はぐれ近界民の青春記録   作:Gペペロンチーノ

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投稿直前に話の展開を変えたので、前の次回予告はなかったことにしてください


カイザーPMC理事

「アビドスが、借金をしている相手…」

 

「正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ。今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている」

 

理事は大人らしい丁寧な挨拶を見せつける。

 

「ノノミせんぱい、理事ってなに?」「会社の大事なことを決められる、すごい偉い人ですよ!」「なるほど、参謀役みたいなものか」

 

「それはどうでもいいけど、要はあなたがアビドス高校を騙して、搾取した張本人ってことでいい?」

 

「そうよ!ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私たちをずっと苦しませてきた犯人があんたってことなんでしょ!?」

 

シロコとセリカが理事を厳しく糾弾する。しかし、理事は動じることなく、とぼけた様子を見せている。その態度に二人の怒りは頂点に達していた。

 

「あんたのせいで私たちは…アビドスは…!!」

 

「やれやれ…最初に出てくる言葉がそれか。勝手に私有地へと侵入しておいて…くくっ、面白い。だが、口のきき方には気を付けた方が良い。ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所。まず君たちは今、企業の私有地に対して不法侵入をしているのだということを理解するべきだ」

 

理事の冷静な指摘に、シロコとセリカは言葉を失う。その時、一行の通信端末から先生の声が入ってきた。

 

『カイザーPMCの理事ですね。この場における代表であれば、少し話を聞いていただけますか?』

 

通信障害から復旧した先生が、通話越しに話を続ける。

 

『失礼、私は連邦捜査部「シャーレ」の先生です。画面越しで恐縮ですが、お会いできて光栄です』

 

「…貴様がシャーレの「先生」か。これはこれは、こちらこそお会いできて光栄だ」

 

理事は過剰なほど丁寧な挨拶を返すも、その態度には嘲笑が滲んでいる。

 

「それで?話とはなんだ」

 

『私たちは、「何者かがアビドス砂漠で不審な動きをしている」という情報を受け、シャーレとして調査に来ました。彼女たちは、アビドスを探索する上で必要な協力者と判断し、同行してもらっただけです」

 

「ふん…なるほどな。アビドス高等学校としてではなく、シャーレとして来た、と。そう言いたいわけだな」

 

連邦捜査部「シャーレ」──各自治区において、あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関。キヴォトスに存在するすべての学園の生徒達を、制限なく加入させることができる。

この建前のもとでは、一応の正当性は成立する。

 

「だが、それがどうした?いくらシャーレという名目があろうとも、結果的にアビドス高等学校の生徒が我が領地に侵入したという事実は消えない」

 

──ただし、相手が連邦生徒会ですら手を焼くほどの力を持つカイザーコーポレーションでなければ話は別だが。

 

「君たちが一体誰を相手にしているのか、それを教えてやろう」

 

理事はそう言うと懐から端末を取り出し、通話を始めた。

 

「…私だ…そうだ、進めろ」

 

「な、何…?急に電話…それに「進行」って、何のこと?」

 

「残念なお知らせだ。どうやら、君たちの学校の信用が落ちてしまったそうだよ。」

 

~~~~~~~~~~

 

直後、対策委員会室の電話が鳴り響いた。電話の相手が「カイザーローン」と見るや否や、アヤネが急いで応答する。

 

『こちらカイザーローンです。現時点を持ちまして、アビドスの信用評価を最低ランクに下げさせていただきます』

 

「!?」

 

「…ッ!!」

 

対策委員会のメンバーが凍りつく。電話越しの冷たい声が容赦なく続ける

 

『変動金利を3000%上昇させる形で調整。それらを諸々適用した上で、来月以降の利子の金額は9130万円でございます。それでは引き続き、期限までにお支払いをお願いいたします』

 

「はい!?ちょ、ちょっとそんな急にどうして…!?」

 

アヤネが必死に問いただそうとするが──

 

ブツッ

ツ────

 

無情にも通話は一方的に切られてしまった。受話器を握りしめたアヤネの手が、わずかに震えている。

 

~~~~~~~~~~

 

「きゅ、9000万円!?」

 

「…くっくっく。これで分かったかな。君たちの首に掛けられた紐が今、誰の手にあるのか」

 

「……!」

 

『…本気ですか?これは明らかに法外な利率ですよ?』

 

「ああ、本気だとも。しかしこれでは面白みに欠けるか…。そうだな、九億円の借金に対する保証金でも貰っておくとしよう。一週間以内に、我がカイザーローンに三億円を預託してもらおうか。この利率でも借金返済ができるということを、証明してもらわねばな」

 

『そんな…!』

 

『くっ……』

 

ただでさえ、現在の対策委員会は毎月約788万円の利息を払うのがやっとの状況だ。それなのに、そんな大金を用意できるはずがない。絶望が広がり、一同の顔が真っ青になる。

 

『そんなお金、用意できるはずが…』

 

「ならば、学校を諦めて去ったらどうだ?」

 

『!!』

 

「自主退学して、転校でもすれば良い。それですべて解決するだろう、そもそも君たち個人の借金ではない。学校が責任を取るべきお金だ。何も君たちが進んで背負う必要はないのではないか?」

