それは彼女の物語   作:油揚げ

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更新が大分遅れてしまい申し訳ありません。
FF10をプレイ再度プレイしてました。


……おまえ……誰だ?

(レビテト!)

 

水中で音無き声で飛行魔法が発動される。

途端に海中に住むどんな生物よりも早い速度でマジックマスターとリアニの身体は海中を突き進み海面から飛び出した。

飛び出す拍子に辺りにばら撒かれた水飛沫が太陽の光を反射し、派手にマジックマスターは数百年振りにその身を太陽光に晒す。

海の青にも負けない空の蒼の中、マジックマスターは体についた水を払うように、その体を上空に飛ばしていき、唐突にその動きを止めた。

マジックマスター、魔法を極めし者とも称されるその姿はその異名とは裏腹に若い男性の姿をしていた。

細く鍛えられた二メートル近い長身と、黒い革ズボンに上半身は白いシャツと軽い胸当て、左手首には赤いリボンが巻きつけられている。

体の所々にはミスリルの輝きを宿す装飾品がじゃらじゃらとぶら下がっていた。

更に魔法使いの割に、両の腰にはレイピアの様な二振りの剣。

そして、炎の表した様な紅い特徴的な髪が滴る水とともに風に靡いていた。

何処からどう見ても人間、角も無ければ、鋭い爪も羽もない。

まんま人間そのままの召喚獣マジックマスターがその姿を晒していた。

召喚獣は祈り子の夢を現すとされ、中には人に近い姿の者も居るが、ここまで顕著な者も非常に稀だった。

 

「ファイア」

 

前触れも無く現れた炎が二人を一秒にも満たない僅かな間だけ包み込み、二人の身体から余分な水分を吹き飛ばす。

本来の攻撃用の魔法を、鼻歌でも歌う調子で操る。

それだけでマジックマスターがその名に恥じぬ実力を秘めていうことが伺えた。

 

「ふぅ、久しぶりの空気は旨いな……で、これからどうすればいい?……おい?」

 

ぼんやりとした祈り子状態とはまるで違う、肉持つ体に気分を良くしながらマジックマスターはこれからの指針をマスターたるリアニに問うがまるで返事がない。というかぐったりとマジックマスターに体を預け、力が抜けきった様は屍か眠りにつく幼子の様だった。

流石におかしいと怪訝な顔をしてマジックマスターが腕の中のリアニを見ると、顔面蒼白で泡を吹くというとても見られた顔ではない少女が居るではないか。

 

「ん?どうした?ふむ、ライブラ」

 

自身が人ならざる身故に平気なので気付いてはいなかったが、深海から人間が急に浮上すれば、血中に溶け込んでいる窒素が気体となり人体に深刻なダメージを負ってしまう。

しかも今のリアニは深海から上空千メートルでの圧力差を体験した上に、音速もかくやという速度を生身で駆け抜けさせられ本来なら脳に行く酸素が足に集中しブラックアウトを起こしてしまったのだ。

解析魔法ライブラで調べた限りリアニはほぼ瀕死に近い状態だった。

 

「はぁ?死にかけてんのかよ?フルケア!」

 

死にかけているリアニに柄にもなく焦り適当な回復魔法を唱える。

しれっと唱えているが、彼が唱えた魔法は今では失われた古代魔法の一つ。

フルケアは現存する最高位の回復魔法ケアルガすら凌駕する完全回復魔法に分類される魔法だ。

 

「あ……うぁ」

 

制御が難しく一流でも使いこなすことが難しいそれだが、魔法を極めし者たるマジックマスターにその心配は無用。

リアニは薄緑色の柔らかい光に包まれ、その意識を取り戻す。

 

「まだ、ぼんやりしているか、しっかりしろ」

「きゃんっ!」

 

あまり意識がしっかりしていないリアニにあろうことかマジックマスターは軽く雷撃魔法を使い強引にその意識を覚醒させる。

リアニは突然の衝撃に体を震わせ可愛い悲鳴をあげてしまう。

 

「え……な、なに!?」

「……暴れると落ちるぞ」

 

