『ランラン、こはるん、アフロ、全員いるな?』

 

『ニャァー』

 

何故か猫の声が返ってくる。

 

『あれぇ、アフロさんの中から猫さんの声がするよ』

 

『外は寒いから猫さんが暖を取りに来たのでしょうか』

 

アフロの中から1匹の黒猫が顔を出している。

藍の言う通り暖を求めてアフロに突っ込んだ野良猫だろう。

予想外の仲間が増えたが猫の1匹くらい構わないだろう。

なんなら後ろのメンバーの暇つぶしになってくれるに違いない。

 

『うっし、行くぜ!落ちるんじゃねぇぞ』

 

烈斗は力強くペダルを踏むと、冬の夜空へと勢いよく飛び出した。

風辺りが強くて流石に凍えるが、後ろの2人と2匹は楽しそうに眼下を眺めている。

 

『そうだ、君の事をアフロニアスと名付けよう。

アフロ星に伝わる伝説の英雄の名前だよ。』

 

アフロが猫に語り掛けているが猫は返事をしない。

 

『きっと猫さんには違う名前があるんだよ』

 

予想通り猫は2人と1匹のいい暇つぶしになっている。

楽しそうな後部座席を余所に烈斗は地図を確認する。

楽しいのは結構だが、金を貰ってるのだから仕事はしっかりしなければならない。

実質自分の手伝いである子供2人は遊んでいてもかまわないが自分だけはプロフェッショナルに徹するつもりだった。

 

ただしく地図を読み取った烈斗は特に問題もなく一件目の家に到着した。

 

『では一件目は私が行って参ります。』

 

到着するなり藍が配達人に名乗りを上げる。

こはるを侮るわけではないが、しっかり者の藍の方が確実だろう。

烈斗がゴーサインを出し、最初の家には藍が侵入する事となった。

藍は音を立てないよう静かな足取りで家の裏手に回っていった。

 

それから15分が経過した。

配達先の家に裏の窓から侵入したはずの藍が戻ってこない。

 

『…まさか何かあったのか?』

 

バースセイバーとして前線で戦う彼女だから危険な事はないとは思うが少女であることに変わりはない。

何らかのトラブルを起こす可能性はある。

心配する気持ちばかりが膨らんでいく。

 

『藍ちゃん何かあったのかな?』

 

『ちょっと見て来る。こはるんはアフロと猫とここで待っててくれ』

 

烈斗は最悪の展開でない事を祈りつつ、藍が入った窓から部屋へと侵入すると…

 

『わ、わっ!お兄さん上手ですね!もう少し手加減してください』

 

『ふっふー、じゃあ次はもっと弱いキャラで…』

 

藍は家主と思われる男とスマブラで対戦してた。

 

『なんでスマブラで対戦してんだよぉ!』

 

烈斗が大声で突っ込むと、家主と思われる男が両手を付いて崩れ落ちた。

 

『しまった美人局かぁっ!!』

 

『美人局ちゃうわ!!』

 

家主を藍に落ち着かせてもらい、互いに事情を説明する。

家主が起きてるのは想定外だったが、よく考えれば子供相手じゃなければ当然の結果だろう。

仮にオッサンが一人で配達してるんだとしたらサンタ制度で毎回血が流れてるんじゃねぇのか。

 

『クリスマスの夜にサンタ娘が家に入ってきたら、そういう楽しい夢だって思うじゃないか。』

 

正直わからなくもない。

家主は藍を都合の良い夢の存在だと思い込んで楽しんでいたらしい。

 

『すみません。クリスマスなのに一人で寂しいそうなんです。

ですが、奇跡のような何かを期待してしまって眠れないらしく、私もつい情が移ってしまい…』

 

藍も申し訳なさそうに説明する。

 

『待ってくれ、この子は悪くないんだ!俺が土下座までして引き止めたから…!』

 

『いえ、悪いのは私です。配達の途中でしたのにどうしても断れなくて…』

 

なんか俺がワルモノみたいになってるが藍の同情はプロにあるまじき発想だ。

これは仕事で、俺達は金を貰うんだぜ?

