バッセSSまとめ   作:アフロダイB

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藍とアンゼリカ

その日は平和な一日となるはずだった。

 

休日にも関わらずダーザインに呼び出され

窮屈な小部屋で退屈な講習を熱心に受けている藍を

廊下から眺めながら吸血鬼アンゼリカは考えていた。

 

(よくもまぁやるもんじゃな。

まだ遊びたい盛りじゃろうに。

あれではそのうち壊れるのではないか。)

 

大体にして、頑張る彼女に報酬がないのが気に入らん。

彼女に期待し成長させる大人がいるならば逆に彼女を甘やかして休ませる大人も必要だろう。

講習を終えた藍が部屋から出てくるとアンゼリカは背後から忍び寄り藍の肩に顎を乗せた。

 

『ほいガブーッ。

あんまり可愛らしいんでつい噛んでしもうたわ。

これで藍殿は儂の眷属じゃな』

 

『あ、アンゼリカさんこんにちは。

ふふふっ、眷属になってしまいましたか』

 

くるりとこちらに振り向くと小さくお辞儀をして笑う。

実際には眷属ではなく同種になるのだがそんなのはどうでもいい。

アンゼリカには優しい企みがあった。

 

『そうじゃよ。

じゃから今日は儂の言う事には絶対服従じゃ。

では眷属、ついて参れ』

 

後ろを振り向き片手を上げついて来いとジェスチャーをするとアンゼリカはワープゲートへと向かったので

藍はカバンを探りながらアンゼリカの斜め後ろをついていく。

 

ワープゲートを抜け玄関に差し掛かると

藍はアンゼリカが外へ出る前に折りたたみ傘を広げアンゼリカの頭上に傘を差しだした。

彼女が吸血鬼だと知っているので日除けが必要だと思ったからだ。

 

『わはは!儂が灰になると思うたか?』

 

アンゼリカも陽射しには弱いが命に関わる程ではない。

それはもちろん藍も察していただろうが(そうでなかったら儂どんだけバカだと思われてるの)

少しでも苦手な物を近づかせないようにするような心遣いでそうしたのだろう。

アンゼリカは目の前の少女の心遣いが嬉しかったので頭を撫でまわした。

もっとも、今からその気の回しっぷりを矯正しにいくのだが。

 

『よぉし、では傘はそのままにせよ。

眷属じゃからな。儂が陽射しに当たらぬよう努めるのじゃぞ』

 

『はい、ご主人様!』

 

ご主人様呼びされるのちょっと気持ちいい。

背徳感ヤバい。

そんな事を考えつつもアンゼリカは藍の顎を触ったり耳を触ったり

手持無沙汰を解消しながら歩いていった。

 

10分ほど未来都市の中を歩くと、やがてアンゼリカはとある一軒の店の前で足を止める。

そこは入り口から見ただけでわかるような、キャラ物のスイーツを扱う少し子供向けの店だった。

アンゼリカが横目で斜め下を見下ろすと、そこには見たかった顔があった。

口を小さく三角に開け瞳を輝かせる藍の姿だ。

自分には合わない店だが覚えておいて良かった。

 

『よし眷属、今日はここにするぞい』

 

入店するアンゼリカの意図を察し、小さくお辞儀をすると藍は軽い足取りで後を追った。

 

店内は右を向いても左を向いても自分にとっては知らんキャラ。

正直目が疲れるが目の前の少女はそうでもないらしい。

彼女にとっても知らないキャラばかりのはずだがとりあえず可愛いければいいのだろう。

途中で財布を探り始めたので制止する。

 

『眷属に払わせるものか。

今日は全て儂に任せとけ。』

 

そう告げると藍は小さく頭を下げて笑う。

こちらに合わせて行方に広げたメニューを吟味し、申し訳なさげに1品を選ぶ。

 

『よし、それじゃな。

それとコレとコレとコレとコレじゃ!

金などパーッと使うもんじゃ!』

 

藍が止めようとするがお構いなしにアンゼリカがタッチパネルでメニューを追加していく。

お前の考えなぞお見通しじゃい!

アンゼリカはメニューを眺める藍の瞳がどう動いていたのかをしっかり観察していた。

全てがテーブルに並ぶと流石に豪快すぎて自分でも少し引いたが

目の前の少女が瞳を輝かせて写真を撮り始めたので良しとする。

 

『少しずつ味わったら儂に言え。後は儂が食う』

 

(どうせカロリーだのなんだの、色々と面倒くさい計算をしとるんじゃろう。

見るからに小食じゃろうしな。

藍殿は遠慮はするが差し出されたら断らん。

そこは話が早くて助かるがな。)

 

そんな事を考えながらリスみたいに小さく味わう少女を眺めつつ

アンゼリカが静かにコーヒーを味わっていたその時だった。

足を滑らせた店員がストロベリージャムがふんだんに乗せられたパンケーキを

自分に向かって飛ばしてきた。

 

ベチャッ!

