山に囲まれた小さな田舎町の太刀花町。
その中でも特に古びた印象を受ける一角には
老婆が一人で経営する古き良きと言うべき駄菓子屋がある。
開店から50年、現代にあってもなお店内は子供達で賑わっている。
太刀花家の屋敷から真っ直ぐ降ると駄菓子屋のある一角に入り込む。
藍にとってこの一角は昔馴染みというだけでなく
亡き両親代わりとなって自分を育ててくれた人達が住む自宅のような通りである。
『駄菓子屋のお婆さんこんにちは。
これ叔父様からこないだのお礼です。』
挨拶しながら藍が入店すると店内にいた子供達が一斉に振り向いて会釈をする。
少し前までは元気よく手を振ってくれたのだが、中学に上がった自分は彼らにとってお姉さんになってしまったらしい。
すこし敬われた挨拶に寂しさを感じてしまう。
『おや藍ちゃんこんにちは。
お使いありがとね。』
駄菓子屋の老婆が奥から現れて荷物を受け取ると隣の遊戯場を指して尋ねる。
『少し変わった女の子が来てるんだけど、藍ちゃんのお友達じゃないかい?』
詳細は省くがこの老婆もタダ者ではなく、不思議な力を感じ取る事が出来る。
藍には心当たりはないが、老婆が言うのなら恐らくは私の関係者だろう。
藍は店の横にある遊戯スペースに足を運ぶ。
遊戯スペースは車が縦に3台分くらいは停車できそうな幅と10mほどの奥行きのある屋根付きスペースだ。
かつてはラジコンやミニ四駆のコースを置いていたそうだが、今は古びたゲーム機が両サイドに並んでいる。
『あれ?藍さんじゃないですか!こんな所で会うなんて奇遇ですね!』
老婆の言った人物が駄菓子を食べながらこちらに手を振っている。
彼女の名はアルカ、藍と同じバースセイバーである。
『私はここが地元ですから。
それよりアルカさんこそ何故こちらに?』
わざわざこの街に来る人は住人の縁者を除けば大抵が太刀花家に用がある人だ。
だからこそ藍にとってアルカの来訪が不思議だったのだ。
『あ、そういえば地名が太刀花町…!
なるほど、ここは藍さんの地元だったんですね。』
アルカは頷いて納得する。
『私はたまたま任務でこの世界相に来たんですが
調べてみたらどうやらここにはまだコレが残っているみたいで・・・』
そう言ってアルカは古びたゲーム機を指差した。
『これです!
私の世界にもあったんですが今は全て撤去されてしまったんですよ。
それとこういう駄菓子屋さんも。』
喋りながらアルカは嬉しそうに駄菓子を口に放り込む。
童心に返っているのかとっても愛らしい笑顔だった。
『こういうお店は私達の世界でも珍しいそうですよ。
ごく稀にマニアの方がわざわざ訪ねてきますから。』
自分にとっては見慣れた光景だが、街の外ではそうではないらしい。
皮肉な事に世間から置いていかれた事でこの店は注目を浴びている。
『藍さんが羨ましいですよ。
こんな素敵なお店が近くにあって。』
自分達が当たり前のように利用している物を古き良き文化扱いされるのは少々複雑だが
アルカの言葉に悪意は感じないので笑顔で返事をしておく。
『それで藍さん。
腕前はどのくらいですか?』
アルカは席を立ちあがり両手でどうぞとジェスチャーをする。
ゲームの腕前を見せろという事だろう。
『いえ、私はこういうコンピューターゲームは苦手で…』
コンピューターゲーム!?
