バッセSSまとめ   作:アフロダイB

22 / 34
超高速帰宅マシン

『先日は大変なご迷惑をお掛けしました。』

 

ポーチ姫が小さな身体を2つに折って深々と頭を下げる。

先日、彼女が開発した【全自動お寛ぎ帰宅マシン】は

その名にふさわしい寛ぎを被験者であるユズ=トウジに提供したが

衆人の好機の目に晒されるという欠点が全く配慮されないまま自走して路上を突っ切り帰宅した。

 

ユズ=トウジは全力リラックス状態を世間様にご披露したわけだが

VRゴーグルを付けていたおかげで顔が特定されなかったのでかろうじて社会的に生き残る事が出来た。

 

ユズ=トウジにはキングコングの如く怒り狂う権利があるが彼女は至って冷静であった。

というよりは怒り狂った所でどうにもならないのもある。

何せ相手は小さな子供である。

スッキリもしないし責任も取れない。

彼女は一時的に心を殺し記憶を消す事で今日を生きていた。

サラリーマン技能Lv3くらいで覚えるスキルだ。

 

『いえいえ構いませんよ。

それよりも途中までは素晴らしいプレゼンでしたのに残念でしたね。』

 

ポーチの努力を労わってやる。

これが大人ってやつですよ。

 

『最後の最後でツメを誤ってしまいました。

私の不徳の致すところなのです。』

 

そう言ってまた深々と頭を下げる。

恐らくは言葉の意味なんかわかっていないのだろうけど可愛いから良しである。

 

『つきましてはコンセプトから見直した新製品がございますので

上司Aさん、ユズさん、私で試乗していただきたいのです。』

 

『試乗という事は今回は椅子ではなく車両なのかね。』

 

え?食いついちゃうんですか?

前回あんな目に合ったのに?

 

と、思ったがあんな目に合ったのは私だけでした。

この人は見ていただけだから凝りていないのだろう。

 

上司Aが食いつくならば私の個人的感情で拒絶するわけには行かない。

これは社員の保養目的の新製品を買うかどうかを決める商談なのだから。

ユズは聞こえないように小さく溜め息を漏らし姿勢を正す。

 

『その通りです。

既に地下に停めていますので早速みんなで乗ってみましょう。』

 

『ふむ、まぁ残った業務は明日でも良かろう。

ユズ君はどうかね?』

 

上司Aに問われてユズはスケジュールを確認する。

元々は定時でも帰れたのだが、業務を残したまま帰るのが申し訳なくて残業していただけだ。

この辺りは世界相が違っても変わらない。

 

『私も明日で構いません。

では3人で試乗がてら帰宅するとしましょう。』

 

そう言うとユズ達は端末の電源を落としカバンを持って立ち上がる。

ポーチに案内されるままに地下の駐車場に向かうと、そこにはごくごく普通の普通車が停車されていた。

 

『ふむ、見た目はごく普通の車だが…?』

 

『中身は様々な異世界の技術を大胆に取り入れた最新式なのです。

どうぞどうぞ。』

 

ポーチ姫が少しばかり不安な言葉で案内してくれる。

言われるがままに乗ると上司Aとユズは後部座席に、ポーチ姫は助手席に座った。

 

『運転はどなたがされるんですか?』

 

そんな私の問いを待っていましたとばかりに微笑を浮かべてポーチ姫が声を挙げる。

 

『アスランダ!発進!』

 

『了解!ハヤト!』

 

なるほど、AIでの自動運転のようだ。

 

『ところでハヤトとは一体?』

 

『わかりません。

どのように調整しても何故か私達の事をハヤトと呼ぶのです。』

 

呪いか欠陥か、はたまたそれ以上の強制的な何かか。

ともかくいきなり不安要素を突き出してくれる。

よく製品化しようとしたものだと思う。

そんなユズのモヤモヤを吹き飛ばすようにアスランダは車を走らせる。

その走りは走りを感じさせないほどに静かで思わず『おっ』と声を漏らしてしまう。

 

『これは静かですね。走ってると気付くのに時間が掛かりましたよ。』

 

『四輪独立のアクティブサスペンションを採用しております。ミニ四駆で学びました。』

 

