はぐれ近界民の青春記録   作:Gペペロンチーノ

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ゲヘナの風紀委員会

「あ、あわわわわ……」

 

目の前で起きた出来事に、アルは開いた口が塞がらない。無数の砲弾が降り注ぎ、自分たちが設置した大量のC4爆弾も次々と爆発し、周囲は一面の焼け野原と化している。

 

「あいつら、まさか…!」

 

「心当たりがあるのか?」

 

「風紀委員会だ…!なんでこんなところまで…!?」

 

ズゴゴゴゴゴ―――!!!

 

~~~~~~~~~~

 

「状況は?」

 

「だ、ダメです。先ほどから砲撃を続けているのですが、ターゲットは未だ健在です。」

 

「何?50㎜とはいえ迫撃砲だぞ…?」

 

風紀委員の隊長、イオリがそう呟く。砲撃によって予想以上の爆発が発生したことに、イオリは一抹の疑問を抱いていた。しかしそれ以上に、これほどの攻撃を受けてもなお崩れない敵の姿に、強い印象を抱いている。

 

「…!」

 

砂塵が晴れると、青いバリアが浮かび上がる。その内部には、便利屋ではなく、黒い特徴的なコンバットスーツを纏った人物が一人佇んでいる。チナツはその人物に見覚えがあり、口を開いた。

 

「…イオリ、戦ってはいけません。」

 

「ん?」

 

「あそこにいるのはシャーレの傭兵です。恐らく、先生も近くにいる可能性があります。」

 

「シャーレ?先生?なんだそれ。」

 

不思議な力を使う少年、空閑遊真。彼の強さは未知数だが、情報部で警戒対象として議論が始まっていると聞いたばかりだ。

 

そして、類いまれな指揮能力で、寄せ集めにもかかわらず、ワカモが率いる不良集団を鎮圧したシャーレの先生。その場にいたチナツは、先生がいたら戦力の差など容易くひっくり返ることを知っている。

 

「シャーレと戦闘になれば、私たちに勝ち目はありません。まずは事情を説明して、穏便に便利屋の引き渡しを交渉しましょう。」

 

「いやだよ、まどろっこしい。」

 

「嫌でもやるんです。」

 

相手は便利屋と正体不明の人物の合わせて五人、それに対し、こちらには一個中隊の兵力が揃っている。負けることなどあるはずがない、とイオリは思うが、便利屋に面倒な味方がいることは理解できた。

 

「わかったよ。それなら私が手っ取り早く説明してくる。」

 

「ちょっとイオリ!?」

 

勝手に前に出ようとするイオリを、チナツは慌てて引き止めようとするが、彼女は止まらない。どうか戦闘にならないことを祈りながら、チナツは大きくため息を吐いた。

 

~~~~~~~~~~

 

「なんでいきなり攻撃してきたの?危うく大将のお店が壊れるとこだったんだけど。」

 

近づいてきたイオリに遊真は問いかける。それに対し、イオリは目を細めて遊真をじっと見た後、返答した。

 

「……私たちはここに、校則違反者たちを捕らえに来ただけだ。お前に用はない。隠れている奴らを大人しく引き渡して、さっさとどこかへ行くんだな。」

 

「まあ、そうだよな。でもここはアビドスの土地だから、あんたらが手を出しちゃまずいんじゃない?」

 

「アビドスじゃ到底風紀委員会(うち)の脅威にはならない。時間も労力も惜しいんだ。それ以上邪魔をするなら、ヘイローがないとはいえ問答無用で叩きのめす。」

 

「へえ、そう。」

 

遊真は両腕をだらんと下げた。武器がないにもかかわらず、その全く隙のない姿に、イオリは警戒して銃口を向ける。戦闘が今にも始まろうとする緊張感の中、大将を保護しつつ店内に隠れている便利屋のメンバーたちは固唾を飲んだ。

 

「悪いけど、あいつらを渡すわけにはいかないんでね。」

 

遊真がそう言った瞬間、イオリが地面を蹴り遊真の懐に潜り込んだ。

 

「フッ!」

 

遊真の腹部を狙い、左ストレートを放つ。遊真が右横に跳んで回避すると、イオリは突き出した拳をそのまま横に振り抜いた。

 

ブォン!

