相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適田舎で農業スローライフ~   作:chickden

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 ある日、畑作業を終えて昼に家に戻ると、玄関に大量のトマトとピーマンが置いてあった。

 なんだろうこれは。俺は一瞬思い悩んで、ハタと考え至った。

 

 田舎、特に農家では自分のウチで作った作物の余りものをご、近所にお裾分けをするという文化があると聞いたことはある。

 これもそういったものなのではないだろうか。

 

「ああ、振る舞い物ですか」

「ふるまいもの?」

 

 俺から話を聞いたレムネアが納得したように頷いている。

 なんだこの、俺よりも場に馴染んでいるような存在感は。

 

「はい。冒険者たちの間でもありますよ、思いがけず多くの獲物を仕留めて帰ったときなど、酒場にその肉を提供して皆に振る舞うんです。たぶん、似たようなものですよね?」

 似てるっちゃー似てる。

 なるほどな、都会人の根っこが抜けてない俺よりも、レムネアの方がよっぽどこういった共栄生活に慣れてるっていうことか。

 都会だと隣人との繋がりなんか皆無だからな。

 

「野崎のお爺さまからでしょうか」

「どうだろう。野崎さんところ、ピーマンやってたかな?」

「ピーマン……。すみません私にはわかません」

「こっちの緑の奴だよ。苦味があって美味しいんだ」

「へえへえ?」

 

 としゃがんでピーマンを一つ手に取るレムネアだ。

 

「あ、これならこのあいだ野崎さんのお宅でテンプラをご馳走になったとき出てきましたよ」

 

 よく覚えてるな!

 じゃあ、野崎さんかもしれない。でも特定できないのは困るな。

 最近少しづつ周囲に馴染めている気がするから、他の方という可能性もある。

 間違えたら失礼だもんな。

 

「じゃあ、魔法で調べてみましょうか」

「そんなことができるのか?」

「はい。便利魔法の一つに、鑑定というものがあります。ここに置いていった人が誰なのかくらいは、派生でわかると思いますよ」

 

 それじゃ頼むよ、と俺が言うと、さっそくレムネアはどこからともなく杖を手にした。

 そのまま杖をトマトとピーマンの山に向けて。

 

できる範囲で鑑定する魔法(ディテ・マージ)

 

 しばらく目を瞑っていた彼女だったが。

 

「これは……宇野さんの差し入れですね」

「宇野さん?」

 

 宇野のおばさんのことか。そういや先日、こんど余り物の野菜を持ってくるとか言ってたっけ。そっか、ああいうの、田舎では社交辞令じゃないんだ。

 俺は目を丸くしてしまった。

 

「しかしどうしたものかな。宇野おばさんに貰ってしまっても、こちらからお返しするものがない」

 

 なにか買って返すのが一番か?

 と腕を組んでしまう俺だったが、レムネアが苦笑しながら首を振った。

 

「そんなのは却って気を遣わせてしまいますよ。こういうのは、できる範囲のことでいいんです。例えば冒険者同士なら、次に自分が大量に狩ったときがあれば自分も同じことをするという程度のものですし」

 

 彼女は笑顔で続ける。

 

「だからそんな気持ちで居ればいいんです」

「でもほら、ウチはまだ当分野菜の収穫なんか予定もないし」

「でしたらほら、またに私たちが車で買い物にいくときに、なにか御用伺いをしてみたらどうですか? 必要なものがあったら買ってきますが、とでも」

 

 なるほど。そういう手もあるか。

 

「これは冒険者間でもありますよ。仕事で遠出する際に、世話になっていた仲間に頼まれごとをしていく、とか」

 

 目から鱗だった。

 そういやレムネアはエルフだもんな。ああみえて、俺より長い時間を生きているに違いない。俺は敬意を以て、レムネアに頷いた。

 

「そうですね。そうします、レムネアさん」

「なんですかその物言い。普通にしてくださいケースケさま」

 

 クスクス笑う彼女を前にして俺は口調を戻したが、ナチュラルに彼女への尊敬の念を抱いたのだった。

 

 ◇◆◇◆

 

 さて昼食だ。

 せっかく頂いたトマトとピーマンがあるので、それを使った食事にしよう。

 

 トマトとピーマンと言われると俺の中にはこれ一択、という食べ物が一つある。

 それは、ピザトーストだ。

 

 ただ、今日はさらにひと手間掛けることにした。

 乗せるトマトを、オリーブオイルでトロトロに焼いた。それをオイルごと食パンの上に置いて、チーズとピーマンの細切りをどっさり乗せてオーブンで焼く。

 

 ピザソースは要らない。

 トロトロなトマトとオリーブオイルが、その代わりになるのだ。

 

 焼けたら食卓へと持っていく。

 そこではレムネアが、昼食はまだかとばかりに手ぐすね引いて待っていた。

 

