研究所生活はホワイトだけど、外の世界の方はブラックだ。 作:フォールンフロア
目覚めは最悪だった。少なくとも■■の目覚めは大変、宜しくは無かった。
真っ暗な筈の時刻。
だが、■■は目覚めた時には天井から吊り下がる照明の灯りが付いていた。
大元の配線が心許なく電気を付けて30分後には勝手に切れてしまうようなボロアパートの一室。電気代が高くつく様な部屋で電気を付けたまま寝落ちしたとかそう言う訳では無い。
理由は簡単だ、部屋に招かれざる客が目の前にいたからだ。
「……安心してくれ。私達は君に危害を加える気は一切無い」
背丈は成人男性の平均程。ただ身なりは奇妙と言える。ガス災害の災害救助にでも行くような防護服をその身に纏い、こんなボロアパートで目撃して怪しむなと言われても無理がある格好をした二人組の人間。声音から男性と思われる。
「……何だ、油断させてから殺る気か? 手間が省ける、どうせ数時間の違いだ。殺るならさっさ殺れや」
「「……」」
■■は寝起き故に機嫌が悪い……と言うよりも世の中全てがどうでも良いと言いたげな荒んだ声だった。
防護服の男性が殺風景な部屋の奥、窓際の壁に押し付ける様に置かれた傷んだ机の上にぶちまけられているモノを見て首を振る。
「……君の心境の全てを理解する、とは言わない。ただ、自殺は止めた方が良い」
机の上には多数の錠剤が散乱しており、男性はそれらがカフェイン錠剤である事に気付いた。カフェインは5g以上で致死量に至ると言われており、机の上に散乱している錠剤の数を見た限り少なくとも20g以上はある……。
「……死体なら好きにしろ。
■■は目の前の不審者共が何故、目の前に現れたのかは察しは付いていた。部屋の片隅に追いやられる様に捨てられクシャクシャにされた新聞にその答えが記されていた。
『世界初の男性操縦者』
『全国一斉検査』
『2人目発覚。名前は』
乱雑に千切られ断片と化していたが辛うじてその文章が成立していた。その他には『研究』、『排除』と言う単語が引き裂かれる形で部屋に落ちていた。
「……今の君に何を言っても信じないかも知れない。男性操縦者が2人居るならば1人は研究所で解剖」
「止めろ‼︎ 止めるんだ……‼︎」
男性の1人が■■が荒んだ理由を言い当てたその刹那、■■は尖った鉛筆を自身の首元、頸動脈付近に突き立てる直前、もう1人の男性がその腕を掴んで阻止する。
「死体なら好きにしろと言った。
だが、■■は鉛筆を握る手を離さない。
「……済まない。言葉を選ぶべきだった。死ぬにはまだ早い」
「まだ? 人間は死ぬ、必ず死ぬ。死ぬ迄の時間の違いしか無い。人間がどんな考察を並べようと御託を垂れようと解釈を口にしようと、それだけは絶対の真実だ」
■■と男性の拮抗した睨み合いが続く。防護ヘルメットの向こう側は見えない。しかし、見る気も無い。
「おい、放せよ」
「放したら、君は死ぬつもりだろう?」
「俺が死のうが俺の勝手だろ? 毎日、人間がくたばってんだ。1人増えた所で大した差は無ぇよ。数週間も経てば俺の事なぞ笑草にした後に忘れるさ」
死体は灰に変わる。粉となって時間の藻屑と消え去ろう。例え有名人でも死ねばただの骸でしか無い。
「……私は忘れない」
「言葉なら幾らでも言える」
空いていた方の手には罅が入って割れた硝子の破片が握られており、今度はその硝子破片を自身の喉元に突き立てようとするが、それすらも阻止された。
「……おいおい、何してんだよ?」
「……目の前で子供が死ぬ様は見たく無いんだ‼︎」
防護ヘルメット越しで男性はそう必死に告げる。
「赤の他人だろ? そんな奴の為に必死になる必要は無ぇよ。何が欲しいんだよ?
腕か?足か?それとも心臓か? ああ、そうか。やっぱ、脳みそが欲しいんだな? さっさと殺って顕微鏡なりリトマスなりで遺伝子を調べろよ。お宅らはその為に来たんだろ?」
「良い加減にしろ……‼︎君がどう言う風にこの世界を見ているかは私達は推測する他に無い……‼︎ 確かに今の世の中はインフィニット・ストラトスが起因とする女尊男卑で、君の様に生きる事を諦めた若者が大勢いるのも知っている……‼︎」
「それとも何だ? そんな連中の為の旗振り役をやれってか? 人選考えろよ、配役間違ってんだろ」
「言いたい放題、言ってくれるな。だが、ぶちまけたい気持ちは分かるよ……」
様子を見ていた方の男性が■■が掴んでいた鉛筆と硝子の破片を取り上げた。その動作に■■は露骨に、わざと聞こえる様に舌打ちした。
「チッ……」
「…………。担当直入に言おう。君を保護したい。勿論、危害を加えるつもりもは無い。……今の君に何を言っても信じて貰えないかも知れないが」
男性は本来の目的をそう説明した。
「随分な綺麗事だな。そう言うように言われたか? ガキ相手なら騙せると? もっと簡単な手段があると言うのに、回りくどい事だ」
■■は猜疑心を隠さずにそう告げる。男性達は自分達の想像以上に精神が荒み、人を信じず露悪的な有様を見て内心で頭を抱えた。
「綺麗事だろうが何だろうが事実であり現実を語ったまでだ。……どうだろうか?」
「……コレから死ぬ奴に質問するとか、頭が沸いているのか?」
その言い方はどう転んでも結末は対して変わらないと言っているようなモノであった。
「IS委員会や日本政府の直轄の研究所ならば、無理矢理にでも実行に移すかも知れないな。
ネームバリューのある織斑 千冬の弟を使うよりも民間人を使った方が隠蔽し易いし、誰も見向きしないだろうな。だが、私達は君の意志を尊重したい」
「…………ふん。好きにしろ。解剖なり実験なり、好きにするが良い。面倒ならさっさと殺せ。お前らにとって人間なんてそんなモノだろう」
■■は観念したのか投げやりになったのか、好きにしろと告げた。本人の弁では『時間差』でしか無い。警戒、露悪、自虐、希死念慮……お互いの関係性は最悪に等しいが一先ず自殺を思い留まらせる事には成功した。……ただ、■■の希死念慮が燻っている為に目を離す訳には行かないのが早急の課題となった。