それは彼女の物語   作:油揚げ

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本来なら旧作では一話分だったのですが、長くなったので二つに分割した後半部分です。
一話目でお知らせするの忘れてました。


なら俺の名を呼べ

「あ……」

「ユウナどうかしたの?」

 

 急に何処かに行こうしたユウナへ声がかかる。

 声の主は全身黒づくめで何故かスカートの部分がベルトで構成された涼しいようで暑そうな不思議なスカートを履いた女性ルールー。

 ユウナはこの祝いの主役。

 それが退席するとあっては、些か以上に場が盛り下がる。

 

「ううん。なんでもないです」

 

 声をかけようとした少女リアニが走り去っていったため、ユウナはなんでもないと微笑んだ。

 声をかけようしたのは本当にただの興味本位だった。

 ビサイドの人達とは何処か憂いを、そうユウナを悲しげに見つめるその瞳は、ユウナを妹の様に思ってくれているワッカやルールーみたいな身内に近い人達の眼差しと良く似ていた。

 だから立場を忘れて反射的に声をかけようとしてしまったのだが、幸か不幸かリアニは突然走り去ってしまいその機会を失ってしまった。

 

(声かけたかったな……)

 

 そう感じたのは、同じ年頃の女の子が近くに居なかった事から来たものなのか、それとも何故あんなに悲しそうな瞳をしていたからなのか分からないままに、ユウナはただそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……くっ……はぁはぁ」

 

 ビサイドを眼下に収められるほどの高さにある峠の遺跡でリアニは肩を上下に揺らしながら呼吸を整えていた。

 月明かりと星明りで足元がなんとか見える程度の道でよくもまぁ転ばなかったと今更ながらリアニは怪我一つしていない自分の運の良さに感謝した。

 

「また、やっちゃった……。でも……」

 

 あのスピラの縮図の様な光景を眺め続けるなんて彼女には無理だった。

 でもだからこそ、よりあの歪みを正したいと強く思う。

 

「あーでも結局、祈り子に拒否されちゃったし、どうしよ」

 

 この遺跡に島を出る際に祈りを捧げる遺跡に背中を預け、リアニは頭を抱える。

走ったことで幾分かストレスが解消されたのか、大分リアニの顔色は良くなっていた。

 この数年で思い通りに行かない事には慣れていた。

 

「とりあえず師匠のところに戻ろうかな」

 

 夜空に浮かぶ月を見ながらリアニは小さく呟いた。

 闇に周りを覆われ、月明かりが僅かに山道を照らす。

 そんな頼りない道が、今の自分を暗示しているように感じながらリアニは再び溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「密航している気分ね……はぁ、昨日から溜息ついてばかりね」

 

 ビサイドとキーリカを結ぶ連絡船の二階部分でリアニはこそこそと辺りを気にしていた。

 言葉から分かるとおり、もちろん密航したわけではない。

 彼女がこそこそしている理由、それは二階部分から見える一階に居る人物にその理由はあった。

 今はリアニが見つからないように視線を送っている人物は昨晩、視線を交わし合った少女ユウナだった。

 朝になりすぐに連絡船に乗船したリアニは機内にいたオオアカ屋という行商人から食料を買い出港するまでの間、二階の展望部分に居たのだが、水を含んだ瞬間に何とはなしに乗船しようとする一行を見て、思い切り吹き出した。

 乗船しようとしていたのは、ずばり召喚士ユウナとそのガード一行。

 気にすることはないのだが、なんとなく会うのは気まずいので、こうして隠れているのだ。

 

「しかし、何人ガード居るのよ……えっとひのふのみ……よ……四人も居る。ふっあたしなんて一人も居ないよ」

 

 自虐的な笑いを浮かべるリアニの耳に潮風に運ばれて階下の声が届く。

 

「……可哀想だよな親が有名だと」

 

 金髪のチャラチャラした少年の言葉にリアニは内心で感心しながら同時に違和感も感じていた。

 少年の言葉尻から自分自身も親が有名な様な想像が出来たが、それ以上に少年の纏う気配はこのスピラにおいてかなり異質なものだった。

 死というものに対しスピラの民は多かれ少なかれ諦観という感情を心に抱えている。少年からはそれを感じなかった。

 なんだかそれがすごく新鮮で、隠れているというのもすっかり忘れてリアニは二人が船の先で楽しげに話す様子を見ていると、突然体内の幻光虫が僅かにざわめいた様な感覚が襲いかかってきた。