今はゲームと言えば大体がゲーム機を指すと思うが、敢えてコンピューターゲームという単語を用いる事にアルカは驚愕する。
これは本物の素人の発言だ。
『アルカさんは確かゲーマーさんでしたよね。
こういった仕組みがシンプルなゲームなど簡単だったのでは?』
『いえいえ、むしろ古いゲームの方が現代のゲームよりも難易度が…』
アルカが両手を振って否定していたその時だった。
2人の会話を強引に遮るように子供達が一斉に飛び込んでくる。
『藍ねーちゃん助けて!』
子供達の叫び声を聞くと藍はすぐに凛々しい表情へと変わり素早く刀に手を掛ける。
柔かな物腰で忘れていたが彼女が武士なのだとアルカは改めて思い知らされた。
『どこで出たんですか?』
出たというのは恐らく彼女が日常的に戦っているという怪異の事だろう。
アルカも何か手伝える事がないかと思考を張り巡らせていたのだが…
『いや怪異じゃなくてギガメンだよ!』
『へっ?ふぇ?ギガ・・・?』
いきなり藍が通常モードに戻る。
『ギガメン知らねーの?みんなやってんじゃん!』
『ご、ごめんなさい。私はそういうのに疎くて…』
藍と何となく居合わせて巻き込まれたアルカは子供達からギガメンについて説明を受ける。
ギガメンとは子供達の間で流行しているカードゲームであり
ターン制でカードを地面に叩きつけて相手のカードを裏返し相手のカードを奪い取るゲームである。
『…なるほど、要するにメンコですね』
藍がデリカシーに欠ける言葉を漏らす。
(メンコじゃなくてギガメンですよ!)
子供達に聞こえなくて何よりとアルカがホッと息を漏らす。
『実は俺達、隣町のヤツらとの勝負に負けてギガメン全部取られちゃったんだ。
それを取り戻すために今から再戦する約束をしたんだけどアイツらギガメンチャンピオンの親戚を助っ人で連れてきてさ。』
『えっ?それはずるいですね。』
アルカが思わず声を挙げる。
そんな話なら最初から勝負しなかっただろう。
後出しでの助っ人はゲーマーのモラルに反する。
『そうなんだよ。
このままじゃ俺達のギガメンがまた取られちゃうよ。』
子供達から続々と不満の声が挙がる。
確かに可哀想だが私達には何もできない。
そうアルカが思っていた時、思いもよらぬ言葉が子供達から飛び出して来た。
『お願いだよ!
俺達に代わってアイツらと戦って欲しいんだ!
藍ねーちゃん…いや、メンコの達人!花嵐の藍!』
藍が噴き出した。
こんな藍は初めて見る。
アルカがまじまじと見つめると藍は赤らめながら顔を背けた。
『…花嵐の藍なんですか?』
『しょ、小学生の頃の話です…』
子供達の話では、小学生の頃の藍は今よりも活発で男の子ともよく遊んでいたらしい。
そしてメンコの腕前はプロ級(メンコで食べてる人いるんですか?)であり花嵐の藍の異名を欲しいままにしていたらしい。
私なら欲しくない。
『どうしてやめちゃったんですか?』
『…それが思い出せないのですが、物凄く辛い事があった気がするんです。』
メンコで?
と、言いたいのをアルカはギリギリで堪える。
子供には子供なりの事情があるのだ。
『蘇ってよ花嵐の藍!ほら、これがギガメンだよ!』
少年達が差し出したギガメンを藍は一度は手にしたが、やがて寂しげに微笑むとゆっくりと膝を曲げて静かにギガメンを床に置いた。
(引退するアイドルがマイク置く時みたいに置いた!)
『ごめんね、私はもう花嵐の藍じゃないの。
それにもう中学生だし…。』
子供達から落胆の声が次々に挙がる。
藍が子供達を優しく慰め始めたその時、背中からふてぶてしい声が響き渡った。
『おーい、勝負の時間だぜ!
まさか怖気づいたんじゃねぇよなぁ!』
少年漫画の悪役のようなセリフを吐いて隣町の少年達が現れる。
その中心には学生服を着た少年がいる。
どうやら彼がギガメンチャンプのようだ。
『少し待ってくれよ。
今こっちも助っ人を頼んでる所なんだ!』
『はぁ?助っ人ぉ?』
そう言って生意気そうな少年が藍を威嚇する様に下から覗き込む。
『誰かと思えばメンコのねーちゃんじゃん!』
『メンコなんて古臭い遊びがギガメンに勝てるわけねーじゃん!』
隣町の子供達が口々にメンコを罵る。
その言葉を藍は静かに聞き入っていた。
アルカは感覚で理解していた。
ホビーアニメのような展開の数々、ノリノリの子供達。
これは間違いなく面白い事になる。
『…私への悪口は構いません。
ですがメンコを侮られては困りますね。』
やっぱり面白い事になった!
