Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
光一郎は杉沢村の住人に騙され、彼をうっかり逃がしてしまう。
しかし、車に轢かれそうになった杉沢村の住人を光一郎が助けた事で、
杉沢村の住人はやっと光一郎に心を開く。
ルイルイと名乗った住人の案内のもと、琴葉達は杉沢村に向かった。
一方、玲人は容赦なく、杉沢村の住人を傷つけるのだった。
その頃、玲人と瑚江は、雑木林の中を進んでいた。
「前方の右側に気をつけるんだ。罠があるよ」
玲人は、軽々とジャンプし、草陰に張られていた縄を飛び越えた。
後ろに続く瑚江も、同じように縄を飛び越える。
「まったく、人間がこんな罠に引っかかるとでも?」
玲人はフッと笑った。
彼は杉沢村の住人達が仕掛けた罠を次々と見つけ、回避し続けていたのだ。
「さあ、どこにいるんだ? 隠れても無駄だよ」
玲人は辺りを見回す。
既に林の奥の方までやってきていた。
瑚江も、周りを確認する。
すると、茂みの中に何かが見えた。
「あれは……」
二人の人間が倒れていた。
警察の制服を着た男性のようだ。
二人は僅かに身体を動かしていた。
「た、助けて……」
「小さな人間が、襲ってきて……」
三人の警察官は弱々しい声を漏らしながら、瑚江を見た。
「大丈夫ですか!?」
「瑚江!」
瑚江は慌てて二人の方へと走った。
それを見て玲人が声を上げる。
瞬間、男性の傍の木の上から、大きな網が落ちてきた。
「きゃあ!」
「くっ!」
玲人は素早く駆け込み、瑚江を抱き締める。
―バサッ!
網が地面に落ちた。
だが、誰もその網には捕まっていない。
「れ、玲人さん」
網の横に瑚江と玲人がいた。
寸前のところで玲人が瑚江を助け、網をよけることができたのだ。
「彼らは囮だ!」
玲人は瑚江に言う。
警察官を助けようとしたら、上から網が落ちてくる罠だったのだ。
「そんな……」
瑚江は自分が勝手に動いてしまったと反省する。
そんな中、玲人は何故か苦々しい表情を浮かべていた。
「玲人さん、どうしたの?」
「まさか、もう一つ罠があったとはね」
「えっ?」
見ると、玲人の足は輪っかになった縄に捕らえられていた。
「玲人さん!」
瑚江は縄を外そうとする。
その時……。
―ピーピー、トントントン
茂みの中から、笛と太鼓の音がした。
「ひいい!」
その音を聞き、警察官達が悲鳴を上げる。
―ピーピー、トントントン、ピーピー、トントントン
音が徐々に大きくなっていく。
「くうう」
玲人は茂みの中を睨みつける。
「早く取らないと!」
瑚江は必死に縄を外そうとする。
―シュ!
そんな瑚江の前に何かが飛んできた。
傍の木にそれが刺さる。
枝で作った小さなヤリだ。
次の瞬間、林の中から無数のヤリが飛んできた。
―シュ! シュシュシュシュシュシュシュ!
「きゃあ!」
「くっ!」
小さなヤリは、玲人と瑚江を取り囲むかのように地面に突き刺さる。
「ココーココココ!」
うなり声のような声が響いた。
「『人間は嫌いだ!』って言ってるわ」
瑚江の言葉を聞き、玲人は茂みの方を見る。
茂みの中から、小さな人影が現れる。
「ココーココココ! ココーココココー!」
『人間は嫌いだ! 人間が嫌いだ!』
怒りに満ちた杉沢村の住人達だ。
彼らは皆、ヤリを持っていた。
「僕は怪帰師だ。話を聞け!」
玲人は怒鳴るように言うが、住人達は全く聞く耳を持たない。
―ピーピー、トントントン、ピーピー、トントントン
笛と太鼓を持った人々が、ヤリを持った人々を煽るように音を鳴らす。
「ココーココココ!!」
村長らしき老人の住人がヤリを天高くに掲げた。
「ココーココココ!!」
他の住人達も、ヤリを上げる。
杉沢村の住人達が、一斉に玲人と瑚江に襲いかかろうとした。
「……わたしが守る!」
突然、声がすると何者かが突っ込み、回し蹴りで杉沢村の住人達を全員、気絶させた。
見ると、ユズ、光一郎、琴葉が立っている。
「君達の願いは聞いた。その願い、僕が叶えるから!」
「願いだって?」
玲人は怪訝な表情で光一郎に聞き返した。
琴葉はそんな玲人に話しかける。
「彼らから、さっき帰る条件を聞いたんです」
琴葉の傍に立っているルイルイと少年を見た。
「ココッコココッーココココッコココ」
それを聞き、瑚江は「えっ」と言葉を漏らす。
「なんて言ったんだ?」
玲人が尋ねると、瑚江がゆっくりと答えた。
「『俺達は帰りたいだけだ』『帰れるなら、願いや条件はない』って」
「何だって??」
