もはや魔法少女ではない   作:逆コ⊃若 皐月

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夢の原材料

 

 

 多くの人生がそうであるように、常間レイナの人生は碌なものではない。

 

 父は不動産の営業。母は家に居ついた専業主婦。二人の兄のうち、一人は骸郷都外の地方私大で、もう一人は名ばかりの進学校。それから二つ下で同じく市立中学に通っている弟。

 こうして家族の属性を列挙しても、骸郷都で珍しいものは何一つとしてない。

 完全一致する家庭も少なくないだろうし、部分的符合ならもっと多いだろう。

 

 そんな普通から常間レイナは生まれた。

 

 それでも、昔は母以外の唯一の女性としてこの普通のなかでは比較的特別だった。

 この骸郷都という都市(マチ)において少女は魔法少女という特大の特別になる可能性を秘めるからだ。

 

 ──魔法少女なれば若い頃は辛くても将来安泰だからね。学園を卒業できば短大は出た扱いになって、そこから大体の大学には編入できるし、その後の就職も有利。それにお金持ちの人たちとのお見合いだってあるんだから。

 

 それが母の口癖。言い方に差異こそあれ内容はいつも同じ。

 絵本の読み聞かせの回数よりもよっぽどこれを聞いてレイナは育った。

 魔法少女がそんなにいいものならなんで母は魔法少女ではなかったのか、なんて疑問を覚えることはなく。今以上に魔法少女を素晴らしいものとして賛美するメディアに溢れていたのもあって、純朴に自分は魔法少女になるのだと信じて疑うことはなかった。幼馴染や周囲にも魔法少女になるなど豪語してはばかることはなかった。

 

 そんな風に常間レイナは魔法少女になる前提で育てられ、生きてきた。

 検査で、魔法少女適性なしの烙印を押されるまでは。

 

 それが常間レイナ、最初の挫折。

 レイナ当人は覚えていないが、当時の母の怒りは凄まじいものであったらしく。

 近隣住民からの通報があるほどだったという。

 

 けれど、母のその落胆と比べると自分のは小さな落ち込みだったように思う。朝萩生まれ朝萩育ちのレイナにとって魔法少女はテレビの中のファンタジーだった。

 なれなかったところで何かが変わるようなこともない。

 大人たちにしても将来魔法少女になるなんて語りを真面目に取り合うものはいない。

 大概はああ適性なかったんだね、残念。というある意味残酷な一言で流してしまう。

 

 幼少期の、遠い未来でアルバムか何かと一緒に思い出されて、終わるだけの話。

 魔法少女になれないのなんて、最初の挫折の日から分かっていたのだから。

 

 けれど。

 

 ────レイナは高校、魔法少女学園か?

 

 進級したての春先の日に、幼馴染から告げられた一言。

 なんてことのない進路という初めての自己選択について話し合っていたときの日常の一幕。

 けれど。続く言葉を語るときの幼馴染の純粋な憧憬に煌めく瞳に、息を呑んだ。

 

 ────かっこいいし、かわいいもんな、魔法少女は。

 

 一度下された魔法少女適性診断が覆ることは、ほぼありえない。

 あるとしても大概は機材トラブルや検査の誤謬で、あとから適性が発現するのなんてことは極小数の例外だ。初めの身体測定で女子が秘かに二分されていることなど、誰しもが授業で教わり知っている。

 知らぬは呑気に身長を競う男たちばかりだ。

 

 だからそのときは適当に話題を別な方向へと誘導して、話を終わらせた。

 あの純な憧れの瞳が自分に向けられる未来はないのだという気付きだけが心に陰を落として。

 

 心に差した陰が晴れないままの今日。

 クラスメイトの一人が魔法少女スカウトを受けたという話が教室中に広まった。

 その人物とは授業中、浮目シュウがふとした拍子に眺めている八鳥ライムだという。

 

 そんな噂が耳に届いたとき常間レイナのブレーキは壊れていた。

 

 

 

 

「────シュウ?」

「目が覚めたか? ひとまずは寝たままでいい。今、ストーカー──あー、あの魔法少女スカウトが飲み物(ミズ)を買ってきてるから、それまでは安静にしておいておけ」

 

 朦朧としていた意識が回復する。

 ついさっきまで襲い掛かってきた痛みや麻痺の感覚はない。

 助かったのだろう、レイナは。この八鳥ライムという少女、いや魔法少女のおかげで。

 

