Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
琴葉達はくだんが人間の世界に来た理由を探っていた。
くだんは不思議な声に導かれて人間の世界に来たと語る。
その後、彼らはヤマノケが町に現れた事を知り、戦う事を決意する。
ヤマノケは人間を操り、命を吸い取るという危険な怪である。
一方、学校では先生と生徒達が奇妙な行動を始め、彼らの手が蛇の頭に変わる。
これもヤマノケの仕業と推測され、光一郎達は逃げ出した。
「何がどうなってるんだよ??」
和也は、廊下を走りながら、琴葉達に尋ねる。
「全部ヤマノケのせい。倒さなきゃ」
ユズは苦々しい表情で答えた。
「そう言えば、さっきたぬ吉さんが」
琴葉は、たぬ吉が言った事を思い出した。
ヤマノケは、人間を襲うだけではない。
襲った人間を操って、さらに犠牲者を増そうとする危険な存在。
「じゃあ、夏純ちゃん達は」
「ああ、恐らく大山先生に襲われたんだ」
大山先生は通学していた生徒達に挨拶をしたと言っていた。
皆、あの蛇の頭になった手に噛まれてしまったのだろう。
「そんなの酷い!」
「だから、わたし達が止めなきゃ」
琴葉とユズが声を上げると、目の前の教室から女性の先生が出てきた。
「あなた達、何やってるの?」
「雪村先生!」
彼女は、生徒思いでいつも優しくて頼りになる先生だ。
「先生、逃げて!」
琴葉はこのままでは雪村先生達も危ないと思い、一緒に逃げようとした。
だが、雪村先生が首を傾げた。
「どうして逃げなくちゃいけないの? こんなに元気で楽しいのにい?」
雪村先生はニコニコしている。
その手は、蛇の頭になっていた。
「……っ、離れて!」
ユズは雪村先生の背後に回り込んで後頭部を蹴り、雪村先生を気絶させた。
だが、その後ろでは、生徒達が皆、ニコニコしながら、琴葉達の方を見ていた。
皆、手が蛇の頭になっている。
「お~い、君達、逃げても無駄だぞお~」
大山先生達が廊下に出てきて、大声でそう言う。
「遠野さ~ん、あなた達も元気になりましょう?」
「怖がる事ないぞお~。み~んなも一緒だからなあ」
各教室から、先生や生徒達がニコニコしながら出てくる。
皆、手が蛇の頭になっていて、完全に操られていた。
「な、何なんだよ! うあああ!!」
和也はパニックになり、その場から逃げ出そうとした。
しかし、ユズは光の刃を手刀のように繰り出して和也を気絶させた。
「わたしがみんなを守る。あなた達は逃げて!」
「……分かった。頼むぞ、ユズ」
「和也君、早く逃げよう!」
琴葉と光一郎は気絶した和也を引っ張りながら、誰にもぶつからないように渡り廊下へ走った。
「おやおや~、廊下は走っちゃ駄目だぞお」
「あなたは……ううん、何でもない」
「君も私達と同じように元気になろう~」
「させない!」
校長先生は、ニコニコしながら蛇の頭になった手でユズを掴もうとしたが、
ユズは攻撃をかわし、校長先生の脇腹を蹴って反撃した。
次々に襲いかかる生徒達を前に、ユズは華麗に体術を繰り返して気絶させる。
だが、いくら気絶させても生徒達はユズに襲い掛かり続ける。
「駄目……もう、逃げなきゃ……!」
意を決したユズは、光を放ち、凄まじいスピードで教室から脱出した。
「怪がこんなに凶悪だったなんて」
校舎から出た琴葉は、改めて怪の恐ろしさを知った。
今まで会った怪は、凶暴そうに見えたが悪い怪ではなかった。
しかし、ヤマノケは違う。
人々をあんな恐ろしい姿に変えてしまった。
やがて、琴葉達は学校の敷地から出た。
「ヤマノケを早く探さないと!」
光一郎は、辺りを見回す。
そこへ、一台のパトカーが走ってきて、目の前で停まった。
「君達、そんなところで何をしてるんだ?」
警察官が車内から出てきて、琴葉達に尋ねる。
「あの!」
警察官なら力になってくれるかもしれない。
琴葉は傍に近づこうとしたがたぬ吉が声を上げた。
「琴葉はん、近づいたらあかん!!」
「えっ?」
琴葉は戸惑いながら、警察官を見る。
その手は、先生達と同じ蛇の頭になっていた。
「あちゃ~、気づかれちゃったかあ~」
「あら、おまわりさん、どうしたの?」
近くを歩いていたおばさんが、警察官の傍にやって来た。
「来ちゃ駄目!」
琴葉はおばさんを止めようとするが、その足がすぐに止まる。
おばさんの手も、蛇の頭になっていたのだ。
「まだ元気じゃない人間がいるみたいなんだよお~」
「それは困ったわねえ~」
道路のあちこちから、人々が集まって来る。
皆、手が蛇の頭になっていてニコニコしながら、ゆっくりと迫ってくる。
「こんなのって……」
学校だけではなく、町全体にも被害が広がっている。
琴葉は、あまりの恐怖で全身が震えた。
「琴葉ちゃん……!」
光一郎はそんな琴葉の肩を強く抱きしめた。
「僕が何とかするから! きっと大丈夫だから!」
そう言いながらも、光一郎の身体も震えていた。
「光一郎君」
光一郎の力になりたいが、どうする事もできない。
