・この作品は『バカとテストと召喚獣』と『東方Project』のクロスオーバー作品です。
ただし、他の主要な作品とは違い、吉井明久がチートでもありませんし、基本的には原作
忠実の設定をしています。なので、これが気に入らない人にはあまりお勧めできません。
ですが、同時にただのクロスオーバー作品ではなく、しっかり自分で一つのストーリーを
作って書いています。なので、『バカとテストと召喚獣』と『東方Project』どちらも知ら
ない人でも、片方を知っている人でも、両方知っている人でも、一度は読んでみてくださ
い。
・ついでに全部見ていただいて、よければコメントください。できればアドバイスや、原作
知識であれば嬉しいです。というか正直なんでもいいです。
プロローグ
「ふぅ...ようやく終わったわね。まったく...戸籍がないだけならまだいいものの年齢のごまかしは難しかったわ。」
「お疲れ様です◾️様。」
「えぇ。でもこれで送ることができるわ。あの学校、文月学園に。」
「明久には伝えなくてよかったのですか?」
「事前に伝えたら反対するでしょう。それに驚かせたいじゃないの♪あとから知ったら反対もできやしないわ。」
「彼、怒りますよ?」
「まあ、その時はその時として...橙、溺れてるわよ?」
「え? あ! 橙ーー!」
「ふぅ、、、しかしうまくやってくれればいいんだけどね。あのコを舐めないことよ霊夢。」
-
僕は最近よく夢を見る。夢の中には自然に溢れた世界が広がっている。そこには「妖怪」や「神」と名乗る少女たちがいて、そこで僕は───
何をしていたんだっけ。
バカテスト 化学
[第一問]
問 以下の問いに答えよ
『調理のために火にかける鍋を生成する際、重量が軽いのでマグネシウムを選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。この時の問題点とマグネシウムの代わりに用いるべき金属合金の例を一つ挙げなさい。』
霧島翔子の答え
『問題点…マグネシウムは炎にかけると激しく反応するため危険であるという点。
合金の例…ジュラルミン』
教師のコメント
正解です。さすが霧島さんですね。Aクラス代表としてこれからも研鑽を積んでほしいです。
土屋康太の答え
『問題点…ガス代を払っていなかったこと』
教師のコメント
深読みしすぎです
吉井明久の答え
『オリハルコン
↑メ⚪︎ゾーマでも耐えられる』
教師のコメント
昨日竜と勇者みたいなゲームをやりました?
藤原妹紅の答え
『問題点…マグネシウムじゃチリも残らないということ。』
教師のコメント
一体何℃の炎で調理しているんですかあなたは。
ー
僕らがこの文月学園に入学してから二度目の春が訪れた。
後者へと続く坂道の両脇には新入生を迎えるための桜が咲き誇っている。僕は正直向こうの世界で見慣れてはいるものの、その眺めには一瞬目を奪われる。
しかしそれも一瞬のこと。
今僕の頭にあることは春の風物詩ではあるものの、桜のことじゃない。僕の頭は今年の一年を共に頭は今年の一年を共に戦い抜いていく戦友と教室、つまり新しいクラスについてで頭がいっぱいだった。
*
「吉井、遅刻だぞ。」
玄関の前でどすの利いた声に呼び止められる。声の下方を見ると、そこには浅黒い肌をした短髪のいかにもスポーツマン然とした男が立っていた。
「あ、鉄じ─じゃなくて、西村先生。おはようございます。」
軽く頭を下げて挨拶をする。何せ相手は生活指導の鬼、西村教諭だ。目をつけられると碌な目に合わない。
「今、鉄人って言わなかったか?」
「ははっ。気のせいですよ。」
危ない危ない。普通に鉄人って呼ぶところだったよ。
ちなみに鉄人ていうのは生徒間での西村先生のあだ名で、その由来は先生の趣味であるトライアスロンだ。真冬でも半袖でいるあたりも理由の一つだけど。
「しかし、この状況で普通に『おはようございます』はないだろう。」
「あ、すいません。えーっと今日もいい筋肉してますね。」
「、、、、お前には遅刻の謝罪よりも俺の筋肉の質の方が大事なのか?」
「あ、そっちでしたか。遅刻してサーセン!」
「全く、おまえは。いくら罰を与えても全然懲りないな。」
なんだと?それだと僕がまるで遅刻常習犯みたいじゃないか!
「僕、遅刻なんてしてないですよ?あんまり。」
「どの口が。ほら、受け取れ。」
先生が箱から封筒を取り出し、僕に差し出してくる。宛名の欄には『吉井明久』と大きく僕の名前が書いてあった。
「あ、どーもです。」
一応頭を下げながら受け取る。一応ね。
「にしても、どうしてこんな面倒なやり方でクラスを発表するんですか?掲示板とかで大きく張り出せばいいのに。」
こんなの非効率的だと思うけどなー。
「普通はそうするんだけどな、うちは世界的に注目されている最先端システムを取り入れた試験校だからな。これもまた、その一環ってわけだ。」
「ふーん」
そんなものなんだね。
僕はそう思いながら封筒を開ける。僕の通う文月学園はクラスがAからFまであり、2年生以上はAから順に振り分け試験の成績順でクラスが決まっていく。頭のいいひとはAクラス、悪いひとはFクラス,といった具合だ。
まあということを言いつつ僕は頭の云々関係なくクラスが決まっているわけだからこの封筒の中身も知っているわけで、特に楽しみということもなく、ただ封筒を開ける。
「吉井、今だからいうがな、」
うーん少し開けにくいな。
「俺はお前を去年一年見てきて、もしかしたらこいつは、バカなんじゃないか、と疑っていたんだ。」
なんか失礼なことを言っている奴がいるな。
「ひどい誤解ですね。僕はバカなんじゃなくて本気を出してないだけなんですよ。それに今回は...」
「ああ、事情は知っている。だがこれだけは言わせてもらう。お前の行動は確かに人のためになったかもしれないが、それが理由でいくつかの教科を落としたのは本当にこちら側も申し訳ないことだと思っている。しかしそれを加味したとしてもな、」
ようやく封筒が開く。そこに書いてあるクラスの記号を見て僕はやっぱりか、と静かに項垂れる。
『吉井明久・・・・・・・Fクラス』
「お前はやっぱりバカだ。」
こうして僕の最低な学園生活は幕を開けた。
バカテスト国語
[第二問]
問 以下の意味を持つ諺を答えよ。
『(1)得意なことでも失敗してしまうこと。』
『(2)悪いことがあったときさらに不運が重なること。』
木下優子の答え
『(1)河童の川流れ』
『(2)踏んだり蹴ったり』
教師のコメント
正解です。他にも同じ意味を持つ例えば『弘法も筆の誤り』などがありますので覚えておきましょう。
土屋康太の答え
『(1)弘法の川流れ』
教師のコメント
なんともシュールな光景ですね。
吉井明久の答え
『(2)MP切れのところでメタルスライム』
教師のコメント
いい加減ゲームから離れましょう。
坂本雄二の答え
『(1)母のまともな料理』
教師のコメント
あなたの母親の料理がまともなのはそんなに珍事になりうることなのですか。
藤原妹紅の答え
『(1)上白沢慧音も歴史の読み違い。』
教師のコメント
教師をバカにするのはやめましょう。ところでなぜまだ発表されていない新任教師の名前を知っているのですか?
「なんだこの馬鹿でかい教室は….」
僕は3階に踏み入れて最初に見た教室に思わずこう言ってしまった。
すごいな、まるでどこぞのお屋敷みたいだ。これが噂のAクラスなのか?
「皆さん進級おめでとうございます。私はこの2年A組の担任、高橋洋子です。どうぞよろしくお願いします。」
足を止めて大きめの窓から中をのぞいていると、髪を後ろでお団子状にまとめ、メガネをかけてスーツをきっちり着こなした知的女性の代表のような女性がいた。
彼女が言った矢先、大型のディスプレイに自己紹介の事項が映し出された。なんて贅沢な。いくらするんだ、あれ。
「まずは設備の確認をします。ノートパソコン、個人のエアコン、冷蔵庫、リクライニングシートその他設備に不満のある人がいますか?」
いやいるわけないでしょ。ここ、なんなら僕の家より全然環境がいいよ。冷蔵庫にはお菓子などの食料がこれでもかというほど敷き詰められてるし、ガラスは全てスイッチ製、壁には絵画や観葉植物などが飾られている。どこの高級ホテルだよほんと。
「他にも必要なものがあれば言ってください。」
どこからともなく紅茶の香りが漂ってくる。早速設備を使って紅茶を作り始めた生徒がいるのだろう。
「では始めにクラス代表の紹介をします。霧島翔子さん、お願いします。」
「はい……」
呼ばれて席を立ったのは黒髪ロングの日本人形のような少女、霧島翔子さん。
その姿は神々しく、他を寄せ付けない圧倒的な存在感があった。
クラス全員の視線が集まる。それは当然だ。何せクラス代表といえば、それはこの2年製の中で最も良い成績をとったもののみに与えられる称号なのだから。
「霧島翔子です…..よろしくお願いします。」
そんな視線の中、顔色ひとつ変えずに挨拶する霧島さん。
ってやべ、僕もいい加減自分の教室に行かないと。
「…」
*
2年F組と書かれたプレートのある教室の前で僕は少しだけ躊躇していた。遅刻なんてしてきてみんなに悪い印象を持たれたりしないだろうか。嫌な奴や怖いやつや痛い奴はいないだろうか。
今後一年間を過ごす仲間がどう言った人たちなのか不安でたまらない。
「ま、なんて考えすぎだよね!じゃあ、」
どうせネガティブになってもしょうがないよね、ってことで
「すっいまっせーーん!ちょっとおくれちゃいましたっ♪「早く座れこの蛆虫野郎」って全部台無しだよ!」
いきなりなんだ!
「聞こえないのか?あぁ?」
僕は睨みつけるように教壇に立つ男を見た。その背は意外と高く180cmくらい。やや細身ではあるものの、華奢ではなく、バランスの良い筋肉をしているのがわかる。ギザギザの髪に、野生たっぷりの顔をした男、
「雄二、何やってんの?」
彼は僕の宿敵、おっと。彼は悪友の坂本雄二。まさかと思うけど彼がFクラスの先生ってことはないよね。
「先生が遅れているらしいから代わりに教壇に上がってみた。」
よかった。彼が教師だったらこれからの僕の学園生活、地獄になる気しかしないよ。
「でもなんで雄二が先生の代わりを?」
「一応このクラスの最高得点者だからな。」
「え?つまり雄二がこのクラスの代表だってこと?」
「ああ、そういうこった。」
ニヤリと口の端を上げる雄二。その理由に僕も思わずほくそ笑む。こいつさえ手駒にすればこのクラスは僕の思うがままにできるってことだ。
「このクラス全員が俺の兵隊だな。」ふんぞり帰って床に座るクラスメイト等を見下ろしている雄二。
─そう、クラスメイトは皆床に座っている。
理由は簡単。席なんてものがないからだ。
うん、何この設備。
「まぁ、さすがはFクラスってところかな?」
空きスペースでも探さないと。
「えーと、ちょっと通してもらえますかね?」
不意に後ろから覇気のない声が聞こえてきた。
そこから寝癖のついた髪にヨレヨレのシャツを貧相な体に着た、いかにも冴えない風体のおじさんがいた。
「それと席についてもらえませんか?ホームルームを始めますので。」
学生服も着てないし、どう見ても10代には見えない。どうやらこのクラスの担任のようだ。
「はい、わかりました。」
「うーっす」
僕と雄二はそれぞれ返事をしてそこら辺に座る。
先生は僕らが戻るのを待った後、壇上でゆっくり口を開く。
「えーおはようございます。2年F組臨時担任の福原慎です。」
福原先生は薄汚れた黒板に名前を書こうとしてやめた。うわ、チョークすら用意されてないや。
あれ?て言うかさっき『副』担任って言った?どう言うことだろう。
「皆さん全員に卓袱台と座布団は支給されていますか?不備があれば申し付けください。
五十人程度の生徒が所狭しと座っている教室には机がない。あるのは畳と卓袱台と座布団。なんて斬新な部屋なんだろう。一年生の時から噂には聞いていたけど実際に見ると言葉が出ない。
「せんせー、俺の座布団に綿がほとんど入ってないです。」
と、クラスメイトの誰かが先生に設備の不備を申し出る。
「あーはい、我慢してください。」
「先生、俺の卓袱台の脚が折れています。」
「木工ボンドが支給されていますので、後で自分で直してください。」
「センセ、窓が割れていて風が寒いんですけど。」
「わかりました。ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきましょう。」
教室の隅には蜘蛛の巣が我が物顔で形成しており、壁にはひび割れや、落書きのない場所を探す方が困難だった。ひどすぎる。教室っていうより廃屋ていう表現が似合う気がする。
「必要なものがあれば極力自分で調達するようにしてください。」
どこからか、というよりも教室全体的にカビ臭い独特の空気が漂う。きっと床に敷き詰められている古い畳のせいだろう。
「では自己紹介でもしましょうか。そうですね、通路側の人からお願いします。」
福原先生の使命を受け、車座りをしていた廊下側の生徒の一人が立ち上がり名前を告げる。
「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。」
ん?誰かと思えば秀吉じゃないか。
独特な言葉使いに小柄な体、肩に少しかかる程度の髪をゆったりと縛ったいでたち、去年一年で見慣れた僕でも、女子と見間違えてしまいそうな可愛らしさ。間違いない。あいつは僕のクラスメート、木下秀吉だ。にしても相変わらずの可愛さだなあ。男ばかりのこの教室ではもはや荒野に咲く一輪の花だ。
「ーというわけじゃ。よろしく頼むぞい。」
軽い微笑みと共に挨拶を終わらせる秀吉。なんて可愛いんだ。って、まずい、騙されるな!吉井明久。あいつは男だ!ときめいてはいけない!
「……….土屋康太」
いつの間にか次の生徒が立ち上がって名前を告げていた。
どれどれ、ってこれまた知り合いだ。
相変わらず口数が少ないなぁ。小柄で、でも体が引き締まっていて、運動神経もいいのに、なんでこんなおとなしいんだろう。やっぱり目立つといけないのかな?その、イロイロと。
にしても見れば見るほど男ばっかだなぁ。女子は一人もいないんだろうか。
「ーです、海外育ちで、日本語の会話はできるけど読み書きは苦手です。」
おっと、また次のひと。
「あ、英語は苦手です。ドイツ育ちでしたので。趣味は…」
お、珍しく女子の声だ。よかった、流石に一人はいるんだな。
「趣味は吉井明久をボコすことです☆」
って違うっ!誰だ!そのあまりにもレアな趣味を持つ人は!ってそんなの一人だけか。
「き、君は!まさか!し、島田さん!」
「ハロハロ〜よろしくね、吉井。」
うーんまたまた知り合いだ。最初は普通の女の子だったのにある時から急に僕にとにかく突っかかるようになった女の子だ。
にしても知り合いばっかりだなぁ。…っておかしくない?類は友を呼ぶってか!?僕が彼らと同じレベルだとでも!?
「ーです。よろしく。」
僕の前の人の自己紹介が終わる。あ、じゃあ次は僕の番か。
僕はそうして意気揚々と自己紹介しようとした時、突然ドアがノックされた。
「おや、どうやらきたようですね。では入ってきてください。」
え?僕の自己紹介はスキップ?酷くない?
そんなことは次の瞬間にはどうでも良くなった。なぜなら、入ってきた人に僕らは全員目を奪われてしまったからだ。
*
私は今年から文月学園の新教師として務めることになった上白沢慧音だ。寺子屋で子供たちを教える経験があったとはいえ、実際に現代の『学校』というところに入るのは初めてだな。
そして私は今、その勤め先となる、文月学園2ーFクラスの扉のまえにいた。
「これはひどいな…」
そこは、教室というよりも廃墟に近い感じだった。これまで通ってきたクラスとは違い、まず扉や標識からしてもうボロい。
隣の女性も同じことを考えているからなのか、頷いていた。
全く、ここの学園の長は一体何を考えているんだ。これじゃ生徒たちも勉学に励むどころか腐って何もしなくなるだろうに。
何よりここには”彼”がいるんだ。心配どころか、正直今すぐ私の寺子屋に連れ戻したい。
しかしそれを彼が拒むこともよく知っている”彼女”は不安をできるだけ表に出さないようにしつつ、扉をノックした。
「おや、どうやらきたようですね。では入ってきてください。」
入る許しが出たため、扉をあけ、元気よく一歩を歩み出す。そして教室の皆を見た瞬間、いや刹那の如き早さで彼女は、目的の人物を見つける。
それはちょうど立って自己紹介しようとしていた吉井明久その本人だった。
*
入ってきたのは二人の女性だった。
『誰だ?あの女の人?』
『綺麗だ…』
『もう一人の女子もすげえ可愛いぞ!』
一人の女性は黒いスカートとスーツを着、真面目な顔でこちらをみている綺麗な女性。
もう片方は、頭に大きなリボンをし、少し大きめの制服を着た可愛らしい女子。
どちらも絶世の美女と呼ぶに相応しい綺麗な方だった。
うん、だれ?なんでこんなところに?襲われるよー、逃げたほうがいいよー。
「吉井くん、一旦席に座ってください。」
福村先生が僕に告げる。
「あ、すいません。」
側から見れば僕は彼女らが入ってきた中で間抜けに突っ立っている男子生徒だ。
まずい!このままでは僕の第一印象が悪くなって転校から始まるラブストーリーが!
「さて…では紹介しましょう。」
改めて彼女たちは一体何をしにこの学校に来たんだろう。
「これからこのクラスの担任を務めることとなった上白沢慧音さんです。みなさん、迷惑はかけないようにしてください。」
「「「「「女性教師きたーーーーーー!!!!!」」」」」
その瞬間、クラス中が沸いた。かくいう僕も、こんな美女がFクラスの担当になってくれるのは誠に嬉しい。
そしてあわよくば良い雰囲気になって付き合っちゃったりして…なんてね。
上白沢慧音、さん。・・・なんか聞いたことがあるような。
「ご紹介に預かりました、上白沢慧音です。みなさん、この後一年、よろしくお願いします。」
『よろしくお願いします!』
『彼氏いますかー!』
「いません。」
『結婚してください!』
「好きな人がいるので無理です。」
『クッソォー!』
Fクラスの男子どもが下卑た質問をする。
そしてそれに綺麗な声でスラスラと答える慧音先生。
ノリがいいのかなんなのか。
というかやっぱりあの先生どこかで見覚えがある気がするような…
ん?こっち見てる!?やっぱり僕に興味があったりして…なんてね。あるわけないけど。
「そして…」
「今年から、日本に留学してきた藤原妹紅です。よろしくお願いします。」
「「「「「女の留学生きたーーーーーー!!!!」」」」」
またしてもクラスが湧く。まぁ、確かに女子が島田さんと秀吉しかいないから、彼女みたいな美人、しかも留学生。僕らにとっては神が授けた女神のようなものだ。
にしても留学生か….でも、彼女って髪の色が奇抜だったりとか、名前が外国風ってわけでもないし、中国とかからきた人なのかな?
まあ、なんにしても可愛い人だな。
「というわけで私はこの辺で….」
「はい。お疲れ様でした。」
福村先生が退出する再び前を見るといつの間にか留学生の子、確か名前は藤原さん、だっけかな?は前にはいなかった。
あれ?どこに行ったんだ?
「こんにちは。」
「ふぇ?」
気づくと、藤原さんはいつの間にか僕の前に立っていた。
でも、なんで僕の前に?
はっ、もしかして…
僕に告白とか!?
「ここに座ってもいいかしら?」
あ、はいそうですよね。思い上がりましたスミマセン。
「うん。全然大丈夫だよ?」
「ありがとう、明久さん。」
僕の隣に座る藤原さん。
あれ?僕の名前って教えたっけ。
「すいませんが自己紹介の方を再開してもよろしいでしょうか?吉井、明久くん?」
先生から言われる。あ、そういえば僕、まだ自己紹介の途中だったっけ。
というわけで自己紹介のために立ち上がる。
ふむ、しかしどうやって自己紹介しようかな…そうだ!ジョークでも混ぜてみるか。
現状、二人の参入のインパクトが強すぎて、並の自己紹介じゃ印象に残らないだろう。
「えーーー、コホン。吉井明久です。気軽に『ダーリン♡』とでも呼んでくださいっ!」
「「「「「ダァァーーーリーーーン!!」」」」」
野太い声の大合唱。あ、まずい。目眩が….
「だ、ダーリン….」
驚いたことに隣から回復薬が。見ると藤原さんが顔を赤くしながらつぶやいていた。
「「「「チッ」」」」
周りからとてつもない殺気が。
さて、みんな落ち着こう。僕みたいなやつがこんな美人の留学生と何かあるわけないじゃないか。
そんな望みも虚しく、殺気は強まっていくばかり。
まさに、男子生徒の妄想力は計り知れない、ってやつだね!
「えっと….それではダーリンこと吉井明久くん。席についてください。では次のひと….」
先生が僕に気遣って話を進めてくれる。
でもごめんなさい、あなたのダーリン呼びは確かに飛び上がりたいぐらい嬉しいんだけど、それより周りからくる殺気がやばくて怖い。
『くそっなんであんなバカなやつが!』
『いや、きっと何か脅されているのかもしれない。』
『待ってて妹紅さん!僕がきっとあなたをあの変態から救い出してあげるよ!』
まずい。どうやら完全に誤解されてしまっているらしい。というかなんだこの刺すような殺気は…高校生が放てていい殺気じゃないでしょこれ。
はっ、もしかしてこれはチャンスなのでは!?このダーリン呼びができるということは少なくとも僕に多少なりの好意はあるはず!では勘違いじゃなく本当にしてしまえば!
「それで藤原─」
「藤原。」
僕の言葉に被せるように僕の前に座る雄二が声をかける。酷い!せっかくここから『クラスメイトから結婚まで 〜君と出会えた春〜 全654話』が始まるはずがたった2分でエンドロールに!残り653時間58分は何を喋ればいいのさ!
「あら。先ほど明久様が話しかけいらしてましたのに横から入る無粋な方の名前はなんていうのかしら。」
え?なんて?ぶすい?部首の新しい呼び方?
「お、おう。すまない。俺は坂本雄二。よろしく頼む。」
雄二も彼女のおかしな言葉に調子を崩されているようだ。
「坂本雄二さん、ね。それでなんのようですか?坂本さん。」
「単刀直入にきく。お前はそこのバカとどういう関係だ?」
「知り合いよ。」
ズバッと言い切る藤原さん。ちょっとだけしていた期待もバッサリ切り落とされてしまった。
ん?ちょっと待って。
「僕、藤原さんとは初対面じゃなかったっけ?」
つい口を出してしまう。でも、僕は彼女のことを知らないし、過去にあったこともないはずだ。というかこんな美少女普通は覚えているはずだ。
「(やっぱり忘れているか)そう…」
一瞬にして気まずくなる雰囲気、悲しそうに目を伏せる藤原さん。あれ?僕、もしかして地雷押しちゃった?
「ご、ごめん!」
「ん、や、昔の話よ。忘れてね。」
さっきまでの悲しそうな顔がすぐに明るくなる。でもなんかその顔は無理をしているような気がした。
「つまり、お前はそこのバカの昔馴染みか。で、バカはバカだから思い出せない、と。」
「バカバカうるさいよっ!第一雄二もバカじゃないか!」
「俺はFクラス代表だ。お前とは格が違う。」
「所詮はFクラス並じゃないか!」
「んだと!?」
「はい、そこまで。」
立ち上がって喧嘩しそうになっていた僕らは、間に入った藤原さんに止められる。
あれ?というか
「お前、その口調…」
「あー猫被るのやめだやめ。」
急に口調が砕けたようになる藤原さん。さっきまでのお嬢様みたいな態度から一変、まるで男友達のようなノリで話しかけてくる。
「なるほど。それが素のお前か。」
「あぁもう、明久が覚えてないのは分かったからな。こんな堅苦しい話し方、あんま私には合わん。こっちの方が私にはあってるわ。じゃあ、改めて、久しぶりだな明久。」
「う、うん。初めまして。吉井明久です。よろしく、藤原さん。」
「妹紅。」
「へ?」
「昔のお前は私のことは妹紅って呼んでいた。だからそう呼べ。」
「え、ええとそれじゃ、も、妹紅さん?」
「よし!」
なんかすごく恥ずかしいなぁ。
ズキッ
…?なんか頭が今痛んだような…?
さっきからそうだ。胸がむずむずしたり、とにかく何か大切なことを忘れている気がする。
「質問があります!」
急にどこかから声が上がる。
ん?なんだろう?
「妹紅さんはなんでFクラスなんですか?」
なるほど。確かに彼女はぱっと見はFクラスに行くようなバカには見えない。何か理由があるのだろうか。
(今更だけど妹紅は髪を黒に染めて同年齢っぽく見せている。白髪だと目立つからね。)
「あー、それはですね、」
「妹紅さんは用事でテストが受けられなかったんですよ。」
妹紅さんより先に先生が答える。テストが受けられなかった、ってなると…
「あー、実は俺もその日の前に家族の葬式の知らせがあって…」
「俺の前で思いっきり受けていたくせに」
「俺はその日の前彼女が寝かせてくれなくて…」
「清々しいほどの大嘘をありがとう。」
なるほど。これは想像以上に馬鹿だらけだ。
「はーいみなさん、お話はその辺りにして自己紹介の続きをお願いします。」
しばらく自己紹介が終わるまで暇だし寝よっかなー。
心に一抹の空虚感を抱えつつも僕は目の前の快楽に一旦身を委ねるとした。
*
「ふぐっ、うぅっ。」
「・・・誰かいるのか?」
「・・・・・誰?」
「ここで何やってるガキ。」
「僕、いらないんだって。」
「は?」
「僕はいらない子なんだって。お母さんがそう言ったんだって。だから僕は、捨てられたの。」
「あー。そういうことか。」
「ねえお姉さん。僕はどうすればいいの?なんで生きてるの?なんで死ねないの?」
「・・・・・・死ねない?」
「なんだってした!高いところから落ちてみたし、悪いものをたくさん食べてみた!刃物を刺してみたりした!でも死ねない!生きてる!死にたいのに!」
「・・・・・・ああそうか。お前は『こっち側』、なんだな。」
「え?」
「なあお前、どうせ他に行くと来ないんだろ?私と一緒に来ないか?」
「・・・・お姉さんは僕を必要としてくれるの?」
「私が生きてる限り私はお前を見捨てない。だからこい。」
「・・・・・うん。」
「私は藤原妹紅。妹紅って呼んでくれ。」
「・・・・よろしく。妹紅、さん。」
「お前の名前は?」
「僕の名前は━━━━
*
あ、明久の野郎、寝やがった。
ん?お前は誰かって?俺は坂本雄二。高二の文月学園F クラス所属だ。でも俺はここの明久と同程度の馬鹿どもとは違って頭は悪くないからな。そこんとこ間違えんじゃねえぞ。
さーてしっかしこのクラスは現状戦力が少ないな。後何人か、対抗できる奴がほしいな。留学生の成績が現状よくわからないが、まあ少なくとも明久よりはいい戦力になるだろう。
お、もう直ぐ自己紹介が終わるな。ってことは最後は代表の俺か。
俺は作戦用の原稿を頭の中で構想し始める。
「ーです。これから1年よろしくお願いします。」
前のやつの自己紹介が終わる。ってことは俺の番か。
立ちあがろうとした時、先生から驚きの一言が入る。
「あら?木下優子さんはいらっっしゃらないのですか?」
クラス中が騒然となる。
「木下優子ってあの?」
「Aクラス並の成績ってはずじゃ…」
「風邪か?」
ボソボソとクラスメイトが話しはじめた時、いつの間にか起きていた明久が発言する。
「優子さんは今病院にいるので、学校には来れません。来るのは二週間ほど先と伝えられています。」
なるほど。何かあってそれで受けられなかったのか。
「なんでそれをお前が知っているんだ?」
「え?いや、それは….「それはじゃな、わしが明久にお見舞いを依頼したからじゃ!」あ、そう!そうだよ!」
秀吉が慌てて答える。この反応的に何かあったな?
