研究所生活はホワイトだけど、外の世界の方はブラックだ。 作:フォールンフロア
「…………」
研究所の庭園から再び白い施設内の廊下へと進入して、その奥へと進んで行く。左右から可愛らしい少女がガッチリと両腕を掴んでいる為、目立つ事この上ない。
今や伝説か幻想の産物となって歴史の闇へと葬り去られた死語である両手に花の状態。しかも外の世界では糾弾され、抹殺されそうな程に可愛い顔立ちの娘と肉体的接触していると、何故かは分からないが緊張してしまっている。
後、何か良い匂いがするのも合わせて、理解が追い付かなくなっていた。何だコレは?
「……視線が居た堪れない」
この神座研究所に属するスタッフ達から廊下ですれ違う度に暖かい視線を向けられる事になってしまっていた。アルフェルグとアルネブは特に気にしていない様である。
代わりに自分は如何しようもない位に居た堪れない気分になっていた。正直に言おう、今すぐに逃げ出したい。
しかし、2人に左右から掴まれている為に逃げられない為に流れに身を任せる事になっていた。
「……男女が共同で活動している、だと⁉︎」
暖かい視線を向けられる為に見落としがちであったが、如何しても気になる点があった。
それは男性と女性がさも当たり前の様に会話を成立させ、共同作業をしている光景であった。外の『世界』では先ずあり得ない光景が広がっている。
「……外じゃ余程、酷い光景が広がっているのね。昼夜で男女の活動圏が二分化されているって聞くけれど、フォールの反応じゃ本当みたい」
「…………」
日中は男性は余程の事が無い限り外出はしない。女尊男卑の世である以上、女性と遭遇すれば死ぬ以外に道は無い。そうでなくても社会的破滅は免れずどの道、死亡する事は確定的。
故に成人男性は夜勤を中心とした夜型生活を余儀なくされ、未成年男性も夜間定時制を中心とした学習制度に進むようになり、社会情勢の不安から非行に走る者も少なくなく、自暴自棄に陥るのも已むなし。
かく言うフォールも夜間定時制の学校に通っていた。
「ん、ん〜……ねむ、ねむ……」
突然、左側の腕が若干、重くなって来た。寝惚け眼だったアルネブが本格的に瞼を閉じ掛けており抱き枕を抱く様に腕に込める力が強くなると同時に足取りが重くなって来たからだ。
「……余程、安心出来るのかしら。フォールって、意外と安心出来る体質?」
「…………。初耳だ、そんな言葉。それよりもこんな所で眠るなよ。風邪引くぞ」
「ん、ん〜……」
かと言ってフォールは振り払う真似はしなかった。そして、気遣うような事を思わず告げていた。
「アルネブちゃん。まだ眠っちゃダメ。フォールの案内が終わって居ないでしょ?」
「ん、ん……頑張、る」
アルフェルグにそう言われてアルネブは目を擦りながら眠気に耐える。
「先ずは、工房に行きましょうか」
アルフェルグに引っ張られる形で廊下を歩き『第1工房』と言う看板が掲げられた部屋に連れて来られた。
工房は正しく大部屋であった。壁際には拳銃、小銃、散弾銃、擲弾銃、狙撃銃と言った多種多様の銃火器が掛けられ、その近くにはコレまた多種多様の刀剣、鈍器、投擲物、長物と言った武器が掛けられていた。
他にも加工用と思われる大小数々の名称が分からない機械群や作業台が連ねている。そして、窓ガラスを隔てた先には射撃場と思われる空間が広がっているのが見える。
「……フォールはまだ触っちゃダメよ。ソレを使って自殺しかねないから」
「良く分かってるな」
武器の数々に目移りしてしまうが、そのどれも量産品と言うよりも一品モノに見える。或いはISに搭載するような武装群か。
作業機械との間を通り過ぎた先には2人の人間の姿が見えた。
「お、噂の奴が来やがったみてぇだな」
如何にもガラが悪そうな2人組と言えた。片方は黒い制服の上に白衣を羽織った金髪眼鏡の娘。ただ耳には攻撃力が高そうな棘だらけのピアスを着けているのが分かる。
もう片方は頭にオレンジ色のゴーグルを掛けてアスリートの様な体躯の上にゴツいジャケットを羽織った女性だ。
一目で分かる。人は見かけによらないとは言うが目の前の2人は明らかに関わってはならない類の人間だ。
「アタシゃ、ラカーユだ。趣味は人体実験、見境ない研究。此処の博士に拾われてから毎日がハッピーバースデーだ」
堂々と人体実験が趣味だと言い切る金髪眼鏡の娘、ラカーユ。彼女も彼女で頭のネジを数本、紛失しているんじゃ無かろうか。
「因みにテメェがぶっ倒れている内に博士と一緒にちょっと弄らせて貰ったから安心しろ」
ケケケと凶悪な面構えで笑うラカーユ。ちっとも安心出来ない。
「……心底安心出来ねぇんだが、ナニされたんだ…………?」
「安心しろ、其処のアルフェルグとアルネブも人体実験した事あっから。健康上に問題は無ぇよ。つーか、逆にテメェの体の方が心配だったわ。かなり危ない状態だったんだぞ? 良く今まで生きてたなテメェ。アタシらがいなきゃ、テメェはとっくに死んでたぞ?」
「そいつは残念だ」
「ナニコイツメンドクセェ」
人体実験を実行したラカーユからの真面目な言葉。身体を掻っ捌いた事から恐らくカフェイン絡みだろう。
そして、間一髪の所で助かってしまった事にフォールは心底、残念そうな態度を見せて、ラカーユは『コイツ面倒臭ッ』と言う態度を返した。
「よう、ボウヤの噂は聞いているぜ。先ずは自己紹介と行こうか。
俺の事はシニョーラとでも呼べ。機械収集が趣味でな、機械に関係する事全般が専門さ。
はみ出し者同士、仲良くやろうぜ、
「はぁ?」
「今は分からなくても良いさ。いずれ分かる時が来る。その時、お前の選択を楽しみにしているぜ?」
次にシニョーラと名乗った女性は意味深にフォールの事を『敵対者』と呼んだ。そして、その意味を彼女は答えずにはぐらかした。
「さて、此処では見ての通り多種多様の武器を製造、管理している。神座研究所は一応、IS研究所だからな。勿論、インフィニット・ストラトスの管理もしている」
怒涛の展開で忘れがちであったが、この工房でISの機体の管理も行なっている様である。
「……先に行っとくがテメェにはまだ渡せねぇ。筋金入りの希死念慮って話だからな。ソレで自滅されちゃ困るって話だ」
「そうかよ。そんなに男性操縦者が大事なのかねぇ……?」
「男性操縦者って意味じゃねぇよ。
仮に此処に来たのがファーストマンこと、織斑 一夏でテメェと同じ心理状態の希死念慮ならば、とっとと死なせてら」
「……理解出来んな」
「ククク……‼︎
「そう言う訳だ。ボウヤが此処を利用するにはまだ早いのさ。おら、さっさと嬢ちゃん達に絆されてきな」
良く分からない話であった。一応の目的は工房区域の管理をしているシニョーラとの顔合わせだったらしい(ラカーユは偶々工房に居た)。その後は他の場所へ向かう為に工房を後にした。