Kaikaeshi and Automata   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

玲人は怪帰師として、ケルベロスを元の世界に帰そうとする。
しかし、ケルベロスは人間を襲う事を楽しんでおり、
町の郊外にある青空広場でイベントが行われるのを狙っていた。
光一郎と琴葉もケルベロスを捜しているが、手がかりがない。
そんな中、青空広場に一人の若い男と一台の少女型アンドロイドが現れる。
男はケルベロスを人界に呼んだ張本人で、玲人とケルベロスの対決を見届けようとしているのだ。


第32話 怪と二人の怪帰師

「よかった。みんな無事だよ」

 青空広場に、琴葉と光一郎、そしてたぬ吉がやってきた。

 琴葉はイベントを楽しむ人々の姿を見てホッとする。

「彼らを避難させたいけど……」

 光一郎は真剣な表情で呟く。

 避難ができれば、ケルベロスから守れる。

 しかし何も起こっていない今であれば、皆に説明してもまともに聞いてくれないだろう。

 光一郎は焦る。

 すると、たぬ吉が口を開いた。

「ここはわての出番やな」

「たぬ吉さん、人前で喋っちゃ駄目だって」

「琴葉はん、今は緊急事態や。わての力が必要やろ」

「力って」

 戸惑う琴葉をよそに、たぬ吉はポケットから飛び出し、地面に着地した。

 ボンと白い煙が出る。

 その煙に包まれ、たぬ吉は本来の姿に戻った。

「たぬ吉さん、何してるの??」

 止めようとする琴葉の横で、光一郎が「そうか」と声を上げた。

「『匂い』でケルベロスを捜すんだね!」

「匂い?」

「わての自慢の能力や」

 実は狸はイヌ科の動物なのだ。

 そのため、たぬ吉は本来の姿に戻ると、鼻が利くようになるらしい。

 その力で怪の匂いを捜し当てる事ができるという。

「まあ、近くにおらんと流石に匂いは分からへんけどな。

 だけど、この広場ぐらいの大きさなら全然大丈夫やで」

「そうなんだね」

 たぬ吉の思わぬ力に琴葉は感心する。

 その時、小さな子供達がたぬ吉の周りに集まってきた。

「わあ、たぬきだ~」

 周りの大人達も、たぬ吉の方を見る。

「あ、えっと、これは」

 琴葉は誤魔化そうとするが、咄嗟にいいアイデアが出ない。

 このままではケルベロスを見つける前に、人々がパニックになってしまう。

 だが、たぬ吉は堂々とみんなを見ながら笑った。

「はっはっは、わてはゆるキャラのたぬきっちー様やで」

「ゆるキャラ?」

 周りの人々がキョトンとする。

 ゆるキャラとは様々な形をしたゆるいマスコットキャラの事だ。

「ああ、驚いた。そうよね」

「うんうん、今日はイベントだもんね」

「たぬきっちーちゃん、かわいい~」

 子供達に撫でられ、たぬ吉は笑顔で応える。

 

「ふう~、何とか誤魔化せたで」

 皆が去った後、たぬ吉が琴葉達にそう言う。

「たぬ吉さん、ナイス」

「わては、こういう機転は結構利く方なんや」

 たぬ吉はイベントを楽しんでいる人々を眺めた。

「わては人間が好きや。

 わての事を『可愛い』って言ってくれたあの子達を襲わせるわけにはいかんからな」

 たぬ吉もまた琴葉達と同じように、ケルベロスに恐怖を感じながらも、

 このまま何もしないわけにはいかないと思っていたのだ。

「さあ、やるで」

 たぬ吉は目を瞑り、鼻で大きく息を吸った。

 そして、お腹をポンと叩くと、目を大きく見開いた。

「あっちの方から匂いがするで!」

 たぬ吉は、広場の奥にある野外ステージの方を指差した。

「あそこにいるんだね!」

「琴葉ちゃん、行こう!」

「うん!」

 琴葉達は一斉に野外ステージへと向かった。

 

