はぐれ近界民の青春記録   作:Gペペロンチーノ

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今回は人によってはキャラヘイトと見られる描写がございますので、苦手な方は閲覧に注意してください。


空閑遊真という少年

『敵の退却を確認!並びに、カタカタヘルメット団の補給所、アジト、弾薬庫の破壊を確認。皆さん、お疲れ様でした!』

 

前哨基地襲撃計画は呆気なく終結した。遊真とホシノの推測通り、ヘルメット団はすでに消耗していて、敗北によって士気も低下していた。その上、まさか反撃までしてくるとは思ってもいなかったようで、突如現れたアビドス生徒達や遊真になすすべもなく蹂躙されていった。

 

「いやぁ~おじさんもうヘトヘトだよー。」

 

「お疲れ、シロコ先輩。アヤネちゃんもオペレーターお疲れ。」

 

二度の戦闘と長距離移動によって流石に疲れが出たのか、揺れる車内で一行は眠そうに首を上下に揺らしながら船をこいでいる。しかし、アビドス生徒の中でも屈指の体力を持つシロコは特に疲れる様子を見せずピンピンしている。ふと思うことがあったのか、同じく起きている遊真に話しかけた。

 

「遊真君、今日の戦いすごかったね。私たちの出番がほとんどなかった。」

 

基地襲撃計画では遊真の単騎での奇襲から作戦が始まった。狭く遮蔽物の多い建物の中で、障害物をものともしない遊真の機動力は敵に絶大な効果を与えた。アビドス生徒たちが到着したときには、奇襲から数秒しかたっていないにもかかわらず、大半のヘルメット団がなぎ倒されていた。

 

「遊真君ってただ者じゃないよね。キヴォトスじゃ見たこともない装備?みたいなの使うし、見た目の割にすごい戦い慣れてるし。」

 

「いやいや、あのくらいぜんぜん、タダ者です。」

 

「…ふふ、面白いね、君。」

 

先生は車を運転しながら二人の会話に耳を傾けている。先生はあまり遊真について知らないことが多い。キヴォトスに来てからは仕事に忙殺されていたため、遊真とちゃんと話す機会があまりなかった。やがて遠くから校舎の姿が見えてくる。

 

「遊真。学校に戻ったら遊真が前いた世界について教えてくれないかい?」

 

「ん、私もその話聞きたい。」

 

「うーむ…まあ、大して面白い話は出来ないけど、それでもいいなら。」

 