何を隠してんだか知らんが。
まあそんなことより、これは嬉しい誤算だな。木下優子はAクラス上位レベルの戦力。これは助かる
「では最後にクラス代表の坂本雄二さん、自己紹介をお願いします。」
担任の上白沢先生が俺を名指す。どうでもいいけどこの人も明久と何かありそうなんだよな。後で聞き出すか。
前の教壇に上がる。
しっかしまあ、こうして見ると壮観だな、クラス中のやつの顔がみえる。本当に頼りなさそうなクラスメイトだ。
明久は馬鹿面して寝てんな。
土屋は..もう留学生のパンツをのぞこうとしている。流石だな。
秀吉は、いつも通りか。
島田は…留学生の方を殺意を持った目で見ているな。
…このクラスメイトでどう勝つんだ?
「あの、坂本くん?」
「あ、すいません。」
ま、やれるだけやってみるか。
*
ふう危ない危ない。これは僕と秀吉内の話だからね。にしても秀吉ナイスフォローだよ。さすがは僕の嫁!
何があったかというと三日前、僕はいつもと違って少し気が変わって早めに登校した。
ー
「うーん、朝早く起きると気分がいいな。」
僕はいつも通りアパートから学校への道を歩いていた。今日は文月学園の2年のクラスを決める重要な試験の日だ。なので早めに学校に行くことにしたのだった。
「ん?あれって….」
前方に一人、見知った顔が。
「おーい!秀吉ぃ〜!」
「む?明久か。」
愛らしい顔に女性のように整った体。彼は高校から知り合った友達の木下秀吉だ。
「おはよう秀吉。今日は早いね。」
「うむ、姉上に叩き起こされての。真面目なのは良いのじゃが、わしをそれに巻き込まんで欲しいの。にしても明久、お主の方が珍しいのではないのか?」
「まあ、テスト前だしね。秀吉のお姉さんは?」
秀吉は一人だけで歩いていた。周りに人の気配もない。先に行ってしまったんだろうか。
「姉上なら少し先を歩いておるぞ。おそらくこの曲がり角の先に…」
「あれ?」
曲がり角を右に曲がる。しかしそこには人の影も形もなかった。
「おかしいのう、先に行ってしまったんじゃろうか…?」
「あれ?何か落ちてる。」
道の先に一つ何かが落ちている。
「これ…ハンカチ?」
それは花柄の可愛らしいハンカチだった。誰かが落としていったのかな?
「どうしたのじゃ明久?ってそれは姉上のハンカチ!?なぜそこに落ちているのじゃ!?」
「んー。落としていったのかな?」
どうやらこれは優子さんのハンカチらしい。急いで落としちゃったのかな?
「何かあって急いだのかもね。」
「うむ、早く返さんとな。(でないとわしが…)」
「…」
少し嫌な予感がしつつも、僕らは学校に向かった。
「ん?お前は…吉井と、木下、弟か。」
「おはようございます鉄人!」
「おはようなのじゃ西村先生。」
「鉄人と呼ぶなぁっ!」
「ごはぁ!」
くっ、さすが鉄人、いいアイアンクローだ!
「何をしとるんじゃ明久、お主は。」
「え?木下さんが来てない!?」
「ああ。俺はみてないぞ?」
おかしい。いくら寄り道していると言ってもあの曲がり角の先には住宅街が広がっているだけ。そもそも秀吉のお姉さんは誰もが知る真面目な人だ。この大事なテストの日にわざわざ寄り道なんてするだろうか。
ふと嫌な想像が頭をよぎる。まさか、ね。
「秀吉、電話できる?」
「うむ、それがじゃの、さっきからかけておるのじゃが一向に繋がらなくての。全く、何があったのじゃろうか。」
うーーーん。
よしっ!
「秀吉、僕少し探してくるよ。」
「ぬ!?じゃが明久、今日は振り分け試験じゃぞ!?お主、ただでさえ点数が低いのに」
「でも!」
放っておけないじゃん。
そう言い捨てると僕は学校の門に走り出す。
「吉井!?何をしている!?」
「ごめん鉄人!説教なら後でたっぷり聞くかもしれないから!」
「そこはちゃんと言わんかぁぁぁーーー!!!」
「っ〜〜〜!わしも行くのじゃ明久!」
こうして僕らは初めてまともな理由でテストをサボった。(え?まともじゃないって?なんのことかな?)
「そっちにいた!?」
「いないのじゃ!そっちはどうじゃ!?」
「それが全然…」
今僕らは秀吉のお姉さんが通ったと思われる場所をしらみつぶしに探している。でも、お姉さんの影はおろか、目的証言すらない。
「ワシは家に行ってみるのじゃ!明久は引き続きこの辺りを頼むのじゃ!」
「分かった!」
とにかく、手掛かりぐらいは掴みたい。何か見つけようとした時、
「?なんだろうあれ。」
ふと気になるものが見えた。
それはなんの変哲もないただの横道。でも、何かが普通の道とは違う気がした。
「まあ、どうせ手掛かりも掴めてないんだし、何か見つかるならいってみるか!」
スタスタスタと横道に入る。
その後に横道が閉じたのを僕が知る由はなかった。
「ここって、公園?」
道の先に広がっていたのは、遊具がおいているどこにでもあるような公園。ただ、とても変な感じがするような気がするのは気のせいだろうか。
というか…
「人が、いない?」
不自然なほどその場所からは人の気配が感じられなかった。
明久が訝しく思っていると突然、
ドゴン
という爆発音がした。
「!?」
方向はどうやらこの先のようだ。
僕は危ないとわかってはいたものの、好奇心の方が勝ってしまい、行ってみることにした。
そしてそこにいたのは、
「ッ、シブトイッ!」
とお叫ぶ少女と
「・・・・・」
首を掴まれた木下優子だった。
「木下さん!?大丈夫!?」
よくみると、木下さんの首を掴んでいる少女は人間じゃない。背中から綺麗な羽が生えている、なんというか蝙蝠人間とでも表現すればいいだろうか。
でもそんなことはどうでもいい。
「おいお前!木下さんをどうするつもりだ!」
「・・・・・ヤッパリ、・・ヒサ。」
「聞いてるのか!?」
このままでは危ない、と近づこうとする明久。しかし彼が動くまでもなかった。
「フッ!」
少女は木下さんの首を少し打つと、飛んでどこかへ行ってしまった。
「・・・・何だったんだ。」
その後木下さんを抱えて戻ると、曲がり角から秀吉が出てきて、それで終わった。
ただ、一つ不思議なのは木下さんがいた場所。街の人に聞いても、その辺りには公園はおろか、そんな横道さえ存在しないらしいのである。
まあ、じっくり考えてもわからないものはわからないので、考えるのはやめたのだが。
ー
いやー。ほんと、あの時早く起きていなかったら本当に不味かったなぁ。
ちなみに優子さんはあの後病院に運ばれた。幸い、気力を失っただけで後遺症などの恐れはないらしい。しかし、試験が受けられず、Fクラスに行くことになってしまった。僕は優子さんのお見舞いで一日分の試験を受けられず、その影響でFクラス行きになってしまった。そうそのせいなのだ。決して!決して僕は馬鹿なのではない!
ところでなんだけどやっぱりあの子、どこかでみたような…
「あの、坂本くん?」
おっと。現実逃避もここまでにしよう。雄二の自己紹介か。
「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことはなんとでも呼んでくれ。」
Fクラスの代表といえど、所詮はバカばかりのクラスの一位だ。他のクラスからすれば、所詮バカの一員だろう。クラスメイトからは注目されていない。
「みんなに一つ聞きたい。」
しかし聞き方がうまく、次第に生徒の注目が雄二に集まる。
雄二はカビ臭いこの教室から汚れた座布団や卓袱台を見渡す。
そして1テンポ待った後、切り出す。
「Aクラスはどうやら冷房完備にリクライニングシート付きらしいが、」
「ー不満はないか?」
「「「「「「「大アリじゃっっっっっっっっ!!!!」」」」」」」
バカどもの渾身の叫び。
「だろう。俺だってそうだ。代表として問題意識もある。」
『そうだそうだ!』
『いくら学費が安いからってこの待遇はあんまりだ!!改善を要求する!!』
『Aクラスだって学費は同じだろ!こんなのもはや差別だ!』
『妹紅さん、付き合ってください!』
周りから爆発する不満の声。一人のラブコールは置いておくとして、その中で落ち着いて座る妹紅さん。耳を抑える秀吉。うん、二人ともとても可愛いな。
「どうした、明久。」
「え?いや、ただちょっと可愛いな、と思っただけで….」
「へ?明久、少しは嘘を学べ!正直に何もかも話すな!」
「え?あ、はい。すいません?」
「いいから前見てろ。」
「あ、うんそうだね。」
ちょうどそろそろクラスも不満の波から外れて静かになった頃、雄二は言葉を続ける。
「みんなの心はよくわかった。そこで、」
クラスの反応が気に入ったのか、不適な笑みを浮かべ、言い放つ。
「代表として提案する。
ー我々FクラスはAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う!」
坂本雄二、Fクラス代表の男はこれから一年、この学校を巻き込む戦争の引き金を引いたのだった。
バカテスト 英語
問 以下の英文を和訳しなさい
[We were going to the moon by using our rockets.]
木下優子の解答
[私たちは所有しているロケットで月に行った。]
教師のコメント
『所有している』という表現は意訳としてとてもいい表現だと思います。
土屋康太の答え
[私たちは ]
教師のコメント
訳せたのはweまでですか。
吉井明久の答え
[ウェ うぇれ ごいng ここ日本語になりません。問題が間違っていると思います。]
教師のコメント
これはローマ字ではありませんし、間違っているのはあなたの頭の構造です。
藤原妹紅の答え
[私たちはレミリアたちのロケットで月に行った。]
教師のコメント
転校生の藤原妹紅さんは英語が苦手なんですね。それからAクラスにいるレミリアさんの名前を知っていたとしてそうやって答えに書かないように。
レミリアス・カーレットの答え
[去年私の館の者が作ったロケットでみんなで月に行った。]
教師のコメント
妹紅さんには10点加点しておきましょう。
ー
Aクラスへの宣戦布告。それはこのFクラスには正直現実味に欠けた提案と言わざるを得なかった。
『勝てるわけがない』
『これ以上設備を落とされるなんて嫌だ。』
『妹紅さんと慧音先生さえいればあとは何もいらない。』
そんな悲鳴がクラス中から上がる。
それはもう明確なぐらいのFクラスとAクラスとの戦力差が原因の一端だった。
「なあ明久、そのお前らが言ってる「戦争」ってなんのことだ?」
隣の妹紅さんが急に聞いてきた。
「ん?あ、それはね…」
文月学園のテストは4年前から形式が変わって上限なしの速解き方式になっている。
一時間の間に解けるだけの問題を解いてその点数を競い合うのだ。
と言ってもただ純粋に競い合うのではない。
科学とオカルトと偶然によって生まれた『試験召喚システム』というものがあり、テストの点数を戦闘力に反映した『召喚獣』というものを召喚し、それで競い合う。それが試験召喚戦争だ。
「というわけなんだ。」
「へぇ。」
理解したのか少し考え始める妹紅さん。そしてサラッと言い放つ。
「じゃこのクラスは絶対にAクラスには勝てねえな。」
「うん…まあそうなんだけどさ。」
ちょっとぐらいオブラートに包んでもいいんじゃないですこと?
AクラスとFクラスの得点差はそれこそ天と地の差だ。Aクラス一人でFクラスの人員を4〜5人は倒せるのかというぐらいには差が開いている。
そんな絶望的なのだと、
だというのに、
「そんなことはない。必ず勝てる、いや、俺が勝たせてみせる。」
この男雄二はこうも無責任なことを言い放つ。
『何を馬鹿な』
『できるわけはないだろう。』
『一体どこにそんな根拠が。』
否定的な意見が教室中を飛び交う。
みんなの思っている通り、普通に戦ったとて勝ち目はないだろう。雄二もそんなことはわかっているはず。
「根拠ならあるさ。このクラスには勝てる要素が揃っている。」
ダニィ!?とクラス中の皆がざわめく。
根拠、と言っても、ここ…最下位クラス、Fクラスだよ?
「それを今から説明してやる。」
雄二はいつもの不敵な笑みを浮かべる。
「おい康太いつまでも留学生のスカート覗こうと畳に顔つけてないで前に来い。」
「・・・・・・・!!(ブンブン)」
「あ?」
必死で顔や手を振り、否定しようとする康太。
妹紅さんが一瞬だけすごい殺気を出す。それを察したのかゆっくりと壇上に向かう康太。
というかすごいな。まるで気配がわからなかった。その才能を他に活かせばいいのに。
「土屋康太。こいつがあの有名な寡黙なる性識者(ムッツリーニ)だ。」
「・・・・・・・!!(ブンブン)」
土屋康太という名前はそこまで有名ではない。でもムッツリーニという名前はとても有名だ。その名前は男子に畏怖と畏敬を、女子には軽蔑の目を向けられる。
『ムッツリーニだと・・?』
『馬鹿な・・・奴がそうだとでもいうのか?』
『だが見ろ、あそこまで明らかなのぞきの証拠をいまだに隠そうとしているぞ』
『ムッツリの名に恥じない行為だ』
「なあ、明久、あいつ殺してもいい?」
「ダメだよ!?」
というかその殺気を抑えてください。
どうやら妹紅さんは割と喧嘩っ早いタイプのようだ。
「今こそいないが、木下優子もいる。あいつはうちの対Aクラスの主戦力だ。」
『そうだ、俺たちには優子さんがいるんだ。』
『彼女ならAクラスにも引けを取らない。』
『木下姉妹さえいれば後は何もいらない。
今度は木下さんたちにラブコールを送っているな。
「その妹の木下秀吉だっている。」
「妹じゃない!」
木下秀吉、勉強の方面でこそ、あまり名前を聞かないが、他のことに関してはとても有名だ。演劇部のホープであることとか、その男性人気とか。
「それから俺も頑張る。」
『確かになんだかやってくれそうだ。』
『坂本って神童と呼ばれてたんじゃなかったけ。』
『それじゃあきっと体調不良だったんだろうな。』
『つまり実力Aクラスがふたりいるってことか!?』
行けそうだ、やれそうだ、士気が上がっていった。
「それに吉井明久もいる。」
・・・・・・シン
士気が一気に下がる
ちぃっ、僕はオチ扱いか!
雄二もなぜここで僕の名前をあげた!
「ちょっと雄二!どうしてここで僕の名前を呼ぶのさ!その必要はないよね!」
『誰だよ吉井明久って』
『聞いたことねえな』
「ほら!せっかく上がりかけた士気が下がりかけたじゃないか!ってなんで僕を睨むの!」
まぁ、僕の正体はそんないいものじゃない。だから知らないなら知らないでいい。それで上がったムードが下がるのはごめんだ。
「そうか。知らないならおしえてやろう。こいつの肩書きは『観察処分者』だ。」
あ。言っちゃった。
『それって確か、バカの代名詞じゃなかったっけ。』
クラスの誰かがそんな致命的なことを言う。
「ち、違うよっ!!ちょっとしたお茶目な16歳につけられる名前で!」
「そうだ。バカの代名詞だ。」
「肯定する「トンッ」・・・・へ?」
雄二の横を何かが通り過ぎて黒板あたりに刺さる。あれ、チョーク?
幸い他の人には見えなかったらしい。
一体誰が…
「か、観察処分者と言うのは正確にはちょ、ちょいと問題のあった生徒にか、課せられる処分みたいなもんでな、まぁ、具体的に言えば教師の雑用係だな。力仕事の、そうだな。たとえばサッカーのゴールや教科書を運んだりすることだ。」
そう。そしてそのために観察処分者の召喚獣には特別な仕様を持っている。他の召喚獣とは違い、物体に触り、動かすことができる。と言っても特別便利なわけでもない。何せ召喚獣は教師の承認下でないと使用できないからだ。つまり教師が使いたい時だけ、僕を呼び、僕が作業する。そこに僕のメリットなんてない。教師が見ているのに召喚獣で何かできるわけがないからね。
しかもなぜかわからないけど、物体に干渉できる代わりにその感覚、特に痛覚が強く共有してしまう、『フィードバック』が発生してしまう。そのため重いものを持ったらその痛みや疲労は僕に返ってきてしまう。これじゃあもう罰みたいなものだ。
だから『観察処分者』。ペナルティみたいなものだ。学習意欲に欠ける生徒に与えられる。それがバカの代名詞たる所以だ。
『おいおい、観察処分者ってことは、試召戦争でやられると本人も苦しいってことだろ?』
『だよな。それは一人召喚しづらい奴がいるってことじゃないのか?』
うん。まあその通りなんだよね。
「気にすんな。どうせいなくなってもいいような雑魚「キンッ」いや、その代わり操作に慣れているから、戦う以外でできることがある。そ、そうだな?」
「あ、うん。そうだね。」
どうやら誰かが雄二を殺そうとしているらしい。
なので、僕もふざけず答える。
というかここで擁護しないとマジで雄二が死ぬ。
「ま、まあ!ともかく、まずはDクラスを征服しようと思う。」
雄二の渾身の話題逸らし。
「この境遇には大いに不満があるだろう!」
『当然だ!!!』
「ならば全員ペンを取れ!出陣の準備だ!」
『おおーーーー!!!』
「俺たちにふさわしいのはちゃぶ台などではない!Aクラスのシステムデスクだ!」
『うおおおーーーーー!!!!』
クラスの雰囲気が一気に盛り上がる。さすが雄二。こう言うことに関しては相変わらずプロ級だ。
「あの人、随分と人を動かすのが上手いのね。」
横で妹紅さんつぶやく。
「うん。あいつは昔から何かと人の上に立つことが多いんだ。」
「ええ。彼からは紫とどこか似たような匂いを感じます。」
ゆかり?
「ダメだよ妹紅さん、いくら雄二が蛆虫レベルだからってふりかけに例えるのは…」
「….明久、あなたは後で紫から手酷いお仕置きを喰らう事になるわよ。」
え?この世界にはそんなふりかけがあるの?
「ま、まあそんなことより!妹紅さんは勉強に自信ってあるの?」
留学生ってことはやっぱり英語が得意なのかな?
「得意だな。そもそも、慧音と一緒に住んでいるようなものだもの。いやでも頭良くなるわな。」
へぇ。先生と一緒に暮らしてるんだ。
「じゃあ、なんでFクラスにきたの?」
「あ、いやそれは、」
妹紅さんが顔を赤くして少し目を伏せる。
ん?なんかあったのかな?恥ずかしがっている?
「おい、あんまイチャイチャしてんじゃねえぞこのブサイク。」
不意に上から男の声が降ってくる。
「なんだよ、雄二。」
「いや、ちょっとお前にはDクラスへの宣戦布告の使者になってもらおうと思う。」
ん〜なんかこの雄二の顔、何か企んでいる気がしてならないな。
「何企んでいるの?今度は。」
「企む?そんなことを言うな。俺はお前にしかできない重要な大役を任せようと言うんだ。これはクラスにおける栄誉だぞ。」
この口遣いからして明らかに何か企んでいるな。ま、あえて突っ込んでみるか。
「はぁ、まぁいいけどさ。」
僕はそうしてFクラスの扉をあけ、Dクラスへと向かった。
「どうもー!Fクラスでーす!我々はDクラスに宣戦布告しまーす!」
「帰れボケーーー!!」
*
さて、今頃明久はDクラスから攻撃を受けていることだろう。
そんなことより、今やるべきことは…
「おい、藤原。ちょっといいか?」
「なんの用だ?暴言吐きゴリラ。」
「俺の名前は坂本雄二だ。それより、一つ、いや二つほど聞きたい。
本当はあいつとはどういう関係なんだ?あの先生も関係がありそうなものだが…」
「私は、明久の幼馴染だ。それ以上でも以下でもないさ。」
即答だった。その瞬間、クラス中が湧く。おそらくこいつらはこの留学生がフリーなのかどうか死ぬほど気にしていたのだろう。
「まあ、わかった。じゃあ次に、お前の成績はFクラス並みなのか?そうなのかどうかでだいぶこの後の戦争においての勝率も変わってくる。詳しく教えてくれないか?」
前の留学生は黙り込む。こいつもこいつでだいぶ素性が謎だ。よく考えてみるとこいつは一体どこからの留学生なのか。髪の色など見た目だけなら大和撫子とでも言うべき生粋の日本人だ。
….にしても明久のやつ遅いな。Dクラスの奴ら、まさか拷問なんかしてないだろうな。なんだかんだで利用価値のあるやつだから死なれるのは困るのだが。
「分かった。少しだけならな。」
前の留学生がようやく返事をいう。そんなに考えなければならないほどの成績だったのか?
「私は..」
その瞬間、ドアが勢いよく開く。そして、
「雄二ーーーーー!!!」
バカ(明久)が入ってきた。
*
「ぐえっ」
「がはっ」
「げぶっ」
前からくるDクラスの男子たちを処理していく。怪我しないように加減するのがとても難しい。
そして誰も襲ってこないのを確認すると、クラスの隅っこに固まっていた女子たちと時刻について話し合ってから、走って自分のクラスに戻った。
ー
「今のってF クラスの吉井明久でしったけ?」
「確か、『観察処分者』の…」
「観察処分者?ってことはバカじゃない。」
「でも戦ってる姿がかっこよかったわよ。」
「顔もそんなに悪くはないし」
「物腰も良かったわ。」
「Fクラスならそうそう目をつけないだろうし、狙ってみようかしら。」
「先駆け禁止よ!」
そんな会話が流れていたのは知る由もなかった。
ー
「雄二ーーーーーー!!!!」
ドアを勢いよく開ける。建て付けが悪いとか知らん!今はこの悪友に一つ言ってやらんと。
「よくもあんなところに送り込んだな!おかげでこちとら危うく怪我するところだったぞ!」
「お?無事だったか。よかったよかった。(ちっ、つまんねえな。)」
小声で言った言葉が聞こえないとでも思ったか?
やっぱりこいつは僕の友人などではなく、ただの『敵』だ。
「(やっぱここでやっとくか。)」
「あ、それはやめてくれ。俺かて命が惜しい。」
一瞬で後退りする雄二。ちっ。命拾いしたな。
「ん?妹紅さんと雄二は何を話してるの?」
なんか雄二が妹紅の前に来てた。まあ妹紅さんのことが気になってもしょうがない。美少女だからね。
「あ、いや。ちょっと話してただけだ。」
「ふーん」
まあ、雄二なんか妹紅さんから相手にもされないだろう。相手にするまでもない。
「そんなことよりミーティングをやるぞ。こい。明久、島田、秀吉、康太。」
さっさと廊下に行く雄二。あれ?よく考えてみたら詫びの言葉は無し?
「ほら、さっさと行くわよ。明久。」
そう言って僕の腕を掴んでくるのは島田美波。僕によく暴力を振るおうとしてくるよくわからない女の子だ。
「わかってるよ。だから離して。」
手を振り払う。すると、島田さんはなぜか怒って、
「何よ!吉井のくせに!」
と言ってどこかへ行ってしまう。うーん、本当になんなんだろう。
「お主も大変じゃな。」
そう言ってくれるのは僕の嫁(僕呼び)の秀吉。
「・・・・・行くぞ。」
そう言ってスッと扉に向かうのは僕の友人のムッツリーニ。彼の動きは忍者も真っ青の素早いものだ。正直僕も今少し怖かった。
二人に続いて僕も行こうとした時、後ろから背中を叩かれる。
「どうかした?妹紅さん。」
手の主、藤原妹紅さんは少し不機嫌そうな顔で言う。
「私もついていっていいか?」
なんて真面目なんだ!試験召喚戦争のことなんて露ほども考えておらずゲームをしているクラスメイトとは大違いだ!
「僕はいいけど…雄二が許すかなぁ。」
「そこをなんとか、できないか?」
まあ、なんとかなるかな。
「まぁ、いいんじゃない?」
その瞬間妹紅さんの顔がパァっと明るくなる。うおっ、な、なんだこれは!?ゲームでしか見たことのないような顔だ!まさか現実でお目にかかれるとは…
「ところで、明久、ミーティング、とやらはどこでやるんだ?」
「ん?それはね、屋上だよ。」
「へぇ。そうなんだ。」
屋上に着く。すると、
「遅いぞ、明久。…って、藤原も来たのか。」
雄二は少し不満げな顔で僕をみる。
「う、うん。ま、まぁ、でもいいんじゃない?」
「あ〜まぁ、今更いいか。この話をDクラスに流さないならいいだろう。」
ふぅ。正直許してくれるか五分五分だったからよかったよかっった。
「大丈夫だ。私はただ、明久のことが少し心配だっただけだからな。」
そして僕の横に立つ。
こうやって並んでみるとわかるけど結構背が高いな。これなら確かに留学生って感じがするなぁ。
島田さんからすごく睨まれている気がするが、気のせい、だよね。気のせいだと信じよう。そうしよう。やっぱり彼女、僕のこと狙ってるんじゃないかな。物理的に。
「さて、明久、宣戦布告はしてきたよな。」
「はいそれはもう、大々的に。一応今日の午後だと。」
「OK」
「つまり先に昼食を食べてからじゃな。」
「そうね。」
「明久、今日の昼ぐらいまともなもん食えよ。」
「そう思うならパンぐらい奢ってくれない?」
「やなこった」
気持ちだけでも僕はありがたいと言うのに。
「ちょっと待て。明久って、昼ごはん食べてないのか!?」
妹紅さんが聞いてくる。
「いや、まあ食べてないと言うわけじゃないよ?」
「・・・・あれを食べているとは呼べないんじゃないか?」
雄二の横槍が入る。
「いや、一応必要な栄養源は摂取しているよ。」
「人間は水と塩だけでは生きていけん!」
雄二から手痛いツッコミが入る。ふっ、しかし甘いぞ雄二!
「きちんと砂糖だって食べているさ!」
「「それは食べるとは言わねーー!!」」
雄二と妹紅さんが同時に叫ぶ。どわっ、うるさっ!というまもなく、妹紅さんがおもむろに、
「明久、」
と低い声で言う。
「は、はひ。」
「お前の、」
「お、お前の?」
「お前の生活はこれから私が管理するっ!!!」
唐突に大声で爆弾発言をした。
しかし、本人はその自覚がないのか、僕に向かって語気荒く説教をしてくる有様。しばらくその場は収拾がつかず、ミーティングは昼休みに延期となった。
*
昼休み。それはほとんどの生徒にとっては友達や彼女彼氏とお弁当などを食べ合う至福の時間だろう。そう、ほとんどの生徒にとっては。
僕は違う。僕はいつも通り家から持ってきた天然水と塩、それから砂糖の入った袋を持ってくる。
それはまるで砂利のような感触で僕の口内を甘辛く染め上げていくようで….