 だが、リアニがそれに疑問を覚えることはなかった。

 正確にはその暇さえなかった。

 突然の真横からの衝撃にリアニの身体は手すりにぶつかり、脇腹に手すりがめり込む。

 

「くぅうううううっ……かはっ!?」

 

 最初の衝撃には及ばないものの、二度三度と衝撃は続き、自分が何処に居るのかさえ分からなくなる。

 だが、そんな揺れまくる視線の中においても、それは圧倒的な存在感と畏怖を振りまいていた。

 

「あれはっ!シ……シンっ!?」

 

 スピラ最大の魔物が海を引き裂くように悠々と泳ぐ姿がそこにはあった。

 シンは全くこちらを気にしていないようだが、ただ泳ぐだけで海は嵐の時の様に荒れ狂い暴君の到来に悲鳴をあげる。

 

「あれが……シン」

 

 生まれて初めて見るシンの雄大さすら感じる巨躯にリアニはすっかり飲まれていた。

 漠然と倒すと抱いていたが、実際にスピラを恐怖で千年か支配していたのは伊達ではないと肌で感じてしまったのだ。

 

「わたしは……くっ!」

 

 折れかけた心を歯ぎしりをして無理やり立て直し、リアニは真っ直ぐにシンを睨む。戦いにすらなっていないこの状況で諦めるなんて……出来るわけがなかった

 

「……えっ!?」

 

 そんな彼女の視界に信じられないものが映り、リアニは現状を忘れ間抜けな声をあげてしまう。

 そこにはシンのひれに深々と刺さる銛が映っていた。

 しかもワイヤー付きの。

 当然と言えば、当然の様にシンが泳げばそのワイヤーは引っ張られ、そしてワイヤーの根元がある船も引っ張られる。

 ぐんっと恐ろしいスピードで船が引かれ、もう何度目かも分からない衝撃が船を襲う。

 

「な、何を考えてるのよ―――――!!?」

 

 波が弾ける音に彼女の抗議の声は虚しく消える。

 リアニには知るよしは無かったが、シンの目的がこの先にあるキーリカを襲うと分かった船員がキーリカに住む家族を守る為に攻撃することをユウナに請い、許された故の攻撃だった。

 それがシンにとって無駄であると知りながらの攻撃ではあったが例え小さくても家族が殺されるのを指を咥えて見ている事なぞ出来なかったのだろう。

 無論、シンにその程度の攻撃はまったく利いていなかったが、小さいとはいえ己に逆らう者を許す程シンは甘くは無い。

 体の表面をざわりと蠢かせると、シンは体表の鱗状のものを幾つも射出する。

 鱗の様でありながら、大人が一抱え出来そうなほど大きいそれは一つ足りとて違える事無く船へと突き刺さる。

 刺さったそれは表面がびくびくと動いており、非常に気持ち悪い。

 あまりに多くの事態に遭遇して、停止状態にあったリアニの頭だったが、それが何かと考えが至った途端、大きく背後に飛び退りそれから距離を取った。

 リアニの動きに反応したのか、巨大な鱗はメリメリと音を立て昆虫の様な形態になり威嚇音のような耳障りな音をわめき始める。

 これはシンのコケラクズ。

 シンの持つ厄介な性質の一つ。

 体から離れた欠片を別の魔物とする。その実例が目の前にあった。

 

「コケラにしては小さい……シンのコケラクズってやつね。やるしかないか!」

 

 リアニは高らかに己を鼓舞する様に声を張り上げ、両方の腰に吊るしていた剣を抜き放った。

 シンのコケラクズが戦闘態勢に入りきる前に、突進し左右の剣でシンのコケラクズを三枚に下ろし、勢いそのままに右手の剣でその隣にいたコケラクズを上下に両断した。

 そして、すぐさま攻撃するにはやや遠い敵を、その場で切り捨てる。

 誰が見ても彼女の持つ、片手剣の射程で攻撃するには不可能なそれを可能にしたのはやはり彼女の持つ剣に秘密があった。

 彼女が両手に持つ片手剣は唯の片手剣ではない。

 彼女の持つ剣は小さな刃が無数についた鞭剣と呼ばれる類の武器。

 そのまま使うことも出来るが、柄についたギミックにより、鞭として使うことも出来る特殊な剣なのだ。

 リアニは召喚獣を手に入れようとしている理由と、己が出自故にガードをしてくれる人が居ない故に、召喚獣を手に入れた際に、召喚する時間を稼ぐために中距離で攻撃できなおかつ近づかれても対処が出来る鞭剣を獲物にしていた。