『ぜひ!!』

 

~~~~~~~~~~

 

「お帰りなさい。皆さん、お疲れ様でした。」

 

「ただいま~。」

 

「アヤネちゃんも、オペレーターお疲れ。」

 

「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです☆」

 

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる。」

 

「うん!先生達のおかげだね、これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!ありがとう、先生、遊真!この恩は一生忘れないから!」

 

借金返済、という言葉に先生の眉がピクッと動く。セリカは自分が口を滑らせてしまってことに気づいてハッと自分の口をふさいだが、その反応は先生にとっては悪手であった。

 

「…借金返済って?」

 

「そ、それは…。」

 

「ま、待って!!アヤネちゃん、それ以上は!」

 

慌ててアヤネを止めようとしたセリカだが、ホシノがそれを手で静止した。

 

「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし。」

 

「か、かといって、わざわざ話すようなことでもないでしょ!」

 

「別に罪を犯したとかじゃないでしょー?それに、先生は私たちを助けてくれたんだよ?」

 

「ホシノ先輩の言う通りだよ。セリカ、先生たちは信頼していいと思う。」

 

でも…。と言いたげな顔でホシノたちを睨むセリカ。その表情は先生と遊真に対する疑念が見て取れる。

 

「確かに先生がパパッと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃーん?それとも、何か他にいい方法があるのかなー、セリカちゃん?」

 

正論を言われて返す言葉が思いつかないセリカ。それでも拳をぎゅっと握りしめて先生を睨み、悔しそうに叫んだ。

 

「でも…今まで私たちだけでどうにかしてきたのに、今更大人が首を突っ込んでくるなんて…!これまでどれだけの大人が私たちを騙そうとしてきたか、みんな忘れちゃったの!?」

 

「私は認めない!!」

 

バンッ!!

 

机を強く叩いて立ち上がると、教室の扉を乱暴に開けた。アヤネが呼び止めようとするもののセリカは無視して教室から出て行ってしまう。ノノミが後を追いかけ、残された対策委員会の教室は沈黙に包まれる。

 

「…とりあえず、話だけでも聞かせてくれないかい?」

 

静寂を破ったのは先生だった。三人が目を合わせると、静かにアビドスが抱えている問題を語り始めた。

 

話を要約すると、アビドスは過去複数回発生した砂嵐に対応するために、闇金業者から金を借りざるを得ない状況に陥っていた。最初こそ返すアテはあったものの、徐々に広がる被害に対応することができずに、最終的に借金の総額は9億6325万円まで膨れ上がってしまった。もはや返済は不可能と見切りをつけた生徒や住民はどんどんアビドスを去っていき──現在の閑散としたアビドスが残った、とのことだ。

 

「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するのが精一杯で…弾薬も補給品も、先生たちが来るまでは底をついてしまっていたんです。」

 

「セリカがあそこまで神経質になっていたのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話をちゃんと聞いてくれたのは先生、あなたが初めて。」

 

「まあ、そういうつまらない話だよ。」

 

「…事情は分かった。話してくれてありがとう。」

 

「ま、借金に関しては気にしなくていいよー。ヘルメット団の件を解決してくれただけでも感謝してもしきれないくらいだし。」

 

「そうだね。こればかりは私たちの問題だから、先生にはもう迷惑をかけられない。」

 

「話だけでも聞いてくださってうれしかったです。ありがとうございます。」

 

三人はそう言って先生にお辞儀をした。確かに、シャーレの権限を使ったところで借金を返済することは出来ないだろう。そもそもシャーレは連邦生徒会直轄の組織であり、予算も連邦生徒会から捻出されている。多少の融通こそ効いても、流石にこれだけの額を肩代わりほどの余裕は連邦生徒会にはない。それでも──。

 

「…ここまで聞いておいて、今更見捨てることなんてできないよ。」

 

「そ、それって…!」

 

先生は拳を強く握りしめた。決断はすでに済んでいる。今更退く選択肢なんてあるわけがなかった。

 

「私も対策委員会の一員として一緒に頑張るよ。」

 

 

「は、はいっ!よろしくお願いします、先生!」

 

ぱあっと満面の笑顔を浮かべ、アヤネが深々と頭を下げた。

 

「へえ、先生も変わり者だねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて。」

 

「良かった…「シャーレ」が力になってくれるなんて。これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」

 

「そうだね。希望が見えてくるかもしれない。」

 

「約束するよ、この学校を廃校になんて絶対にさせない。何があってもシャーレが守り抜いてみせる。」

 

その言葉に三人は嬉しそうに顔を合わせた。長く先の見えない暗い道にようやく差し込んできた一筋の光。ここから事態が好転するかもしれないと、三人は思っていた。

 

「大丈夫なのか、先生?」

 

喜びを分かち合う三人を見て微笑む先生に、遊真が静かに話しかける。

 

「お金についてはまだよく分からないけど…少なくとも、アビドスに根付いた問題はシャーレの力じゃ手に負えない問題だってことは何となくわかる。あまり安請け合いをしたら、傷つくのはあいつらだぞ。」

 

そんな遊真の言葉に対し、先生は──

 

「どれだけ困難な道であっても、それを逃げる言い訳にはできない。それに私は先生だから、困っている生徒がいたら助けなくちゃね。」

 

──まっすぐな瞳で、力強く答えた。驚きか、困惑か、先生にはその感情が分からなかったものの、遊真はいつになく眉が上がり、惚けたような顔をしていた。

 

一方、それを教室の外からこっそりと聞いていたセリカは──

 

「…ちぇっ。」

 

不満げそうに悪態をつくと、教室から離れて行った。

 

「……あ。」

 

何かを思い出したシロコは遊真の方を見た。遊真は間の抜けた顔をして首をかしげる。

 

「遊真が前いた世界のお話、聞きそびれちゃった。」

 

「……また明日にしよっか?」

 

少し不満げに頬を膨らませるシロコに対し、先生は苦笑いで答えた。

 

「どうせなら、みんながいるときにね?」

 

既に日は傾いており、夕日が窓から差し込んでいる。この場は解散にして、一行はそれぞれ帰宅していった。

 

~~~~~~~~~~

 

「…本当に誰もいないな。」

 

草木も眠る丑三つ時、遊真は夜のアビドスを一人で歩いていた。周りには人が住める家が幾つか建っているが、そのどれからも人の気配が感じられない。まるで自分以外の時間が止まったかのような、そんな静寂が続いていた。

 

「…レプリカ、今日のやつどう思う?」

 

遊真の言っていることは、ここに来てから初めての戦闘での出来事。遊真は『盾』印を使用して敵の弾丸を防いでいたのだが、そのバリアにひびが入ったのだ。

 

