Kaikaeshi and Automata   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

ケルベロスを元の世界に帰すため、玲人と瑚江はケルベロスを追いかける。
一方、光一郎と琴葉は、たぬ吉と共にケルベロスの匂いを辿った。
ケルベロスはイベント会場の野外ステージの屋根に隠れていたが、玲人と瑚江に見つかる。
玲人はケルベロスが嫌いなまたたびで脅して帰そうとするが、
ケルベロスはまたたびに慣れており、効果がなかった。
そして玲人と瑚江にケルベロスが襲い掛かったその時、
光一郎と琴葉が駆けつけ、ケルベロスと対峙するのだった。


第33話 怪帰師のお仕事

 琴葉と光一郎は恐怖に打ち勝とうと全身に力を入れ、ケルベロスの前にやってくる。

「琴葉はん……光一郎はん……」

 ようやく階段を上ってきたたぬ吉がその光景を見つめる。

「光一郎……」

 玲人は呆然となりながら、光一郎達を見ていた。

 その傍に、瑚江が近づく。

「れ、玲人さん、大丈夫?」

「僕は平気だ。うっ」

 起き上がろうとした玲人は足に痛みを感じ、思わず声を漏らす。

 どうやら倒れた際に痛めたようだ。

「兄さんと瑚江はそこでじっとしていて」

 光一郎がケルベロスを見ながらそう言った。

「ガルルル」

 ケルベロスが笑いながら光一郎達に迫る。

 目の前に三つの顔がある。

 三つの顔の荒い息が二人にかかる。

 それでも、琴葉と光一郎はその場から一歩も引かなかった。

「ガルルルル」

「『面白い奴らだ』って言ってる」

「ケルベロス、君にこれ以上人間を襲わせるわけにはいかない。帰る条件を言うんだ」

「ガルルル~」

『条件ねえ~』

 真ん中の顔が呟く。

 すると、左側の顔が喋った。

「ガルッガルルル」

『だったらこういうのはどうだ』

「ガルガルルゥウ、ガルウガルルル」

「琴葉ちゃん、何て言ったんだ?」

「『帰ってほしかったら、ここから飛び降りてみせろ』って」

「えっ??」

「ガルルルゥッ! ガルゥガルル!」

『それはいいな!』

『やってみせろ!』

 残りの二つの頭も激しく上下に振って大盛り上がりする。

「ここから飛び降りるなんて……」

 琴葉は下を見る。

 高さは十メートルほどありそうだ。

「や、やめろ、光一郎!」

 玲人が瑚江に支えられながら立ち上がる。

「そんな事をしてもこいつは帰りはしない。ただ弄んでるだけだ」

 玲人の言葉に、瑚江も頷く。

 たぬ吉も同じように何度も頷いた。

「ええ??」

「飛び降りる……」

 光一郎は怯え……すぐに全身に力を入れ直す。

 

「――分かった」

 光一郎は、屋根の縁に立った。

「「光一郎!」」

 玲人と瑚江が同時に声を上げる。

「光一郎はん、あかん! 怪我ではすまへんで!」

 たぬ吉が光一郎を止めようと縁に向かう。

 しかし光一郎は手を挙げ、それを遮った。

「ケルベロスは帰る条件を言った。怪帰師はその条件を叶えるのが仕事なんだ。

 だから、僕は仕事を全うする。それが僕の使命だから」

「光一郎……」

 玲人は、そんな光一郎に何も言えなくなる。

 瑚江とたぬ吉もその場から一歩も動けなかった。

「やるよ……」

 光一郎は改めて地面を眼下に見て、屋根の上から飛び降りようとした。

 その時、隣に琴葉が立った。

「私も一緒にやるよ」

「琴葉ちゃん!?」

 その発言に、光一郎は驚く。

 玲人達も戸惑っている。

 琴葉は震えを押さえながら、光一郎を見てニッコリと笑った。

「だって、私は光一郎君の相棒だから。怪帰師のお仕事は仲間と一緒にするものでしょ」

 琴葉は、光一郎の手を握る。

「琴葉ちゃん……」

 光一郎は頷き、その手を強く握り締めた。

「やろう」

「うん」

 琴葉と光一郎は手を握ったまま、真っ直ぐ前を見る。

 そして意を決すると、踏み出すように屋根の上から飛び降りた。

「光一郎!」

「琴葉さん!」

「ガルルルル!」

『面白い奴らだ!』

 瞬間、ケルベロスが縁に向かって走り出し、そのまま大きくジャンプした。

 左右の二つの頭が、空中で落ちていく光一郎と琴葉をくわえる。

 真ん中の頭は、前方の木々を見つめる。

―バシッバシッバシッ!

 ケルベロスは次々と木の幹を蹴り、徐々に下へと降りていく。

 やがて、地面に着地した。

 左右の顔は、くわえていた琴葉達をその場に降ろす。

 

「え、ええっと」

「僕達は……」

 二人は全く怪我をしていない。

「ねえ、何なの? あの大きな犬?」

「頭が三つもあるよ??」

 イベントに集まっていた人々が驚き、声を上げる。

 しかしケルベロスはそんな彼らには興味を示さず、琴葉達に話しかけた。

「ガルルゥゥル」

「『いい度胸だった』って言ってる」

 ケルベロスは、光一郎と琴葉の行動に感心したようだ。

「ガルルル。ガルウルウ、ガルガルガルゥウ」

「えっ」

 琴葉は驚きながらも光一郎を見て、ケルベロスの言葉を訳した。

『面白いものを見られた』

『約束通り』

『自分達の世界に帰ってやるぜ』

「自分達の世界に……」

 光一郎はケルベロスの言葉を聞き、キョトンとなる。

「光一郎君、やった! やったんだよ!!」

 琴葉は思わず光一郎に抱きつく。

「こ、琴葉ちゃん!?」

「え、あ、ごめん!」

 琴葉は慌てて離れて顔を真っ赤にするのだった。

 

