バッセSSまとめ   作:アフロダイB

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藍とフェイシン

その日フェイシンは太刀花家を訪れていた。

 

戦闘における様々な個人技能を習熟するフェイシンだが油断はない。

異なる世界であっても人であれば似たような技術に行きつくのだが

それが必ずしも全く同じものであるとは限らない。

細部を見誤ったばかりに仲間を失うような危機に陥るのは回避したいと考えているのだ。

あるいはそれが全く新しい技術であれば特に喜ばしい。

 

『今のが太刀花流抜刀術の護の七型です』

 

『ふむ、足が開き過ぎではないか?それでは相手の力を抑えきれず足が滑るぞ』

 

自分が技を教えてるはずなのに、私の未熟さを指摘してくる。

藍としてはありがたい反面、少しやりづらい。

 

『そもそも君は身体が戦うように出来ていないな。

君の師は君の為に型を変化させて教えているのだろうな。興味深い。』

 

戦士であれば戦うための肉体作りは基本であり、戦法も身体に沿ったものになる。

いわば最高の戦法を扱えるように身体を作るのだ。

だが目の前にいる少女の繰り出す型は弱い者が出来るだけ戦えるように考えられている。

フェイシンは心底興味深そうに藍を見る。

藍としては興味を持っていただけるのは喜ばしい事ではあるが、一介の剣士としては情けなく感じる。

 

そんなやり取りをしていた時、玄関の方で物音がした。

藍の兄が帰宅してきたのである。

 

『ただいまー、おや?客人か?藍、男の靴のようだがお前の客じ…デキる!!』

 

兄はフェイシンの気配を見抜き、駆け足で道場へ飛び込んでくる。

 

『む、常人には見抜かれぬようにしてるのだがな。』

 

『…やはり、デキる!』

 

兄の目が輝いている。

兄達は強い男が大好きだ。

とにかく腕試しをしてみたく性質なので藍も兄達のいる夕方以降は誰も呼ばないようにしているのだ。

 

『お、お兄様。私のお客様ですのでー…』

 

まずいと思った藍は大人ぶりたい妹ムーブ全開で兄の背中を押し、部屋の外へと追い出した。

 

『むぅ、まぁ仕方ないか』

 

兄も一度は納得し居間まで辿り着いたが、荷物を放り投げると椅子に座るでもなく部屋をウロウロ歩き始めた。

 

(どんな武器を使うのだ?技は?戦術は?体格で力と速さは推測できる。だが経験は…)

 

フェイシンの事がとにかく気になって仕方がない。

乙女が片思い相手の趣味や好みを悩ませるように夢中で思考を巡らせ始めた。

 

続いて別の兄が帰宅する。

 

『戻ったぞー!むっ、客か?藍、お前の…デキる!!』

 

次の兄もまた駆け足で道場へ飛び込んでくる。

 

『む、また見抜かれたのか。』

 

『お、お兄様。私のお客様ですのでー…』

 

続いて別の兄が帰宅。

 

『戻ったぞー!むっ、客?…こやつデキる!!』

 

『お、お兄様。私のお客様ですのでー…』

 

そんな事が何度も続く。

地味に兄達の気配察知能力の差がわかるがそんな事はどうでもいい。

そして藍に追い出された兄達はやはり居間でウロウロするのだった。

 

(術を使うのではないか?だが体術も扱えるだろう。攻撃はどうする?目付きから判断するに相当な修羅場を…)

 

居間で大の大人達が数人で落ち着かない様子で歩き回っていた。

 

『藍!そやつ何者だ!!』

 

叔父は玄関ではなく外から走ってきた。

一番気配察知能力が高いようだ、流石であるが今はどうでもいい。

 

『お、叔父様。私のお客様ですのでー…』

 

やはり藍に部屋を追い出されるも落ち着かず居間でウロウロする叔父。

 

『…むぅ、やはり気になるな。よし!!』

 

『よし、ではないわ。タワケ!』

 

何かを決心した叔父を事態に気付いた祖父が引き留める。

 

『あの方はバースセイバーではないか。

いわば身の丈に合わぬ戦場にいる藍を我らの代わりに守ってくださっておる。

無礼な真似を働く事は儂が許さん。』

 

祖父に言われては仕方がない。おまけに正論だ。

全員が仕方なく諦めて椅子に座ったが、兄の一人が何かを思い付き口を開いた。

 

『…ですが、藍は未熟者です。

藍の型だけを見せて帰す方が無礼なのでは?』

 

その言葉に別の兄が乗っかかる。

 

『そもそも客人が訪ねてきたのに藍だけに相手をさせるのはおかしいな』

 

『相応の武人なのだから我らが持て成すべきでは?』

 

『それだ!我らの技もお見せして彼の洞察力を測ればいい!』

 

話がまとまると全員が足早に部屋に向かってくる。

怒涛の足音に藍は怯えたがフェイシンは動じない。

そんな気がしていた。

 

『客人!未熟な技を見せ続けて申し訳なかった!

ここからは我らが披露しよう!!』

 

やはりこうなった。

フェイシンは気付かれぬようなため息を小さく漏らす。

だがありがたい申し出でもある。

この際だから有難く拝見させてもらう事にしよう。

 

そう思ったのがフェイシンのミスだった。

 

時刻は19時を回った。

 

『そろそろ夕飯だろう。今日はこの辺で…』

 

『では食べていきなさい!遠慮はいりませんぞ!!』

 

時刻は21時を回った。

 

『そろそろお疲れではないか?今日はこの辺で…』

 

『いいや!我らは疲れ知らずだ!遠慮はいりませんぞ!!』

 

時刻は23時を回った。

 

『藍殿が寝ている。今日はこの辺で…』

 

『藍!お客様の前でなんと失礼な!起きてなさい!!』

 

時刻は1時を回った。

 

『私もいい加減疲れた。今日はこの辺で…』

 

『これは失礼した!では後は各自1つずつとっておきの技を…』

 

この日、フェイシンは太刀花家に一泊する事になった。

 

翌朝、フェイシンは朝食を太刀花家とご相伴にあずかる事になったのだが…

 

『藍、小夜さん、今日の朝食はこれだけか?』

 

叔父と兄達の目の前にはたくあんだけが置かれていた。

 

『はい』

 

『ええそうですよ』

 

藍とお手伝いさんが冷たく言い放つ。

 

『お客様とお爺様はこちらをどうぞ』

 

こちらは白米とお吸い物と総菜と漬物。一般的だ。

実に眠たそうな顔で藍が『いただきます』と静かに手を合わせる。

その様子を眺めていた叔父達はお互いに顔を見合わせると

 

『全員集合!』

 

一斉に立ち上がりフェイシンの元へと集まってきた。

 

『大変申し訳ありませんでしたぁー!』

 

それはもう綺麗なお辞儀で、全員揃って頭を下げたのだった。

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