烈斗は情を切り捨て話を切り上げる事にする。

 

『もういい。時間もねぇんだしサッサとプレゼント渡して次行こうぜ。』

 

『わかりました。ではお兄さん、こちらがプレゼントになります。』

 

そう言って藍は袋の中から家主あてのプレゼントを探り出す。

 

(ん?そういやコイツのプレゼントって何だっけ?)

 

気付くのが遅かった。

袋から取り出した藍の手には人気アイドルアニメの美少女フィギュア(下着ver)が掴まれていた。

 

(アウトォォォオオオ!)

 

烈斗が心の中で激しくジャッジする。

この野郎、よりによってこのくらいの年頃の少女が最も嫌悪感を抱きそうなブツを願ってやがった。

 

(お前なんてもん欲しがってんだよ!)

 

(お前らが勝手に持って来たんだよ!)

 

烈斗と家主が互いに目で訴え合うがどうにもならない。

2人は藍の口からどんな言葉が飛び出すのかと恐る恐る身構えていたが

藍は頭を下げて予想外の言葉を発した。

 

『申し訳ありません!

こちらのお人形さん、手違いで服を着せ忘れられているようです!

後日改めて手配させて頂きますので今日の所は他に配達もございますしご容赦を頂けませんか?』

 

どうやら藍はフィギュアを欠品と判断したらしい。

男たちの間にきまずい空気が流れる。

 

(ど・う・し・よ・う?)

 

(は・な・し・を・合・わ・せ・ろ)

 

どうにか目で以心伝心する。

 

『こ、困るなぁ。これは妹へのプレゼントなのになぁー。服がないと渡せないよー』

 

『はい、本当に申し訳ありません。後日責任を持って私が再配達させていただきますので』

 

藍の一言を家主は見逃さない。

 

『じゃあ君と連絡先の交換を…』

 

『連帯責任だ俺もグループに混ぜろ配達ん時は俺も呼べ』

 

烈斗が即座に割り込む。

 

(じゃ・ま・す・ん・な!)

 

(青・少・年・育・成・保・護・条・例・だ!固羅亜!)

 

藍の身の安全を掛けたアツイ攻防戦が繰り広げられる。

 

『…そうですね。じゃあ私と烈斗さんと家主さんを配達用のグループに。』

 

家主が舌打ちをする。お前いい度胸してんな。

 

『それと家主さんには私と姉の3人グループにもご招待します。

姉はゲームが上手なのできっと仲良くなれると思いますよ。』

 

いともたやすく異世界の男に紹介される姉。

何故か姉を紹介した藍の意図が烈斗には読めなかったが、ともかく欠品を引き換え用の証拠と称して置き去りにして烈斗と藍はソリに戻る。

色々あったが実際には正しいプレゼントを渡したのだから一応は任務完了だ。

 

次の目的地への移動中に、先程の配達についての反省会を行う。

 

『あれだな、ランランは配達に向いてないな』

 

『…はい、面目ありません』

 

藍は申し訳なさそうに下を向きながら答える。

優しい気持ちは大事にしてやりたいと思うが、これは仕事だからな。

大人として甘やかすわけにはいかない。

 

『藍ちゃんは優しすぎるよぉ』

 

こはるがいい事を言う。仕事に情は不要だ。

少し予想外だったが藍よりもこはるの方が仕事に対する責任感があるようだ。

いや、藍の場合は仕事よりも己の生き方を優先してしまうのだろう。

やはり正しいヒロインは社会に向いていないと思う。

 

『あっ、さっきのお兄さんから早速連絡がありました。

動物のおもしろ動画を送ってくれていますよ』

 

『わー可愛いねー』

 

先程の男が早速連絡を取ってきたようだ。

必死過ぎるのが見ていてツラい。

ともかく遅れた分を取り戻すように烈斗はソリを加速させ次の配達先に辿り着く。

 

『じゃいってくるよー』

 

『こはるんちょい待った!』

 

到着するなり飛び出したこはるを烈斗が呼び止める。

今回はプレゼントについて事前に確認しておくことにした。

先程のような気まずい空気は二度とごめんだ。

 

