ヒーローと悪の組織が神秘の力を宿した「ジュエルコイン」を巡り戦い合う世界。
しかしそれでもその非日常に出会うのは難しく、この戦いは世間の目に写されてもまだ人々にとっては遠い戦いだ……そう、そのはずなのである。
だと言うのに、平々凡々か劣るくらいな俺はなぜそんな非日常のど真ん中にいるんだろう。
これは就職した先が悪の秘密結社だった一人の青年の話である。

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流れに任せた初投稿です。


カオス・フィルム秘密結社 怪人部開発課回収係

「ハァー……」

 

どうしてこうなった……

まるで死んだ魚のような気持ちと瞳で俺こと悟理 通(さとりとおる)は思った。

目の前には本当なら遠かったはずの非日常。

 

『喰らえ! ガイアフル・バースト!!』

「ぐぁぁぁぁぁ! ガイアスリぃぃぃ!!」

 

赤、青、黄色のスーツとマスクを被ったいかにもなヒーロー達が放った光線によって、機械と生物を無理やり合体させたような怪物は哀れ爆発四散した。なお俺の同僚である。

 

「あぁー……行きたくねぇ……」

 

口から出た言葉は余りにも情けない物であった。

とはいえ、仕事に行く時は皆大体こんな感じだろ。なのでこれは何もおかしくない普通の感情である。

そう、普通、普通な……いやそんな訳ないだろ馬鹿か。命が惜しいから仕事行きたくありませんなんて普通ならんわ。でも仕事だしなぁ……

仕事……そう、仕事なのである。俺が今からするのは仕事なのだ、文字通り命がけの。

 

「あぁ、行くしか……でも行きたくねぇ~」

 

ナーバスな俺とは裏腹にヒーロー達ことガイアスリーの三人は勝利の喜びを全員で分かち合っている。やだ社畜には眩しすぎる光景……

そんな、言い換えれば油断している三人を見て今なら行けるかと抜き足差し足で音を消し爆散した残骸を避けて進む。

俺の目的は先程吹き飛ばされた怪物の残骸、その中にある宝石のような輝きを持つメダルである。

通称ジュエルコイン、すごい力を宿しているらしいそれを巡ってガイアスリーを中心にしたヒーロー達と俺の会社……ぶっちゃっけ悪の秘密結社は戦っている。

そんな敵の一人がジェルコインを横取りしようしているのがあの三人にばれたら?

先の同僚から察してほしい。

 

「(おっし、無事回収~っと)」

 

なんとか音を立てずに気配を消して目的のジュエルコインを回収した。

しかし偉い人は言いました。帰るまでが遠足です、と。この場から離脱して会社に帰るまでがお仕事なのだ。

よって、来た時と同じように、抜き足差し足で気配を消しt……あ

 

ガラ

 

足に当たった残骸が音を立てて地面に落ちる。

とんでもなく早いフラグ回収。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。ってことで、ヒーロー三人も見逃し、いや聞き逃したりしてませんかね~???

 

「今の音は!?」

「っお前は!」

「今回も回収に来たか!」

 

はい無理でした、知ってた。

当然バレる。ついでに狙いもバレてる。

さてどうしようか、なんて悩む分けねぇだろ三十六計逃げるに如かずの通りつまりは全力で逃げるんだよォ!!

 

「待ちやがれ!」

「くっ油断した!」

「追おう!」

 

赤を筆頭に追いかけてくるヒーロー達。

だが舐めないで欲しい。

こちとら中学の部活体験で「お前の足なら陸上で全国に行ける!」とまで言われたのである。

まあ当時から陰キャの片鱗を見せていた俺は断ったけど、その後は大学まで走りとはほぼ無縁の生活してたけど!!