「おい、明久、泣いてねえで会議の続きをやるぞ。」
「え?何ー?あんまりよく聞こえなーい。」
あれ?おかしいな。これじゃ塩水が逃げちゃうじゃないか。
「相変わらずお主は粗末なものを食っとるのう。」
「・・・・戦時中の様。」
「もう、ほっといて…」
二人の優しさが今は、痛いよ。
「ともかく、今はDクラス戦について考えるぞ。」
…こいつは本当に友達なのだろうか。秀吉とムッツリーニの二人に比べてあまりにも優しさのかけらも感じられない。
「雄二、ひとつ気になっていたのじゃが、なぜDクラスなんじゃ?段階を踏んでいくのならばEクラスが先じゃろうに。」
「・・・・・確かに。」
「そうね。確かに言われてみたら謎だわ。」
「それについては考えがあってのことだ。」
雄二は鷹揚に頷く。
「どんな考えなの?」
どうせ碌でもないことだろうけど。
「色々理由はあるが、Eクラスを攻めない理由は簡単だ。戦うまでもない相手だからな。」
「え?でもクラスはEクラスの方が上だよ?」
成績でクラスが分けられてる以上、Eクラスの方が成績が高いのは普通のことなのに。
「ま、振り分け試験の時点ではそうだっただろうな。でも明久、お前の周りのメンツをよくみてみろ。」
「え?んーっと、」
周りの人を見回す。今、妹紅さんはいないので、えーと、この場には…
「美少女が一人とブサイクが一人、バカが一人にムッツリが一人いるね。」
「誰が美少女だと!?」
「ええっ!?雄二が美少女に反応するの!?」
「・・・・・(ポッ)」
…… どうしよう。どこからつっこんだらいいかわかんないや。
「まぁ、落ち着くのじゃ。代表にムッツリーニ。」
と、こちらは実際の美少女こと秀吉の言葉。中身は男だけど。
「あ、ああ。そうだな。つまり、だ。ここにいるメンツでとりあえずEクラスとはまともに渡り合える。それに俺らにはあの留学生もいるからな。」
「妹紅さんのこと?」
「ああ。聞いた話じゃ、あいつAクラスに近い学力持ってんだろ?」
「へえ、そうなんだね。」
「それならEクラスなんか正面から粉砕できる。Aクラスが目標の俺たちにはEクラスなんか相手する必要もないってこった。」
?
「それってつまり、Dクラスには正面からじゃきついってこと?」
「ああ。確実とはいえない。」
「じゃあ、最初からAクラスに挑んだら?」
なんでわざわざ遠回りみたいな真似を…
「いや、なんというかこれは初陣だからな。今後の景気付けにしたいじゃないか。それにこれも打倒Aクラスの一環だ。」
Aクラスに勝つための作戦ってことかな?詳しくは知らないけど。
「まあ、負けたら意味ないけれどね。その作戦とやらも。」
「負けるわけないさ。」
僕の心配を一蹴する雄二。
「お前らが俺に協力してくれるなら勝てる。」
勝てるってねぇ、まぁ、やるしかないか。
「いいかお前ら、俺らのクラスは、最強だ。」
なぜかはわからないが、その言葉には不思議な安心感があった。
「いいわね。面白そうじゃないの。」
「Aクラスのものどもに痛い目見させてやろうかの!」
「・・・・・・・(グッ)」
打倒Aクラス、改めて聞くと酷く荒唐無稽な目標の様に聞こえてくる。でも、やってみないと何も始まらない。
せっかく同じクラスになったんだし、付き合ってみるか。
「そうか。それじゃこれから作戦について説明しよう。」
屋上にて、僕らは勝利のための作戦に耳を傾けた。
バカテスト 政治経済
[第四問]
問 以下の問いに答えなさい。
「モンテスキューの作った理論、『三権分立』において、裁判所は唯一( )を持つ重要な機関である。」
木下優子の答え
『違憲立法審査権』
教師のコメント
正解です。よく勉強していますね。
土屋康太の答え
『強制力』
教師のコメント
あなたの答えには何か卑猥な意味がある気がするのは一体なぜでしょうか。
吉井明久の答え
『死神』
教師のコメント
なぜその答えが出てくるのか、ぜひ聞きたいところです。
藤原妹紅の答え
『死者を裁く提度の能力』
教師のコメント
吉井くんはともかく、留学生のあなたまでもがこの様な回答をするとは…最近はそういうものが流行っているのですか?
「…ん?」
明久たちが昼ご飯(?)を食べている頃、木下優子(17)は目を覚ました。
「ここは…」
目が覚めた時、彼女の目に映ったのは見覚えのない白い天井だった。
「病院ね。でもなぜ….」
ここでそこらへんの明久(バカ)なら「知らない天井だ…」などとほざくところで冷静に周りから判断して自分の置かれている状況を冷静に判断する木下優子。
「っ、首が…!」
首から鈍い痛みがするのがわかる。おそらく頭でも打ったのだろうか。となると記憶などに支障が起きてる可能性がある。
「とりあえず自分の状態を確認しないと『オキタカ』、ッ、なに!?」
不意に頭の中から聞きなれない低い声がする。普通の人なら恐怖でパニック状態に陥るだろうが、賢い彼女はすぐ何かしらの可能性に気づく。
そう、それは自分の中に別の「ナニカ」がいる可能性。
彼女は賢い。それゆえにオカルト的な話を信じないように見えるだろうが、そうではない。状況判断の結果を信じる彼女にとって、それがたとえ非現実的なものであろうとも、信じることができるのだ。
「・・・・誰?」
『ワレノコトヲシルヒツヨウナドナイ。ダマッテカラダヲカセ。』
「グッ!」
体の中から徐々に何かが入ってくる。そんな感覚が体を襲う。
「奪われて…たまる、ものっ!」
必死に抵抗する木下優子。しかし抵抗も虚しく、意識は徐々に消えかけていく。消えゆく心に不意に浮かんだのは両親でも、弟の秀吉でもない。
バカな顔をした普通の男の子。
「明久、くん!」
助けを求めた少女の意識は消え、バケモノは動き出した。
*
「吉井!木下たちがDクラスの連中と渡り廊下で交戦になったわよ!」
島田さんが走って告げてくる。
今最前線で戦っているのは秀吉率いる先遣隊で、そことFクラスの中間あたりに、僕が率いる中堅部隊が配置されている。というかなぜかは知らないが、僕は部隊長になっていた。
仕方ないので、僕もこの隊を導かなければならない。
戦闘の基本は情報入手だ。まずは戦場に耳を傾けよう。
『さぁ来い!この負け犬が!』
『て、鉄人!?いやだ!補修室はいやなんだ!』
『黙れ!捕虜は全員この戦闘が終わるまで補修室で特別講義だ!終戦まで何時間かかるかわからんが、たっぷりと指導してやるからな!』
『た、頼む見逃してくれ!あんな拷問耐えられる気がしない!』
『拷問?そんなことはしない。これは立派な教育だ。補修が終わる頃には趣味が勉強、尊敬する人は二宮金次郎といったといった理想的な生徒に仕上げてやろう。』
『お、鬼だ!誰か、助けっーイヤァアアー(バタン、ガチャ)』
よし。状況は大体わかった。
「島田さん、中堅部隊に伝令。」
「ん?なに?作戦?なんて伝えればいいの?」
ここで僕が出すべき作戦などただ一つ。
「総員撤退、と(キラン)。」
「この意気地なし!」
「ゴハァッ!」
殴られた。しかもチョキで、目を。そのうち経験することになるとは思ったけれど、思ったより痛い!
「目が!目がぁぁ!」
「何いってんのこのバカ!臆病風吹かしてんじゃないわよ!」
だからと言って目をつぶすのはやめてくれませんかね!
「いい、吉井。ウチらは木下たち前線部隊の援護部隊なのよ。あいつらが消費した点数を回復している間、耐える役割なのよ。その私たちが逃げ出してどうすんのよ!」
なんてまともなことを…!
「ごめん。僕が間違っていたよ。補修室行きが怖くなって冷静さを失っていたよ。」
「いいのよ。それにこれは戦争だわ。一人だとやられるなら、複数で戦えば補修室行きにはならないわよ。」
確かにその通りだ。
「そうだね!じゃあやろう!
「ええ。行くわよ!」
そして奮っていると、監視役から伝令がくる。
「島田、吉井。全線部隊が撤退したぞ。」
「「よし。撤退だ(よ)」」
うん。やっぱりクラスメイトとはよく気が合うな。
「じゃあ、みんな!逃げるぞー!」
そうして本陣に向かって勇んで走ろうとすると、本陣からも伝令が。
「横田くん。どうしたの?」
「代表より伝令が。」
メモを見ながらハキハキと告げる。
「『逃げたらコロス』」
「総員、突撃ーーーーー!!!!」
気がついた頃には僕たちは全力戦陣へと猛ダッシュしていた。
すると、前方から美少女が歩いてきた。
「明久!援護に来てくれたんじゃな!」
なんだ。秀吉か。いつ見ても可愛いな。
「秀吉、大丈夫?」
「うむ。戦死はまぬがれているものの、点数はボロボロじゃ…」
「なら回復試験を受けないとだね。」
「そうじゃな。全教科を受けている暇はないものの。1、2教科ほど受けて戻ってくるぞい。」
そういって戦線離脱していった秀吉。そして僕たちの部隊に加わる前線部隊。痛々しいことに、悪の教師鉄人によって数が減らされ、今はもう10人も残っていない。
「吉井!試召戦争のルール、忘れてないわよね!教師の担当科目でないと、」
「もちろん!」
島田さんの忠告に威勢よく答える。
「相手の先生は・・・五十嵐先生と布施先生、ね。化学の先生を連れてきたわね。あいつら。」
「島田さん、化学自信ある?」
「全くなし。60点台常連ね。」
Fクラスだなぁ。
「じゃあ、できるだけ学年主任のところで戦う様にしよう。」
「つまり高橋先生のところってことね。了解っ!」
セリフのように先陣の隅っこを走る僕と美波。
これが部隊の隊長と副隊長の姿だ。みんな、見るがいい。
「あ、そこにいるのは、まさか!Fクラスの美波お姉様!五十嵐先生、こっちきてください!」
「ちっ!見つかった!」
美波がDクラスの一人に見つかってしまった。
「まずっ!」
このままだと二人とも補修室送りだ。
こうなったら…
「島田さん!ここはキミに任せて僕は先に行くよ!」
「ちょ、普通逆…」
「現実は非情なんだ!」
「このゲス野郎〜!」
「お姉様、逃しませんわ!」
「くっ、美春、やるしかないのね。」
お互いに見合う。そして、
サモン!
お互いに自分の召喚獣を呼び出す。
美波の召喚獣はまるで小さくなった美波が軍服とサーベルを装備したような姿だった。
対する相手のも自分の姿を少し小さくしたような感じだ。獲物は普通の剣だけど。
「お姉様に捨てられて以来、この時を一日千秋の思い出待っていました。」
「ちょっ、いい加減ウチのこと諦めてよ!」
なんだろう。自分のことじゃないのに背中が震えてくる。
「にしても島田さん、『お姉様』って…」
「いやです!お姉様はいつでも美春のお姉様なんです!」
「ウチは普通に男が好きなの!」
「嘘です!お姉様は美春を愛しているはずなんです!」
「わからずや〜!」
「行きます!」
二人の戦いが始まる。
「「てやぁああー!」」
二人が突進し、(正確には召喚獣だが、)正面からぶつかり合った。
「こ、の!」
「負けませんわ!」
鍔迫り合いが起こる。
「島田さん、向こうのほうが点数が高いんだ!正面からやり合ってはダメだ!」
「わかってるわよ!だけど・・・」
直後、力負けして獲物を取り落とす。
「細かい動作はできないのよっ!」
そのまま勢いで島田さんの召喚獣が押し倒される。
あ、点数。
『Fクラス 島田美波 VS Dクラス清水美春
化学 53点 VS 94点 』
島田さん、サバ読んでる…60点台でもないじゃん。
「お姉様、勝負有りです!」
刀を突きつけられた島田さんの召喚獣。首か心臓をやられたら即死だ。そのまま補修行きとなってしまう。
「補修室行きはイヤァアアー!」
取り乱す美波。気持ちはわかる。僕も補修室は嫌だ。
「補修室?ふふっ。」
ニヤリと笑いながら島田さんの手を引く清水さん。
あのー、そっちは保健室ですよー。清水さん。
「この時間なら確かベッドが空いてますわよね…」
「よ、吉井!助けて!このままだとなんかまずい気がするの!」
うん。僕もそう思う。でも..
「お姉様との邪魔をする人は全員倒します..」
これは無理だ。
「島田さん、キミはいい奴だったよ。」
「逃げないでよ!バカっ!」
「邪魔者は殺します!」
まずっ!
「吉井っ!あぶねえ!サモンっ!」
き、きみは!須川くん!
『Fクラス 須川亮平 VS Dクラス 清水美春
化学 76点 VS 41点 』
須川くんの召喚獣が清水さんの召喚獣を切り伏せる。
おお、清水さんの点数が消耗していたから勝てた。
「島田も大丈夫か?」
「ええ。助かったわ。補修担当のてつじ…西村先生!早くこの危険人物を隔離してください!」
「おお。清水か。たっぷり勉強漬けにしてやろう。こっちに来い。」
『戦死』した美春さんが連れて行かれる。
「お、お姉様!諦めませんわ、無事に卒業できるなどと思わないことですね!」
なんとも危険な捨て台詞と共にさっていく清水さん。危ない戦いだった。
「吉井」
「お疲れ島田さん。とりあえず科学の補充試験を受けてきたら?」
「吉井」
「よし、須川くん。いくよ!まだ戦争は続いているんだ!」
「吉井っ!」
「は、はひぃ!」
「私を、見捨てたわよね?」
「な、なんのことでしょう?」
さすがは戦場だ。殺気がヒシヒシと伝わってくる、後ろの方から。
「「・・・・・・・・」」
気まずい沈黙。一体なんなんだ?
「死になさい!サモ..」
「だ、誰か!島田さんが錯乱!至急本部に連行を!」
「島田、落ち着け!吉井隊長は味方だぞ!」
須川くんが島田さんを止めながらいう。
「違うわ!こいつは敵!あたしの敵よ!」
どうしよう。否定できない。
「ごめん。あとよろしく。」
「あ!逃げるな!ヨシイィいい!殺しやるわヨォおお!」
ヒェー。逃げよ逃げよ。このままじゃ殺されちゃう。
とりあえず少し島田さんから離れる。危ない危ない。本当に殺されそうな雰囲気だったなぁ。
「よし。とりあえず島田さんや秀吉が補充試験を受けている間前線のキープをしないと!」
「吉井隊長!横溝がやられた!布施先生側はもうあとふたりだ!」
「五十嵐先生側は俺だけだ!援軍を頼む!」
「藤堂の召喚獣がやられたらしい!助けてやってくれ!」
くっなぜか劣勢だ。
本軍に援護を頼むわけには行かない。なぜかというと『作戦』
のための人材が減ってしまうからだ。
「布施先生の方はやられないように防御に徹する、五十嵐先生の方は総合科目の人と交代しながら効率よく戦って!藤堂くんの方は…諦めよう!」
『了解!(ラジャー!)』
とりあえず陣形を組む。少なくとも指示には従ってくれるから、そこは幸いだ。
「Fクラス!明らかに時間稼ぎをしてやがる!」
「何を待っているんだ?」
あ、まずい。気づかれたかも。
「大変だ!Fクラスが世界史の田中先生が呼ばれたと斥候から!」
「世界史!?まさか、長期戦に持ち込むつもりかFクラスの奴ら!」
偵察部隊にバレたみたいだ。
田中先生は採点が甘いからFクラスの僕らにとっては都合がいい。
いつもなら僕にとっても都合はいいんだけれどなぁ。今回はねぇ。
「吉井、Dクラスは数学の木内を連れ出したみたいだ。」
島田さんを送った須川くんが戻ってきて言う。
まずい。数学の木下先生は採点が厳しい、上に早い。一気にケリをつけられてしまう。
こうなったら…
「須川くん…」
「なんだ?」
頭を使わないと。このままだと一対一に持って行かれて負けてしまう。妹紅も何故か居ないし、ここで踏ん張らなきゃ!
「誤情報を流してくれないかな?」
「誤情報?やめた方がいいんじゃないか?Dクラスの前線の塚本は声がでかい。すぐバレるぞ。」
「いや、それは大丈夫。相手はDクラスではないからね。」
「とは?」
「先生たちの方だよ。他のところに行くようにして欲しいんだ。」
「なるほど。それは効果的だな。」
「でしょ?」
「わかった。誤情報に関してはこっちがやる。必ず騙そう。」
「よろしく!」
須川君は活き活きと放送室に向かって行った。こう言うのが好きなのかな?なんとなく嫌な予感がするけど…
「僕らは1対1では勝てないからね!コンビネーション重視で!」
『チッ!このままじゃ埒あかねえ!』
『少し待ってろ!船越先生も読んでいる!』
拮抗した状態を打破するべくDクラスが船越先生(45歳♀独身)を呼んだらしい。正直これはFクラスにとってとてもまずい状況だ。おそらく採点者としてではなく立会人として呼ばれたはずだ。これ以上戦線を拡大されるわけには行かない。
僕も出なきゃかもしれないなぁ。
と、思ってなんかいると、
ピンポンパンポーン
《連絡いたします》
お!須川くんやっとか!ファインプレイだよ!
《船越先生、船越先生》
しかも呼び出す先は今の戦いの渦中の船越先生。よくわかっているじゃないか。
《吉井明久くんが体育館裏で待っています。》
・・・・・ん?須川くん?
《生徒と教師の垣根を超えた男と女の大事な話があるようです。》
いったいなんてことをしてくれているんだ!須川くん!まさか船越女史となんて…!噂では生徒に手を出そうとしているとかいうし…このままだと船越女史の足止めに僕の貞操を出すことになりそうだよ!
《繰り返しま、ゲヘッ!ガハッ!》
ん?一体なんだ?
《えー伝え間違えました。この放送はこの生徒が照れ隠しでやったものです。船越先生は体育館裏ではなく、この放送室に来てください》
普通ここで須川くんを呪うべきなのだろうが、なぜか僕はそれよりも哀れみの方が上回ってしまった。
ところでさっきの声誰だったんだろう。なんかどこかで聞いたことがあるような、女の子?の声だよね。
まあ、なんにしても助かったよ。ありがとう!見ず知らずの誰かさん!
「いや、マジで須川さんすごいわ。」
「男だよ、アンタ。」
Fクラスの同志たちからそんな声が聞こえてくる。
「Fクラスの奴らすげーよ。」
「そこまでしても勝ちにこだわれんのか。」
Dクラスからもそんな声が。もう、やめてあげて!須川くんのH Pはもう0よ!
改めてどこの誰かかも知らない女生徒さん、本当にありがとう、助けてくれて。僕はこの待遇に耐えられるような強い精神はしていないよ。
「みんな!須川くんの犠牲を無駄にせず、突き進んでいこう!」
「おおーーーーー!!!」
(お前らいつかぶっ殺してやるーーー!)
今何か聞こえた気がする。
*
「よし。」
「ようやく終わったか。」
「これは多すぎだ。」
「とにかくこれ、採点しとくからな。もう点数自体は反映されているはずだから早よ行ってやれ。」
「ああ。明久はどうせまた何か面倒なことに巻き込まれているだろうから、私が助けてあげないとな。」
「ふっ相変わらず世話焼きね。それとも、女として、助けたいのかな?」
「なっ、そういうお前こそ本当は心配で試験の合間に様子を見ていたくせに!」
「な、何を!」
ピンポンパンポーン
《例の放送》
「「…..は?」」
「…..慧音、放送室とやらがどこにあるか教えろ。燃やしに行く。」
「待て、ここは私が」
《例のアクシデント》
「ん?これは、」
「あの連中か?おそらく◾️◾️◾️あたりだろうな。」
「授業はサボらないように伝えておかないとね。」
「まぁ、じゃあ懸念事は無くなったわけだから行ってあげな。きっとさっきのことのせいで少し精神もやられているはずだしな。」
「ああ。ただあの生徒は燃やす、必ず。」
「その時は私も呼べよ。」
*
「ふう。ええ。こちらは無事終わりました。ええ、はい。このゴミはそのふなこし?とやらに任せます。はい。すぐに授業に戻ります。お嬢様。」
ツー
「はぁ。このゴミ、まさか明久に手を出すとは。私がいてよかったわ。もちろん本当は私もいますぐ八つ裂きにしたいけれど。お嬢様に任せたらすれば何が起こるか。ある意味運が良かったわね。」
*
「工藤信也、戦死!」
「西村雄一郎総合残り40点です!」
「森川が戻ってねえ!やられたか!」
くっ流石に戦力差が響いてきたか!これでもとは18人いた僕の部隊ももう5人だ!
「本陣からの応援はまだなのか?」
「何があったのかわからないのか、全然きてくれないんだ!」
「このままだと全滅だ!」
…仕方ない。
「サモン!」
ぽんっと飛び出してきたのは白衣を纏い木剣を持った僕の小柄な姿だ。平たく言えば僕の召喚獣だ。
「勝負だっ!」
『 Dクラス 鈴木一郎 VS Fクラス 吉井明久
数学 92点 VS 43点 』
うん。やっぱり点数が低い。正直圧倒的だ。
「吉井覚悟ーー!!」
あーあ。あんまり実力見せたくはなかったなぁ。
でも、まぁ流石にこのままだと負けちゃうからね。
「ほっ」
「へっ?」
『 Dクラス 鈴木一郎 VS Fクラス 吉井明久
数学 27点 VS 43点 』
「僕は負けない。」
「…..い、一体何が?」なんていうような技に見えるだろうが、やったことはそんなに難しいことではない。ただ近づいて斬っただけだ。ただ、僕と他の違うところは、観察処分者の僕は他の人たちより少し召喚獣の細かい動きができるというただその程度のことだ。
「え、お、おい!一体何が…」
「ごめん。今僕は一人でも多く倒さなくちゃいけないんだ。じゃあね。」
一撃で倒す。相手はさっきの打ち合いで何があったのかもわからないままやられていった。
さて。次、と行きたいところなんだけど….
「な、なんだあいつ!?」
「総員!今イモってる一人は無視!あいつ、あのバカっぽいやつを狙え!」
「知ってた…って、誰がバカだ!」
Dクラスの前線組4人ほどが僕の召喚獣を包囲する。
相手の点数は…高いな。前のやつが85点、そこから時計回りに91点、104点、84点、か。うーん流石にこの人数は、きついな。
前の召喚獣が槍を伸ばしてくる。飛んで避けると、右から斧が振られる。それを木刀で止め、そのまま大きく飛び上がり、後ろと左の召喚獣の剣を避ける。
「なにっ!?」
「ほっ」
前の召喚獣の眉間に木刀を落下しながら叩き込む。よし。これで57点。
「くらえーっ!」
「あ、やばっ!」
間一髪のところでしゃがみ、距離を取る。まずい。掠っちゃった。
残り点数は、27点か。にしても掠っただけでこれか。直撃だったら一発だな。
召喚獣は攻撃力の他に防御力や速さなんかも点数に比例する。なので、点数差が酷いと一発でも大きいダメージが出る。
さっき当たったのは、脇腹あたりかな?少し痛みがする。
そんな事を考えている間にも敵は待たせてくれはしない。
とりあえず前の召喚獣を狙うも、さっきのダメージのせいで動きが鈍ってしまっている。
「てりゃぁああ!」
「くっ!」
左からの剣を返すも木剣が弾かれる。
「「「くらえっ!」」」
「まずっ!」
三方向からの剣戟を避けるも一人の剣の先っちょが肩に入る。
「グッ!」
やばい!点数が….!
『 化学 Fクラス 吉井明久
2点 』
終わった。完全に瀕死だ。五体満足に残ってはいるもののこのままだとかすり傷で死んでしまう。点数が残っていないから最初に一人倒したみたいに無茶もできない。
「ふう。少しやられたが、これで終わりだ。」
「ちょこまかと!」
「確実に仕留めろ!」
三匹の召喚獣が飛びかかってくる。
ここで、やられたら、!前線が崩壊しちゃう!
負けて…しまう!
「クソォぉぉ!!!」
「「「もらったーーー!!」」」
「明久に触るなゴミどもーーー!」
ん?
な、何が起きた?
「大丈夫か?明久。」
へ?その声って…
「妹紅さん!?」
「ああ!」
「助かったよ、ありがとう。妹紅さん。」
「いや。むしろ遅れてごめんな。」
「にしてもさっきはすごかったね。あの一瞬で四人持ってくなんて。」
「ああ、まあ、あんだけ点数差ついてりゃなぁ。」
「あーまあ、それは、確かに。」
うん。あれは完全に事故みたいなものだ。
まさか、妹紅さんがあんな点数を取っていたなんてね。
ー
「明久に触るなゴミどもーーー!」
「な、何ぃ!?」
謎の乱入者の攻撃で三匹の召喚獣が吹き飛ぶ。全員の召喚獣の点数が0となる。
「大丈夫か?明久。」
「妹紅さん!?」
『 化学 Fクラス 藤原妹紅
352点 』
「って何その点数!?高!」
え?何?350点って。Aクラスみたいな点数じゃん。
「いや、あの、その。慧音、先生に事前に勉強を教えてもらってな。」
「あーなるほど。」
あの美人先生に教えられたなら一瞬で解けるようになりそうだ。
ー
「でもこれだったら普通に勝てちゃうんじゃないかな?妹紅さん一人で。」
「まぁ、備えておくのは大事だろ?一応補給試験受けてこい。」
「あ、うん。そうだね。」
ん?あれ?
「じゃあ、妹紅さんはどうするの?」
「私は…」
その十数分後、試召戦争は終わりを告げた。相手の代表を討ち取った者の名は、
「藤原妹紅、か。」
戦争はまだ続く…
*
「私は、少し敵情視察してくるよ。」
「あ、そう。でも無理はしないでね?」
私は明久にそう伝えて、明久と別れる。
さて、そうは言ったものの私はただの敵情視察をするつもりはない。明久も点数が減らされているし、私はこの後、ある用事もあるから、早めに終わらせなきゃならないしな。
「ここで終わらせるか。」
妹紅は召喚獣を走らせた。
「ぐわっ!」
「がはっ!」
「なんだあいつは!」
「本当にFクラスなのか!?」
「先生!Dクラス鈴木一郎行きます!サモン!..グハァッ!」
「鈴木ぃーーー!」
「ば、バケモンだ!あいつ!」
「塚本も出ます!サモンッ!グハァ!
「クソッ!もう10人以上やられた!」
「本陣からの支援はまだなのか!」
「このままじゃ崩壊するぞ!」
「はぁ。まだまだ慣れねえなぁ。召喚獣って動きトロイからいつもと違くてまだよく理解できてないんだよなぁ。」
いやー。にしても敵よく溶けてくなー。森の低級妖怪みたいだ。
「グハァっ!」
「戦死者は補修ー!」
「「「「「「「「「ギャァああああー!!!!」」」」」」」」」
「お?いなくなった。んで、Dクラスってどこだ?」
すると、左の奥二つ先の教室から生徒たちがわらわらと湧いてきた。
「あそこか。」
「囲めー!」
「報告じゃこいつはAクラス並みって話だ!」
「何人でもいい!こいつを落とさなきゃFクラスを落とせない!」
「全力で行け!」
「「「「「「なんでだ!」」」」」」
「さーて次だ次。」
今何人やったかな?20人くらいか?明久から聞いた話じゃ代表やらなきゃ行かないんだっけか?
