Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
琴葉と彼女のクラスメイト達は、下校時間になり、友情と恋愛の話題で盛り上がる。
しかし、琴葉は町と怪の問題に悩んでいた。
その後、光一郎とユズが現れ、玲人が怪を捕まえたと告げる。
彼らは玲人と瑚江の家に行き、そこで玲人が捕まえた怪――杉沢村の住人を見る。
玲人は琴葉と光一郎に怪から情報を得て、怪物の住処を見つけるように提案する。
しかし好戦的な玲人の影響で、彼らの間に競争が生じるのだった。
しばらくして。
琴葉、光一郎、ユズ、そしてたぬ吉は、高級住宅地の一角にある公園にいた。
ベンチの上には虫カゴが置かれている。
カゴの中には胡坐をかき、そっぽを向いた男がいる。
「どうして分かってくれないんだ」
「……警戒心が強い」
光一郎は虫カゴの前でしゃがみ込み、男にずっと話しかけていた。
先程、玲人達の住む家で、光一郎は男に協力を求めた。
しかし、男はまともに話をしようとしない。
「お願いだから、光一郎達に協力して」
「『俺は、人間の手が加わった存在の言う事なんか耳を貸さない』」
ユズが男に話しかける。
男は、チラリとユズの方を見ると、フンと鼻を鳴らした。
「……まだ警戒してる」
ユズは諦めたような態度を取る。
男はそんなユズをまたチラリと見ると、またフンと鼻を鳴らした。
「舐められてる」
どうやらユズがどれだけ説得しても、男は協力してくれなさそうだ。
「どうすれば、僕達を信用してくれるんだい?」
光一郎はふと、男に尋ねた。
「君が人間を嫌いなのは分かる。だけど、怪帰師は君達の味方なんだ。
怪帰師は、怪と戦うために存在しているんじゃない。怪を元の世界に帰すために存在している。
怪に信用され、頼りにされる事こそが、僕達の役目なんだ」
光一郎は虫カゴの中の男に向かって強い口調で言った。
男がそんな光一郎を見て呟く。
「『よく言うよ』だって」
琴葉が訳す。
「それは」
「どういう意味だい?」
光一郎が尋ねると、男は虫カゴを指差した。
「コッココ、コココッコココ、ココココ」
「『俺達の味方なら、どうして虫カゴに入れる。まずはここから出せ』って言ってるよ」
男の意見に戸惑う光一郎に、たぬ吉が声をかけた。
「そんな事したらあかん。こいつ絶対逃げ出すで!」
たぬ吉の意見に、琴葉も思わず頷く。
男は虫カゴの中でずっと怒っているのだ。
外に出しても素直に話を聞いてくれるとは思えなかった。
しかし、光一郎は虫カゴを持つと、入り口の蓋を開けようとした。
「待って」
「えっ?」
「確かに彼の言う通りだよ」
「琴葉ちゃん、君は自分を閉じ込めた相手の事を信用できるかい?」
「そ、それは」
琴葉は虫カゴを見た。
確かにそんなところに入れられたまま、相手を信用して話などできないだろう。
「こんなところに入れてごめんね。今から出すからね」
「駄目!!」
光一郎はそう言うと、カゴの蓋を開けた。
「ココココッ!」
「あっ」
瞬間、男が飛び出した。
琴葉はとっさに手を伸ばすが、男はその手を踏み台にして大きくジャンプした。
「『ざまあみろ』??」
「……っ!」
驚く琴葉を他所に、男は地面に着地し、そのまま公園の外へ向かう。
「ほら、わての言った通りやないか!」
「待つんだ!」
光一郎とユズは慌てて男を追う。
「光一郎君、ユズちゃん!」
「危ない!」
琴葉もたぬ吉を連れて、追いかける。
男はそんな彼らから逃げるように、公園から勢いよく飛び出した。
刹那、一台の車が走ってきた。
男は驚き、道路の真ん中で立ち止まってしまう。
車は、小さな男の存在に全く気づいていない。
ユズは咄嗟に道路に飛び込んだ。
「きゃああ!」
「ユズはん!」
琴葉とたぬ吉が思わず声を上げる。
車はクラクションを鳴らすと、そのまま走り去っていった。
「ユズちゃん!」
「……くっ」
琴葉達が駆け寄ると、ユズは荒く息をしながら自分の手を見た。
見ると、道路の隅に光一郎とユズがしゃがみ込んでいる。
「だ、大丈夫かい……?」
「ねえ、怪我はない??」
「よかった」
ゆっくりと手を開くと、そこには小さな男の姿があった。
光一郎もユズも男も、怪我はしていないようだ。
琴爽はホッと息を吐いた。
男は光一郎をまじまじと見ながら、何かを言った。
「彼は何て言ってるんだい?」
「ええっと、『どうして、俺を助けたんだ』って」
光一郎はそれを聞き、「決まってるだろう」と答えた。
「危険な目に遭いそうになっている君を、放っておくなんてできないよ」
光一郎は、男に向かって優しい笑みを浮かべた。
男は明らかに戸惑っているようだ。
しかし、戸惑いながらも、光一郎と、助けてくれたユズをじっと見つめた。
「コココッ」
「『そんな事を言ってくれた人に、初めて会った』」
「男はそう言うと、ユズの手をゆっくりと撮った。
「『ありがとう』だって」
男は危険を顧みず助けてくれたユズと、彼女に付き添っている光一郎に感謝しているようだ。
「おお、これは凄いで。杉沢村の住人が人間にお礼を言うなんて」
たぬ吉が驚く。
杉沢村の住人が心を開いてくれたのだ。
