研究所生活はホワイトだけど、外の世界の方はブラックだ。 作:フォールンフロア
工房を後にした後、再び廊下を行く。相変わらずアルネブは眠気眼を擦りながらがっしりとしがみついて来ている。
「つーか、あんだけの武器が必要なのか?」
「しないよ?」
「ん」
「……まだ何も言っていないぞ」
フォールが疑問をぶつけると被せる様にアルフェルグとアルネブが否定して来た。
「だって、君に対する殺害凶器とか言うつもりだったんでしょ?」
「ん、ん」
「…………。研究所とか言うがIS 1つに対して多すぎな気がするんだが」
図星だったのかフォールはわざとらしく別の言葉で逸らした。一応、不自然では無い繋ぎ方ではある。
「神座研究所にあるISが1つとは誰も言っていないよ?」
「……ん、ん……。私達、の人数分……ある」
取り繕ったフォールの疑問にアルフェルグとアルネブは律儀にそう答えた。かなりサラッと答えているがその実、かなりトンデモない発言が混入していた。
「…………悪の組織かよ」
フォールは怒涛の展開の連続かつ総攻め状況故に思考がショート気味であった為に深くは追求はしなかった。いいや、ISの総数が幾つかすら知らないのもある。
戦争するつもりならば、とっくに実行に移しているだろうし、『良く分からない組織』として適当に悪の組織と表現した。
「……次は、食事場に行きましょう。あ、この研究所のルールでね、皆で一緒に食事を取る事になっているの」
フォールの返しの言葉にアルフェルグは特に反応せず、次の目的地を告げる。
「ん、ん……。スタッフの、人達は……仕事、あるから、別……でも、私達は、一緒に食べる」
「…………それって、俺も含まれているのか?その、面子に」
「うん」
「ん……‼︎」
左右から同時に答えられた。一体、どう言う風の吹き回しなのか。いいや、この状況自体、色々と可笑しい。
理解が追いつかないまま、アルフェルグの言う食事場へと到着した。
円形の広い部屋の中央には円卓の様な大きなテーブルが置かれているのが特徴的であった。
「随分とまぁ、皮肉が効いた部屋だな。対等? ククク……全く、素敵で空虚な理想論だな」
『現実』の観点からフォールはこの食事場を見てそう吐き捨てた。円卓とは上下関係を撤廃した関係と言う意味がある。
つまる所、お互い対等の関係でありたいと言う願望が込められたこの部屋其の物が『理想論』に見えたのだ。
「もう……またそんな事を言って……」
フォールの捻くれた物事の見方にアルフェルグは呆れ気味に首を振る。全てを歪んだ形で物事を捉える癖。いいや、コレが彼の見えている『現実』。
「……あら、アルフェルグちゃん達じゃない。それと、噂のフォーマルハウト君と一緒ね‼︎」
「イザル様。どうなされ、おや……」
円卓の奥にある大型厨房、その奥から2人の女性が顔を出していた。何方も桃色の髪をしていた。片方は同年代だが、もう片方は制服では無く重装備とも呼べるメイド服を身に纏っている。……そのメイドさんが此方に笑みを見せるが何故か背筋が凍りそうだ。
「あ、イザルちゃん」
黒い制服をその身に纏いその上にエプロンを付けたイザルと呼ばれた少女が駆け寄って来る。彼女も彼女でテンションが高く見える。
「ん、ん〜……」
「やっほー、アルフェルグちゃん。アルネブちゃんも何時も眠そうね‼︎ そして、君がフォーマルハウト君ね⁉︎」
「……っ‼︎」
アルフェルグもそうだったが、彼女も押しが強く思える。一気に間合いを詰めて来て、覗き込んでくる。近くで見ると彼女も……その、胸が大きい事が分かる。第一印象がソレなのは中々、貧相な注視力だと己に言わざるを得ない。
「うーん……フォーマルハウトじゃ呼ぶ時回りくどくて長いし、私もフォールと呼ばせて貰うわね。別に減るモノじゃ無いでしょ?」
そして、イザルはフォールの顔や身体をマジマジと見つめる。敵意や害意は無さそうだが……。
「うーん、病衣姿じゃ絵にならないわね。うん、やっぱりフォール君の制服も私がデザインするわね‼︎ 男モノかぁ……うん、うん‼︎ アイディアがドンドン溢れて来たわ‼︎ 偶には違う印象に触れるのも立派な進歩よ‼︎」
1人で勝手に盛り上がるイザル。正直、何を言っているのか良く分からない。彼女も彼女で頭のネジが吹き飛んでいるのだろーか?
「……あはは、相変わらずね。イザルちゃん。それで、何故食事場にいるの?」
「あ、そうだった‼︎ 噂のフォール君、普段から全然食べてないって聞いてね。今、身体付きを見て確信したの。被写体になって貰う時にそんなガリガリじゃ私の表現力でもカバーし切れない‼︎ 歓迎の意味も兼ねて、クッキーを焼いていたのよ」
イザルはそう並べ立てるや否や、右手の掌を上にする動作をする。すると同時に青白い光の量子が溢れある形状を象られ現れる。
それは小さなバスケット、それが彼女の手の上に落下、更に続けて様々な形状のクッキーがバスケットの中に収まる様に落下して来た。
「ん、ん。良い匂い……‼︎」
焼きたてなのか香ばしい匂いが漂い、その匂いに釣られてアルネブが視線をバスケットの方へと向けた。
「ふふ、味には自信があるわ。ベロニカさんから教え持って作ったわ。イライラするのはお腹が空いている証拠よ」
イザルは片目を閉じてウィンクしながらバスケットの中にあるクッキーの1つを摘みフォールへと見せる。
「いや」
「良いから食べてみなさいよ。そんなに警戒する必要無いじゃない」
イザルもフォールの先を封じる形で言葉を被せて封殺しに掛かる。先手を打ち続けろ、何時かは打破出来る筈だからだ。
「いい。そもそも、その態度もまた演技か? 毒殺とはまた凝ったやり方だな。優しいフリして毒を盛る。そんな真似をせずに硫酸ぶっかけた方が早いだろ」
が、フォールは彼女の封殺の言葉を聞き流した後にビデオの一時停止から再生させるがの如く言葉を繋げた。やはりと言うべきか棘のある言い方だ。流石に折角、作ってくれた相手に対して渡す言葉では無い。
余談だが昨今の飲食店では客に毒を盛る事が多い。だが、決まって男性客が後日、死体となって忘れ去られた。
「……カウスちゃんから聞いていたけど、本当に人格が歪んちゃっているわね‼︎」
となれば……後は実力行使あるのみと言える。イザルは摘んだクッキーを半分程、齧り飲み込んだ。
「別に毒とか入っていないし、入れる必要は無い。良いから食べなさい‼︎」
両腕をアルネブとアルフェルグに掴まれて動けないフォールに対してイザルはその口に半分になったクッキーを突っ込んだ。