「たのもー!」
「うわっ!きやがった!」
「中部隊、もうやられたのか!?」
「親衛隊!配備!」
「絶対ここでやるわよ!」
んー。数多いなー。んで、代表ってどいつだ?
「まっ、」
「全部やればいいか。」
「平賀源二、勝負を受けますか?」
「降参します…」
「はい。ではFクラスの勝利です。」
「地獄だ…」
「なんだ、あの女…」
「反則よ…あんなの。」
「でも可愛かったな…」
「というかかっこよかったわ…」
「いったい何者なんだ…」
「さーってと。帰るか。」
あー疲れた。
*
バカテスト 数学I
[第五問]
問 以下の問いに答えよ。
『2xー3=7である時、5xー8の値を求めよ。』
藤原妹紅、木下優子の答え
『17』
教師のコメント
正解です。これは2x=10よりx=5の式を導き出せれば簡単ですね。
木下秀吉の答え
『5』
教師のコメント
惜しいですね。おそらく問題文を読まない癖がついているのでしょう。次からは気をつけましょう。
吉井明久の答え
『だいたい20』
教師のコメント
確かに惜しいですが、数学は正確に値を求めることができます。残念ながらこれでは不正解です。
*
「おーい、雄二ぃ〜」
ん?何しにきたんだ?あのバカ。
「おう、敵前逃亡か?」
「違うよっ!」
「んじゃなんだ?サボりか?」
「補充試験受けにきたんだよっ!」
補充試験?どういうこった?
「部隊ごとやられたのか?隊長のお前がやられたってことはだいぶまずい状況ってことだろ?」
でもそんな報告入ってないけどな。
「うーん、なんというか、ついちょっと調子の乗っちゃって…」
「ああ、なるほど。」
つまり召喚獣出して少し派手に立ち回って警戒されて反撃にあったと。
「バカやったてことだな。」
「僕はバカぢゃないっ!」
あ?急にどうした?
「お前はバカだろ。」
「だから僕はバカぢゃない!」
「まあまあ、落ち着けって。」
「もう…」
さて、と。
「何があった?」
「なるほど、な。」
藤原妹紅、思ってたより使えるやつだったか。
「それで、そいつは?」
「あ、妹紅さんなら敵情視察に行くって言ってたよ。」
「敵情視察か…」
まずいな…いくら300点越えといえども、本陣付近で囲まれたら、戦死しちまう。
呼び戻すか?
「あの、報告です…」
お?忘れてた。
「おう、どんな感じだ?」
「そ、それなのですが…」
?
「あの、Fクラス代表坂本雄二くんはいらっしゃいますか?」
「あ、あれって」
「学年主任の高橋先生だ…」
「いったい何しにきたんだ?」
「戦後交渉はどうしますか?」
は?
「ほえ?」
「おーい、明久ー、戻ったぞー。」
はい?
「「「「「「「はぁ!?!?!?!?」」」」」」」
*
「え?妹紅さん?敵情視察は?どうしたの?」
「ああ、もう終わったよ。」
ケロッとした顔でいう妹紅さん。
「終わった、って?」
いったいどういうこと?
「いや、だから終わったんだよ。戦争。」
はい?
「はぁーー〜ー!?」
「え?いったいどういうこと!?妹紅さんがやったの?」
「うん。」
いやー。いくら352点の妹紅さんといえど、一人で全員倒すことはできないと思っていた、のだけどねー。
「まさか一人で全部やっちゃうとはねぇ。」
すごい、というかもしかして僕より操作の才能あるんじゃないんだろうか。
「ふふん♪」
胸を張る妹紅さん。うん、なんだこの可愛い生物は。
「さすがだな。助かった、藤原。」
「いや。これは明久のためだからな。気にしないでいい。」
ん?僕のため?どういうこと?
「「「「「チッ」」」」」
「ん?どしたの?みんな。」
「明久…察しろ。」
雄二も!?いったいみんなしてどうしたの?
「さて。では、戦後交渉と行くか。Dクラス代表さん?」
「あぁ。」
いやーさすが雄二。
「悪魔みたいな顔してんなー。あいつ。」
「だねぇ。」
本当に雄二は悪魔みたい、というかほぼ悪魔だな。うん。
「明久、後で生爪フルコースな。」
「はい。すいません。なんでもありません。」
くっ!この学校には心を読める奴しかいないのか!?
「さて、あのバカは置いといて話し合いと行こうか。」
「わかった。ルールに則ってクラスを空け渡そう。ただ今日は、」
「待て待て待て待て。」
「は?」
ほえ?
「俺たちはDクラスを奪うつもりはない。」
それが当然のように言い放つ雄二。でも僕には雄二のいうことがよくわからない。
「雄二、どういうこと?設備は少しでも良くしたほうがいいと思うけど…」
「忘れたのか?目標はあくまでAクラスだ。」
いや、まぁその通りだけど…
「でも、それならさっさとAクラスに攻め込めばいいのに。」
周りくどいなぁ。
「おい、明久、よく考えてみろ。」
「藤原のいう通りだぞ明久。そんなんだからお前は近所の中学生に『バカなお兄ちゃん』なんて言われちゃうんだ。」
「なっ、微妙にリアルな嘘をつかないでよ!」
「そうだぞ。明久は中学生ではなくどちらかというと妖精とかチェ…」
「は?妖精?」
「わ!?いや、僕は小学生には言われたことがるけど!?」
「は?て、お前。まじか。」
「…..ごめんな。明久。」
「うん。ありがとう。妹紅さん。でも、もう何も言わないで…」
もう、お嫁に行けない…
「ま、まぁ。ともかく、俺らはDクラスの設備には一切手を出すつもりはない。」
「それは…俺たちには有難いが…本当にいいのか?」
「もちろん条件がある。」
まぁそうだよね。
「一体なんだ?その条件とやらは?」
「いや、たいしたことではない。俺が指示を出したら、あの窓の外にあるアレを動かなくして欲しい、それだけだ。」
雄二が指したのはDクラスの窓の外にあるエアコンの室外機。
でもこれはDクラスのものではない。スペースの関係で仕方なくここに間借りしているー
「Bクラスの室外機か。」
「設備を壊す以上、教師から睨まれる可能性があるが…まあ、悪い取引じゃないだろう?」
悪い取引なはずがない。最悪事故に見せかければいいし、その程度のリスクで3ヶ月間無事でいられるのだから。
「それは、こちらとしてはこれ以上ない願いだが…なぜそんなことを?」
確かにその疑問はもっともだ。正直僕も良くわかんない。
なんでAクラスのじゃなくてBクラス?
「次のBクラスの戦いに必要なんでな。」
「・・・・・・そうか。ではこちらはありがたくその提案を飲ませてもらう。」
「タイミングについては後でまた話す。今日はもう行っていいぞ。」
「感謝する。Aクラスに勝てよ!」
「無理すんなって。勝てっこないって思ってんだろ?」
「まぁ、社交辞令ってやつだ。」
じゃぁ、と言ってDクラス代表、平賀くんは去っていった。
「さて。」
雄二が僕たちの方を向く。
「みんな。今日はご苦労だった。明日は点数の補充で忙しくなるから今日は早めに帰ってくれ。ゆっくり疲れをとってくれ。」
おや?雄二にしては優しい判断だな。
さては何か企んでるな?
「解散っ!」
「でもさ雄二、わざわざエアコンを壊すためだけにDクラスを倒す必要があったの?」
「あーそれなんだがな…」
帰り道、僕と雄二は家の方向が同じなので、よく一緒に帰っている。
「理由は他にもある。クラスの皆を試召戦争に慣れさせるためだとか他のクラスにプレッシャーを与えるためだとか色々ある。」
「ふーん。じゃあDクラスの設備を手に入れなかったのは?」
「目的はあくまでAクラスだ。Dクラスの設備に満足して不満をこぼす奴が出てくるのを避ける為だな。モチベーションが落ちるのはこちらとしては困る。」
「ふーん、色々考えてるんだね。」
こうしてみるとやっぱこいつって馬鹿には見えないんだよね。
神童再びって感じ。
「試召戦争こそが俺がこの学校に来た理由の一つだからな。」
遠い目をしていう雄二。
小さな頃は神童と呼ばれていたらしい雄二。でも、今はその面影もない。本人が言ったわけではないけれど、多分雄二がそうなったのは勉強する目的を見失ったからじゃないのかな?
テストの点数がそのまま召喚獣の力となる試召戦争、策略や体力でAクラスを撃破して世の中勉強が全てじゃないって証明したいんじゃないか、というのが僕なりに考えてみた雄二の目的だ。
「目的のために明久、お前にも協力してもらうからな。とりあえず明日のテストでな。」
「・・・・・げぇ。」
そういえば明日はテストだったけな。結構点数を消費しちゃったからなぁ。多分1日がかりになるだろうなぁ。
「あの教科もちゃんと受けとけよ?お前、あれだけ異様にできるからな。」
「分かったよ。」
全く、今回雄二は教室に引きこもってただけじゃないか!ぐちぐちと…
「じゃあな。ゲームばっかして寝坊すんじゃねえぞ?」
「雄二こそね。」
「ふぅ。相変わらずこの湯は不思議なことに冷たいなぁ。」
不思議だ。風呂というのは暖かい水が出る物ではなかっただろうか。
「でも、今日の妹紅さんすごかったな。僕も見てみたかったなぁ。」
まさか一人でDクラスを崩壊させるとはね、雄二の予想も超えたしまさに前代未聞だよ。
・・・でも僕は彼女のことを何も知らないんだよねぇ。
妹紅さん、彼女は僕のことを「明久」と呼び、親しく話しかけてくれるとても可愛い女の子だ。教室でも、ずっと近くにいて、普通の男子生徒ならとてもドキドキしていただろう。でも、なぜか僕は彼女といても不思議とドキドキとしない、どころか安心感すら覚えてしまう。
この感覚に恐怖を覚えることはないものの、やっぱりわからないのは少しむずむずしてしまう。
「まあ、可愛い女子と一緒にいられるだけで幸せだから別にいいんだけどね♪」
まあ、今分からないものもいつか思い出せるといいな。
ガチャ。
へ?
ドアの方から物音がする。もしかして…泥棒?
「まあ、おかえり貰えばいいか。家に何もないしね!」
取られて困るものなんて、せいぜい財布ぐらいなものだけど、そこにだって入ってるのは5円玉と1円玉が3枚だけ。
あれ?おかしいな。前が滲んでよく見えないや。
「・・しいな、も・・・・か・・て、・・・ちか?」
ふと風呂場の前の扉が開くのに気がつく。え?誰か入ってきた?もしかして泥棒の目的って僕!?
・・・・・何で?
風呂場のドアが開く。
身構えていたものの、そこにいたのは僕の予想していた毛深なおじさんでもなければそもそも男でもない。
「慧音、先生?」
「あ、明久いた。」
・・・・・・・・
「いやいやいやいやいや!何勝手に入ってきてるんですか!?」
「どうした急にそんな叫んで。」
「妹紅さんの時から思ったんだけどあなたたち常識からずれすぎじゃない!?」
「ええ!?ここに住む!?」
「ああ。」
住むって…じゃあ僕の一人暮らしは!?
そうだ母さん!母さんなら何か知ってるかも!
プルルルプルルル
『はーい。』
「あ、母さん!ちょっと聞きたいことがあるんだけれど!」
『おおかたそっちに行った子達のこと?』
「知ってるなら教えてよ!」
『その子たちの言ってることは本当よ。一緒に住んであげなさいな。』
「なんでそんな勝手に…!」
『明久、今回最低クラスに落ちたんでしょ?』
「(ギクッ)」
『一人暮らしを続けたいならちょっとはいい成績を取ってみなさいな。あと早く思い出してあげなさい。その子らが可哀想よ。』
「え、あ、ちょっと待って!」
ツー、ツー。
「・・・・・・・」
「まあ、というわけだ。」
「わっ!って妹紅さん!?」
「よっ、明久。」
あれ?ちょっと待って、てことは?
妹紅さんと、
慧音先生。
「同居ってこと〜!?」
「「よろしくな。明久。」」
拝啓お父様
僕はこの度二人の女性と同居することになりました。
正直嬉しいです。
*
満月の輝く夜の空。そこに一筋の影が映る。
その影は小さい人影のようだが、周りに翼のようなものが広がっているのが見て取れる。
彼女は、小さく
「明久…」
と呟くと影の中に消えていった。
彼女の待ち人が来たるその時まで、彼女は彼と会うことはない。そう約束したから。
しかし、それを破壊するのも限界かもしれない。
彼女は弾けそうになる思いを全て胸の中に押し込め、今日も優雅に空を駆ける。
彼女の進みを邪魔するものはどこにも、いない。
*
「ふっ、はっ!」
山の中に一人、少年がいた。
彼は毎日、夜7時を超える頃にはここに来、5時間ほどぶっつけで永遠にただ拳を振り続ける。ただそれだけを永遠に続ける。そして終われば疲れる体をひきづるように消えていく。
いつしかそれは周囲のものたちにとっては当たり前のものとなっていた。
明日も、明後日も、明明後日も、彼はやって来、ただ拳を振り続ける。そうして半年が消えていった。
「はぁっ!」
「甘い!そこよっ!」
「っ!」
気づけばそこでは毎日のように少年が何かしらのモノと戦う空間へと生まれ変わっていた。
関わる人が増えれば縁も増える。
少年はこれからいろんなものに巻き込まれていくことになるのだが、それはまた別のお話。
*
そして朝、
『アハハハハー』
『マッテヨーアキヒサクーン』
『ゼッタイニガサナイカラネー』
『ヤッチャウヨー、イマヤッチャウヨー』
「待ちなさい吉井ー!」
…どうしてこうなった…
話は10分ほど前に遡る。
「え?明久、朝ごはんも食べないのか?」
「いや?食べているよ?」
「それは食べてるとは言わない…」
僕は糖分(砂糖)と塩分(塩)を食べながら話をする。
うーんこのジャリジャリとした感触が何とも…
「それより、妹紅さんはたべないの?」
「私は別に大丈夫なんだ。」
「大丈夫って、それはダメだよ妹紅さん!っちゃんとご飯は食べないと!」
「・・・・ああそうか、お前は忘れてるんだったな。なんか色々と新鮮な気分だな。」
「?」
「ところで明久、何でそんなに金ないんだ?」
「え?あーそれはなんだけどね…」
まずい。何といえばいいんだろう。説明するには少々事情が情けなさすぎる。それに無駄な心配はかけたくない。
「もしかして部屋の中にいっぱいあったあの棚の何かか?」
「えっ!?」
なんでバレた!?というかなんで僕の部屋に入ってるの!?
「慧音に聞いたら、ゲームソフト?とか言ってたな。」
「あ、そっちね…」
危ない危ない。棚の裏にあるあの聖典のことかと思った。
「あ、そうそう。あれを少し買いすぎてねー!それでお金が足りなくなってたんだー!アハハ…」
ふう。これで誤魔化し切れたかな?
「なるほど…金遣いが荒いのか…じゃあ…」
「あ、やばい。もうこんな時間じゃん。」
そろそろ行かないと遅刻しちゃう。
「妹紅さん、学校行かないと。」
「私が管理…か。嫁みたいだな。」
「こめ?」
「あ、いや!何でもない!そんなことより、そうだな!学校行くか!」
「う、うん。」
少女、少年移動中…
「みんなおは…え?なに?どこに…キャー!」
「明久!?」
なん、なんだ一体!?
「…ん?って縄!?誰が!?って…え?」
何この状況…
周りには黒ずくめの服を着た集団が僕を囲むように、見下ろしている。その様子はさながら異端審問のようだ。
『諸君、ここはどこだ?』
『 『 『最後の審判を下す法廷だ』 』 』
『異端者には?』
『 『死の鉄槌を!』 』
『男とは?』
『 『愛を捨てて哀に生きる者!!』 』
『宜しい。それではこれよりー2ーF異端審問会を開催する!』
…もう一回寝たい…
というか、教室も暗い…いや、これは暗幕か。
どうやら、これは新学期1日目にてサバトの会場と化してしまったFクラス教室のようだ。
『ー罪状を読み上げたまえ』
『はっ須川隊長。』
なるほど。須川くんか。おそらくあの船越先生の件での報復かな?
後でぶっ殺そう。
『えー被告、吉井明久(以降この者を甲とする)は我が文月学年の2年Fクラスの生徒であり、この者は我らが教理に反した疑いがある。罪の罪状は少女の洗脳及び誘拐である。本日朝、甲が同Fクラスの女子生徒である藤原妹紅(以降この者を乙とする。)を誘拐して、学校に来ていたところを我々同士が発見し、確保。その後、甲と乙の関係について充分に調査した後、甲に対して然るべき対応を…』
『御託はいい。結論だけを述べたまえ。』
『女子と一緒に登校していて羨ましかったであります!!!』
『うむ。素直で宜しい。』
うん。清々しいくらい正直で、
今すぐにでも殺したい。
「さて、被告、遺言はあるか?」
「何で遺言!?僕に弁明の余地は残されてないの!?」
というか、その声は雄二!完全に楽しんでやがるな!
「というか、別に僕と妹紅さんはそういう関係じゃないっていうか…」
『ではどのような関係だ?』
「それはもちろん…」
ん?
よく考えてみると僕と妹紅さんってどういう関係だ?
僕は記憶がないけど、昔僕と妹紅さんは一緒にいたって言っていたし、そういう点では幼馴染かも知れない。
でも、それより一緒にいると安心できて、実際一緒に住んでいるしなんというか…
「家族…?」
『結論、死刑。』
『『意義なし』』
「え?何で!?」
周りから黒づくめの集団が迫ってくる。ちょいちょい、君たち。その鎌や鉈一体どこから出したんや。
というか、君たち僕のこと殺す気満々だよね。それ、どう見てもレプリカには見えないんですが…
「ま、しょうがないか。」
縄を抜け出して教室から抜け出す。
そして全力で…
「走れぇぇぇぇー!」
そうして今に至る。
『被告が逃げたぞ!』
『追えー!』
「吉井ー!許さないわよ!」
うん?
「ちょ!何で島田さんまで!?」
「絶対許さないわよ!」
何でだー!
*
「相変わらず、吉井はギリギリね…」
早く来なさいよ。
「まあ、あやつは朝は弱いらしいからのう…」
何で知ってるのよ。
「でも、藤原も来ないのは意外だな。真面目なタイプだと思ってたんだが…」
あの女ね…
「ていうか、結局あの女一体誰なのよ!授業中ずっと吉井にベタベタして!」
正直羨まし…ふしだらよ!
「ああ、確かにな。聞いた話じゃ幼馴染って話だが…」
幼馴染?それなら…
「幼馴染?にしては仲がちと良すぎる気がするのう。」
うん、やっぱりそうよね。
「・・・・・あの新任教師も明久のことをずっと見ていた。」
…はい?
「うおっ!ムッツリーニ!」
へぇ。私を差し置いて二股ねぇ。
吉井のくせに…
「あいつ…殺す。」
「まあまあ、島田。落ち着くのじゃ。」
ガラッ
「お?来たみてえだな。」
「全く…相変わらず遅いわね…」
「じゃのう…」
さて、とりあえず一発…
「みんなおは…え?」
その時瞬間的に2ーFクラスの生徒の脳に電撃が走る。
『なぜ奴がクラスのアイドル妹紅さんと一緒に…?』
『まさかもう付き合っているのか!?』
『許せん!』
へー。
「え!?なに!?」
『もしかしてあいつら二人はすでに…?』
やっぱり…?
「どこに…!?」
『とりあえずしばれ!そして昏倒させろ!』
そういう関係なのね?
「キャー!」
『異端審問じゃー!』
「殺す!」
「・・・・・・地獄じゃ。」
時間は少し経ちまして…
「で、お前は誰だ。というかなんで私はこんなところに呼ばれてるんだ?」
「いえ?ただちょーっと聞きたいことがありまして、ね。」
「すまん、藤原。」
ここは2年と1年の教室の間にある階段…ってそんなことはいいのよ!とにかく私が聞きたかったのは…
「何で吉井と一緒にいたの?」
この女、藤原妹紅は、私の宿敵、吉井明久と一緒に通学してきた。
つまり私の敵。
「まあ、一緒に住んでるからな。」
…はい?
「え?」
「私も慧音も知り合いが明久ぐらいしかいないからな。」
「へ、へぇ?」
つまり同棲ってこと?吉井と?しかも慧音先生も一緒に?へー?ていうかどさくさに紛れて『明久』って…
「風呂とかも入り方教えてもらわなければならなかったもんしな。」
ブチッ
「ちょっと教室行ってくるわ。秀吉、あとはよろしく。」
「こ、心得た。」
タタタタタ。
「…私、なんかやっちまったか?」
「次は言い方を直すといいと思うのじゃ藤原よ。」
*
「つ、疲れた…」
結局ぼく含めるクラスメイトたちは補充試験を実質的に一部サボってしまったおかげで、鉄人の地獄の補修を喰らうことになってしまい、結局試験が終わる頃には、もう5時過ぎになってしまった。
「さて、明久、藤原、島田、秀吉、土屋。少し話したいことがある。集まってくれないか?」
「どうしたの?」
「なんじゃ?」
「・・・・・早くしろ」
「また何かやるの?」
みんなで教壇近くに集まる。
教壇に立った雄二がいう。
「俺たちは、明日Bクラスと戦る。」
「え!?」
「Bクラスじゃと1?」
いきなりBクラス?流石に戦力差がありすぎる気がするけど…
「無理だと思うわよ?今は木下さんもいないんだし…」
「・・・・・戦力差。」
ん?でもよく考えてみたらDクラスの時、室外機が対Bクラスにどうとか言ってたような…
「雄二、もしかしてあの、室外機…」
「お?覚えてたのか?明久にしてはいい記憶力じゃないか。」
「一言余計だよ!」
雄二が茶化すのをやめて真面目な顔になる。
「正直に言おう。」
神妙な面持ちでいう。
「どんな作戦でもうちの戦力じゃAクラスには勝てない。」
急な敗北宣言。雄二らしくもない。
まあ、でも仕方ない。Aクラスとの40人ほどは、まだBクラスより少し点数が高いほどだ。でも、残り10人ほどはヤバい。特に学年1位の霧島翔子さん。彼女の点数は桁がちがう。奇襲したとしても、返り討ちに遭うだけだろう。
おそらく、妹紅でも勝てない。
代表である桐島さんを倒せない以上、勝ち目はない。
「つまり、Aクラスは諦めて、Bクラスを倒すということですか?」
「ウチはそれでもいいけど…」
まあ、Bクラスでも、十分設備は豪華だ。
「いや、俺らの目標はAクラスをやることだ。それは曲げない。」
「でも、さっきの言い方的におかしくない?雄二。」
「いや、勝つ方法はまだある。あくまで、クラス単位では勝てないと言っただけだ。」
「つまり?少数精鋭で戦うということですか?」
「惜しいが少し違う。」
「というと?」
「俺たちは、一騎打ちに持ち込む。」
!なるほど。
「でもどうやるのよ?」
「それにBクラスを使う。」
使う?Bクラスを?どうやって?
「試召戦争で下位クラスが負けた場合の設備はどうなる子知っているな?」
「え!?も、もちろん。」
知らない、とはいえない。
「私は知らないぞ?」
「そうか、藤原は確かに留学生だからな。説明しておくと、下位クラスが負けると、設備のランクが下げられる。逆に上位クラスが負けると、設備が入れ替えられる。」
「なるほどな…」
助かった…普通に知らなかった。
「つまり、交渉するってことか?そのルールを使って。」
交渉?
「へえ、鋭いな。」
「それほどでも。」
「…二人でわかり合わないでよ。僕たちはまだよく理解してないんだから。」
「?ウチは何となく理解したけど?」
「わしも理解しているのじゃ。」
「・・・・・同意。」
…
「あ、あはは…ジョークだって、ジョーク。」
「じゃあ、説明できるか?」
「できません。」
ううっ、僕の味方はいないの?
「明久、私が説明するぞ。簡単にいうと、おそらく、坂本はBクラスをやったあと、設備の交換の代わりに、Aクラスに攻め込ませるつもりだろ。で、Aクラスにそれを伝えて、一騎打ちにするんだろ。」
なるほど。わかりやすい。さすが妹紅さんだ。そして…
「さすが雄二、悪辣な手法はお手のものだね!」
「ムッツリーニ、ペンチ。」
「やめてよっ!僕を爪切りいらずの体にするつもりっ!?」
全く、なんて野蛮なやつなんだ!
「ふむ、しかしそれでも、問題はあるじゃろう。体力としては辛いじゃろうが、Aクラスとしては試召戦争の方がマシじゃろう?」
あ、確かに。
「それにの、」
「一騎打ちには勝てないんじゃ、ってか?」
それもよく考えたらそうだ。一騎打ちには間違いなく、霧島さんが出るだろう。それに勝てるのはおそらく、ムッツリーニの保健体育ぐらいなものだろう。
「そこは大丈夫だ。色々と考えがある。」
いつものにやけた笑みが浮かぶ。
「ふーんまぁ、考えがあるならいいけど。」
「ああ。それじゃ、解散!」
帰り道。
「おい、」
「なんだ坂本。」
と妹紅さん。
「どうしたの坂本くん。」
と慧音先生。
「・・・・同居ってマジだったんだな。」
「うん。」
とは僕の声。
「死ね。」
「ストレート!?」
なんてストレートな『死ね』だ!?まあでも気持ちはわからないでもない。僕だって他の男子が二人の綺麗な女性に囲まれてたら大いに水を刺しに行くだろう。
「ところで雄二、なんでAクラスを狙うの?」
そういえば聞いたことなかったなーと思い、そんなことを聞いてみた。
「ん?それは今話さなくてもいいか?」
「?何か事情があるの?」
「ああ、まあ色々とな。」
雄二らしくない達観した表情。よくわからなかったけど、突っ込むのはやめておいた。なんとなくその方がいい気がしたから。
「じゃあまた明日な。」
「うん。」
「捕まるのを待ってるぜ。」
「手は出さないよ!」
ハハハと笑いながら雄二。全く、僕のことをなんだと思ってるんだ。
「ところでなんだけどさ、」
「おん。」
「僕は昔妹紅さんとどういう関係だったの?」
「ん〜まあ幼馴染っていうか、親子っていうか…まあ、お互いに仲は良かったな。」
「へ〜」
「慧音さんは?」
「慧音は…私にとっては恩人だな。んでお前にとっては…教師、かな?」
「教師?、ていうと…どういうこと?」
「まあ、色々あったんだよ。」
遠い目をしていう妹紅さん。きっと大切な思い出だったのだろう。
その顔を見て、僕は一つの決意をした。
「妹紅さん」
「どうした明久。」
「絶対思い出すからね。」
「!・・・・ああ。」
絶対思い出してみせる!妹紅さんのためにも!