とは言え、最近はこんな仕事をしてるから鍛えてるのは本当、ついでに組織の怪しいお薬にも手を出してるのも本当。

俺が走るのはタイムの為じゃなくてヒーローから全力で逃げるためだから許して欲しい。

怖いけど命には変えられないからね、デメリットについては怖くて正面から聞けないけど。

 

「待て!」

「おら、追い付くぞ!」

「三人で囲うぞ!」

 

たが悲しきかな。ただのトレーニングと怪しいお薬を使った俺と、古だか奇跡だかのすごい力で変身したヒーローで比べると身体能力は彼等の方が上なのである。

本当ならこのまま何も考えずに、過去も後ろも振り返らずに前を向いて走りたい……が、ソレじゃいつか追い付かれてしまうので却下。

脇の路地に飛び込めー

そして路地裏の狭い道を右右左右左左右左上(ジャンプ)下(マンホール)ァ!!

 

「あいつ、何処行きやがった!」

「まずいな、この辺りの路地は入り組んでる」

「手分けして探そう。僕らの誰か一人でも見つければジュエルコインは取り戻せる!」

「「ああ!!」」

 

そう言った後に3つの方向に去っていく足音達。

ふぅ……今日も逃げきったぜ……

地上はガイアスリーが探し回っているからこのまま下水道に降りて行くか~って事で地下に降り立ったモブこと俺。

 

「あっついな、いいや脱いじゃえ」

 

全力疾走して汗をかいたので、被っていたマスクの不快感が凄い。

普段は俺の身バレを防ぐ頼もしい相棒なのだが、全力疾走した後に被ったままは色々ヤバい。

てことで頭に被っていたマスクを抱える。うーんぐるぐる巻きの包帯に一つ目っていつ見ても結構アレなデザインだよな、まあ一年も一緒に仕事したら気にならんし何なら愛着すらあるけど。

 

「さーて帰ろ帰ろ……職場に」

 

悲しい現実に泣きたくなりながら俺は下水道を歩いてく。

これで家に帰るんならまだしも、職場でまだやることあるんだから社会人とかやってられねーって話である。

もっとも、世界征服を目指してる組織に所属してるのを社会人と言って良いかは知らんけど。

 

ーーーーーーーーー

 

さて俺の人生に分岐点が有るとするならば、それはいつだったのだろうか。

両親が俺を捨てた時? 親がいない自分の境遇が普通ではないと気付いた時? なんなら俺が生を受けた時か?

まあ考えればいくらでも出てくるだろうが、()()()になったのは間違いなく適当に就活してた2年前だろう。

余りにも投げやりに生きてたから、企業分析なんか録にせずに時給週休2日という文字だけ見て適当に応募したのだ。

で、見事その一社の採用を得て満足した。してしまったのである。

就活を止めて会社に勤め始めるまでのモラトリアムをダラダラテキトーに過ごし、大学卒業してからそこで働き始めた。

これでそこがただの会社、なんならブラックでも普通の企業ならどれほど良かったか。

実際は黒どころか世界征服狙ってる悪の秘密結社だったんだが。

 

『やあやあ、君が新入社員君か。よく来たね、残念だけど一度こちら側に来た以上もう元の生活には戻れないよ? 命が無くなっても良いと言うなら話は別だけれどね!』

 

俺が初出社した時に言われた言葉である。

これを言ったのは直属の上司である見た目小学生の天才(マッドサイエンティスト)博士幼女(白髪)という、もう全部がまともじゃない会社に俺は就職したのだ。

そして俺は悪の秘密結社、カオスフィルムで会社を辞める=死というブラック企業もビックリな生活を始めたのである。

 

ーーーーーーーーー

 

「戻りました~」

 

下水道を歩き回り数十分、俺は文字通り突如現れた扉を通って会社に戻った。

原理は知らないが、組織の基地に通じる扉は必ず毎回違う場所に出現する。

普通のビルの中や林のなかに扉だけ、今回みたいに突然目の前に出てくることもある。

更に不思議な事にこの扉の行き先は毎回俺がいくべき場所に繋がっているのだ。

基本的には俺が所属しているカオスフィルム怪人開発部の研究室だが、時には組織の会議室や上司の一人部屋に行くこともある。

今回は基本の研究室に繋がった。

 

「やあやあ、お帰り回収係君。その様子だと無事今回も役目を果たしてくれたみたいだね~。素晴らしい! 君が回収担当になってから助かるよ~~~、前はこのジュエルコインが殆ど使い捨てだったなんて今じゃ信じられない!!」

 