琴葉達は絶体絶命のピンチに陥った。
その時……。
「「こっち!」」
二人の声がした。
琴葉達は、声の聞こえた方を見る。
少し離れた道路の先に、ユズの他に誰かが立っている。
中学生ぐらいの、真っ白な制服を着た少年だ。
「おお、あいつは!」
「どうしてここに??」
たぬ吉が少年を見て声を上げた。
一方、光一郎は何故か戸惑ったような表情を浮かべた。
「誰なの?」
琴葉が尋ねると光一郎達が答えるよりも早く、少年がまた声を上げた。
「ヤマノケに噛まれた人間は動きが遅くなる。捕まらなければ怖くないはずだ!」
「……おかげで、倒すのが簡単だった……数は多いから逃げ出したけど」
「動きが? そう言われれば」
琴葉は、周りの人達を見た。
確かに、皆、ゾンビのようにフラフラとゆっくりと歩いている。
「さあ、こっちへ!」
「わたしが守るから!」
少年が大きく手招きをし、ユズも手を大きく動かす。
「はよ行くで!」
たぬ吉が、琴葉の肩に飛び乗った。
「くっ」
光一郎は何故か行くのを躊躇った。
「光一郎君?」
「え、あ、ああ」
戸惑う琴葉に光一郎は頷くと、人々を警戒しながら少年のもとへ向かった。
「こんな事になるなんてね」
琴葉達が辿り着くと、少年は周りを見ながら微笑んだ。
「すみません。僕のせいです」
光一郎は悔しそうに頭を下げる。
すると、少年とユズは首を小さく横に振った。
「わたしがいたから何とか。光一郎は悪くない」
「今回は、情報が入るのが遅かったからね」
少年はふと、琴葉を見た。
「君が、光一郎の通役の遠野琴葉さんだね?」
「私の事、知ってるんですか? それに通役の事まで!?」
琴葉は、少年が何者なのか尋ねようとした。
だがそんな琴葉達の下に、一人のサラリーマンが近づいて来た。
「君達は、まだ元気じゃないみたいだねえ~」
「僕達と一緒に、元気になろうよお~」
サラリーマン達はニコニコしながら、蛇の頭になった手を向けた。
「怪帰師はわたしが守る」
「だから、邪魔しないでくれるかな」
瞬間、ユズはサラリーマン達に回し蹴りを放った後、
少年は懐から何かを取り出して素早く動き、サラリーマン達を攻撃した。
―バシッ、バシッ!
鈍く重い音が響く。
「う、がが……」
サラリーマン達は身体を押さえながら、その場に蹲った。
少年は、鉄のような棒を持っている。
それをサッと動かし、大きく開いた。
少年が懐から取り出したのは、鉄の扇だ。
「ユズ、なかなかやるね」
「あ、あの」
突然の出来事に、琴葉は戸惑う。
しかし、扇に描かれている紋章を見て、「あっ」と声を上げた。
そこには光一郎の手に浮かび上がる怪帰師の証と同じ『鍵のような紋章』が描かれていたのだ。
「あなたは一体??」
戸惑いながら尋ねる琴葉に、少年は微笑みながら、ゆっくりと答えた。
「僕の名は、天草玲人。光一郎の兄で、彼と同じ怪帰師だよ。
そして……ユズ、戦闘用アンドロイド3号の元の主人」
「戦闘用アンドロイド3号……えええ??」
ユズは戦闘用の人造人間――アンドロイドだった。
また、よく見ると玲人の方が大人びているが、光一郎と顔がよく似ている。
髪も、同じ銀色だ。
「玲人はん、助けに来てくれたんやな!」
たぬ吉が琴葉の肩の上で飛び跳ねる。
「たぬ吉さん、久しぶりだね。相変わらずヌイグルミ姿が可愛いね」
「玲人はんにそんな事言われると照れるなあ」
たぬ吉は嬉しそうに笑う。
どうやら仲が良いようだ。
「ユズも、よく頑張ったね」
「ありがとう」
ユズは玲人にお礼を言い、玲人は琴葉を見た。
「僕が担当しているのは別の町なんだけどね。父さんから連絡があったんだ。
光一郎を助けに行ってほしいって」
「そ、そうなんですね」
まさか、兄がいたなんて。
(光一郎君、一度もお兄さんの事、話した事なかったよね)
琴葉はそれを不思議に思いながら、ふと、光一郎の方を見た。
光一郎は、何故か苦々しい表情を浮かべている。
「……僕だけでも、ヤマノケをちゃんと元の世界に帰せるのに」
拳を強く握り締めながら、呟くように言う。
「光一郎君……?」
困惑する琴葉をよそにユズは光一郎に声をかけた。
「わたしは戦うために造られた。だから、戦うしかない」
その言葉に、光一郎は何も言えず、眉間に皺を寄せた。
玲人とユズは周りを見た。
「さて、まずはここから脱出しないといけないね」
周りには、ヤマノケに操られている人々がまだ大勢いる。
彼らはニコニコしながら、ゆっくりと琴葉達の下へ近づいて来ていた。
「玲人はん、ユズはん、どないするんや? このままじゃ捕まってしまうで」
たぬ吉は焦るが、玲人とユズは動揺する事なく、一歩前に出た。
「これぐらいの数なら問題ないよ」
「まとめて倒す」
玲人とユズは、琴葉と光一郎の方をチラリと見た。
「君達は、そこでじっとしているんだよ」
「戦闘モード、起動……!」
次の瞬間、玲人とユズは人々の方へと走った。
「危ない!」
琴葉は焦るが、玲人は閉じた鉄の扇を大きく振り上げ、ユズは光を纏った拳を打ち込む。
―バシッ、バシバシバシッ!