*
「ここ、どこ?」
少年の前に広がる霧。彼は湖に遊びにいっていた。しかし、突然出てきた霧に隠されて帰り道を見失った。
「妹紅ー!慧音ー!」
叫んでも声は届かない。途方に暮れた少年が起こした行動とは、
「とりあえず歩こう。何か見つかるかもしれないし。」
最もバカな選択だった。
そして歩き続けた少年は突然、
「とりゃー!」
「うわっ!」
後ろから誰かにぶつかられる。
「誰!?」
「アタイを知らないとはいい度胸ね!よく聞きなさい!」
・・・・・なんか長くなりそうだ。と思う少年。
「あ、じゃあそういうことで〜。」
「!待ちなさい!」
君子危うきものに近寄らず。
その精神で逃げようとする少年に氷の妖精は躊躇なく牙を向ける。
「アタイを無視したわね!無事で済むと思ったら大間違いよ!」
氷の妖精は突然強大な氷塊を生成する。
後ろから投げられる氷塊。少年が気づいた時にはすでに遅い。
「うわ〜!」
少年ゴミクズよろしく吹き飛ばされた。
*
次の朝、
「さーていつも通りご飯(塩と砂糖)を、って何この食材!?」
いつも通り冷蔵庫から水を取ろうとすると、そこには野菜、肉、米など多種多様の食材が詰まっていた。
「おう、明久。それはな…」
「夢!?もしくは幻覚?いずれにしても覚めないでくれ!おお、神よ!感謝します!」
「よし、いったん落ち着け。」
ハツ!
「ここは…ってあの食材は!?」
冷蔵庫の方を見る。そこには確かに食べ物が大量に詰まっていた。
「夢…じゃなかったーー!」
「あー、おーい。やっと正気に戻ったか。」
あ、すっかり忘れてた。
「妹紅さん、これ…どこから盗んできたの?」
「いや、盗んでねーよ。」
頭を突かれる。でも、じゃあ一体どこから?
「これは、実家から持ってきたものだよ。まあ、正確には紫が、だがな。」
紫…さん?まあ誰かは知らないけど、ありがとう!君に会ったら僕は頭を垂れて靴を舐めることさえできると思うよ!
「ま、これでちゃんと食えるようになるだろ?」
「うん!これでようやくまともな食事ができるようになるよ!」
本当に、本当にありがとう!紫、さん!あとで何か一つなんでもいうことを聞くよ!とか言っちゃったりして。
「ん?」
「どうかしましたか?紫様。」
「いえ。なんかよくわからないけど、とてもいいことを聞いた気がして…」
「?」
時は流れて昼休み。
「ん?今日はやけに血色がいいな。明久。」
「というか、その弁当どうしたのよ。誰かから盗んできたの?」
「いや、そういうわけじゃないけど…」
「ふむ、では誰かに作ってもらった?というところかのぅ。」
「!?一体どういうこと!?吉井!」
いいや、だから…
「一応、僕が作ったんだけどね…」
「嘘。」
「嘘ね。」
「嘘だな。」
「嘘じゃろう。」
「…君たちって僕の友達だよね。一応…」
なんて心が冷たい奴らばっかりなんだろうか。
「一応、明久は料理上手、とだけ伝えておくぞ?」
ううっ、妹紅さんだけは僕の味方だよっ…!本当に…!
「さて…明久。」
「断る。」
「ちょっとは話を聞けっての。」
どうせ碌でもない話だろう。
「何?一体。」
「はぁ、俺が言いたかったのはな、つまりBクラスに宣戦布告に行ってこいって話だよ。」
「断る。」
「Bクラスは美少年好きが多いぞ?」
「雄二が行けばいいじゃないか。」
「美少年だなんて、ありがとよ。」
くそっああいえばこういう。
「ちっ、じゃあジャンケンで決めるか。」
「ジャンケン、か。」
まあ、選択の余地があるだけマシ、かな。
「わかった。じゃあ僕はグーを出すよ。」
じゃんけんの構えをとりながら雄二に告げる。
「そうか。なら俺は…」
さあ、どうくる?
「お前がグーを出さなかったらぶっ殺す。」
ちょ!何それ!
「行くぞ、ジャンケン」
「え、うわ、ちょっと待って!」
え?えっと?グーをだしたら負けるから、えっと、あれ?
僕(グー) 雄二(パー)
「決まりだ。行ってこい。」
結局僕はまたBクラスの生徒たちを眠らせることになった。
バカテスト 生物
[第六問]
問 以下の問いに答えなさい。
『花の中でも特に花言葉「愛」を示す花の名前を答えなさい。』
藤原妹紅、木下優子の解答
『薔薇』
先生の返信
惜しいですね。薔薇だったら正解なのですが。黄色のバラは特別に嫉妬を表す花です。
吉井明久の解答
『チューリップ』
先生の返信
珍しく正解ですね。どこでそのような知識を得たのですか?
土屋康太の回答
『チューベローズ』
先生の回答
狙ってやっているのであれば後で生徒指導室にきてください。
(ゲスト)風見幽香の回答
『赤いチューリップ、カーネーション赤い薔薇、ミモザ
、ベゴニア、黄色のガーベラ、紫のグラジオス・・・・・・ールド、ナデシコ』
先生の回答
もう満点でいいです。
「よし、お前ら。これから俺らはBクラス戦を始める。」
僕たちは教壇に立つ雄二を見上げるように座る。その目には闘志がこもっている。
「準備はいいか?」
『おおーーー!!』
さすがだ。午前中ずっとテストを受けていても下がらないモチベーション。これがこのクラス唯一の武器だろう。
「今回は、戦線を拡大させないようにすることが要だ。だから、前線部隊は渡り廊下線では負けてはならない!」
『おおーーー!!』
「前線部隊は藤原が指揮を取る!野郎ども!きっちり死んでこい!」
『おおーーーーー!!!!』
『妹紅さーん!!』
「私は前線に出るな、だってさあ。まあいいけど。」
「まあ、戦死されると困るからねぇ。」
正直、妹紅さんはこのクラスの最大戦力だ。Dクラスにたった一人で勝ったということで有名になってしまっている。Dクラスならばともかく、Bクラスの生徒に囲まれたらいくら妹紅さんでも戦死してしまう。それを避けるために、雄二は妹紅さんを前線部隊部隊長に配備したのだろう。
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了ベルが鳴る。開戦の合図だ。
「よし!行ってこい!目指すはシステムデスクだ!」
『サー!イエッサー!』
今回の作戦のもと、僕たちは全力で廊下を走る。
今回の僕たちの主力教科は数学だ。これは、Bクラスには文系が多いという情報と、長谷川先生はなぜか、召喚可能範囲が多いというのが主な理由だ。あとは、英語のライティングの山田先生と物理の木村先生もいる。慧音先生は他のクラスで授業があって、来られないそうだ。
「いたぞ!Bクラスだ!」
「高橋先生を連れているぞ!」
正面を見るとゆったりと歩み寄ってくるBクラスの生徒たちが確認できた。人数は大体10人ほど。様子見といったところだろうか。
「生かして返すんじゃねーぞ!」
そんな危ない言葉を皮切りに戦争が始まった。
『Bクラス 野中長尾 VS Fクラス 近藤吉宗
総合 1943点 764点 』
なっ、なんて強さだ!桁がちがう!
『Bクラス 金田一裕子 VS Fクラス 武藤啓太
数学 159点 69点 』
『Bクラス 里井真由子 VS Fクラス 君島博
物理 152点 77点 』
圧倒的な戦力差で第一陣(10人ほど)が次々とやられていく。まずい。やられる前にフォロー入れないと!
出ようかどうか迷っていると、横から声がかかる。
「なあ、明久。私、出るか?」
ふむ、確かにここは妹紅さんが出るべきだろう、が。
「うーん。いや、僕が出るよ。」
ここで万が一にも妹紅さんが戦死すると、勝ち目がほぼなくなる。
「サモンっ!!」
『 数学 吉井明久
68点 』
「あ!あいつ!」
「あの時の…!」
「絶対ぶちのめしてやる!」
さっき少し眠らせておいたBクラス生徒たちが殺気立つ。
「出たわ!吉井明久よ!」
「あの時はカッコよかったけど…」
「敵として全力で戦わせてもらうわ!」
そしてなぜか女子からも殺気に近い何かを向けられる。なんか背筋がゾワゾワするのは気のせいだろうか。
「長谷川先生!Bクラス岩下律子です!Fクラス吉井明久君に数学勝負を申し込みます!」
最初に突っ込んできたのはBクラス女子の岩下さん。
「あ、私も手伝うわ!」
そこにもう一人女子が入ってくる。うーん僕って女子にそんな恨みを持たれることしたっけなぁ。
『サモンっ!』
『Bクラス 岩下律子&菊入真由美
189点 151点 』
くっ、さすがはBクラス。点差は圧倒的だ。
レイピアを持った召喚獣と弓を持った召喚獣と向き直る。
「ハァァァー!」
レイピアを構えて一体の召喚獣が突っ込んでくる。
隙だらけでも、さすがはほぼ200点の召喚獣。勢いが凄まじい。
でも、
「それじゃあ僕には当たらないね。」
レイピアを避ける。そしてすれ違いぎわに木刀を五発ほど切り込む。これが僕の点数で触れる最大数だ。
「ヤァっ!」
「見えてるよ。」
矢を飛んで避ける。
「そしてそれも、わかってる!」
着地点を狙っているレイピア目掛けて木刀を投げ込む。
「キャッ!」
レイピアに弾かれて帰ってくる木刀を掴んで弓持ちの召喚獣に突撃する。
「くっ、この!」
敵が弓を放つ。でも、もう遅い。
「ここだ!」
矢をよけ、そのまま頭に木刀を叩き込む。
「う、うそっ!」
その召喚獣は、戦死していた。
そう。これは『急所』をたたいた結果だ。普通なら倒しきれない点数でも、倒せるようになる方法を僕なりに見つけようとしていた。その関係で気づいたことがあり、それは召喚獣の脳のあたり、つまり頭に直撃させると、通常の何倍ものダメージが出ることに。そして、今僕は相手の脳天を直撃させることに成功した。もちろん、彼女は僕みたいな『観察処分者』でこそないから、痛みはないだろうが、僕はおそらく痛みだけで死んでしまうだろう。
「戦死者は補修ー!」
「真由美ー!くっ、許さないわよ!」
レイピアを持って突撃してくる召喚獣。さっきの反省か、少しは隙の少なくなった構えをしているものの、
「甘い。」
レイピアをいなし、懐に入る。
「ここだっ!」
木剣を腹に突き刺す。
相手の点数がみるみる減っていき、0になる。
「戦死者は補修ー!」
連れて行かれる岩下さん。
「くっ、悔しいけれど、少しだけカッコよかったわ。またね。次は負けないから!」
僕はもう勘弁だけどね。
「なっ!やられただと!?」
「相手の点数は、たったの68点だぞ!?」
「くっ!至急本陣から救援を頼め!こいつは例の留学生と同じく本気でかからなきゃいけなそうだ!」
あーらら。随分と警戒されちゃった。
「吉井隊長に続けー!」
「Fクラス並みの点数でも勝てるってことはあの人が証明してくれた!」
「気合いだせー!」
逆にこちらは燃え上がっていらっしゃるFクラス諸君。
「中堅部隊がきた!入れ替わりつつ、戦死はするな!吉井と留学生、あいつらは4人以上で挑め!絶対に1対1になるな!」
そんな相手の指示が聞こえてくる。とりあえず狙いは成功。相手を徐々に下がらせて、Bクラスに閉じ込める作戦は順調に成功しそうだ。
「明久、ワシらはいったん本陣に戻るぞ。」
「ん?なんで?」
秀吉が後方からやってきていう。
「本陣の方で何かあったの?」
「それが…Bクラスの代表が…」
「代表が?」
「あの根本じゃそうだ。」
「根本?ていうと、あの根本恭二?」
「うむ。」
根本恭二という男は、とにかく評判が悪い。カンニングの常連だとか、喧嘩に刃物を持ってくるだとか、とにかく目的のためなら手段を選ばないらしい。
まあ、何かしてくるとは思えないけど…行くに越したことはないか。
「一応戻っておいた方がよさそうだね。妹紅さん、あとは頼める?」
「わかった。」
妹紅さんに前線維持を頼んで四時、秀吉と一緒に本陣へ戻った。
*
「うわ、酷。」
「卑怯じゃのう。」
教室に引き返した僕たちが見た光景は、穴だらけになった卓袱台と、へし折られたシャープペンシルのばら撒かれた姿だった。
「これじゃ、補給試験を受けられない。」
「うむ、地味じゃが…点数に影響出る嫌がらせじゃな。」
「まあ、作戦に支障はない。気にすんな。」
「え?いいの?」
なーんかひっかるんだよねー。
「ふむ、話は変わるのじゃが、雄二はなぜこの教室がこのような様になっているのを黙っておったのじゃ?普通は追い出すなりなんなりするところじゃと思うが…」
「ああ、それなんだが、協定を結びたいという申し出があってな。調印のために教室を空にしてたんだ。」
「協定じゃと?」
「というと?」
「ああ、四時までに決着がつかなかったら戦況はそのまま、続きは明日の9時に持ち越し、その間は試召戦争に関する一切の行為を禁止する、てな。」
「え?それを承諾したの?」
「ああ。」
「じゃが、体力勝負的に持ち込んだ方がワシらの方が有利じゃろう?」
「ああ、藤原以外はな。」
あ、そっか。
「あいつらを教室に押し込んだら今回の戦闘は終了だろう。つまり作戦は明日以降ってことになる。」
「そうだね、この調子じゃ本丸は落とせないかも。」
「ああ。つまり今回は藤原個人の戦闘力が鍵となる。」
つまり局地的な戦闘になるってことだろうか。それともDクラス戦みたいに妹紅さんが一人で無双してくるとか。
「だから受けたということじゃな。藤原が全力の状態で挑めるように。」
「ああ。正直この提案は俺たちにとって都合がいい。」
うーんでもそれにしてはその申し出をしてまでやることがこんなちっちゃいことだとは到底思えない。あの根本恭二はそんなに甘いやつじゃない。
昔から僕はあいつの面倒臭さを実感している。
「明久、とりあえずワシらは前線に戻るのじゃ。何かされていたらかなわん。ワシは先に言っておくからの。」
秀吉はそういうなり教室を駆け足で出て行った。
「あ、そだね。雄二、あとはよろしく。」
そう言って立ち上がると、不意に何かを見つめている島田さんがいた。
「島田さん、どうかしたの?」
話しかけると、島田さんは振り返る。その目は心なしか赤くなってる気がした。
「あ!いや、大丈夫よ!う、ウチはなな、何もないから!だから私、先行ってるから!じゃあね!」
「へ?あ、はい。」
たーっと走り去っていく島田さん。うーんなんというかすごい勢いだったなぁ。
「ん?なにこれ。」
島田さんが去った後の席をよく見ると、破れた紙のようなものが散らばっていた。
「うーん。まあ、いっか。わかんないし。」
とりあえず保留ということにして前線に戻った。
少年移動中…
前線近くまで戻る。そこには数がかなり少なくなったBクラスの生徒と、ジリジリと後退するFクラスの姿が見えた。
ん?なんで下がっているんだろう。遠目で見えるBクラスの生徒は2人ほど。囲んで倒せばいいのに。
「おお、明久、戻ったか!」
「うん。行ってくるね、秀吉。」
「気をつけるのじゃぞ!」
秀吉と言葉を交わして、最前線へと走る。すると、見慣れた後ろ姿が見えてきた。
「妹紅さん!」
「明久!戻ってきたか!」
妹紅さんの召喚獣は…まだ戦死はしてない。ただ、少し傷がついている。ただ、まだ余裕はありそうだ。
「戦況はどんな感じ?」
「ああ、それなんだがな、」
妹紅さんが少しためらうようにいう。
「あの、島田って子が、人質に取られちまった。」
「え!?」
人質、とはこの場合の意味では手足を取って(※あくまで召喚獣の話です)戦闘不可な状態にした状態で放置することだ。トドメを刺されず、拘束されると、召喚フィールドから出られないままとなってしまう。
というかさすがだな、根本くん。器物損害、人質、と卑怯な手のオンパレードだ。
ってそんなことより!
「それって結構まずいんじゃない?」
「ああ、まあな。こっちも下手に手出しができない。できるなら戦力を減らすわけにもいかないからな。おかげで前線の展開はこんな有様だ。」
ふーむ。ん?でもよく考えると島田さんはさっき出て行ったばっかりだよね?それなのに人質に取られるなんて…
「ねえ妹紅さん、島田さんはどんなふうに人質に取られたの?」
妹紅さんに聞くと、彼女はうーんと思い出すように上を見上げた後、いう。
「なんか脇目も振らずに飛び出していってBクラスの教室に突撃して行ったな。正直なにがあったのか私にはわからん。」
うーん、やはり何かあったのだろうか。
「一回本人に聞く必要がありそうだね…」
前線の前に進む。すると、そこには囚われた島田さんとそれを守るように立ち塞ぐ二人のBクラス生徒がいた。
「島田さん!」
「…」
返事がない。まるでただの屍のようだ…
よし、なら…
「総員突撃ー!」
「ってちょっと待てー!」
Bクラスの生徒からのツッコミが入るも、それを無視して突撃する。
「みんな、よく聞け!あの島田さんは偽物だ!本物の島田さんならあのような状況だったら暴れてでも逃げようとするだろう!」
「確かに!」
「さすがは吉井隊長だ!」
僕の言葉に便乗して、Fクラス生徒たちが突貫する。
「おいおい!なんだあいつら!?」
「いくらなんでも心がなさすぎだろう!」
「人質をとるようなやつだけには言われる筋合いはないね!」
二人の召喚獣に一瞬で詰め寄る。島田さんの召喚獣にトドメを刺そうとする一人の召喚獣。
「でも遅いっ!」
その斧を上に弾き、島田さんの召喚獣を助け出す。
「人質がっ!」
「くそっ!」
僕を追おうとしてももう遅い。ふたつの召喚獣に群がるFクラスの召喚獣たち。元々消耗していたBクラスの召喚獣はみるみる点数をらしていき、0となった。
「戦死者は補修ー!」
「いやだぁぁぁー!
「助けてぇぇー!」
鉄人に連れて行かれる二人のBクラス生徒。いい気味だ。
「ったく、相変わらず強引だな。」
「あ、妹紅さん。」
妹紅さんがため息をつきながら近づいてくる。
「まぁ、いいじゃん。助かったんだし。」
「あーまあ、それもそうだな。」
納得してくれる妹紅さん。正直、今回は僕もだいぶ酷かったなーと反省はしてるんだよ?でも、あのままだとジリ貧だったし、仕方なかったんだ。
ん?あれ?よく考えてみると島田さんからなにも言われてないな。
島田さんの方を向き直る。しかし、そこには島田さんの影も形もなく、召喚獣も消えていた。残されていたのは、濡れた毛のようなものだけだった。
結局その後、戦争はお互いに様子見のまま終わり、次の日の朝から始まるという協定通りの結果となった。
ムッツリーニからの情報でCクラスに行った雄二たちはその後何か一悶着あったらしいが、僕は、クラスにカバンを残したまま帰ってしまった島田さんが心配で、そのことは正直どうでも良かった。
何かとても嫌んことが起きていそうでどうにも居心地が悪かった僕は妹紅さんと一緒に先に帰った。どうも嫌な予感が残ったままだった。
[吉井明久の食卓]
「さあ、さて今回もやってまいりました。吉井明久の食卓コーナー。解説は私妹紅と助手の慧音で送らせていただきます。」
「…(ーー;)」
「さて、今日の明久はなんだか終始何かに気を取られていそうでしたが、キッチンに着いた途端様子は一変!」
「あの…」
「さあ、今回はいったいどのような料理を振る舞ってくれるのでしょうか!」
「…もういい」
「おーっと!まずは冷蔵庫から挽肉と卵を取り出す!そしてそのほかに玉ねぎ、牛乳と…さて、助手の慧音さん、これはいったいなにを作るための材料なんでしょうか?」
「…もうなんでもいいって。」
「さあ、挽肉をこねて…これはハンバーグでしょうか?」
「そうね…」
「おーっと、挽肉をごま油を敷いたフライパンに入れつつ取り出すのは…卵と、ボウルだー!」
「ていうか、これいつまで続けるんだよ…」
「卵をかき混ぜて、砂糖を入れ…さらにハンバーグを裏返す!たった数秒でこれだけの行動を終わらせてしまう!さすがはメイド長さえも唸らせたシェフといったところか!」
「ああ、あれは確かにすごい料理だったな。」
「さあ、だいぶ焼き上がってきたハンバーグに溶いた卵を投入する!さあ、ここからが見ものですよー。」
「サーカスじゃないんだから。」
「おお!ハンバーグをどんどん卵で巻き上げていく!しかも卵の焼き上がって部分だけを狙ってやっている!まさか油の場所を事前に覚えていたのか!?なんという技量だ!」
「…これって料理漫画とかじゃないよな…」
「さあ、しかもそれだけでは終わらない!冷蔵庫から何かを取り出す…あれは…野菜だ!にんじん、かぼちゃ、アスパラガス、それからあれは…オリーブ、でしょうか?」
「おそらく、ハンバーグの横に副菜として並べるんじゃないか?」
「その通りだったようで野菜を次々と切ってフライパンに投入していく!その際塩胡椒やバター、油などで味付けをしていくのは忘れない!しかもそのすべてが他の食材の邪魔にならないよう完璧に配備されている!あれはもはや、フライパンの中に一つの絵画を描いているといっていいのではないでしょうか!」
「言い過ぎよ。でも、まあ確かに全部見えてるようですごいよな…」
「仕上げに作るのは、明久だけが知る特別のレシピのソース!しかも大根おろし付きの和風ソースとデミグラスソースにコンソメ風味のスープまで!もはや魔術師のようだ!」
「なんで知ってんのよ…」
さらに茶碗にご飯を入れて、味噌汁を注いでターンエンド!」
「ターンエンド!じゃないわよ。」
「さて、助手の慧音さん、料理を食べる前に感想を一つどうぞ。」
「まあ、すごい技量だったわね…私たちじゃ、多分逆立ちしても届きはしないでしょうね…」
「では、ここらで完成品の紹介をして幕を下ろすとしましょう。」
『煮込みハンバーグの卵とじ〜三種のソースと温野菜を添えて
講評
:卵の甘い食感に合う、ハンバーグの肉汁、そしてバターなどの香りがする温野菜はハンバーグの風味をより引き立て、それだけでも最高の味にも関わらず、三種のソースはそのすべてもがハンバーグの風味を完璧なものに上げていて隙がない。
ただの家庭でも手に入る材料だけでもここまでのものを作り上げるのは、まさに才能という他ないだろう。 』
「では次回の[吉井明久の食卓]でお会いしましょう。」
「「バイバイー!」」
次の日、教壇にて。
「昨日言ってた作戦を実行する。」
「はい?」
開口一番に雄二はそう言った。
「作戦って…何の話?」
「ああ、そうか。明久と藤原は昨日俺たちと一緒に行ってなかったな。」
「そうね。」
僕たちは、雄二たちが昨日Cクラスでなにがあったのかを聞いた。
曰く、Cクラスに行くと、そこには根元くんがいて、僕たちが協定を破ったのを理由に攻撃してきたと。そして危うく戦死しかけたらしい。
「そんなことが…」
「つまりこれからはCクラスも敵ってことだな。」
うーんそれはだいぶきつんじゃないかなあ。このままだと、2クラスに狙われて負けてしまう。
「それを防ぐための作戦だ。」
「なにするの?」
「秀吉にこれを着てもらう。」
そう言って雄二が取り出したのは、文月学園の女子の制服。
雄二、君はいったいどこでそれを手に入れたんだい。
「ふむ、それは別に構わんのじゃが、わしに女装をさせてどうするのじゃ?」
そこは構おうよ、秀吉。
にしても、そんなことをしたら秀吉はもっと女の子らしくなって、姉の優子さんにより似てしまうのでは…
「秀吉はそれを着てAクラスの大使を装ってもらう。木下優子としてな。」
なるほど。…ってえ?
「なにを言ってるの!?雄二、だって優子さんは…」
Fクラスに…
「ああ。だが、現実問題、あいつは学校に来ていない。それからBクラスならともかく、CクラスはAクラスに興味ないだろうし、木下優子がFクラスに行っていたっていうのも、ただのデマって信じるだろう。」
なるほど、確かに一理ある。
でも、
「いや、じゃがそれは…」
「あまりにも、ねえ…」
「お粗末だな。」
妹紅さんのストレートな物言いに少しだけたじろぐ雄二。しかし、向き直る。
「そうは言っても、なあ。現状、Aクラスになしつけるぐらいしか、Cクラスの視線をこっちから動かすことはできないんだよな。」
「いや、ほかに方法も…」
なさそう。
「ないな。」
「ないね。」
「ないのじゃ。」
「まあ、正直、俺もこんな一か八かの賭けはあまりしたくないんだが…」
うーんほかにやる方法はないのかな…
「伝令!伝令!」
その時、Cクラスを見張っていた須川くんから報告がくる。
「ん?」
「何があったんじゃろうか。」
雄二が話を聞きに行く。
「まさかあいつら…」
隣の妹紅さんがぶつぶつと何かを呟く。
「妹紅さん、あいつらって?」
「いや、なんでもない。」
聞かれても、こういうだけ。何か隠し事でもあるのかな?
「なにっ!?」
急に雄二が叫ぶ。どうしたんだろう。
「何かあったのじゃ?」
戻ってきた雄二に秀吉が聞く。
「ウチらにとってまずいことがあったの?」
「いや、そういうわけではなくてだな…」
なにがあったか知らないが、雄二はよほど驚いていて、なかなか言葉を出せないようだ。
「Cクラスの件か?」
「ああ、藤原。その通りだ。」
Cクラスが何か仕掛けてきたのか?
いや、でもそれじゃ、僕たちにとってはおそらく不利なことなはず…
「まだこれは確実な情報じゃないんだが…AクラスがCクラスに宣戦布告したらしい。」
「なんじゃと!?」
「なんですって!?」
「なんだって!?」
僕を含め、三者三様、同じリアクションを取る。」
でも、本当にいったいなぜ?Aクラスは、そりゃあCクラスに負けることはないだっろうけど…
そう。だから宣戦布告をするメリットもない。
だから、雄二自身もまだ信じきれていないんだろう。
「やっぱりか…」
へ?やっぱり、って?
