――わたしの人生の転機は二回、それも幼い身に降り注いだ。
一つはもう一つの生を思い出した時。もう一つは初めてあの夢を見た時。
わたしという存在は大きく歪められ、混ぜ合わされ、形を整えまた一つの人間となった。
そこに前のわたしの要素は残っているだろうか。そんな疑問は時々浮かぶ。
それでも毎回、わたしはこう言う。
――わたしはわたしだ、と。
クラウグレー公爵家。東部のなかでも中央に位置するクラウグレー公爵領を代々治める領主一族であり、同じ公爵家であるマゼンタ公爵家と肩を並べるほどの権力と実績を持ち合わせた有力な貴族。
そこにわたし、『リリアナ・クラウグレー』は生まれた。
父親はクラウグレー公爵。母親は体内に魔石を持った亜人ルナウルフ。
物心つくまでは伏せられていたその事実も、父親である公爵と義母親である公爵夫人から直接伝えられた時、子供心がわくわくと心臓を高ぶらせたのを覚えている。普通の人と同じ姿をしていながら、わたしは普通とは違う。ならわたしはこの身で一体何ができるのだろう、と。
その一つはすぐにわかった。そもそも両親がこの時に教えてくれたのは、その変化を身をもって体験させるためだったから。
生まれた頃から徹底して隠された満月。そのまんまるな白金を目にいれた瞬間、わたしのなかの魔石が魔力を奪い取り、それに合わせ身体中が熱くなるのを感じた。火傷しそうな熱さ。されど心地よいを感じるその熱に身を委ねた瞬間、わたしの意識は熱に吞まれ沈んでいった。
次に意識が浮上したとき、わたしは夢とも言える空間で一人の人間の生を見せられた。こことは全く違う、魔法の無い世界。岩の山が立ち並ぶ街で、一人の人間が生まれ、育ち、趣味を仕事にし、倒れていく様を。
それを見て目覚めたわたしは、すっかりその人間の色に染められてしまったのだと自覚した。
これが一つ目の転機。
二つ目はルナウルフの固有魔法『千里眼』が変質して、わたしに夢を見せた時。
屋外の、王都と思しき場所で、華やかなドレスに身を包んだ二人の女性。白金と銀の色をそれぞれの髪に溶け込ませた美しい女性たちは、空を自由に飛んでいた。……否、舞い踊っている、と表現する方が適切か。
魔法の無いあの世界でも成し得ることができなかった偉業と、魔法があるからこその魔法の美しさ。
それにすっかり虜になったとき、わたしのなかに一つの火が灯った。
その光景を自らの目で見たい、体験したい、その経験を絵として描きとめたい!
何より、あの二人を推したいッ!
そんな熱を孕んだ火は業火の様に燃え上がり、同時にこの世界に適した形へと修正された。業火を鎮めるのではなく、より熱く、より強く。
わたしは、あの二人の臣下として支えたい。そしてあわよくば外で漏れ出たイチャラブシーンを鑑賞したい!
そんな業火を心に、わたしは推し活へ生涯を捧げると誓ったのだった。