バッセSSまとめ   作:アフロダイB

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スイッチ

『おらよっと』

 

様々な怒声が飛び交う乱戦の中で、少しマヌケな声が小さく響く。

声の主はテツだ。

敵の決死の猛攻をまるで老人に道を譲るかのような何でもない動作で身を翻して躱す。

だが、間の抜けた声に似た間の抜けた空気は一瞬にして切り替わる。

 

『寝てろっ!』

 

テツの渾身の一撃が界賊の男の腹にめり込む。

男は小さく呻きながら前のめりに倒れた。

 

『うっし、次いきましょ。』

 

界賊が動かなくなったのを確認して櫂がテツを促すが、テツはあらぬ方向を見たまま何かを考えている。

 

『どうしたんスか?

まだみんな戦ってるんだから早く加勢に行かないと。』

 

身動き一つ取らないテツに痺れを切らす櫂に、テツは視線も向けずに答える。

 

『こないだ話した日常と戦闘のスイッチを作れって例えを覚えてるか?』

 

『ああ、瞬時に臨戦態勢になれとかそういう…?』

 

一般中学生だった俺はまだ早いと感じ、武士かよと心の中で冗談扱いして流したが、どうやらテツさんは諦めてないらしい。

言い換えればそれだけ必要な事なのだろうか。

 

『どうせ俺は中学生だとか今どき武士道かよって流したんだろうが』

 

櫂の心の中を見透かしたかのようにテツが言い当てる。

はい、全部言いました。

 

『あれ見てみろ、中学生で武士がそこにいるだろ。

アイツ多分、やる気だぞ。』

 

テツが指差した方向には、今回の任務のために本部からあてがわれたバースセイバーの太刀花藍がいた。

櫂と同じく中学生であり女の子のバースセイバーだ。

 

『戦ってる姿も可愛いっスねー。

って、言ってる場合じゃないですよ!

手伝いに行かないと!』

 

テツは駆けだそうとする櫂の襟を掴むと、手前に引っ張って耳元で静かに、されど語気を強めて呟いた。

 

『いつもの男子中学生特有のエロい目線はやめて本気で見てろ。

さもないとお前、男として本気で後悔する事になるぞ。』

 

テツのシリアスな語気で櫂の気が一瞬で引き締まる。

よくわからないが助けに行く必要はないと言う事だろう。

櫂は言われたままに藍と界賊の戦いを分析する。

 

界賊の男がビームサーベルを振り回しているが、藍はそれを軽々と回避している。

だが、それは藍が上手く間合いに入れていないとも言える。

迂闊に踏み込めば怪我は必死だ、女の子としてはそれは避けたい所だろう。

界賊の男はそれを理解して強気に攻めているようだ。

 

『あれ、つまり藍ちゃんは不利なのでは』

 

『黙って見てろ、そろそろやるぞ。』

 

一回、二回と武器を振り回した男が、武器を大きく振りかざして一気に踏み込む。

そのタイミングを読んで藍がいきなりに前に出る。

藍の頭は大きく振り降りかざされたビームサーベルの根本にぶつかったが、藍の刀は男の顎を峰打ちした。

顎を下から強打された男が意識を失って倒れると、藍の頭から赤い血が滴り落ちる。

 

『うわぁ大変だ!!大丈夫!?』

 

櫂が慌てて駆け寄ると、藍は左手のハンカチで血を吹きながら右手を前に出して無事である事をアピールする。

 

『今のがスイッチの応用だ。』

 

『何を訳のわからない事いってるんですか!

えと、ヒーラーは誰だっけ…!』

 

回復役を探す櫂の襟を掴んで、テツが再び語気を強めて答える。

 

『この嬢ちゃんはな、わざと頭から突っ込んだんだ。

ある意味で一生懸命に逃げてた所からフリだ。

わたしビビッてますぅーって思わせていきなりドカンだ。』

 

『えへへ、テツさんにはバレちゃってましたか。』

 

テツの言葉を藍が微笑みながら肯定する。

顔に少し血が残っているが、その笑顔はいつもの可憐な少女の物だった。

 

『スイッチの応用なんだよ。

つまり傷を気にする女からいきなりお前の言う所の武士に変わったんだよ。』

 

『えっ、何でそんな事を…?』

 

櫂には藍がわざわざ傷を作るのは理解できない。

無傷で勝てるならそれに越した事はないはずだ。

 

『敵が隠し球を持ってるかも知れないとか、後から援軍が来るかもしれないとか。

そういう可能性を気にして、確実に勝てる所で一気に勝負に出たんだよ。

己の身を犠牲にしてな。』

 

『はい、上手く行きました。

この程度の傷なら髪で隠しちゃえば見えませんしすぐに治るから全然OKです。』

 

『いやいやいやちょっと待って!』

 

櫂が鼻の上を摘まんで考え込むと、少し離れた場所で戦っていた藍の姉である凜が現れる。

どうやら周辺の敵は全て制圧できたらしい。

 

『藍、さっきの足を狙われた時に行けたでしょ!

