バッセSSまとめ   作:アフロダイB

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藍とエリゼ

『これってもしかして』

 

『私たちの身体が』

 

『『入れ替わってる~!』』

 

バースセイバーである太刀花藍とエリゼナート=トゥ=ライエル(エリゼ)は

とある世界相に現れたテロリスト鎮圧のために出撃し、元の世界に戻ってきたのだが…

 

『ふむ、君達2人の意識だけが入れ替わっているね。

世界相を移動していると稀にこういう不具合が起きるのだよ。

こちらの世界で24時間後、明日の20時には戻るよ。』

 

ワープ装置を操作している担当者が事も無げに告げる。

藍の身体をエリゼが、エリゼの身体を藍が動かしている。

いわゆる入れ替わり現象だそうだ。

 

『そんな…24時間もどうすれば…』

 

不安そうに呟く藍とは対称的にエリゼはいたずらっぽい笑みを浮かべていた。

 

(おっしゃあ!

お金持ちのお嬢様に入れ替わりとか最高じゃん!)

 

エリゼは小さくガッツポーズをとる。

 

(思えば長く苦しい16年間だった。

カノニカル世界のトップ令嬢である太刀花家に手が届くところまできたのだ!)

 

どこぞのキン肉シマウマみたいな事を言うエリゼ。

これは神の気まぐれによる思し召しだと都合よく解釈する事にした。

すなわち神のせいなので私は思う存分に状況に流されてよい。

宗教家らしい神の使い方である。

 

(藍には悪いけど一日くらい良い思いさせてもらってもいいわよね!バンザーイ!

お嬢様には庶民の生活は大変でしょうけど頑張りなさい。

泣いちゃうかもしれないけど、庶民の苦労を知った分だけ優しい子になればいいのよ。うんうん。win-winってやつだわ。)

 

などと、この時点のエリゼは安易に考えていた。

 

『エリゼさん、明日の20時まではお互い医務室で休むことに…』

 

やはり来た正論!

エリゼが即座に口を挟む。

 

『いいえ、貴方には学校があるでしょ?

学校はサボっちゃだめよ。私が出席してノートを録ってあげるわ。

代わりに藍は社会勉強と思って一日だけ私に代わって大人の務めを果たして見せなさい。

もちろん庶民の大人の苦労は生半可なものじゃないわ。』

 

ここぞとばかりに大人をアピールするエリゼ。

普段スルーし続けている大人の責任を全て藍にやらせようと言う魂胆である。

 

(藍は社会勉強をして自分の評価は上がる。

おまけに自分は楽しいお嬢様&学校生活!ビバwin-win!)

 

『かしこまりました。

私なりにエリゼさんの名誉を落とさぬよう精一杯お勤めさせていただきます。』

 

とっくに落ち切っている名誉を心配してくれる藍に少しだけ心が痛むが

これはお互いに必要な事なのだと言い聞かせる。

そう、藍の教育の為でもあるのよ。

 

『ところでエリゼさんは普段はどのような事をなされているのですか?』

 

『…………えっ?』

 

藍の質問に言葉が詰まる。

何をしているかと言われたらダーザインでの戦闘以外は常に遊んでいるのだが正直に言うわけにはいかない。

藍には自分に代わって大人の務めを果たしてもらわねばならな…

いや、藍が大人を侮ってしまうのはよくないのよ!うん!

 

『そうねぇ。

…教会の掃除でしょ?

それと神様へのお祈りしたり、悩める人を導いてあげたり…

大体そんなところよ。』

 

何もしてないなりにでっちあげるがイマイチ浮かばない。

少しばかりまずいかと思ったが…

 

(やることが少なすぎる…

エリゼさん、私が疲れすぎないように気を使ってるんですね…)

 

藍が指を顎に当てて考えている。

なんか良い方向に勘違いしたっぽいのでグッとこぶしを握り締めて小さくガッツポーズ。

 

『あ、ちなみに私は…』

 

自分の予定を言おうとした藍の口をエリゼが遮る。

 

『あたしは大人よ?

藍のやってる事くらいチョチョイのチョイよ!