「どこにいるの?」

 野外ステージにやってきた琴葉達は、周りを見回す。

「隠れられそうな場所は……??」

 野外ステージの周りは芝生が続いていて、隠れ場所はない。

「ケルベロスって大型犬ぐらいの大きさなんだよね?」

「そや。真っ黒で見るからに凶暴な感じで、三つの頭があるで」

「そんな姿だったらすぐに分かるのに。あっ、もしかして変身しているかも?」

 琴葉がそう言うと、光一郎が首を横に振った。

「ケルベロスは変身できないはずだ」

 その言葉にたぬ吉も頷く。

「だったら、一体どこに?」

「匂いはまさにこのステージからしとる。近くにいるはずやで」

「近くに……」

 琴葉は何気なくステージを見上げた。

「あっ」

 ステージの上に屋根がある。

 その屋根の上から、黒い物体が下を覗いていた。

「あれは!」

 三つの首がある真っ黒な犬のような獣――ケルベロスだ。

 琴葉は発見した事を光一郎に伝えようとした。

 刹那、光一郎が声を上げた。

「兄さん!」

「えっ!?」

 見ると、屋根へと続く点検用の階段を玲人と瑚江が上っていた。

 

「こんなところにいたなんてね」

「玲人さん、気をつけて」

 玲人と瑚江は階段を上り切ると、屋根の上に立った。

 時刻は正午で、少し風が吹いている。

 玲人は、屋根の縁から下を見ているケルベロスを睨みつけた。

「ガルルル」

 ケルベロスの右の頭が玲人達の方を見る。

「ガルガルルル」

 右の頭は、他の二つの頭に話しかけた。

「『人間が何か言ってるぜ』って言ってるわ」

 瑚江がその言葉を訳す。

 玲人は屋根の上を歩きながら、ケルベロスに近づいた。

「僕はただの人間じゃない。怪帰師だ」

「ガル?」

「ガルルル?」

「ガルガルルルル……」

 三つの頭が、玲人に揃って顔を向けた。

『怪帰師?』

『元の世界に帰す気か?』

『そりゃあお断りだなあ』

 瑚江は三つの頭がそれぞれ喋った事を訳した。

 それを聞き、玲人はフッと笑った。

「お前達がどう思おうが、無理矢理にでも帰ってもらうよ」

 玲人は自信満々の表情で、ポケットからある物を取り出した。

 それは、木の枝だ。

「ガルウ! ガルゥウ! ガルルルッ!!」

『それは!』

『まさか!』

『またたびか!?!?』

「ああ、そうだよ」

 玲人は闇雲にケルベロスを捜していたわけではなかった。

 彼らを元の世界に帰すために、策を考えていたのだ。

「数十年前、お前が現れた時、当時の怪帰師がどうやって元の世界に帰したのか調べたんだ」

 当時の怪帰師達は、暴れ回るケルベロスに願いを聞いた。

 それは、「『またたび』をこの世界からなくせ」というものだった。

「人間の世界にいる猫はまたたびが大好きだ。

 だけどそれとは反対で、お前はこれが大嫌いなんだろう?」

 ケルベロスの要望を聞き、怪帰師達は大量のまたたびを集めて燃やした。

 結果、ケルベロスは満足し、元の世界に帰ったのだ。

「だけど、今回はお前の願いなんて叶えるつもりはない」

 玲人は持っていたバッグを開けると、勢いよくひっくり返した。

 大量の小枝――全てまたたびだ――が屋根の上に落ちる。

「またたびが嫌いなんだろ? 素直に帰らなかったら、これをお前に食わせるぞ」

 玲人はまたたびを突き出しながらケルベロスに迫った。

「ガルウウ、ガルルゥウ、ガルルルゥゥ……」

「瑚江、何て言ってるんだい?」

「『やめてくれ』『それだけは嫌だ』『泣きそうだよお』って言ってるわ」

「人間を何人も襲っておいて、自分達が襲われる立場になったら急に泣き言かい。

 僕はお前達怪が大嫌いだ!」

