Kaikaeshi and Automata   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

琴葉と彼女のクラスメイト達は、下校時間になり、友情と恋愛の話題で盛り上がる。
しかし、琴葉は町と怪の問題に悩んでいた。
その後、光一郎とユズが現れ、玲人が怪を捕まえたと告げる。
彼らは玲人と瑚江の家に行き、そこで玲人が捕まえた怪――杉沢村の住人を見る。
玲人は琴葉と光一郎に怪から情報を得て、怪物の住処を見つけるように提案する。
しかし好戦的な玲人の影響で、彼らの間に競争が生じるのだった。


第24話 人と怪の絆

 しばらくして。

 琴葉、光一郎、ユズ、そしてたぬ吉は、高級住宅地の一角にある公園にいた。

 ベンチの上には虫カゴが置かれている。

 カゴの中には胡坐をかき、そっぽを向いた男がいる。

 

「どうして分かってくれないんだ」

「……警戒心が強い」

 光一郎は虫カゴの前でしゃがみ込み、男にずっと話しかけていた。

 先程、玲人達の住む家で、光一郎は男に協力を求めた。

 しかし、男はまともに話をしようとしない。

「お願いだから、光一郎達に協力して」

「『俺は、人間の手が加わった存在の言う事なんか耳を貸さない』」

 ユズが男に話しかける。

 男は、チラリとユズの方を見ると、フンと鼻を鳴らした。

「……まだ警戒してる」

 ユズは諦めたような態度を取る。

 男はそんなユズをまたチラリと見ると、またフンと鼻を鳴らした。

「舐められてる」

 どうやらユズがどれだけ説得しても、男は協力してくれなさそうだ。

「どうすれば、僕達を信用してくれるんだい?」

 光一郎はふと、男に尋ねた。

「君が人間を嫌いなのは分かる。だけど、怪帰師は君達の味方なんだ。

 怪帰師は、怪と戦うために存在しているんじゃない。怪を元の世界に帰すために存在している。

 怪に信用され、頼りにされる事こそが、僕達の役目なんだ」

 光一郎は虫カゴの中の男に向かって強い口調で言った。

 男がそんな光一郎を見て呟く。

「『よく言うよ』だって」

 琴葉が訳す。

「それは」

「どういう意味だい?」

 光一郎が尋ねると、男は虫カゴを指差した。

「コッココ、コココッコココ、ココココ」

「『俺達の味方なら、どうして虫カゴに入れる。まずはここから出せ』って言ってるよ」

 男の意見に戸惑う光一郎に、たぬ吉が声をかけた。

「そんな事したらあかん。こいつ絶対逃げ出すで!」

 たぬ吉の意見に、琴葉も思わず頷く。

 男は虫カゴの中でずっと怒っているのだ。

 外に出しても素直に話を聞いてくれるとは思えなかった。

 しかし、光一郎は虫カゴを持つと、入り口の蓋を開けようとした。

「待って」

「えっ?」

「確かに彼の言う通りだよ」

「琴葉ちゃん、君は自分を閉じ込めた相手の事を信用できるかい?」

「そ、それは」

 琴葉は虫カゴを見た。

 確かにそんなところに入れられたまま、相手を信用して話などできないだろう。

「こんなところに入れてごめんね。今から出すからね」

「駄目!!」

 光一郎はそう言うと、カゴの蓋を開けた。

「ココココッ!」

「あっ」

 瞬間、男が飛び出した。

 琴葉はとっさに手を伸ばすが、男はその手を踏み台にして大きくジャンプした。

「『ざまあみろ』??」

「……っ!」

 驚く琴葉を他所に、男は地面に着地し、そのまま公園の外へ向かう。

 