 

イオリの腕が空を切る。遊真は身を低くして攻撃をかわし、足払いをかけてイオリの体勢を崩した。イオリは転ばずに踏ん張ったが、一瞬の隙が生まれる。無防備な顎に遊真のつま先が迫る。

 

「ッ──!?」

 

イオリは間一髪で後方に跳躍して直撃を避けた。着地すると同時に発砲し、遊真を牽制する。

 

「『盾』印」

 

遊真は銃弾を防御し、一気にイオリとの間合いを詰めた。イオリはとっさに銃でガードしたが、遊真の拳が防御をすり抜け顔面に直撃する。しかし、『強』印で強化されていない拳ではダメージは薄く、イオリは転がりながら体勢を立て直し、銃弾を放ちながら遊真との距離を取った。

 

「逃げるな。」

 

突然、遊真の手元から伸びた鎖がイオリの頬から伸びる鎖と繋がった。

 

「なっ──」

 

「『強』印・三重」

 

遊真が鎖を引くと、あまりの力にイオリは抵抗できず、遊真の方へ引き寄せられた。

 

「せーーーのっ!!!」

 

バキィッ!!

 

遊真の拳がイオリの顔面に炸裂する。イオリは後方に大きく吹き飛ばされ、風紀委員たちの隊列をボーリングのピンのようになぎ倒していった。

 

「す、すごい…。」

 

扉の隙間から覗いているアルは思わず息を呑んだ。遊真とは以前自分たちも戦ったことはあるが、客観的に見ると改めてその実力がはっきりとわかる。

 

風紀委員長には遠く及ばないが、銀鏡イオリも風紀委員会の中では屈指の実力者だ。便利屋が四人揃っていれば敵ではないものの、一対一では苦戦を強いられるだろう。しかし、イオリが最初手加減していたとはいえ、こうもあっさりと捌かれてしまうとは全くもって予想していなかった。

 

~~~~~~~~~~

 

「イオリ!!」

 

チナツがイオリに駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?ケガは──」

 

「私は大丈夫。それより…」

 

不幸中の幸いで、薙ぎ倒された風紀委員たちがクッションになってくれたおかげで、イオリのダメージは最小限に抑えられていた。イオリは顔を押さえながら、ふらふらと立ち上がる。

 

「歩兵、全隊突入するぞ…!!相手にヘイローがないからって油断するな、全員で囲んでかかれ!!」

 

『了解!!』

 

「ちょっ…。」

 

頭に血が上ったイオリを先頭に、風紀委員の歩兵部隊が走り出した。

 

~~~~~~~~~~

 

「こ、これは…。」

 

「一体何が…?」

 

駆けつけたアビドスの生徒たちと先生は、目の前の状況に困惑するばかりだった。柴関ラーメンを中心に巨大な爆発が発生したと聞き、急いで駆けつけてみると、店自体は無事だったものの、その周囲が跡形もなく吹き飛んでいたのだ。

 

「遊真!大丈夫かい!?」

 

「何があったの!?大将は!?」

 

「大将は無事だ。店の中で便利屋に護ってもらってる。それより…」

 

遊真が指さした先には、風紀委員の大軍が迫っていた。

 

「ど、どうしてここにゲヘナの風紀委員会が?」

 

「先頭の人、なんかすごく怒っていませんか…?」

 

「便利屋を捕まえに来たんだって。態々ここまで来た理由は分かんないけど。」

 

話している間にも、どんどん風紀委員は近づいてくる。

 

「風紀委員、尚も接近中!」

 

「戦うしかないみたいだね。先生、指揮をお願い。」

 

「わかった。みんな、行くよ!!」

 

イオリ率いる風紀委員会の部隊を迎え撃つべく、アビドス生徒達と遊真も駆け出す。その時だった。

 

『待ちなさい、イオリ。』

 

突如入った通信にイオリの足が止まる。それと同時に、アビドス側も足を止めた。ドローンが両者の間に割り込む形で飛び、ホログラムが投影される。

 

『敵の強さは大体わかったでしょう。この状況で増援も到着しているのに、そのまま突撃するつもりですか?』

 

「そ、それは…。」

 

『反省文のテンプレートは私の机の、左の引き出しにあります。ご存じですよね?』

 