なんで逃げたのよ。』

 

現れるやいなや、戦いを終えて傷付いた藍にいきなり説教を開始する。

 

『ごめんなさい。

足の傷だと学校で傷が見えちゃうかなって思って…』

 

藍は日常生活を気にして怪我をする場所を選んでいたらしい。

脚の怪我ば隠せないので、それは友達や日常に僅かでも戦場の現実を見せてしまうだろう。

それは自己保身ではなく他を気遣うが故の藍の優しさから来る選択だったが、それが凛の癇に障る。

 

『あのね、私達は女である前に退魔師で武人なわけ!

藍が自分でやるって選んだんでしょ!?

だったら行け、躊躇したせいで大事になったらどうするつもりだ!

女である事は武人を通した後の余暇でやりなさい!』

 

大人しい藍よりも派手好きな凛の方が女性としての青春を謳歌しているように見えるが

それは明日には損なわれるしれないという思いからの行動力でもあるようだ。

 

『武人にしてはなんていうかちょっと危なっかしいな。

武術家ってもっと型とかを気にしてスマートにやるだろ。』

 

『ああ、うちは実践じゃなくて実戦派なのよ。

っと、言葉で伝わるかしら。』

 

『ああわかる。

一応は型を守ってるけど時々ケンカよりも荒っぽいな。

命の奪り合いしてる感じだ。』

 

櫂は話についていけずパニックを起こしてしまう。

 

『い、いやいや!

生き方が刹那的すぎるでしょ!?

さっきのだって少し間違えたら一生モノの傷になったし!!』

 

『その時は私が未熟だったと言う事です。』

 

あっさりと受け入れる藍に櫂は絶句してしまう。

黙り込む櫂の正気を取り戻すかのように、テツが強めに肩を叩いて話を続ける。

 

『場合によっちゃ片腕くらいはポンと差し出すだろうな。

まぁそん時はやらなきゃもっと痛い目に遭うとか他の誰かが死ぬ可能性があるとかそういう時だ。

要するに必要だと思ったらスカッと仕留めに行くのがあの子らのスイッチだ。』

 

『ヤケクソの無駄死にとか命知らずとは違うわよー。

賭けるべき時にリソースを割くのよ。』

 

テツと凜の言葉を聞いて櫂はハッとする。

そういえばあの時、テツは藍が身を犠牲にして勝利する事に気付いていたのだ。

 

『藍ちゃんがケガするってわかってて俺を引き留めたんですか?』

 

『おう。

その方がしっかりと学べて後々の為になるだろうからな。』

 

「本気で見ないと男として本気で後悔する事になる」という言葉の意味を櫂は理解する。

要するに知らなければ自分はいずれ大怪我、場合によっては死ぬ事になり、それを防ぐためにテツは藍が怪我をする事を容認し自分に見せつけたのだ。

しっかりと見ていなければ藍の犠牲を自分は無駄にしていた。

 

『藍ちゃんの傷が大したことないって…踏んでたんでしょうけどさぁ!』

 

櫂が拳を握り締めてテツに殴りかかる。

テツは避けもせず櫂の拳を顔で受け止めると平然と会話を続けた。

 

『傷が大したことないかまでは知らねぇ。

勝負は絶対じゃねぇから死んでたかもしれねぇな。

ただ覚悟キメてんなら俺の知った事じゃねぇって見てただけだ。』

 

『は…死…?

はぁ!?なんなんですかアンタ!!』

 

「死」という単語に言い知れぬ何かを感じ、益々熱くなる櫂を藍が優しく諫める。

 

『櫂くん、私は武人だよ。

そんな風に思われるのは逆に不愉快です。』

 

『えっ、いや、だってさ。

そんなのおかしいじゃん。』

 

可愛く膨れっ面する藍におかしいと言いつつも、櫂にはそれ以上の言葉が出てこない。

 

『どんな生き方するかはお前の勝手だけど、死んじまったらどうにもならねぇぞ。

だから生き残るためにスイッチ作れっつったんだよ。』

 

それはある意味で文化的な思考を捨てる事じゃないか。

テツの言う通り死んだら元も子もないのだが、櫂にはやってはいけない事のように感じられた。

 

『さっきの顔面の一発はサービスだ。

ほら、帰るぞ。

嬢ちゃんも傷を見てもらえよ。』

 

『はい、この度はありがとうございました。

失礼いたします。』

 

『あー終わった終わった。

帰ったらデイリークエスト消化しなきゃなー』

 

テツも藍も凛も何事もなかったかのように日常に戻って行く。

これもまたテツの言うスイッチなのだろう。

 

静かに後ろをついていく櫂に、ましら様が呟く。

 

『ワシを倒そうとした者は全員あのような思考の持ち主だったな。』

 

ましら様に倒された人達は、生き抜こうとあのように身を削った先で果てた事になる。

そんなの悲しすぎる。

 

『ならばそれ以前の道で死ぬか?』

 

ましら様の問いに櫂は答えられない。

 

『あの姉が妹に向けた言葉は真理だ。

半端に関わるくらいならやめてしまう事だな。』

 

ましら様の言葉を胸に刻みながら、櫂は3人を追い続けていた。

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