バッセSSまとめ   作:アフロダイB

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藍とメイシア

ある日の昼下がりのこと

 

長く綺麗な銀の髪をなびかせ童話の赤ずきんを連想させるような赤い頭巾とケープを纏った少女メイシアがダーザイン内の施設をフラフラと歩いている。

任務が終わり次の出撃まで時間に空きが出来たのだが、特にする事もないためアテもなく彷徨っているのだ。

 

メイシアは施設内を歩き回って改めて思う。

自分の世界もそれなりに近代化が進んでいるがダーザインの設備は100年は先を進んでいる。

ここまで差があると見る物の全てが興味深いというよりは怖くて近づけない。

そう身構えてしまうのは生活で身に付いた生き方かもしれない。

少しでも自分に理解できる物を求めメイシアは特に用もなく資料室に入っていった。

 

ダーザインの情報は基本的には端末を通じて得る事が推奨されており

資料室はどちらかというと過去や異世界から来た端末に不慣れな人向けの施設であり利用者は少ない。

メイシアが入った時間帯も人の気配はほとんどなく、メイシアは気楽に本のタイトルを眺める事が出来た。

 

そのうち背表紙を眺めるのに飽きたので少し開いては閉じるを繰り返していく。

が、それを繰り返せばやがては読み入ってしまう本も見つかるものである。

 

"各国の狩猟図鑑"

 

狩猟を本業としていた一族なので異世界の狩猟には大いに興味がある。

最初は立ち読みをしていたメイシアだったが、腰を落ち着けて読みたいと思い足取り軽く机へと向かう。

どうやら時間を潰す事が出来そうだ。

 

机が並べられている陽当たりの良いスペースに出ると、先客がいたため少しだけ声を漏らしてしまう。

先客の名は太刀花藍(たちばな らん)、この後は彼女と共に出撃することになっている。

 

(挨拶した方がいいかな?

…でも集中してるみたい。)

 

藍は何だか難しそうな本を読みながらノートに何かを書き込んでいる。

きっと勉強をしているのだろう。

日が照らす彼女の横顔と真剣な表情はとても美しく、なんだか汚してはいけない神聖なものにも見えた。

メイシアは敢えて藍には声を掛けず向かいの席で先ほどの本を読み始めた。

 

どこかの世界の狩猟方は自分達のやり方とは全く異なっていて興味深かった。

場所が違えば最適も変わるのだろう。

違う森で動く時は己の狩り方を過信しないよう心に決めた。

 

それなりの量を読み終えて顔を上げると陽が少しだけ落ち始めていた。

1時間半くらいは読んでいたと思う。

メイシアが読後感に浸りながら藍の顔を眺めていると彼女はようやく視線に気付きこちらを振り向いて声を挙げる。

 

『ふゎぁっ!』

 

一見クールに見えるメイシアだが実は人懐っこく距離感が近い。

小さな悲鳴を上げた藍に優しく微笑みながら小さく手を振る。

 

『驚かせてごめんね。

集中してたみたいだから。』

 

『い、いえ、こちらこそ全く気付かず…

声を挙げてすみませんでした。』

 

藍が座ったまま恥ずかしそうに頭を下げる。

視線を送って狙ったのもあるが、こうも簡単な悪戯に引っかかると可笑しくて笑ってしまう。

 

『集中しすぎて周囲の警戒を完全に怠っていました。

お恥ずかしい所をお見せしてしまいました。』

 

そう言ってまたも藍は頭を下げる。

このやり取りも面白いけど本を読み終えたばかりのメイシアは次の話題に映りたくて声を掛ける。

 

『ねぇ、キミがいた世界でもこういう事はするの?』

 

メイシアは本を広げて藍に問いかける。

カタナと呼ばれる武器で戦う藍の国ならばやはりカタナを使って狩りをするのだろうか。

メイシアは気になって仕方がなかったのだ。

 

だが藍からすれば狩りをするのかという質問は想定外である。

だから藍はメイシアの質問をこのように解釈した。

 

"キミがいた世界では勉強はよくやることなの?"

