もはや魔法少女ではない 作:逆コ⊃若 皐月
変身を終えたサンシャワーと現れた骸獣、
青空がそのまま雫になったかのような青い雨は
しかし、それも数舜の間だけ。通り雨は過ぎ去って、水溜まりだけが残るばかり。
「時間がないんだ。手早くいくぞ────
昨日の
少女に劣化魔力が定着してしまう前に、まずはその根元を
故に、捨て身の格好でサンシャワーは行く。
恐れは要らず、命は知らず、魔法少女らしく勇ましく。
ヒールを鳴らし、スカート揺らし、魔法少女らしく淑やかに。
【HYyyaaaAAAaa────────────!!】
猛烈な勢いで懐へと飛び込んでくるサンシャワーに、
「邪魔だ」
が、そのほとんどをサンシャワーは身のこなし一つで掻い潜る。いくらか進路上無視できないものもあったが、それすら
「まずはその殻を砕く」
だが、
サンシャワーによる
「は? おい、逃げるなよ!」
【HyyYYYyyyyOOoo────────────!!】
そこを逃すほど骸獣の野生は甘くない。
再び蛇頭を伸ばして、ふらつくサンシャワーに幾度もタックルをカマしていく。もっともサンシャワーもまたこの程度で蹂躙されるほど軟ではない。態勢を立て直すと、浄化魔力の籠った拳や煌めく
「……どうしたもんか」
一度、距離を取ったサンシャワーは、悩みぼやく。
迎撃したといえど、頭たちもまた
いや、そのための突撃であったのだが魔力が尽きるまで根比べに付き合うような突撃バカは
何より拙速であれ最短最速が求められる場面なのだ、只今は。
だから悩む時間も惜しいのだが。
「やあお困りかな? ボクのサンシャワー!」
「
「
「うるさい」
住所を特定しようと嗅ぎまわっている時点で、言い逃れ不可能であろうに。
「それより、
大変不服ではあるものの今は猫の手でも、ストーカーの手でも有益ならば借りたい状況だ。
今度こそ魔法少女スカウトとして専門知識を披露してほしいものである。特に魔法少女が守るべき一般市民が危険に陥っている現状では。
「さっきみたいに交換条件ならいいよ」
「はあ?
「分かってるさ。だからこそだよ。早くあの
唐突に投げかけられた取引。サンシャワーとしては絶対に乗るべきではない。
二度目の人生と言えど、所詮は単なる凡愚に過ぎないサンシャワーと仮にも財閥令嬢である四音寺ノアとでは舌戦の練度が違う。これまで不利にならずに済んでいたのは、あくまで要請を受ける側という優位性を振りかざしていたからだ。交渉のテーブルに着けば、敗北するに決まっている。
「わかった。ただし後払いだ。今すぐ攻略法を教えろ」
そんなサンシャワーの進退などを気にする場面ではない。
仮想の交渉と同じく、答えは最初から決まっていた。
「すごいね、即決だ。では骸獣の生態教室と行こうか。
「時間がない、要点だけを言え」
再度迫り来る蛇頭どもを弾きつつ結論を促す。
御託を聞いている時間はないのだと、サンシャワーは背後で倒れるレイナを覗き見る。
サンシャワーの浄化魔力によってか皮膚の
「要点ね。
「手数だあ?」
「そう手数。時間に対してより多く繰り出せる攻撃だね。何故なら、奴らは排出しておいた劣化魔力を使って、とりあえずどんなものであれ
「……なるほど、それでか」
どんな攻撃でも
そして
これらを総合すれば、確かに威力より手数優先になるとサンシャワーにも理解できる。
「
俗っぽい例えによる総括だが分かりやすい。
威力百の攻撃を一回当てても消費される魔力は
威力一の攻撃を百回当てれば消費される魔力は前者の百倍なのだから。
ならば、とサンシャワーは構えた
「
「
魔力を籠めて名を詠じると、杖表面の刻印が仄かに青い光を宿す。その輝きに一瞥も送ることはなくサンシャワーはそのまま、光る杖を
「へえ、杖銃も持ってたんだ」
銃口を
杖銃とは
故に無認可の魔法少女が持つには過ぎた魔動具である。
サンシャワーとしても抜きたくない代物であったが、それは人命よりかは重くない。
「さあ、蜂の巣にしてやる」
【HhhYYYyyyyyy────────────!!】
それは食らいつくさんと接近する蛇頭たちの先駆けの証に他ならない。
ならないのだが。
「はは────! 恐ろしいぐらいに効くな、これ」
サンシャワーがトリガーを引く度、
魔力の収束が甘く有効射程こそ短いが、考えなしに迫る烏合の頭たち相手では無関係。突如として、反撃を食らった蛇頭たちは無数の魔力弾一発一発に対して
「そうだろう、そうだろう。さあ、そのまま撃ち抜けサンシャワー!」
「まずは一つ!」
二人の声が重なった。
そのうちに
「二つに──────三つ!」
サンシャワーはそんな惨めな逃走を許すほど寝ぼけてはいない。
自分からより近い二つを即座に選別し、それぞれに
風穴だらけとなったそれらの頭部からは煙るように劣化魔力が漏れ、力なく項垂れている。
【HHHHHYyyyyyyOooo──────────────!!】
痛みを訴えかけてくるかのごとく絶叫する
トドメは近いがサンシャワーは決して油断はしない。
骸獣もまた魔法存在。物理法則に囚われず超常を振りかざす側に属しているのだ。
ここからの逆転の一手を持ち合わせないと誰が断言できようか。終わりが見えた今こそ、慎重にそして大胆に相手を仕留めかかることが求められるのだ。
両者がにらみ合っていると、
その翼には駆け巡る劣化魔力によって幾何学模様が浮かび上がっており、それが何らかの魔法行使の前段階であることは疑う余地もない。
そして
制空権を獲られたと誰にも聞こえぬよう舌打ちをしたサンシャワー。
古今東西、ありとあらゆる戦いが上を取ることの優位性を証明している。
予想外の隠し玉に身構えるサンシャワーだが、観察するうちにその脳裏を疑念が支配していく。
「いや、まさかな?」
ついに堪えきれなくなりサンシャワーは思わず骸獣相手に問いかけてしまう。
空中へと飛び立った
「そのまさかだ。逃げる気だよ。
「そういうことは早く言え」
「だって聞かれなかったし、忘れたんだよ。けど、相手も敗走したんだ。これで終わりでいいだろ。あそこまで手負いならこの地域の魔法少女だって難無く仕留めるよ」
「関係あるか。できる限りは全力」
「いい心がけだと思うけど、どうやって? キミのその杖銃では射程外だろう?」
今サンシャワーの握る
「それこそ関係ない」
サンシャワーはそんな事情などどこ吹く風に返答する。
手元では
「なるほど、換装式の妙だね」
それと同型の緑の杖を携える様子でノアは察した。
杖銃の性能は杖に刻まれた術理によって八割方決定される。
逆説、杖を交換した場合八割方の性能が別物へと交換されるということだ。
「
サンシャワーは詠じて緑色の杖、
それは連射速射のために魔力の収束を最低限しか行わない
つまり今の
「落ちろ!
それはまるで地上から迸る流星のように、すっかり暗くなった空を照らしつつも駆け抜け。照準を違えることなく、片翼を貫き正しく飛ぶ鳥を落としたのだった。