Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
琴葉達は予言をする怪・くだんと共に不幸を回避するために奮闘する。
ことごとく的中する予言だったが、今度こそ止めるべく、
友人の夏純が乗った車が事故に遭うという予言を聞き、タクシーで追いかける。
だが工事の渋滞に巻き込まれ、琴葉達は近道を走って交差点に着く。
その時、ユズがトラックの横転を防ぐために段ボールを取り除いた。
こうしてくだんは、初めて予言を回避する事ができたが……。
「一体何を考えてるんだ!」
ユズに中年の男性が怒鳴った。
トラックを運転していたドライバーだ。
「あの、これは、ええっと」
「私達、不幸の予言を回避しようとしてたんです!」
「おかげで、怪我はしませんでしたよ!?」
琴葉と光一郎が動揺するユズをフォローした。
「不幸の予言?」
「何なのそれ?」
周りの人達は首を傾げる。
「琴葉、このままじゃ分かってくれないみたい」
「そうね。ちゃんと言った方がいいかも」
琴葉達は、くだんの事や彼の予言の事を皆に話した。
「くだんの予言??」
皆は、くだんの方を見る。
「ねえ、この男の人が、予言をしたって事なの?」
夏純の母親が琴葉に尋ねた。
「そうなの! それでちゃんと不幸を回避できたの!」
琴葉は皆にそう言う。
「全部、くだんさんのおかげなんだよ!」
「クウウウ」
くだんは、皆に見られ、照れながらも嬉しそうに微笑んだ。
「何が予言だ!」
トラックのドライバーが、くだんの前に立った。
「お前がこの子達に嘘をついて、段ボールを投げ入れたんだな?」
ドライバーは、全てくだんが仕組んだイタズラだと思っていた。
「確かにそうだわ。きっと、この子達に予言が当たるって思わせようとしたのよ!」
「そのために段ボールを投げ入れたって事か?」
「何考えてるの! もうちょっとで本当に大事故になるところだったのよ!」
「琴葉」
集まっていた人達がくだんに詰め寄る。
「そうじゃなくて!」
「くだんさんは悪くないんです!」
琴葉と光一郎は必死に説明しようとするが、誰も聞いてくれない。
ユズは、困惑して頭を抱えている。
「なんて悪い奴なんだ!」
「クゥウウ」
「だいたい、予言なんてあるわけない!」
「ク、クウウウウ」
「おい、こいつを警察に突き出すぞ!」
皆は、くだんを捕まえようとした。
「クゥゥアアアアア!」
突然、くだんが大きな声を上げた。
くだんの身体がどす黒く輝き、真っ黒なオーラを纏う。
「くだん??」
「クアアァァ! クアアアアア!」
くだんの目がどす黒く染まる。
「大変だ」
「くだんさん、どうしたの??」
「落ち着くんだ!」
「クアアアア!!」
どす黒いオーラがさらに大きくなる。
「な、何なの?」
「分からないけど、これは!」
光一郎が焦ると、たぬ吉が叫んだ。
「あかん! くだんはんが暴走してもうた!」
「どういう事??」
「くだんはんは普段は大人しいけど、ショックな事があって暴走すると、
周りに不幸を撒き散らしてまうんや!」
「クアアアアア!!」
瞬間、どす黒いオーラが一気に周りに広がった。
―ドオォン! ドオォン!
止まっていた車のエンジンルームが、次々と爆発し、煙が上がる。
―ゴゴゴゴッ、ドオオオン!
道路に立っていた木が何本も倒れる。
「どうして??」
「不幸な事が起きてるんだ!!」
琴葉と光一郎は顔を見合わせ、ユズは歯を食いしばる。
「うわあああ!」
「助けて!!!」
人々が慌てて逃げ出す。
―ドオオン! ゴオオオオ!