「うぅ…。」

 

ホログラムの人物はイオリを宥めたところで、アビドス生徒達に向き直る。

 

『申し遅れました。私はゲヘナ学園所属の行政官、天雨アコと申します。今の状況について少し説明させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?』

 

「行政官ということは…風紀委員会のナンバー2…。」

 

『あら、実際はそんな大した役目ではありませんよ。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして…。』

 

「本当にそうなら、さっきまで戦う気満々だったそいつらが大人しくするわけないだろ。」

 

アコの言葉に遊真が反論した。アコは笑顔を保ちながら、、遊真をじっと見る。

 

『なるほど、素晴らしい洞察力ですね。確か…空閑遊真さんでしたか?』

 

ついでのようにアビドス生徒達も一瞥する。

 

『そして、あなた達はアビドス生徒会の方々ですね?五名だと聞いていましたが…あと一人はどちらに?』

 

「今はおりません。そして私たちは生徒会ではなく対策委員会です、行政官。」

 

「あら、困りましたね。私は生徒会の方と話がしたいのですが…。」

 

「アビドスの生徒会はずっと前に解散したの!事実上私たちが生徒会の代理みたいなものだから、言いたいことがあるなら私らに言いなさい!」

 

『……まあ、よろしいでしょう。まず、先ほどの行動についてお詫びを。風紀委員会はゲヘナ学園の校則違反者を逮捕するためにここへ来ました。

 

他の学園自治区に不用意に近づいた点は失礼でしたが、こちらに侵入の意図は一切ございません。風紀委員会の活動に、ご協力をお願いできませんか?』

 

遊真はアコの微笑の裏を見透かすような目つきでニヤリと笑った。

 

「へえ…アコさん。

 

つまんないウソばかりつくね。

 

アコの眉が微かに動く。瞳が一瞬迷い、指先がかすかに落ち着きなく動いた。動揺を隠すように軽く咳払いし、続ける。

 

『……面白いことを言いますね、どういうことですか?』

 

「まず一つ、風紀委員会はその気になればアビドス自治区内だろうと戦闘する気でいること。そして二つ、あんたの本当の狙いは便利屋68じゃないこと。」

 

遊真の話に、風紀委員会のメンバーはピンと来ていないのかざわめいている。

 

「…他の風紀委員には、隠しているみたいだけどな。」

 

アコは柔らかい笑顔のまま遊真の話を聞いていたが、次第にその口元が引き締まり、表情が変わっていく。

 

「『響』印」

 

『……?』

 

遊真の意図が分からずにいるアコ。攻撃の意思は感じられず、ただ見つめるしかなかった。

 

「四方から風紀委員の大軍が待機している。この数をあの四人を捕まえるためだけに用意したってのか?」

 

『!?』

 

アビドス生徒達も驚き、アヤネがタブレットからカメラの映像を確認した。

 

「ほ、本当です!風紀委員の増援が大隊規模で待機しています!」

 

アコの瞳が大きく開かれ、瞬きすら忘れたかのように凍り付いた。笑顔はとうに消え失せ、瞳は揺らめき、口元がかすかに震えている。アコが動揺を隠しきれなくなっている時、柴関ラーメンの戸が開いた。

 

「やっぱり…あなたの狙いは、最初から私たちじゃない。」

 

中からカヨコが出てくる。次いで、他の三人も店から現れた。

 

「アコ、あなたの目的はシャーレ。最初から、先生や空閑遊真を狙ってここまで来たんだ。」

 

「わ、私を?」

 

「!?」

 

「な、何ですって!?」

 

「先生を、ですか…!?」

 

「そうじゃなきゃ、この戦力の過剰さに説明がつかない。」

 

『……ふふっ。』

 

アコが余裕を取り戻し、不敵に笑った。

 

『…なるほど。こちらの狙いや戦力もバレてしまった以上、もう隠す必要はありませんね。』

 

アコが端末を操作すると、四方から大勢の足音が聞こえ始める。

 

「待機中の風紀委員会が前進を始めました。全軍がこちらに集結しています!」

 

『委員長に知られれば反省文ものですが…』

 

アコは一度ため息を吐き、冷ややかな目で遊真を見つめる。

 