帰って来た俺に対してすぐさま近づいてきて、回収したブツをかっさらったのが俺の上司。

就職初日にも話をした良く言えば合法ロリ、悪く言えば年齢詐称のロリババア。

見た目小学生(実年齢不明)の悪の組織の幹部が一人、怪人開発研究主任ことシーナ女史だ。

シーナ女史は俺が回収したコインを抱え、専用のカプセル型容器に納めていく。

その様子は実に楽しげで、彼女の容姿もあり小学生がコインのおもちゃで遊んでいるみたいだ。

まあ実態というか他の部分も視界に入れたら、暗くて怪しい実験施設の謎の液体にコインを浮かばせてるマッド科学者という明らかに黒です本当にありがとうございますと言いたい場面なんだが。

 

「仕事ですから、給料の分は働きますよ俺は」

 

断ったら死ぬだけだし、という続きの言葉は呑み込んだ。とは言えこの悪の組織、驚くべき事にちゃんとお金の給料がでる。

少なくとも成人男性が一人暮らしで貯金ができるくらいには給料がいい。ついでになぜか福利厚生がしっかりしている。

死と隣り合わせという最悪の条件を無視すれば案外悪くない職場なのだ。

実際俺が組織を抜けてヒーローや警察に駆け込まないのは裏切りがバレて死にたくないのは勿論、職場として悪くないのも理由の一つだ。

 

「君の前任者達はその給料分の仕事ができなかったからもういないんだけどね。ヒーローに見つかってやられたり、碌に仕事ができないから幹部の怒りを買って殺されたり、さ」

 

シーナ女史がコインの処理を終わらせて適当に手袋を脱ぎ捨てる。

この人研究には真摯なんだけどそれ以外がズボラすぎるんだよな、今みたいに捨てられた手袋を処理するのもの俺なので非常に面倒くさい。

まあ上司としての欠点がそれだけだから一番ましなんだが、会話に出てきた他の幹部だと向こうの気分が悪けりゃ何もなくても命の危機である。

 

「そうそう、今日の幹部会議でも君の話題が出てね。その素晴らしい能力を生かすべく怪人にしてヒーローとの戦いに加えるべきだ! ってリーオが言ってたよ」

「うぇあぃあ!?」

 

唐突に飛び出たトンデモ発言に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

シーナ女史が「いやどんな叫びwwwww」という古のオタクみたいに笑い転げているが俺にっとっては死活問題である。

怪人になるってことは人間をやめ、今の人間としての生活も捨てることである。

具体的にはジュエルコインを埋め込まれてその力を制御するための機会も埋め込まれて、埋め込まれたジュエルコインの影響で人ではなくなるということ。

一応ジュエルコインとの適合率が100%を越えていたら機械化は不要で怪人とはまた別のとんでもない存在(うちの幹部達は全員それ)になれるんだが。なお可能性は宝くじの一等レベルである。

話を怪人に戻そう。

怪人は無条件にヒーローとの戦いに参加なのでもう実質死刑宣告である。

しかも何が嫌ってそれを言っている人だ。

カオスフィルム幹部リーオ、怪人を訓練しヒーローに戦わせる戦闘部門を率いる幹部であり、先ほど言った当人の気分によって命の危機が訪れる個人的には上司にしたくない人No.1である。

ぶっちゃけ悪の組織の人間とか全員嫌とか言ってはいけない、命は大切だからね。

 

「嫌です、絶対に嫌です。怪人とか本当に勘弁してください」

 

シーナ女史に向けて怪人化を止めるよう頼み込む。当然土下座だ。見た目ロリに土下座するとかプライド無いのかって? そんなん俺の命と比べりゃクソだ。土下座で今の人生守れるなら床にめり込むくらいするわ。

てなわけでどうですかね? シーナ女史の琴線に触れるようできるだけ面白くかつ見応えのあるに地面にめり込むスライディング土下座をかましてみたが反応は?