 

それは、アビドス高等学校に対する一つの答えだ。客観的に見れば、アビドスは滅びの一途を辿っている。進み続ける砂漠化、膨大な借金、減り続ける人口…少数の生徒が解決できるような問題ではないことは、誰がどう見ても明白だ。

 

しかし、それは彼女たちの、いや、これまでのアビドス高等学校そのものの努力や絆を踏み躙るような言葉でもあった。

 

「そ、そんなこと、できるわけないじゃないですか!」

 

「そうよ、私たちの学校なんだから!!見捨てられるわけないでしょ!」

 

「アビドスは私たちの学校で、私たちの街」

 

このキヴォトスにおいて、学校は単なる教育機関以上の存在だ。それは国であり、彼女たちにとっての故郷。だからこそ、簡単に見捨てられるものではない。

 

「ならばどうする?他に何か、良い手でも?」

 

理事は冷酷に問い詰める。当然、そのような策は誰にも思い付かない。一同が沈黙する中、これまで一言も発さなかったホシノが静かに口を開いた。

 

「…みんな、帰ろう」

 

「ホシノ先輩…!?」

 

ホシノは理事に背を向け、仲間たちに向き直る。

 

「これ以上ここで言い争っても意味がない、弄ばれるだけ」

 

その声は冷静だったが、その目には諦めの色が滲んでいた。

 

「ふむ…流石は副生徒会長、君は賢そうだな。」

 

理事は顎に手を当て、皮肉めいた口調で続けた。

 

「…ああ、思い出したよ。賢そうな君と一緒にいた、あの全くもってバカな生徒会長のこともな」

 

その瞬間、ホシノの全身を怒りが駆け巡った。血液が沸騰するように熱くなり、手が小刻みに震え出す。だが、理性がその一歩を踏み出すことを押し留めていた。

 

「……」

 

動けない。感情と理性の狭間で、ホシノはその場に立ち尽くしていた。胸の奥で爆発しそうな怒りと、必死にそれを押し留める理性。その狭間で彼女は溺れていた。

 

そんなホシノの肩に、そっと手が置かれる。冷静で落ち着いた力強さが、肩越しに伝わる。

 

「…ほう?」

 

「…遊真?」

 

振り返るホシノの視界に、遊真が静かに前に進む姿が映る。遊真はホシノの横を通り過ぎ、二人の間に立ちはだかった。その背中は小柄ながらも、どこか頼もしさを感じさせる。

 

「さっきから聞いていれば、そっちが一方的に好き勝手してるだけじゃん」

 

「貴様は確か…」

 

「さっき先生がシャーレとしての調査だって言ったよね。アビドスには、ここまでされる理屈はないと思うけど?」

 

遊真の挑発的な言葉に、理事は「フッ」と鼻で笑った。

 

「お子様には分らないか?これは理屈ではなく、信用の問題だ。どんな理由があろうと、アビドスの生徒が我が領地で妙な動きを見せた。こちらが敵対的な意図を疑うのは当然だろう?」

 

「信用ならあるよ」

 

遊真は間髪を入れずに理事の言葉を否定した。

 

「昨日、あんたらの土地で風紀委員会が騒ぎを起こしたことは知ってるだろ?」

 

「ああ、知っているとも。それがどうした?」

 

「あれは、おれと風紀委員会が始めた戦闘だ。アビドス高校はそれを止めるために参戦した」

 

「…くくっ!何を言い出すかと思えば、そんな──」

 

「それに今回の件。敵対的な意思がどうとか言ってたけど、そんなものがないことはわかってるだろ」

 

理事の笑いを遮り、遊真が言葉を重ねる。その剣幕に理事は少し苛立ち、黙り込んだ。

 

「おれたちはそっちの攻撃に対して、一切抵抗をしなかった。もし反撃していれば、痛い目を見たのはそっちの方だったかもな」

 

黙り続ける理事に、遊真は続ける。

 

「アビドスはずっと、おとなしくあんたの要求に従ってきた。そういう意味では、十分信用に足ると思うけど?」

 

遊真の冷静な主張に、一瞬理事が言葉を詰まらせる。だが、すぐに肩をすくめて大げさにため息をついた。

 

「ガキが…小賢しい…」

 

吐き捨てるように言う理事の姿からは、先ほどまでの余裕はすっかり消え失せていた。片足で地面をリズミカルに叩き始め、その苛立ちは明らかだった。

 

「貴様がいくら屁理屈をこねたところで何も変わらん。アビドスの手綱を握っているのは我々カイザーだ」

 

理事はそう言いながら遊真に一歩近づき、威圧的な態度をとる。

 

「これが大人だ。これが社会だ。力のない者は、どんな理不尽を押し付けられようと、ただ黙って受け入れていればいい」

 

遊真は理事をまっすぐに見据え続ける。彼の無言の態度が、場の空気をさらに緊張させていく。

 

「……チッ、興が削がれた……おい!」

 

「は、はい!」

 

理事は舌打ちしながら車に向かおうとする。

 

「おい」

 

しかし、その背中を遊真が呼び止めた。

 