 究極召喚獣を手に入れるには一緒に旅をしたガードとの間で結ばれた絆から生まれるとされているので、ガードが居ない彼女には究極召喚獣を手に入れられない事になるのだが、まずは召喚獣を手に入れて色々と模索するというのが第一目標なので、そこらへんをリアニは気にしてはいない。むしろアルベド族であったりと色々と隠し事があるため、ガードを探すもの手間なのだ。

 リアニは手早く二階部分にいた連中を葬り、一階部分を見るとまだコケラクズ達が跋扈していた。

 ユウナ一行はガードの数は多いようだが、四人中まともの戦えているのはロンゾ族の青年キマリと黒魔道士の女性ルールーだけで、金髪少年ティーダとガタイの良い青年ワッカはあまり戦力になっていないようだった。

 そんなメンバーにまともなチームワークなぞ望めるわけもなく、案の定金髪の少年がコケラクズの一体に弾き飛ばされ、ユウナが無防備になってしまう。

 

「ほんっとしょうがないわねっ!」

 

 手すりに手を乗せリアニは颯爽と一階の甲板部分に降り立った。

 

 

 

 

 

「あ、あなたはっ!?」

「……話は、後よっ!貴女は召喚に集中してなさいっ」

 

 思わずため息をしそうになるのを必死に抑え、リアニは飛びかかってきたコケラクズを手早く切り捨てる。

 

(あーやっぱり、わたしの方を見たのは偶然じゃなかったみたいね)

 

「時間は稼ぐから早く召喚獣を!」

 

 ルールーとキマリがカバーできない場所を守るようにリアニは立ち回り始めた。

 近距離をキマリが、遠距離をルールーがそして中距離、近距離を務められるリアニが揃ったことで、妙に噛み合い即興にしては十分すぎるチームワークが誕生していた。

 

「サンダーッ!……ありがとっ」

「気にしないで!はああああっ!」

 

 鞭剣を振るいリアニが黒魔法の詠唱をしていたルールーを襲おうとしたコケラを貫き殺す。

 

「準備できましたっ!召喚します!!」

 

 そうこうしているうちに溢れんばかりの魔力が周囲に満ち、ユウナが大きく息を吸い込んだ。

 

「ヴァルファーレ、力を貸して!!」

 

 魔力が弾けた瞬間、一陣の風が吹きすさび、気付けば白き翼を羽ばたかせた鳥の様な召喚獣ヴァルファーレがその姿を現していた。

 

「―――――――――――――――――――!!!!!」

 

 シンのコケラクズ達がわめき散らしていた耳障りなものとは異なる聴く者に勇気を与えてくれるような咆哮が辺りに響く。

 

「これが召喚獣……」

 

 自身が手に入れられなかった召喚獣を見て、一瞬嫉妬に近い負の感情が湧き出るリアニ。

 そんな自身が拒否した少女が居るのを知りもせずヴァルファーレは召喚主たるユウナの命のまま力を解き放った。

 コケラを幾ら屠っても、元を絶たねば意味は無い、今のユウナに召喚獣を長時間召喚しておける技量はまだ無い。

 狙いはシンのみ。

 鳥に似た嘴から一直線に光の線が走る。

 

 シューティング・レイ。

 

 シンの背びれに一本の光の線が走り、光の線が突如爆発し、シンの背びれの鱗がばらばらと吹き込んだ。

 

 

 静寂が一瞬だけ戦場を支配した。

 だが、それは正しく嵐の前の静けさだった。

 シンがその体を大きく海面から跳ねさせ、海面を大きく叩く。ただそれだけの動作が、恐ろしいまでの破壊力を有するそれがシンだ。あっという間に高波が生まれ、船に襲いかかる。

 そして、リアニはその高波が迫る中、気付いてしまう。召喚獣に全力の力を注いでしまったのだろう。

 

