Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
工場で巨大な八尺様が丸井達を追い詰める。
しかし、光一郎とユズが現れ、八尺様を説得しようとする。
八尺様の条件は丸井達を襲う事だったが、ユズが力を使って八尺様を止める。
その後、八尺様は何とか光の扉を潜り、自分の世界に帰る。
丸井達は怪物の記憶が消え、迷惑動画を撮る事をやめる。
その後、琴葉の母親と一緒に夕食を食べる事になるのだった。
「光一郎はん、琴葉はん、ユズはん。まずはくだんはんの話を聞いてやってや」
琴葉達はワンダー居酒屋ケンちゃんの裏手にある公園にやって来た。
ベンチしかない小さな公園で、路地裏にあるため人もあまり通らない。
「ここの方がゆっくり話できるやろ?」
ベンチの上に立っているたぬ吉が一同に言う。
琴葉はそんなたぬ吉をキョトンとした表情で見ていた。
たぬ吉は、10cmほどのタヌキのヌイグルミになっていたのだ。
「小さい」
「たぬ吉さん、その姿はなんなの?」
「店の前で置物のフリをしているだけやとストレスが溜まるやろ。
たまには運動せなあかんと思って、この姿になってよく散歩してるんや」
流石に置物の姿で町を歩くのはマズいと思いヌイグルミに変身して散歩をしているのだという。
「ヌイグルミでも、歩いてるとみんな驚いちゃうと思うけど」
「それはそうやけど、これだけ小さいと案外見つからんもんやで」
ヌイグルミのたぬ吉は、笑いながらお腹をパフッと叩いた。
「クゥウ、クウウウ」
くだんが微笑みながら、うなり声をあげる。
「それで、話というのは?」
ふと、光一郎がくだんに尋ねた。
「クウウ……」
『それはね……』
くだんはそう言って神妙な顔つきになると、悩みを打ち明けた。
彼は光一郎の情報通り、人が不幸になる予言の力があるらしい。
しかし、予言を聞いた人々が悩み苦しみ、
どうする事もできず予言通り不幸になる姿を楽しそうに見ているわけではなかった。
くだんは、彼らの事が心配でたまらなかったのだ。
「クウゥゥウ、ンククウウウウ」
「『僕は人々が不幸になるのを見たくない。だから絶対に回避したいと思ったんだ』」
琴葉はくだんの言葉を訳した。
くだんは誰かが不幸になる予言が頭の中に浮かぶと、
それを回避するためにその人物に会い、忠告したかったらしい。
その人物が予言を信じ、上手く回避してくれれば不幸な目に遭わずに済むのだ。
だが、誰も忠告を聞いてくれなかったのだという。
「クウ、ククゥウ」
「『そもそも、僕の言葉を分かってくれない』」
怪の言葉が分かる人間は、通役だけだ。
くだんは、予言が頭に浮かぶたびにその予言を何とかしようと思ったけれど、
一度も回避できなかったという。
「くだんはんは、今まで十人近く助ける事ができへんかった」
「……怪我はわたしが再生術で治したけど、助けられなかった事をずっと悔やんでた」
たぬ吉とユズがそう言うと、くだんは悲しそうな表情で小さく頷いた。
「そうだったんだね……」
琴葉は、くだんが本気で人々を助けたいと思っていると知ってその悩みに同情する。
「彼は、悪い怪なんかじゃない」
光一郎は、自分の情報が間違っていた事に気づいた。
「クゥゥウゥウ」
くだんが呟く。
琴葉は「えっ」と声を上げた。
「なんて言ったんだい?」
「ええっと、『元の世界にちゃんと帰るよ』って言ってるよ」
「え、いいのかい?」
「クウ、ウウウウウ」
「『だけど、一つだけ願いを叶えてほしい』だって」
「何だい? 何でも言って!」
「クゥゥウ、クゥウゥウウウ!」
「『たった一人でもいいので、予言で不幸になる人間を助けたい』」
くだんは、どうしても人を助けたいらしい。
「……それが願いって事?」
「だけど、どうしてそこまで人間を助けたいと思うの?」
