Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
琴葉、光一郎、ユズは、ぬいぐるみになったたぬ吉と、
人が不幸になる予言の力を持つくだんと出会う。
くだんは不幸を呼ぶ怪ではなく、人々が不幸になるのを見たくないと願っていた。
彼の願いを叶えるために、彼らは不幸な予言を回避しようとする。
しかし、彼らの試みは成功せず、くだんの予言は現実となる。
それでも琴葉達は諦めず、次の予言を回避するために努力を続けるのだった。
「これで、四件目かあ」
一時間ほどが過ぎた。
琴葉達は、くだんの予言を何度も聞き、そのたびに不幸を回避するために走り回った。
だが、どれも寸前のところで回避できなかった。
どの予言も、小さな不幸で、怪我をした人もかすり傷程度だ。
それでも、くだんは琴葉達がいても避けられない事にますます悔しさを感じているようだった。
「どうにか回避できればいいけど」
そろそろ日が落ち、夜になる。
琴葉は今日のところは諦めて帰るしかないかもと思った。
「琴葉ちゃん、何してるの?」
琴葉達が道路を歩いていると一台の車が止まり、後部座席の窓から一人の女の子が顔を出した。
「夏純ちゃん」
運転席には、夏純の母親が乗っている。
「琴葉ちゃん、光一郎君やあの女の子と一緒なんて、もしかしてお友達とデート??」
夏純は興味津々で三人を見る。
「だから、そういうのじゃないって!」
「隠さなくっていいってば」
「……わたしは、ただの付き添い人」
そう言いながら、夏純はふと、くだんの方を見た。
「そのおじさんは誰?」
「え、あ、ええっと」
「光一郎君のお父さん?」
「え、あ、それはええっと」
怪と説明するとややこしくなるため、琴葉は夏純の話に合わせようとした。
「……あなたには関係ない」
しかし、それよりも早くユズが口を開き、その話をいち早く終わらせた。
「ところで、夏純ちゃんはどこかに出かけるの?」
琴葉は話題を変えた。
「そ、お母さんと一緒にショッピングモールで夕食食べようと思って」
夏純の父親は出張らしく、夕食は夏純と母親だけで食べるらしい。
「ショッピングモールに、美味しいパスタのお店が新しくできたらしいの。
調査しなくちゃって思って」
「夏純ちゃん、パスタ好きだもんね」
「うん、おまじないと都市伝説の次に好きだよ!」
「シャケはある? シャケはある?」
「多分、あるわ。今度一緒に行こうね」
夏純は琴葉達の前から去って行った。
「いいなあ、パスタ」
「シャケ……シャケ、シャケ、食べたい」
「僕もお腹減ってきたよ」
「わても、そろそろ夕食の時間やで」
「たぬ吉さんも食べたりするんだ?」
「当たり前やろ。わては古ダヌキ界いちのグルメやで。
置き物のフリをしている居酒屋の料理をいつもこの姿になってこっそりつまみ食いしてるんや」
「わたしは居酒屋で働いたお礼にシャケを食べる」
「そ、そうなんだ」
ヌイグルミが食べ物を食べているところなんて見たら、それはそれでビックリしてしまう。
ユズも、並々ならぬシャケの執着だ。
「ほな、くだんはん、今日はひとまず帰ろっか」
たぬ吉は、くだんの方を見た。
「んん?」
くだんは、ワナワナと震えている。
「くだんさん、どうしたの?」
「クウ~ウウウウ」
「『嫌な気配がする』?」
くだんは全身に力を入れた。
「クウウウウウウ~!」
瞬間、くだんの身体が光り輝き、黄金色のオーラを纏い、輝く目で道路を眺めた。
見ているのは、先ほど夏純が乗っていた車が走って行った方向だ。
「ククウゥ、クゥクウク」
「え、そんな!!」
「くだんは何て言った」
「『夏純ちゃんが乗った車が、事故に遭う』って!」
「何だって!!」
くだんの話によると、ショッピングモールの前にある交差点で、
夏純達が乗った車に横転したトラックが突っ込んで来るのだという。
「夏純ちゃんもおばさんも、その事故で大怪我するって言ってる!」
「そりゃえらいこっちゃ!」
「わたしの再生術が、間に合わない!」
今度は、小さな不幸な出来事ではない。
「くだんさん、事故はいつ起こるの!?」
琴葉が尋ねると、くだんは、クウゥゥと答えた。
『十分後』だ。
「急がなきゃ!」
「やけど、走っても、十分なんかでショッピングモールには辿り着けへんで!」
ショッピングモールは隣町との境目にある。
車で十分ほどかかる場所だ。
「そんな、どうすれば!?」
琴葉が焦っていると、光一郎が車道を見ながら手を挙げた。
すると、一台のタクシーが停車した。
「車なら間に合う! さあ、乗って!」
「う、うん!」
「分かった」
タクシーに乗るなんて発想は、琴葉とユズにはなかった。
光一郎はこんな時でも冷静だ。
光一郎君はやっぱり頼もしいと思いながら、琴葉達はタクシーに飛び乗った。
「運転手さん、急いで!」
