研究所生活はホワイトだけど、外の世界の方はブラックだ。 作:フォールンフロア
肌寒さを感じる中で■■は目覚めた。
「……」
肌寒さを感じた。そして次に感じたのは特有の匂いが鼻腔を擽る。最後に、白い天井と大型の機械が天井から吊るされている。
実に特徴的なベッドの上で寝ていた様だ。ゴチャゴチャと良く分からない機械が多種多様、付随している。如何にも何かの人体実験の行うような実験室だと思えた。
「はぁ?」
少なくとも、生きている。
その事実に■■は悪態の声を思わずあげてしまった。運悪く一命を取り留めた……気分は何時も以上に最悪と言えた。
何、勝手な真似をしてくれてんだ。だが、コレで終わった訳では無い。実験室ならば、事欠かない。
「……」
実験台から降りて部屋の全容を見渡す、しかし実験室と思われるにも関わらず天井から下がる機械以外の器具や備品棚と思わしき物体は何一つ見受けられない。
「目覚めたかね? 安心したまえ、この場所に君を傷付けるモノは無い」
「……あぁ?」
代わりに現れたのは白髪の褪せた肌色の老人だった。黒色の白衣を身に纏い眼帯を付けた博士みたいな風貌の老人だ。
以上の点から■■は憶測が組み立てられた。
「ハッ。随分とまぁ小綺麗な事だ。で? 何時、
「……成程。若者達からの報告は聞いていたが……想像以上に深刻なようだ。……IS学園の教師達ではとても御しきれまい」
■■の咆哮を聞いた老人は暝目しながら嘆息した。見た瞬間に分かる、外れ者は排除し続けて来た社会から見れば彼の存在は災厄になり得る、と。
「へぇぇえ? なら
「それは試してみないと分からないね」
出来るとは断言しなかった。確証は無い、ただやってみなくては分からない。
「名乗り遅れたね。私はこの神座研究所の所長のジャバウォックだ。奇妙だと思うかも知れないが、過去の名前は捨てざるを得なくなってね」
老人は自らをジャバウォックだと名乗った。本人も奇妙な名前だと自覚はあるらしい。
「ふん。訳の分からん事を並べそうな名前だな」
「……若い子達から聞いたと思うが改めて説明しよう。表向きは愛知県にある神座研究所で生死を問わない研究となっている。遅かれ早かれ、世間には死亡と言う形で公表される事になるだろう」
「それを現実でしない理由は何だ? お得意の人体実験をする為か?」
「……その件に関してだが、
本当は本人の同意を得てから行うべきなのだが、君の精神性が極めて不安定である事から事後承諾で大変申し訳ないが勝手ながら施術をさせて貰った」
その言葉を聞いて■■は破顔する。悪い意味でも破顔だった。
「じゃあ、何で生きてんだァ? さっさと殺す方がお前らの言う世の為、国の為、人の為になんだろ?」
「須く排除するやり方は褒められたやり方では無い。君は死ぬ努力では無く生きる努力をするべきだ」
「…………。生きる努力、か。此処に来て説教とはな。ただ死ぬ奴は死ぬだけだろ、理解出来ないな」
「今は分からなくとも良い。それに君の事は公には死んだ事にすれば良い。
そうすれば君自身、自らの手で死ぬ必要は無い。死ぬに至る事実が
「……………………」
『理由』及び『結果』が提出されれば■■の理由も不完全燃焼とはなるが決着は着けられる。ジャバウォックはそう、告げる。
「ふん……。死を偽装、か。人間は生きているだけで邪魔にしかならないだろ。本当に理解出来ねぇな、両断者」
■■はジャバウォックを『両断者』と嘲った。しかし、幾分か凶暴性は鳴りを潜めている。
「褒め言葉と受け取っておこう。
さて、君に新しい名前を授けよう。名前とは呪いであると同時に依代でもある」
「……フン。好きにしろ」
■■は自分の命に執着は無かったが自分の名前にも執着は持っていなかった。この世に存在する凡ゆる概念、全てに価値が無い。故に自分の名前にも価値を見出す事は無かった。
「そうだね。フォーマルハウト……。君は今日からそう名乗りなさい」
「ソイツは随分と皮肉が効いているな。二重の意味でな」
そう言うが拒否はしなかった。自分に対して皮肉が効いている為か返って気に入ったのだろう。
「……納得したと受け取って宜しいかな?」
「フン……。それで、何がしたいんだ? 死に損ないのガキを生かした所で、何になる?」
「……今の君は精神が大きく昂っている。今直ぐにどうこうは言わない。先ずは精神を鎮静化させるのが先決だ。
何、急ぐ事は無い。急いては事を仕損ずるとも言う。うん、そうだね……先ずは
「油断させた所で切り刻む為か? 絆した瞬間に殺すか、それも悪くは無い」
「…………」
どうやら、彼の精神性は想像以上に難物であり先が思いやられそうであった。
『報告メモ
該当者:フォーマルハウト
本名 ■■ ■■。
彼の保護に成功するも、人間不信、希死念慮、露悪、自虐、冷笑主義、虚無主義、強い自殺企図と女尊男卑に起因する精神性による問題点が山積みであった。
本来ならば本人の承諾無しには行わない肉体改造を本人の身体的保護の必要性から已むを得ずに実行。セニョーラ君の証言から彼がこの■■が選んだ■■■だと言う。
■■■の件とあの娘達の■■■を考慮すると眉唾物と断言するのはまだ早計である。
一先ず自傷行為を思い留まらせる事は出来たが一時的に抑え込んだに過ぎず単独での放置は大変危険であると判断。
常時、誰かしらを付人として随伴させる事で決着した。暴走し制御が難しい精神を鎮静化させるには年齢の近いあの娘達が適任と判断。
作成者:ジャバウォック』