『地下アイドルの限定ブルーレイだって』

 

どんな人物が欲しがっているのか一抹の不安はあるがプレゼントとしては問題ない。

 

『パッと荷物だけ渡してパッと帰ってきてくれよ』

 

烈斗の声に走りながら笑顔で手を振り返すと、こはるは家の裏手に周っていった。

 

そして15分が経過した。

烈斗は判断を誤ったと後悔していた。

藍が向いてないんじゃなくて、根本的に少女にやらせるのが無理があるのではないか。

 

(プレゼントもアイドルのブルーレイだったしな)

 

なんというか成人男性の望むプレゼントとしては逆に業を感じる。

烈斗の中で嫌な予感が膨らむ。

 

『ランランはアフロと猫と待ってろ!』

 

最悪の展開でない事を祈り、烈斗はこはるが入った窓から部屋の中へ侵入すると…

 

『えぇー?こう?腕をこう?』

 

『そうじゃないよ!もっと足を延ばして!』

 

こはるはダンスの練習をしていた。

家主と思われる男が烈斗の存在に気付くと膝から崩れ落ちて土下座し始めた。

だから美人局じゃねぇっての。

 

こはるに執り成してもらい互いの事情を伝える。

これサンタシステムに問題ありまくりじゃねぇのか。

 

『だってクリスマスの日に女の子がアイドルの限定ブルーレイを持ってきたら

僕のような優良ファンへの候補生の接待だと思うだろう!?』

 

ファンに優良も何もない。

強いて言えば普通か悪質だ。

ともかく事務所に支持されたアイドル候補生が

優良ファンである自分への接待も兼ねて限定ブルーレイを配達しに来たと勘違いしたので

家主は優良ファンとして彼女をトップアイドルへと導こうとアドバイスしていたらしい。

 

『プロデューサーさんの熱意に私も乗せられちゃった。』

 

『君には素質がある!

ボクに任せて貰えれば必ずトップアイドルになれるぞ!』

 

アイドルじゃなくて最前線にいる戦士なんだわその子。

ここに長くいるとロクな展開にならないと感じたので、烈斗は話しを切り上げる事にする。

 

『とにかくプレゼントは渡したから任務完了だ。次行くぞ!』

 

烈斗はこはるの手を引いて立ち上がったが、家主がこはるの手を掴んで食い下がった。

 

『待ってくれ!

君はアイドルを目指すべきだ!

僕と一緒にトップを目指そう』

 

何を言い出すんだコイツは。

烈斗は強めに言ってやろうとしたが、こはるが自分を制止するように手を差し出した。

こはるがこんな態度をとるのは珍しいので少し面食らう。

 

『プロデューサーさんが一生懸命に教えてくれたから

こはるは確かにアイドルだったよ、ありがとう。

でもこはるは他にやりたい事があるからアイドルはおしまい。ねっ!』

 

こはるは姿勢を少し改めて誠意を尽くすかのように伝える。

こはるの言葉に家主はガクリと膝をついて、神でも崇めるかのように静かに涙を流す。

 

『…わかっていたんだ。

コハコハの魅力はアイドルではない事にある。

…君はアイドルにならないからこそ輝く、私だけが知る幻のアイドルなんだ…』

 

心底どうでもいいしアイドルでもない未成年を勝手にコハコハとか呼ぶな。

 

『今度はソリで待たせてる友達と一緒に来るよ。またねプロデューサーさん』

 

そう言ってなぜか藍を道ずれにすると、こはるは笑顔で手を振りながらソリへと乗り込む。

こはるの意図をやはり烈斗は理解できなかった。

家主はペンライトを振り涙を流しながら別れの言葉を叫んでいた。

なんだこれ。

烈斗は感情を消してさっさと大空へと飛び出す。

 

『わっ、さっきのお兄さんから早速連絡が来たよ。

藍ちゃん見てみて、この動物面白いよ』

 

『わっ、可愛いー』

 