 

なるほど、メイシアがいた世界はもしかしたら勉強という概念自体が珍しい世界なのかも知れない。

様々な世界を通じて見れば、勉学に集中できる世界は珍しいのだ。

 

『ええ、もちろんです。

毎日していますよ。』

 

藍の問いにメイシアの顔が明るくなる。

 

(やっぱりカタナを使って狩りをしてる。)

 

メイシアの興味は藍が銃火器を用いないところにある。

つまり藍は自分達から逃げない大型動物だけを相手にしているのだ。

そうなると集団での近接戦闘が妥当な案だろうか。

 

『どのくらいの人数でしているの?』

 

『えっ?そうですね。確か…』

 

少し予想外の質問なので考えてしまう。

日本の中学2年生はどのくらいいただろうか。

 

『確か約300万人です』

 

『さ、三百万人!?』

 

あまりの人数に思わず驚いてしまう。

300万人が動員されて山狩り、いや山ごと消さんばかりの殲滅戦と言ってもいい人数だ。

 

『凄いね、戦争みたい。』

 

メイシアの感想を聞いて藍も納得がいってしまう。

受験戦争という言葉があるが、異世界の方から見ればまさしくそのように感じるのだろう。

 

『ええ、毎年300万人で戦争を行っています。

もちろん全員が希望通りの結果とは行かず(受験に)落ちてしまう方もおられます。』

 

『なるほど…堕ちてしまう…』

 

そんな大規模な殲滅戦を繰り返していれば心が疲弊する。

心を闇に堕としてしまうのも道理だろう。

 

メイシアからすれば藍は狩りに不向きな街娘に見えたが考えを改めねばならない。

彼女はわたし以上の地獄を見ている。

彼女の穏やかさは度重なる地獄の大規模殲滅戦で精神が壊れた結果なのかもしれない。

 

『ですから私も落ちぬよう、復習は毎日欠かさずしています。』

 

『…毎日…復讐を…』

 

冷汗をかき目を細め唾をゴクリと音を立てて飲んでしまう。

日々300万人もの兵を動員し、仲間が倒れたら必ずその日のうちに復讐をする。

恨みは速やかに晴らしてしまえばストレスとならないだろうから効率的と言えるが余りにも攻撃的な思考だ。

 

『はい、特に一度間違えた問題は必ず潰しています。』

 

『も、問題(敵)は…必ず潰す…』

 

徹底的に徹底した殲滅志向だ。

草の根も残さぬとはこの事だろう。

これほどの攻撃性を発揮しても決着が付いていない事にも驚愕せざるを得ない。

どんな地獄だ。

 

『ええ、ですが問題が解けた時はとっても気持ちがいいですよね』

 

『も、問題(敵)が溶ける!?』

 

とびっきりの笑顔で言われてメイシアは思わず引いてしまう。

何も溶かさなくてもいいでしょ!?

それはもはや狩りではなく憎しみによる処刑だ。

 

『ええ、問題が解けないと同じ過ちを繰り返してしまいますから』

 

なるほど、捕らえた敵を見せしめに溶かす事で敵勢の心を折っているらしい。

自分達の狩りとはまるで違う。

対象に敬意も払わなければ食事にもしない。

そこにあるのはただただ、存在の全否定だ。

 

『よろしければメイシアさんも少しやってみませんか?』

 

『い、いい!私は問題(敵)が溶けるの見たくないし!』

 

そんな恐ろしい光景を見たくない。

まして敵が残酷に溶けていく様を見てニヤリと微笑む藍を見てしまえば二度と彼女の事を仲間だと思えなくなる。

 

『ふふっ、一度解けてしまえばすぐに慣れるんですが無理強いはいけませんね。』

 

すぐに諦めてくれたことにむしろ恐怖を感じる。

彼女には狂気と理性が同居している。

 