「八鳥、なのよね? あんた」

「今はサンシャワーだ。が、まあいい好きな方で呼べ」

顕身の指輪(ソウルシフター)使うとそんなになるの?」

「他は知らん。(オレ)としても普段通り振舞ってるつもりなんだがな」

「嘘でしょ」

「かもな。証明は不可能だ。好きなように解釈しろ」

 

 あ、コイツ、八鳥だ。レイナは直感で察する。

 口調こそ違えど、八鳥ライムとかいう女はこういう物言いをする。自分の主張はしっかり示すのに、最終決定は相手に委ねるところが特にそう。

 中学の三年間、何故ずっと同じクラスであったのでそのぐらいは分かる。

 

「ねえ、八鳥。骸獣と戦ってたとき、どんな感情だった?」

「どうした? いきなり」

「いいから答えなさいよ。元々はそういう集まりだったでしょ」

 

 骸獣と対峙し撃退するという体験。

 その感情は常間レイナが生涯を賭しても知り得ないものだ。それこそ生まれ変わりでもしない限り。

 だから知りたくなっていた。リボンとフリルで着飾った外聞の裸は実際のところ、どんな色形をしたものなのか。知りたくなったのだ。

 

「何も考えてない。ただ目の前の敵をどう倒して、どうあなた(オマエ)を守るのか。それだけに必死だった」

「怖くはなかったの?」

「怖がってる暇はなかっただろ。あの骸獣を浄化(ころ)して、あなた(オマエ)の劣化魔力を取り除く必要があったんだから」

 

 骸獣が発生する前、左腕を這うように焼いた赤い痣は痕跡すら残っていない。

 彼女が、サンシャワーが己が浄化魔力を用いて除去したのだろう。

 

「どうして、そこまで。あんたは魔法少女じゃないんでしょ? なるつもりもないんでしょ? だったら、別の、本物の魔法少女にでも任せておけばよかったじゃない」

「そんなの待ってたらあなた(オマエ)が面倒なことなるだろ」

 

 レイナは劣化魔力汚染症などに特段に明るいわけではない。

 それでも死の危険や、神経麻痺などの可能性があることを知っている。それこそ今日授業でも軽く取り扱ったところだ。サンシャワーが立ち上がらずあのまま放置されていたら、左腕が二度と動かなくなっていたっておかしくなかった。

 それは事実だろう。だが、事実であろうだけで。

 

「あたしがどうなろうが、あんたには関係ないでしょ」

「関係あるさ。(オレ)あなた(オマエ)はクラスメイトだろ」

「そういう話じゃない。あたしを見捨ててもあんたには損がないじゃない。あんたは骸獣と戦っても得がないじゃない。だってのになんでって聞いてるの?」

 

 この日を迎えるまで魔法少女サンシャワー、八鳥ライムと常間レイナの関係はひどく希薄なものだった。連絡やグループワークとなれば話は別だが、それ以外で今日まで話したことは皆無に等しい。

 常間レイナがどうなったところで八鳥ライムの人生に与える影響はないはずなのに、何故。

 

「言ってるだろ。損得が関係あるか。(オレ)がそうすべきだと思った。それで話は終わりなんだよ」

 

 が、そんな疑念諸共サンシャワーは切り捨てた。

 万有引力を語るように当然と、誰かは誰かを助けるべきなのだと主張している。

 レイナは地球の回転が逆になったってそのようには思えない。きっとレイナの母だってそう。

 

 これが本物の魔法少女。

 なるほど。これはそうそうなれやしないな。

 

「あんたさ、秦奉の陰に隠れてるだけで相当、天然でしょ」

「馬鹿言え。(オレ)はあんな純朴なんかじゃ──」

「──じゃあ、なんで今膝枕なんてことをしてるのよ?」

「そりゃあなた(オマエ)、寝てるところが固いと悲しいだろ」

 

 変貌した口調などのツッコミ所に押されて後回しにしていたがレイナはサンシャワーに膝枕されている。目が覚めて最初に飛び込んできたのが胸部の膨らみで言葉を失ったものである。そして、そのような姿勢になった理由が単なる気持ちの問題で、かつさも当たり前であるかのように語る様は────

 

「────言い逃れできない天然でしょ、あんた。というか何なら秦奉以上ね」

 

