はぐれ近界民の青春記録   作:Gペペロンチーノ

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なんかやたら筆が進んで、もう次回分まで書けちゃいました


アビドス砂漠へ

「先生」

 

会議が終わり、皆が出発の準備を進めている中、シロコが先生に声を掛けた。

 

「出発する前にちょっと時間が欲しい」

 

「うん?どうしたの?」

 

「……相談したいことがあって」

 

どこか思いつめた表情を浮かべたシロコは、先生を対策委員会室から離れた空き教室へと案内した。

 

「…これ、ホシノ先輩のバッグの中から見つけたの」

 

教室に入り、先生が扉を閉めると、シロコはバッグから一枚の紙を取り出した。

 

「退会・退部届…対策委員会小鳥遊ホシノ…!?これって…どういう…!?」

 

「…ん、書かれている通りの意味だと思う。先生以外には誰にも見せてないし、言ってもない。…ホシノ先輩にはバレてる気がするけど」

 

先ほどの会議前に起きていた騒動──ホシノとシロコの間に生じた軋轢、その原因が手元にある。

 

「シロコは、どうしてこのことを?」

 

「…ホシノ先輩があそこまで長い時間席を外すなんてこと、今までに無かった。それに、風紀委員会からあんなに追い詰められるまで、先輩が来ないなんて」

 

そう言って、シロコは少し視線を落とした。

 

「それがどうしても引っかかって…先輩のバッグを漁ってみたら出てきたの」

 

『…ホシノ先輩は怠け者だし、色々とはぐらかしてばっかりだけど、大事な瞬間には絶対に誰よりも前に立ってる。』

 

先生は、以前シロコが口にしていたその言葉を思い出した。

 

「…ごめん、悪いことなのは分かってる。ホシノ先輩は勿論、生徒として、先生にも怒られても仕方ない」

 

シロコは耳を垂らし、しゅんとした様子で続けた。

 

「…悪いことだと分かっているなら、それで十分だよ」

 

「…うん、ありがとう」

 

先生の穏やかな声に、シロコは少しだけ表情を緩めた。

 

本当なら、今すぐホシノにこの件を問いただしたいものの、きっと彼女は口を開かないだろう。シロコと同じように、うまくはぐらかされてしまうに違いない。さらに、出発を控えたこのタイミングで、これ以上負担をかけるわけにはいかなかった。

 

「…まだ、分かってないことが多すぎるから…とりあえず保留で。いったんこれは秘密にしておこうか」

 