全部私に任せておきなさい!』

 

実際、聖女としてのお務めを果たしていたエリゼにとって自分のしている事など容易いだろう。

そう考えた藍は笑顔で『よろしくお願い致します』とだけ伝える。

 

かくしてお互いに合意の元で入れ替わり生活が決まった。

そのまま2人はそれぞれの体が戻るべき場所へ向かったのだがエリゼにはいくつかの誤算があった。

その1つが、藍は親の言う事をよく聞く子であることだった。

何かあればきちんと家族に相談してしまうのだ。

 

(エリゼさんはあんな風に仰ってくださいましたが叔父様達の目はきっと誤魔化せません。

すぐにバレてエリゼさんが自信をなくさぬよう事前に根回しをしておきましょう。)

 

藍はダーザインの通信機を使い、太刀花家のメンバーには全てを打ち明けたのだった。

藍からの電話を取り継いだ藍の兄は直ちに祖父と叔父に報告するのであった。

 

『というわけで、今日の藍は見た目は藍ですが

中身はエリゼナート=トゥ=ライエル様という異世界の元聖女様であり大変高貴な方だそうです。

粗相のないように丁重に扱うべきでしょうか。』

 

祖父からの言葉はない。

叔父の判断に任せると言うことだろう。

叔父はわずかに唸ってから言葉を放った。

 

『否!エリゼナート=トゥ=ライエル様は藍の代わりを務めると仰って下さったのだ。

藍の戦場での立ち振る舞いを見ていれば常識的な生活ではない事くらいは重々承知しておられるはずである。

それを知りながら敢えて入れ替わりを続けるエリゼナート=トゥ=ライエル様の気持ちを無下にはできん。

明日はいつも通りに、為せなければ容赦なく痛めつけて教えてやりなさい。

それが我々にできる彼女への唯一の礼節である!』

 

祖父が静かに頷く。

報告をした兄は深く頭を下げてから退室し、今の言葉を屋敷の各員に伝えた。

エリゼ地獄の一日編の開幕であった。

 

昨夜のエリゼはとてもいい気分で眠りについた。

夕飯を外で済ませて太刀花家に帰宅するとホテルのように広々とした従業員兼用のお風呂に浸かり

ぬるめのお茶で心を落ち着かせ快適な温度が保たれた自室で本を読みフカフカのベッドに倒れこんだ。

酒を飲めなかったのは残念だが十分に満ち足りた気持ちで眠りにつくことが出来た。

 

さて、朝になれば婆やか何かが優しく起こしてくれるのだろうと思っていたのだが…

 

『いつまで寝とるかぁー!!』

 

『ぶぇっ!!』

 

布団をひっくり返されて床に叩き落された!変な声が出たわ!

状況が呑み込めず困惑するエリゼの胸倉を容赦なく掴み

お兄さんが鬼のような表情で顔を寄せてくる。

 

『訓練場の掃除はどうした今からでは5分前には終わらんぞお前が混ざりたいと言うから掃除を条件に朝練に混ぜてやってるんだぞさっさとやれ!!』

 

早口で一気にまくしたて兄が部屋を出ていく。

なんなんアイツ。

ばーっかっ!誰がやるか!〇ね!!

 

(…と、言いたいけど今のあたしは藍なのよね)

 

自分がサボったばかりに藍が明日から朝練とやらに混ぜてもらえないのはまずい。

藍が可哀そうだし昨日タンカを切った手前もある。

エリゼは仕方なく急いで着替えて訓練場に向かった。

 

訓練場に現れたエリゼの姿を見て兄達は絶句する。

洋服である。

エリゼは道着の着方がよくわからないので自分でも着こなせそうな洋服を選んできたのだ。

 

『はーいお兄様方おはへぶぅっ!』

 

頭を木刀で殴られてまたも変な声が出る。

即座にとびかかりそうになるのを堪える。

多分勝てない。

いやそうじゃない今のあたしは藍、おしとやかにおしとやかに冷静に…。

 

『訓練しようってのになんだその服装は!!』

 

言われてみれば運動向きの服装ではない。

寝ぼけていた自分も悪いと思うが頭を殴られるのもナイと思う。

 

『だからって娘の頭を木の棒で殴る!?

この家どうかしてるんじゃないの!』

 

そう言い返すと即座に次の一撃が頭に加えられる。

 

『戦場の敵が女だ子供だと気にしてくれるか!

訓練は遊びじゃないんだぞ!!』

 

続けて2発3発と頭に打ち込まれる。

 

(よくわかった。

この家、頭がおかしい。

千早のちょっとおかしい考え方を100倍くらいおかしくした感じだわ!)