いちいち不安になる一言を付け加えてくれるがともかく走りは素晴らしい。

また社内には冷蔵庫もあり飲み物は飲み放題。

背中と足にはマッサージ機も付いていて疲れた体をほぐしてくれる。

当然のように個人端末にリンク可能なVRゴーグルとイヤホンもあり前回同様のリラックスが可能であった。

 

『だがこれでは自動運転の車に設備一式を搭載しただけだ。

やろうと思えば個人的に実現可能ではないかね。』

 

上司Aの言う事は最もである。

世界相次第では車の自動運転など当たり前だし

後は同じ設備を社内に取り付ければわざわざコボルト王国製を買う必要はない。

 

『仰る通りなのです。

なので我がコボルト王国はスピードに付加価値を付けました!』

 

なるほど、帰宅時間の短さを売りにしたらしい。

しかし加速速度を上げても道が混んでいてはそこまでのタイム差は出ないだろう。

 

『アスランダ!短縮モードで行きなさい!』

 

『了解だハヤト!』

 

そう答えるとアスランダは明らかに幅の足りない路地裏に突っ込んで行く。

 

『ひゃぁぁあああああ!』

 

情けない声を挙げて両手を挙げるが、車はなぜか衝突する事なく路地裏を抜けていく。

というよりも路地裏の幅が広がった気がする。

 

『…そうか!空間湾曲か!』

 

『え?あの勇者王の?』

 

『その通りです!

空間を湾曲させ私達が細くなる事でこのような路地裏も通行可能なのです!』

 

途中で渋滞に引っ掛かっても細くなって路肩を走る事でスイスイと進んでいく。

 

『更に厄介な赤信号ではこうです!』

 

ポーチ姫の叫びに合わせて車がジャンプする。

またも情けない悲鳴を挙げてしまったが、車はほとんど揺れる事なく赤信号の交差点を飛び越える。

これは世界相次第では交通法的にアウトだが大体の世界では交差点を飛び越えてはいけないという法律はない。

 

『なるほど、これならば素早く帰宅する事が出来そうだ。』

 

上司Aは満足そうだ。

確かに高性能だし揺れもない。

社内は快適で事故も起きないのなら条件はクリアしている。

帰宅時間も大幅に短縮可能だろう。

 

『ところでもうすぐ分岐だが、自宅にはどちらから先に向かおうか。

私は特に急ぐ必要はないがユズ君はどうかね?』

 

『あぁ、私は21時に宅配が届くんですが

まぁ土日にでも再配達して頂いて…』

 

と、そこまで言うと2人が青ざめた顔でこちらを見つめる。

 

『き、きみぃ…宅配があるのに仕事なんかしていたのかね…?』

 

『信じられません…宅配ですよ…?』

 

2人の様子が明らかにおかしい。

私の世界では宅配を受け取り損ねても申し訳ない程度で済むが

彼らの世界相ではそうではないらしい。

当事者の私を余所に2人が激しく動揺し始めた。

 

『ポーチ君!ちんたら走ってる場合じゃないぞ!

何かこう、一瞬で自宅までお届けするような機能はないのかね!?』

 

『あります!アスランダ!大ジャンプモード!!』

 

大ジャンプ!?

嫌な予感しかない単語が耳に入る。

 

『いえ!ホント!大丈夫ですから!!』

 

『大丈夫なものか!宅配だぞ!?

かまわん!やりたまえ!!』

 

『了解だ、ハヤト!しっかり捕まっていろ!ブースト、オン!』

 

今まで快適だったのにいきなり捕まれという雑な指示!

アスランダはブーストを展開させ一気に加速していく。

メーターは時速800kmを示している。

何かの間違いだと思いたいが流れゆく景色が説得力を醸し出している。

 

目の前のモニターには『↑GO!』と表示されている。

 

『うむ!

この【↑GO】は直線を意味するものではなさそうだな!?』

 

『なさそうだな!じゃないでしょぉお!!』

 

加速したままアスランダは正面に何かを吐き出す。

超高速の世界で良く目を凝らすとそれは三角形の台だった。

 

『飛び方が雑ぅぅぅぅううう!』

 

超高速でジャンプ台に乗ったアスランダは大ジャンプし、そのまま夜空へと消えていく。

 

夜空へと消えたアスランダは慣性の法則に従い

その勢いのままユズの自宅ベランダに頭からダイナミック帰宅したのだった。

 

衝撃で車からはじき出されたユズはそのまま見事にベッドに着地した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。