Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
玲人と瑚江は人間嫌いの杉沢村の住人達に襲われるが、光一郎とユズの助けで難を逃れる。
光一郎は杉沢村の住人達の願いを聞き、元の世界に帰す事に成功する。
だが玲人は光一郎のやり方に反発し、去っていくのだった。
「一体どんな理由なんだろう?」
学校の昼休み。
琴葉は光一郎とユズと共に、校舎の屋上にいた。
これから、瑚江が玲人について話をしてくれる事になっている。
「だけど、玲人はんが怪を憎むようになった理由があったなんてなあ」
琴葉の服のポケットから、ヌイグルミのたぬ吉が顔を出して言う。
「たぬ吉さんも知らないんだよね?」
「ああ、知らへん。確かに言われてみれば、玲人はん、
怪帰師になった当初は、別に怪を憎んでいたわけやなかったからな」
「そうだったんだ」
「『人と怪の関係を良くしたい』って玲人はん、よく言うてたもんなあ」
「それがどうしてあんな風に?」
琴葉は、ますますその理由を知りたくなった。
すると、今まで黙っていた光一郎が口を開いた。
「もしかしたら、彼女が関係あるのかも」
「それって瑚江さん?」
琴葉が尋ねると、光一郎は首を小さく横に振った。
「彼女というのは、ユズのオリジナル……『心音さん』の事だよ」
「心音さん?」
「わたしのオリジナル?」
琴葉とユズが首を傾げると、たぬ吉が答えた。
「玲人はんの先代の通役で、ユズのモデルや」
「えっ、瑚江さんの前にコンビを組んでた人がいたの??」
琴葉は、そんな人物がいたなんて初めて知った。
たぬ吉は琴葉に彼女について話した。
「高科心音はんっていう、玲人はんと同じ年の女の子や。
玲人はんは最初、彼女とコンビを組んで、様々な怪と交渉をしていたんや」
玲人は怪帰師になった最初の年に、五十体もの怪を元の世界に帰していた。
その全てを、心音が通役したらしい。
「玲人はんが『鉄の意志を持つ怪帰師』って呼ばれているのはこの前、話したやろ。
心音さんは、『癒しの優しさを持つ通役』って呼ばれてたんや」
心音は、どんな怪にも優しく接したのだという。
彼女の優しさは凶暴な怪の心をも開かせ、
怪達は人々を襲うのをやめて玲人と交渉するようになったらしい。
「だけど半年前ぐらいに、心音さんが急に通役を引退したんだよ」
光一郎が琴葉に言った。
「どうして引退したの?」
「分からない。兄さんも父さんも詳しく教えてくれないんだ」
「わいは、心音はんの通役の力がなくなってもうたからって聞いたけど」
たぬ吉の言葉に、光一郎は首を小さく横に振った。
「それは間違った噂だと思うよ。
怪帰師の力や通役の力は、一度目覚めたらなくなるものじゃないからね」
しかし、ある日を境に心音は引退してしまい、遠くへ引っ越してしまった。
「どこに引っ越したのかも兄さん達は教えてくれなかったよ。
ある日突然いなくなってしまったんだ」
「そうだったんだね」
「……」
心音が引退した後、瑚江が新しい通役になったのだという。
ユズは感情が薄いアンドロイドでありながら、何故かイライラしていた。
「その頃からだと思う。兄さんが怪を酷く憎むようになったのは」
光一郎も玲人が怪を憎むようになって不思議に思っているらしい。
「てっきり、凶暴な怪と何度も交渉する内に、怪が嫌いになったのかと思っていたけど」
どうやらそうではないのかもしれない。
「その理由を今からちゃんと話すわね」
その時、瑚江が屋上にやってきた。
「瑚江、ほんとに話していいのかい?」
バレたら瑚江が玲人に怒られるかもしれない。
光一郎はそう思って言った。
「いいの。これ以上、玲人さんを誤解してほしくないから」
「誤解?」
「玲人さんが怪を憎むようになったのは、全部私のせいなの」
「マジ?」
驚く琴葉達を、瑚江はじっと見つめた。
「全ては心音さんが通役を引退した事が理由なの。その理由を作ったのが、私……」
瑚江は神妙な表情で、その時の事を話し始めた。
瑚江の家系は、家族や親戚の多くも通役の力を持っていた。
彼女にもその力があり、十歳になる頃には怪の言葉が分かるようになっていた。
十二歳の誕生日の日に怪帰師の力に目覚めるであろう光一郎の相棒として活躍する事を、
周囲に期待されていたらしい。
「私は、自分が通役である事に誇りを持っていた。
そして、光一郎のために力になりたいと思うようになっていたの」
小学五年生も終わろうとしていたある日。
瑚江は家の近所で怪が現れた事を知った。
今まで、たぬ吉のような人間と友好的な怪としか喋った事がなかった瑚江は、
人間を嫌う怪と会話をする雰囲気を知りたくなった。
そこで、一人で怪に会いに行った。