 

聞いたことがある。

武士とか言う連中は非効率的な精神論を生命を賭けて貫き通す。

死んだらそれまで、生き方を間違えたらセップクとやらで命を絶つ集団だ。

そして太刀花家は伝統ある筋金入りの武家なのだ。

 

エリゼはようやく事態を理解する。

今、自分は生死が掛かった問答をされているのだ!

なまじ抵抗などしようものならセップクを命じられてしまうに違いない!

 

そしてもう一つの不安が押し寄せる。

もし自分が藍ではなくエリゼであると知られたら

武士を謀ったとかそんな理屈で殺されてしまうかもしれない!

 

(ぜぜぜぜ…絶対にバレるわけにはいかないいいい…。)

 

額から冷汗が滑っていくのがわかる。

エリゼは己の気持ちを聖女モードへと切り替える。

 

『申し訳ございませんお兄様。

私、少しだけ甘えてしまいましたわ。

でももう大丈夫。ここからはしっかりお勤めさせていただきます。』

 

もう藍だけの問題ではない。

自分の命が掛かっているのだ。

エリゼは全力で挑むしかなかった。

 

あたしまだ死にたくない!!

 

『特別に今日の掃除と準備は見逃してやる!持ち場につけ!』

 

『藍、アンタはここだよー』

 

凛がうっかりとエリゼに教えてしまうがエリゼは矛盾に気付かない。

自分が藍であればいつもの立ち位置を教えるのは不自然だが、エリゼには余裕がない。

とにかく死にたくない一心で持ち場に付いた。

 

『中段、四十六の型!』

 

朝練の内容自体は簡単である。

叔父が号令を掛けて型を見せ、みんなでそれに続く。

それを祖父が確認し、後で修正させるのが通例だ。

 

(えっと、こうかしら?)

 

エリゼは見様見真似で木刀を振った。

すると即座に腰、腿、肩、顎、腕に周囲から一斉に木刀の突きを浴びせられる。

 

『ぎゃぁあああああ!』

 

痛いなんてもんじゃない!

藍の姿のエリゼが地面をゴロゴロと転がる。

何考えてんだこの家は!

 

『間違っとる所を痛みで教えとるんだ!痛がっとらんとさっさと立て!』

 

寝てるエリゼに次々と追い打ちが加えられる。

冗談じゃない!

あの子いつもこんな仕打ちに耐えてるの!?

泣きそうになりながら必死に起き上がると、さっき打ち付けられたところがほとんど痛まないことに驚愕する。

 

(…コイツら痛めつけ慣れてる…)

 

打たれた瞬間はあれほど痛かったのに、その後に痛みが残らず痕もなく後遺症も残さない。

その完璧さにゾッとする。

その気になればその逆も自由自在なのだろう。

まさしく自分が細い糸の上を綱渡りさせられているのだと思い知らされる。

そして足を滑らさなくても向こうの気分次第でボタン一つ真っ逆さまだ。

エリゼはこのとんでもない集団に己の生殺与奪の権限が握られている事実にただ怯えるのみであった。

 

その後も型を披露するたびに誤った部位を突かれるが地面を転がろうモノなら今度こそ殺されかねない。

ひたすら痛みに耐えエリゼはかろうじて訓練を終えた。

 

(…やっと終わったわ…)

 

フラフラと自室に向かおうとする藍を凛が導くように声をかける。

 

『シャワー浴びたら今日も小夜おばさんと一緒に朝食作るんでしょ?頑張って!』

 

その言葉を聞いてエリゼは愕然とする。

もう今日は一日分動いて、後は寝て過ごしたいくらいなのに?

聞けば藍は小夜おばさんとやらに頼み込んで、朝食を手伝いつつ料理を教わっているらしい。

藍が明日から料理を教われなくなるのはまずいのでエリゼはフラフラと厨房に向かった。

 

(…藍は今頃はまだ寝てるのかしら?