目が覚めてみれば、突然見知らぬ男に抱えあげられているのだ暴れるなという方が無理というものだが、場所が場所だけにマジックマスターは一応、警告する。

警告を聴いたわけではあるまいが、呆けた顔をするリアニ。

 

「大体落ちるって……落ちる?」

 

マジックマスターの言葉に疑問を持ったリアニがちらりと眼下に視線を飛ばす。

見ればそこには青々と水を湛えた海と、それを横切る雲が見えるではないか。

リアニの脳は想像を遥かに越える事態に完全に思考を停止させた。

停止させたが、いつまでも停止している訳ではない。

 

「き、きゃあああああああああああ!!?な、なにっ!?なんなの!?」

「だから暴れるな」

「きゃあああああ!?」

 

せっかくの警告はリアニを暴れさせるだけだった。

これでも召喚獣の端くれ、細腕の女性が暴れても落としはいないが、流石のマジックマスターも耳元で少女の金切声を聞かされては堪らない。

落としてぇと心中で零す。

 

「暴れるなっての!エスナ」

「きゃうっ!」

 

半恐慌状態にあるリアニに状態回復魔法のエスナを唱えるマジックマスター。

本来の用途とは多少違う使い方だが、マジックマスターの魔力制御能力があれば魔法の応用効果はそこらの魔道士の比ではない。

 

「え……っと?」

「やっと落ち着いたか、とりあえず落ちる心配はねぇから大人しくしてろ」

「貴方は?」

「おいおい、契約しておいてそりゃあねぇだろ。マスター」

「け、いやく……?」

 

魔法のせいか、聊か以上にマジックマスターの腕の中で落ち着き払っているリアニはややぼんやり気味にその言葉を聞いていた。

やがて、その言葉がすとんと落ちてきた。

 

「あ、貴方はもしかして……」

「ああ、俺は召喚獣、マジックマスターだ。お前の声に応えて来たんだがな?」

「ええ……ええええええ!?」

 

朦朧とする意識の中での事を思い出し、リアニは大声を再びあげてしまう。

それくらい彼女には信じられない出来事だった。

 

「驚くは別にいいんだが、俺はどうすりゃあいい?」

「え?えっと……ああそうだ!シ、シンは!?」

「シンだぁ?……んん、あれか」

「そう!このままじゃあ街が……キーリカが!」

「ふん。なるほどね……くくくっ」

 

リアニが全てを言い終わる前にマジックマスター酷薄な笑みを浮かべるとその体を急降下させる。

ぐんぐんと二人の身体は凶悪的に加速し、徐々にシンの巨体が近づいていく。

シンは二人が契約を交わしている間に随分と進んだようで、キーリカの目前まで迫っていた。

悩んでいる暇も考えている暇も無い。

即座にマジックマスターはそう判断すると、お姫様抱っこを止め、左手でリアニを抱き寄せた。

 

「しっかり掴まってな!」

「え……わあああ!」

 

異性がそんな近くにいるなぞ、父と兄以外では経験が無いリアニは頬を赤く染めるがマジックマスターはそんな事に気付くことすらしないで右手を上空に向けていた。

 

「コメット」

 

本来なら更に上位の魔法を使いたいところであったが、今はシンの気をこちらに向けるのが先決と詠唱速度を優先した結果だった。

シンの上空に円環の魔方陣が生まれ、直径数メートルの岩が幾つもシンに激突する。

 

「よし……テレポ!」

 

並みの魔物なら粉々になって余りある攻撃を受けてもシンは一瞬その動きを止めるだけだった。

だが、その一瞬がマジックマスターにとっては大きなチャンスとなった。

このまま、後方から攻撃していてもらちが明かない。

前方に回って追い返す。

それがマジックマスターが考えた作戦ともいえない作戦だった。

というか彼からすれば仇に近いシンに対して消極的な戦法なぞ取りたくない。

 

「久しぶりだな……シン!」

「う……うぇ……な、なんなのよっ」

 

空間移動魔法でキーリカを背後の守るようにシンと対峙したマジックマスターは不適にそう言い放つ。

そこに恐れや不安なぞは微塵も無い。

最強の魔道士としての自信に満ち満ちていた。

かたやそのマスターは空間移動の煽りを受けて三半規管にダメージを負い嘔気を覚え、少女らしからぬ声をあげている。

 