で、なんでどいつもこいつも動物動画で関係を保たせようとするんだ。

見ていてツラい。

2人に連絡先を交換させたことを大人として若干の問題を感じるが、どうせ異世界にいるんだからほとんどつながらない。

彼らと少女達の関係は自然と消滅するだろう。

2人が連絡先を繋いだ意図はわからないが、とにかくプロらしからぬ無駄な時間を過ごしてしまった。

 

『2人ともバイトの自覚が足りてねぇぜ。

これは仕事なんだから私情で疎かにしちゃダメだぜ』

 

仕事の責任を押し付けるのは2人にはまだ早いと重々承知しているが、それでも今後のためを思い軽く説教をする。

2人からは反省したトーンの返事が戻ってくる。

まぁこんなもんだろう、後は自分が巻き返せばいい。

 

『次の荷物はでっけぇから俺がやるよ、2人は荷物番をしててくれ。』

 

先に失敗した2人は烈斗の提案に素直に頷いた。

 

次の配達先に到着すると烈斗がプレゼントを肩に抱えてソリから降りる。

中身は全自動マッサージ機だそうだ。

そのままゆっくりと窓を開けると出来るだけ音を立てずに家の中へと侵入していく。

床は軋んでいてちょっとした重みで悲鳴を挙げるが、それでもゆっくりと歩を進める。

ようやく居間らしき広い部屋に辿り着いたので、そこにゆっくりと荷物を降ろす。

後は外へ出るだけだと思われたその時だった。

 

『…お爺さん?』

 

振り返るとそこには小さな老婆がいた。

見つかってしまったが見つかって悪いと言うわけではない。

烈斗は事情を説明して堂々と玄関から帰ろうとしたが…

 

『お爺さん…やっぱり若い頃のお爺さんだわ!

天国から会いに来てくれたのね』

 

キッツイ、心に来る。

寂しそうな老婆にこんな事を言われたら男は無下に出来ない。

プロとしての心構えを伝えたばかりの自分だが流石にこれは想定外だ。

 

『待ってくださいね。今お茶を淹れますから』

 

このまま逃げ出すのは可哀想なので烈斗は少しだけ老婆に付き合う事にした。

お茶の1杯くらいいいだろう。

烈斗は椅子に座って大人しく待ち、やがて差し出された熱いお茶にゆっくりと口を付けた。

 

『お爺さんが亡くなってから…もう10年になりますね』

 

そんなに長いこと一人なのか?

子供は?孫は?

そんな烈斗の表情を読み取るように老婆が話を続ける。

 

『私達には子供が出来ませんでしたから…

あれからずっと…お爺さんが建ててくれたこの家に一人です。』

 

自然と涙が溢れそうになる。

こんな人の良さそうな婆さんが何でこんな寂しそうな顔をしなければいけないんだ。

 

それに烈斗には理解できたことがもう1つある。

この老婆はボケていない。

自分が夫ではない事を理解した上で話しかけている。

1つは(ドロボーと思われる)自分を見逃すため。

もう1つは烈斗に心残りが無いようにボケたフリして旦那の演技に付き合ってもらい、立場をおあいこにさせてるわけだ。

 

今さらわかりきった本当の事をいうよりは、演技に付き合って老婆の気持ちを少しでも救ってあげた方がいい。

そう判断した烈斗は徹底的に旦那を演じる事にした。

 

『お前には寂しい思いをさせてるな。

でもな、ワシはお前に少しでも長生きして欲しい。

外に出るのも辛い身体だろうが、生きていれば他の家族や友達にも会えるし新しい出会いもある。』

 

これと言った特徴の無い励ましだが本心だ。

辛い事から逃げるのではなく、その先にある小さな幸せを求めて長生きして欲しい。

そんな烈斗の優しさが伝わったのか老婆の目から涙が零れ落ちる。

ここが決め時だろう。

烈斗はとっておきの真っ直ぐなセリフを言う事にした。

 

『婆さん…愛してお…』

 

『何してるの烈斗さん』

 

突然の冷静な横槍。

廊下に目をやるとこはると藍が真顔で立っていた。

 

『え?あ、いや!これはその…』

 

プロがどうとか言っていた手前、これは流石にバツが悪い。

烈斗がしどろもどろになっていると老婆が気を利かせて明るく振る舞ってくれた。

 

『あら!あらあらあら可愛らしいサンタさんだこと!