町のあちこちから爆発音が響き、物が倒れる。
「みんな!」
このままでは怪我だけでは済まない。
琴葉達はくだんを見た。
「くだんさん、やめて!」
「落ち着くんだ!」
「クアアアアアア!!!」
しかし、くだんはどす黒いオーラを放ち続けた。
「我を失っているみたい……」
「そんな!」
「くだんさん! やめるんだ!!!」
「待って、光一郎!」
光一郎はくだんを強く抱きしめた。
「クアアアア!!!」
どす黒いオーラが、光一郎を包み込む。
光一郎の全身に激痛が走る。
「あぁああああ!」
「「光一郎(君)!!」」
琴葉とユズは助けようと駆け寄ろうとしたが、光一郎は手を挙げ、それを拒んだ。
「き、来ちゃ、だめだ」
光一郎は苦しみながらも、くだんを見る。
「く、くだんさん、お、落ち着いて」
「クアアアア!!」
「うああああぁぁ!」
だが、くだんは元に戻らない。
「あかん! このままやと光一郎はんが!」
「光一郎君!!」
その時……。
「も、もう、やめて……」
声がした。
声は震えていたが、しっかりとした強い意思を持っていた。
「ねえ、くだんさん……」
一人の女の子が、くだんの前に立った。
それは、夏純だ。
夏純は逃げずに残っていたのだ。
「夏純ちゃん、逃げて!」
「巻き込まれるから、わたしが……」
琴葉とユズは声を上げるが、夏純はさらに一歩、くだんに近づいた。
「私、信じるよ……。くだんさんが本物の怪だって」
夏純はおびえながらも、くだんを見る。
「予言も、本当の事だよね? 私達を守ろうとしてね……?」
夏純の身体を黒いオーラが包み込む。
「も、森永さん」
光一郎は夏純を助けようとするが、身体が思うように動かない。
そんな光一郎をよそに、夏純はまた一歩、くだんに近づく。
夏純は、くだんの優しさを感じ取った。
そして、助けてくれたお礼を言いたかったのだ。
震えながらも、夏純はくだんをじっと見つめる。
そして、ニッコリと笑った。
「ありがとう。くだんさん。私、くだんさんの予言に感謝してるよ」
「ク……ウ、ウウウ。クウウウウ」
瞬間、どす黒いオーラが煙のように四散した。
くだんの目も、元の目に戻った。
「あ、あああ」
まとわりついていたオーラも消え、光一郎がよろける。
「光一郎」
ユズは慌てて駆け寄り、光一郎を抱きしめた。
「ウウ、クゥウウ」
『僕、何をしてたの?』
くだんは、ようやく我に返ったようだ。
しばらくして。
琴葉達は、空き地の一角に、くだんを連れて来た。
「クゥウゥ、クゥウウ」
くだんは『ごめんなさい。ごめんなさい』と何度も謝っている。
「くだんさん、大丈夫だよ。そんなに謝らなくても」
「あの人が助けてくれたから」
琴葉とユズが優しく声をかける。
「ああ。幸い、怪我人はいなかったからね。
くだんさんが元の世界に帰れば、騒動もなかった事になる。だから安心して」
光一郎も微笑む。
くだんは、そんな三人の優しさを知り、目に涙を浮かべた。
くだんは悪い怪ではない。
琴葉達は一緒にいてそれがよく分かった。
「まあ、やけど、くだんはんはもうちょっとだけ冷静にならんとな」
琴葉の肩の上に乗るたぬ吉がそう言うと、くだんは頷きながらも、声を出した。
「クウウ、ウウゥ、クククゥゥウ」
「えっ?」
くだんの言葉に、琴葉は目を見開いた。
「どうしたんだい?」
「まさか、冷静にならんとって言ったから、くだんはん、怒ったんか?」
「そうじゃないよ」
琴葉は、くだんの言った言葉を光一郎達に教えた。
くだんは、人間の世界に興味があったものの、
自分が暴走しやすい性格であると知っていたので、行くべきではないと思っていたらしい。
「だけどある日、声が聞こえてきたんだって」
―こっちへおいで。
それは、人間の声だった。
男なのか女なのか分からない。
心の中に響く不思議な声。
声がした直後、目の前に光の扉が現れ、ドアが開いたのだという。
「なんだって??」
それを聞き、光一郎は驚く。
「くだんさん、その人間は何者だったんだい??」
光一郎が尋ねたが、くだんは首を横に振った。
「クウゥウ」
「『分からない』」
琴葉は戸惑いながら、言葉を訳した。
「誰かに呼び出されたみたい……」
やがて光一郎はくだんを元の世界に帰す事にした。
光一郎は、右手を強く握り締めた。
「鑰!」
次の瞬間、光一郎の右手の甲が光り輝く。
そして、鍵のような紋章が現れた。
光一郎は、そのまま開けた空間を見つめ、右手を突き出した。
「人は人の世に。怪は怪の世に。安住の地へ、今帰らん!」
―ゴオオオオ……
瞬間、大きな音が響き、地面から光の扉が現れた。
光一郎は光の扉に近づくと、鍵の紋章が浮かび上がった右手で光の扉のノブを掴んだ。
「開!」
ドアがゆっくりと開く。
その向こうに眩い光が広がった。
「さあ、自分の世界に帰るんだ」
光一郎はくだんにそう言う。
くだんは頷くと、扉へと向かい、ドアをくぐる。
光がその全身を包み込んだ。
くだんが光の中に消え、ドアがゆっくりと閉まる。
光の扉はまるで線香花火のように四方に光を散らすと、そのまま消滅した。
無事、くだんを元の世界に帰す事ができた。
しかし、琴葉、光一郎、ユズは浮かない顔をしていた。
「誰が、くだんさんを人間界に呼んだんだ……?」
三人は、言い知れぬ不安感を抱くのだった。