 

「……プッ、ハハハハハ! いや必死すぎるよ君、床にめり込んでるwww いやー、欲望に素直なのな君の良いところだと私は思うよ、本当にね」

 

よし、反応は悪くない。

これでシーナ女史に俺の怪人化を止めるように進言して貰おう、これでもシーナ女史の玩具としては悪くないと思われていると思いたい位には笑わせてるからなんとか……

 

「安心しなよ、今回の提案に関しては元々私の方から断るつもりさ。君の能力の高さは「人間である」という自認から来るものなのは検査した私が一番知ってるよ。ま、私がいる内は君が怪人になることはないと思ってくれたまえ」

 

感謝…!! 圧倒的感謝…!!

やっぱシーナ様しか勝たん、ロリババア最高だな。まあそんな検査いつの間にしたのか知らないという恐怖要素はあるが、それでも感謝でプラスマイナスはプラスである。

とは言え、宣言通りシーナ女史が俺を守ってくれるのはシーナ女史が生きている間だけなのは頭に入れておくべきだな。

悪の組織である以上誰かの裏切りによってシーナ女史がいなくなる可能性も十分ある。

なら俺がシーナ女史を守ると言いたいが回収係の仕事柄、外に出てる時間は多い。ていうか俺が家にいる間にやられる可能性の方が高いだろ。ここに住むのは論外である。

いざという時の為に別の誰かともコネを作っとくべきか? でも他にまとも(そう)な幹部がなぁ……

 

「そうとも、怪人になることはないさ。ふふ……」

 

シーナ女史が悪い声で笑ってるのが聞こえた。

うん、この人がいなくなったらなんてのは杞憂かもしれん。冷静に考えりゃこの人自身も組織の幹部、怪人を越えた存在だわ。

普通の怪人はどうやっても勝てんし、同じ幹部なら怪人開発のトップである彼女の有用性と唯一性はよく分かっているだろう。

つまりシーナ女史は下の奴には殺せないし、同格以上の幹部達からすればいなくなったデメリットの方が大きい。非常に狙われにくい立場である。

冷静に考えればシーナ女史よりも常に俺自身の事を心配するべきだな。

てなわけで俺はこんな物騒な場所(悪の組織本部)に居られるか! 家に帰らせて貰う!

 

「今日の回収現場はカオススリーだけでしたよね? 俺はもう帰っても?」

「うん? 今……17時半か。まあ良いんじゃない? 私はこれから新しい研究の続きに入るし、君の仕事自体はもう終わってるし。ていうか勤務時間自体がほぼ意味無いしねー」

「ありがとうございます。それじゃ、お疲れ様でしたー」

「はいお疲れ様ー」

 

シーナ女史に確認を取って研究室を退室して帰路に移る。まだ勤務時間内だが直属上司にOK貰ったから良いんだよ!

いざ速攻家に帰る……前に更衣室で服を着替えよう。回収係の仕事着のままだからね、服装から身バレとか笑えないジョークですわ。

てなわけで、私服に着替えたら更衣室を出て帰ろ……帰りたいけど扉がねぇ。ちょっと、普段なら更衣室出たら待ち構えてるじゃん、何でだよ。

あれか? やっぱまだ勤務時間だからダメってか?

 

「おや? 退勤時間にはまだ少し早いはずだが」

 

俺が悩んでいると横から声がかけられた。

シーナ女史とは違う声、この男性特有の低さとイケメン特有のイケボは……!

 

げぇ…リーオ幹部、お疲れ様です」

「ああ、お疲れ様。回収係君」

 

心の中の阿鼻叫喚な悲鳴と怒号の合体事故はなんとかこらえた。若干漏れたけどこのくらいなら大丈夫やろ(白目)

かけられた声の主は今俺が会いたくない、かつ今後も基本的には会いたくない。俺を怪人にするべきだと主張する怪人戦闘部門の幹部、リーオ。

その赤いメッシュが入った髪と大人しい青年のような見た目とは裏腹にその実態は熱血漢というか、とにかく情熱が凄い、圧も凄い。

そしてそれらは今なぜか俺の怪人化に向けられている。ぶっちゃけ今すぐ逃げ出したい。

 

「回収の仕事が早く終わりまして、シーナ様の許可も貰ったので少々早く帰ろうかと」

「そうかい。まあ、勤務時間自体に意味は無い、君が仕事を終わらせたのなら文句は何処からも出ないだろう。勿論私含めてね」

 