琴葉はくだんの優しさに戸惑いながらも、その理由を知りたくなった。
すると、くだんは笑顔になった。
「クウゥ、クウゥゥウ」
「『だって、僕は人間が好きだから』」
やはり、くだんは悪い怪などではない。
本当に、人間のために役に立ちたいと思っているのだ。
「くだんさん、素敵!」
琴葉はそんなくだんの気持ちを嬉しく思い、握手をする。
「僕も嬉しいよ!」
光一郎もくだんと堅い握手をした。
ユズは、笑顔でくだんの頭を撫でる。
「僕達が願いを叶える力になるよ! 琴葉ちゃんとユズがいれば大丈夫!」
「……わたしなら大丈夫」
「私が? あ! 私の通役の力があれば、くだんさんの思いをみんなに伝えられるよね!」
「……そう、そういう事」
言葉が伝われば、人々は不幸な予言を回避しようと動いてくれるはず。
くだんは『ありがとう』とお礼を言った。
「よっしゃ、くだんはんの願いを叶えるために、今から不幸になりそうな人を見つけるで!」
たぬ吉は勢いよくジャンプすると、琴葉の肩に飛び乗った。
「レッツラゴーや!」
「ちょっと、たぬ吉さん、自分で歩かないつもり?」
「わてはヌイグルミや。ヌイグルミは人の肩に乗って移動するもんや」
「えええ、何それ?? さっき言ってた事と違うじゃない」
歩くのが面倒くさいらしい。
この公園に来る時も、光一郎に持ってきてもらっていた。
「……よく分からない」
「も~、あんまり動かないでよ」
琴葉は呆れながらもたぬ吉を肩に乗せる事にした。
「……じゃあ、まずはどこに行く?」
ユズはくだんに尋ねた。
くだんは一歩前に出ると、目をつぶり全身に力を入れた。
「クウウウウウウウウ~!」
瞬間、くだんの身体が光り輝き、黄金色のオーラを纏う。
「凄い!」
琴葉達が驚いていると、くだんが目を開けた。
「クウウ、クウウウウ!」
その目は全身を纏うオーラと同じように黄金色に輝き、周りを照らしていた。
「……これは、ライト。眩しい」
くだんは、黄金色の目で、周囲を見る。
「クウウ、クウウ!」
『どこだ、どこだ!』と、周囲を見ながら言い続ける。
そして、ピタリと止まった。
目の光が、東の方向を照らす。
「クゥゥウ、クゥゥウ……」
「『なるほど、なるほど』」
くだんはその光る目で確かを見ているようだ。
やがて、オーラが消え、目も元に戻った。
「ククゥ、クククウウウ、クゥゥウウウ」
「『十五分後、三丁目にある大きな公園で、子供が遊具から落ちて怪我をする』」
琴葉は訳し終わると、「それって!」と声をあげた。
これから起きる不幸の予言だ。
「琴葉ちゃん、大きな公園の場所は分かる会?」
「うん。三丁目で大きな公園は、ゾウさんの滑り台のあるゾウさん公園一つだけだよ」
「五分あれば間に合う! 急ごう!」
「……果たしてどうなるのやら」
琴葉達は一斉に走り出した。
「ここだよ」
琴葉達は、三丁目にある大きな公園にやって来た。
公園の真ん中にゾウさんの滑り台があり、他にもいくつも遊具が置かれていた。
夕方前なのに、遊具で遊んでいる子供達が何人もいる。
「くだんさん、どの子が怪我をする子なんだい?」
予言を聞いて十分ほどが経っているが、まだ時間はあるため、助けられるはずだ。
「クウウ、ウウウ」
くだんは、公園の奥を見ながら声を出した。
「『ブランコのところにいる帽子の男の子』だって」
「分かった!」
「……具体的には、ね」
光一郎はブランコの方へと走った。
くだんが言った通り、帽子を被った幼稚園児ぐらいの男の子がブランコに乗っていた。
ブランコの周りには他に人の姿はない。
「あの子だ!」
光一郎は男の子に駆け寄り、ユズも彼に駆け寄る。
「今すぐブランコから降りて!」
「どうして?」
「君が怪我をするからだよ!」