そんなマジックマスターの只ならぬ気配に当てられたのかシンはその体から重力波を放った。

重力波に押された海水による大津波が生まれ、マジックマスターをそしてその背後のキーリカを押しつぶさんと襲いかかる。

自身の十数倍の高さのそれに立ち向かうさまは、誰が見ても無謀極まる行為であったが、それを覆す者がここにはいた。

 

「グラビガ!」

 

不可視の力場がマジックマスターの右手から放射され、シンの重力波を相殺する。だが、相殺できたのは重力波のみ、その後に続く山の様な波までは流石に抑える事は出来なかった。

 

「ふん!ブリザガ!」

 

 最上位の氷系魔法をほぼ無詠唱に近い形で唱えるマジックマスター。

 目に見える範囲の津波を凍らせるその威力は既存の魔道士の常識を覆す凄まじいの一言だったが、最強の魔物たるシンも伊達ではない。

マジックマスターが凍らせた津波を乗り越えるように次から次へと波は押し寄せる。

 

「ちっブリザガ!ブリザガ!もう一丁ブリザガァ!!」

 

しかし、マジックマスターも甘くは無い。

更に三度ブリザガを唱えることで遂に大津波を完全に堰き止め、そればかりか最初の重力波の余波まで受け切った。

重力波を受けた氷壁は大きな罅が入り、キラキラと氷の粒がマジックマスターとその腕に抱かれたリアニの周りを舞った。

太陽光を反射し二人の周りを舞う氷の粒が二人を幻想的に見せる。

突然の大津波を防ぐ、まるでおとぎ話の一ページの登場にキーリカの住民は逃げることも忘れただ呆ける事しか出来なかった。

 

「ふんっ!この程度、造作も無い。……っておい、どうした?」

「……う……べ、別に平気よ」

 

見事にシンの攻撃を防ぎ切ったマジックマスターは不適に笑う。

更に魔力を練り上げ、さっさと前マスターの仇を打ってやろうと思ったところで、胸に抱いた少女の異変に気付く。

先までの嘔気に苦しむ様子と明らかに違い、呼吸は浅くなり、蒼褪め、体温も明らかに低下している。

 

「まさか……」

 

体を小刻みに震わせるリアニに動揺するマジックマスターが彼女の体調の変化の原因を一つ浮かび上がらせた。

召喚師は最初契約しやすく御しやすい召喚獣から契約していくのが通例だ。

現在ではビサイドの寺院に祀られているヴァルファーレが経験の浅い召喚師に適していると言われている。

これは、心と体が鍛えられていない召喚師が身に余る力を持つ召喚獣と契約を交わすとその力に耐えきれず自滅してしまうからだ。

そしてマジックマスターの召喚獣としての格は、現状最強と言われるバハムートに比肩……あるいは凌駕するとも言われるほど高位の召喚獣だ。

街一つを飲み込む津波を受け止める魔力は何処からくるのかと問われれば、主たるリアニ以外にありえない。

 

「……へ、へーきよ……へーき……だから存分に戦って……マジック……マスター」

 

自身の中の何かがごっそりと削られる感覚を覚えながらリアニは力無くそう答えた。

元々白い肌がいまは雪の様に白くなり、周りに舞う氷の粒に反射されたリアニは、一種の荘厳さすら感じさせる。

彼女も気付いていた。

彼ほどの召喚獣を使うリスクを。

それを踏まえて彼女は自分が命をかけてキーリカを守れれば御の字だとも思っていた。

死にたくは無い、目的を達するまでは……でもそれはスピラの民を救うためだ。

スピラの民を救うためにスピラの民を犠牲に出来る程リアニは大人では無かった。

 

「お前……くっ」

 

マジックマスターの端正な顔が苦虫を噛み潰したように歪んだ。

彼女の不甲斐なさを呪ったのではない。

召喚獣として主の状態に気付かなかった自分を……それ以上に私怨に駆られ再び主を失いかけた自分がひどく醜いことに気付いたからだ。

あんな死に方を見るのは二度とごめんだ。

そう決意するが、今の状況は良いとは言えない。

依然としてシンは厚い氷壁の向こう側にいるのだ。

住民の避難も完了していない。

戦う以外の選択肢が無いのもまた事実なのだ。

 

