もはや魔法少女ではない   作:逆コ⊃若 皐月

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飛ぶ鳥を落とす光

 

 

 変身を終えたサンシャワーと現れた骸獣、蛇頭鳥尾(ケンネーク)の両者の間には雨が降っていた。

 青空がそのまま雫になったかのような青い雨は黄橙(オレンジ)の雲一つない夕日を憚らずに降り注ぐ。

 しかし、それも数舜の間だけ。通り雨は過ぎ去って、水溜まりだけが残るばかり。

 

「時間がないんだ。手早くいくぞ────死命線(デッドライン)!!」

 

 死命線(デッドライン)という魔動具たるナイフを呼び出し手に取ると、サンシャワーは一直線に蛇頭鳥尾(ケンネーク)へと突撃する。

 昨日の盲進騎兵(ジンネル)もかくやの猪突ぶりだが、当人が言うように時間がないのだ。

 少女に劣化魔力が定着してしまう前に、まずはその根元を浄化し(たた)なくてはならないのだから。

 

 故に、捨て身の格好でサンシャワーは行く。

 恐れは要らず、命は知らず、魔法少女らしく勇ましく。

 ヒールを鳴らし、スカート揺らし、魔法少女らしく淑やかに。

 

【HYyyaaaAAAaa────────────!!】

 

 猛烈な勢いで懐へと飛び込んでくるサンシャワーに、蛇頭鳥尾(ケンネーク)はその数ある頭を伸ばして四方から囲い込むように、次々と牙を立てる。

 

「邪魔だ」

 

 が、そのほとんどをサンシャワーは身のこなし一つで掻い潜る。いくらか進路上無視できないものもあったが、それすら死命線(デッドライン)を振るって弾いていく。そうしてサンシャワーは蛇頭鳥尾(ケンネーク)の本陣、すなわち胴の正面前まで切り込んだ。その速さといったら瞬き厳禁の速攻劇であった。

 

「まずはその殻を砕く」

 

 だが、蛇頭鳥尾(ケンネーク)もまた骸獣。

 盲進騎兵(ジンネル)と同様に体外魔力壁(エクストラガード)という自動防御機構を備えている。どうあれ、これを破れねば始まらない。何をするにしたって話はそれからなのである。それを実態を通して知ったサンシャワーは魔力壁(ガード)を形成しぶつける。

 

 盲進騎兵(ジンネル)にしたのと同じく仕方で蛇頭鳥尾(ケンネーク)の劣化魔力を枯らそうという作戦であるが。

 サンシャワーによる魔力壁(ガード)の突撃を受けた蛇頭鳥尾(ケンネーク)はその四つの足で以って大地を蹴って、後方へ跳んだ。ある意味でいきなり支えを失った形となったサンシャワーは前方へ体制を崩した。

 

「は? おい、逃げるなよ!」

【HyyYYYyyyyOOoo────────────!!】

 

 そこを逃すほど骸獣の野生は甘くない。

 再び蛇頭を伸ばして、ふらつくサンシャワーに幾度もタックルをカマしていく。もっともサンシャワーもまたこの程度で蹂躙されるほど軟ではない。態勢を立て直すと、浄化魔力の籠った拳や煌めく死命線(デッドライン)によって迎撃していった。

 

「……どうしたもんか」

 

 一度、距離を取ったサンシャワーは、悩みぼやく。

 迎撃したといえど、頭たちもまた体外魔力壁(エクストラガード)に覆われているため致命傷を与えるには至っていない。やはり体外魔力壁(エクストラガード)をどうにかせねば活路はなさそうだ。

 

 いや、そのための突撃であったのだが魔力が尽きるまで根比べに付き合うような突撃バカは盲進騎兵(ジンネル)くらいのものだったようだ。一応、今の攻防を繰り返していけばいずれ破壊できる見込みもあるが蛇頭鳥尾(ケンネーク)相手に実行するには時間がかかりすぎる。