『それに…ギガメンチャンプさんは私と同じ中学生のようですね。
小学生からおもちゃを取り上げるなんて見過ごすわけには行きません。』
アルカは藍の中で何かが蘇っているのをワクワクしながら見つめる。
『藍ちゃん!
いや、花嵐の藍!
アンタのデッキを受け取りな!』
店内で話を聞いていたと思われる駄菓子屋の老婆が藍にメンコを投げ渡す。
(わぁい、お婆ちゃんもノリがいい!)
藍はそれを片手で受け取るとカッと目を見開いた。
『いいでしょう!
教えて差し上げます!
メンコの奥深さを!』
カッコつけてるのだから多分カッコイイ。
少なくとも地元の子供達は大はしゃぎである。
今自分の目の前にいるのはお淑やかなバースセイバーの太刀花藍ではない。
小学生の頃のおてんば藍ちゃんであり花嵐の藍だ。
そんなアルカの視線に気付いた藍が一瞬だけ元の藍さんに戻る。
『ごめんなさい。
やっぱり子供達が可哀想ですし、みんなのカードを取り戻すまでは小学生に戻らせてください。』
『いえいえ、そんな私の許可なんていりませんよ。
子供達の為にもぜひ頑張ってくださいっ!
あ、お婆さんお菓子500円分くらい適当に見繕ってもらっていいですか?』
本当に面白そうな事になった。
駄菓子が進む進む。
『ふっ、話は聞かせてもらったぞ。
ここにタイムギャルがあると聞いて任務帰りに駄菓子屋を訪ねてみたら随分と面白い事になってるじゃないか。』
子供達の群れをかき分けて唐突に現れたのはハードガイCだった。
そのパワードスーツ目立ちませんか?
その姿でタイムギャルで遊ぶつもりだったんですか?
『ダーザインもウィークボウイ達のような子供が増えたからな。
当然ながら隊員のメンタル回復のために子供用の遊戯装置も開発されているわけだ。』
そう言って小さな箱のような装置を中央に置く。
『イメージ映像投影機だ。
この装置の範囲内で子供達がカードゲームなどをすればイメージが映像として投影される。
例えばドラゴンのカードを場に置けばホログラムのドラゴンが空間に映し出されるのだ!』
『すっげぇーー!』
子供達のテンションが爆上がりである。
『わかりました。
決闘にふさわしいバトルフィールドですね!』
藍ちゃんも言い方がちょっと面白い。
『では審判はこの俺、ハードガイCが努めよう。
君達の戦いは私のメモリーに録画される。
両者とも正々堂々と戦うように。』
『ええ、わかりました。
…太刀花藍と申します。お名前を伺ってもよろしいですか?』
『ギガメンチャンプ、林田タケシだ。』
何故か仕切り始めたハードガイCがイメージ映像投影機のスイッチを入れるとアルカは老婆が持ってきた駄菓子の袋を一斉に開けた。
こんな面白い勝負、全力で楽しむしかないじゃないですか。
『ギガメンとメンコの異種競技バトル!はじめ!』
『よし、ファーストギガは貰うぜ!
出でよ、ギガビッグジャイアント!』
『あぁっ!ファーストギガを取られた!』
子供達から悲嘆の声が挙がる。
ハードガイCの合図に合わせて宣言すると林田少年はギガメンを床に置いた。
するとイメージ映像投影機が作動し、カードの上にイラストと同じモンスターが映像として投影される。
・・・ところで、これはファーストギガした方が不利じゃないですか?
『げぇっ、いきなりBP1500超えのクリーチャーだ!』
子供達とハードガイCが驚きの声を挙げる。
メンコにBPって関係ないと思う。
『相手にとって不足なし!
ではこちらの先発は江川卓選手です!』
藍が手に持ったメンコの絵柄を見せつける様に裏返すと場に江川卓選手が投影される。
藍のメンコはどうやら往年のプロ野球選手のカードのようだ。
『江川卓選手でギガビッグジャイアントに…アタック!!』
藍がカードを叩きつけると江川卓選手がギガビッグジャイアントにバットで襲い掛かる。
ギガメンが裏返ると映像のギガビッグジャイアントも断末魔の叫びをあげて消え去った。
『バカな!BP1500のギガビッグジャイアントが一撃で!?』
『ふっ、江川卓選手の生涯年棒は3億超えだからな』
ハードガイCの解説も加わりよくわからない概念バトルが導入されていく。
そんなカオスにアルカは目を輝かせながら駄菓子を口に放り込んでいく。
『くっ、だったら次は…スフィンクスシャークドラゴンだ!』
よくわからない合成生物が出てきた!