 広場から少し離れた場所にある空き地。

 光一郎と琴葉は、ここでケルベロスを元の世界に帰す事にした。

 光一郎は、右手を強く握り締めた。

「鑰!」

 次の瞬間、光一郎の右手の甲が光り輝く。

 そして、鍵のような紋章が現れた。

 光一郎は、そのまま林の中にある少し開けた空間を見つめ、左手を突き出した。

「人は人の世に。怪は怪の世に。安住の地へ、今帰らん!」

―ゴオオオオ……

 瞬間、大きな音が響き、地面から光の扉が現れた。

 光一郎は光の扉に近づくと、鍵の紋章が浮かび上がった右手で光の扉のノブを掴んだ。

「開!」

 ドアがゆっくりと開く。

 その向こうに眩い光が広がった。

「さあ、自分の世界に帰るんだ」

 光一郎はケルベロスにそう言う。

 ケルベロスは頷くと、扉を潜る。

 光がその全身を包み込む。

「ガルガルルッ。ガルガルガルゥウウ」

 ケルベロスは光一郎に何かを言い、光の中に消えていった。

 ドアがゆっくりと閉まる。

 光の扉はまるで線香花火のように四方に光を散らすと、そのまま消滅した。

 光一郎と琴葉の後ろには、瑚江に支えられた玲人とたぬ吉がいる。

「ケルベロスは最後に何て言ったんだ?」

 玲人が瑚江に尋ねると、彼女はゆっくりと答えた。

『気をつけろよ。あいつはこの町である計画を実行しようとしている』

「あいつって」

 反応したのは、光一郎だ。

 ケルベロスを始めとする怪をこの町に呼んだ者。

 琴葉はそれを聞いて戸惑う。

 

 一方、少し離れた物陰でその様子を誰かが見ている。

 玲人に声をかけた、あの若い男だ。

 彼の傍には、あのレプリカントがいる。

「ケルベロスはほんと気分屋だね」

 男はケルベロスが元の世界にあっさり帰り、苛立っているようだ。

「だけど、新しい怪帰師と通役か。彼らはちょっと厄介かもしれないね」

 男は、右手を握り締める。

 手の甲に紋章が浮かび上がった。

「僕を『追放』した事を、8号と共に後悔させてやるよ。

 ――これ以上、怪帰師の奴らに仕事はさせない」

 男は光一郎と琴葉をじっと見つめ、その場から去っていった。

 

 夕方。

 琴葉と光一郎は、玲人達と歩いていた。

 ユズは話を聞いて、複雑な表情をしていた。

「玲人はん、ほんまに病院に行かんでええんか?」

 ヌイグルミ状態に戻り、琴葉のポケットに収まったたぬ吉が玲人に言う。

「こんな怪我、すぐに治るよ」

 玲人は瑚江に支えられながら答える。

「あんまり無理しないで」

 瑚江は玲人に言った。

「無理なんか……」

「――私も力になりたいの」

 瑚江は玲人をじっと見つめる。

「私はあなたの相棒だから。光一郎と琴葉さんみたいに二人で頑張りたいから」

「……瑚江」

 玲人は支えてくれている瑚江を見て、小さく頷いた。

 その姿を琴葉、光一郎、ユズは見守る。

 玲人は光一郎を見た。

「……今回は、助かったよ。ありがとう」

 玲人は少し躊躇いながら礼を言った。

「兄さん……」

「謝った?」

 玲人の礼に、光一郎とユズは戸惑う。

 そんな光一郎に玲人はすぐに言葉を続けた。

「だけど、僕は間違ってない。怪は憎むべき存在だ。そして、ユズは失敗作だ」

 玲人は語気を強めた。

「この事は父さんに報告しておく。

 僕のミスで大変な事になりそうだったところを、光一郎、お前が助けてくれたって」

 やがて、交差点に到着した。

「瑚江、行こう」

「はい」

 玲人は角を曲がっていき、瑚江は光一郎と琴葉にそっと告げた。

「玲人さんは二人が飛び降りた時、地面に扉を出そうとしていた……怪我しないように」

 瑚江はほんの少し笑い、玲人の後を追って去っていった。

 

「玲人は頑固」

 ユズが呆れる。

 光一郎は頷きながらも、僅かに微笑んだ。

「いつか、兄さんの気持ちを変えてみせるよ」

「光一郎君」

 光一郎は琴葉に向き合った。

「僕一人じゃ兄さんを変える事も、怪帰師の仕事をこなす事もできない。

 だけど、君達がいればそれができると思うんだ」

「それは……」

 光一郎にそう言われて、琴葉は心の底から嬉しくなる。

 光一郎の活躍によって、ケルベロスは元の世界に帰った。

 怪我を負った和也達も元に戻ったはずだ。

 怪帰師は人々を怪による災いから守る。

「光一郎君、これからも一緒に頑張っていこう!」

 怪帰師の傍にはいつも通役がいる。

 通役はただ怪の言葉を訳すだけではない。

 一緒に怪の帰る条件を叶えるために、必死に奔走する。

 

「僕は怪帰師」

「私は通役」

「……わたしは機械人形」

 琴葉と光一郎は満面の笑みを浮かべながら、固い握手を交わすのだった。

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