「ほら、わての言った通りやないか!」

「待つんだ!」

 光一郎とユズは慌てて男を追う。

「光一郎君、ユズちゃん!」

「危ない!」

 琴葉もたぬ吉を連れて、追いかける。

 男はそんな彼らから逃げるように、公園から勢いよく飛び出した。

 刹那、一台の車が走ってきた。

 男は驚き、道路の真ん中で立ち止まってしまう。

 車は、小さな男の存在に全く気づいていない。

 ユズは咄嗟に道路に飛び込んだ。

「きゃああ!」

「ユズはん!」

 琴葉とたぬ吉が思わず声を上げる。

 車はクラクションを鳴らすと、そのまま走り去っていった。

 

「ユズちゃん!」

「……くっ」

 琴葉達が駆け寄ると、ユズは荒く息をしながら自分の手を見た。

 見ると、道路の隅に光一郎とユズがしゃがみ込んでいる。

「だ、大丈夫かい……?」

「ねえ、怪我はない??」

「よかった」

 ゆっくりと手を開くと、そこには小さな男の姿があった。

 光一郎もユズも男も、怪我はしていないようだ。

 琴爽はホッと息を吐いた。

 男は光一郎をまじまじと見ながら、何かを言った。

「彼は何て言ってるんだい?」

「ええっと、『どうして、俺を助けたんだ』って」

 光一郎はそれを聞き、「決まってるだろう」と答えた。

「危険な目に遭いそうになっている君を、放っておくなんてできないよ」

 光一郎は、男に向かって優しい笑みを浮かべた。

 男は明らかに戸惑っているようだ。

 しかし、戸惑いながらも、光一郎と、助けてくれたユズをじっと見つめた。

「コココッ」

「『そんな事を言ってくれた人に、初めて会った』」

「男はそう言うと、ユズの手をゆっくりと撮った。

「『ありがとう』だって」

 男は危険を顧みず助けてくれたユズと、彼女に付き添っている光一郎に感謝しているようだ。

「おお、これは凄いで。杉沢村の住人が人間にお礼を言うなんて」

 たぬ吉が驚く。

 杉沢村の住人が心を開いてくれたのだ。

「僕の名前は天草光一郎。彼女は遠野琴葉とユズ。君の名前を教えてくれるかな?」

 光一郎が優しい表情で言うと、男は、コッココと答えた。

「『ルイルイ』っていう名前みたい」

「ルイルイか。いい名前だね」

 光一郎は道路の隅に移動すると、塀の上にルイルイを乗せ、改めて尋ねた。

「ルイルイ。君達の棲んでいる場所を教えてほしいんだ」

 光一郎はじっとルイルイを見つめる。

 ルイルイは一瞬迷ったものの、光一郎の顔を見返し、小さく頷いた。

 

 その頃、玲人と瑚江は、住宅街にある空き地にいた。

「やっぱり、この辺りに棲み処がありそうだね」

 玲人は、持っているものを見てニヤリと笑う。

 そこには、杉沢村の住人である小さな少年がいた。

 空き地の地面には、菓子パンが置かれている。

 玲人は菓子パンを使って、罠を張っていたのだ。

「最初の男は僕の通う中学校で捕まえた。ここも学校の近くだ。

 こいつらは棲み処からそれほど遠くへは行かないはずだからね」

「コココ! ココココッコ!」

 少年は玲人の手の中で必死に叫ぶ。

「『離せ! よくも騙したな!』って言ってるわ」

 瑚江が訳すと、玲人はニッコリと笑った。

「こんな簡単な罠に引っかかるお前が悪いんだよ。僕は怪帰師だ。

 お前達を元の世界に帰すのが仕事だ」

 刹那、玲人は真剣な表情になって少年を睨んだ。

「さあ、痛い目に遭いたくなかったら、棲み処を言え!」

 瑞人は、少年を掴んだ手に力を入れた。

 少年の悲鳴が響く。

 瑚江は、その光景を沈痛な表情でただ黙って見ていた。

 