アルカ、ワクワクが止まりません!
『ならばこちらは中日ドラゴンズキラー、広島東洋カープの北別府学選手です!』
スフィンクスシャークドラゴンの大きく開いた口を巨大な北別府学選手が両手で掴んで襲い掛かる。
絵面だけで面白い!
『次はマッハタイガーだ!』
『だったらこっちは13年連続盗塁王の福本豊選手です!』
マッハタイガーのスピードに福本豊選手が食らいつく。
『次は魔神ジャスティス!』
『ではこちらは横浜の守護神、大魔神佐々木主浩投手!』
魔神ジャスティスのビームを佐々木選手が高速のフォークボールで迎え撃つ。
『幻の騎士、ミラージュナイト!』
『こちらは幻の助っ人外国人、ランディバース選手!』
全盛期に突如姿を消したと言う幻の騎士に阪神タイガース黄金時代に惜しまれつつも姿を消したバースが迎え撃つ。
ギガメンチャンプ林田と花嵐の藍は攻防一体の接戦を繰り広げていた。
『太刀花ちゃん、なかなかやるじゃねぇか!』
『林田君こそ、ギガメンも侮れませんね!』
(こんな面白い藍ちゃんが見られると思わなかった!
太刀花町に来て良かったぁ!!)
戦いは一進一退を繰り返し両者は次第に疲弊していったが、林田少年は不敵な笑みを浮かべている。
これは何かある!アルカ、ワクワクが止まりません!
『そろそろ奥の手を出させてもらうぜ!
出でよ!最強の究極進化ダークブラックゴッドゴールデンドラゴン!』
『え、ええええぇ!?』
藍が驚きの声を挙げる。
林田が取り出したギガメンは直径50cmはあろうかという巨大なカードだった。
『むぅ!これは公式大会の優勝者にしか与えられない幻のギガメン!
その名も最強の究極進化ダークブラックゴッドゴールデンドラゴン!』
コイツは公式大会では使用が禁じられているカードだぞ!』
『だがこの勝負は公式大会じゃない!
この勝負、俺が勝たせてもらうぜ!』
林田が巨大ギガメンを宙で手放す。
それだけでギガメンは周囲に風を巻き起こし藍のメンコを裏返していった。
『くっ、卑劣な!』
藍も規模の大きさでは負けてなさそうなアジアの張本で対抗したが通常サイズのメンコでは直径50cmのギガメンにはビクともしなかった。
『はーっはっはっは、勝負あったな!太刀花ちゃん!』
勝ち誇り高笑いする林田だったが、藍の瞳からは諦めの感情が見えない。
『いいえ、私にはまだ奥の手があります。』
力強く叫ぶと藍はメンコを人差し指と中指で挟む構えに切り替える。
『私のターン!
世界の王、王貞治選手を出します!』
『あ、あれをやる気か。藍ちゃん!』
駄菓子屋の老婆が叫ぶ。
お婆さん、あまり興奮すると心臓に悪いですよ。
『ええ、お婆さんの仰りたい事はわかります。
記憶が曖昧ですが私がメンコを止めたのは花嵐が原因だったと思います。』
俯きがちに言うと藍は大きく目を開いて前を向く。
『ですが、このまま何も出来ず負けてはメンコの名にキズが付いてしまいます!
ですから今こそ私は封印を解きます!』
子供達から歓声が上がる。
別にキズは付かないし使わなかっただけで封印はされてはいなかったと思う。
藍は大きく深呼吸をすると、まるで居合いをするかのような構えに入る。
その構えにはアルカにも見覚えがある。
(花嵐って戦闘中にいつもやってるアレのこと!?)
