『太刀花さん、怖そうな人が校門で待ってるよ』
同級生から妙な事を聞かされる。
怖そうな人というのは誰だろう?
今は心当たりがない。
藍が校門の手前まで向かうと神聖な学び舎には少々似つかわしい服装の男が姿を現した。
『やぉ藍ちゃん。近くまで来たんで寄ってみたよ』
『リアさん?こんな所でどうされたんですか?』
バースセイバー所属の槍使いリアだ。
聞けばリアは先程まで近くに現れた幻想態と戦闘を行っていたそうだ。
任務は滞りなく終わったのだが数時間後にまた幻想態が現れる情報を掴んだらしい。
『で、本部が次は藍ちゃんも任務に加えるって言うからさ。
ついでに藍ちゃんの自宅で待たせてもらった方が2人で現地に行けるだろ?
時間も夜だし送ってくよ』
『ありがとうございます。夜道は危ないので助かります。』
敷地内で立ち話をする2人だったが、ふと周囲の空気がおかしい事に気付く。
数十人の生徒達が遠巻きにこちらを観察していて、一人の眼鏡を掛けた少女が肩を尖らせてこちらへ歩いてくる。
『太刀花さん!お友達は選んだ方がいいですよ!』
いきなり現れた少女に難癖を付けられる。
まぁ成人男性が健全な少女に絡んでいれば心配するのが普通かもしれない。
時代が時代だと納得する。
『センパイ、謝ってください。リアさんはそんな方じゃ…』
藍が自分の前に立ち塞がり、眼鏡の少女に向かってリアの弁護をし始めたその時だった。
金属バットが球を打つ音が鳴り響く。
打球は山なりに大きく飛び上がり眼鏡の少女に向かって飛んできた。
『あぶなーい!避けろーーー!』
野球部の声が響き、周囲の生徒達からも悲鳴が飛び交う。
藍と少女がようやく事態に気付いたが身体が動かせず身を縮こませたその時だった。
『よっと!』
リアが眼鏡の少女の前に立ち塞がると、飛んで来たボール片手で掴み取った。
周囲からは静かなどよめきが起きる。
『す、すみませーん!誰も怪我してませんね、よかったぁ』
野球部の少年が走りながらこっちへ向かってくる。
『おい野球部、ミット構えろ』
リアに言われるがままに野球部員が左手のミットを掲げると
ミットに向かってリアが目にも止まらぬ剛速球を放り込んだ。
辺りに強烈なミット音が鳴り響き野球部の少年は尻もちをつく。
『良くねぇだろ?この子はもっと怖かったんだぜ?』
そう言い捨てるとリアは後ろに振り返り、藍に行こうぜと声を掛ける。
立ち去り際に眼鏡の少女が何か言いたそうにしていたので一声だけ掛けておく事にした。
『女の子にボール飛ばすようなヤローが気に入らないだけだよ』
そう言って眼鏡の少女に手を振って横を通り過ぎると、周囲から黄色い歓声が湧き上がる。
『お?なんだなんだ!?』
『リ、リアさんいきましょう!ほら、急いでください!』
リアは藍に背中を押されるようにして校門を潜り抜けた。
校門を潜り抜けた2人は太刀花の屋敷に向かうため商店街を通り抜けていく。
が、見知った顔ばかりの田舎の商店街の通路ではリアの服装と顔立ちはとにかく目立つ。
リアと藍が一緒にいるのを見た大人達は気が気ではない。
小さい頃から面倒を見てきた女の子がワルの男に惹かれて一緒に道を踏み外す。
そんな不安がよぎってしまうのだろう。
さっきからいちいち呼び止められては2人がどんな関係か尋ねられている。
藍が何人目かの顔馴染みに呼び止められ事情を話していたその時だった。
ちょっと古ぼけた金物屋の店前で喧嘩をする老夫婦を見つけた。
『アンタ!昼間っから酒を飲むなって言ってるのよ!』
よくあるケンカだとボンヤリ眺めていたその時だったが
リアは男の様子に気が付くとすぐに男に向かって走り出した。
『いちいちうるせぇよ!』
そう言って老婆に向かって振られた男の腕を、寸前の所でリアが掴み取った。
『な、なんだてめ…うっ!』
老人はリアの腕を振り払おうとしたがビクともしなかったので一気に酔いが覚めた。
『アンタ長いこと婆さんを守ってきたんだろ?
そんな腕でこんなマネすんなよ、見てて辛ぇわ』
そう言うとリアは老人の腕を離し、藍に行こうぜと促す。
立ち去り際に老婆が何か言いたそうにしていたので一声だけ掛けておく事にした。
『まぁ後は夫婦で話し合いなよ。生涯を誓い合った仲だろ?』
そう言って老婆に手を振って横を通り過ぎると、またも周囲から黄色い歓声が湧き上がる。
『お?また?なんなんだよこの街?』
『リ、リアさん。とりあえず走ってください!ダッシュです!』
リアは藍に急かされて屋敷まで全力疾走した。
それから一週間後
珍しく表情をムスッとさせた藍がリアの机に資料を広げている。
『これは私の通う中学校のリアさんファンクラブのプリントです。
リアさんについて私が色々と聞いてくるように言われました。
グッズの製作許可についてのプリントはこちらになります。
それとこちらはブロマイドの…』
『あの…藍ちゃんもしかして怒ってる?』
『怒ってません。
それとこちらは商店街のカラオケ大会のポスターです。
リアさんをぜひ連れてきて欲しいと、私が奥様方から頼まれています。
オリジナルソング等をお持ちでしたら事前にCDをご用意していただけますか?』
『…勘弁してくれよ』
田舎の娯楽の無さを甘く見ていた。
自分に格好つけてる自覚がないわけではないが、ここまでチョロくなくてもいいだろう。
『お言葉ですが、無自覚に甘い言葉を囁いたり格好をつけるからですよ。そもそもリアさんは…』
中学生の女の子に叱られる俺。大人としてダメすぎないか。
いや、そもそも俺が悪いのか?
モテるならいいのでは!?
そんなことを考えながらリアは中学校と商店街へのお断り方法について頭を悩ませた。