あぁ…元はと言えばあいつと入れ替わったから…)

 

自分がここまでの目に合っているのだから藍には相応の働きをしてもらわねば気が済まない。

エリゼは日頃の自分を棚に上げて、恐らくは己に代わって自堕落な生活を送っているであろう藍を恨めしく思った。

 

一方の藍はというと、朝5時に起きて教会で祈りを捧げていた。

昨夜から様子のおかしいエリゼを隊長である白石 百合子(しらいし ゆりこ)と

隊員である雛咲 千早(ひなさき ちはや)は即座に察知して監視をしていた。

 

(祈り方がぎこちないな…)

 

千早は注意深く藍を観察する。

お祈りを済ませると藍は広場に向かい雑草を抜き始める。

 

(なぜ雑草を?食うのか?)

 

抜いた雑草を一か所に集め袋に詰める。

 

(売るのか?売れるのか?)

 

続いて大きな鍋と水を広場に持ち込むと米を洗い、鍋に水と水気を切った米を入れて茹で始める。

 

(やはり食うのか!?)

 

エリゼの奇行を不思議に思い人が集まってきた人々に藍は笑顔で声を掛けた。

 

『炊き出しをしております。よろしければ皆さんで頂いてくださーい』

 

(!?)

 

エリゼが慈善事業などあり得ない。

すなわちあの行いの裏には後ろめたい何かがあるのだと2人は睨んだ。

 

『エリゼちゃん。

炊き出しってどういう風の吹き回しだい?』

 

恐らくはエリゼのことをよく知る中年の男から声を掛けられ、藍は心の中でエリゼに謝る。

エリゼは炊き出しはしていないらしい。

普段はもっと別の大きな事をしているのだろう。

だが自分の行いはエリゼに比べると規模は小さいかもしれないが悪い事とも思わない。

藍は自信をもって答えることにした。

 

『皆様のために他にすべき事はあるかも知れません。

ですが、このように朝食を配り皆様の事を知ることも大切だと私は思ってます。

私の祈りだけでは世界は回りません。

皆様の一人ひとりの働きおかげで世界は回っているのですから

これは祈るばかりの私から皆様へのささやかな感謝の気持ちです。』

 

藍の嘘偽りのない言葉に集まってきた人々が涙を流す。

いつも酒ばっか飲んで金に汚いばかりの堕落した人間の末路みたいなお嬢ちゃんだと思っていたが

自分たちのことをそのように思ってくれていたのか。

 

『ありがとう。

今日も朝一でハロワに行って仕事を探してくるよ。』

 

『はい。頑張ってください。

良いお仕事が見つかるといいですね。』

 

そう言って一杯のお粥と漬物とお茶を差し出す。

 

『あったけぇ…』

 

『それだけじゃねぇ。

いつの間にか広場の掃除もされている。』

 

人々が感激しながら朝食を分け合う。

エリゼの外見の良さもあって効果は抜群だった。

明日からのエリゼのハードルが必要以上に上がっていく。

 

その光景を見ていた老婆が藍に話しかけてくる。

 

『シスターさん。

貴女にお願いがあるのですが聞いていただけますか?』

 

『もちろんです。

私がお役に立てることであれば何でも仰ってください。』

 

その会話を聞いて人々が次々と集まってくる。

藍はそれらの頼みを全て無償で引き受けていった。

 

炊き出しを終え集めた草を焼却炉へ運び、事務所に戻ると隊長白石にアームロックを掛けられ千早に刀を向けられる。

 

『あはは、すみません。わたし太刀花藍です。』

 

やはり未熟な自分では偉大なる聖女だったエリゼの代わりは務まらなかった。

事態を即座に把握した藍はあっさりと観念して白状した。

 

『というわけで、エリゼさんが私の代わりに学校に行ってるはずです』

 

集まったアルコイリスのメンバーはバイアスのかかった藍からの情報を的確に解析していく。

要するにだ。

 

体が入れ替わったのをこれ幸いに。

少女を騙して普段やらないような労働をさせ。

自分は金持ちのお嬢様生活を満喫しているわけだ。

 

(こんな小さい子に自分の仕事やらせて恥ずかしくないのか…)

 

一同は呆れるしかなかった。

 

一方、千早は普段のエリゼと藍の行動を比較する。

 

朝から晩まで酒を呑んではしゃぐエリゼが頭に浮かぶ。

酷い、聖女以前に人として問題がある。

 

(私はエリゼを甘やかしすぎていたかも知れない。)

 

特に指示を与えられてない13歳でもこれほど自発的に人の為に動くのだぞ。

そんな千早の静かな怒りをさっぱり読めない藍は静かに時計を確認する。

 