「妹紅さん、どうしたの?さっきからなんか変だよ?」
「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ。」
うーん。心配だなあ。さっきから妹紅さんはぶつぶつ言ってて謎なんだよなぁ。
何か悩み事があるのかな。
「雄二、では儂はもうこの格好を線でも良いということか?」
「いや、一応これからCクラスの偵察に俺も行こうと思う。そこにお前らもきてほしい。」
「え?僕たちも?」
「ああ。ぶっちゃけ俺もまだ信じきれてない。もしその情報が根本あたりに流されたブラフだった場合、まずいことになるからな。今、俺たちは作戦会議より、むしろこっちを早く見るべきだ。」
「うーんそれはそうかも。」
そうして、僕らはCクラスに向かったのだが、もう、酷かった。何かって?そりゃあ、
「こうしちゃいられねえ!Aクラスぶっ潰すぞ!」
「ええ!あのガキ、じゃなくて少女、許せないわ!」
「ぶっ倒してやる!」
・・・・・・
「なんというか…すごい気迫だね。」
「じゃのう…というかもはやこれは、殺気じゃなかろうか。」
「ああそうだな…(というかAクラスの連中なにをやらかしたんだ…)まあ、ともかくこれで懸念材料が一つ減った。Bクラスのみを相手するならだいぶ楽だ。」
「そうだね…」
気になったこともあったものの、これで僕達は余分なことを考える必要がなくなり、Bクラス戦に臨むこととなった。
そして時間は移り、9時を少し過ぎた頃。
「ドアと壁をうまく使うのじゃ!戦線を拡大させるでないぞ!」
戦線は正に苛烈を極めていた。
雄二の「敵を教室に押し込め」という指示のもと、戦争を進めていたのだが、問題が一つ。
「島田さん!下がって!」
「わかってるわよ!」
その問題というのがそう。今突っ込んでいっている島田さんだ。
うーんさっきからずっと突っ込んじゃっているんだよなー。
しかも教科はよりにもよって島田さんは壊滅的な古典。正直、前に行くだけでも戦死しかねない。
昨日から何か様子がおかしかったらしいけど…なにがあったんだろう。
「左側入口押し込まれている!」
「古典、戦力が足りない!援軍!」
あ、まずい。このままじゃ古典側が壊滅しちゃう。
「明久、私、行こうか?」
「あー、うん。お願い。」
正直、僕が出るのもいいんだけど、できればAクラス戦まで隠しておきたいんだよね、隠し球は。
「右側、教科が変更された!現国だ!」
「数学の教師は!?」
「Bクラスに拉致されたみたいだ!」
まずい。Bクラスは文系多めだ。だからこそ右側は数学フィールドにしていたが、そっちも国語にされると、押し切られる。
「仕方ない。」
左側に行く。そして妹紅さんに一言。
「右、行って。左は任せて。」
「、ああ。」
短い言葉で意図を共有する。さすがは妹紅さん。成績に恥じない頭のかいてんの速さで助かるよ。
妹紅さんが去ったのを確認する。
さて、僕は…
「竹中先生、ヅラ、ズレてますよ。」
「え!?あ、先生は少々席をはずします!」
頭を抑えて周囲を見回す竹中先生。
いざという時の脅迫ネタ〜古典教師編〜をここで使うことになるなんて…正直予想外だ。
「さて…これでしばらく時間ができる。」
古典側の人に指示を出す。そこで僕は一つのことに気付く。
「あれ?島田さんは?」
島田さんらしき姿が見えないのに気付く。
…何か胸騒ぎがする。
「秀吉、ちょっと僕補給に行ってくる、だから指示お願い。」
「?わかったのじゃ。」
さて。でもいったいどこにいるのやら。
「ーら、ーで。」
「ん?」
微かに階段側から声が聞こえてくる。
「行ってみよう。」
階段側に歩く。すると、僕が普段からよく見ているポニーテールの後ろ姿が見えてきた。
「あっ!島田さ…」
島田さん、だけじゃない。ほかにも一人、確かにいる。
その相手は…うーんここじゃよく見えない。
もう少し近づく。すると、相手の姿が少しずつ見えてくる。
「!あれは…」
知らない相手ではない。いや、むしろよく知った存在だった。
「おかっぱ頭、長身、捻くれた笑み。間違いない。あれは、」
根本恭二。
でも、なぜ?なんで彼が今ここに?
彼の性格上、こんな危険なことは普通しない。
少し様子を見るか。
「なんでとったりしたの?」
島田さんが何か言っている。とった?なにを?
「お前が言いたいのはこれのことか?」
根元くんが何かを取り出す。
あれは…熊のぬいぐるみ?でも、何かがおかしい。目が、
「なんでそれをっ…返しなさいよ!」
「いいぜ、別に。」
「え?」
「ただし、お前が裏切ってくれたら、だがな。」
話を聞いている感じ、私物を人質に取られているのか。相変わらず非道なやつだ。
「な!そんなことできるわけじゃない!」
「ほう?でも、そんなことでいいのか?それじゃぁ妹へのプレゼントがこんなふうに…なってしまうかも、な。」
はい?
「な、なにを…ていうかなんであんたそのことを知って…」
「さあな。でも、これ以上傷つけられたら、このぬいぐるみ、使い物にならなくなるぜ?」
「つっ、卑怯なやつ!」
「なんとでも。」
へえなるほどなるほど。
島田さんの妹さんのプレゼントを奪って、脅迫、その上、器物損害。ね。
ブチ殺す。
ー
「雄二。」
「なんだ、明久。サボりか?…ってそんな様子でもないな。なにがあった。」
雄二が何か書いている。おそらく今の戦力などの記録だろう。でも正直どうでもいい。
「話がある。」
「…聞こうか。」
いつもとは違って真面目な雄二の顔。僕もできるだけ早めに終わらせたいから正直ありがたい。
「僕は…根本くんの制服が欲しいんだ。」
「…お前になにがあった。」
まずい。このままじゃただの変態だ。
「えっと、だからつまり…僕一人でやらせて欲しいということなんだ。」
「要するに、そういうことだな。わかった。勝利の暁にそれぐらいはくれてやる。」
いや、なにそのリアクション。なんか完全に誤解してるよね、ねえ。
まあいいや。あとは…
「で?ほかには?」
呆れた目で僕を見る雄二。まあほかにもあるんだけど。
「島田さんをこの戦いから外してほしい。」
「島田を?少しキツくなるが…まあ、別にいい。だが、なぜだ?」
「それは、今は言えない。」
「…何かあったんだな?」
「…」
「いいぞ。」
「!ありがとう。」
「ったく、お前は相変わらず世話焼きなやつだな。」
「どこが。」
憎まれ口を叩き合う。
「じゃあ、僕はもう行くよ。」
「ああ、ところで、藤原に例の件について行っておけ。Dクラスのな。」
「あ、後それについてなんだけど…」
「なんだ?」
「僕にやらせてくれない?」
*
バカテスト 地学
[第七問]
次の空欄に入る単語を答えよ。
『地球のように回転する球体の上で,移動する物体に直角右向きに働いているように見える見かけの力のことを( )という。 転向力とも呼ばれる。』
藤原妹紅、木下優子の答え
『コリオリ力(の力)』
教師のコメント
正解です。コリオリの力はここからいろんな計算に用いられることになるので、よく覚えておきましょう。
吉井明久の答え
『反重力』
教師のコメント
S F映画の見過ぎです。
坂本雄二の答え
『摩擦力』
教師のコメント
よくあるミスですね。力という点では、コリオリの力、摩擦力、気圧傾度力が主に風に作用する力として有名ですね。ついでに覚えておくといいでしょう。
*
「一体なにをするんだお前ら…」
「まあいいからいいから。」
前にいるDクラス生徒たちを教室から離れさせる。
ちょうどDクラスが日本史でよかった。おかげで慧音先生に掛け合って自習にしてもらえた。
「さて…」
「おい、明久。お前一体なにをやるつもりなんだ?」
そう横から聞いてくるのは元々Dクラスで授業をしていた慧音先生。
「えっと、慧音先生。少し協力して欲しいことがあるんだけど…」
「あ?」
ゴニョゴニョゴニョ。
「はい!?いや、いくら私でもそれは…」
「ごめん!でも、現状これしか僕がバレずにBクラスに直行する方法はないんだ!」
「ええ…」
「後で一つなんでも言うこと聞くから!」
「っ、だーもうわかったよ!」
慧音先生が召喚フィールドを広げる。
「サモン!」
さて、僕の召喚獣を出して…
壁に向けて…
打つ!
ドゴォン!
壁がガラガラと崩れ落ちる。
そしてその先にあるのは…
「な、なんだ!?」
「覚悟!根本ぉ!」
*
「僕にやらせてくれない?」
ほう?
「お前が?なぜだ?」
「まあ、理由はいろいろあるんだけど…」
「まさか…お前そこまで根本のこと…わかった。ならば俺はなにも言わん。」
「違うよ!?そんな誤解はしないでっ!」
「違うのか?」
「違うよっ!」
「ハハ、悪い悪い。」
さて。明久をからかうのもそろそろやめるか。
正直な話、明久が完遂できるかどうかはわからない。だが、だからと言って、『切り札』がバレるのもまずい。
「ともかく…僕は本気なんだ。」
「…」
正直、明久の目を見ればそれが冷やかしじゃないのはわかる。
ったく。こいつはいつもいつも。
「はぁ。わかった。だが、やるからには必ず成功させろよ?」
「うん。絶対にやり遂げて見せるよ。」
そう馬鹿面を歪ませる明久。まあ、このバカはこれぐらいまっすぐな方が俺には扱いやすい。
さて、じゃあ俺は…
「ん?雄二。どこいくの?」
「ああ。お前がやるなら少しでも減らしといた方がいいだろ?だから俺は前線にちょっくら言ってくる。」
「え?」
ちっ、まさかこの程度も理解できないのかこのバカは。
「だから、俺(代表)が前線に出てくれば根本の野郎はきっと兵をこっちに向けてくるだろ?だからお前はその裏をかけ。」
あー。と納得したように頷く明久。
…正直まだ不安だ。
「ま、だからお前が失敗したらうち(Fクラス)負けるからな。死んでも成功させろよ?」
「そう言う雄二こそミスって死なないでね?」
「はっ、言ってろ。」
ま、大丈夫か。
*
あそこにいるのは数学の菊池先生だ、ちょうどいい!
「Fクラス吉井明久、Bクラス根本恭二に数学勝負を申し込みます!」
「っ、一体どこから湧いてきた!」
「「サモン!」」
『数学 Fクラス 吉井明久 VS Bクラス 根本恭二
42点 182点 』
さすがはBクラス代表。ほぼAクラスのような点数だ。
「はっ、どんな手口を使ったかは知らないが所詮FクラスはFクラスだな。そんな点数で勝つつもりなのか?」
勝ち誇る根本くん。正直な話この点数差だったら本当に少しのミスでやられてしまうだからかなりまずい。それに、
「な、こいつFクラスの!サモン!」
「根本をやらせるか!サモン!」
周りに現れるいくつもの召喚獣。
あー、これミスっちゃったかなー。
「へっ、所詮相手は一人だ。」
「覚悟しろよ?」
5対ほどの召喚獣がジリジリと包囲してくる。
「明久、これ大丈夫?」
後ろの慧音先生が聞いてくる。
ふっそんなのもちろん…
「正直まずい!」
5体の召喚獣が飛びかかってくる。そしてその波に、明久の召喚獣は飲まれていった。
*
ま、大丈夫だろ。念の為あいつを派遣しておいたからな。
あっちに関してはバレても別に問題ない。
「伝令!最前線が壊滅!ほぼ全ての生徒が補修室送りになってます!」
さて、じゃあ俺は…
「残っている部隊は全員集合!今より前線に向かう!」
ちょっと闘いに行ってくるか。
*
「おい、多分私忘れられてるだろ。
・・・・・・私誰に言ってんだ?」
ま、そんな独り言言ってる暇もないんだがな。
現在この声の主、藤原妹紅がいるのはFクラスVS Bクラスの最前線だ。そして、
「右側はもう3人しかいねえ!」
「救援はまだか!」
点数差が響いてきてFクラスの生徒がどんどんやられていて、残ったのはわたしを含め、もう4人ほどになっていた。
「まずいのじゃ!藤原、そっちはどうじゃ!?」
「囲まれててしばらくは動けない!そっちは!?」
「こっちは耐えているのじゃ!じゃが長くは持たんぞ!」
私は召喚獣の操作をしながら器用に答える。その間も前の召喚獣と鍔迫り合いをしていた。
「戦闘離脱できそうですか?」
「無理そうじゃ!ぬ?援軍じゃ!雄二たちがきたようじゃ!」
周りのBクラス生徒たちが一瞬動揺する。その隙に前の召喚獣の頭を貫き、戦線離脱する。
「あ!くそ、待て!」
「逃すか!」
後ろからくる声を無視して、本隊と合流する。
「遅いぞ坂本!」
「悪い、遅れた。」
「明久は?」
「あいつなら本陣の方へ行ったさ。」
「大丈夫なのか?」
「心配するな。こっちからもう一人、最強戦力を送っておいた。」
「最強戦力?」
「無駄話はここまでだ!くるぞ!」
「ちっ、背中は任せるぞ!」
「了解!」
*
5体の召喚獣が突撃してくる。その次の瞬間、いろんなことがいっぺんに起こった。
まず、召喚フィールドが消滅。根本くんの近衛部隊の召喚獣も根本くんの召喚獣も、そしてもちろん僕の召喚獣も消えた。
そして二つ目。室外機の故障による、エアコンの停止。そして涼を求め開けた窓から入ってくる人影。
ここで少し教科の特性を説明しよう。
各教科には、担当の教師がいて、その教師によってテストの結果にも特徴が現れる。
例を挙げると、
数学の木内先生は採点が早い。
世界史の田中先生は点の付け方が甘い。
慧音先生は多少のミスは許してくれたり。
では、保健体育は?
保健体育は他の教科に比べて、ただ一点を除いて特筆するところはない。
特段採点が早いわけでも甘いわけでもない。
召喚フィールドが広いわけでも、騙されやすいわけでもない。
じゃあ、その一点とは何か。
ダンッ、ダンッ!
開けられた窓から入ってくるロープ、そして現れる二つの人影。
根本くんの前に降り立ったのは、
「・・・・・Fクラス、土屋康太」
保健体育の教師、大島武。
「・・・・・Bクラス根本恭二に」
そう、その一点とは、
「き、貴様ぁ!」
保健体育の教師たる、
「保健体育勝負を申し込む!」
並外れた行動力!
「・・・・サモン」
「くっ…サモン!」
僕が近衛部隊を引きつけていた今、根本恭二に逃げ場はない。
『 Fクラス土屋康太 VS Bクラス根本恭二
保健体育 441点VS 203点 』
ムッツリーニは忍者にも似た格好にもった小刀で根本くんの召喚獣を一閃に葬る。
「・・・・明久、お前の友達、本当に人間か?」
その慧音先生の言葉と共にBクラス戦は終了した。
バカテスト 保健体育
[第八問]
問 以下の問いに答えよ。
『女性は、( )を迎えることにより、第二次性徴期になり、特有の体つきになり始める。』
木下優子の答え
『初潮』
教師のコメント
正解です。・・・・・・・・この問題は、人によってはセクハラになる気が…。
吉井明久の答え
『この問題を、女性に答えさせるのは失礼だと思います!』
教師のコメント
それは正しいと思いますが、あなたは残念なことに男です。
藤原妹紅の答え
『それは成長することがない私に対する当てつけか?』
教師のコメント
なんかすみません。
土屋康太の答え
『初潮と呼ばれる、生まれて初めての生理。医学用語では生理のことを医学用語では生理のことを月経、初潮のことを初経という。初潮年齢は体重と密接な関係があり、体重が43kgに達する頃に初潮を迎えるものが多い為、その訪れる年齢には個人差がある。日本では平均12歳。また、体重の他にも初潮年齢は、人種、気候、社会的環境、栄養状態などに影響される。』
教師のコメント
詳しすぎです。
「壁を壊すとは…明久、お主随分と思い切った行動に出たのう。」
放課後、Bクラスに来た秀吉にいの一番にそう言われる。
「あ、あはは。」
正直笑って誤魔化すくらいしかできない。
ちなみに妹紅さんは慧音先生と一緒にどこかにいってしまっている。
せっかくだから一緒にお祝いしたかったのになー。
「まあ、お主らしいと言えばお主らしいがの。」
「でしょ?もっと褒めていいんだよ?」
「後先考えずにやる漢気溢れた素晴らしい作戦じゃ。」
「それ、遠回しにバカって言ってるよね。」
ちなみに、学校の壁を壊したことについては、後から鉄人の説教が待っている。と、さっき通達があった。
僕からすれば死刑宣告のようなものだ。
「やっぱやらなければ良かったかも…」
「いいじゃねえか。それがお前の強みだしな。」
雄二がバシバシと肩を叩いてくる。
バカが強みだって!?というか僕バカぢゃない!
「さて、それじゃ嬉し恥ずかし戦後対談と行くか。な、負け組代表さん。」
「・・・・・・・・」
床に座り込んでいる根本くん。さっきまでの悪役オーラが嘘のように引っ込んでいる。正直ここまで意気消沈されると、僕の怒りも消えてしまわない。当たり前だ。
「本来なら設備を交換して、お前らには素敵なちゃぶ台をプレゼントしてやるところだ。だが、特別に免除してやらんこともない。」
そんな雄二の発言にざわざわと周囲のみんなが騒ぎ始める。
もちろん、僕も少しだけこの決断には戸惑っている。正直、今のBクラスを他の利用用途で使えるとは思えない。
「落ち着け。俺たちの目標はあくまでAクラスだ。そうだろ?」
「雄二、でも…」
「ここはあくまで通過点だ。そうだろ?」
「まあ、うん…」
「それに、お前の要望はちゃんと叶えてやる。安心しろ。」
ニッ、と笑う雄二。こいつ、まさかまだ勘違いしてないよね?
僕は、少し疑問に思ったものの、他のみんなは納得していた。おそらく、Dクラスの時も言っていたし、雄二の性格を理解し始めているのだろう。
「・・・・・・・・条件はなんだ。」
力なく根本君が問う。
「条件、そうだな。それはお前だよ。負け組代表さん。」
「俺、だと?」
「ああ。お前には色々好き勝手にやられたしな。正直お前は目障りなんだよ。去年から。」
すごい悪人然とした言葉だが、それにはちゃんとした裏付けがある。それを分かってるが故に他の人間はフォローをしない。本人もそれぐらいのことはわかっているようだ。
「そこで、チャンスというわけだ。」
昨日の昼に言っていたあの取引の材料を提示する。
「Aクラスに行って試召戦争の準備ができていると言ってこい。そうすれば今回は見逃してやる。ただし、宣戦布告はするな。あくまで、意志がある、とそのように伝えるんだ。」
「・・・・・・・それだけでいいのか?」
まあ、もちろんそれだけじゃないんだけどね。
雄二がニヤリと笑う。
「ああ。Bクラス代表がコレを着てやってくれたらな。」
そう言って取り出すのは、秀吉が着ていた女子用制服。
これは、島田さんのプレゼントを取り返すために言い訳にしていた、『根本君の服が欲しい』という頼みを雄二が、叶えてくれた形だ。
まあ、なんとなく私情が混ざっている気がするけど。
「ば、バカなことを言うな!そんなふざけたことを、この俺が…」
慌てふためく根本君。まあ、嫌なのはわかる。
『Bクラス生徒全員で必ず実行させよう!』
『任せて!必ずやるから!』
『それだけで教室を守れるなら、やらない手はない!』
Bクラスの熱い声。コレを見れば、根本君がどう言う行動をしていたのか、明白な気がする。
「じゃ、決定だな。」
「くそ、寄るな変態!グハァ!」
「黙らせました。」
「お、おう。ありがとう。」
一瞬で根本君を黙らせるBクラス男子。
「じゃあ、着付けをするか。明久、やれ。」
「えぇー。仕方ないなー。」
本当はこんな男の服を脱がせたくもないけど、僕の目的のためだし。
「う、うぅ」
あ、まずい。
「ていっ!」
「がはっ!」
Bクラス男子側からのフォロー。その後に服を脱がして、女子の制服を着せる。
「あれ?どうやってやるんだろう。」
女子の制服の着せ方、わからん。
まあ普通わかる方がおかしいんだけどね。
「吉井君、私がやろうか?」
Bクラス女子の一人が提案してくる。えーっと、この人は確か
「岩下、さん?」
「あら、私の名前覚えてくれたんだ。」
なぜか体を変なふうにしてもじもじする岩下さん。
ハツ、もしかして…根本君の着付けがそんなにやりたいの!?
「岩下さんみたいな女の子がそんなことをしちゃだめだよ!」
「女の子だなんて」
『わ、私も!』
『私がやるから!』
なぜか他のBクラス女子も殺到してくる。
そうか、実は根本君はモテていたんだね。
「なら、任せるよ。」
そっと女子用制服を渡した。
「ふんっ。」
「げへっ!」
根本君に一発ぶち込んでから去る。女の敵にとどめをさせなかったのは残念だったけど、コレで目的のブツは手に入れた。
「よしこれで…」
根本君のポケットを漁る。確か左ポケットに…
「あった!でもこれ…」
*
バカテスト 日本史
[第九問]
以下の問いに答えよ
『応仁の乱にて戦った足利義政の弟と子供の名前、そしてそれぞれが所属した総大将の名前を東軍、西軍の順に答えよ。』
木下優子、藤原妹紅の答え
『足利義尚、細川勝元、足利義視、山名宗全』
教師のコメント
正解です。ちなみに応仁の乱では結果として子供の足利義直が正式な後継者となりました。
坂本雄二の答え
『足利義教、細川勝元、足利義継、』
教師のコメント
どうやら少し覚え損ねているようですね。次はちゃんと覚えておきましょう。
吉井明久の答え
『この戦争においては、将軍家が東軍と西軍を入れ替わったり、東軍と西軍の区分が曖昧になったりと混乱していたため、この人が東軍、西軍といった区分は難しいです。主要な将軍は子供の足利義尚、足利義視、元西軍の山名持豊または宗全、元東軍の細川勝元、最初は子供の元についていた日野富子、家督争いの結果対立していた畠山義就、畠山政長、斯波義兼、斯波義敏、それから大内政弘あたりでしょうか。それからこの戦争には足利義政本人も一枚噛んでいますね。』
教師のコメント
申し訳ございませんでした。もうあなたが教師でいいのではないでしょうか。
上白沢慧音の答え
『この戦争においては将軍家が東軍と西軍を入れ替わったり、東軍と西軍の区分が混乱したりと混乱していたため、この人が東軍、西軍といった区分は難しいです。主要な将軍は子供の足利義尚、足利義視、元西軍の山名持豊か宗全、元東軍の細川勝元、最初は子供の元についていた日野富子、畠山・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
雑兵の・・・・・・・・・・・あたりでしょうか。』
教師のコメント
あなたは一体いつから生きているのですか?
*
「はぁ、、、」
島田美波は、『保健室にいろ』と言われたきり呼ばれずにずっと待機していた。
とはいえ、彼女自身とられたものについてどう説明するか、悩んでいて、戦いにはならなかっただろう。
「いつまでウジウジしてるんだ?」
不意に扉から声がする。
「あ、あんた。留学生の…」
「藤原妹紅だ。いい加減覚えろ。」
そう。最近あのバカとずっと一緒にいる女。
そんな奴が何をしに来たのか?決まっている。
「何?戦えないうちをバカにしにでもきたの?」
「は?バカにする、って。私のお前の中の評価はどうなってんだ。」
そんなの、敵に決まってるじゃない。
「じゃあ、何しに来たのよ。」
「私はただ、戦争は終わった、ってことを伝えに来ただけだ。」
「そう。」
「・・・・・」
いい足らなそうな顔でこっちを見てくる留学生。何よ。まだ何かあるの?
「屋上に行け。」
「え?」
屋上?そこに何があるの?
聞こうとしたものの、彼女はもう言ってしまったようだ。
「全く何よもう。」
こっちはそれどころじゃないって言うのに。
・・・・・・・
「まあ、行くだけならね。」
*
「はあ、コレどうしようまじで、、、、」
「お、明久。」
「あ、妹紅さん。どこに行ってたの?」
「私のことはいい。それより、屋上に行ってくれ。」
「屋上?いいけど、、、なんで?」
「まあ、行けばわかる。」
「?、わかった。」
ー
「っと。」
屋上までの階段を登りきる。
「あれ?」
屋上へ行く扉がもうすでに開いている。
「誰かいるのかな。」
とりあえず、扉を抜ける。
空が夕暮れ色に染まり始めている。
沈みかけている太陽に影が映る。
よく見ると、そこに誰か人がいるのがわかる。
そして、すぐ誰なのかがわかる。
特徴的な髪型。女子の制服。それだけでわかる。
「島田さん?」
「ーえ?」
その人影が振り返る。
ああ、やっぱり島田さ・・・え?目に何か…
「泣いて、」
「や、泣いてないわよ!?」
慌てふためく島田さん。おかしい、いつもの凶暴性はなんとやら。
こういうしおらしい対応は僕も慣れないなぁ。
「あ、ごめん。何かあった?」
「ううん。気にしなくていいのよ。」
首を振る島田さん。こうしてみると、島田さんも一人の可愛い女の子なんだなぁ、、ってそうじゃなくて、
「あ、その…」
「何よ。」
うーん、切り出しずらい…
「何よ。早く言いなさいよ。」
「え、えっと、そう!戦争は無事勝ったよ!」
「知ってるわよ。」
あ、そうですよね。
「あ、えっと…」
「何よ。何もないなら帰るわよ。」
それはまずい!
「ちょっと待って!」
その時、つい手を開けてしまい、ぬいぐるみが落ちてしまう。
「あ。」
「え」
まずい。
「いや、これは別に僕が盗んだわけじゃなくて、その!」
「知ってるわよ。バカ。」
「へ?」
あ、そっか。島田さんは根本君から話を聞いていたっけ。
島田さんがぬいぐるみをとる。
「あ、ごめんそのぬいぐるみ、目が…」
正確には口も少し引き裂けちゃっているし、片目のボタンは完全に外れてしまっている。
「いいわよ。」
島田さんは、ぬいぐるみを抱き抱えて言う。肩が少し震えている。やっぱり悲しかったのかな。
くそっ、根本のやつ!
やっぱりもう一回ボコボコにしに行こう。
島田さんはぬいぐるみをポケットに入れて、こっちに向き直る。
目が少し赤いのは、見間違いではないだろう。
「島田さん、」
「ありがとう。」
体が重くなる。その数秒後に僕は、抱きつかれたと言うことを理解する。
「ふぇ!?」
「本当に、ありがとう。」
いや、その。なんと言いますか、女の子としての軽さだったりとか、柔らかい腕だったりとか、なんというか。
顔が目の前にある。
息遣いが間近に聞こえてくる。
動悸が激しくなる。こう、間近で見ると、島田さんは本当に可愛い女の子なんだと感じてしまう。
「あの、島田さん。」
「・・・・・美波ってよんで。」
はい?
「美波って呼んだら離れてあげる。ウチはアキって呼ぶから。」
「み、美波?」
「うん!」
美波が離れる。その顔に浮かんでいたのは満面の笑みだった。
何か他のことも要求されていたのは気のせいだろう。
「ありがと!アキ!」
ニコッと笑って言う美波。くそ、可愛い・・・だと!?
「それで、そのぬいぐるみは大丈夫なの?」
「まあ、コレぐらいならなんとかなるわ。」
ぬいぐるみを愛おしそうに抱く美波。
妹さんがそれで喜んでくれたらいいんだけど…
「ともかく、ありがとう。」
「あはは、いいよ。僕がやりたくてやったことだし。」
と言うか正直そんな丁寧な感謝には、僕も照れてしまう。
「でも、嬉しかったわ。」
「う、うん。」
なんか美波がどんどん女らしく、可愛くなっていく。
女らしい美波なんて美波じゃないよ!
と声を大にして言いたい。でも、言ったら殺される。間違いなく。
「じゃあ、行こう!アキ!」
「え?」
「え?じゃないわよ。このあと、ホームルームがあるって言ってたわよ。慧音先生が。」
「あ、そっか。」
それを言ったところで、美波が何かを思い出したように「あっ」と声を出す。
「ところで、アキに聞きたかったことがあるんだけどぉ〜。」
「ん?なに?」
すごく満面の笑みをする美波。その時、背中に強烈な悪寒が走る。
「慧音先生と、留学生。」
コレはまずいやつだ。
美波が手をポキリとならす。
「あの二人と一体どういう関係?」
その言葉が終わる頃には僕はもうすでに屋上への扉に入っていた。
「待ちなさい!アキー!」
「お許しください美波様〜!」
うん。やっぱりこれがいつもの美波だね。
「なんで逃げるのよアキ!それじゃやましい事があるって言っているようなものよ!
