Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
菜奈が見た八尺様という背の高い女の怪人を、信宏が動画に撮ろうとする。
琴葉達は信宏を守るために、光一郎の父親からの依頼もあり、八尺様を探しに行く。
八尺様は凶暴だと言われるが、菜奈には逃げられたという謎がある。
そんな謎めいた怪を捕まえるべく、琴葉達は追いかけるのだった。
「う~ん、全然いないっすねえ」
琴葉達は、信宏達と共に町のあちこちを探した。
しかし、八尺様の姿はどこにもなかった。
一同は駅前までやって来た。
「昨日は結構目撃されてたんすよお」
信宏の言葉に、マルサンカクーズの二人は頷く。
「どこかに隠れてるかもしれないYO」
「ああ。隠れてる場所さえわかれば、スマホで撮影してやるZE」
二人は互いにスマホを構え、ニヤッと笑った。
ユズは、複雑な表情になる。
すると、光一郎が彼らの前に立った。
「これ以上、八尺様を刺激するのはやめてください」
光一郎は二人を睨むように見つめる。
「何だい、君は特ダネを独り占めする気かYO?」
三角がメガネを指でクイっと上げながら尋ねた。
「そんな事するわけがないでしょ」
光一郎は真剣な表情できっぱりと答えた。
「僕は、あなた達の心配をしているんです。八尺様がどうして怯えているのかは分からない。
だけどあれは凶暴な怪です。変に刺激したら、襲いかかってくるかもしれない。
きっと、あなた達は大怪我をしてしまう」
「……そうしたら、わたしが再生術で一人一人、治さなきゃいけない」
光一郎とユズは町並みを眺めた。
「僕は、怪を元の世界に帰す怪帰師です。だけど、怪を帰す事だけではなく、
人々が怪によって不幸にならないように食い止めたい思いもあります」
「……だから、あなた達に怪我をしてほしくない」
「光一郎君……ユズちゃん……」
琴葉は光一郎とユズの思いを知り、大きく頷いた。
「私も同じです。今すぐどこかに避難した方がいいと思います!」
「き、君達何だYO」
「怪帰師なんて聞いた事ないZE」
「いいから、これ以上探すのはやめてください」
光一郎は丸井と三角の持っているスマホを降ろさせようとした。
その時、「あっ!」と、信宏が声を上げた。
「そうだ、あそこなら誰にもバレずに隠れられるかも!」
「えっ!? どこだYO?」
「オレ達に教えるんだZE!」
丸井と三角は光一郎とユズを押しのけ、信宏の傍に駆け寄った。
「わっ」
「……っ」
「光一郎君!」
「……わたしは平気」
琴葉はよろけた光一郎と、受身を取ったユズの傍に行く。
一方信宏は興奮気味にその場所を丸井達に教えた。
「駅から少し行ったところに廃工場があるんすよ。
あの辺りは普段から人があんまり近づかなくて。しかも、工場の扉は鍵が閉まってないんすよ」
「おお、そこなら隠れる事できそうだZE!」
「行ってみようYO!」
「だからそういうのは危険で……」
「「うるせえっ!」」
注意した光一郎に、丸井と三角は同時に怒鳴った。
「こっちは切羽詰まってんだ!」
「この動画で、トップ配信者に返り咲かなきゃいけねえんだ!」
二人はZEもYOも言わず眉間に皺を寄せながら凄む。
「信宏くん、今すぐその場所に案内して!」
「絶対動画に撮ってやる!」
「は、はいっす!」
信宏はその迫力にたじろぎながらも、廃工場の方へ走って行った。
「そんな」
「……頭悪い人達」
琴葉は彼らの態度に戸惑う。
光一郎とユズは心配して言ったのに、全く理解してくれなかった。
「このまま放っておくわけにはいかない。彼らが怪我をする前に、八尺様を元の世界に帰すんだ」
「あんな人達でも助けないといけないの?」
琴葉の言葉に、光一郎は「当然だよ」とはっきりと答えた。
「どんな人だろうが、怪のせいで不幸になるのを、僕は黙って見ているつもりはない」
「どうして?」
「怪が人々を不幸にするのを食い止める。それが怪帰師の仕事だ!」
光一郎は怪帰師の仕事に強い使命感を持っている。
琴葉とユズはそんな彼の力になりたいと心の底から思った。
その時、背後から声がした。
「あら、琴葉」
琴葉の母親が駅の改札口の傍に立っている。