 何より拙速であれ最短最速が求められる場面なのだ、只今は。

 だから悩む時間も惜しいのだが。

 

「やあお困りかな? ボクのサンシャワー!」

財閥令嬢(ストーカー)? あなた(オマエ)、なんでこんなところに?」

運命(キミ)のあるところにボクも在り、だよ……待って、今不名誉な呼び方されなかった!?」

「うるさい」

 

 住所を特定しようと嗅ぎまわっている時点で、言い逃れ不可能であろうに。

 

「それより、あなた(オマエ)なら知ってるだろ。あの体外魔力壁(エクストラガード)とやらの破り方はなんだ?」

 

 大変不服ではあるものの今は猫の手でも、ストーカーの手でも有益ならば借りたい状況だ。

 今度こそ魔法少女スカウトとして専門知識を披露してほしいものである。特に魔法少女が守るべき一般市民が危険に陥っている現状では。

 

「さっきみたいに交換条件ならいいよ」

「はあ? あなた(オマエ)状況が────」

「分かってるさ。だからこそだよ。早くあの蛇頭鳥尾(ケンネーク)を倒したいんだろ?」

 

 唐突に投げかけられた取引。サンシャワーとしては絶対に乗るべきではない。

 二度目の人生と言えど、所詮は単なる凡愚に過ぎないサンシャワーと仮にも財閥令嬢である四音寺ノアとでは舌戦の練度が違う。これまで不利にならずに済んでいたのは、あくまで要請を受ける側という優位性を振りかざしていたからだ。交渉のテーブルに着けば、敗北するに決まっている。

 

「わかった。ただし後払いだ。今すぐ攻略法を教えろ」

 

 そんなサンシャワーの進退などを気にする場面ではない。

 仮想の交渉と同じく、答えは最初から決まっていた。

 

「すごいね、即決だ。では骸獣の生態教室と行こうか。体外魔力壁(エクストラガード)魔力壁(ガード)とか、この手の魔力での防御術の展開ってかなり魔力消費が食うんだよ。維持費より初期費用が掛かる感じでさ」

「時間がない、要点だけを言え」

 

 再度迫り来る蛇頭どもを弾きつつ結論を促す。

 

 御託を聞いている時間はないのだと、サンシャワーは背後で倒れるレイナを覗き見る。

 サンシャワーの浄化魔力によってか皮膚の汚染の証(赤い痣)こそ薄まってはいるものの、未だ立ち上がることもできずに呻いている。

 

「要点ね。体外魔力壁(エクストラガード)を破りたかったらとにかくどんなに低威力でもいいから手数で攻め立てるのが有効だよ」

「手数だあ?」

「そう手数。時間に対してより多く繰り出せる攻撃だね。何故なら、奴らは排出しておいた劣化魔力を使って、とりあえずどんなものであれ自動(オート)魔力壁(ガード)を張って防御する。でもね、このとき相手の攻撃の威力を判別して出力を変えるなんて器用な真似はできない。体外魔力壁(エクストラガード)の硬さは常に一定なのさ」

「……なるほど、それでか」

 

 体外魔力壁(エクストラガード)の出力は固定性であること。

 どんな攻撃でも体外魔力壁(エクストラガード)は発動すること。

 そして魔力壁(ガード)系は維持コストよりも発動時のコストが高いこと。

 

 これらを総合すれば、確かに威力より手数優先になるとサンシャワーにも理解できる。

 

()(すが)、ボクの運命。気が付いたみたいだね。どんな攻撃でも反応するんだ。ヒット数の多い弱攻撃でガード値を浪費させるのが一番手っ取り早いだろう?」

 

 俗っぽい例えによる総括だが分かりやすい。

 

 威力百の攻撃を一回当てても消費される魔力は魔力壁(ガード)一回分だが。

 威力一の攻撃を百回当てれば消費される魔力は前者の百倍なのだから。

 体外魔力壁(エクストラガード)を破壊するときに効率がよいのは明らかに後者である。

 