「これが、先ほどの野菜を調理したものですか」

「そうだよ。熱々のうちに食べよう」

 

 ザクッ。とパンを噛みきると、上に乗ったトロトロトマトにオリーブオイルと焼けたチーズがとろり、絡みついてくる。

 

「んー、んー、んー!」

 

 レムネアがピザトーストを口に頬張ったまま、手にしたパン片手で指さして俺を見る。

 もう慣れたもので、これが何を意味するのかは一目瞭然だ。

 

「熱々トロトロで、うまいだろ?」

「んー!」

「まず飲み込んでからな」

 

 はひはひ言いながら、レムネアがごっくんする。

 

「おいひいです!」

「はは、それは作った甲斐がある」

 

 これは本当だ。

 レムネアはホント美味しそうに食べてくれる。

 一人暮らしが長かったから、せっかく作っても黙々と食べるばかりになりがちだった俺なのだ。

 

 彼女と一緒に暮らし始めて、「食べてもらえる」喜びに気がついた。

 食事の感想を貰えるってことが、こんなにモチベを上げるとは思ってもみなかった。それが心地好いリアクションの感想ならば尚更だ。

 

 もしゃもしゃと、チーズを伸ばしながら美味しそうにピザトーストを食べるレムネアを見ていると、俺は幸せになれるのだった。

 

「……でも、これ一枚だとお腹が少し寂しいですケースケさま」

「わかってる。まだあるよ」

 

 そう言って俺は、庭先から幾枚かのバジルの葉をもぎってきた。

 じいちゃんの庭には雑にハーブやニラなどが茂っている。

 それに気がついたのは、俺が農業を調べて少し草花に詳しくなったからだった。

 

 台所から、それを持ってくる。

 今度は生のままのトマトをスライスした物に、モッツアレラチーズを挟んだ物。

 オリーブオイルを垂らしてバジルを散らせば完成だ。

 

「……メニューとしてはこっちを先に出すべきだったかもしんない」

「そうなのですか?」

「こっちの方が淡泊な味だからね」

 

 熱したチーズは風味が強くなる。

 先にこっちを出すべきだった、そう思っていると。

 

「あ、本当ですねこっちのチーズはさっきのと違ってて優しい味」

「チーズだけ食べたらダメだよ。トマトと一緒に口に入れるんだ」

「なるほど。えっと、こうやって、と……んんんっ!」

 

 レムネアが目を輝かせた。

 

「んー!」

「わかったわかった、だから飲み込んで」

 

 ごくん、とトマトとチーズを一緒に飲み込んだ彼女が俺の方を見る。

 

「さっぱりしてます! この順番でも、全然美味しく食べられますよ。油を使ってるのに、口の中を洗い流してくれているみたいです!」

「そうか? なら幸いだった」

 

 確かに。

 こうしてこの順番で食べてみると、これはこれでさっきの濃厚チーズ味を落ち着かせてくれるような気もして悪くなかった。

 美味しいものは、どう食べても美味しいんだな。とか思ってしまう。

 

「これはチーズの食べ比べですねぇ、すごい贅沢です。お貴族さまにでもなった気分を味わえます」

「そんなか?」

 

 俺が苦笑していると、案外真面目な顔でレムネアが頷いた。

 彼女の世界でもチーズは色々な種類があるそうなのだが、庶民はそれらを食べ比べたりする機会はあまりないそうだ。

 

 その地域や街でメジャーなチーズしか、だいたい口にしないとのこと。

 なるほど流通コストの関係なのかな。

 

 そんな中、貴族は様々なチーズを集めて食べ比べをしたりして優雅に食していたらしい。

「冒険者として旅をしてると、色々なチーズを口にする機会自体はあるのですけど、一度に食べ比べる機会はついぞなくて」

 

 憧れていたんですよね、とレムネアが笑った。

 

「そういうことなら、他のチーズも出していくか。青カビのチーズなんかも果物に合って美味しいぞ」

「他の種類もまだあるのですか!? それは是非」

 

 嬉しそうだ。

 図らずもチーズの品評会のようになっていく。

 チーズは彼女の世界でもメジャーな食べ物だったらしいから、世界の違いがより実感できて感慨深いのかもしれないな。

 

「ああ、この青カビチーズはエルゴリ地方のチーズに似てて――」

 

 多弁に語るレムネアを見て、俺の頬は緩むのだった。

 いくつかの種類のチーズを食べて、満足した頃に彼女がどこからともなく杖を取り出した。

 

「大変美味しゅうございました。今日はお礼に、冒険者流のちょっと特別なお茶の飲み方をお教えして差し上げようと思います」

「特別?」

「はい。お茶を淹れるカップがなかったり、お湯を沸かす設備が準備できないときの、緊急用の飲み方ですよ」

 