「けがなんかしないよ。ブランコ、じょうずにのれるもん」
男の子は光一郎の話をまるで聞こうとしない。
楽しそうにブランコをこぎ続ける。
「だから、駄目だってば!」
光一郎は強引にブランコを止めると、男の子を抱いて降ろした。
「ちょっと、何してるのよ!」
その姿を見て近くのベンチに座っていた女の人が駆け寄って来た。
男の子の母親らしい。
「この子が怪我をするんです」
「怪我? まさかあなたが怪我をさせたの?」
「いや、僕じゃなくて、予言でそう出ていて」
「はああ? 訳の分からない事、言わないでちょうだい!」
母親は、男の子を光一郎から取り返した。
「……やっぱり理解してくれない」
「光一郎君!」
琴葉とくだんも、光一郎とユズの下に駆けつける。
「あなた達もこの子の友達? 何のつもりなの?」
「えっと、それは予言があって」
「さっきから予言予言って何なのよ!?」
母親は、琴葉達の言っている意味を全く理解してくれない。
「だけど、これで回避できたかも」
光一郎がそう言う。
男の子をブランコから降ろしたから、怪我をせずに済むはず。
だが、くだんが光一郎の服の袖を引っ張った。
「クウウ、ウウウ」
「えっ??」
それを聞き、琴葉は焦る。
「『怪我をするのは、この子じゃない』?」
その時、男の子が帽子を取った。
長い髪がなびき、よく見ると女の子だ。
「間違えた」
琴葉、光一郎、ユズは慌ててブランコの方を見る。
ブランコに、男の子が一人走って来る。
男の子は帽子を被っていた。
「まさか!」
怪我をするのは、その男の子だったのだ。
「だめだ!」
光一郎は慌ててその子を止めようとした。
しかし寸前で、男の子はブランコに飛び乗ろうとした。
「わっ」
あまりに勢いよく飛び乗ろうとしたせいで、男の子の足が絡まる。
「うわああ!」
―ドン!
男の子はそのままブランコの前で転んでしまった。
「うええええん!」
「快方の光よ宿れ、ファーストエイド!」
男の子が大声で泣き出す。
ユズは男の子に駆け寄ると、再生術の呪文を詠唱し、男の子が負った擦り傷を癒した。
「マーくん、大丈夫??」
近くにいた母親が男の子に駆け寄ると、ユズは素早くその場を離れた。
男の子は母親にあやされ、すぐに泣き止んだ。
「よかった~」
その光景を見て、琴葉はホッとする。
「だけど……」
琴葉は、すぐに渋い顔になった。
結局、琴葉達は予言を回避できなかったのだ。
「僕が男の子と女の子を間違えなかったら……」
しばらくして、琴葉達は道路を歩いていた。
光一郎は、ミスをしてしまった自分をずっと責め続けていた。
「どんまいやで、光一郎はん」
「戦犯」
「そうよ、あの子もユズちゃんのおかげですぐに泣き止んで元気になったし」
たぬ吉と琴葉は励まし、ユズはさらりと事実を言うが、光一郎はチラリとくだんの方を見る。
くだんも、ガックリと肩を落としている。
「そうだよね。ユズが治したのはよかったけど、くだんさんも残念だよね。
怪帰師として失格だよ。僕はほんとダメな奴だ。はああ~」
「バカっぽい」
「……そう、バカだよ……」
光一郎は必死に頑張っていた。
それでも回避する事ができなかった。
琴葉は落ち込む光一郎を見て、拳をギュっと握り締めた。
「今度は、私が絶対に回避してみせるから!」
「琴葉ちゃん……」
「だって、私達は仲間でしょ!」
怪の言葉を訳すだけが通役の仕事ではなく、戦う事だけが護衛の役目でもない。
怪帰師と一緒に、怪を帰すために奮闘する。
それこそが、通役の仕事だと琴葉は思った。
その時、くだんが立ち止まった。
「クゥクウウ」
「『気配がする』?」
琴葉がそう聞き返すとくだんは全身に力を入れた。
「クウウウウウウウ~!」
瞬間、くだんの身体が光り輝き、黄金色のオーラを纏い、輝く目で町を眺めた。
今度は、西の方だ。