 ならば、とサンシャワーは構えた死命線(デッドライン)を太股のホルスターに収納し詠じる。

 

生命線(ライフライン)

 

 死命線(デッドライン)とは正反対の名を呼んだサンシャワーの左手には銃らしきものが収まっていた。凡そオートマチックピストルと呼称して誤解ない形状であるそれは、がしかし、単なる銃として見るには奇怪な点が残る。

 銃身(バレル)に相当する部位が空洞となっているのだ、ちょうどグルーガンなど同様に。この連想を裏付けるかのごとくサンシャワーの右手には万年筆ほどの大きさの杖が握られていた。

 

強襲掃射術理杖(アサルトバレット)

 

 魔力を籠めて名を詠じると、杖表面の刻印が仄かに青い光を宿す。その輝きに一瞥も送ることはなくサンシャワーはそのまま、光る杖を生命線(ライフライン)の空洞部目掛けて挿入した。何の抵抗もなく深奥に先端が到達し、押し込むとカチリと噛み合う感覚が指先に伝わってくる。

 

「へえ、杖銃も持ってたんだ」

 

 銃口を蛇頭鳥尾(ケンネーク)へと向けるサンシャワーにノアは目を細めて呟く。

 

 杖銃とは現代派(モダン)魔法少女を代表する魔動具である。

 銃身(バレル)代わりに取り付けられた杖の術理に魔力を流し込むことで、魔力弾を発射するものだ。似通った性質の魔法である魔力砲(カノン)に匹敵する威力を持ちながら安定性や信頼性、(しろうと)でも使えるという点で勝る魔動具史上、他の追随を許さないエポックメイキングである。

 

 故に無認可の魔法少女が持つには過ぎた魔動具である。

 サンシャワーとしても抜きたくない代物であったが、それは人命よりかは重くない。

 

「さあ、蜂の巣にしてやる」

【HhhYYYyyyyyy────────────!!】

 

 蛇頭鳥尾(ケンネーク)へと一直線に駆け抜けるサンシャワーに肉薄する八方からの咆哮。

 それは食らいつくさんと接近する蛇頭たちの先駆けの証に他ならない。

 ならないのだが。

 

「はは────! 恐ろしいぐらいに効くな、これ」

 

 サンシャワーがトリガーを引く度、生命線(ライフライン)の銃口からは青い閃光が走った。それは秒間数多と放たれる(つぶさ)な魔力弾たちの輝き。生命線(ライフライン)の外観のイメージとは程遠い機関銃さえ思い起こさせる高速の連射。

 魔力の収束が甘く有効射程こそ短いが、考えなしに迫る烏合の頭たち相手では無関係。突如として、反撃を食らった蛇頭たちは無数の魔力弾一発一発に対して体外魔力壁(エクストラガード)を展開し、耐え忍ぶことを強いられる。

 

「そうだろう、そうだろう。さあ、そのまま撃ち抜けサンシャワー!」

「まずは一つ!」

 

 二人の声が重なった。

 そのうちに体外魔力壁(エクストラガード)に回せる魔力がなくなり、頭の一つを魔力弾が貫いた。ここに至ってようやく、己の窮地を蛇頭鳥尾(ケンネーク)は悟ったのだろう。蛇頭のいくらかを自身の手前へと引き寄せ始める。

 

「二つに──────三つ!」

 

 サンシャワーはそんな惨めな逃走を許すほど寝ぼけてはいない。

 自分からより近い二つを即座に選別し、それぞれに生命線(ライフライン)の放火を浴びせて潰す。

 風穴だらけとなったそれらの頭部からは煙るように劣化魔力が漏れ、力なく項垂れている。

 

【HHHHHYyyyyyyOooo──────────────!!】

 

 痛みを訴えかけてくるかのごとく絶叫する蛇頭鳥尾(ケンネーク)