「呆気ない」
光一郎は玲人をじっと見つめた。
「兄さんは、元の世界に無理矢理帰そうと思っていた。だけど、それじゃあ駄目なんだ。
そんな事じゃ、いつか納得しない怪が出てくる。
僕は怪帰師として、これからも怪と話し合っていきたい」
「もちろん、分かり合えないなら戦う」
光一郎は、長老を起こした後、彼の前に跪いた。
「僕があなた達を安全に元の世界に帰します」
長老は戸惑う。
そんな長老の傍に、ルイルイが歩み寄った。
「ココッコッコ、ココココッココ」
『俺は人間が嫌いです。だけど彼は信じられる人間です』
それを聞き、長老は光一郎を見つめる。
やがて小さく頷くと、ヤリを降ろした。
「光一郎君!」
光一郎の怪帰師としての思いが、杉沢村の住人達に届いたのだ。
琴葉はその光景を見て笑顔になり、ユズは頷いた。
光一郎は杉沢村の住人達を元の世界に帰す事にした。
光一郎は、右手を強く握り締めた。
「鑰!」
次の瞬間、光一郎の右手の甲が光り輝く。
そして、鍵のような紋章が現れた。
光一郎は、そのまま林の中にある少し開けた空間を見つめ、左手を突き出した。
「人は人の世に。怪は怪の世に。安住の地へ、今帰らん!」
―ゴオオオオ……
瞬間、大きな音が響き、地面から光の扉が現れた。
光一郎は光の扉に近づくと、鍵の紋章が浮かび上がった右手で光の扉のノブを掴んだ。
「開!」
ドアがゆっくりと開く。
その向こうに眩い光が広がった。
「さあ、自分の世界に帰るんだ」
光一郎は杉沢村の住人達にそう言う。
住人達は頷くと、ドアを潜る。
光がその全身を包み込む。
ルイルイもペコリと光一郎に頭を下げ、光に包まれた。
住人達が光の中に消え、ドアがゆっくりと閉まる。
光の扉はまるで線香花火のように四方に光を散らすと、そのまま消滅した。
「どうだった?」
「無事、杉沢村の住人達を元の世界に帰す事ができたね」
琴葉はホッとする。
「だけど、やっぱり彼らもまた、呼ばれたみたいだね」
ルイルイが言うには、
人間嫌いの杉沢村の住人達は自分達の世界にある人穴を決して利用しようとしなかったという。
人穴は人間の世界と繋がっていて、人間や人間の世界に来た他の種族の怪と交流できる。
だが、住人達は人間はもちろん、他の種族の怪とも交流する気はなかった。
しかしある日、「こっちへおいで」という声が心の中に聞こえ、光の扉が現れたのだという。
住人達は警戒したが、子供の一人が入ってしまい、
引き戻そうとして全員で扉を潜ってしまったらしい。
結果、元の世界に戻る事ができず、雑木林の中で暮らしていたというのだ。
「彼らは人間を嫌っていた。だから襲う」
呼び寄せた人物はそれが狙いだったのだろう。
琴葉、光一郎、ユズは、険しい表情になった。
そんな二人のもとに、縄をほどいた玲人と瑚江がやってきた。
「助けてくれなんて言ってなかったんだけどね」
玲人は光一郎にそう言う。
「お前達がいなくても、僕は何ら困っていなかったよ」
「だ、だけど」
「それに住人達をすぐに帰しちゃうなんてね。
あいつらを捕まえて強く聞けば謎の人物について他に知っている事を話したかもしれないのに」
「捕まえてって」
「何だい、文句でもあるのかい?」
「それは」
玲人に睨まれ、光一郎は何も言えなくなる。
だがその時、ユズと琴葉が口を開いた。
「玲人、これ以上光一郎を傷つけるな」
「そうだよ。光一郎君のやった事は間違ってない! 怪帰師として立派に仕事をしました!」
「琴葉ちゃん……それに、ユズも……」
ユズと琴葉は玲人を睨みつける。
「フッ」
玲人は笑うと、琴葉達に背を向けた。
「好きにするがいいさ。僕は決して怪を許さないから」
そう言うと、玲人はその場から去った。
「何よ、あのままだったらヤリで刺されちゃってた癖に。
ユズちゃんが蹴り飛ばしたから防げたけど」
琴葉は、頬を膨らませる。
「――ありがとう」
ふと、光一郎が言った。
「さっきの言葉、凄く嬉しかったよ」
光一郎は優しい笑みを琴葉に見せた。
「光一郎君……」
琴葉はその笑みに見とれつつも、嬉しくなった。
そんな中、瑚江がチラリと琴葉達を見た。
「玲人さんが、あんな風に怪を憎むようになったのには、理由があるの」
「えっ?」
「瑚江、どういう事だい?」
「……何?」
「ユズ、あなたにも関係があるから、ちゃんと聞いて」
どうやら光一郎も初めて聞いたらしい。
瑚江は神妙な表情で三人を見つめ、さらにユズを鋭い目で見た。
「一体、どんな理由が……?」
琴葉は、呆然となるのだった。