「ユウナっ!」

「っ!」

 

 叫ぶキマリと、驚くリアニ。

 へたり込むユウナの姿がそこにはあった。

 ヴァルファーレは先の攻撃で力を使い果たしたのか、既にその姿は無かった。

 波は抵抗できないユウナを何の苦も無く、連れ去ってしまう。その華奢な体が、甲板から完全に消えてしまうその前に、リアニの身体は弾けたように飛び出した。

 召喚士として先を行くユウナを妬む気持ちは確かにリアニの内にある。

 だが、それとユウナの人格は別だ。

 この世界の歪みを知った上で、人々に笑ってもらいたいと願うユウナの気持ちはリアニも痛いほどに分かる。

甲板に思いきり足を踏み出し、リアニはユウナを攫っていく波よりも早く駆ける。

運動能力は圧倒的にキマリの方が優れているが、リアニの方がユウナに近かった。

船上からギリギリの位置で手が届く距離でようやくリアニはユウナの右手をしかと握る事に成功した。

だが、リアニの身体は慣性の法則に従い、そのまま突き進もうとしてしまう。

このままでは、二人とも海に吸い込まれることになる。

リアニは空中で器用にユウナと体を入れ替えて大声を上げる。

 

「ロンゾ!」

 

リアニに行為は所詮、焼け石に水程度のささやかな抵抗だったが、キマリにとってそれで十分だった。

リアニの意図を汲みキマリはユウナを無事にキャッチした。

 

「あっ!?」

 

波に攫われ、ただ驚くことしか出来なかったユウナはキマリの腕に抱きかかえられながら、見てしまう。

ユウナの瞳には、波間に飲まれるリアニの手が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

機械を発掘、もしくは水中からサルベージすることの多いアルベド族は水中での活動を得意としていた。

それに、僅かではあるが水中の幻光虫を利用して酸素を取り込むことが出来る。

少し溺れた程度でどうにかなるリアニではないのが、流石にこの状況は不味かった。

海中はシンが暴れに暴れたせいで海流が乱れ、しかもリアニが落ちた場所は海流が深く潜り込む場所だった。

 

「―――――――――っ!」

 

ゴボゴボと大量の泡を吐きながら、リアニは蒼暗い深海へ飲み込まれていく。

さらに急激な水圧により、リアニの意識は朦朧としていった。

苦しい、悔しい、ごめんなさい。

と様々な思いがリアニの心に浮かんでは消えていく。

そして、死に瀕したリアニの身体は、深海の闇を塗りつぶす赤い輝きに包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

蒼く澄んだ海底に彼は長らく沈んでいた。

彼の名は召喚獣、魔法を極めし者、マジックマスターの祈り子。

彼は五百年も前にシンによる攻撃で沈んでしまったとある寺院に祭られていた。

ありとあらゆる魔法を行使する彼は召喚師だけに留まらず、多くの白魔道士、黒魔道士に崇められた存在だった。

その格は最強の召喚獣と称されるバハムートにも勝るとも劣らないとされていたという。

だが、それとは裏腹に聖都べベルの地位の高い僧からは疎まれていた。

なぜなら、彼はただ一人の召喚師を除いて一度たりとも契約を許したことはなかったからだ。

多くの召喚師が彼を訪れ、契約を成功させられず、その中にはそのせいで召喚師としての道を挫折した者もいたほどだ。

彼が召喚師と契約を交わさないわけは、単純だった。

マジックマスターはエボンの教えが嫌いだった。

大嫌いだった。

彼は元は人間だった。

究極召喚獣を求める少女と共にザナルカンドへ辿り着き、そして祈り子に……召喚獣にその身を変えた。

そんな彼の唯一の契約者にして、彼と共に旅をした彼女は彼の目から見ても非常に熱心なエボンの教えの信者だった。

自分の命をかけてシンを倒すことを本気で考えている愚かなほど真っ直ぐな少女……。

そんな彼女は最後に泣きながらごめんなさい、と謝りながら死んでいった。

 

「ごめんなさい……私には、シンを倒せない」

 

彼女の散り様はマジックマスターの心に深い傷として残っていた。

それからだ。彼がエボンの教えを嫌いになったのは……。

あんな死に方をさせるために彼女と共にあったわけではない。自分を差し出したわけではない。

エボンの教えを信じられなくなった彼だったが、シンと互角に戦った彼を放っておくことをエボンの教えの連中はしなかった。彼の思いとは裏腹に無理矢理に寺院を建てられて祀られた。

たった一人の少女すら守れなかった愚かな召喚獣を崇める人々の思いは彼の心を苛ませることしかしなかった。

だから誰とも契約しなかった。

エボンの教えなんて信じられなかったからだ。

そんな彼に……人々を救う力がありながらも何もしなかった彼に罰が下ったのだろうか?