(朝7時、エリゼさんはそろそろ学校に行く時間ですね)

 

藍は自分には不釣り合いなほど完璧な日常を送っているであろうエリゼに感謝しつつ窓の外を眺めた。

 

その頃のエリゼはと言うと

 

『なんで!?学校は8時半からでしょ!?』

 

『君はいつも7時15分に家を出て30分には校門を掃除しているよ!』

 

朝の疲れをいやすため学校が始まるまで二度寝でもしようと寝転がった所をアフロダイBに指摘される。

 

(アイツの日常はどんだけあたしを痛めつければ気が済むのよ。)

 

エリゼは慌てて支度を済ませると学校へ向かっていく。

頑張れあたし。

これさえ済ませば楽しいお嬢様学校生活よ。

エリゼは怒りを抑え聖女モードで校門の掃除を始める。

 

『太刀花ちゃんおーっす!』

 

『ごきげんよう先輩。今日も朝練頑張ってくださいませ』

 

うかつに声を掛けた男子生徒が固まる。

いつもの天真爛漫な藍の挨拶とは違う。

エリゼの清らかで少し大人の色気を感じさせる聖女ムーブに男子生徒の心が一発で撃ち抜かれた。

 

(わぉ、面白い…)

 

思えば今までの自分が聖女ムーブを発動しても拝まれるばかりでこのような反応はなかった。

 

(…藍の立場で聖女ムーブかますとこうなるのね。)

 

改めて考えれば聖女ムーブとは聖女以外がやればガチ恋少女ムーブかも知れない。

この面白さを味合わぬ手はない。

あたしには今朝の苦労を取り返す権利がある!

 

エリゼは男子達をあの手この手で困惑させて遊ぶことにした。

 

(よし、どうせなら足を出してやろう。どうせあたしの足ではない。)

 

エリゼはわざとスカートを結んで短くした。

そのまま教室に戻ると男子達からどよめきが起きる。

超気分いい。

 

『ちょっと藍ちゃん。足!スカート!』

 

多分友達らしき女の子からスカートを指摘される。

 

『やだっ、あたしったら!

さっき草むしりの時に邪魔だったからぁー!』

 

それらしく恥じらいを見せてスカートを戻す。

その様を男子たちが食い入るように眺めている。

 

(やっば!w

藍ちゃんめっちゃモテてんじゃん!

こりゃ入れ食いだわ!ww)

 

椅子に座ればお淑やかに、しっとりとした大人の色気を醸し出す。

立ち上がる時もゆっくりとしなやかに全身の動きがよく見えるような仕草で。

エリゼは徹底的に男子たちを誘惑していくのだった。

 

所変わって、その頃の藍はというと

アルコイリスメンバーにいくらかフォローされながらも近隣住民から頼まれた仕事をこなしていた。

 

『人の為に役立てるって嬉しいですね!』

 

少なくとも家庭では守られてばかりの藍は人の役に立つことに飢えている。

人を喜ばせることに喜びを感じるタイプなのだ。

そんな藍の屈託のない笑顔を見てアルコイリスのメンバーも釣られて嬉しくなる。

もう2,3日。いや2,3週間。いや2、3か月くらいはこのままでいいのではないか。

そんな考えがよぎってしまうが、交替の時間は容赦なく迫ってくる。

 

『藍殿、もう17時だ。急に体が入れ替わる前にエリゼに会いに行くぞ。』

 

千早に提案されて藍は名残惜しそうに仕事を止める。

後はエリゼがやる。それはもう完璧にバッチリ全部問題なくやる。君より大人だからやらせる。腕の一本くらい折ってもやらせる。

そう白石に説得されてようやく藍は帰り支度を始めるのだった。

 

場面は戻って放課後のエリゼ。

 

思った以上に庶民的ではあったがエリゼは学校生活を満喫した。

 

友達と思われる女の子達とお喋りに花を咲かせ、

たまに打ち明けられる悩みには聖女時代に学んだ何一つ解決してない綺麗事で導いて感謝される。

噂を聞きつけて他クラスからも人がやってきて行列が出来たほどだ。

もちろんその間もちょっとした仕草で男子をドキマギさせる。

自分の身体じゃないしこの程度ならいくらでも見せられる。

いちいち反応するのが超面白い。

ああ、このくらいの年頃の子供ってなんてチョロイのかしら。

 

などと絶好調で調子に乗りまくっていたエリゼは藍の部活の後輩を名乗る女の子から相談事を持ちかけられる。

ここでは話せないとの事なのでエリゼは後輩に導かれるままに人気のない校舎裏にやってきた。

 

さて、どんな悩みかしら?