「い、良いから、お願い……」

 

死にかける少女の言葉は彼の過去を未だ癒えない傷をこれでもかと刺激する。

 

「ちっどうすれば……ん?」

 

無駄とは分かりつつも効率的に魔力を運用してシンを倒す方法を計算していたマジックマスターの鋭敏な感覚が唐突にある異変を感知する。

彼の知識からすればそれはありえない事態であった。

 

「マスター……ちょっと悪い、レビテト!」

 

急激に魔力を失ったことで弱っているリアニには申し訳なさそうに謝ると、飛行魔法を唱え、二人は凍った津波の頂点に降り立った。

如何に南国のキーリカとはいえ、辺り一面が氷河のごとく凍っていれば気温はおのずと低くなっており、氷山と化した津波の頂点の周囲は冷気に満ちていた。

しかし、注目する点はそこではかった。

 

「あいつ何を?」

 

怪訝な顔をするマジックマスターの視界には、先までの暴れようとは打って変わって静かに大人しくしているシンが映っていた。

おもむろにシンは巨大な顔をマジックマスターへと向けた。

マジックマスターの赤い瞳とシンの無数にある瞳が交差する。

かつて戦ったシンとは違うほんの少し、本当にほんの少しの理性をマジックマスターはその瞳から感じ取っていた。

 

「……おまえ……誰だ?」

 

半ば反射的にマジックマスターはそう呟くが、その意味を彼は理解してはいなかった。

ただ、彼が八百年前に戦ったシンとはどこか違う、気のせいとも思えるほどの違和感を目の前のシンは纏っていた。

……それが真実を射抜いているなぞ、今の彼には理解の外であった。

シンは当然の事だが、その問いには答えず、姿を現した時とは真逆にゆっくりと海中に沈んでいった。

 

 

 

 

「……くそっ!」

 

まるで見逃されたような感覚を覚え、マジックマスターは足を振り下ろした。

魔力を込めていないそれであっても蜘蛛の巣状の罅が広がったが、それでも彼の溜飲は少しも下がりはしない。

シンが居た場所を赤く揺らめく瞳で睨み続けた。

 

 

 

 

 

それからどの位経ったのか分からないがマジックマスターは凍らせた大津波からキーリカへと降り立った。

彼の腕に抱かれていたリアニはシンが去ったのを見届けて気が緩んだかのか、それとも魔力の限界を迎えたのかは定かではないが気を失っていた。

 

「ん?……なんだこいつら?」

 

リアニの様子を確かめ、マジックマスターが顔をあげるとそこには無数の彼らを眺める群衆線の瞳がそこにはあった。

思ってもみなかった光景にさしものマジックマスターも多少飲まれ気味だった。

 

「……」

 

暫し、無言で瞳と一対の瞳がぶつかり合う。

そんな静寂を打ち破ったのは、群衆を掻き分けるようにやってきた僧の一団だった。

かなり乱暴な様子でマジックマスターの方に向かってくる彼らを視界に収め、マジックマスターの機嫌はあっという間に悪くなる。

八百年経とうが偉そうな態度は変わらないどころか、むしろ悪くなっているようにマジックマスターは感じていた。

 

「あ、あの……」

「――――――――――――――」

 

見た感じで一番偉そうな僧がおずおずとマジックマスターに声をかける。

元々身長が二メートル近い彼はただでさえ周囲に威圧感を与える存在だが、うっすらと魔力を纏い、不機嫌なオーラを振り撒くと、そんじょそこらの魔物とは比べ物にならない威圧を放つ。

返事もせずにただ上から眺めるだけで、僧は心臓が鷲掴みされているような錯覚を覚えていた。

 

「あ、あの……」

「聞こえている。何度も言うな」

 

理不尽。

返事をしてくれないから再度声を掛けたにも関わらずに睨まれた僧の心には真っ先にそんな言葉が浮かんでいたが、それを口にすることはしない。

もしそんな言葉を出せば、どんな目に遭うか分かったものではない。

 

「……っ……」

「―――――――――――――」

 