 トドメは近いがサンシャワーは決して油断はしない。

 骸獣もまた魔法存在。物理法則に囚われず超常を振りかざす側に属しているのだ。

 ここからの逆転の一手を持ち合わせないと誰が断言できようか。終わりが見えた今こそ、慎重にそして大胆に相手を仕留めかかることが求められるのだ。

 

 両者がにらみ合っていると、蛇頭鳥尾(ケンネーク)がその両翼を広げた。

 その翼には駆け巡る劣化魔力によって幾何学模様が浮かび上がっており、それが何らかの魔法行使の前段階であることは疑う余地もない。

 そして蛇頭鳥尾(ケンネーク)は更にその羽への魔力を送り込み、地を蹴った。

 

 制空権を獲られたと誰にも聞こえぬよう舌打ちをしたサンシャワー。

 古今東西、ありとあらゆる戦いが上を取ることの優位性を証明している。

 予想外の隠し玉に身構えるサンシャワーだが、観察するうちにその脳裏を疑念が支配していく。

 

「いや、まさかな?」

 

 ついに堪えきれなくなりサンシャワーは思わず骸獣相手に問いかけてしまう。

 空中へと飛び立った蛇頭鳥尾(ケンネーク)は、こちらの様子を窺う素振りすらなしにこの場から離れていっている。あれでは、逃げているみたいではないか。魔法少女という潤沢な魔力を備えたご馳走から相手に逃げるなんて、そんなことが。

 

「そのまさかだ。逃げる気だよ。蛇頭鳥尾(ケンネーク)は鶏みたいな見てくれの癖して飛ぶんだ。特に主な攻撃手段である頭が潰されると一目散に、逃走目的で」

「そういうことは早く言え」

「だって聞かれなかったし、忘れたんだよ。けど、相手も敗走したんだ。これで終わりでいいだろ。あそこまで手負いならこの地域の魔法少女だって難無く仕留めるよ」

「関係あるか。できる限りは全力」

「いい心がけだと思うけど、どうやって? キミのその杖銃では射程外だろう?」

 

 今サンシャワーの握る生命線(ライフライン)体外魔力壁(エクストラガード)の破砕を眼目に置いた連射重視、射程度外視の術理をしている。天高く飛んで逃げる蛇頭鳥尾(ケンネーク)は届くはずもないのだが。

 

「それこそ関係ない」

 

 サンシャワーはそんな事情などどこ吹く風に返答する。

 手元では生命線(ライフライン)から青い杖、強襲掃射術理杖(アサルトバレット)を引き抜いていた。

 

「なるほど、換装式の妙だね」

 

 それと同型の緑の杖を携える様子でノアは察した。

 

 杖銃の性能は杖に刻まれた術理によって八割方決定される。

 逆説、杖を交換した場合八割方の性能が別物へと交換されるということだ。

 

破壊撃滅術理杖(バスターマグナム)

 

 サンシャワーは詠じて緑色の杖、破壊撃滅術理杖(バスターマグナム)生命線(ライフライン)へと装着する。

 それは連射速射のために魔力の収束を最低限しか行わない強襲掃射術理杖(アサルトバレット)と正反対の性質を有するもの。弓を引き絞るように限界まで魔力を収束させることで射程と一撃の威力を生命線(ライフライン)で出せる最大限まで高める術理を刻まれたもの。

 つまり今の生命線(ライフライン)長距離狙撃用(ロングレンジ)杖銃だ。

 

「落ちろ! 臆病(チキン)骸獣(ヤロウ)

 

 蛇頭鳥尾(ケンネーク)に向けて生命線(ライフライン)より放たれた閃曜。

 それはまるで地上から迸る流星のように、すっかり暗くなった空を照らしつつも駆け抜け。照準を違えることなく、片翼を貫き正しく飛ぶ鳥を落としたのだった。

 

 

 

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