『あなたという存在を野放しにはできません。トリニティとの条約が締結されるまで、先生と共に、私たちの管理下に入ってもらいます。』

 

淡々とした冷酷さが滲み出るアコの視線。ドローンが後ろに下がり、入れ替わるようにイオリが率いる部隊が前へと出る。

 

『イオリ、あなたは空閑遊真の確保を。先生の方は私が対応します。くれぐれも油断しないように。』

 

「了解、アコちゃん。」

 

イオリが遊真と対峙し、風紀委員たちは銃を構えて再び緊張感が高まる。

 

「…社長、逃げるなら今しかない。戦いが始まったら、もう後戻りはできないよ。」

 

「…。」

 

答えないアルに、カヨコは続ける。

 

「こうしている間にも、どんどん敵は包囲を進めている。でも今ならアビドスやあの子が気を引いてるから、包囲網が薄いところを…」

 

「…ふふっ、ふふふふっ。」

 

「…社長?」

 

「こんな状況で、こんな扱いをされて、敵に助けられたってのに逃げる?そんな三流の悪党みたいなこと、私たち便利屋がするわけないじゃない!」

 

「…あはー♪」

 

ムツキが目をぎらつかせる。小悪魔というより悪魔のような笑みを浮かべ、マシンガンを構えた。

 

「あの生意気な風紀委員会に一発食らわせないと気が済まないわ!!」

 

「アル様…!」

 

ハルカも目を輝かせ、ショットガンを構えた。カヨコは覚悟を決め、アビドス生徒たちに声をかける。

 

「そういうわけで、協力してくれると助かるんだけど…。」

 

「当然よ!便利屋とアビドスで、風紀委員会をコテンパンにしてやらないと!!」

 

「先生の盾になってもらう。」

 

「!?」

 

「先生を一緒に護りましょう!」

 

「話が早いな…。」

 

「ふふっ……あはははっ!恩も信頼も全て報いる、それが私たち便利屋68のモットーよ!」

 

「はい!皆様には色々とお世話になりましたので!絶対に成功させます!」

 

「みんな、ありがとう。君たちが加勢してくれて、とても心強いよ。」

 

便利屋68とアビドス並んで立ち向かう様子を見たアコは、あまりの意気投合の早さに一瞬驚きつつ、冷静に通信を入れる。

 

『それでは風紀委員会、攻撃を開始します。便利屋、アビドス、シャーレを制圧し、先生と空閑遊真を確保してください。

 

先生はキヴォトス外部の人なので、けがをさせないよう十分注意を。少年の方に関しては、特殊な身体を持っているそうですので、発砲しても構いません。』

 

『了解!!!!』

 

「包囲が固まりつつあります!先生、突破してください!」

 

「うん、任せて。遊真とシロコは銀髪の子の相手をお願い!その間に私たちは四方の風紀委員会を撃破するよ!」

 

『了解!!』

 

「みんな、行くよ!!」

 

睨みあっていた両陣営が動き出す。風紀委員会の大半の戦力VS先生率いる連合軍の正面衝突が、今ここに始まった。

 




大将は便利屋が店から出てきた辺りで逃げました。

ちょっと短いですが、なんかキリいいし後の話も考えた結果ここで締めることにしました。

すごい今更なんですけど、一話でスケバンが『強』印・二重でもピンピンしていた描写を書いたことにすごい後悔しています。今からでも書き換えようかな。たぶん書き換えます。覚えてたらね。

行き当たりばったりで書いているので後悔したところで仕方がないのですが、最初らへんとかはめっちゃ書き直したいなーと思ってます。駆け足すぎかと思えば変なことしてるし。まあめんどくさいのでそのままにしますが。

ちなみにイオリがキレていた理由ですが、「外の世界の人だしあんまり手荒にやったらまずいよなー」と手加減してあげたのに、なんか二度も顔面をぶん殴られたからです。普通に痛いし舐めやがってくやしいーって感じでカンカンになっています。女子の顔を殴るなんて空閑君、恐ろしい子…。

アニメではホシノ不在のアビドスを一人で一蹴していたので、力関係どうすっかなーと思っていたのですが、空閑は近接戦めちゃくちゃ慣れてるし、間合いに入り続けたらこうなるかなーと思って書きました。
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