研究所生活はホワイトだけど、外の世界の方はブラックだ。 作:フォールンフロア
「別に毒とか入っていないし、入れる必要は無い。良いから食べなさい‼︎」
両腕をアルネブとアルフェルグに掴まれて動けないフォールに対してイザルはその口に半分になったクッキーを突っ込んだ。
「……⁉︎⁉︎」
半ば強引に口へと放り込んだ為に喉に詰まる恐れがあったが、此処は勢いに任せた感は否めない。
「……どう、かしら?」
自分の中では味の方は問題は無い。実際に齧ったクッキーの味も問題点は無い。
しかし、フォールの味の好みは未知数。可能性は限りなく低いと思われるが甘いのが嫌いと言うオチもあり得る。
「…………」
「フォー……微妙、な、顔」
要らないとは言ったが吐き捨てる様な真似はせずに一応、咀嚼音は聞こえたのだが何とも言えない顔をしていた事に不安を覚える。
「……味、感じねぇな。砂を喰ってるみたいだ」
「ええッ⁉︎」
結果は味覚障害と言うまさかのオチであった。クッキーでは無く『砂のよう』と言う感想にイザルは愕然とした。そんなオチで終わるとは思ってもいなかったらからだ。
「……もしかしたら亜鉛不足かも知れませんね。それだけに留まらず、普段から食事を摂らないと言う事は慢性的に栄養失調になっている可能性があります」
其処で少し離れた場所で少年少女達のやり取りを見守っていたメイド服の女性が的確に要因を指摘しつつ会話の輪に加わって来た。
「初めまして、フォーマルハウト様。私はベロニカと申します。主にこの神座研究所の食事場を任されています」
ベロニカと名乗った重装備のメイド服を纏った女性はカーテシーと呼ばれる所作をしつつ挨拶をした。
が、メイド服とは言うが弾薬を入れる様な後付ポケットが複数備わっており、更には弾帯まで装備している為に何方かと言うと物騒な武装メイドにしか見えない。
「味覚障害は亜鉛不足の他に心因性の可能性もあり得ます。フォーマルハウト様の場合は双方が併発している可能性が濃厚と思われます」
「……真面目な解説、そりゃどうも。餓死でも構わんがな」
「フォール。また……‼︎」
「……私にはフォーマルハウト様の絶望を完璧に理解する事は出来ません。いいえ、皆様方の誰1人として理解出来る方は居られないでしょう」
「理解して貰おうとは1度も思って無ぇよ。普遍的で実にくだらなくて笑い話にもならない話だ。何故、其処までするのか其方の方が理解出来んよ」
「……フォーマルハウト様には生きる意思が著しく欠如していると思われます。何もかも絶望し、失望して……生きる事を諦めた」
「……両断者みてぇにまた説教か。そろそろ良い加減にウンザリして来たんだがな」
「…………。どうやら今の状況ではフォーマルハウト様に対して全ての行いが逆効果になる様ですね。アルフェルグ様、暫しお時間を頂きます」
ベロニカはやはり言葉による説得は無意味と判断。一旦、退く事を決めて速やかに厨房の方へと引っ込んで行った。
「何なんだ、あのメイド……」
「……うーん、どうすれば彼の態度が軟化させられるのかな?」
「……ん〜」
「……食事も効果が薄いとなるとはね。……となるとやっぱり色仕掛け?」
「リスクが高過ぎるわ。何度もやると効果無くなると思うわよ?」
「ん、ん、んん」
「……返って逆効果になるわよね。如何したモノかしら?」
効果がありそうなお菓子の餌付け作戦が不発に終わった所で又しても本人の眼前で作戦会議を始めるアルフェルグ達。
「だから、そう言う作戦会議は本人の居ない所でやれって言っているだろ……」
「……そもそもフォール君はどうしたいの? あ、自殺とか死にたいとかは無しで‼︎」
「さっさと死にたい、以上」
イザルの禁止事項を織り交ぜた質問に対してフォールは堂々と無視してそう答えた。
「「「…………」」」
現状の状況では膠着状態が続いている。三大欲求に基づいた作戦も効果が薄い。
「……ねぇ、フォール。コレだけは答えてくれない?」
「何だ?」
「……私達に対して嫌われようとしていない?」
「そうだが? さっさと失望してくれた方が気が楽だ」
そして自殺を敢行するのが目に見えて分かる。彼の周りから人が消えればひっそりと消えるだろう。
「……正直ね。そんなに死にたいの?」
「死ぬ理由に溢れているだけだ。逆に生きる理由が無い」
「……生きる理由が無い、か。それが答えじゃない‼︎ 理由なんてモノは後から見つければ良いのよ‼︎
ふふん、良い事を思いついちゃった。アルフェルグちゃん、アルネブちゃん。フォール君を借りるわね‼︎」
イザルは難攻不落のフォールを切り崩す突破口を見出した。入手した情報を、実際に彼を見て、そして先程の答えを統合した結果……効果的な手段を思いついた。
善は急げ、そう言う事でイザルはアルフェルグ達からフォールを貰い受け、その腕を掴んで食事場を飛び出した。
「は?は⁉︎」
当然、やはり訳が分からないフォールは困惑するしか無い。
「貴方には足りないモノが多過ぎるのよ‼︎ そして知らない事も多過ぎる」
フォールの腕を取り廊下を走りながらイザルは続ける。
「カノープスから聞いたけれど、君は知識はあるけれど……無知なのよ。だから全てが末路に
「……何だと?」
「君が語った『過程』こそ君自身が唾棄している『理想論』。此処では現実になり得ない妄想なのよ。
ああなれば良い、こうなれば良い……でも、そうはならなかった。私達はしなかった。何故だと思う?」
「油断させる為の策謀だろ」
「それだけ?」
「他にあるのかよ……? 女が会話をするのは
「…………じゃあ、如何して君は私達と会話が成立しているの? 君の理論だと、会話が成立しない筈よ」
「…………ッ」
フォールは答えに窮した。それを見てイザルは確信した。決して無駄では無く確かに手応えがあったのだと。だが、まだ足りないだろう。
「……知らないなら知れば良いのよ‼︎ そうすれば君も理由が分かる筈よ。君は無知だけど、理解は出来る筈だから‼︎」
イザルはそう言いフォールをある場所へと連れて行く。肝心のフォールはもうどうにでもなれと言った心境であった。