 玲人はケルベロスの前まで近づき、またたびをナイフのように突き出して威嚇した。

「さあ、元の世界に帰るんだ!」

 怒鳴るように言う玲人に、ケルベロス達は頭を下げた。

 玲人はそれを見て、フッと笑う。

 勝ちを確信したのだ。

 右手に力を入れ、光の扉を出そうとした。

 その時、三つの頭が同時に声を発した。

「「「ガルルルウウゥ~」」」

「えっ?」

 その言葉に瑚江は戸惑い、目を大きく見開いた。

「玲人さん、離れて!!」

「離れる?」

 玲人が首を僅かに傾げた瞬間、ケルベロス達が顔を上げた。

 その顔は、三つとも笑っていた。

「「「ガルルゥゥゥ~~!」」」

 ケルベロスが太く大きな前脚で、玲人を蹴りつけようとする。

「わっ!」

 玲人は咄嗟に後ろに下がり、それを避ける。

「どういう事だ! またたびを食らっていいのか!?」

 戸惑う玲人に、瑚江が叫んだ。

「さっき、彼らは『またたびはもう怖くない』って言ったの!」

「何だって!?」

 ケルベロスが笑みを浮かべながら、玲人に近づく。

「ガルゥゥル」

「ガルガルガル」

「ガルンガルル!」

 三つの頭が楽しそうに唸る。

「『俺達は訓練した』『またたびを怖がらないように』『だからそれは弱点じゃない』」

「何だって??」

 ケルベロスは、またたびが平気になっていたのだ。

 

「そ、そんな……」

 玲人は後ろに下がりながら狼狽え、持っていたまたたびを落とす。

 ケルベロスは、そのまたたびを笑いながら踏み潰した。

「ガルルルッ!」

「く、来るな!」

 山のように積まれたまたたびも踏み潰していく。

 狼狽えながら下がる玲人に、ケルベロスは近寄る。

「ガルルル!!」

「がっ!」

 ケルベロスは大きくジャンプし、玲人に襲いかかった。

 避け切れず、玲人は前脚で蹴られて地面に倒れる。

「玲人さん!」

 ケルベロスは倒れた玲人に馬乗りになる。

 瑚江は玲人を助けようとするが、そんな瑚江の前に真っ黒な前脚が伸びた。

「ガルルッ!」

 飛んでいる虫を払いのけるかのように、瑚江の身体を前脚が叩く。

「きゃっ!」

 瑚江は、吹っ飛ばされ屋根の上に倒れた。

「ガルルルゥウ。ガルルルルルゥ、ガガガルルル」

『お前はそこで待ってろ』

『こいつをボロボロにしたら』

『遊んでやる』

「れ、玲人さん……」

 瑚江は玲人を見るが、痛みと恐怖で身体が思うように動かない。

「「「ガル~、ガルガルウウウ~」」」

『『『さあ~、たっぷり遊ぼうぜ~』』』

 ケルベロスの三つの顔が同時にそう言うと、鋭い牙を見せて玲人に噛みつこうとした。

 

「やめろ!」

 瞬間、誰かが玲人達の方へ走ってきた。

 ドンッとケルベロスに体当たりをする。

 その勢いでケルベロスがよろめき、玲人から離れた。

「兄さん!」

 走ってきたのは、光一郎である。

「瑚江さん!」

 階段を上ってきた琴葉が、瑚江に駆け寄る。

「ガルルルルル」

 ケルベロスが起き上がりながら、琴葉と光一郎を睨んだ。

『お前達もボロボロにしてやる』

 ケルベロスの言葉を訳し、琴葉は身体が震える。

「琴葉さん、逃げて……」

 瑚江が必死にそう言う。

 凶暴な三つの顔が、琴葉と光一郎を狙うように見定める。

 琴葉は恐怖を感じながらも、全身に力を入れた。

 

「私達は、逃げるためにここに来たんじゃない!」

 その声に反応するかのように、光一郎が言葉を続けた。

「ケルベロス、さあ、交渉に応じるんだ!」

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