仕事が終わって、電車に乗って帰って来たのだ。
「そんなところでしてるの?」
「あ、ええっと」
「まさか、光一郎君とデート!?」
「そんなじゃないってば! ていうかユズちゃんもいるよ!」
「ごめん、ごめん。あ、そうだ。琴葉から聞いたんだけど、
光一郎君は親御さんのお仕事の関係で、ユズちゃんと二人で暮らしているのよね?」
「は、はあ」
「だったら、今夜夕食を一緒に食べましょうよ。今からスーパーに行くところだったの。
おばさんお料理上手よ。一番得意なのはハンバーグ。一緒に食べましょ!」
「……シャケ、ホワイトチョコ」
「じゃあ、買い出しに行きましょう」
ユズはシャケとホワイトチョコが好物である。
母親は、駅前にあるスーパーの方へ歩き出そうとした。
だが、琴葉が怒鳴った。
「お母さん、いい加減にして!」
「琴葉……」
「私達は今から行くところがあるの!」
「こんな時間からどこに行くのよ?」
「それは、あの」
「廃工場です」
光一郎が母親の目を真っ直ぐ見て答えた。
「光一郎君、わざわざ言わなくていいんだってば」
「え、そうなのかい?」
琴葉がしまったという顔をしていると、母親が急に真面目な表情になった。
「ちょっと、あそこは人通りもないし、こんな時間から行くのは危ないわよ」
「それはわかってるんだけど、行かなきゃいけないの」
「どうして??」
「それはええっと、ああんもう~、とにかくご飯は適当でいいから!」
「……わたしはシャケがいい」
「じゃあ、ユズちゃんはシャケね」
琴葉は、「すぐ帰るから」と母親に伝えると、光一郎の腕を引っぱってその場から走り出した。
ユズは、琴葉達の後を追いかけた。
「琴葉ちゃん、いいのかい??」
「こんな時にお母さんに構ってる暇ないよ! 急がなきゃ!」
琴葉達は走るスピードを上げた。
「ここだよ」
やがて琴葉、光一郎、ユズは、廃工場の前にやって来た。
駅からは、歩いて五分もかからない。
しかし、辺りに住宅はなく、帰宅時間帯にも関わらず人通りも全くなかった。
日が落ち、既に薄暗くなっている。
「信宏さん達、もう中に入ってるみたいね」
入り口の錆び付いた鉄の門が少しだけ開いている。
信宏達が開けたのだろう。
「彼らより早く八尺様を見つけ出さないと」
三人は工場の敷地に入ろうとした。
「そっちに逃げたっす!」
突然、工場の中から信宏の声が響いた。
「まさか!」
八尺様を既に見つけたのかもしれない。
琴葉達は慌てて門を潜った。
工場の中では、信宏達が必死に走っていた。
「どっちに行ったんだYO!」
「そっちっす!」
「今度は逃がさないZE!」
三人はスマホで動画を撮りながら、工場中を走り続ける。
すると一瞬、人が横切った。
姿は人そっくりだが、普通の人とは全く違う。
工場は機械がそのまま放置されているが、
その人物は、それらの機械より遥かに背が高かったのだ。
「いたZE、八尺様だ!」
「ポオオ、ポポポオオ……」
ツバ広の白い帽子を被った八尺様が、長い手足を必死に動かし、信宏達から逃げていた。
八尺様は右側にある出入り口、鉄の扉の方へ逃げようとする。
だが、行く手を丸井が塞いだ。
それを見て、八尺様は左側にある鉄の扉の方へ走る。
しかし、その扉の前にも三角が現れ、塞いでしまった。
丸井と信宏も、取り囲むかのように近づいて来る。
「ポオオオ……」
八尺様は壁際に追い詰められ、その場に蹲ってしまった。
「ほんとに、いたZE」
「信宏くん、ナイスだったYO」
「力になれてうれしいっす!」
丸井と三角はうずくまり震える八尺様を見てニヤっと笑う。
「スミ、これは特ダネだな」
「ああ、マル。オイラ達、最近全然バズってなかったもんな」
「これでオレ達も、人気動画配信者に返り咲けるはずだ!」
二人はスマホを向けると、ゆっくりと八尺様を動画で撮ろうとした。
「切り捨てる」
「ひゃ!?」
丸井達が振り返ると、少し離れた場所に光一郎、琴葉、ユズが立っていた。
ユズは不思議な光を放ち、丸井達を威嚇する。
ようやく丸井達の下へ辿り着いたのだ。
「な、何だ、また君達か」
「オイラ達の邪魔すんなって」