どうしちゃったのかしらー?お家と間違えちゃったかしら?』

 

こうなっては仕方がないので、3人は素直に事情を説明する事にした。

 

『本物のサンタさんがいるのは常識だけど、まさかこの歳になってうちに来るなんて。

それもこんな可愛いサンタさん♪』

 

そう言って老婆は椅子に座ってお茶菓子を頂く2人の間に立って頭を撫でる。

正直2人が来てくれて助かった所もある。

老婆を心から笑わせるのは大人の自分では出来なかった事である。

 

『藍ちゃん、これ美味しいね!』

 

こはるが少し大きな声で藍に話しかけると藍も相槌を打ちつつ会話を繋ぐ。

 

『そうだね。

お婆さん、よろしければ作り方を教えて頂けませんか?

連絡先の交換をしていただけると助かります。』

 

『私もまた食べたいから今度また来るよー』

 

そう言って藍とこはるは老婆と連絡先を交換する。

その後も自分が通う介護施設の人に対する相談に乗って欲しいなど

子供の立場を利用して老婆と繋がりを増やしていく。

2人とも大人しい子だと思っていたがコミュ力は高いらしい。

 

ひとしきり話した後、老婆に玄関で見送られながらソリに乗り込む。

 

『すみません。かなり時間を取ってしまいましたね』

 

『いやぁ、今のは俺が悪い。

むしろ2人には感謝してるぜ。』

 

大人だ子供だと区別ばかりしていたが今回は子供部分に助けられた。

そんな風に自己分析をしているとこれまで猫を温め続けていたアフロが口を開いた。

 

『君達の請け負ったバイトだからアフロは口を出さずにいたけど

3人とも失敗をしてしまったね。ここからはアフロが配達するとしよう。』

 

なんかアフロがしゃしゃり出てきた。

一番大騒ぎになりそうな気もするが、アフロは譲らない。

こう見えてアフロは中年のおっさんであり、アフロ星では立派な社会人だったのだ。

3人は仕方なくアフロに配達を任せる事にした。

 

配達先に到着するとアフロは素早く開錠装置で窓を開ける。

そのまま一気に窓から部屋への侵入を試みるが

 

『ああああああああ!突っかえたよぉおおおおお!!』

 

アフロが窓に突っかえて大声を上げる。

 

『うわあああバケモンだ!!』

 

家主の悲鳴が響き渡る。

案の定大騒ぎになった。

 

『ええいままよ!アフロ突撃!!』

 

メキメキと音を立てながら強引に突破を試みるアフロ。

 

『ひ、ひぃ、来るなぁ!!』

 

恐怖に怯えた家主の悲痛な叫びが聖夜に響き渡った。

なんとか藍が家主に執り成しアフロは箒で散々突つかれはしたが何とか事なきを得る。

 

『くそぅ、アフロとしたことが気圧の変化を計算に入れ忘れていた。気圧さえ忘れなければ…!』

 

『う、うん。そうだね。気圧がね…』

 

落ち込むアフロを藍とこはるが慰めている。

結局は全員が失敗したが、ともかく残り1件でサンタは終了だ。

最後の1件はどんな相手なのか、書類を持っている藍に尋ねる。

 

『最後の配達人は小学生の男の子ですね。プレゼントはゲーム機です。』

 

小学生の男の子なら何も問題は起きないだろう。

最後は良いクリスマスで締められそうだ。

烈斗は気持ち軽やかにペダルを踏んでソリを加速させた。

 

最後の配達先へは藍とこはるの2人で向かわせることにする。

2人一緒なら何かあっても大丈夫だろう。

 

藍とこはるが部屋の窓を開けると男の子はまだ起きていた。

ここまで誰一人として寝ていなかったのでやはりサンタシステムには問題がある。

 

『えっと、私達はサンタさんです。』

 

『サンタさんです!』

 

藍とこはるの自己紹介を聞いて少年の目が輝く。

 