 何せ、常間レイナはここまで天然でもなければ、ここまで底抜けにお人よしでもないしそうなる気もない。

 もしもそこまで天然とお人よしを極めねばならなぬのなら、魔法少女などこっちから願い下げである。

 

「はあ。ねえ」

「…………なんだよ?」

 

 ただし当人はそうでもないようで、ふてくされ気味の返事。

 

「あたしさ、あんたのことが嫌い」

「だろうな」

「勉強も運動も大概のことできるところとか調子乗ってる感じがするし、協調性ないとこもムカつくし、なんかクラスメイト全員を下に見てそうなところとか気に食わないし、そのくせ面に自信がないとできないような仕草を平気でするし、仲良くする気ない癖して素で男子との距離感がヤバいから好きな男の近くにいては絶対に欲しくないし、なんかこうそういうの抜きにしたって全体的に目に余る感じで嫌い」

「あ、結構しっかり出てるのな…………」

 

 思いの丈を口にしていくと、すっきりする。

 一つのクラスという政治的均衡や駆け引きが求められる場では絶対に口に出せない本音。

 本来ならサンシャワー当人にいうのも得策ではないが、この底抜け天然女相手なら問題無しとレイナは判断した。

 

「それで、あたしはシュウのことが好き」

「それも、まあ、だろうな」

 

 嘘つけ。

 今日この日まで気が付いてないで、シュウに絡んでたくせに。

 

「だからシュウには手を出さないでね」

「安心しろ。ハナっから手を出すつもりなんざない」

「というか半径百メートル以内には近づかないで」

「無理だろ、それは。クラスメイトだぞ。しかも隣の席」

「そりゃ分かってるわよ。けどあんた、こういう直接の釘差しが一番効きそうだもの。できる限り打っとかなきゃ」

「はあ、そりゃどうも。精々気を付けさせていただきますよ、お嬢様」

 

 呆れたようなサンシャワーからの了承。

 これでもう少し安らかに教室で過ごせるだろう。

 どうせこの天然ぶりでは気休め程度にしかならないだろうが。

 

「やあ、買ってき────────何してるの?」

 

 そうして二人の会話に一段落がついたところで、飲料水を抱えた女性が一人。

 レイナにも覚えがある。魔法少女スカウトの女ことノアであるのだが。

 

 膝枕の状態のサンシャワーとレイナを目撃して、一気に纏う雰囲気が変わった。

 重々しく淀んだそれは嫉妬の類の空気感。鋭い眼差しはレイナに向けられている。

 

「見りゃわかるだろ。怪我人の介抱だ」

「いや分からないよ。怪我人だからって膝枕はしなくてもいいだろう!?」

 

 それはレイナもそう思う。

 ノアの様子などお構いなしに告げるサンシャワーの態度に意を唱えたい。

 が、鬼気迫る大人であるノアを相手にサンシャワーという武力強者から離れる勇気はない。

 

「というかズルい、ズルいぞ。ボクはまだ一度も膝枕どころか、キミの柔肌に振れたことすらないないんだぞ。変身を経たことで見るからに肉付きよくなったそのマシュマロボデイに。だというのになんだい? ボクを、夫にして妻であるボクを差し置いて、キミはそんなどこの馬とも知れない庶民に体を預けるだなんてやっぱり浮気だったんだね!? 本当、信じられない!!」

「誰が妻だ。誰が夫だ」

「誰がどこの馬の骨とも知れない庶民よ!」

 

 一斉に反論する二人。

 特にレイナはやはり、この女、魔法少女スカウトではないのではないかとの疑いが再度浮かんでくる。冷静に考えて、魔法少女スカウトという職業があまり褒められた勧誘方法をするものではないと言っても、未成年を相手にこの口ぶりはシンプルに職業倫理以前の問題があるように思われる。

 

「ああ、息ぴったり。そんなにその女がいいのかい? このボクよりも?」

「やかましい。あなた(オマエ)(オレ)の関係に口を挟まれる謂れはない」

「いやいやいやいや。ボクはキミの未来の伴侶だよ? 今から関係は選別しておかなきゃ」

「……あなた(オマエ)って、DVまではいかなくとも身内にもモラハラはする手合いだよな」

「キミ相手にはしないし…………もしかしてそんな発言が出るってことは、今ボクとの熱々新婚生活に思いを馳せたってことだよね。嬉しいな。キミと出会ってからボクはそのことについて毎秒思案している。これは両想いってことになるよね? いやあまさか両片思いってエモーショナルな関係だったんだね、ボクたち」