タクシーの車内。
助手席に座った光一郎は、ドライバーのおじさんに告げる。
「これで間に合うはず」
後部座席に座る琴葉の横で、くだんが緊張した表情になっている。
「クウウウウ」
『絶対に助かってほしい』
くだんは、夏純達の事を心配していた。
どこまでも心の優しい怪なのだ。
だがその時、タクシーが急に止まった。
「あちゃ~、工事をしているみたいだねえ」
ドライバーのおじさんは、前方を見ている。
前方を見ると、道路工事をしていて渋滞になっていた。
「運転手さん、十分でショッピングモールにつきますか??」
「いやあ、これは二十分以上かかりそうだねえ」
「そんな!」
「……」
琴葉は思わずパニックになり、ユズはイライラする。
「このままじゃ、夏純ちゃん達が」
動揺し、焦り、居ても立ってもいられなくなる。
「どうしよう! どうしよう!!」
パニックになりながらも、ふと窓の外を見た。
「ああああ!」
琴葉は、前のめりに運転席の背もたれを掴んだ。
「ここで降ろしてください!」
「琴葉ちゃん、どうしたの?」
「いいから、光一郎君とユズちゃんも走って!」
光一郎は意味が分からないまま、料金を払った。
ドアが開くと同時に、琴葉とユズは近くにある路地へ走る。
「あ、ちょっと!」
光一郎とくだんもそれに続いた。
「琴葉ちゃん、落ち着いて! 走ってると間に合わないよ! ユズなら、大丈夫だけど」
光一郎はそう言うが、琴葉は走りながら首を何度も横に振った。
「この路地を走れば、きっと間に合うはず!」
路地は住宅地を抜けるように延びていて、幅が狭く、人一人が通るのがやっとだ。
だが、琴葉はこの路地の先がどこに繋がっているかを思い出した。
「この路地の先は、ショッピングモールの前の交差点だよ!」
「そうだったんだ!」
「……知らなかった」
光一郎も、ようやく走っている意味が分かって全力で走る。
その後ろで、くだんも必死に走る。
やがて、琴葉達は路地を抜けて大きな道路に出た。
車が何台も行き交い、道路の向こうに巨大な建物が見える。
ショッピングモールだ。
目の前の交差点こそ、予言のあった場所だ。
「あそこ!」
琴葉は交差点の真ん中辺りを指さした。
そこには、交差点で右折しようとしている夏純の乗っている車が見えた。
「もうすぐ十分やで!」
たぬ吉が琴葉の肩の上で哺ぶ。
予言では、ショッピングモールの前にある交差点で、
夏純達が乗った車に横転したトラックが突っ込んで来ると言っていた。
「トラックは??」
琴葉は焦りながら、トラックを探す。
と今度は、光一郎が「あそこ!」と声を上げた。
右折しようとしている夏純達の車の対向車線に、一台のトラックが走って来ていた。
「まさかあの車が??」
その時、強い風が吹いた。
風に吹かれ、交差点に何かが転がってくる。
道路に落ちていた段ボールの箱のようだ。
段ボールの箱が車道を転がった。
「ククゥウウゥ、クウウウウ」
その段ボールを見て、くだんが叫んだ。
「『あれを避けようとして、トラックが横転する』 !? そんなの駄目ぇ!」
琴葉は、車道に飛び出す。
夏純の車まで駆け寄ると、窓を叩いた。
「夏純ちゃん、今すぐ逃げて!!」
「琴葉ちゃん、何してるの!?」
窓を開けた夏純は、琴葉がいる事に驚く。
「いいから逃げて! このままじゃ事故に遭うから!」
「事故に遭うのは琴葉ちゃんの方だよ!」
夏純も母親も、車道に出てきた琴葉に戸惑っているようだ。
「いいから早く!」
「早くって、琴葉ちゃん落ち着いて!」
「ああ、琴葉はん、あれを見るんや!!」
肩の上に乗っているたぬ吉が叫んだ。
段ボールが、車道の真ん中まで転がる。
そこへ、トラックが走って来た。
トラックのドライバーは段ボールを見て人か動物かと思ったのか、驚きの表情を浮かべた。
「このままじゃ横転しちゃう!」
予言通り、あの段ボールを避けようとして横転してしまう。
「させない……!」
瞬間、ユズがトラックの前に飛び出した。
ユズは全力で走り、車道に転がった段ボールを掴んだ。
―キイイ!
トラックの激しいブレーキ音が響き、ユズは反対側へと走る。
―キイィイ!!
トラックは、夏純達の車の前で何とか停車した。
「ユズ!」
琴葉、光一郎、くだんがユズに駆け寄る。
「あの人は?」
「無事だよ!」
「君のおかげで、怪我をしなくて済んだ」
「よかった」
ユズはホッと胸を撫で下ろした。
「クウゥ、クウゥクゥククゥ」
くだんが、ユズの手を握りしめる。
「彼は何て?」
「『君のおかげで、初めて予言を回避する事ができたよ』だって」
「それって」
くだんが望んでいた『願い』だ。
「やったんだね」
ユズの顔に笑みがこぼれ、琴葉と光一郎も笑顔になる。
だがそんなユズ達の前に、辺りにいた人々がやって来た。
夏純や夏純の母親もいる。
皆、何故か眉間に皺を寄せ、怒っていた。