「美波が追いかけるからじゃん!」
「アキが逃げるからでしょ!」
ー
二人が去った屋上で、声が響く。
「これでよかったの?」
相対する妹紅にそう問うのは上白沢慧音。
「明久は、人間の子供だ。私たちみたいな歪んだ者達とではなく、こっちの世界の人といるべきだ。」
「・・・・・」
「島田美波。あの子は普通の子だ。私は彼女を応援するさ。」
「ふーん。」
まあ無理しているようにしか見えないけどな。
さっき島田さんが抱きついていた時だって血が出るくらいの強さで拳を握りしめてたし。
かくいう私もいい気分にはならないけれども。
「お互い素直になれないな。」
「…なんか言ったか?」
「別に。」
ま、私はホームルームに戻りますか。
─
ひまわりの咲き乱れる花園に彷徨う少年の前に
『守り人』は現れる。
『守り人』は花園を荒らすものを許さない。花園に迷い込んだ者には誰であろうとも、何をしていようとも、手痛い制裁を与える。それがたとえ小さい子供であろうとも。
しかし今回は違った。
少年の魂の『色』に惚れ込んだ『守り人』は少年を攫おうとした。
それが少年と━━━の最初の出会い。
─
「〜〜について、〜〜」
慧音先生のホームルームは、僕が戻ってすぐに始まった。
内容は細々とした連絡事項。だから、僕は雄二たちと少し話していた。
「次はAクラスだね、雄二。」
「ああ。」
「しかし、大丈夫かのう…」
「・・・・・・差は明瞭。」
「大丈夫だ。このメンバーなら確実に勝てる。隠し球はまだあるしな。」
隠し球?
「それってなんのこと?」
「お前・・・いや、知らないままでいい。」
「?」
「のう、明久。お主、壁のことについてはどうなったんじゃ?」
「あ、そのことはね・・・」
慧音先生が説教役を担ってくれたんだよね。
「まあ、不問ってことになったよ。」
「ふむ。ならいいのじゃがの。」
「こら、そこの4人!ちゃんと聞いてるか!」
おっと、まずいまずい。
「じゃあ、残りは明日話すか。」
「そうじゃな。」
「・・・・了解。」
「うん。」
そして、ホームルームに集中しようとした時、
ガラッ
『鉄人!?』
「鉄人と呼ぶなぁ!」
ドアから入って来たのは補修の鬼、鉄人こと西村宗一。今日も相変わらず化け物のような体をしている。
「西村先生、どうされました?」
「ああ、研修生の紹介をしにきてな。」
「ということは来たのですね。」
「あとはここだけなのだが…ホームルームが終わってからでも大丈夫ですが…」
「いえ、大丈夫です。」
前で教師同士で話す慧音先生と鉄人。
「ほう、研修生じゃと。」
「へぇ。どんな奴なんだろうな。教科次第では使えるかもだが。」
「・・・・・・」
新任教師かー。慧音さんにつづき、今年は新しく入る人が多いなぁ。
「入って来てください。」
だみの効いた鉄人の声と共に入って来たのは、
「綺麗な人…」
思わずそう呟いてしまうほどには綺麗な女性だった。
『女性!』
『やっぱり綺麗!』
『くそっ、俺は慧音さんを裏切るわけには…!』
髪は染めたようには見えない緑髪。手に持った傘のようなものが似合うような、深窓の令嬢のような雰囲気には似つかないどこか残忍な目をした女性。
そんな彼女を僕はただ『綺麗だ』と思った。
心がざわり、と鳴る。さっきから何かを思い出せそうで出てこなくてとてももどかしい。
研修生の女性が教壇に立つ。その時、確かに目が合ったような気がした。
「風見幽香です。科目は生物を教えます。みなさん、短い時間ですが、よろしくお願いしますね?」
その妖艶な雰囲気に声を出せた生徒は、いなかった。
「幽香…」
ふと口から出た呟きを僕は無意識に認めていた。
何かを思い出した。そんな気がした。
それで…
「幽香さんも来たんですか。」
「ええ。私、慧音と妹紅ぐらいしか知り合いがいなくて。」
同居人が一人増えた。
「よろしくね明久。」
彼女は、あちら側の人間だった。
うん、だと思った。
その夜は久しぶりに夢を見なかった。
*
「それで、見つかった?」
「見つかったけど逃げられたわ。邪魔が入っちゃって。」
「その邪魔っていうのは、明久かしら?」
「・・・・・見てたの?」
「いや?今回は見てないわよ。でもその反応を見るに図星みたいね。」
「『今回は』ね。」
「ええ。あなたの気性ならいつかこの世界の人間を殺しかねない。この世界との確執はできるだけ生みたくないのよ。」
「・・・・・明久が戻ってこれば」
「その凶暴性が治る?」
「・・・かもね。」
少女は今日も夜を駆ける。その目には狂気が宿っている。その狂気はどこへ向かい、どこに消えていくのか。それは神のみぞ知る。
*
空を飛ぶ二つの影。それらに振り回されるは一人の少年。
片方は箒を、また片方は背中に生やした翼で逃避行を楽しんでいる。それらを追う影が世界の輝きを止める。止められた世界は絵画の如く。そんな世界で息をするのは少年と一人。給仕の格好をした女性だけ。退屈を持て余した者たちの夜は今日も優雅に過ぎてゆく。
*
「まずはみんなに礼を言いたい。周りの連中には不可能だと言われていたことにも関わらずここまで来られたのは他でもない、みんなの協力があってのことだ。感謝している。」
ついにAクラス戦!という時、
雄二が今までにもない感謝をする。
「ゆ、雄二、いったいどうしたのさ。らしくないよ?」
「ああ、俺もそう思う。だが、これは俺の素直な気持ちだ。」
まあ、確かにFクラスなんかがよくここまで来れたよね。
「ここまで来たからには絶対Aクラスに勝つぞ!勉強が全てじゃないってことを教師達に見せつけてやるんだ!」
『おおー!』
『そうだー!』
『勉強が全てじゃねー!』
みんなの気持ちが一つになっているのがわかる。
「みんなありがとう。そして、件のAクラス戦だが、これは一騎打ちで決着をつけようと思う。」
先日の昼食時に聞いていた僕と妹紅さんその他数名以外は、驚いたのか、ざわめいていた。
『どう言うことだ!?』
『誰が一騎打ちをするんだ!?』
『勝てるのか!?』
「落ち着いてくれ、それを今からー」
ガラッ
え?
教室のドアが開く。そこから出てきたのは、
「ムッツリーニ、どうかしたのか?」
土屋康太こと、ムッツリーニ。確か今はAクラスの監視をしていたはずだけど…
ムッツリーニが雄二に近づき、耳打ちする。
「・・・・何?」
雄二の表情が変わる。何かまずいことが起こったようだ。
「何かあったのかな?」
横にいる妹紅さんに聞く。
「私もわからんが…まずいことが起こっているのは、わかる。」
どうやら妹紅さんにも見当はつかないようだ。
「失礼するわ!」
その時、扉がたたき開けられる。その扉にいたのは、二人の女の子。
青紫色の髪に小さい頭身、自信の満ちた表情をした少女、
そしてその後ろにまるで従者の如く控えるのは、長身に銀髪の髪。そしてまっすぐな鋭い瞳をしている女性。
『どっちも可愛い!』
あ、はい。そうなりますよね。
「ここのクラスの代表は?」
「え?ああ、前にいるゴリラだよ。」
「殺すぞ。」
さて、ゴリラ(雄二)の戯言は聞き流すとして、
「あなたがFクラス代表さん?」
「あ、ああ。俺がこのクラスの代表の坂本雄二だ。」
壇上の雄二と向き会う少女。というか頭身差がすごいな。
「私たち、AクラスはFクラスに宣戦布告するわ!」
「だろうな。」
へ?
どう言うこと?というか、彼女同じ学年!?
「とりあえずここから移りましょうか。」
もう一人のまるでメイドさんのような女性がそう提案してくれる。と言うのも、ここはFクラス。女子が入ってくるととりあえず発情する獣達の集まりだ。
「そうだな。明久、来てくれ。」
雄二に呼ばれる。
「じゃあ、行ってくるよ妹紅さん。」
「あ、私もついていっていいか?」
「へ?」
うーん、雄二が許してくれるかなー。
まあ、大丈夫か。
「いいよ。じゃあ行こうか。」
そうして二人で行こうとすると、後ろから肩を叩かれる。
「って痛ぁ!」
全くひどいじゃないか!誰がこんなこと・・・って
「島田さん!…と秀吉?」
「私たちも連れていって、くれるよね?」
「わしは連れてこられただけなんじゃが…」
「それで…なぜあなたがたが…?」
「このバカの引率よ。」
「わしは連れてこられただけなんじゃが…」
今僕たちはAクラスにて、交渉のテーブルに立っている。
メンバーは僕、雄二、妹紅さん、美波、秀吉の5人だ。
対する相手には、
「お?明久!久しぶりだな!」
金髪碧眼の少女。少し勝気な明るい笑みを浮かべ、ふんぞりかえっている女子生徒霧雨魔理沙さん。
うん、多分彼女も妹紅さんと同じの僕の昔の知り合いだろう。
「なんだ明久、お前Aクラスにも知り合いがいたのか。」
「いや、覚えてないんだけどね…」
「雑談はそこまでにして、話を進めましょう。
そう話を始めてくれるのは白髪に丸でメイド服のように改造された制服を着ている、十六夜咲夜さん。
思わず見惚れてしまうくらいには綺麗という言葉が合う女性だ。
「それで、そっちの交渉役はお前ってことでいいんだな?」
「お前と失礼ね。私は泣く子も黙る吸血鬼、レミリア・スカーレットよ。たかが人間が私にお前呼ばわりは不敬と心得なさい。」
「…なぁ、」
「お嬢様はこう言うお年頃なんです。」
「お、おう。」
十六夜さん、それは無理があるよ…
ところで『お嬢様』って…なに?子供の遊び、みたいな?
その『お嬢様』呼びされていたレミリア・スカーレットさん。小学生のような等身に特徴的な紫色の髪。それから頭に被っているよくわからない帽子。なんというか、ランドセルをつけたら小学生に見えそうだ。
にしてもこんな幼いのにもう厨二病を発症しているのか。うん、将来有望そうだね!
「んで、レミリア、だったか?こちらから一つ要求をしてもいいか?」
「あら、いいわよ。何かしら?」
「勝負は代表同士の一騎打ちを要求したい。」
「ダメね。」
「いや、それはダメだろ。」
スカーレットさんと霧雨さんから一瞬にして否定される。でもそれはわかっている。
ここであの条件を出せば!
「だろうな。」
「え?雄二?」
「あの条件はどうなったのじゃ!?」
聞かれた雄二は苦しそうな顔をしていた。
「・・・・Bクラスはもう倒した。」
おわ!誰だ!?
「っ翔子!」
声が発生した方に振り向くと、そこには2年の首席であり、Aクラス代表の霧島翔子さんが立っていた。
「やってくれたな。」
「・・・・雄二が何か企んでいるのは知ってた。」
憎憎しげに霧島さんを睨む雄二。何か因縁でもあるのかな?
「でも、意外だな。お前がそんなにこっちを警戒しているなんてな。てっきりAクラスは高みの見物をかますものだと思っていたんだが。」
「・・・・・動いたのは私じゃない」
「私です。」
十六夜さんがお辞儀をする。なるほど、仕事ができるタイプの人っぽいとは思ってたけど、まさかこっちの動きを予測されてたとはね。
うーん、まずいな。このままだと一騎打ちに持ち込めない。
「・・・・・条件次第なら譲歩してもいい。」
突然霧島さんが呟く。
「本当か!?」
雄二が食いつく。
情けない行為のように思うが仕方ない。ここでこの条件を通せなかったら確実に負けてしまう。
「・・・・うん。その条件なんだけど、」
「ちょっと待って、代表さん。」
霧魔さんの言葉にストップが入る。
「なんで、代表さんのみが戦う流れになっているのかしら?」
「・・・・・何で止めるの咲夜。」
「Fクラス代表がわざわざ一騎打ちを申し込んだということは、それだけの勝てる見込みがあるから、ってことだろ?」
「その通りよ。魔理沙。」
さすがはAクラス。しっかりこっちの考えることをわかっている。でも、その勝ち目が何かまでは知らないようだ。
ー
『一騎打ちだって!?』
確かに、クラス間の戦争という点では、代表同士の戦いは当然だ。
それは理解できる。
でも、正直、雄二がどうやって勝つのかはわからない。
と言うか…
「バカの雄二が勝てるわけないだろぉぉーー!!!」
思わず口に出してしまっていた僕の頬をカッターを掠める。幸い、それは妹紅が掴んでくれたけど、殺す気なの!?
まあ、でもさすがの雄二も友達を殺すなんて…
「次は耳だ。」
僕は友達ではないようだ。
「あの野郎…次明久を攻撃してきたら焼く!」
妹紅さんは妹紅さんでストップ。女の子が焼くなんて言葉使っちゃいけません!
それに殺すのは僕だ。
「まあ、明久の言う通り、翔子は強い。まともにやりあえば、勝ち目はないかもしれない。」
白々しくも話を続ける雄二。
そこで認めるならさっき僕に攻撃した意味は一体なんだったのだろう。
「そこで、一騎打ちの場ではフィールドを限定するつもりだ。」
「フィールド?って一体なんの教科でやるつもりなんじゃ?」
「日本史だ。」
日本史?でもそれは霧島さんの苦手科目でも、ムッツリーニの保健体育ような雄二の得意科目でもないはずだ。
「内容は限定する。レベルは小学生レベル、方式は100点満点の上限あり、召喚獣勝負ではなく、純粋な点数勝負だ。」
小学生レベル?
そんなの満点が当たり前だから延長戦でジリ貧になるだけじゃない?
「もちろん、運に頼り切った作戦じゃない。相手のミス待ちをするつもりもない。これは歴とした作戦だ。」
うーん。気を逸らしたり、とか?
でも、雄二はそんな安っぽいことは言わない。
何か裏付けの取れる確実な手段があるのだろう。
「それはなんじゃ?雄二。」
「ああ、それはな…」
ー
「・・・・それで咲夜は何をして欲しいの?」
「私は今から言うことを条件に加えて欲しい。それだけです。」
十六夜さんはそういうと、まるでカンペを読むようにスラスラと話し始めた。
「勝負は5対5のそれぞれ一人ずつの一騎打ち。
先に3回買った方の勝利。
そして最後に…」
そして僕の方を見て言う。
「この勝負に負けた場合、吉井明久はお嬢様の専属執事となること。」
「・・・・・はい!?」
え?なんで僕が執事!?
・・・というか試召戦争と関係なくない?
「・・・・・最後のは私の条件で叶えられる。それ以外はわかった。」
どうやら霧島さんの『条件』ではそれを叶えることが可能らしい。
「条件はなんだ、翔子。」
「・・・・うん。」
霧島さんは雄二を見つめていう。
「・・・・・一騎打ちで負けた方はなんでも一ついうことを聞く。」
なるほど、それなら確かに十六夜さんの要望を叶えるのも可能だ。
というかいまだに僕はその要望の意味をよく理解できてないんだけど…
「・・・・・・・・・(カチャカチャ)」
「うお!ムッツリーニ!」
霧島さんの言葉に思わず出てきてしまったようだ。というか、やっぱりいたんだ。全然気づかなかった。
「その条件はのむ。」
って雄二!そんなあっさり了承しないでよ!
負けたら何をされるかわかったものじゃない。
「ただし、教科選択の権利はこっちに譲れ。」
あ、でもそれがあるなら…まだマシかな。
「・・・・そっちに1個譲る。」
「4個だ。」
「・・・・・2つ。それ以上は譲れない。」
「3つだ。それから代表戦の勝利で要求できる回数は2回。これ以上は飲めん。」
「・・・・それでいい。」
「え?雄二はそれでいいの?」
なんで自ら自分の首を絞めるようなことを…
「ああ。どうせ俺が勝つ。」
「またまたー、強がっちゃって。」
「遺言はなんだ?一応聞いておいてやろう。」
おっと。少しからかい過ぎたようだ。この辺でやめにしておこう。
「それで、勝ち目はあるの?」
「ああ。ようやく勝ちの目が見えてきた。」
いつもの野心に満ちた悪役の笑み。
どうやら、勝てる自信が出てきたようだ。
「・・・・時間はいつにする?」
霧島さんが僕と雄二の間にニョキっと生えてくる。すごいな。気配が全然読み取れなかった。何か武術でもやっているのかな?
「そうだな、昼過ぎでどうだ?」
「・・・・わかった。」
にしても独特な雰囲気を持った人だなぁ。話し方はムッツリーニに少し似ているし。
「じゃあ、一旦教室に戻るか。」
「そうだね。クラスのみんなに報告もしたいし。」
交渉を終了し、Aクラスを後にする。
僕らの試召戦争の一幕の終結は間近に迫っていた。
*
「それでは両名、よろしいでしょうか?」
今日の戦争の立会人を務めるのは、これまでの試召戦争でもお世話になっている、Aクラス担任かつ学年主任の高橋先生。
理由は、全科目に対応できるからだ。
「ああ。」
「・・・・問題ない」
一騎打ちの会場はAクラス。まあ、畳のFクラスでやっても格好がつかないからね。
「それでは一人目の方はどうぞ。」
「私から行かせてもらうわ。」
Aクラスから来たのはスカーレットさん。
相変わらずの自信たっぷりの顔に優雅さを添えて上品に歩いてくる。
対するこちらは、
「ウチが行くわ。」
島田さんが行く理由は簡単に言えば生贄だ。
Fクラス内では数学ならばBクラス程度の点数が取れる美波でも、十分大きな戦力なのだが、ことAクラス相手となると分が悪い。
もちろん本人には伝えてないけれど。
要するに、勝っても勝てなくてもどっちでもいいってことだね!
「殺すわよ、アキ。」
まだ言ってないはずなんだけど…
「あら。明久を殺すなんて、何様のつもりなのかしら。」
「何?ウチがアキをどうしようがウチの勝手でしょう?あなたが誰なのかは知らないけどウチとアキの関係に口を出さないでくれる?」
「悪いけどそういうわけには行かないの。」
どうやら彼女たちはあまりウマが合わなかったらしい。
「ウチが勝ったら、アキとの関係についてとやかくいうのをやめなさい!」
「あら。じゃあ、私が勝ったら明久には金輪際近づかないでもらえるかしら?」
いや、それはFクラスにいる手前無理だと思います。スカーレットさん。
「先生!数学勝負でお願いします!」
「承認します!」
「「サモン」」
『 Fクラス 島田美波 数学 223点 』
「どう!ウチも数学でならBクラスぐらいはあるのよ! (日本語が読めなくてもなんとかなるからね…)」
おお、美波すごい。200点越えって、Aクラスの下位の人ぐらいの点数に匹敵してるんじゃないか?
でも、相手はAクラス。
さて、スカーレットさんの点数は果たして。
「あら。最下位クラスの点数には確かに見えないわね。でも…」
スカーレットさんはそう言うと手をかかげる。
あれは…指輪?
「おい、まじか。」
隣にいる雄二がそう呟く。
ってもしかしてあの指輪って!
「『スペルカード』」
一教科で400点を超えた生徒に渡されると噂の!
「『神槍 スピア・ザ・グングニル』!」
スカーレットさんの召喚獣が光り輝く槍を持つ。そして、投げる!
「え、ちょ!?」
その槍は島田さんの反応を超える速さで召喚獣を貫き、消滅した。
「最初からクライマックスよ!」
『 Fクラス 島田美波 VS Aクラス レミリア・スカーレット
数学 Dead 356点 』
「第一回戦、Aクラスの勝利です。」
「ごめん…負けちゃった。」
美波はしょんぼりと戻ってきた。
いつもの強気な態度はすっかりなくなっている。
よし!ここはとりあえず励まそう!
「大丈夫美波!勝っても負けてもどっちでも良かったから!安心して脊髄が砕けるようにいたいいいい!」
「何よ!つまり最初から期待してなかったってこと!?」
怒気を露わにする美波。
おかしい。ちゃんと励ましたはずなのに。
いや、むしろ元に戻ったから励ますのは成功した、のか?
「死になさい吉井いい!」
「その辺にしておけ。バカども。」
「なんだと雄二!美波はともかく僕がバカって言われる筋合いは…!」
「アキ、それ以上言ったら、わかってるわよね?」
背中にかかる力が増す。あ、やばい。このままだと…
「やめなさい。」
突如僕と美波の間に現れた十六夜さんが僕を解放する。
「た、助かった…ありがとう十六夜さん。」
「いえ。」
十六夜さんがシュッとAクラスの陣に戻る。
「何逃げてんのよアキ!」
いや、美波。さすがにそれは理不尽じゃあなかろうか。
「おい、いい加減雑談はやめろ。始まるぞ。」
あ、そうだった。確か次のこっちの選手は…
「妹紅さん!がんばれ!」
「ああ!」
こっちに親指を立てる妹紅さん。
「何デレデレしてんのよ。」
「痴話喧嘩は後にしろ。相手がくるぞ。」
Aクラス側から歩いてくるのは、
ピンク色の長い整った髪。大きな膨らみの胸元に温和な表情。
「姫路、瑞稀」
「ん?あいつ、確かAクラス確実と言われていた姫路瑞稀か?」
「でも、なんで今出てきたのかしら。学年最上位、と言うほど成績が良いわけでもなかったような…」
『かわいい!』 『胸でけー!』
『結婚してくれ!』
「ん?どうした明久。顔色が悪いぞ?」
「あ、いや。なんでもないよ。ちょっとトイレに行ってきていい?」
「いいぞ別に。早く帰ってこいよ。」
*
「・・・・・明久?」
坂本たちと一緒にいた明久が急に教室を出る。
おそらく厠に行ったのだろうが、にしては様子が変だった。
「あの…」
「ん?ああ、すまん。」
やべ。忘れてた忘れてた。
「あ、いえ。大丈夫です。」
前にいる特徴的な髪色の娘。坂本の事前説明では確か…姫路瑞稀?だったか?
「じゃあ、教科を選んでくれるか?今回、こっち側は教科選択権を使うつもりはないからな。」
「あ、はい。わかりました。では、総合科目でおねがいします。」
「「サモン」」
お互いの召喚獣が現れる。
「藤原さん、でしたね。私は先に言っておきます。」
私の方を向いて言う。
「この試合に勝ってわたしは明久くんと話をします。」
手元が光った。そんな気がした。
*
「ぐっ、オェ、ゲェぇ…」
気持ち悪い。
胸がムカムカする。
やっぱり、あの時から変わってない。僕は、まだ…
「大丈夫か?明久。」
後ろからかかる優しい声。
「・・・・・・慧音先生?」
「ああ。大丈夫か?」
そこにいたのは、今授業をやっているはずの慧音先生。
「慧音先生、ここ男子トイレ…」
「え?あ。」
「入っちゃダメだからね?」
「ははは…ところで、何かあったのか?」
「へ!?いや、ちょっと悪いもの食べちゃってね!」
「ん?お前何か食べたっけか?今日の朝は何も食べていないような…」
「あ、あれ?そうだっけかな?あはははは…」
「…まあいい。何かあれば言えよ。」
「大丈夫だって!」
廊下を駆け出す明久。
残された慧音は一人でに喋り出す。
「━━━これでよかったのか?」
慧音の後ろから出てくる人影。
それはAクラスにいたはずの十六夜咲夜。
「はい。」
はぁー。とため息をつく慧音。
「お前はあいつのことが好きなのか?」
「いえ。私は別に…お嬢様の思いびとに手出しはしませんよ。」
「どーだか。にしてもあいつ、一体何があったんだ?」
「さあ?まだわかりません。が、何か隠し事をしているのは事実でしょう。」
「・・・・・何か明久にあったのなら…」
「犯人は晒し首ですね。」
「「・・・・・・」」
───
「ところでこれどうする?」
「私が片付けておきます。」
───
「雄二戻ったよ!状況は?」
「・・・・・・」
返事かない。ただの屍のようだ。
と、そうじゃなくて。
「妹紅さんは?勝った?」
「ん?おお、明久か。すまん。ちょっと現実逃避していてな。」
現実逃避?
「それまた一体なんでさ?」
「前のモニター見てみろ。」
モニターは、Aクラスの施設の一つで、そこには現在の勝敗の様子が映し出される。
モニターを見てみると、2ー0と書かれていた。
「ああ、つまり2回も勝てたから嬉しかったんだ。」
「は?一回戦島田は負けてただろ。何言ってんだバカ。って首は!首はやめろぉぉぉー!」
「明久をバカっていうのはやめろ。」
「妹紅さん!?」
「カオスなのじゃ…」
───
「負けちゃったの!?」
「ああ、すまん。」
正直自分でも驚いてる。
Dクラス相手に一人で勝利し、Bクラス相手に一通路を完全に守ったレベルの実力者の妹紅さんなら相手が多少点数が高いだけなら負けることはないと思ってたんだけど…
「相手ってそんなに強かったの?」
「あー、なんていうかな…」
言いづらそうにポリポリと頭を掻く妹紅さん。
「もしかして何か言われたの!?」
「あ、いや別にそういうわけでもないんだが…まあ、今は私の話よりもむしろこれからどうやって勝つかって話だ。」
「その通りだ。」
「帰れブサイク」
「殺すぞ。」
おっとつい本音が。
いつの間にか生き返っていた雄二が話に加わる。
「ここからの勝ち筋だが、残り2回勝った上で、科目選択権を一つは残さなきゃならない。つまりだ、」
「つまり?」
「俺以外の二人のうち一人は科目を相手に決めさせた状態で勝たなければならない。」
「あ、そっか。」
「そして、次はムッツリーニだ。あいつは科目選択権を使わなければ勝てない。」
うんうん。確かにそうだね。
「最後の一人は、残ったお前か秀吉ぐらいになるわけだが…」
「よし雄二、この戦いは諦めよう!って妹紅さん、つねらないで!?痛い痛い痛い!」
だって無理じゃん!僕じゃどうやったってAクラス相手に科目選択権なしじゃ万が一もないよ!
「秀吉はおそらく万が一にも勝てないだろう。「のじゃ!?」そもそもうちの戦力の中では、あいつは戦いの担当ではないからな。「そ、そうじゃのう。」だが、お前なら勝ち目が0な訳でもない。」
「いや無理だって!雄二も僕の点数は知ってるでしょ!」
「ああ。お前は確かに空前絶後のバカだ。だから俺も絶望していたわけなんだが…って藤原、首はやめろとさっきも…!」
倒れた雄二を尻目に少し考える。正直、相手が数学や化学なんかを選んできてしまったら、間違いなく負ける。相手が油断して適当な科目を選んでくれて、あの教科である可能性も低い。
「だからだな、」
「雄二、僕は今考えてるから話しかけないで。」
「お前が考えても何も生まないだろ。」
「なんだと?これでも一応…」
「まあそういきり立つな。こっちにも考えがある。」
「考えって?」
「それはな・・・」
───
「えぇ?ほんとにそれだけで十六夜さんが?無理だと思うけど…」
「まぁいいからやってみろ。ほれ。ちょうどムッツリーニは勝ったみたいだぞ?」
ちょうど凱旋してきたムッツリーニと入れ替わりにフィールドへと向かう。
ディスプレイには2−1を示している。
さすがはムッツリーニ、保健体育できっちり勝利したようだ。
「相手は明久ですね。それでは私が…」
Aクラス側から来たのは咲十六夜さん。
なんというか、本当にただ感じただけなんだけど、なんかコスプ
ストン
「何か?」
すいません、もう何も思わないし言ったりもしません。なので許してください。
「さて…でははじめ「ちょっと待って」なんでしょうか?」
とりあえず十六夜さんを一旦止める。そして僕は今雄二から言われていた作戦を思い出していた。
────
「さて、明久。相手はAクラスだ。つまり挑発などに乗ったとしても教科を適当に選ぶような愚策は犯さないだろう。そこでだ。」
スッと僕に差し出してきたのは一枚のメモ。そこにはだいたい200文字ぐらいの文章が書かれていた。
「これを読め。それだけで相手は勝手にバカをやってくれる。」
────
そして僕の手には現在そのメモがある。
雄二はこれを読めばいいって言ってたけど何が書いてあるんだろ?