シロコは無言で頷くと、それ以上は何も語らず、先生とともに教室を後にした。

 

~~~~~~~~~~

 

アビドス砂漠

 

このアビドスにおいて、砂漠化が進む前から砂漠として存在していた場所。キヴォトスで最も長い歴史を持つこの地は、かつて栄華を極めたものの、今では砂に埋もれ、その痕跡をわずかに残すのみである。

 

『ここから先は、壊れたドローンや警備ロボット、オートマタが徘徊しています。非常に危険ですので、皆さん、火器の動作チェックを忘れずにお願いします』

 

『みんな、くれぐれも気をつけてね』

 

『了解』

 

調査を行うのは、先生とアヤネを除いた対策委員会のメンバー。

砂漠での長距離移動に加え、戦闘が発生する可能性が高いため、非戦闘員の二人は教室から作戦に参加している。

 

「…そういえばアヤネちゃん。どうしてゲヘナの風紀委員長が、カイザーがうちの自治区で何かをしているのを知っていたの?」

 

ふと、セリカが尋ねた。アビドスの生徒である自分たちですら知らない情報を、他の学園の生徒が握っていたことに疑問を感じていたのだろう。

 

「うーん、あくまで推測に過ぎないけど…ゲヘナの風紀委員会はかなり情報収集能力にへ出ているって聞いたことが…。だから、アビドスみたいな小規模な学校では考えられないような情報網を持ってる、とか…?」

 

「ま、そういうこともあるかもね~」

 

『それにあの時、あちらの行政官がたしか…

 

『他の学園自治区に不用意に近づいた点は失礼でしたが、こちらに侵入の意図は一切ございません』

 

…と言っていました。あの時はてっきり苦しい言い訳かと思っていましたが…もしかしたら向こうは本当に、不法侵入の意図はなかったのかもしれません。』

 

「それはちがうよ」

 

『!』

 

アヤネの言葉を、遊真がきっぱり否定した。

 

「あの時の発言はまちがいなくウソだ。他の連中はともかく、あいつは自治区の中でも外でも戦う意思を持ってた」

 

『……そういえば、遊真はあの場でもアコの言っていたことを明確に否定していたね』

 

先生の言葉をきっかけに、一行はその時の出来事を思い返す。確かに遊真は、アコの主張を明確に否定していた。それも、彼女が動揺するほどはっきりと。

 

「確かに、ズバっと言い切ってた。何か確証があったの?」

 

「おれにはそういうサイドエフェクトがあるんだ。だから、相手がウソをついてたら全部わかる」

 

『………???』

 

「ん、誰にでもそういう時期はある」

 

「む?」

 

シロコは気にする様子もなく、遊真の肩にそっと手を置いた。しかし、それ以外の全員は揃って困惑顔──宇宙猫状態になっていた。

 

サイドエフェクト

 

高いトリオン能力を持つ人間は、稀にそのトリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼして超感覚を発現する者が存在する。それらの超感覚を総称して「副作用(サイドエフェクト)」と呼ぶ。

 

「おれのサイドエフェクトは、人のウソがわかるんだ。ほかにも、目を閉じてる間だけめちゃくちゃ耳がよくなるやつとかもいたな」

 

『なるほど…副作用(サイドエフェクト)か…』

 

「へぇ~、嘘をついてるとどんな感じでわかるの?」

 

「口から黒い煙が出てくるんだ。全部ウソなら大量に、半分ウソなら少しだけ……って感じで、どれくらいウソかもわかる」

 

「なるほど。だからあの場であんなにはっきり言えたんだね」

 

一行は完全に理解しきれたわけではないが、意外にもすんなりと受け入れた。

 

そもそも、この空閑遊真という少年は、生い立ちや戦闘スタイルなど多くの点でキヴォトスの常識を超えている。これまで何度も驚かされてきたため、感覚が麻痺している部分もあるのだろう。

 

「セリカちゃんにもそのサイドエフェクトがあればいいんですけどね~。」

 

『あはは…確かに詐欺にあわずに済みそうですね…。』

 

「ちょ、ちょっと!?…でも、確かに便利そうな能力ね」

 

「そうか?…いや、そういえば確か…」

 

「どうしたの?」

 

「うんうん」と頷く遊真に、セリカが問いかける。

 

「うん?ああ、おれも昔はそうだったなって、懐かしくなって」

 

セリカは首を傾げて続きを聞こうとしたその時、アヤネからの通信が入った。

 

『話がだいぶ逸れてしまいましたが…とにかく、あの行政官は私たちが知らない事実を知っていました。そうなると、ゲヘナの風紀委員長も同じか、それ以上のことを知っていてもおかしくありません』

 

「ま、行ってみたらそれも含めて、きっと色々わかるでしょ。セリカちゃんが言ってた通り、直接この目で確かめればいいんだしさ~」

 

ホシノの言葉に一行は頷いた。

 

「じゃ、引き続き進むとしよっか~」

 

~~~~~~~~~~

 

道中、ドローンやオートマタといった機械の敵が、一行の行く手を次々と阻んだ。

それらは砂漠の至るところから湧き出るように現れ、目標を排除するようプログラムされたかのごとく襲いかかってくる。

 

しかし、敵の数こそ多いものの、一体一体の戦闘能力はさほど高くない。一行は次々と立ちふさがる機械を返り討ちにしながら、着実に前進を続けていった。

 

やがて建物が完全に姿を消し、辺り一面が砂と古びた線路だけの光景に変わった。視界の中に建物の影はなく、風に舞う砂が遠くの地平線をぼんやりと揺らしている。ここは、アビドス砂漠の中でも特に荒涼とした地帯だった。

 

「いや~、久しぶりだねえこの景色も」

 

「ホシノせんぱいはここに来たことがあるのか?」

 

「うん、前に生徒会の仕事で何度かね~。」

 

そう言うと、ホシノは遥か前方を指さした。

 

「もう少し進めばそこにはなんと、かつてアビドスの砂祭りが開かれていたオアシスが!」

 

「え、オアシス?こんなところに?」

 

「うん、まあ今はもう全部干上がっちゃったんだけどね~。もともとはそんじょそこらの湖より広くって、船を浮かべられるくらいだったとか。ま、私も実際に見たことはないんだけど~」

 

「砂祭り…私も聞いたことある。アビドスでは有名なお祭りで、すごい数の人が集まるって」

 

「そうそう、別の学校からもそのお祭り見たさに人が来るくらいだったからね。ま、砂漠化が進み始めるより何十年も前のことだけど」

 

「へえ、今となってはこんな光景になっちゃってるけど、ここでそんなすごいお祭りが…?」

 