圧倒的な捕食者に睨まれた非捕食者の様にビクビクとする僧に何の感情も浮かべずにただマジックマスターは見下ろしていた。

 

「黙ってんじゃねぇよ」

 

理不尽、まさに理不尽。

これ以上は無いと言えるほどの理不尽を僧に叩きつけるマジックマスターの視線には早く要件を言えとの念がたんまりと込められていた。

 

「え……あ、あの召喚士様……」

「はぁ?俺は召喚士じゃねぇぞ」

「え……?っす、すいません!!」

 

怒気を孕んだ声に僧は腰を直角に曲げ、平身低頭で謝り出した。

 

「召喚士はこいつだ。……俺は召喚獣だ」

「しょ……召喚獣?」

 

マジックマスターの目の前に居るのですっかり威厳が無いように見えるこの僧も、一応は世界に十にも満たない召喚獣を祀る寺院を預かる身。

それなりに高い地位に居る為、召喚獣については良く知っている方ではあった。

そんな彼の知識の中にも、彼の様な召喚獣に覚えはなかった。

確かに人に近い容姿をした者は存在する。

例えば、氷の召喚獣シヴァは全身に冷気を纏うという特徴はあるが、見た目はほぼ人間に近い。

しかし、シヴァは女性の姿をした召喚獣だし、そもそも人語をしゃべらない。

 

「ああ……そんな事はどうでもいい。いいからこいつを寝かせる部屋に案内しろ」

「え……あ、ああ、えっと」

「どうした。早くしろ」

「あ、あのお名前を……」

「…………ちっ、マジックマスターだ。二度は言わねぇぞ」

「マジック……マスター……?……っ!?」

 

自身の名を教えるつもりは一厘足りとも持ち合わせていないマジックマスターだったが、腕の中で顔色が悪く体調が優れていないリアニよりも優先すべきことではなかった。

一方、彼の名を聞いた僧は最初はピンと来なかったようだったが、かつて読んだスピラの歴史書の中に、人の身でありながら召喚獣と互角に渡り合い、そして祈り子となった魔法を極めし召喚獣の件があったことを思い出していた。

 

「あ、貴方がマジックマスター……」

「あ?」

「い、いえ貴方がマジックマスター様ですか?」

「二度は言わないと言わなかったか?」

「し、失礼いたしました!」

 

ただ名前を言っただけなら信じる人も少ないだろうが、マジックマスターという名はあまり知られていないし、それよりなにより目の前の自身を召喚獣と言っている青年は、大津波を魔法で実際に止めて見せたのだ。

嘘の可能性は少ない。

それに、逆らって良い相手ではないと彼の本能が訴えていた。

 

「案内しろ」

「は、はいっ!……あ」

「……なんだ?」

 

マジックマスターに促され、寺院に案内しようとした僧だったが、大事な事を思い出して突然立ち止まる。

 

「あ、の……」

「早くしろ、これ以上待たせる気か」

「い、いえ、そ、そんなことは……え、あ、この氷をなんとかして下さいませんか!」

「……」

 

威圧感がもはや殺気に昇華されつつあるマジックマスターに対して、僧は精一杯の勇気を振り絞る。

本来なら毒状態にされたり、石化にされたり、果ては河童にされてもおかしくない行為だったが、以外にもマジックマスターは表情は一切変えなかったが、内心では少し感心していた。

八百年前よりもエボンの教えが広まったこの世界、そんな中で地位がある僧ならさぞかしおべっかが上手いくそったれだと思ったが、中々どうして自身が統括する寺院がある町の民を思える者だったようだ。

 

「……エリクサーだ」

「は?」

「魔力が足りないんだ。なんとかして欲しかったらエリクサーを出せ」

「わ、分かりました。今すぐお持ちします。」

 

部下に取りに行かせず自身で取りに行く様子に更にマジックマスターはその僧に僅かばかりの好感を抱く。エボンは相変わらず嫌いだったが。

余談だが、この偶々人が良かった僧のせいなのかおかげなのか、それから会うエボン地位がある僧の腐れ具合に、ちょっぴり上がった好感度が、クエイガを喰らったかの様に陥没し切り途轍もない理不尽をエボン僧達に叩きつけまくるようになるマジックマスターだった。

 

 

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