『メイシアさんの世界では(学校で勉強は)あまりされないのですか?』

 

『(狩りは)するよ。でも問題(敵)が溶けたりはしない。』

 

メイシアの言葉を聞いて藍が驚いてしまう。

問題を解かずにどうやって勉強をするのか。

 

『答えはないんですか?』

 

例えば戦術論であった場合、座学で学べたとしても実戦での正解はない。

メイシアの世界では問題を投げかけ、答えは与えず各自で決めるのだと藍は解釈した。

 

『そうだね。

(狩りに)答えはない。

全ては積み重ねてきた経験と勘頼り。』

 

異世界の勉強法に驚きつつも、それは個性を尊重しているのだと藍は解釈する。

基本的な思考の統一なしで人々がまとまっているのだから私達よりもよほど素晴らしい世界かもしれない。

 

『あ、でも銃の撃ち方だけはしっかり教える。』

 

『じゅ、銃!?』

 

予想外の単語が出て藍は大声を挙げてしまう。

藍の世界でも銃を所持する国はあるが学校で撃ち方を教えたりはしない。

 

『うん、適当に動いてるモノ(風に揺れる草や木の枝)に向かって撃つ』

 

『て、適当に動いてる者(生徒)に向かって…』

 

冗談ではない。

彼女の世界では学校内であっても常に狙撃を警戒し回避行動をとっていないといきなり撃たれるらしい。

弱肉強食ここに極まれりである。

 

『そ、それではたくさんの方が命を落とされるのでは…』

 

『うん。

撃ってる時に奇襲されることも多い。』

 

そんなの学び舎ではない。

ただのバトルロワイヤルだ。

蟲毒と言い換えてもいい。

 

『そこで死ぬようならその人はその程度。』

 

子供同士の凄惨な殺し合いをそのように言い放つメイシアに藍は心底恐怖してしまう。

世界が違えば常識も違うのは当然だが、あまりにも価値観が違いすぎた。

 

『今度藍も(的撃ちを)やってみるといい。

最初は音にビックリするけど意外と楽しい。』

 

『わ、私には(子供を撃つなんて)できません!!』

 

藍が青ざめた顔で叫ぶのでメイシアも驚いてしまう。

そんなに銃がダメなのだろうか。

 

『話は聞かせてもらったよ!』

 

ひたすらすれ違い困惑する藍とメイシアの間に割って入るようにアフロが机の上を滑りこんでくる。

2人の会話を本棚で聞いていたアフロがお互いの説明を補完する事でどうにか誤解を解くことが出来たのであった。

 

『へぇ、数学って楽しい。』

 

『銃の撃ち方も少し武道に通じる物がありますね。』

 

数分後、藍とメイシアはお互いの文化を教えあって交流を深めあっていた。

 

『やれやれだよ。

いくら異世界とはいえダーザインが人材を集める世界なんだからそこまでズレてるわけないよ。』

 

アフロが呆れたように小言を言うと2人は素直に頭を下げた。

 

『うん、アフロの言う通りだね。

申し訳ございません。

メイシアさんを恐ろしい方と勘違いしてしまいました。反省します。』

 

『わたしも藍の事を怖い子だと思っちゃった。反省する。』

 

お互いに頭を下げると少しだけハグをする。

藍は少し抵抗があったがメイシアの文化では普通のようだから素直に受け入れた。

 

『これで仲直り。』

 

そう言って夕陽に照らされ微笑むメイシアが余りにも綺麗だったのでドキッとしてしまう。

藍は赤くなった顔を隠すように少し冗談めいて強引に締めるのだった。

 

『そろそろ時間ですね。

では、狩りに行きましょう!』

 

メイシアは藍の言葉に静かに頷くと戦闘モードに移行する。

彼女の狩場は今や世界相をまたいでいるのだ。

 

『うん。じゃあ今日も狩りに行こう。』

 

大きな銃を肩に担ぎ直し、メイシアは静かに狩場へと赴いていった。

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