セリカがぽつりと呟くと、ホシノは少し遠い目をして笑った。

 

「前までは、この辺りも結構住みやすい場所だったらしいよ~。その時はこんな砂ぼこりもなかったし。ところでアヤネちゃん、まだ目的地は通そう?」

 

『もう少し時間がかかりそうですね…。引き続き警戒を行ってください』

 

「りょーかい。じゃ、もうちょっとだけがんばろっか~」

 

ホシノの軽快な言葉に、一行は頷き、再び足を進め始めた。風に舞う砂と線路が続く光景の中、先を見据えて歩みを進めていく。

 

~~~~~~~~~~

 

しばらく進むと、軽い砂嵐に遭遇した。視界がやや悪化したものの、足を止めるほどのものではない。一行はそのまま前進を続けた。

 

『…みんな、着いたよ』

 

通信機から先生の声が響いた。それに続き、アヤネの少し慌てた声も入ってくる

『皆さん、前方に何かあります!巨大な街…家工場、或いは駐屯地…?と、とにかく、ものすごい大きな施設のようなものが…?』

 

「何かの間違いじゃないの?アビドス本館はもう少し先のはずだけど…」

 

『い、いえ。たしかに前方からレーダー反応を確認しました。とりあえず、肉眼で確認できるところまで進んでみてください!』

 

アヤネの指示を受け、一行は警戒を強めながら足早に進む。

 

「む……ちょっと待て」

 

突如、遊真が静かに声を上げて足を止めた。そして近くの岩陰へ素早く身を隠す。他のメンバーも遊真に倣って身を潜めた。

 

その直後、風が弱まり、砂嵐が徐々に晴れていく。視界が開けると、一行は岩陰からそっと顔を出した。

 

「……」

 

「何これ…」

 

目の前に広がっていたのは、広大な防壁。数キロメートルにわたってそびえる壁の上には施設の一部らしき構造物が見え隠れしている。

 

「工場…?石油ボーリング施設ではなさそうな…いったい何なのでしょう、この建物は…?」

 

「こんなの、昔はなかった…」

 

ホシノが驚きと困惑を交えて呟く。砂漠にある施設とは思えないほど、外壁には目立つ損傷も砂の付着もない。

 

『皆さん、外壁に何らかのマークを発見しました!今確認を行います!』

 

「これって…」

 

アヤネの声に促され、ホシノたちは目を凝らした。防壁に刻まれたロゴが浮かび上がる。三角形にクロスしたライン、その下にはアルファベットで文字が並んでいる。

 

「…確認が取れました。このマーク、この集団は…」

 

「──カイザーPMC」

 

ホシノが低い声で呟いた。

 

「ぴーえむしー?」

 

「Private Military Company。つまり民間軍事会社──」

 

ホシノは強い警戒心を露わにして続けた。

 

「『ヘルメット団』なんかとは違う。プロの戦闘集団ってことだよ…」

 

その言葉が一行に緊張を走らせた、その時だった。

 

ヴイイイィィィーーーン!!

 

突如、防壁の上から警報が鳴り響く。基地全体にサイレン音が広がり、一行の耳に鋭い緊張感を叩き込む。

 

「…上にいたか」

 

防壁の上を見上げると、オートマタ兵士が無線で何かを話している。気づかれたのは、壁のマークに注目していた隙を突かれたからだった。

 

ダダダダダダダッ!!

 

突然の銃声。弾丸が一行の隠れている岩の周囲に着弾し、砂煙を上げる。防壁の門が開き、大量の兵士が整然とした動きで現れた。

 

『大規模な兵力が接近しています!!』

 

『みんな、戦っちゃダメだ!すぐに退……──』ザザッ

 

不意に通信が途切れる。砂嵐の影響なのか、それとも妨害されているのか。

 

「ど、どうする!?なんかいっぱい来てるけど!?」

 

「どうしてこんなところに、あれだけの兵士が…?」

 

「待ってください…この音は…!?」

 

ドドドドド…

 

地面を揺らす轟音。戦車のキャタピラ音が地響きとなり、ヘリコプターのローター音が上空から響く。戦車やヘリまで動員された異様な光景に、一行は動揺を隠せない。

 

「戦車…それにヘリまで…!」

 

五人は迎え撃とうと立ち上がって岩影から出ようとする。

 

『先生は『戦うな』と言ってたぞ』

 

突如響いたレプリカの言葉に一行は動きを止めた。

 

『ここがカイザーの拠点であることは確実だ。この場で攻撃を仕掛ければ、たとえ勝利してもその後の状況が圧倒的に不利になる』

 

「そ、そうは言っても、このままじゃ…!」

 

セリカが反論しかけるが、レプリカの冷静な指摘が続く。

 

『先ほどの攻撃は威嚇だ。彼らはこちらに反撃させ、それを理由に賠償や制裁を仕掛ける口実を作るつもりだろう』

 

迫り来るPMC兵士たち。緊張がピークに達する中、一行の選択は──。

 