扇を振るい、体術を使い次々と人々を倒していく。
「元気になろうよお~」
「危ない!」
警察官が、背後から蛇の頭になった手を伸ばし、玲人に襲いかかる。
ユズはそれに気づくと、素早く蹴りを繰り出してその手を防いだ。
「怪帰師を傷つける者は、許さない」
ユズは光の拳で警察官を躊躇いなく殴り倒し、警察官はその場で気を失う。
「流石戦闘用レプリカントや!」
「それが……本来のわたしだから」
たぬ吉はそれを見て興奮する。
だが、琴葉はその光景に呆然としていた。
「ここまでしなくても……」
玲人とユズの周りには何人もの人々が倒れていた。
苦悶の表情を浮かべていたり、気を失ったりしていた。
彼らは、ヤマノケにただ操られているだけだ。
それなのに玲人とユズは躊躇う事なく攻撃をした。
すると、そんな琴葉にユズと玲人が反応した。
「……戦わなきゃいけない時がある。武器を捨てるのは愚の骨頂」
「ユズの言う通り、時にはこんな風に戦わなきゃいけないんだ。
そして、ヤマノケを元の世界に帰せば、全てはリセットされる。
操られている人間が怪我を負ったとしても、リセットされれば問題ない」
「戦っちゃいけないの? 暴力的で話が通じない相手にも対話しなきゃいけないの?
理解不能。わたしには理解不能」
「それは……」
確かに、玲人とユズの言う通りだが、琴葉は納得できない。
すると、光一郎が口を開いた。
「……僕も、こういうのは納得できません」
「理解不能……理解不能……」
光一郎は苦々しい表情で、玲人を見た。
ユズはなおも、「理解不能」と呟き続けている。
「へえ、お前が僕に意見を言うなんてね」
玲人は光一郎の傍まで歩み寄ると、顔を覗き込むように見つめた。
「実はさっき、学校の様子を見させてもらったんだ。
お前がどんな風に怪帰師の仕事をしているか確認したいと思ってね。
光一郎、お前は今まで、一度たりとも暴力を振るわなかったよね?」
「あ、あれは」
「別に言い訳なんかしなくていいよ。リセットされれば問題ない。
お前は怪帰師として当然の事をしたまでだからね」
玲人とユズはそう言うと、優しく微笑んだ。
「光一郎は、わたしが守る。たとえ、暴力を振るってでも」
「ユズ」
光一郎は何も言えなくなる。
だが、その拳が強く握られたまま震えている事に、琴葉は気づいた。
―ブゥゥン、ブゥゥン
その時、スマホのバイブ音が響いた。
「連絡が来たみたいだね」
玲人は光一郎から離れると、ポケットからスマホを取り出し、誰かと話し始めた。
「……ああ、分かった。ありがとう。君は僕達が行くまで安全な場所に隠れていてよ」
玲人は電話を終えると、琴葉達を見た。
「ヤマノケが隠れている場所が分かったよ。相棒がようやく見つけ出したようだ」
「相棒??」
「僕の通役だよ。凄く役に立つんだ」
どうやら、玲人の通役はヤマノケを探していたようだ。
(こんな状況で、一人で探してたって事かな)
勇気のいる行動だ。
琴葉はただ逃げてばかりいる自分とはまるで違うと思った。
一方、光一郎は何故かさらに苦々しい表情になっていた。
その表情を見て、琴葉は戸惑う。
そんな二人をよそに、玲人とユズは歩き出した。
「さあ、ついて来て。ヤマノケと交渉をしよう!」
「戦って、弱らせてからね」