友達とケンカ?片思いの相手がいる?親と仲が悪い?

ぜーんぶ元聖女であるエリゼナート=トゥ=ライエル様が導いてやるっての。

 

『好きです』

 

…エリゼ、真顔になる。

 

え?好き?どゆこと?

私…じゃなくて藍を?

女の子が女の子を!?

 

想定外のガチ相談に全く対応できない。

そんな事を言われても藍じゃないあたしにはどうしていいかわからない?

こっぴどく断ればいいの?傷つけないように多少は受け入れればいいの?

何も言えない藍の姿を見て後輩が慌ててハードルを下げてくる。

 

『ごめんなさい!

いきなりそんな大それた関係になりたいわけじゃないんです。

先輩にも覚悟が必要でしょうし、まずは段階を踏むために少しずつスキンシップで触ってもいいでしょうか?

日を追うごとに過激になっていきますが拒絶されたらちゃんと止めます。』

 

段階って何のよ!

とにかく一切合切が入ってこなくて頭がぐるぐると回る。

 

(とりあえず毎日段階を踏んで触ってくる?拒絶したら止める。オーケー?)

 

考えるのが面倒になったエリゼは藍に任せることにした。

 

『じゃそれでいいわ!

私が『やめなさい』って言ったらちゃんと止めること。

じゃそーゆーことで!』

 

後は藍に話をして本人に任せればいい。

多分これが最善手よ、うん。

 

エリゼは逃げ出した。

 

いつもなら放課後の藍は兄と訓練をする。

それがなければ何かしら頼まれ事を引き受けてるらしいが今日は全部パス。

変に何か引き受けてボロを出すわけにいかないし、頑張ったあたしに優しくする必要がある。

 

そう決めたエリゼが街をうろついて藍のお小遣いで食べ歩きをしていたその時だった。

見覚えのある顔の少年がビニール袋を抱えて信号待ちをしている。

さっきまで同じ教室にいた少しワルそうな少年だ。

 

『何を運んでらっしゃるのですか?』

 

後ろから覗き込むと慌てた少年は缶を袋から1つだけ落とす。

エリゼは足元を転がる缶の表記を見逃さなかった。

 

\アルコール分5%/

 

『それってお酒!?お酒よね!?』

 

待ち望んでた物を発見して聖女モードが強制的に解除される。

さっきからどこでお酒が飲めるのかわからなくて困っていたのだ。

仕方なくコンビニで買える安酒を買おうとしたが購入には成人の資格が必要らしく買えなかった。

 

『ち、違うんだ!これは兄貴に頼まれ…許して太刀花ちゃん!』

 

少年が何か言い訳してるけどどうでもいい。

同じ年齢の少年がお酒を持っているという事は、買うことはできなくても飲むのはOKらしい。

 

『あたしにも飲ませてよ!』

 

『ゆ、ゆるして…って、えぇぇええ!?』

 

てっきり咎められると思った少年は仰天する。

あの真面目で優等生で由緒正しきお嬢様の太刀花ちゃんが飲酒!?

少年があれこれと要領を得ない言葉を続けるのでエリゼはしびれを切らした。

 

(ちぃ、めんどくさい。これでもくらえっ!)

 

少年の腕を組んで少しだけ胸を当てる。

 

『さっ、いきましょ!レッツゴー!』

 

『はい』

 

少年は成すがままエリゼの操り人形となり、仲間の元へ誘導されていく。

 

場面は再び藍と白石と千早に戻る。

3人はダーザインの装置を通じて太刀花町に到着していた。

 

『私の霊力を感じます。こちらです。』

 

藍は自分の霊力を探知してエリゼを探す。

時刻は19時半。

てっきり屋敷に戻っていると思ったがまだ帰っていないらしい。

藍は働きもののエリゼを改めて尊敬するのだった。

 