丸井と三角は呆れながらも苛立つと、信宏に声をかけた。
「あの子達を外に追い出して」
「ゆっくり動画が撮れないからな」
「え、あ、はいっす!」
信宏は琴葉達の傍にやって来て三人の腕を掴んだ。
「君達は外に出ろ!」
「やめてください。八尺様を刺激しちゃ駄目だ!」
「……わたしが動かなきゃいけない」
「いいから、早く!」
「だから駄目だって言ってるでしょ!」
光一郎、琴葉、ユズは無理やり外に出されそうになる。
その時、八尺様が蹲りながら小さな声を出した。
「ポポポオ、ポポオポ、ポ、ポオオ……」
それを聞き、琴葉は思わず立ち止まった。
「『楽しいと思って人間の世界に来たけど、こんなに追い回されるなんて、凄く怖いよお』」
「やっぱり」
八尺様は全身を震わせ、顔を上げる。
その顔を見て、琴葉はハッとした。
「まさか!」
琴葉は、信宏の手を強引に振り払った。
「うわっ」
振り払われた勢いで、信宏は近くの壁に身体をぶつける。
その衝撃で、光一郎の腕も離した。
ユズは身体を動かし、自力で脱出した。
「八尺様を助けなきゃ! あの子はまだ子供なの!」
「えっ?」
光一郎は八尺様をじっと見つめた。
確かに背は二メートル以上ある。
だが、顔を見ると幼い少女そのものだったのだ。
「さあ、スマホの方に顔を向けろ!」
「た~っぷり動画を撮ってるからな!」
丸井と三角は笑みを浮かべながら、幼い八尺様に迫った。
その瞬間……。
「ポオオオオオ!」
耳をつんざくほどの声が工場内に響いた。
「うわわっ」
ユズは思わず耳を塞ぐ。
琴葉は耳を塞ぎながらも、その声が何と言ったのか気づいた。
「『娘を返せ』??」
―ドオォォン!
傍の鉄の扉が勢いよく外れ、轟音と共に床に転がる。
「ポオオ! ポオオオ!」
外から、不気味な声が聞こえる。
「『お前達! 絶対に許さない!』」
「……わたしが止めなきゃ……!」
ユズは真剣な表情で身構える。
琴葉はその言葉を訳しながら、出入り口を見た。
そこには、長い足が見える。
入り口の上の部分を、長い手が掴む。
何かが身を屈めながら、こちらを覗く。
ツバ広の白い帽子を被った長い黒髪のワンピースの女……八尺様だ。
「ポオオオオッ!」
八尺様は、身を屈めながら工場内に入って来ると、丸井達の傍に立った。
その身長は、ゆうに五メートルを超えている。
巨大な八尺様だ。
「ポオオ……」
うずくまっていた八尺様が巨大八尺様を見て、泣きそうな声を上げた。
「『お母さん』って、まさか……」
琴葉はそれを聞き、二人の八尺様を交互に見た。
彼女達は、母と娘だったのだ。
「ポオ、ポポポオ……」
母親の八尺様は心配そうな表情で、娘の八尺様に話しかける。
『どこに行ったのか心配で、ずっと探していたのよ』と言っている。
彼女は人間界に遊びに行ってしまった娘を探しに来たようだ。
「ポオオオオオオ!!!」
母親の八尺様は、丸井達に向かって怒鳴った。
娘に恐怖を感じさせた犯人だと気づいたのだ。
その迫力に丸井達はたじろぐ。
「……交わってる。わたしと全然違う……」
母親の八尺様は、傍にあった機械を両手で掴んだ。
「ポオオ! ポオオオ!!」
その声を聞き、琴葉が叫んだ。
「逃げて! 『娘をよくも! これでも食らえ!』って言ってるよ!」
母親の八尺様は叫びながら、機械を持ち上げた。
「食らえってまさか!」
「に、逃げろ!!」
丸井と三角は慌ててその場から逃げ出す。
同時に、母親の八尺様は機械を放り投げた。
次の瞬間、ユズは機械を両手で受け止める。
「……誰も傷つけない。わたしが、守る」
「ひいいい!」
丸井達は声を上げて、外へ逃げ出す。
「ま、待って!」
信宏も慌てて二人の後を追う。
「ポオォオ!!」
母親の八尺様は怒りの表情で叫ぶと、丸井達を追った。
「大変だ!」
「……わたしが止める。絶対に止める」
光一郎とユズは、外へと走る。
「あっ、光一郎君、ユズちゃん!」
母親の八尺様は、娘を怖がらせた丸井達に強い怒りを感じている。
光一郎は、八尺様は凶暴な怪だと言っていた。
それは怒った時に凶暴になるという事だったのだ。
「止めなきゃ!」
琴葉も全身に力を入れると光一郎とユズの後を追い、外へと飛び出した。