まあ、ものは試しとメモを読み始める。
「わ、た、く、し」
なんか文字が一つ飛ばしになってて読みづらいなぁ。
「よ、し、い、あ、き、ひ、さ、は、さ、く、や、を、こ、こ、ろ、か、ら、あ、い、し、て、い、ま、す。」
「「「「「「!?」」」」」」
「つ、き、ま、し、て、は、そ、う、ご、う、か、も、く、で、ま、け、た、ら、わ、た、し、は、あ、な、た、さ、ま、の、ど、れ、い、に、な、る、こ、と、を、こ、こ、に、ち、か、い、ま、す、ってあれ?十六夜さん、どうしたの?というかみんななんでそんな顔を…」
「明久…咲夜が好きだったの!?」
「どういうこと!?アキ!」
何かわからないが、スカーレットさんと美波が何か騒いでいる。
あとなんか十六夜さんが赤い顔をして顔をおさえている。風邪?
「明久、つなげて読んでみろ。」
「え?別にいいけど…」
つなげて?あ、そっかこれって文章だったのか。てっきりなんかの暗号かと。
「えーっと『吉井、明久は昨夜を心から愛、していますぅ!?』ちょっっと!雄二これどういうこと!?」
「いいから読んでみろ。」
なんかとても嫌な予感がする。
「『つきましては総合科目で負けたら私は貴方様の奴隷!?になることをここに誓いますぅ!?』」
ちょっと待って!僕こんなこと言ってたの!?
「ごめん!十六夜さん、違うんだ!これはその…雄二が僕をはめたんだ!」
「え?明久が奴隷?そんなのよくは、いやいいのでしょうか?でもお嬢様が…私は一体どうすれば…」
まずい。どうやら十六夜さんはショックで僕の声が聞こえていないようだ。
「いやー明久、さすがだナー。こんな場所で熱烈に告白してしまうなんテー。」
よし。あとであいつは必ず殺そう。そうしよう。
「明久、様」
「はいぃ!」
十六夜さんが声を出す。ようやく正気を取り戻したようだ。
「その、総合科目で良いのですか?」
「へ?そうしてくれるのは僕としてはありがたいけど…」
「では…総合科目でお願いします!」
あれ?怒ってないのかな?まあうまく行った、ってことにしておこう。ここで突っ込んではいけないと僕の第六感がそう呟いている、気がする。
「では、承認します!」
「サモン!」
『 Aクラス 十六夜咲夜
総合科目 8926点 』
「た、高い!」
「教師並みじゃないか!?」
「あんなのに勝てるのか!?」
「一太刀で終わりにして差し上げます!」
9000点近くの点数をしたミニチュアサイズの十六夜さんがナイフを掲げてダンプカーよろしく突っ込んでくる。
「アキ!」
ガキン!
「終わった…か?」
「くそっ、吉井隊長!」
「いいや。明久はこんなとこで終わるようなやつじゃない。」
「あら?」
十六夜さんの突進によって巻き起こった粉塵の後には、何も残っていなかった。
「甘い。」
十六夜さんの召喚獣の後ろに黒い影が現れる。
「!?しまっ」
ザスッ
仕留めーてない!
木刀は脇腹に当たるも、真芯を逃して直撃にはならなかった。
『 Aクラス 十六夜咲夜 VS Fクラス 吉井明久
7581点 3678点 』
『さ、3678点!?』
「あいつってFクラスだよな!?」
「観察処分者がなんでAクラス上位ぐらいの点数を!?」
「カンニングか!?」
カンニングとは失礼な。これは歴とした僕の点数だ。
ところで十六夜さん、なんでそんなに操作上手いんですかね。点数も訳わかんないくらい高いし。8900点ってなんですか?
「さすがは明久様。これは、指輪を使った方が良さそうですね。」
「あはは…お手柔らかに。」
これ、本当に勝てるのかな。
*
「ねえ坂本、どうしてバカのアキがどうしてあんな点数を取っってるの?カンニング?」
「おい、明久は馬鹿じゃない。撤回しろ。」
「おい、痴話喧嘩は外でやってくれ二人とも。」
はぁ…こいつらは。明久がもうちょっと手綱を握れるぐらいのやつならよかったんだが。
「あいつの点数は本当だ。だが、からくりがないわけじゃない。」
「ほら、やっぱりそうじゃない。アキのことだからどうせそうじゃないかと思っていたわ。」
「おい、いい加減にしないと焼くぞ?」
「一旦落ちつけ二人とも。ったく、からくりっていうのは不正のことじゃない。」
「じゃあどういうからくりなのよ。」
「結論から言うとだな、あいつはムッツリーニみたいなタイプなんだよ。」
「て言うことは何か一つの教科が突出しているってこと?」
「いや、ちが、まあ、部分的には合ってるのか?」
「どう言うことよ。」
「つまりだな、」
「明久は3教科であの点数を取ってるんだよ。」
その言葉の直後、ものすごい爆風が召喚フィールドを超えてFクラス陣、Aクラス陣を襲った。
*
「ふふっ、楽しいですね。」
「いや、僕はそんなに…」
十六夜さんの召喚獣がナイフを一本投げて来る。
そして次の瞬間、
「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』」
クナイが100を超える数となり、襲いかかってくる。
「逃げろぉぉーー!!」
一応、相手も指輪で点数が多少減っているものの、そのデメリットを感じさせないようなレベルの能力だ。
「よっ、ほっ、とうっ!」
100を超えるナイフの飴を隙間を縫うように通り抜けていく。地面に刺さったナイフが次々に爆発していき、召喚フィールドを壊すような爆風があたりを押す。
そしてその爆風から出て来る一本の光
「まっず!」
なんとか体勢を横にそらす。
しかし、上からくる一本のナイフと正面から来たナイフがそれぞれ両肩に刺さる。
「──っつぅ!」
両肩が吹き飛ばされたような痛みを出す。これは、他の生徒は感じようのない観察処分者のみに課せられた痛みだ。
その痛みは現実の痛みをゆうに超える痛みで、僕は思わず両肩を押さえてしまう。
『Fクラス 吉井明久 VS Aクラス 十六夜咲夜
総合科目 6987点 2492点 』
「アキ!」
「…明久。」
「あら、お熱いですね。」
?熱い?
「確かに痛いけど…熱いって言うほどでは…」
「・・・・・そういえば貴方はそう言う人でしたね。」
???
「さて、無駄話もここまで。」
一瞬軟化した十六夜さんの雰囲気が再び鋭くなる。
「これで決めます。」
その次の瞬間、本能が警鐘を鳴らす。『次の攻撃を喰らったらまずい』と。
しかし、咄嗟の指輪は間に合わない。
「『咲夜の世界』」
その瞬間、世界の時が止まった。
───
『昨夜の世界』、それは十六夜咲夜の持つスペルカードの中で最も反則とされるもの。それはシンプルな時止め。『昨夜の世界』を発動した瞬間、周囲の世界の動きは止まり、咲夜を除いて誰も動くことは叶わない。
召喚獣の場合でも、同じことができるようになっている。召喚獣の能力ですら、周りは動くことができない。
しかし、それゆえに代償も大きい。
『Aクラス十六夜咲夜
総合科目 3892点 』
3000点以上もの点数の消費を代償にこの技は放たれる。
そのため、余裕があるうちに使わなければ逆に自分がしっぺ返しを喰うことになる。
しかし、7000点近くあった点数を消費することにより、彼女はこの戦いに王手をかけようとしていた。
メイド姿の召喚獣がナイフを取り出す。
そしてそれを相手の召喚獣に投げる。
明久の召喚獣は抵抗する術もなく点数が削れていく。
2300、2200、2100・・・・・・・・・・・1100。
「これで、」
咲夜の召喚獣がナイフを展開する。
「終わりです!」
何十本というナイフが明久の召喚獣へと飛び、ささ
「かかった。」
ることはなかった。
明久の召喚獣が突然動き始める。
素早くナイフの隙間を縫うように近づき、咲夜の召喚獣に木刀を打ち込む。
「なっ、」
『Aクラス 十六夜咲夜 VS Fクラス 吉井明久
総合科目 3290点 1094点 』
「やられましたね。狸寝入りだったとは。」
「あはは、そうだね。(実は痛みで気付いたって言うのはいなかったことにしよう。)」
「なるほど。こっちが警戒していたのもわかっていたのですね。」
「う、うん。そう、だね。」
その言葉と共に時間停止が終わる。
周りの生徒たちは一部を除いて時間停止が行われたことに気づいていない。
なので、普通に応援しているだけ。
この一瞬だけで試合が一気に進んだともわからずに。
「さて、ここまで追い詰められたら僕も使うしかないかな。」
しかし、この後時間停止時を超えるほどの激戦が来ることを周囲の生徒は知らない。
そんなことはつゆ知らず、吉井明久は指輪を掲げた。
その時、脳に頭痛が走る。
「ぐぁっ、なんだ!?」
頭に流れ込んでくるのはまるで説明書。脳に強制的に使い方を教えられたかのようにみるみる自分に備わっていくのが感じられる。
────
「貴方の程度の能力は純潔を司る程度の能力。でも、純子の能力とはまた違う、貴方であるがこその能力。」
「じゅんけつ?」
「今の貴方にはわからないかもね。でも、それはあなたに本当に合った力。大事にしなさい。」
────
「スペルカード、愚直『ブースト』」
僕の指輪の能力、『ブースト』
まっすぐに、際限なく『ブースト』することができる。
今の僕の実際の力は10000点。つまり表記上の10倍以上の強さだ。
しかし、これを発動している間、点数は減り続ける。
現に今すでに僕の点数は1000点を切った。
つまり、この能力は
「いくよ。」
短期決戦のためのモノ。
コンマ1秒と言う間に十六夜さんの間合いに入る。
「っ!?」
「愚直『即突』」
それは言ってしまえばただの上段斬り。しかし、そこに宿るオモイは見た目以上の威力をその剣に与える。
『Aクラス 十六夜咲夜 VS Fクラス 吉井明久
総合科目 0点 762点 』
誰も声をあげなかった。いや、あげられなかった、というべきだろうか。たった二人の生徒のたった5分の試合に、Aクラス、Fクラス共に度肝を抜かれる結果となった。
「勝った、よ。雄二。」
ハハ、と笑いながら僕は倒れた。あれ?おかしいな。体の操作がうまく効かないや。
うっすらと見える目から妹紅さんが駆け寄ってくるのが見える。その顔、目を見て何か思い出した、そんな気がした。
しかし、それを確認する前に僕は意識を失った。
*
勝った、のか?
俺は、今の目の前の光景に流石に驚かざるを得なかった。
正直なことを言うと、俺は明久が勝つか負けるかどうかは半々というところだった。それが十六夜咲夜の点数を見て、無理だと確信した。
8920点、そんなの教師の域すら超えている馬鹿げた点数だ。いくら昭久が3000点超えで操作に長けていても勝てないと踏んで、次の手を考えていた。
が、あいつは勝った。
途中の動き、そして指輪を使った圧倒的な攻撃。あれだけで明久の評価がひっくり返るぐらいには強力なものだった。
だが、途中のあいつはまるで別人のような顔をしていた。
まるで別の世界の別のナニカを見つめている、そんな目をしていた。
「まあ、いいか。んなことより、」
俺はAクラスに向かって提案する。
「このバカがここまでやったんだからな。それに返さないってのは申し訳が立たねえよな。」
こいつに負けるってのも癪だからな。
小学生向けか…まあ解けるだろう。
このあとすぐ、この慢心がその身を滅ぼすことを彼はまだ知らない。
*
「化け物…」
誰かがそう呟いた。
言葉の矛先にいるのはまだ年端も行かぬ少年。しかし、彼を襲ったのは畏怖、拒絶という名の賛辞。
ある時は教師から。
「お前は化け物だ!」
ある時は同級生から。
「近寄るなばけもの!」
ある時は初恋のあの子から。
「ば、ばけもの…!」
そしてある時は親から。
「あなたは…化け物…うちの子じゃない!」
そしてさらにはいつも可愛がってくれた姉から。
「バケモノ…」
この世界では誰も僕のことを受け入れてくれない。認めてくれない。必要としてくれない。
僕はいらない子なんだ、そう彼は絶望した。
世界から忘れられ、拒絶したものに世界は慈悲を与えない。
別の世界に押し付ける。
「なんだろうこの光…」
その世界では必要とされなかった者たちのみが集まる楽園。
それは、人、動物、妖怪、道具、食べ物、さらには神であろうとも例外ではない。
そして彼もまた、その仲間入りをしたのであった。
その身に宿した『異能』とともに。
*
「ん…」
「!明久、起きたか!」
「妹紅、さん?僕は…」
「勝った。よくやった。」
その声は…
「雄二?」
「ああ。あとは俺だけだ。」
そうか、勝てたのか。でも、あの攻撃方法、どこかで…
「明久、体の調子は?どこか怪我は?」
「大丈夫だよ妹紅さん、ちょっとブーストの反動が来ているだけで、問題はないよ。」
まあ、体が痛すぎてろくに動かせやしないんだけどね…
「よかった…」
安心したように息を吐く妹紅さん。心配かけちゃったかな。
「それじゃ雄二、頼んだよ。」
「ああ、任せとけ。」
雄二が行く前にこっちを向いていう。
「改めて言うが、お前には感謝する。ここまで俺をこさせてくれてな。」
「雄二…」
やっぱり君ってやつは。
「さすがだ。ムッツリーニ。」
「僕の感動を返してっ!」
「お?明久いたのか。」
「さっき起きた時話したじゃん!」
「よし、行くか。」
「無視しないで!」
全く。最後まで締まらないなぁ。
「それでは最後の勝負日本史を行います。参加者の霧島さんと坂本くんは視聴覚室に向かってください。」
高橋先生の招集。最後の戦いが始まる。
「・・・・はい。」
「じゃ、行ってくる。」
二人が戦場へと向かう。
代わりに僕たちはAクラス設備のモニターで見れる。
『ではこれが問題です。制限時間は50分。満点は100点です。』
あ、慧音先生だ。日本史担当だからね。あとは小学生向けの意味を慧音先生が理解しているかどうか。まあ、もうここは祈るしかないね。
『不正行為は即失格です。それでは…始めてください。』
「始まったわね、アキ。」
「あの問題が出ているかどうか、それにかかっておる!」
「出てなかったら多分雄二は」
「負けるわね。間違いなく。」
「じゃが出ておれば…」
「「「勝てる(のじゃ)!」」」
誰もが固唾を飲んでディスプレイを見る。そんな中問題が表示される。
Fクラスメンバーの緊張感が高まる。
出ているのか、出てないのか……!?
《次の( )に正しい年号を記入しなさい。》
( )年 平城京に遷都
( )年 平安京に遷都
さすがは小学生レベルの問題。寝ててもわかるような問題だ。
慧音先生!信じてるよ!
( )年 鎌倉幕府の成立
( )年 大化の改新
慧音先生、愛してる!!!!!
ー
「?なんかいい気分になったような…気のせいか?」
ー
「アキ!」
「明久!」
「うん、これで…!」
『システムデスクだ!』
Fクラスのみんなで揃って言う。
『俺たちの勝ちだ!』
「…あれ?そういえば坂本って勉強してたか?私はろくに見てないような…」
霧島翔子 97点
坂本雄二 53点
Fクラスの机がみかん箱になった。
バカテスト最終問題 特別日本史小テスト
[最終問題]
問 次の括弧の中に入る正しい年号を記入しなさい。
『( )年 キリスト教伝来』
霧島翔子の答え
『1549年』
教師のコメント
正解。特にコメントもありません。
坂本雄二の答え
『雪の降り積もる中、寒さに震える君の手を握った1993』
教師のコメント
ロマンチックな表現をしても間違いは間違いです。
吉井明久、藤原妹紅の答え
『1549年に決まってるだろーーーーーー!!!!!!』
教師のコメント
お疲れ様です。
「3対2でAクラスの勝利です。」
視聴覚室に雪崩れ込んだ僕らに向けた高橋先生の無慈悲な一言。
はい。僕らの負けです。完膚なきまでな敗北でございますありがとうございました。
「・・・・・・・雄二、私の勝ち。」
床に膝をつく雄二に歩み寄る霧島さん。
「・・・・・・殺せ。」
そんな霧島さんに言う雄二。さすが。いさぎが良い、
「わけねーだろ!殺してやるーーー!!!」
「アキ!落ち着いて!」
「これが落ち着いていられるか!第一何?53点って!僕でも満点取れるよ!」
「これがまさしく俺の全力だ。」
「このアホがー!」
「明久、落ち着け。」
むぐっ。
「妹紅さん、本当は嬉しくてもう飛び上がりたいぐらいなんだけど今はもうとりあえず雄二を殺したいんだ。離してくれないかな?」
「ダメだ。お前、このままだとおそらく本気で殺しかねないから、大人しくなるまで離さん。」
ガッチリと腕をホールドされている。
ちっ、今回は運が良かったな雄二。
「っていつまで抱きついてんのよ!アキ!離れなさいよ!」
『あーきひーさくーん』
『アーソビーマショー』
『コロスヨーコロシチャウヨー』
あ、これは僕の方が危ないかも…
「あ?」
妹紅さんのひと睨み。それだけでFクラス男子にあの島田さんでさえ離れる。
妹紅さんは女子なのに本当に男らしいね。男のはずの僕が本当に情けなくなってくるよ。
「・・・・・約束。」
あ、忘れてた。
そういえばそれぞれ勝った方は負けた方に何か要求できるんだっけ?
「・・・・・・・・・・!(カチャカチャカチャ!)」
ムッツリーニ、君は一体何を期待しているんだ。
「分かっている。なんでも言え。」
こう言う時だけ無駄に潔い雄二。くそっ、自分のことじゃないのに調子乗りやがって!
「じゃあ…」
「私と付き合って。」
・・・・・・・はにゃ?
「やっぱりな。お前、まだ諦めてなかったのか。」
「・・・・・・・・私は諦めない。ずっと雄二のことが好き。」
え?何が起こってるの?
どうして霧島さんが雄二みたいな蛆虫なんかに?
「その話は何度も断ったはずだ。他の男と付き合う気は無いのか?」
「私にとっては雄二以外の男なんてどうでも良い。」
「拒否権は?」
「ない。約束だから。今からデートに行く。」
「ぐぁっ、放せ!この約束は無かったことに…」
ぐいっつかつかつか。
霧島さんが雄二の首根っこを掴み教室を出て行った。普段は男女の関わりを見るだけで喚き散らすFクラス男子も全く反応できなかった。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・要求はそれぞれしておいてください。ではそう言うわけで。」
高橋先生が気まずそうに離れていく。僕はこの時心の底から先生に共感していた。
「じゃあ、まずムッツリーニと」
「工藤さん。」
さっきまでカメラを構えていたムッツリーニが工藤さんと相対する。
工藤愛子さん。ボーイッシュな女の子で、ムッツリーニとは反対にとても快活そうな子だ。なんでも、保健体育でムッツリーニにタメをはれるぐらいには点数が高いらしい。
・・・・・・・・なんで保健体育?
「それで、ボクはいったいどんな要求をされるのかナ?」
「・・・・・・なんでもいい。」
「へぇー?じゃあ、こんなのでどうかナ?(チラッ)」
「(ブッ)、き、貴様…!」
ムッツリーニが鼻血を撒き散らしながら教室を出ていく。
「あ、待ってよムッツリーニくーん!」
そしてそんなムッツリーニを追う工藤さん。
うん、羨ましい。僕もあんなふうに女子に追われたいなぁ。
「次は、僕と…」
「私ですね。」
ちなみに妹紅さんは終わったって言ってたね。
「でも僕も別に何か要求したいこともないんだよね。」
「あら?私はてっきり奴隷になれとか言われるのかと…」
「ごめん十六夜さん。あれは雄二の陰謀なんだ。僕はそんな人間じゃないんだ!」
「それならよかったです。私はお嬢様のメイドですので。」
安心したように息を吐く十六夜さん。にしても試合の時からずっと気にしてたのかな?お茶m
ストッ
やっぱり雄二は酷いやつだ!
「クシュッ!」
「・・・・・雄二、大丈夫?」
「・・・・・ここは、どこだ?」
「家。」
「そうか。ならなぜ家に鎖がついていて俺は腕の自由が拘束されているんだ?」
「・・・・・雄二のエッチ。」
「な!?やめろ!くるな!下半身に触るな!」
「それでは、何も要求はしないと言うことで良いですか?」
「ん?うん!、、あ。ちょっと待って!一つだけやりたいことがあるんだけど、いい?」
「?まあ、約束なので良いですが…」
ポケットから携帯を取り出す。
「?なんですかその板は。」
ん?海外にスマホって普及していないのかな?
ふっ、またひとつ新しい事実を確認してしまった。
「これで写真撮ってもいい?」
「写真?それで撮れるんですか?別に良いですよ。」
咲夜から許可が降りたので、スマホで一枚写真を撮る。
「?それで撮れたんですか?
「うん、ありがとね。」
「眩しくないし、便利なものですね。」
ふふッと笑って戻っていく十六夜さん。ちなみにこの写真は後でムッツリーニに売って金策にするつもりだ。
『負けた、のか…?』
『実感がねぇなぁ。』
『くそっ、俺のモニターでエロ動画を見る夢が…!』
Fクラス連中は僕が十六夜さんの写真を撮ったことにも気付かず、負けたことを理解するのに努めていた。そんな僕たちに降り注ぐ野太い声。
「さて、Fクラスの皆。お遊びの時間は終わりだ。」
声のした方には生活指導の西村先生(鉄人)が立っていた。
「あれ?西村先生、何か用ですか?」
「ああ、今から我がFクラスの補修について考えておこうと思ってな。」
補修…って、へ?『我が』?
「おめでとう。お前らは戦争に負けたことで、慧音先生に変わり俺に担任が変わるようだ。ちなみに慧音先生は副担任となってもらう。」
『何ぃ!?』
Fクラス生徒男子から悲鳴が上がる。
それもそう、西村宗一通称『鉄人』の補修といえば『鬼』の二つ名を冠するほど厳しい補修をすることで有名だ。
「いいか、確かにお前らはよくやった。Fクラスがここまでするとは正直俺は思わなかった。だが、いくら『学力が全てではない』とはいえども、それは確かに歴とした人生の武器の一つだ。蔑ろにしていいものではない。」
くそっ、これというのも全部雄二のせいだ!あいつが最低限の教養さえ持っていればこんな小言のような説教受ける羽目にはならなかったんだ!
雄二の馬鹿!
「来週から地獄の始まりだ。覚悟しろよ?」
『嫌だーーー!!!!』
「さて、では話も終わったことですし。」
「へ?十六夜さん?」
気づけば十六夜さんが近くに寄ってきていた。前から思ったんだけどこの学校って忍者の巣窟だったりする?ムッツリーニに霧島さんに、とにかくステルス能力が高すぎる人が多くない?
「お茶をするわよ明久!」
「スカーレットさん!?」
なんか周りに人が多くなってきたような…
「レミリアと呼びなさい!」
「(あの、明久くん!)」
「では私の事も咲夜、と。」
あ、はい。
ところでお茶ってお金、発生しますよね。あとなんかこの子上流階級の子、って感じするし、とんでもない請求されるかも。そんなことしたら借金が!
「嬉しいんだけど、お断りできたり、します?」
「「だめです(よ。)」」
「(明久く…)」
「借金がーー!!」
「おい、明久が困ってるだろ?やめろ、レミリア、メイド長。」
はっ、妹紅さん!ありがとう助けてくれて!このままだと僕ヤクザに売られてあんなことやこんなことをされちゃうところだったよ!
「そうだ。それに明久には早く記憶を思い出すためにできるだけ私たちと一緒にいてもらわなければならない。」
「慧音先生。」
「・・・前から思ってたんだが、「先生」ではなく「さん」にしてくれ。別に学校外なら私はお前の先生ではない。」
「?、わかった。」
「でも記憶を取り戻すなら私たちでもいいんじゃない?」
「(明久…)」
「ええ。というわけで、返してもらえます?」
やめて!僕をそんな物みたいに扱わないで!
「全く、相変わらず拙僧のない子達ね。」
ヒョイっと摘み上げられる。目の前には、
「幽香先生?」
「幽香、でいいわよ。全く、この子は今回私が預からせてもらうわよ。」
「「「「ええ〜っ!?」」」」
「いや、あの幽香さん。僕はどちらかといえば家に帰りたいと言いますか…」
「ダメよ。」
「ですよね〜」
僕の平穏な休日は何処に…
この日僕らは結局6人仲良くもつれあった。その結果僕の体が壊れたのはいうまでもない。
「これから一年よろしくお願いします明久様。」
「私たちを思い出してもらうわよ明久。」
「よろしくな明久。」
「おなじくよろしくな明久。」
「よろしくね。」
拝啓お父様お母様
これから一年、僕は大変なことになりそうです。
バカと東方と幻想郷
第一巻 完
どうも。今回『バカとテストと召喚獣』と『東方Project』のクロスオーバー作品を投稿させていただきました成開学園です。僕は元は読む側だったのですが、バカテスの中でも特に東方Projectとのクロスオーバーはとても面白かったのですが、作品の中には完結しているものがほとんどなく、残念だったのもあって書き始めることにしました。
今回作品を描くにあたり、まず東方の原作を学び、基本的な設定を理解しました。その際、フランドール・スカーレットの過去に関する二次創作との違いや、藤原妹紅の男勝りの性格の間違いなどについては色々悩み、いろいろな設定を思いつきました。そして東方智霊基伝まで読んだ上で、バカテスのキャラ色々巻き込んで作りました。
設定も色々作りましたし、大まかなストーリーも作りました。ほぼ人間界の異変みたいなもんですね。木下優子さんはこれから特に大変なことになりますね。
その上で一旦バカテス原作の一巻に東方Projectの要素を入れ、一回作ったデモ版を読み、そして記憶喪失の要素を組み込んだ結果がこの小説です。だいたい4ヶ月ほどかかりましたね。
我ながら誠に駄文だと思います。フラグも無駄にたくさん作ってしまい、本来回収されるべき場所で回収されてないものんもたくさんあるはずです。なので、もしこれを元に少しかき直したい!とか、参考にしたい!とかあったらぜひ勝手に作っちゃってください。僕はバカとテストと召喚獣が大好きで、それの二次創作も本当にたくさん読んでいます。なのでこの作品をきっかけに書き手が増えてくれると僕も嬉しいです。
アンチが出てくる事も予想しています、そういう人たちはコメントに批判を書く暇があるならそれより僕の文章を編集して自分の理想の形で投稿してください。僕は知らん。
余談ですが僕はまだ高校生です。どこの高校か探してみてね!(見つかったとしても僕は何も言いません!まあ見つかるわけないけど)
では、12.5巻までよろしくお願いします!(大学卒業までに終わるかな…多分過去編や番外編も作るだろうし、実際には18巻分ぐらいのボリュームはある気がする。まあいっか。)
終わり。