「んなわけあるか!」

 

 勢いよく否定するサンシャワー。

 ここまで強い否定がサンシャワーことライムの口から飛び出すのをレイナは初めてみた。

 普段何もかもつまらなさそうにしているサンシャワーがこうも取り乱しているとそれだけで面白い。

 こうなると悪戯心が鎌首をもたげるのも無理からぬ話で。

 

「────ああ、あんたたち二人ってそういう関係だったんだ」

 

 つい、先程言われた言葉の意趣返しで二人の会話に口を挟んだ。

 

「その通りさ!」

「全っ然違う!」

 

 完全に重なり合うタイミングで各々真逆のことを主張する二人。

 このネタは今後もサンシャワーことライムが鼻につくときに使えそうだ。

 ああ、愉快愉快。今夜はいい夢が見れそうだと久しぶりにレイナは思った。

 

 

 

 

 時間を少し巻き戻し、所も変わって街の外れ。

 畑に田んぼ、ビニールハウス。ときたま自販機で道を一歩外れればだいたい杉の木。

 再開発が及ばぬ道路に車の通りはなく自然に囲まれた郷愁を感じられる景観が広がっている。もっとも碌に街灯すら置かれていないここでは、その情景は今の時間肉眼では拝めないのだが。

 

【hyUuuuu────hyUuuuu────】

 

 そんな闇のなかに骸獣はいた。

 数多とあった頭を失い、大空を羽ばたくための翼は穿たれ、傷口から魔力を垂れ流し、落下の衝撃で折れた足を引きずっていて見るも無残な有り様。

 それでも生きていた。蛇頭鳥尾(ケンネーク)は生きていた。

 身体のほとんどを浄化され、感覚も覚束ないが、蛇頭鳥尾(ケンネーク)は生きていた。

 

 骸獣は骸の字を冠する通り死の具現、彼岸からの来訪者だ。

 骸獣は生まれながらに死んでいる。骸獣は死にながら生きている。

 本来ならば並び立つことがないはずのものが共存するものなのだ。

 

 だからこそ、骸獣は死を恐れる。

 死という無を知る彼らはその無に帰ることを最も恐れる。

 自らの存在が無意味に離散する空しさに怯え、己の存在を確かとするために魔力をあるものを襲う。

 骸獣の捕食行動の大概は飢えからではなく、慰めのために行う行動なのだ。

 

【hyyy────】 

 

 故に骸獣は進む。

 故に蛇頭鳥尾(ケンネーク)は進む。

 

 這ってでもあの無を忌避する本能に従って。

 魔力の気配がすると訴える己が感覚器を信じて。

 進む。進む。進む。進む。進んでいく。

 

「はい、はい──ですから、居ませんって──早くしろ? いや反応が微弱で、正確な位置を掴めてないのはそっちじゃないですか。それが仕事だろ? だからってできることとできないことがありますって」

 

 闇の向こうからする女性の声。

 姿は見えないが、若干上ずった通話時特有の声色が虫の音色に混じって世闇に響いている。獲物がここにいるのは確実だ。間違いない。こいつこそが魔力の発生源だ。

 

【HhhAaaaayyyaaa────────────】

 

 ならば、食らおう。ならば、平らげよう。

 そんな観念すらなしにアプリオリなところに突き動かされ蛇頭鳥尾(ケンネーク)は飛び掛かった。首を伸ばさずむしろ多数の頭で捕らえるため確実に逃さぬために残る足に残る力を込めて。 

 

【────────────hyuaaaAAaa!?】

 

 だが、雄叫びは驚嘆に変わる。

 闇の先に見出した女へと突き立てんとした牙が届くことはない。

 

「びっっくりしたぁ。いるなら言ってよ、もう」

 

 咄嗟ながらに構えられた大盾は蛇頭鶏尾(ケンネーク)の攻撃を真っ向から受け止めていた。牙は当然として、そこから揺らめく劣化魔力にすら盾の装甲は弾いている。

 劣化魔力は汚染魔力。

 炎が万物を焼くように触れればモノであれ、ヒトであれ汚染し染め上げるはずのものだ。

 

 もしもこれを一切寄せ付けず跳ね除けるものがあるとするならば────

 