「僕の名前は天草光一郎。彼女は遠野琴葉とユズ。君の名前を教えてくれるかな?」
光一郎が優しい表情で言うと、男は、コッココと答えた。
「『ルイルイ』っていう名前みたい」
「ルイルイか。いい名前だね」
光一郎は道路の隅に移動すると、塀の上にルイルイを乗せ、改めて尋ねた。
「ルイルイ。君達の棲んでいる場所を教えてほしいんだ」
光一郎はじっとルイルイを見つめる。
ルイルイは一瞬迷ったものの、光一郎の顔を見返し、小さく頷いた。
その頃、玲人と瑚江は、住宅街にある空き地にいた。
「やっぱり、この辺りに棲み処がありそうだね」
玲人は、持っているものを見てニヤリと笑う。
そこには、杉沢村の住人である小さな少年がいた。
空き地の地面には、菓子パンが置かれている。
玲人は菓子パンを使って、罠を張っていたのだ。
「最初の男は僕の通う中学校で捕まえた。ここも学校の近くだ。
こいつらは棲み処からそれほど遠くへは行かないはずだからね」
「コココ! ココココッコ!」
少年は玲人の手の中で必死に叫ぶ。
「『離せ! よくも騙したな!』って言ってるわ」
瑚江が訳すと、玲人はニッコリと笑った。
「こんな簡単な罠に引っかかるお前が悪いんだよ。僕は怪帰師だ。
お前達を元の世界に帰すのが仕事だ」
刹那、玲人は真剣な表情になって少年を睨んだ。
「さあ、痛い目に遭いたくなかったら、棲み処を言え!」
瑞人は、少年を掴んだ手に力を入れた。
少年の悲鳴が響く。
瑚江は、その光景を沈痛な表情でただ黙って見ていた。
「ここに棲んでいる場所があるのね」
しばらくして。
琴葉達はルイルイを連れて、住宅地にある雑木林の前にやってきた。
ルイルイは棲んでいる場所を教えてくれたのだ。
「だけど、中に入って安全なんか?」
たぬ吉は琴葉の持っている手提げ袋から顔を出して、そう言う。
「いきなり襲われるのは嫌やで」
「……でも、普通にあり得るかも」
人間嫌いの杉沢村の住人達ならあり得る。
すると、光一郎の肩の上に乗っていたルイルイがコココココと言った。
「『安心して』だって」
ルイルイは、仲間に光一郎達の事をちゃんと話すと約束した。
「ココココーコ」
「『話せばみんな分かってくれる』」
ルイルイは琴葉達に言う。
「うん、そうだね」
ルイルイも分かってくれたのだ。
他の住人達も分かってくれるだろう。
「よし、行こう」
光一郎、琴葉、ユズは、ルイルイと共に雑木林の中に入ろうとした。
すると突然、声がした。
「へえ、やるじゃないか」
「兄さん!」
玲人は、光一郎の扉の上に乗っているルイルイを見る。
見ると、少し離れた場所に玲人と瑚江が立っていた。
「虫カゴから出して、手なずけたようだね」
「手なずける? 彼はペットなんかじゃない」
光一郎は注意するが、玲人はフッと笑うだけだった。
「まあ、どちらにせよ、杉沢村の住人達を元の世界に帰すのは、この僕だけどね」
「……冷たい」
「わっ!」
玲人は、持っていた何かを光一郎の方に放り投げた。
光一郎はそれを慌ててキャッチする。
「……酷い!」
玲人が放り投げたのは、先ほど捕まえた少年の住人にんだった。
ユズは珍しく、声を荒らげて叫ぶ。
「そいつにこの場所を教えてもらったんだよ」
玲人はそう言うと、雑木林を覗くように眺めた。
「怪我をしたらどうするんだ!」
光一郎が怒鳴る。
だが、玲人はまるで相手にしない。
「そいつらをちゃんと捕まえていてくれよ。
住人達を帰す時、一緒に光の扉の向こうに放り投げるんだから」
「だからそういうのは――」
「瑚江、行くよ」
玲人は光一郎とまともに会話をしないまま、雑木林の中に入っていった。
瑚江は戸惑いながら、光一郎達を見る。
「ごめんね。だけど、玲人さんの力になりたいの」
瑚江は僅かに頭を下げると、そのまま玲人を追って雑木林の中に消えていった。
「瑚江……」
「酷い事をする」
光一郎は苦々しい表情を浮かべる。
「……光一郎君……」
琴葉は声をかけたくなったが、言葉が出てこなかった。
「コココーコッ?」
ルイルイが、少年に『怪我はないか?』と尋ねる。
「コーコ、コッコ」
『棲んでいる場所を言って、ごめんなさい』
少年は泣きそうな表情でルイルイに謝った。
「……兄さんに任せるわけにはいかない」
「わたし達が、何とかする」
光一郎はルイルイ達を見て、真剣な表情なる。
玲人に任せると、彼らをさらに苦しめる事になるだろう。
光一郎も雑木林の中に入ろうとした。
すると、ルイルイが光一郎の肩の服を掴んだ。
「ココッコーコ、コーココ」
「『闇雲に進んじゃ危ない。罠がいっぱいあるんだ』。えええ、そうなの??」
雑木林の中には、杉沢村の住人達が仕掛けた罠がいくつもあるのだという。
「そんな」
「……調べる必要があるけど……わたしは、罠を調べるのは苦手」
光一郎は林の中に入るのを躊躇い、ユズは渋い顔をする。
そんな光一郎に、ルイルイがさらに話しかけた。
「コココッコ! ココココーコココ!」
「『俺に任せて! 君達を連れていくから!』って言ってるよ」
ルイルイは光一郎の手の平から飛び降りて地面に着地する。
琴葉達は、ルイルイ達の案内で雑木林に入る事にした。