探知通りに道を辿っていき、やがて大通りから路地裏に入っていく。

路地裏から路地裏に進み、やがて細く古びたビルの2Fにある小さな飲食店に辿り着く。

この時点で白石と千早は何となく事態を察して戦闘モードに移行する。

店内に入ると3人は探知された部屋のドアを開けた。

 

『いいぞー!太刀花ちゃん!イッキ!イッキ!』

 

『ぷはーっ!この世界のお酒って飲みやすいわねー!もう一本!』

 

乱れに乱れた様を真顔で見つめる藍と白石と千早に気付かぬまま中学生たちの宴会は続けられていく。

己が酒を浴びる様を呆然と眺めていた藍だったが、横の人物も全く動かない事に気付いて我に返る。

千早は白石に任すと言った感じでため息を付いているが、白石は先程から瞬き一つせずエリゼを凝視している。

よくわからないが白石が危険な気がする!

 

『あ、あの…エリゼさんは…大人だからお酒を飲んだだけで…決して…』

 

藍もどうにかエリゼをフォローしたいがショックでうまく話せない。

藍のフォローは全く効果を出せないまま、藍は静かに白石に持ち上げられていく。

 

『うぉぉ!いつの間にかすげぇ美人のお姉さんがいる!!』

 

おおはしゃぎする少年達の声でエリゼがようやく2人の存在に気付くと、そこには今にも白石に制裁を加えられそうな自分の姿があった。

飲酒していたことへの制裁なのだろうか。垂直落下式ブレーンバスターの態勢だ。

 

『バッカじゃないの。

今は入れ替わってるんだからそんなことしたって痛いのは藍じゃない。』

 

酔った人間は強気になる。

タカを括って余裕を見せていたエリゼだったが、千早は白石をフォローするように静かにカウントを開始する。

 

『15,14,13,12,11…』

 

その時、室内に取り付けられた電話が鳴った。

エリゼが受話器を取ると入り口の受付にいた老婆の声が室内に響き渡る。

 

『そろそろ20時だよ。別の客が入り始めるからワルガキの時間は終わりだよ!』

 

その時、エリゼの景色が急に反転する。

なんで?

混乱する中でエリゼはダーザイン職員の言葉を思い出す。

 

『明日の20時には戻るだろう。』

 

時刻は20時。

すなわち2人の入れ替わりは終了し、エリゼは元の身体に戻ったのだ。

 

『あ、そーゆーこと…ヘブンッ!』

 

理解を反芻する間もなく白石の垂直落下式ブレーンバスターがエリゼの脳天を激しく揺らす!

 

『うぉぉ!美人のお姉さんが3人現れたと思ったら1人が無感情に大技をキメた!』

 

『意味がわからねえ!』

 

『俺たちは何を見せられたんだっ!?』

 

少年達はいきなり現れた美人のお姉さん達によって繰り広げられた光景に混乱する。

絶世の美女が3人現れたと思ったら今は1人が床に突き刺さっている。

なかなか見られる光景ではない。

 

少年達の騒ぎを冷静に見つめながら白石は考えていた。

とりあえず部隊長としての責任は果たした。

後は大人としての責任を果たすのみ。

すなわち、この入れ替わり事件で起きた藍の飲酒事件をどう有耶無耶にしたものか。

どうしたものかと悩んでいると更なるアクシデント発生した。

 

『わ、わたし…お酒飲んじゃいましたー!

一生懸命頑張ってたのに…不良娘になっちゃいましたぁーー!』

 

藍が泣き出した。

藍は酒を飲むと泣き上戸になるらしい。

先ほどまで上機嫌だった少女が泣き始めて少年達もますます混乱する。

 

…うん、もう口先ではどうしようもないな。

白石はあっさりと責任放棄し指をパチンと鳴らすと、千早が少年達と藍を手刀で仕留めていった。

 

白石の凶行から数十分後…

 

『おーいアンタ達ー起きなさーい』

 

藍の姉である太刀花凛が少年達と一人ずつ起こしていく。

少年少女達を全滅させた白石と千早は事態の解決を呼び寄せた太刀花凛に託し全てを誤魔化すことにした。

 

『あれ…?俺たちは確か変なお姉さんに手刀で…』

 

『そうそう、妖怪にやられたのよアンタ達。その妖怪はもう逃げたから大丈夫。』

 

白石のシナリオはこうだ。

 