冷や汗だらっだらである。一応シーナ女史の許可は貰っているが、彼女と同等の位にいるリーオからダメ出しされれば早期退社どころか残業まである。今のところ認めてるのが逆に不安だ。

何なんだろうねこの感覚、別に問題あるわけじゃないのに別の上司に出会ったら責められる気がしてくるの。

 

「ふむ……そうだ、今日の会議でシーナに伝えてみたが君自身にも聞いておこう。君は怪人になる気はないか? 君の身体能力は素晴らしい! 怪人になって私達と共に戦士もどき達を蹴散らそうじゃないか!! 君が怪人になればあんな奴らなんぞーーーー」

 

おおう、後半になるに連れ言葉が暑い暑い。

ちなみに戦士もどきとはヒーロー達のことだ、リーオの中ではジュエルコインを肉体的に埋め込み適合した者が「戦士」であり、ヒーロー達のように肉体とコインの間に一枚壁……多分だけど変身アイテム……これがあると「戦士もどき」らしい。怪人は機械と一緒にコインを埋め込めるから「戦士」判定のようだ。

というかここで俺本人に怪人勧誘ですか、止めてくれないか(懇願) いや本当に止めてくれねぇかな、後からシーナ女史を伝ってに断るのは確定してるんだし。

いや、だからこそここで俺本人に直接来たのか? うっわストーカーかよ引くわ。

 

「お話は嬉しいですが今の自分はシーナ様の部下ですので」

「いいや! たしかに君はシーナの部下であり彼女の元にいるが、君自身が望めば今すぐにでも私の権限で怪人化する事もできる! それだけの素質を私は君に見だしている!!」

 

こいつ話聞かねえな。

俺の言葉ぶった切ってまで怪人化勧誘してくる。

あーあー、メッシュだけだった赤毛がどんどん広がってら~。これが適合率100%、普段の見た目は全然人間なんだけど今みたいに感情が高ぶると真の姿……ぶっちゃけ怪人態の要素が表にでる。シーナ女史も研究に没頭するとたまに髪が水色になるしなんなら時々鱗生える。

こういうの見ると適正100%でも怪人になりたくね~と思うよね。

さてどう断ろうか(絶望)

 

「さあ! 今すぐ私と共に戦おう!! 君がいれば世界征服なぞーーーー」

「まて、それ以上私の玩具(ぶか)に手を出すのは止めて貰おう、リーオ」

「む、シーナか!!」

 

来た! メイン上司来た! これで勝つる!!

いや冗談抜きでここでシーナ女史は本気で助かる。台詞のルビがちょっとおかしかった気がするがきっと間違いだよ多分メイビー。

 

「彼の扱いに関しては私の管轄であり、既に答えは出ている。彼の強さは人間であるからこそだ、怪人になれば彼の能力が落ちる可能性が高い。既に話した筈だけど?」

「それはしょせん可能性の話だ! 私は彼が怪人になれば間違いなく我々に匹敵する怪人になると信じている!! 彼を怪人へさせる準備は整えてある、彼が怪人になればもう君の管轄ではなく私の管轄だ!!」

「なるほど、確かに私の担当は人が怪人になるまでで怪人になってしまえば君の担当だ。最も彼が望めば、だがね」

「そうだ! 彼が望めば、いや彼は望むべきだ! 彼は戦士になるべき存在だ!!」

 

大事な大事な俺の意志が現在進行系でガン無視されてるんですが……(避難済み)

リーオの感情が高まっていき、髪は赤く目から瞳が消え頭部から捻れた角が生え始めている。

うーん怪人態になりかけてますね、シンプルに命の危機。

対してシーナ女史は全然動じてないな、髪も変わってないし鱗も出てない。感情はあまり動いていない証拠だ。

 

「随分と焦ってるね、リーオ。私の提案はそれ程までに君を傷付けたらしい。そんな姿を見れただけでも提案した価値があるというものだよ」

「!! 貴様……」

 

お? シーナ女史の言葉でリーオの変身が止まった。どうやらリーオが俺を無理やりでも怪人化させようと焦っていた理由はシーナ女史にあったようだ。

とりあえず、もうしばらく気配を消して話を聞いておこう。私は壁、私は壁、私は壁……

 