トリオン体はトリオン攻撃以外で傷つくことはそうそうない。ましてや防御効果を持つシールドが傷つくなど尚更あり得ない。

 

しかし、現実として起きていたのだ。一度目はワカモの銃撃を防いだ際、二度目は先ほど言った通りヘルメット団との戦闘時。トリオン以外の攻撃によって、トリオンで作られたシールドにダメージが入ったのだ。

 

『この世界は我々の常識と乖離する部分が多い。これから戦闘時は、被弾しないよう細心の注意を払うべきだな。』

 

「そうだな。…話変わるけど、アビドスは本当に誰もいないのか?」

 

『このまま直進すれば市内外郭エリアに入る。そこなら人もいるはずだ。』

 

「なるほど。」

 

レプリカの言う通りまっすぐ歩き続ける遊真。明かりのついた建物がちらほらと増え、ビルが並ぶ大通りに足を踏み入れようとしたその時。

 

「おいそこのガキ。ちょっと待ちな。」

 

ヘルメットを被った集団が、進行方向の道を塞ぐように集まっていた。カタカタヘルメット団だ。あれだけやったのにまだこりてなかったのか、と遊真は呆れつつもめげない心には感心している。

 

「こんな時間に一人でお散歩なんて、随分と余裕かましてくれるじゃねーの?」

 

「それはこっちのセリフだよ。やられっぱなしだった割には、随分と元気そうじゃん。」

 

「あ゛あ゛!?」

 

ヘルメットで隠れて見えないものの、青筋を浮かべて遊真に凄んだ。しかし怯まないとみるや否や、一人で近づいて遊真の額に銃を突きつける。ごりっと音がして硬く冷たい感触を額に感じた。

 

「…そういえば、どうしてアビドスを狙うの?あの学校、占領したところで大したメリットはなさそうだけど。」

 

「お前この状況分かってんのか?…別にたいした理由なんかねーよ。ただ目障りだから消えてもらうだけだ。」

 

「へえ…おまえ──」

 

遊真の瞳孔が黒く染まり不敵に笑う。不良はその表情を見た途端心臓を直接握られるような感覚を覚え、全身に悪寒が走った。

 

「──つまんないウソつくね。」

 

「ッ!?」

 

ダダダダダッ!!

 

~~~~~~~~~~

 

日課である深夜のパトロール中、突如聞こえた銃声にホシノは大きくため息をついた。カツアゲやひったくりならともかく、こんな夜中にドンパチされるなど迷惑以外の何物でもない。両手にショットガンを構え、音のした方へ走りだした。

 

「うへー……。」

 

向かった先にあったのは、今日返り討ちにしたカタカタヘルメット団たちの死屍累々たる有様だった。変な体勢でひっくり返されている者、ビルの壁にめり込まされている者、犬〇家の如く逆さまにされて上半身を地面に埋められている者。皆完全に気絶しており、これをやった犯人の容赦のなさが窺い知れる。

 

「ま、まってくれ!降参、降参するから命だけは!」

 

路地裏から聞き覚えのある声が響いてきた。恐らく声の主は今日襲撃してきたヘルメット団のリーダーだろう。物陰からわずかに顔を覗かせると、ヘルメットを取られたリーダーが目に涙を浮かべ、命乞いをしながら後ずさりをしていた。

 

「いやいや、殺さないって。そんなに怯えなくても。」

 

これまた聞き覚えのある声が奥から近づいてくる。暗闇から現れた白い頭の正体は遊真だった。

 

「それより、だれの命令でアビドスを襲撃したの?」

 

そう言って胸倉を掴む遊真の表情を見て、ホシノは総毛立った。言動や立ち振る舞いはともかく、ぱっと見の遊真は小学生にしか見えない。ホシノと同じかそれよりも低い身長に、幼さを感じさせる中性的な顔つき。それが今は氷のような冷たい瞳でヘルメット団のリーダーを見つめている。

 

ただ睨んでいるだけなら、ホシノもここまで悪寒が走ることはない。だが、遊真の表情からは一切の感情が見えてこないのだ。何をするかわからない異質な雰囲気、いつ自分に攻撃されるかわからない恐怖心。ヘルメット団のリーダーが今まさに覚えている感覚が、僅かながらホシノにも伝播してくるのを感じた。

 

「知らないっ!いや分からないんだ!依頼されたのは本当だけど、だれが依頼したかってのは──」

 

「はいウソ。」

 

「──ッ!?」

 

図星だったのか言葉が詰まる。すると、ポロポロと目から涙が溢れさせながら歯を食いしばって首をぶんぶんと横に振り始めた。何かに気づいた遊真がヘルメット団の胸倉を離す。

 

「もしかして、話したらひどい目に合う?」

 

今度は縦に首を振り始めた。顔面が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。

 

「ふむ…。」

 

すん、とよく知る少年の顔に戻った。スマホを取り出すと、慣れない手つきで端末を操作する。

 

「もしもし。…はい、事件です。…はい、チンピラを捕まえたのでこっちに来て引き取りをお願いします。…場所ですか?アビドスです。…え、人手が足りないしそんなところまで来れない?地元の風紀委員辺りに突き出せばいい?いえあのですね──あ。」

 

どうやらヴァルキューレあたりに通報したはいいものの、一方的に通話を切られてしまったようだ。遊真がちらりと小動物のように縮こまっているリーダーの方を見ると、リーダーはビクッっと肩を震わせ、飛び跳ねるように後ずさった。

 

「…誰に雇われたか知らないけど、ちゃんと人は選んだ方がいいぞ。」

 

そう言ってこの場を立ち去ろうと路地裏の外に振り向く。すると、物影から顔を出してこちらを見ていたホシノと目が合った。

 

「あれ、ホシノ先輩。」

 

「…あ。」

 