 

パンケーキが思いっきり顔に当たり、そのまま胸元まで滑り落ちてきた。

店内が静まり返る。

アンゼリカ自身も文句の一つでも言ってやろうかと考えたがギリギリの所で思いとどまる。

 

(今日は目の前の少女を楽しませに来たのではないか。

それに他の客もおる。

恐らくは今日を楽しみにしてきたファンやら子供達じゃな。

それを台無しにするのは忍びない。

儂が大人になってやるべきじゃろう。)

 

『わはは、気にするでないわ。

店を出て10分ほどで着替えもある。

あれじゃな、吸血鬼のコスプレみたいなもんじゃ』

 

赤く染まった自分を笑い飛ばすように冗談を言う。

コスプレではなく本物なのだが。

明るい声が功を奏し店内は明るさを取り戻す。

店員にひたすら頭を下げられるのを制止し赤く染まった身体を濡れタオルで拭き取る。

完全には取れないが傍目には誰もわからないであろうくらいには拭き取る事が出来たつもりだった。

 

平和な時間はここまでだった。

 

甘い時間を満喫し雑談しながらダーザインに戻ってきた2人を偶然見かけた男がいた。

彼の名はモンド・シーベルト、あるT-/M=世界で名を馳せるヴァンパイアハンターだ。

彼はアンゼリカの存在は聞かされていたが

人は襲わないと聞いていたので彼女の事は警戒するだけに止めていたのだが…

 

(なっ!?口元に赤い色がついている!)

 

流石はヴァンパイアハンター、目ざとい。

アンゼリカの口から胸元にかけて、赤く染まった痕跡が見られるのだ。

常人には見えぬよう拭き取られているが、プロの目は誤魔化せない。

あの色の意味する所は…まさか…

 

『アンゼリカ…貴様、【食事】をしてきたのか?』

 

遠回しな表現で恐る恐る尋ねる。

アンゼリカはバースセイバーの仲間だ、信じたい。

だがアンゼリカからの返答は期待を裏切るものであった。

 

『まぁ食事と言うほどではないな。デザートじゃよ』

 

(デザート感覚で人を…!?)

 

残念だがやはりわかりあえない。

この女は人間ではなく吸血鬼なのだ。

デザート感覚で人に危害を加え、全く悪びれていない彼女の態度に衝撃を受ける。

自分の世界の吸血鬼でも、ここまでではなかった。

 

『まぁ選り取り見取りじゃったから少々量は多かったが、残すのは悪かろう』

 

(なるほど、目撃者は全て消した…)

 

人を襲わないなどとんでもない。

この吸血鬼は完全犯罪を行ってきただけだ。

T-/M=出身の自分には科学捜査とやらは理解できないが

目撃者がいなければダーザインも立証できないのだろう。

そこでモンド・シーベルトはアンゼリカの横にいる少女の事を思い出した。

彼女が生きている限りはそのような凶行に出る事はないはずだ。

嫌な予感がする。

モンド・シーベルトは最悪の未来を避けるよう祈るような気持ちで尋ねた。

 

『…その、君は…彼女の眷属になってしまったのか?』

 

『あ、はい。わたしアンゼリカさんの眷属になっちゃいました♪』

 

(…守れなかった…!)

 

モンド・シーベルトはどこまでも深い暗黒の海に落ちていくような感覚を味わった。

仲間を、いや、未来ある少女を守ることが出来なかった。

彼女はもう、陽の当たる未来を歩むことは出来なくなってしまった。

随分とまぁあどけなく笑っているが彼女は事の重大さを理解出来ていない。

 

…いや、もう彼女ではないな。吸血鬼なのだから。

小さく息を吐くとモンド・シーベルトは一気に仕事モードへと切り替わる。

 

『そうか。せめて君の魂には安らぎが与えられん事を…』

 

モンド・シーベルトが何故か祈りを捧げ始めたので、とりあえず会釈をして2人は横を通り過ぎた。

甘い時間を満喫し満ち足りた2人は、後はのんびりした休日が待っているはずだった。

が、ヴァンパイアハンターがそれを許さない。

 

2人が横を通り過ぎてからジャスト3秒後。

モンド・シーベルトの振るった鞭が背後から2人に襲い掛かる!!

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