「ぶざけるな!! あのような考えは、私は断固として否定する!!」

「だが彼の怪人化にリスクがある以上、私の案が受理されるのは時間の問題だろう、実際に君以外の幹部の反応は悪くなかった。後はボスだが……まあ、通るだろう」

「馬鹿な!? 我が主があのような物を認める筈がない!」

「彼が一度でも反対したことがあったか? いつも通り「些事は任す」と言って終わりさ」

「貴様!! 貴様も主は飾りだと言うのか!?」

「そこまでは言ってないだろう……ま、君があえて逆らうことで飾どではない証明するつもりなら止めないけど?」

 

なんか凄くヒートアップしてる……リーオが。

変身は止まったがもう最初の紳士的な雰囲気はどっか行っちまったようだ。ていうかうちのボス、いや俺的には社長? 代表取締役? ってそんなどこぞのインド英霊オルタナティブみたいな人なんだ、初めて知ったわ(問題発言)

シーナ女史の言葉に喚いていたリーオは、悔しさを隠しもせずにすっごい表情で俺とシーナ女史の顔を見た後に大きくため息を吐いた。どうやら自分の中で一区切り付けたらしい。

 

「……私が組織を、あの方を裏切ることだけはあり得ない。ああ、悔しいが……彼についてはシーナ、君に一任しよう」

「是非そうしてくれ、これで私の研究も実を結んで先に進めるというものさ」

「ああ……残念だよ、回収係君。君が戦士ではなく戦士もどきになってしまうのは……だが君が同士であることは変わらないとだけ言っておくよ」

 

そう言い残してすたすたと帰っていくリーオ……なんだが、ちょいまて。おい、お前今無視できない発言があったぞ。

俺が戦士もどきってどういう事だ、俺が変身ヒーローになるってのか、おい。

より詳しく話をするならシーナ女史に聞くべきだが……

 

「おや、今のでもう18時だね。早く帰りたまえよ君、そら帰りの扉だ」

 

うーん、当然のごとくはぐらかされる。

そりゃそうだろね、恐らくは俺に全く教えずに俺に何かやろうと思ってたんでしょうね!!

ていうかついさっき俺を怪人にはしないって言ってたじゃん!! 怪人以外にはするってことだね今理解したよチクショウ!!

あー……やべぇ、今の頭は駄目だ。色々ごちゃって考えが纏まらないし考えられない。良くないなこれ。

こういう時は

 

「……すいません、一本吸っても?」

「ああ、アクアマリン8号だね。勿論だとも、なんなら火いるかい?」

 

お願いします、と言いながらバッグから掌サイズの紙箱を、更にその中から完全に煙草な見た目の物を取り出す。

そしてシーナ女史が火を付けたマッチ(何でマッチ?)を取り出して俺の煙草(仮)に火を付けた。

そのまま口に咥えて吸っていく。関係ないけど煙草っぽいのを吸うときってなんかカッコつけたくなるよね、まあそれが逆にカッコ悪いとも言うが。

 

「スゥーーーーッハァーー」

「うんうん、ちゃんと使ってくれてる所を見ると製作者冥利に尽きるね」

 

青色の煙を吐き出しながらシーナ女史の言葉は聞き流した。

うん、さっきからいかにも煙草を吸っているようだかこれはれっきとした(?)シーナ女史の発明した薬品。

俺がお世話になっているお薬の1つである。

名前をアクアマリン8号、煙草っぽいが体には無害かつ環境にも優しい(??)らしい。効能はこの煙を吸うと気分を落ち着け頭をクリアにして思考が普段より早く回ることである。

え、煙草中毒? いや違うし、俺はモノホンは全然吸えん、一回これ(アクアマリン8号)で調子に乗って手を出したが俺は断然アクアマリンである。てかアレを上手いと言える神経がわかんねぇ。これ以上は止めとこう、喫煙者に殺されそうだ。

 