「ここに棲んでいる場所があるのね」

 しばらくして。

 琴葉達はルイルイを連れて、住宅地にある雑木林の前にやってきた。

 ルイルイは棲んでいる場所を教えてくれたのだ。

「だけど、中に入って安全なんか?」

 たぬ吉は琴葉の持っている手提げ袋から顔を出して、そう言う。

「いきなり襲われるのは嫌やで」

「……でも、普通にあり得るかも」

 人間嫌いの杉沢村の住人達ならあり得る。

 すると、光一郎の肩の上に乗っていたルイルイがコココココと言った。

「『安心して』だって」

 ルイルイは、仲間に光一郎達の事をちゃんと話すと約束した。

「ココココーコ」

「『話せばみんな分かってくれる』」

 ルイルイは琴葉達に言う。

「うん、そうだね」

 ルイルイも分かってくれたのだ。

 他の住人達も分かってくれるだろう。

「よし、行こう」

 光一郎、琴葉、ユズは、ルイルイと共に雑木林の中に入ろうとした。

 すると突然、声がした。

 

「へえ、やるじゃないか」

「兄さん!」

 玲人は、光一郎の扉の上に乗っているルイルイを見る。

 見ると、少し離れた場所に玲人と瑚江が立っていた。

「虫カゴから出して、手なずけたようだね」

「手なずける? 彼はペットなんかじゃない」

 光一郎は注意するが、玲人はフッと笑うだけだった。

「まあ、どちらにせよ、杉沢村の住人達を元の世界に帰すのは、この僕だけどね」

「……冷たい」

「わっ!」

 玲人は、持っていた何かを光一郎の方に放り投げた。

 光一郎はそれを慌ててキャッチする。

「……酷い!」

 玲人が放り投げたのは、先ほど捕まえた少年の住人にんだった。

 ユズは珍しく、声を荒らげて叫ぶ。

「そいつにこの場所を教えてもらったんだよ」

 玲人はそう言うと、雑木林を覗くように眺めた。

「怪我をしたらどうするんだ!」

 光一郎が怒鳴る。

 だが、玲人はまるで相手にしない。

「そいつらをちゃんと捕まえていてくれよ。

 住人達を帰す時、一緒に光の扉の向こうに放り投げるんだから」

「だからそういうのは――」

「瑚江、行くよ」

 玲人は光一郎とまともに会話をしないまま、雑木林の中に入っていった。

 瑚江は戸惑いながら、光一郎達を見る。

「ごめんね。だけど、玲人さんの力になりたいの」

 瑚江は僅かに頭を下げると、そのまま玲人を追って雑木林の中に消えていった。

 

「瑚江……」

「酷い事をする」

 光一郎は苦々しい表情を浮かべる。

「……光一郎君……」

 琴葉は声をかけたくなったが、言葉が出てこなかった。

「コココーコッ?」

 ルイルイが、少年に『怪我はないか?』と尋ねる。

「コーコ、コッコ」

『棲んでいる場所を言って、ごめんなさい』

 少年は泣きそうな表情でルイルイに謝った。

 

「……兄さんに任せるわけにはいかない」

「わたし達が、何とかする」

 光一郎はルイルイ達を見て、真剣な表情なる。

 玲人に任せると、彼らをさらに苦しめる事になるだろう。

 光一郎も雑木林の中に入ろうとした。

 すると、ルイルイが光一郎の肩の服を掴んだ。

「ココッコーコ、コーココ」

「『闇雲に進んじゃ危ない。罠がいっぱいあるんだ』。えええ、そうなの??」

 雑木林の中には、杉沢村の住人達が仕掛けた罠がいくつもあるのだという。

「そんな」

「……調べる必要があるけど……わたしは、罠を調べるのは苦手」

 光一郎は林の中に入るのを躊躇い、ユズは渋い顔をする。

 そんな光一郎に、ルイルイがさらに話しかけた。

「コココッコ! ココココーコココ!」

「『俺に任せて! 君達を連れていくから!』って言ってるよ」

 ルイルイは光一郎の手の平から飛び降りて地面に着地する。

 琴葉達は、ルイルイ達の案内で雑木林に入る事にした。

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