「えっ、なんだよこれ」
「動けない。怖い……」
「誰か」
ブツリ。
「誰でもいいから……」
ブツリ。
「ああ……!」
ブツリ。
「ここはどこかの廃屋で、俺はそこにある時計か。意識を保つのにも、時間制限がある。はあ……」
「誰か、来ないかなあ……」
「……ぅぅ……」
「──人?」
「おおーい!」
「! っ」
「あ、待って! 待ってくれええ」
(……なんで、あんな小さい子がここに?)
ブツリ。
「うっ……うっ……」
「──っ!」
(待て待て。落ち着いて話せ、俺)
「君、どうしたの?」
「ひっ!?」
「ちょ、待って! 逃げないで、話させて! お願い!」
「だ、だれ……? どこにいるの……?」
「俺──じゃなくって、僕のことかな? 目の前の時計だよっ!」
(人と喋れてる! 何年ぶりか分からんが、喋れてる! 嬉しい!)
「え……? ほんとうに……?」
「本当本当! それでさ、君はなんで……あ」
(今日はそろそろで切れるな)
「ごめん、今日はもう無理だ」
「?」
「……その、もしよければ、明日も、こ」
ブツリ。
「──うわっ!?」
「あわっ!?」
「お、おー、昨日ぶり、かな?」
「は、はい」
「……ちょ、調子は?」
「え? あ、まあまあ、です」
「……えーっと」
(なに話そう。なにを──そうだ)
「君のお名前は?」
「……マミ」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「──が──でさあ」
「へえ……!」
「それで……あっ、そういえばさ」
「君はどうしてここに来てたの?」
「……それは」
「あ……いや、答えたくなければいい。全然いい。大丈夫問題無いバッチグー」
「……とけいさんになら、話しても、いいです」
「……そ、そう? ありがとう」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「──そうか。つらかったね」
「……はい。おかあさんも、同じくらすのひとも、わたしを……うう」
「……あーっ! 泣くな、泣くな! そ、そうだっ」
「ぐすっ……?」
「つらかったら、またここに来て、僕に話してくれ!」
「君の気持もいくらか晴れるだろうし、僕──いや、俺も君と話せて楽しい。winnwinだろ?」
「……」
「ど、どうした? 具合悪い?」
「……うぃんうぃんって、なに?」
「そっ」
ブツリ。
「昨日のうぃんうぃんってなに?」
「……っちかーい……」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「それでね、ミヤちゃんが」
「うんうん」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「今日! テストが百点だった!!」
「うおおお! 頑張ったな! きっと俺の教え方が上手かったんだ!!」
「それは違う。一日一分だし」
「はい」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「うっ……うわあああっ……!」
「……大丈夫」
「ひぐっ、うう……!」
「きっと、いつかは上手くいく。だから、大丈夫」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「俺って午後4時31分しか存在できないっぽい」
「ええ……気持ち悪い数字……それって自分で確認できんの?」
「うん。ええっと、今は……あっもう32ふッ」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「じ、実は……」
「おう」
「気になる子ができて……」
「えっ!!!!????」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「昨日のデート報告!」
「待ってました! どうだった? 甘酸っぱいエピソード聞かせやがれ!」
「いいでしょう。昨日は、なんと──」
「おお……」
「───めっちゃ楽しかった!」
「それだけか!」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「私に子どもが生まれたらなんて名前にしよう……」
「気が早過ぎない?」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「明日から家族と旅行なんだー!」
「おっ、もうか。恋人と友達も交えて一週間だっけ……とにかく楽しんできな」
ブツリ。
ブツリ。
ブツリ。
「あれは……重機、か?」
(この家の解体か? 体験したことがないが、時計の俺は巻き込まれるんじゃないか?
俺は、もう一度死ぬのか? 嫌だ。それは嫌だ。
でも、避けられないのなら、せめて)
ブツリ。
「──時計さん! 時計さん!」
(この声は……)
「あぁ、なんで、こんなときに、私は……!」
(旅行……たのしかった? あぁもう、時間がない)
(……なぁ、俺を転生させた神がいるなら、少しだけ、あと一分だけ、この子と普通に喋れる時間を……)
4時31分。
ブツリ───停止。
「──ぁ」
「っ! 時計さん!?」
(なにかしゃべれ)
「時計さん……!」
(なにかしゃべれよ、おれ)
「──あー、大丈夫大丈夫、俺は、大丈夫」
「だ、大丈夫って、ほとんど壊れて……」
「あぁ、うん、多分、俺に残された時間は一分だけだ」
「一分、って、そんな……」
(大丈夫。君はもう、大丈夫。
だから、泣かないで)
「……いつもと同じだよ。毎日一分、いつもそうだっただろ?」
「……」
「旅行は……どうだった?」
「たの、しかった……」
「はは……確か、デートのときもそうだったよな」
「う、うん……それで、それでね!」
「──って、ミヤちゃんが」
「そうか……!」
「私の……その、恋人とも、いろいろ」
「そ、そうか……」
「お母さんも、笑ってた」
「そ、うか……」
「だから……」
「……」
「今までありがとう、時計さん」
(……こちらこそ)
ブツリ。
◇
「きゃー!」
「あーっ! ユミ! こらっ、走らないのぉ!」
「あはは、マミ、ユミもまだ子供なんだから──」
「そんなに言うならユミの相手してよ!!」
「わ、分かった。ごめんって!」
「あはははっ! ゆみ、はやーい!」
「あ、なにこれ、とけい?」
「おもいし、きたない……」
「あ、君! 俺のこと分かる?」
「え? あれ? いま、うしろの方から……?」
「そうそう、後ろの、上の方を見てみな」
「……ただのとけいじゃん」
「そう、その時計が俺なんだ。といっても、今覚醒したばっかだけど」
「えーっ、うそーっ」
「嘘じゃないって。……ぇ、ちょっと、その時計は?」
「ん? これ? ママのだいじなものなんだって」
「へー……もしかして、マミって名前かな?」
「そう! なんでわかるの!?」
「さあ? なんでだろうね。そうだな……一つ教えてくれるかな?」
「君の名前は?」