「あ、はい、発見しました。街に出た蛇頭鳥尾(ケンネーク)です。片方の翼が撃たれて負傷してますから確実です。それじゃ、魔法少女法三条に従い全霊で当該骸獣を駆除します」

 

 ────浄化魔力をその身に宿す魔法少女を除いて他にいない。

 

交叉式両様魔動戦斧(オルタネイト・ハルバード)

 

 唱えた名は、柄の長さが身の丈ほどもある近接戦用の魔動具のもの。

 虚空より形を成したそれを大盾を放って両手で握り、振り上げた。三日月へと掲げられた武具の先端は丸鋸状の刃となっており、そこには疲弊した蛇頭鳥尾(ケンネーク)を仕留めるのに十分な浄化魔力が漲っていた。

 

【HyuuuuLaaaaaAaaa────────────!!】

「問答無用!」

 

 蛇頭鳥尾(ケンネーク)の威嚇に負けないぐらいの声量と共に魔動具を振り下ろす。

 満身創痍で全霊すら使い果たしたその身体に避ける余地はなし。魔法少女の裁きの鉄槌は肉を割き、死の穢れに塗れた魔を打ち払い完全に浄化する。二度と死から返ってくることのないように。

 

「じゃあね。もうこっちに戻ってきちゃダメだよ?」

 

 息絶え地に伏した蛇頭鳥尾(ケンネーク)に魔法少女は送別の言葉だけを投げかけた。

 生かしておけばどこまで人を襲う害あるものとはいえ一応は命で、それをたった今自らの手で奪ったのだ。もう浄化も済み何の害もない以上、手向けの言葉を用意するぐらいの礼節は仕込まれている。

 

「……仕留めました。え? 噂の野良魔法少女? いるわけないじゃないですか……撃ち抜いたのはこの場じゃないわけですし、反応はありません。目的? 知りませんよ。象牙の墓(アイボリアイロニ)とかならこんな杜撰なことするわけありませんし、本当、覚醒してしまっただけの野良なんじゃないんですかね? あくまで私見ですけど」

 

 撃破の報告をすると、話題が正体不明の魔法少女へのシフトする。

 骸獣を浄化し(仕留め)ておきながら骸を放置する変わり者。そんなことをするのは緊急時に魔法少女へと覚醒した無所属の野良だけだと経験から思うのだが。

 

 だったら姿を隠す理由が分からない。犯罪というわけでもない。

 あの目がいい魔法少女スカウトにも協力を依頼しているが一向に見つからない。

 ないないないづくしで、噂の魔法少女は目下直近一番の問題となっていた。

 

「はいはい。とにかくここで考えても仕方ありませんし、もう私にできることもないんで四音寺さんへの連絡だけお願いします。いやあの人のことじゃなくて……そう。清掃会社の方。はあ? いやいや私は専門じゃありませんからできませんって。それに利率もそっちのがいいと思いますよ? はい。じゃあそういう感じで────魔法少女プルーデント、これより帰投します」

 

 通信を解除し、そのまま変身も解く。

 発生報告から変身状態のまま随分と探し回っていて、疲れた。

 魔法少女はいつまでも魔法少女でいられるわけじゃない。変身の維持には魔力が必要で非戦闘の省エネモードであったとはいえ、長時間の変身しているとそれだけで疲弊する。

 

 疲労感は途方もなく、お腹も減るし眠くもなる。

 しかもこれらは変身を解除した途端に襲い掛かってくる──すなわち変身中は強制的に興奮状態に陥っている──ので解除後の虚脱感には嫌気が差すが。

 

「はー。終わった終わった。帰って寝たいな。でもダメだよねぇ。最低限報告書書いてからじゃないと。あーあ。もう一人ぐらい人手が欲しいなあ」

 

 魔法少女の職務は骸獣を倒して終わりではない。

 学園所属の正規魔法少女ならばそういうのを受け持ってくれるバックアップがいるものの、一地方自治体に雇われている魔法少女であるプルーデントは活動報告書を始めとする諸雑務を自らやらなくてはならない。

 

「それにしてもどんな子なのかな? 噂の魔法少女ちゃん」

 

 現実を直視する気概も失せて、噂の魔法少女に思いを馳せつつ帰路に着く。

 願わくば、手伝ってくれないものかと薄く淡い仄かに希望を抱きながら。

 

 

 

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