~~~~~~~~~~

 

「パトロールをしてくれるのはありがたいけどさ、子供がこんな時間まで起きてちゃダメでしょー?」

 

「それを言ったらホシノ先輩も同じなのでは…。」

 

「おじさんはいいんだよー。」

 

アビドスの中では最も人通りの多い大通りを二人は歩いていた。ホシノは先の出来事について延々と遊真に説教をしている。

 

「遊真君が強いのは今日のことで十分わかったよ。それでも君は外の世界の人間なんだから、一人で無茶しちゃダメだよー?」

 

「確かにおれとレプリカが本気でやれば、そう簡単に負けることはないな。」

 

「うへ、たいした自信だね。…レプリカ?」

 

唐突に出てきた「レプリカ」なる人物に、ホシノの頭上に疑問符が浮かぶ。遊真は気にせず話を続けた。

 

「でも、過信して突っ走る気はないよ。戦場で自分の力を見誤ると死ぬからな。勝ち目が薄いと分かったときは、全力で逃げるさ。」

 

「…殊勝な心掛けだね。」

 

ホシノが何度も感じるこの違和感──その正体が少しずつだが明瞭になっていく。この空閑遊真という少年は、恐らく長い間戦いの中で生きてきた。それも、命のやり取りが起こらないキヴォトスでのそれとは異なる、文字通りの殺し合いだ。

 

そうでなければ説明がつかない。外見に見合わない妙な落ち着きぶり、戦地に対する慣れよう、敵に対する容赦のない戦い方。

 

「そういえば、遊真君っていくつなの?」

 

「14歳。」

 

「ふぇ?」

 

思わず間の抜けた声が出た。てっきり小学生くらいの歳だと思っていたために少し拍子抜けしたが、それでも外見と中身が一致しないということに変わりはない。ホシノから見ても遊真は恐らく悪い人ではない。悪い人ではないとは思うのだが──

 

「ホシノ先輩?どうした、そんなにぼーっとして。」

 

「い、いや。ちょっと意外と歳近かったんだなーって。」

 

「ふーん…。」

 

こちらの疑心を見透かすように赤い瞳がじっと見つめてくる。この少年が少し恐ろしい。この子は一体何が見えて、何を考えているのだろうか。恐れを隠すように、ホシノは肩に掛けている自身の盾「IRON HORUS」のショルダーベルトを強く握った。

 




ホシノファンの皆様申し訳ございません。いつかちゃんと誤解は解かせますので、それまで気長にお待ちください。

ワートリ本編では有吾の息子という肩書に加えて、迅さんの暗躍があったからこそあまり空閑に対する疑心や敵対感情が広がることはなかったと考えています。

一方で、キヴォトスでは空閑は文字通りUMAです。先生ですら空閑のことはよく知らないため、現状あまりフォローが出来ません。だから空閑のことを知ろうとしてました。

空閑自身の善性から、多くの人は空閑のことを「ちょっと変わってるけど頼りになる子」と思っていますが、ホシノのような裏表のある警戒心が強い人には超絶怖い存在になるかなと思って今回の脚本を書いてしまいました。

言い訳のようになってしまい申し訳ないです。

また、しれっと戦闘用トリオン体でもダメージを負う可能性があることが書かれましたが、あくまでも無双を避けるための措置です。

仕組みは何となく想像できる方もいるかもしれませんが、今後説明すると思うのでここでは割愛させていただきます。

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