うんうん、薬が効いてきて色々と考えれるようになってきたな。

となるとまずは現状把握だ。

つっても問題点は1つ、俺が人間を辞めるか否か、だ。

ずばり、今の情報だと恐らくは人間は辞めない。ただしヒーロー達みたいにジュエルコインの力で戦場に立つ可能性は上がるって所か。

シーナ女史は嘘はあんまり言わない、である以上先程言った俺を怪人にはしないって発言は信頼できるってかしないとなんも言えねぇ、いや考えられねぇ、前提である。

更にリーオの戦士もどき発言も合わせると俺はどうやらヒーロー達のような存在、いわゆるアンチヒーローか? それになる可能性が高い。

 

では次に何をするか。

まずここでシーナ女史を問い詰める、論外。

前提として幹部であるシーナ女史の戦闘力は恐らくヒーローより上である、そんな存在にヒーローより下の俺がなにしても死亡フラグだ。

よって却下。ここで掘り下げるのは無しだ。

次にヒーロー達に匿ってもらう。

幸い明日明後日は土日、つまり休みだ。その間にあたりをつけてるヒーローの中の人に助けを求める……悪くないように見えるが、これは部の悪い賭けだろう。

そもヒーロー達はあたりを付けてるだけで確実ではない、これで助けをも止めて「違います」とか言われたら泣くしかない、いや泣きながら組織の粛清を受けるしかないってのが正しい。

仮に本当だとしても俺を殺しに幹部が来たらアウト、下手したらヒーロー達も死んでカオスフィルム大勝利ルートだ。

俺どころか世界がヤバい。却下。

となるともうシーナ女史を信頼して普通に土日休んで出社した方がよさげである。

問題があるとするならシーナ女史からは信頼されてても他の幹部からは違う可能性があることか。

下手な動きをしたらすぐ様BANG! なんて勘弁。

それを対策するならずっと家に居続ける事になるが、それは休みとして如何なものか。

うーん、実験は受け入れるしかないとして、

土日の休みをどうするか、だな。

とは言え、せいぜいここで見てるであろう幹部達に対して宣言するくらいか。

うん、纏まったな。と、ちょうどマリン8号が吸い終わる。

マリン8号の吸殻は気体になる環境配慮型、吸い終わるとそこにはなにも残らない。

ただし俺の頭の中は別だ。

 

「とりあえず、今日は帰って明日明後日は休みます。別に良いですよね?」

「勿論だとも、君の物分かりの良さは私が気に入っている部分でもある。それで、君は土日をどう過ごす?」

「何も特別なことはしませんよ、いつものトレーニングと休みです」

「至っていつも通りだね、例の公園かい?」

「ええ、もしかしたらその後にカフェ位行くかもしれませんけど」

「ああ、君の友人がアルバイトしてる所か。他には?」

「特には……本屋とかゲーム屋とか行くかもですけど、町を出ることは無いですよ」

「了解了解、じゃあその()()()()()()()()()()()()()

 

シーナ女史に休日の予定を伝えつつ、恐らく来るであろう監視の為に行動範囲を伝えておく。

これで町を出ない限りはいきなりBANGは無いだろう、逆に町の外に出たら即死だが。

ま、これで休みを楽しむ為の余裕はできるだろ、監視は付くだろうが是非とも俺が気付けない位の奴で頼む。

というかシーナ女史、俺の交遊関係とそのバイト先把握してるの怖くない? 当日は友人に迷惑かけないようにしないとなー。

 

「じゃ、俺は今度こそ帰りますね」

「ああ、お疲れ様だよ。また月曜日」

「ええ、また来週」

 

口外に逃げんなよと釘を刺されながら、シーナ女史に見送られて扉を潜ればそこは愛しの我が家である。

退勤時間0秒、普段は近くの駅のトイレとかなんだけどね。

なんだ、出てくるのが普段より遅くなったからってか。それなら最初から早く出てくれ、自分がアンチヒーローになるなんて知りたくなかった……

 

「あー、もういいや。考えるのは止め止め」

 

もう全部なんもかんも投げ捨てて、適当に上着も脱ぎ捨ててベッドにダーイブ……するには汗くさいな、先にシャワー浴びよ。

さて、こんなそんなで俺の素晴らしい(?)悪の組織の一員としての1日は終わりを迎えるのだ。

さーて、休日はどうしよっかなー!!!!


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