 へえ。この世界で普通の生活をしている限りは縁のないシチュエーションな気がするものの、レムネアが特別というときの目のキラキラに興味を持って、俺は頷いた。

 

「それは、よろしく頼むよ」

「では、僭越ながら」

 

 レムネアは一度台所に消えると、ポットに『水』を汲んできた。

 

「この水は、水筒などに入ってる水と仮定してください。冒険者は水だけは忘れないものです。なにかあったときに水があると生存率が断然違いますから」

 

 人は水があれば食事を取らずとも二、三週間は持つというからな。

 なるほど、あちらの世界でも重要視されているんだ。

 

「身体を温めたいときなどはお茶にしたいものです。今日は初心者向けに、ぬるま湯でお茶を作りますね」

「初心者向け?」

「はい、初心者向けです」

 

 彼女はにっこり笑い杖を片手に呪文を唱えた。

 

水を浮かせる魔法(ウォ・リペ)

 

 レムネアがポットを傾けると、ポットの口から零れ出た水が空中に留まる。

 そのまま水の球体となり、フワフワと浮いたままになるのだった。

 

「これの中に、お茶となる葉っぱを投入。今回はこの世界の製法に則り『お茶っ葉』を加えますね。それを、火で熱します。『ちょっぴり火を熾す魔法(ファ・イムナント)』」

 

 お湯の温度が上がってくると、球体状の水は自然な対流を始めた。

 お茶っ葉が球体の中でクルクル回って、少し楽しげだ。

 

 彼女はしばらくの間、そうやって空中に浮いた水の球体を杖の火で熱していたが、水がお茶色に変わった頃、杖を下ろして火を消した。

 

「はい。これが冒険者が緊急時にやるお茶の飲み方です。どうぞケースケさま」

「どうぞったって……」

 

 空中に熱せられてお茶になった液体が球状に浮いているだけである。

 どうやって飲めと? 俺がそう聞くと、彼女は口をすぼめて。

 

「こう飲むんですよ」

 

 球体に口をつけて、チューチューと吸い出した。

 

「さ、ケースケさまもどうぞ」

 

 いや、飲み方はわかったけど。

 チューチューとレムネアが口をつけているお茶の球体に、俺も一緒に口を付けるの!?

 なんかそれは、こちらの世界の人間としてはとても恥ずかしいことなんだが!

 

「ケースケさま?」

 

 俺が躊躇っていると、レムネアが不思議そうな目で俺を見てくる。

 今の気持ちをわざわざ説明するのも、より恥ずかしい気がして俺は、ままよとばかりに球体に口をつけた。

 

 口をすぼめて、俺もチュウチュウ。

 熱すぎない温度だったが、ちょっとお茶としてはまだ薄い。

 

 だけど球体からお茶を吸う、という『感触』はちょっと面白かった。

 口をすぼめて力を入れると、球体の表面を吸い込んでいけてるのがわかる。初めての体験だ、少し娯楽感があるな。

 

 俺たちは、チュウチュウと二人で球体のお茶を啜った。

 ある程度少なくなると、お茶っ葉が口に入ってきて苦い。

 俺は口を話して、息をついた。

 

「旨いというより、楽しかった。それにしても突然どうしたの、こんな淹れ方をしてみせて」

「えっと、その……。私の世界のことも、ちょっとケースケさまに知って頂きたくなって」

 

 ちょっと俯いて顔を赤くしたレムネアだ。

 二人でチュウチュウするのは恥ずかしくないのに、そこは恥ずかしいんだ。冒険者の基準って難しいな。

 俺は苦笑した。

 

「そっか。ありがとう、この世界では普通冒険なんかしないからね、貴重な体験をさせて貰ったよ」

「そ、そうですか?」

「でもこれ、あまり他の人の前で似たことをしない方がいいぞ?」

「それはもう、他の人の前で魔法なんて使う気はありませんので」

「そういうことじゃなく」

 

 俺は、こっちの世界に於ける『間接キス』という概念を彼女に伝えた。

 一緒に同じ飲み物を飲むなんて、それに近いもんな。

 途端、レムネアの顔が真っ赤になる。

 

「わわわわ、私は別に、そんな意図ではなくて……!」

「わかってるわかってる。冒険者の世界ではそんなことを気にしたりしなさそうだもんな。でもこっちの世界だと、そういう特別な認識になるんだよ」

「はわわわわ!」

 

 認識さえしてしまえば、彼女はやはり乙女なのだ。

 突然押し寄せてきたのであろう恥ずかしさに、目を回してしまった。

 

「やめろ。俺も今さら恥ずかしくなってきた!」

「あううぅぅぅー!」

 

 俺たちは馬鹿みたいに顔を背けあいながら、食事の後片付けをしたのであった。

 

 

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