「だけど、それが大きな間違いだったの」
その怪は凶暴で、人間を襲う事を楽しみにしていた。
瑚江は何とか会話をしようとしたが、全く話を聞いてくれない。
そんな瑚江のもとに、心音がやってきたのだ。
「玲人さんと一緒に怪を捜していたらしくて」
捜している最中、玲人とはぐれてしまったらしく、心音だけが瑚江を見つけたのだ。
「心音さんは怪と話をしようとしたの。その間に、玲人さんが来るはずだから」
だが、怪はまともに会話をしようとせず、心音を無視して瑚江に再び襲いかかろうとしたのだ。
その時、心音が怪の前に立った。
「私を守ろうとして。それで心音さんは……」
心音は、怪に襲われてしまったのだという。
玲人が現場に駆け付けた時、怪は既に逃亡していた。
心音は大怪我を負い、意識不明の重体になっていたらしい。
「そんな事があったんだ……」
それを聞いて光一郎は戸惑う。
心音は現在も意識が戻らないまま、入院しているらしい。
「それから、玲人さんは心音さんによく似たアンドロイドをお父様に作らせた。
でも、アンドロイドは冷たくて、心音さんの代わりにはなれなかった。
3番目に作ったアンドロイドは心音さんの器としては良かったけど、
ある時、自我が目覚めて、失敗作として捨てた」
「……わたしだ……」
「ようやく8番目に心音さんと一番良く似たアンドロイドを作ったけど、
心音さんの心を移す方法が分からないまま、時間だけが過ぎていった。
そして、玲人さんは怪を憎むようになった。
心音さんを傷つけ、失敗作のアンドロイドを作らざるを得なくした怪を」
瑚江は悲しそうな表情で告げ、ユズは捨てられた事を憎む。
大切な相棒を傷つけられ、アンドロイドも作らされたのだ。
憎むようになって当然かもしれない。
「私はそんな玲人さんの力に、少しでも力になりたいと思ったの」
「力に? もしかしてそれって」
琴葉は瑚江の話を聞き、それがどういう意味か気づいた。
「瑚江さんが玲人さんの通役になったのって」
「そう。それが玲人さんへの、ううん、心音さんへの償いだと思ったの」
「わたしが心音の代わりにならなかったから、あなたが代わりになった」
「僕にそれを言ってくれれば……」
光一郎はそう言いながらも、すぐに小さく首を横に振った。
「いや、言ったところで、僕が何かできたわけじゃない。
怪とそんな事があったと分かったら、怪帰師になるのすら怖がっていたかもしれない」
「光一郎のお父様も同じ事を言っていたわ」
そのため、父親や玲人は、光一郎に何も言わなかったそうだ。
結果、光一郎は相棒になるはずだった瑚江を失い、
ユズと二人で怪帰師の仕事を始める事になってしまった。
「けど、琴葉さんがいてよかった」
瑚江はふと、琴葉を見た。
「あなたが、私と同じ通役の力を持っていたからこそ、
光一郎は怪帰師としてちゃんと仕事ができているのよ」
「それは……」
正直、そう言われて嬉しい。
だが、今は素直に喜べない。
(玲人さんと心音さんと、捨てられたユズちゃんの事を考えると)
琴葉は、光一郎とユズを見つめる。
光一郎とユズは神妙な顔をしていた。
「兄さんが怪を憎むのは仕方がない事かもしれない。だけどこのままじゃ……」
「わたしを捨てた玲人、許さない」
光一郎は真相を知り、ますます悩みを深くしたようだ。
ユズはというと、自分を捨てた玲人を憎んでいるようだ。
―ブゥウウ、ブゥウウ
突然、光一郎のポケットの中でスマホが震えた。
光一郎はスマホを手に取ると、画面を見る。
「父さんからだ。……もしもし」
電話に出た光一郎は、すぐに険しい表情になった。
一方、瑚江もポケットからスマホを取り出した。
「これは……」
メッセージが届いているようだ。
「瑚江、どうした?」
ユズが尋ねると、電話を終えた光一郎が答えた。
「この町に、怪が現れたらしい」
光一郎の言葉に、瑚江も頷く。
「今、玲人さんからもメッセージが届いたわ。『ひきこさん』がいるらしいって」
「ひきこさん?」
「凶暴な怪よ。興味を持った人間を捕まえて、死ぬまでずっと引きずり続けるの」
「な、何それ……」
かなり危険な怪だ。
「もしかして、また誰かがこの町に呼び寄せたんじゃ?」
琴葉が言うと、瑚江とたぬ吉は小さく頷いた。
ユズと琴葉は一刻も早く何とかしなければと思い、光一郎に声をかけようとした。
しかし何故か、光一郎は眉間に皺を寄せ、先程よりさらに悩んでいるようだった。
「光一郎?」
「あ、ああ」
光一郎は、顔をしかめたまま琴葉達を見る。
「父さんが言うには、ひきこさんは既にある人間の男性と仲良くなっているらしい。
その男性というのが……大山先生なんだ」
「えええ??」
「……?」
大山先生、それは、琴葉達の担任の先生だ。