「ククウゥ、クゥウウウクウ」
「『五分後、おじいさんが階段から足を踏み外す』。えええ??」
新しい予言だ。
「五分後?」
「さっきより短いやないか!」
「くだんさん、その階段はどこにあるの??」
琴葉はくだんに尋ねた。
「クウウウウウゥゥゥウ、クウクゥゥウ」
「『長い石の階段、周りに家が見える。階段の上に大きな木が立っている』」
「それってどこだい?」
「坂にある階段みたいやな。あっちの方にそういう階段あったような。
ええっと、あれはどこやったっけ?」
「知ってる! 絶対あそこだよ!!」
琴葉が全力で走り出した。
「待って」
「琴葉ちゃん!」
光一郎、ユズ、くだんもその後に続いた。
「今度こそ、不幸を回避しなくっちゃ!」
琴葉は高級住宅地の中にある道路を走る。
高級住宅地は小高い丘にあり、道路は坂道になっていた。
「あそこ!」
琴葉は走りながら、前を見て声をあげた。
前方に長い急な坂道がある。
その横に石の階段があった。
坂の上には、大きなケヤキが立っている。
「周りに家、石の階段、坂の上に大きな木! おお、ナイスや、琴葉はん!
まさにあれがそうや!」
たぬ吉が琴葉の肩の上で興奮する。
「おじいさんはどこにいるんだい??」
後ろで光一郎が声をかけた。
「ええっと??」
琴葉は階段を見つめる。
すると、杖をついたおじいさんが坂を下りて来た。
残り一分。
周りに、他に人はいない。
「あの人だ」
琴葉は階段を一段抜かしで駆け上がった。
「おじいさん、転ばないように注意してください!」
「んん? 何だって?」
おじいさんは、階段を下りながら耳に手を当てる。
「だから~、転ばないようにしてくださ~い!」
「コロッケを食べたい? わしにそんな事を言われてもなあ」
「あかん! おじいさん、耳が遠いみたいや!」
「そんな!」
「とにかくおじいさんの動きを止めるんだ!」
光一郎が後ろから言った。
「……止まれば安全」
ユズは走りながら、おじいさんに掴みかかろうとした。
瞬間、杖が階段の上にあった小石の上を突いてしまう。
その拍子に上手く支えられず、おじいさんは階段を踏み外した。
ユズは、おじいさんの傍まで駆け上がると、抱き止めようとした。
「おっとっと!」
しかしそんなユズをよそに、おじいさんは上手くバランスを取り、
階段を数段下りながら体勢を整えた。
「えっ」
ユズはおじいさんを抱き止める事ができず、前のめりに倒れそうになるが、
身体能力の高さを生かしてバランスを取った。
「ふぉっふぉっふぉ、君達、階段を走って上ると危ないぞお」
おじいさんは何事もなかったように笑った。
怪我はしていないようだ。
「わしは毎日この坂道を散歩しておる。杖はついておるが、まだまだ足腰は丈夫だぞお」
そう言いながらおじいさんは階段を下りて行った。
やがて、予言の五分が過ぎた。
「なんや、元気なおじいさんやなあ」
「だけど、どうなってるんだい?」
「回避できたって事かな?」
琴葉達がそう言うと、ようやく皆の下に辿り着いたくだんが、
ゼエゼエと息をしながら首を横に振った。
「クウウウウゥ、クッククウウ」
「えっ、そんな?」
琴葉は、くだんが言った言葉を光一郎達に説明した。
くだんは、おじいさんが階段から足を踏み外すとは言ったが、
踏み外して怪我をする、とは言っていなかったのだ。
「それって、おじいさんは踏み外しただけって事かい?」
光一郎の言葉に、くだんは頷く。
「クウ、ウウゥウ」
「『それでも、不幸な事に変わりないでしょ』だって」
「それはそうだけど」
怪我をする不幸ではなかった事に、琴葉達はホッとする。
しかし、また不幸の予言は回避できなかったようだ。
「クウウウ~」
落ち込むくだんと共に、琴葉と光一郎も大きな溜息をついた。
ユズだけは、唯一無表情だった。