アルカにも理解できた。
藍はダーザインの任務中によく使う太刀花流奥義・花嵐を刀ではなくカードを使って繰り出すつもりらしい。
『許されるのそれぇ!?』
『ルール上は何も問題ありません!』
『そういう問題じゃなくて太刀花家の人が見たら怒りませんか!?』
そんなアルカの真っ当なツッコミをよそに藍は静かに気を溜めてゆく。
『行きます!
太刀花抜刀流奥義・花嵐!!』
藍は王貞治を思いっきり地面に叩きつける。
その衝撃と共に強烈な風が辺りに巻き起こる。
余りにも強烈な風は全てをめくり返していく。
マッハタイガー、魔神ジャスティス、ミラージュナイト
最強の究極進化ダークブラックゴッドゴールデンドラゴン
…そして、太刀花藍のスカート。
思えば任務中の花嵐は離れた敵に放っている。
真下に風を起こすなどほぼ無い。
だからこその油断だったのだろう。
藍は慌ててスカートを抑えたが、なんていうか時すでに遅し。
・・・やがて風は止まり、バトルフィールドには裏返ったギガメンと王貞治。
そして下を向いたままスカートを抑えて固まる藍の姿があった。
『…お、おお俺の負けだぜ。』
林田は明らかに動揺している。
男の子だもんね。
『い、いい物を見せて貰ったぜ、花嵐の藍。
あ、こないだ奪ったカード置いとくから…じゃあまた!!』
矢継ぎ早にセリフを吐いて林田が慌てて去っていくと隣町の少年達も慌てて逃げ去っていく。
藍は顔を真っ赤にして下を向きスカートを抑えたまま動かない。
こころなしかプルプル震えている。
『ほれ、アンタらも行くよ。』
老婆が地元の子供達を連れて外へと出ていく。
アルカも慌ててお菓子を片付けて外へと飛び出した。
それから数秒後
『あぁぁああああああああああ!全部思い出しましたぁあああーーー!!』
藍の叫び声が響き渡った。
物音から転がったり手を振りまわしたりなかなか大暴れしている様子が伺える。
『藍ねーちゃんが小5の頃かなぁ?
今回と同じようにスカートのまま至近距離で花嵐を放ってさ・・・』
『数日後に会ったら記憶を閉じてメンコにも触らなくなったんだ。
よっぽどショックだったんだと思う。』
子供達が語る悲しき過去。
人に歴史あり、いや黒歴史ありと言ったところだろうか。
今回も藍は記憶を閉じ、そしてメンコを捨てるのだろう。
『提案なのだが…』
ハードガイCが話しかけてくる。
『今日の事は他言無用はもちろんだが、速やかに記憶から抹消すべきだろう。』
『そ、そうですね。
君達も誰かに喋ったらダメだよ~藍ちゃん泣いちゃうからね。』
アルカの呼びかけに子供達は素直に頷く。
『うむ、子供達はこれでいいだろう。
だが林田少年はそうはいかんな。』
そう言うとハードガイCは通信機器を取り出す。
『目標、林田少年。距離1.521km。移動速度時速10.4km。』
林田少年との距離を演算する。
『…ファイアッ!』
ハードガイCが合図を出すと少し離れた場所に上空から光が降り注ぐ。
恐らくはあの光の中に林田少年がいるのだろう。
『よし、消えたな。』
消えたのは記憶だけであることを祈る。
『よし、次は私の記憶とデータを消すぞ!3,2,1,0!』
カウントを終えるとハードガイCは前のめりに倒れる。
しばらくすると起き上がり何事もなかったかのようにタイムギャルをプレイしに行った。
思う存分楽しんできてください。
しばらくすると藍が店内に戻ってきた。
その表情からは激しい疲労が見える。
『あの、アルカさん。先ほどの事は…』
『ええ、言いません。っていうか私も記憶を消しておきますから。』
懇願するような涙声の藍にアルカは優しく答えると己の頭部に手を当てる。
正直いまの彼女には同情しかない。
『ありがとうございます。では一緒に消しましょう。』
藍も刀の柄を頭に当てる。
アルカは魔術、藍は打突で己の記憶を抹消した。
こうして空しい戦いは終わり、ギガメンとメンコの異種バトルは大きな爪痕だけを残す。
藍は記憶と共にメンコを失い、林田少年は記憶の消去と心当たりのない特殊性癖が残った。