「……なんだ、まだなにかあるのか?これ以上貴様の顔を見るのは不愉快極まりないんだが?」

 

「さっきホシノせんぱいに言ったことを撤回しろ」

 

「…!」

 

理事は一瞬硬直するが、自分の発言を遡る。

 

『…ああ、思い出したよ。賢そうな君と一緒にいた、あの全くもってバカな生徒会長のこともな』

 

「貴様…それ以上調子に乗ると──」

 

「へえ、できないんだ。大人なのに。それとも、そんな機能はとうさいされてないわけ?」

 

遊真の挑発に、理事の怒りが頂点に達した。全身を小刻みに震わせながら、遊真の胸倉を掴み上げた

 

「さっきから、好き勝手言わせておけば……!!」

 

理事の声は怒りで震えていた。しかし、その手が遊真の胸倉を掴んだまま力を込めようとした瞬間、遊真は冷静に口を開いた。

 

「離してくれる?」

 

たった一言。だが、その声にはどこか確固たる威圧感があった。まるで遊真が立場を逆転させたかのように、理事の動きが一瞬止まる。

 

「……貴様、誰に向かって口を──」

 

「『力のない者は、理不尽を押し付けられるしかない』そう言ったのはあんた自身だ」

 

遊真の声は低く静かだった。しかし、理事の動揺を見逃すことはなかった。

 

「だけど、あんたは勘違いしてる。力がないのはあんたの方だ」

 

「……!?」

 

「あんたがさっきから見せつけてるのは、ただの権威だ。あんた自身には、力なんてこれっぽっちもない」

 

理事は何かを喋ろうとするものの、言葉が続かない。遊真は淡々と続けた。

 

「だからもう一度言う。さっきの発言は撤回しろ。それができないなら、あんたの言う『力』で、おれを黙らせてみろ」

 

静寂が場を支配した。理事は遊真を睨みつけながら、手に力を込めるも、ただそれだけだった。周囲にいた部下たちも、理事に声をかけることができず、ただ立ち尽くしている。

 

「……チッ、くだらん」

 

ようやく理事は手を放し、乱暴に背を向けた。

 

「いいだろう。撤回してやる。それで満足か?」

 

遊真は答えず、ただ理事の背中を静かに見送る。

 

「行くぞ!」

 

理事が車に乗り込むと、部下たちは慌ててその後に続いた。車のエンジン音が遠ざかり、静けさが戻る。

 

「……遊真君」

 

静寂を破るように、ホシノの声が響いた。彼女は俯きながら、小さな声で呟く。

 

「…ありがとう」

 

その言葉には、感謝だけでなく、自分の無力さに対する悔しさが滲んでいた。様々な感情が渦巻いた結果、彼女の声が震えていることに、遊真は気づいた。

 

「…ホシノせんぱいは、立派なリーダーだよ」

 

その一言は簡潔ながらも力強く、まっすぐにホシノの胸に響いた。驚いて顔を上げた彼女をよそに、遊真はそれ以上言葉を重ねず、穏やかな表情で視線を外す。

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

遊真は来た道を戻るように歩き出した。いつもと変わらない落ち着いた歩幅で、焦る様子も見せない。

 

シロコ、ノノミ、セリカの三人は、歩き始めた遊真と立ち尽くすホシノを交互に見ていたが、やがてホシノは小さく息をつき、肩の力を抜いて静かに歩き出した。

 

その背中を追うように、三人も後に続く。砂嵐の名残のような風が彼らの足元を揺らし、遠くには蜃気楼が揺らめいていた。

 




今回の話は結構解釈違いを起こしそうでひやひやしております。空閑ってここまで舌が回るのかな。そもそもここまでキレるかな?しかし、二次創作ということでスルーしました。

原作では修の尊厳のために怒っていたので、ホシノの事情を知っていたら同じように怒るんじゃないかなーと思い、こんな展開にしました。

今回のお話は何回も書き直しました。理事が切れて攻撃をする展開も考えていたのですが、自分なりに理事という人間を解釈した結果、このような話になりました。

今更ですが、対策委員会編の敵は「嘘は」言わないので、空閑のSEとの相性は悪そうですね。理事も黒服も、自身が不利になるようなことや、核心に触れるような情報は言わない賢い人たちです。

理事が攻撃をしなかった理由も、理事がなんやかんやで賢い大人だからです。たしかにクッソムカついたとはいえ、カイザーが圧倒的な優位に立っているのは変わりません。ようやくあと少しで王手になりそうなところで、アビドスやシャーレに付け入る隙を与えてしまうのはまずいと判断しました。

まあ、この借りは必ず返してやるぜ、みたいなことは考えてると思います。

「自主退学して、転校でもすれば良い。それですべて解決するだろう、そもそも君たち個人の借金ではない。学校が責任を取るべきお金だ。何も君たちが進んで背負う必要はないのではないか?」
↑に関しては、空閑も割と同じようなことを考えていた時期があったと思います。空閑は故郷とかないですし。

バトルは?と思ったそこのあなた。

ごめんなさいなのだ。展開的になんか戦う感じに出来なかったのだ。
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