Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
公佳は中学校で放課後、玲人にラブレターを渡すが、彼は既に大切な人がいると言って断る。
その後、町にケルベロスという危険な怪物が現れ、公佳の友人達が襲われる。
玲人は怪帰師としてケルベロスを元の世界に戻す決意をする。
しかし、ケルベロスは非常に強力で、彼らはどのように対処すべきかを模索するのだった。
「まったく、次から次に」
町の大通り。
玲人は瑚江と共に、ケルベロスを捜していた。
「ここにももういないみたいね」
先ほど、大通りでサラリーマンの男性が二人、
何者かに襲われたという話を聞き、急いでやってきた。
しかしケルベロスは既に逃げた後で怪我をした人達とそれを助ける救急隊員がいるだけだった。
サラリーマン達は足や手に怪我を負って苦しそうにしていたが、
ケルベロスは彼らにとどめを刺さず、その場から姿を消したのだ。
「もしかして、ケルベロスは自分の力をみんなに見せつけようとしているのかも」
瑚江はそう言うが、玲人は「そうじゃない」と答えた。
「奴は恐怖に怯える人間達を見たいんだよ」
正体不明の怪物によって、人々が襲われていく。
それを知った人達は訳も分からず怯えるようになるだろう。
「父さんが昔言っていたよ。人を襲う怪の中には、わざと人間に恐怖を感じさせる怪がいるって」
ケルベロスはまさにそんな怪なのだろう。
「今はまだ、道で数人を襲っているだけだ。だけどそれだけじゃ満足できなくなるだろう」
もっと大勢の人々を襲い、自分の存在をアピールする。
玲人はケルベロスの行動がどんどんエスカレートしていくのではと心配していた。
「だけど、この僕がすぐに元の世界に強制的に帰してやるよ」
玲人は手元の大きなバッグを見た。
一方、瑚江は周りを見て、ハッとした。
「もしかして……」
瑚江はスマホを取り出すと、地図を表示する。
「瑚江、どうしたんだい?」
「ケルベロスは昨日の夕方、玲人さんの同級生をこの辺りで襲ったでしょ」
そう言って、瑚江は地図にチェックを入れる。
「その後、分かってるだけでも四件、人間が襲われたわ」
それは、夜中に襲われたトラックのドライバーと、
午前中に襲われた和也、由香里達、そして先ほど襲われたサラリーマン達である。
瑚江は彼らが襲われた場所もチェックしていく。
「ほら、見て」
玲人は既に言われ、地図を見る。
「これは……」
チェックしたポイントは、少しずつ町の郊外へと向かっていた。
「このまま進んでいったら」
玲人は地図の先を見る。
そこには、青空広場があった。
「今日は確か……」
玲人は呟きながら、「あ」と言葉を漏らした。
「今日は青空広場でイベントが行われている!」
昨日、クラスでその事が話題になっていた。
色々な国の食べ物が集まるイベントで、当然、大勢の人達も集まるだろう。
イベントで人々を襲えばパニックになって恐怖は一気に広まるだろう。
「まさか、ケルベロスはそのイベントを狙おうとしているのか!?」
「きっとそうよ!」
「絶対に捕まえて、元の世界に帰してやる!」
玲人と瑚江は青空広場へと急いだ。
「ケルベロスはどこにいるの?」
琴葉は光一郎と共に、町へ出て行方を捜していた。
だが、全く手がかりがない。
「ケルベロスの奴、人を襲い疲れてどこかで休んでるのかもしれへんなあ」
琴葉の服のポケットの中で、たぬ吉はそう推測する。
しかし、光一郎は大きく首を横に振った。
「それはあり得ない。相手はあのケルベロスだから」
ケルベロスは人間を襲う事を楽しみにしている。
人間の世界に来た今、休憩など取っている暇はないはずだ。
「今回も、誰かが人間の世界に呼んだのかな……」
ふと、琴葉が呟く。
「恐らくそうだろうね。
ケルベロスの棲む世界にも人穴はあるけど、
この数十年ケルベロスが現れたという報告はなかったから」
「早く見つけないと」
琴葉は焦りながら周りを見た。
「琴葉ちゃん!」
前方から、夏純が走ってきた。
「夏純ちゃん!」
後ろには、夏純の父親と母親もいる。
「琴葉ちゃん、朝から光一郎君とデートなんて、やるねえ」
「え、いや、違うってば!」
夏純は楽しげに笑う。
どうやら和也や由香里が怪我をした事はまだ知らないようだ。
「夏純ちゃん、どこかにお出かけするの?」
「うん、今から青空広場に行くんだ」
「それって確か」
琴葉は、母親がそこでイベントが行われると言っていたのを思い出した。
その事を光一郎に話す。
「イベント?? ……まさか!」
光一郎は思わず大きな声を出した。
「人がたくさん集まるイベントは危険だ!」
光一郎は、ケルベロスが狙う可能性があると気づいたのだ。
「そっか、そうだよね!」
琴葉もその危うさを理解する。
一気に大勢の人達を襲えるのだ。
「これだけ捜してもおらへんって事は、広場におるって事やな!」
「えっ、今ヌイグルミが喋った?」
夏純は、琴葉の服のポケットから顔を出したたぬ吉を見て驚いた。
だが、それを言い訳している暇は琴葉達にはない。
「夏純ちゃん、今すぐ家に戻って! 絶対に広場に近づいちゃだめ!」
「どういう事?? てか、そのヌイグルミは何?」
「いいからすぐに戻って!!」
琴葉は大きな声で叫ぶ。
その声に夏純達は驚く。
「な、何か分からないけど、琴葉ちゃんがそう言うなら」
「ありがとう! 絶対にみんなを守るから!」
琴葉は光一郎と共に駆け出した。
その頃。
青空広場に一人の若い男と、一台の少女型アンドロイドの姿があった。
「……?」
「こんなに人が集まっているなんてね」
若い男と少女型アンドロイドは、イベントに集まった人々を眺めながら歩く。
「まるで、どうぞ襲ってくださいって言っているようなものじゃないか」
男の口元が緩む。
彼は、今から起きる事を楽しみにしているようだ。
そんな男の前に必死に走る二人の人物の姿があった。
「まだ何も起きていないようだね」
「ええ、だけどケルベロスはどこかに隠れているはずだわ」
玲人と瑚江である。
男は玲人を見て、ニヤリと笑う。
玲人達は男の前を通り過ぎようとした。
瞬間……。
「ねえ」
男は玲人に声をかけた。
「ちょっと聞きたいんだけど、どのお店が美味しいかな?」
「え?」
「ごめんなさい。私達急いでいて」
瑚江が玲人の代わりに答えた。
「そっか、今日は『楽しいイベント』だもんね。呼び止めて悪かったね」
男がペコリと頭を下げると、玲人達は走り去っていった。
彼は、ゆっくりと顔を上げる。
走っていく玲人の後ろ姿を、少女型アンドロイドもじっと見つめる。
「……」
「君に止められるかな?」
男はそう言って微笑むと、玲人達とは反対方向に歩いていった。