『これでおしまいなの!』
かなのキックが憑依体に炸裂した。
吹き飛ばされた憑依体は宙で霧のように霧散していく。
『かなちゃんお見事!』
『やったーかなちゃんカッコイイー!』
喜ぶ藍とこはるの後ろで品定めする様に不敵に笑う女性が一人。
チームFのバアルである。
この日、3人はダーザイン本部からバアル監視の元で任務を行う事を義務付けられていた。
本部も未成年の少女を扱う以上はある程度の保証が欲しいのだろう。
バアルに3人の戦士としての資質を品定めをさせるのが目的だ。
『ほう、悪くない。』
余裕が感じられる彼女の佇まいからは強者感だけでなく、3人よりも大人びた印象を受ける。
(私もあんな風になりたいなぁ。)
藍はそんなバアルの佇まいにどこか憧れを感じていた。
それが今回の間違いを引き起こす事になったのだ。
『それじゃ噂の限定スイーツ食べに行こうなの!』
『そーだね!行こう行こう!』
『うん、楽しみにしてたもんね。』
一仕事を終えた3人が楽しそうに話していると、ここまで傍観に徹していたバアルが急に話しかけてきた。
『……む、限定スイーツだと?
どう言う事か説明してもらおうか。』
『え?あ、はい。これですよ。』
急に話に混ざってきたので反応が遅れてしまったが、慌てて端末を取り出し画像を見せる。
(報告もまだなのにスイーツで盛り上がってたから気を悪くさせちゃったのかな。)
少し怯えながら上目で見上げると、そこには真剣な表情のまま端末を眺めるバアルの姿があった。
(や、やっぱり怒ってるー!)
いくら何でも遊び半分が過ぎたのだろうか。
それとも戦士が不摂生な食事を嗜むなど言語道断だと怒られるのだろうか。
一度猜疑心に苛まれると次から次へと不安が込み上げてくる。
(なんだこのふわふわで可愛らしいスイーツは。
こっちは真っ白なクリームが盛りだくさんか。
いやまて、こっちのも捨てがたい。)
そんな藍の想いを余所にバアルはメニューに見入っていた。
そう、彼女は甘党なのである。
『あ、あの……ごめんなさい。
まだ任務中なのに盛り上がってしまって……』
まずは謝ろう。
藍が両手を降ろして頭を下げるとバアルは何故か後ろを向いた。
『ん、んー……!
なんだか甘い物が食べたい気分だなー。
運動をしたせいかなー。』
後ろを向いたのはさりげなさをアピールしたらしい。
手を挙げて体を伸ばす仕草を取りながら露骨なセリフを棒読みで言う。
当然ながら3人も何かがおかしい事に気付く。
『もしかしてバアルさんもスイーツ食べに行きたいのかな?』
『でもバアルさんがスイーツ食べたがるタイプには見えないの。』
そんな会話を聞いてバアルは更に踏み込んでいく。
『俺はこう見えて甘い物も意外と好きだぁー。』
バアルの強烈な踏み込みに3人は気圧されていく。
『ほら、やっぱりバアルさんも行きたいんだよ。』
『んー?なんだかそんな気もしてきたの。
藍ちゃんはどう思うの?』
『バアルさんは忙しいんじゃないかな。
フォルネウスさんの指導もあるはずですし。』
藍は先程の件もあって警戒している。
バアルの露骨な演技を罠だと感じでいる。
すなわち誘ったが最後、雷が落ちるのではないかと疑っているのだ。
『ん-!今日は偶然にも暇な日だー!
こんな日は甘い物でも食べに行くかなー!』
バアルも必死である。
限定スイーツ食べたい。
『なんだか露骨に暇だって言ってるよ。』
『それが罠なんじゃないでしょうか。
もし誘ったら戦士としての覚悟が足りないって怒られちゃうかも。』
『え、怒られるのは嫌なの。
それなら誘うのはダメなの。』
今の会話がバアルの胸にグサリと刺さる。
(あれ、俺ってそんなに怖いのか?
実は嫌われてるのか?
ちょっと厳しくしすぎたか?)
捨て身の攻撃は外した時に致命傷を負う。
捨て身のアピールを続けてきたバアルは心に致命傷を負う事となった。
『……解散。スイーツでもなんでも3人で食べに行くといいさ。』
あからさまに寂しげな背中だったので流石に察した3人が慌ててフォローに走る。
『ち、違うんです!
バアルさんの場合は恐れ多いと言うか尊敬していて誘いづらかったんです!』
『そ、そうなの!
私達が一緒だと迷惑を掛けちゃわないか心配だったの!』
『うんうん。
バアルさんは私達と違って大人だし静かに食べたいかなーって思ったの。』
3人のフォローを聞くとバアルは足を止めて振り返る。
『ふっ、バカなやつらだ。
そんなの全然気にしなくていいんだぞー。』
とってもいい笑顔だった。
かくして、4人は端末で報告を終えると限定スイーツを食べに行ったのであった。
(バアルさんって意外と普通の人なんだ。)
なお、藍のバアルに対する評価の変動をどう捉えるかは人それぞれである。