『じゃあ僕の本当に願ってるプレゼントをくれるんだね!』

 

『はい、もちろんです。』

 

そう言うと藍は袋からゲーム機を取り出して手渡す。

だが少年の反応は喜びとはほど遠いものであった。

 

『…ははは、ありがとうお姉ちゃん。僕これ欲しかったんだ。』

 

少年の顔は絶望感に満ちていた。

欲しかった物が貰えなかったというよりは、何かの現実を突きつけられたという印象だ。

 

『大丈夫だよお姉ちゃん。

きっとこれで合ってるんだろうから。じゃあね。』

 

そう言って少年は藍とこはるの背中を押して追い出そうとする。

2人がどうしようもなく部屋を出ていこうとしたその時だった。

 

『ちょっと待て少年。なんだその態度はよ。』

 

窓から強面のお兄さんが現れて少年が恐怖する。

 

『烈斗さんお顔怖いよー』

 

『っと、わりぃわりぃ。

どうせ最後だし見届けようと思って見に来たらおかしなことになってっから

ちょっとシリアスモード入っちまった。』

 

こはるの注意に素直に従い笑顔になると烈斗は部屋へと入ってくる。

 

『ランランとこはるんは先にソリに戻っててくれ。

ちっと男同士で腹割って話してぇ。』

 

少年がすがるような目で藍とこはるを見たが、2人は『大丈夫』と少年の頭を撫でると外へと出て行った。

静かな部屋の中、少年と烈斗だけが取り残される。

 

『さて少年。

男同士だから遠慮はいらねぇ。

かっこつけてお姉ちゃん達には言えなかったんだろ?』

 

甘やかすと言うよりは男と見込んで言葉を放つ。

 

『何が欲しい?』

 

そんな烈斗の言葉には頼もしさと優しさが込められていた。

気持ちが伝わったからだろう、少年は絞り出すように呟いた。

 

『…リムがいい』

 

『なんだそりゃ?』

 

ぶっきらぼうな態度は認めている証である。

聞きなれない単語を烈斗が尋ねると少年は語り始めた。

 

少年はかつて猫を飼っていた。

その猫の名前が【リム】である。

だが今の家に引っ越す際に新居ではペット禁止だからと言う理由でリムは別の家に預けられたのだ。

少年はどうしてもリムを諦めきれず、何日も大家の家に通って説得を続け、どうにかペットの許可を得る事が出来た。

しかしリムを預けた家に向かうと、そこにリムの姿は無かった。

リムは受け取った初日に家を飛び出してしまい、それっきりだそうだ。

 

『だから僕、サンタさんに一生懸命お願いしたんだ。

どうか僕の家に来てくださいって。』

 

烈斗はどうしようもなく拳を握り締める。

 

『…でも、サンタさんがゲーム機を持って来たって事は…リムはもう…いないんでしょ?』

 

少年の曇った声が心に響く。

自分達が彼の最後の希望も奪ってしまった。

やるせなさが烈斗を襲う。

プロとして、ゲーム機を渡したんだからそれでよしなんて気が済まない。

俺は大人だが、今でもヒーローのつもりなんだぜ?

烈斗は立ち上がると窓を大きく開く。

 

『ちっと待ってろ少年。

世界ってのは広くていくつもあるんだ。

どっかの世界にゃリムを呼び寄せる便利な道具も、ケガしてりゃ一発で治しちまうようなもんだってあるはずだ』

 

何が大人だ。

何がプロだ。

んなもんクソくらえだ。

やってやんよ。

猫一匹幸せ1個、ビシッとお届けしてやんよ。

 

『待ってろやぁ!リムゥ!』

 

烈斗が窓に向かって叫ぶ。

それは彼なりの決意表明だった。

 

『ニャーン』

 

アフロの中にいる猫が烈斗の声に反応する。

いやお前じゃねーよ。

せっかくの決意にいいタイミングで水を差されて少し項垂れる。

だが後ろを振り向くと少年の様子がおかしい。

 

『その声…リム!リムなの!?』

 

少年が叫ぶとアフロの中から黒猫が勢いよく飛び出してくる。

 

『リム!リムだ!本当にリムだ!』

 

『ニャァ!』

 

走り寄ってきた猫を少年が抱きしめる。

 

『…え?いや、マジで?』

 

信じられないと尋ねる烈斗に少年が満面の笑顔を見せる。

嘘でこれは無いだろう。

何よりも猫が懐いているのだ。

 

『サンタさん、ありがとう!