彼の祀られた寺院はシンに襲われ島ごと、海中へと沈ませてしまった。

彼の条件を満たす者は長らく現れなかった。そんな中、誰かと契約する気が失せた彼に、それは渡りに舟であった。

そして、今、五百年の時を越え一人の少女が彼の前に現れた。

 

海底にも関わらずに現れた彼女は海難事故にでもあったのだろう半分死にかけていた。

召喚師に召喚されなければ彼とてただの置物にしか過ぎない。

しかし幸いにも死にかけの少女には召喚師としての素養があった。

 

(偶然……にしても出来過ぎているが、放っておくことも憚れるな)

 

彼の矜持に従えば、エボンの教えを盲信する召喚師と契約することなどしたくはない。

だが、かつての契約者と同じ年頃の少女を見捨てる事が出来る程、彼は薄情ではなかった。

最悪この場だけ召喚に応じて、後は放っておけばいいかと、ギリギリの妥協点を勝手に決め、交感を始める。

長い孤独な時間は彼に僅かながらも人との触れ合いを求めさせたのかもしれない。

 

(おい、お前生きてるか?生きているなら目を開けろ)

 

なんにしても契約しない事には彼の力は全くと言っていい程使う事は出来ない。

故に彼はなんとか彼女の意識を覚醒させる。

ぼんやりとではあるが、彼女は目を開く。

契約自体は簡単だ。

彼女の意思を言葉を彼が汲めばいい。

 

(気乗りはしないが、仕方ないか……おい娘、お前の望みはなんだ?)

(わたしは……)

 

彼は対して期待していなかった。

これはただの確認だ。

多かれ少なかれ契約には心を通わせる必要ある。

シンを倒したい、召喚師の望むことなど数百年経とうが変わりはあるまい、それなら多少なりとも心を通わせることは出来る。

だが、リアニの答えは彼が半ば確信していた答えを裏切った。

 

(わたしは……どんな手段でもいいシンを……倒したいっ!)

 

まさか……という思いと共に彼は再び問いかける。

 

(究極召喚獣を使わずシンを倒せると思っているのか?)

(究極召喚獣でも何でもいい。なんだったら機械だって構わない)

 

運命と言う言葉を彼は感じられずにはいられなかった。

 

(……お前、召喚獣にそれを言うか?)

(言うわ……。悪いけど器械だろうが、召喚獣だろうがわたしにはシンを倒す手段ってことに変わりはない!)

 

カラダがないにも関わらず、まるで鳥肌のようなものを彼は感じる。

召喚獣を特別な……エボンの教えの様に崇めるでもなくただの手段と言ってのけるリアニにマジックマスターは笑みがこぼれた。

酸欠不足の頭では取り繕うという行為は難しかったようだ。

だがそんな他の召喚師とは全く違うその言葉はマジックマスターの口を笑みの形に変えさせた。

 

(あははは!そうか!……なら、俺と契約しろ)

 

ああ、何百年ぶりであろう。

こんなに楽しくてしょうがないのは。

 

(契約……?どうすれば?)

(簡単な事だ。ただ俺の名を呼べばいい)

(そう……俺の名は)

 

 

リアニの双眸に力が宿る。

 

(マジック……マスター)

(もっと強くだ!)

(……来て……ううん。来なさい!!)

 

渾身の、今も消えようとしている命を全力で振り絞り、その名を叫んだ。

 

 

(マジックマスター!!!)

 

この日、五百年前に沈んだ寺院に祀られていた一体の召喚獣が八百年ぶりに召喚された。

召喚獣の名はマジックマスター。

かつて魔法を極めし者と謳われた最強の魔道士の復活の瞬間だった。

 




次回はマジックマスター無双です。
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