藍は少年達より弱いので数時間は目を覚まさない。

このまま自宅まで運んで、疲れのせいか夕方頃から眠っていたとでも誤魔化せばいい。

飲酒は夢の中の出来事にしてしまうのだ。

 

少年達には藍は妖怪に操られていたと説明する。

それで今朝から様子がおかしかったのだ。

藍に唆され酒を飲んだ所を妖怪に襲われる手はずだったが

ぎりぎりの所で凛が間に合ったという設定である。

 

『妖怪!?あのお姉さん達妖怪だったんスか!?』

 

『そうそう、妖怪シスター被害者とプロレス事務員と岩山両斬波よ。』

 

ある日12人のシスターがレスラーになって岩山両斬波を仕掛けてくる云々…。

凛は少年達を雑に誤魔化していく。

どうにか誤魔化しきれるかと思われたその時だった。

 

『いや、藍ちゃんのお姉さん。

あれは妖怪シスタープロレスとプロレス事務員と岩山両斬波じゃないっスよ』

 

かつてとある妖怪に襲われた(ことになっている)竹中が的外れな推理を言い出した。

 

『アイツはサキュバスっスっよ!

俺たち前もアイツにやられたことあるから間違いないッス!』

 

サキュバスは妖怪じゃなくて西洋悪魔だっつの。

凛があきれながら訂正しようとするが少年達の勢いは止まらない。

 

『ちっくしょう!前は凄い薄着の姉ちゃんだったけど今回はスーツのお姉さんと和服かよ!マニアックだわ!』

 

『言われてみれば和服の姉さんエッロい顔してた気がするわ!ありゃサキュバスだわ!』

 

『今にして思えばホント男を食いまくってそうな顔してた気するわ!』

 

少年達が言いたい放題に騒ぎ出す。

ロクに顔も見れなかった癖にサキュバスよばわりされて言われたい放題。

部屋の外で聞き耳を立てていた千早の怒りの圧がどんどん大きくなっていく。

しかし凛がいくら制止しても少年達は止まらない。

やがて怒りの圧は最高潮に達した。

 

終わった。

もう無理。

 

凛が脱力すると同時に扉が勢いよく開き、千早が少年達に襲い掛かった。

少年達は二度目の全滅を味わう事となった。

 

その後は藍を太刀花家まで運び、飲酒の件を誤魔化し通す事で何とか全てが収まったかに見えたが

少年達と藍には確実に問題が残されていたのだった。

 

翌日、溜まり場に集まった少年達は昨日の件について情報をまとめていた。

彼らの都合の良い設定を重視したストーリー、すなわち妄想相談をしていた。

 

『俺達がサキュバスに負けたってことは…俺達は大人になったんだよな!?』

 

『いやでも太刀花のお姉さんが間に合ったんだろ?』

 

『実際は間に合わなかったけど、俺たちに気を使って嘘言ったかも知れねーじゃん?』

 

少年達は都合よく解釈することにした。

僕らは大人。

翌日からの彼らはどこか自身に満ち溢れた精悍な顔つきをしていた。

 

また藍にも問題が残されていた。

 

『先輩!おはようございまーす!』

 

『あ、うん。おはよう。』

 

挨拶しながら太ももを触ってきた後輩の手を軽く振り払う。

 

『あの、そういうのやめてね』

 

(『やめなさい』とは言われてない。

今のは照れ隠しなんだ…)

 

藍は拒絶のキーワードを聞いていないため後輩のスキンシップはエスカレートしていく。

以降藍は後輩からの過剰なスキンシップに悩まされていくことになる。

 

一方エリゼは藍の残したメモに愕然としていた。

 

『…これ全部やるの?無料で…?』

 

藍が1日で引き受けた仕事は軽く見積っても2週間は働き続ける必要があった。

エリゼはすがる様な目で白石を見つめるが、白石の目が全力で訴えていた。

あの子もやってたんだからお前もやれ、である。

 

エリゼは仲間たちにもすがる。

見かねたメリンダが手伝おうとするが…

 

『甘やかすな』

 

千早が引き止める。

最後の命綱はあっさりと切り落とされた。

 

『あ…あぁああああああああああ!!』

 

苦労ばかりさせられた現実と仲間からの冷たい態度。

頑張りすぎた藍への恨みと、今日も苦労し続けているであろう藍への同情でエリゼの情緒が完全に粉砕された。

 

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