~~~~~~~~~~

 

「…これって絶体絶命?」

 

PMCの兵士たちが一斉に取り囲み、銃口を向けている。一行は抵抗を試みることなく、その場に立ち尽くしていた。そのおかげか、PMC側も最初の威嚇射撃以降は攻撃を加えていない。

 

「まずいですねえ…」

 

「や、やっぱり戦った方がよかったんじゃ…!」

 

ノノミとセリカが不安げに呟く。隣ではシロコも挙動不審に周囲を見回している。重苦しい緊張が漂う中、突然、防壁の門から一台の車が滑るように現れた。

 

ザッ

 

車が一行の前で停車する。黒塗りの高級車から降りてきたのは、二メートルを超える巨体を持つ男。赤いネクタイに黒の高級スーツを身にまとい、その体のほとんどが機械で構成されたロボットだった

 

「侵入者とは聞いていたが…まさかアビドスだったとは」

 

いかにもな黒い高級車から降りてきたのは、二メートルは超えているかのように見える、大柄の人物。赤のネクタイに黒の高級そうなスーツを纏い、全身を機械で構成されたロボットの男だった。

 

「(あいつは、黒服と一緒にいた…)」

 

ホシノがその人物を見て、視線を鋭くする。

 

「まさかここに来るとは思っていなかったが…まあ良い」

 

その男はゆったりと歩み寄り、一行を見下ろすように立つ。その冷たい視線に、セリカが小さく声を漏らした。

 

「な、何よこいつ…」

 

「…あなたたちは、誰ですか?」

 

「…まさか私のことを知らないとは。アビドス、君たちならよく知っている相手だと思うがね」

 

その重々しい声に、一行は困惑を隠せない。男はそんな様子を見ても意に介さず、続けた

 

「私は、カイザーコーポレーションの理事を務めている者だ。そして、君たち、アビドス高等学校が借金をしている相手でもある」

 

「!!」

 

「…嘘っ!?」

 

セリカの声が震える。シロコは唇を噛みしめ、ノノミも信じられないといった表情で男を見上げる。借金、ヘルメット団、便利屋68、土地の問題──すべての元凶といえる人物が、いま目の前にいる。

 

「では、古くから続くこの借金について、話し合いでもするとしようか」

 

冷笑を浮かべながら告げる男の言葉に、一行は言葉を失った。緊張感がさらに高まり、乾いた風が砂を舞い上げる音だけが耳に響く。

 




退学届の下りは前回書くつもりだったのですが、尺の都合で入りませんでした。かといって書かないわけにもいかないので、冒頭にねじ込みました。

シロコは遊真のことを可愛い後輩と思っています。ですので、空閑には気を遣って、本人がついてこないようにこっそり先生を呼びました。やさしい先輩ですね

空閑のサイドエフェクトをようやく明かせましたね。全然説明する機会がなくて困っていたのですが、書いてる途中で「ここいけそうじゃね?」と八木に電流が走ったので書きました。そのせいで話が脱線しました。

キャラの会話が多いと話がどうしても長くなりますよね。前回とかそこそこ詰めてあれですし。今回は戦闘を端折って短くしました。空閑の戦いを見たかった人には申し訳ないです。

これだとエデン条約編とか大変なことになりそうですね。そこまで行けるかは分かりませんが。一応ある程度構想は考えているので、失踪しない限り書くことは出来ます。

囲まれた場面で空閑が一言も喋らなかったのは、兵士たちの動きに全神経を集中させていたためです。同様にホシノも警戒心を露わにしながら、状況を冷静に見極めようとしていました。二人はまるで保護者ですね

以下、次回予告です。

アビドス砂漠にそびえ立つ、カイザーPMCの巨大基地
迷い込んだ一行を待ち受けていたのは、無数の兵士たちによる完全な包囲網

そして、その中心に現れたカイザーPMCの理事──
彼こそが、アビドスを長きにわたり苦しめてきた問題の元凶だった

押し寄せる陰謀と絶望
果たして彼女たちに、希望の光は残されているのか?

次回、「内に秘めた怒り」に、トリガー起動(オン)!!
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