やっぱり本物のサンタさんは凄いね!』

 

そう言って笑う少年の頭を烈斗が強めに撫でる。

 

『おう!なんたってサンタはヒーローだかんな!

でもよ少年、あっちの姉ちゃん達の前でカッコつけたのはよくねぇ。

無理してカッコつけると相手も怯えちまうんだよ。』

 

烈斗はかつての自分に言い聞かせるように言う。

 

『今はそのまんまでいいんだ。

大人になるとカッコつけ続けなきゃいけねぇんだわ。

散々やらかして、それを取り戻すために生きるのも、ある意味で大人の姿だぜ』

 

少し難しかったかもしれないが、気持ちは届いたはずだ。

少年は強く頷いた。

 

『あははは、かっこつけてたんだ』

 

『こんなに可愛いのに、男の子なんですね』

 

藍とこはるの言葉で少年が赤くなる。

 

『やめろランランこはるん。

オメーらには可愛いかもしれねーけど、こんくらい歳のガキにはデリケートな問題なんだ』

 

ヒーローが慌てて2人を止める。

トラブルはあったが最後の配達は笑顔で締めくくる事が出来た。

 

帰り道のソリの中で、烈斗はようやく気付いた事を口にする。

 

『ランランとこはるんはそいつが本当に欲しがってる物を渡してたんだな。』

 

最初のオタク野郎は友達。

2件目のアイドルマニアには、アイドルとして輝かせたという経験。

3件目の老婆には人との繋がり。

4件目の家にも何かしていた様子だった。

 

『そんな大層な考えではありませんでしたよ。』

 

『うん、ただそうした方がお互いにいいんじゃないかなって事をしただけだよ』

 

お互いに、というのは誰かの喜びが自分の喜びという事だろう。

大人でも出来ない事をアッサリとやってのける。

やっぱこの2人は少女コミックだわ。

 

『それに5件目は烈斗さんがいなかったらどうしようもなかったですよ』

 

藍の言葉でふと思い出す。

確かにあれは自分が居なければどうしようもなかった。

要するに…

 

『人を救うのは大人とか子供じゃないんだな』

 

『そうそう、世界にどんなヒーローがいたって目の前の問題は目の前の人にしか解けないもん』

 

こはるの一言で、大人だ子供だヒーローだと区別していた自分を恥じた。

そんなの関係ない。

アイツに出来ない事が俺には出来るし、その逆もある。

子供の頃に憧れたヒーローにはなれなかったが

自分は自分なりにやれることをやっていけばいい。

 

(…ガラにもなく悩んじまったが、結局はここに戻ってきたな)

 

烈斗は大きく伸びをするとペダルを強く踏んで加速する。

 

『しっかし、ランランとこはるんは大変だな。

本当なら5件目のガキみたいにプレゼントを貰う側なのにさ』

 

『いいえ、貰いましたよ?』

 

何気ない言葉のつもりだったが、予想外の言葉が返ってくる。

どういう事だ?

 

『猫さんだよ』

 

自分の顔を読み取ってこはるが回答をする。

 

『はい、あんなの奇跡しかありませんよ。

本当に良い物を見る事が出来ました』

 

『ねー!一生の思い出だよ!』

 

『ねー!』と声を合わせて2人が微笑む。

そんな2人を見て自分はと言うと『ははっ』と乾いた笑いが出る。

少年が笑顔になったのは良い事だが

それが俺へのプレゼントだと言われたらロマンチックではあるが…まぁ、ねぇよな。

やっぱ俺は大人だわ。

いや、大人と子供の中間かもな。

 

ま、だからこそ出来る事もあるんだけどな。

烈斗はニヤリと笑うと、ソリを更に加速させて夜空へと飛び出していった。

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