研究所生活はホワイトだけど、外の世界の方はブラックだ。 作:フォールンフロア
その後は無言の時間が続いた。男性達が危惧していた■■の不整脈の発作の兆候は今は見られない。しかし、油断は禁物な事に変わりない。
常人が相手するならば匙を投げても仕方ない程の偏屈、天邪鬼、厭世家。一層の事、見殺しにした方が気が楽になると言うだろう。
「……やはり高速道路もお役御免の時代になっちまったんすね」
「人手が無くなったんだ。電子化とは言え管理する人間すら足りなくなった上に、利用する人間も少なくなったんだ。無理も無い」
高速道路の入り口の近くを通り過ぎる。長距離移動を是とするならば世話にならぬ者は早々いない。しかし、その入り口は2度と開く事は無い。女尊男卑の影響は単純な問題では無くなった。その事実は未だに見て見ぬフリをこの国は続けている。
「まぁ……乗用車の交通量も減っているすからね」
行き交う車は疎だ。深夜の時間帯、交通量は少ないのは当然と言えば当然と言えるが……。
「■■君。ハンバーガー、冷める前に食べた方が良い」
「不要だと言っている。自分達で処理しろよ」
後部座席に座る後輩の男性が包装されたハンバーガーを差し出すも■■は見向きもせず拒否の意を示す。
「……飯ってのは一緒に食うのが良いんだろ? 錠剤が飯ってのは間違っているだろ」
「何が正しいのか何が間違いなのかは定義する事自体、無意味な行動だ。そんな
この世に善悪なんてモノは最初から無かった。人間が勝手に定義してそれを相手に押し付けているに過ぎない。正しいからこそ、踏み躙る喜びが肯定されるのだ。そうして人間は栄えて来た。
そして会話が途切れた。
一般道路を行くが街灯の照明も疎になって行く。電力の供給も覚束ない地域も徐々に増え始めている事の証明と言える。
「で、何処に行くつもりだ?」
其処で■■は初めて自発的に口を利いて来た。コレまでは此方からしか訊ねなかったからだ。それでも顔は此方には向けなかった。
「神座研究所。所在は愛知県だ」
「ンッンあッあああ‼︎‼︎ 其処で
初めて聞く非常に癖の強い笑い方だった。現実でも創作上でも此処まで発声が歪な笑い方はまず見ない。
そして、死体遺棄の仕方が余りにも悪意に満ち足りている。確かに魔除けにはなるだろう。くだらないプロパガンダと共に晒す様は人類に対して最高の娯楽だと言えるだろう。悪は滅ぶだけ、正義だけが認められる素晴らしい世界。
「…………。公に公表する表向きはそうなっている」
■■の笑い方に面食らいながらも運転席の男性は言葉を続ける。
「ほう? 後ろめたい人体実験でもすんのか? 良いぜ、好きにしろ。死ぬまでは付き合ってやる」
「言い訳も詭弁はしない。君に隠しても仕方ない」
運転席の男性は毅然とした態度でそう告げる。何れは知る事実。此処には当事者しかいない。
「…………」
「我々が向かう先は国道425号線から逸れた場所にある本当の意味での神座研究所だ」
国道425号線。それは『酷道』と呼ばれる中でも最凶クラスと名高い極めて通行が困難な道路だ。日本三大酷道の1つに数えられる。
「聞いた事が無いな。山奥か秘境か?」
「……過酷な道だ。運転のベテランでも走破は難しい。小型車両や二輪車で無ければ通行は不可能だ。
だからこそ、外界からの煩わしい干渉は皆無に等しい。女尊男卑や政治的干渉も無縁と言えるだろう」
「……成程。死んだら山に捨てりゃ良いしな。行方不明扱いでも良い。コスパが良い……ッ‼︎」
少しはマトモな会話になると思った直後、直ぐに死を仄めかす言葉の羅列に戻った、直後、■■は噎せた。その口からは泡が溢れていた。
「……遅、えッ‼︎ な゛ッ……⁉︎」
意識が混濁として来た。頭が割れる様な衝撃が連続で続いている。鼓膜を叩く音が遠くなる。
「ッ‼︎ カフェインの重篤な副作用だ‼︎ このタイミングで……‼︎ 兎に角、吐かせろ‼︎ 絶対に死なせるんじゃない‼︎」
笑える。ああ、笑える。生きていて何が嬉しい?死なせるな? 人間が語る優しさなど、利己主義者の方便に過ぎない。それは相手を利用する為の道具だ。
この世には殺したいと思われる人間と殺したいと言う人間しか存在しない。自分は両方とも自分に向いている。
そうだろう? 今の世の中は女尊男卑だ。適者生存が是と言うならば社会から排除されて然るべきだ。
自業自得? それも良い。災害とは誰彼構わず牙を剥くだろう。そうして死ぬのも自業自得だ。
■■は意識が崩れる直前まで、確かに笑っていた。最後に笑ったのは何時だったか覚えていないが、多分……いいや、絶対に本心から笑えたのは今日だった。