Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
利光達は紫音を追って建設中のビルを探索する。
ビルの最上階で、利光は高科心音を模したアンドロイド、8号と遭遇する。
8号は紫音に利用されていたため、利光達に協力する。
しかし突然、酒呑童子が現れ、利光達を襲う。
琴葉達は利光達を助けに向かうが、酒呑童子に阻まれる。
紫音は酒呑童子と交渉し、町の人々を酒に変える計画を進める。
琴葉達は紫音を追い、町を救おうと決意するのだった。
「まずはこの辺りはどうかな?」
紫音は眼下の町並みを眺めながら、飛んでいる酒呑童子に語りかけた。
彼らの真下には線路が見え、駅があった。
「あれは駅といって、大勢の人達が行き交う場所だ。
あそこにはさっき君が人々を襲った図書館の何倍も人がいるよ」
紫音がそう言うと、酒呑童子はシュッシュッシュッと笑った。
人が大勢いると知って嬉しいようだ。
酒呑童子はそのまま駅の前に着地した。
―ドオオン!
五メートル程の真っ赤な巨人が人々の前に立つ。
「何だあれ?」
「何かのイベントかしら?」
駅前にいた人々は、酒呑童子が作り物の人形だと思った。
「だけど、動いてるぞ」
「ロボットって事か?」
一人の中年の男性が酒吞童子に近づく。
そして、指でその太い足をつついた。
「うわっ、まるで本物の生き物みたいだ」
肌の感触を知り、男性は戸惑う。
すると、酒呑童子の肩の上に座っていた紫音が口を開いた。
「彼は本物だよ。君達に恐怖を与えにきたんだ」
「恐怖?」
男性が首を傾げた瞬間、酒呑童子は大きく息を吸い、吐いた。
「プハハハアアア~!」
酒の匂いと共に真っ黒な煙が酒吞童子の口から吐き出される。
煙はゆっくりと広がり、駅前にいる人々を包み込む。
「な、何だ?」
「煙が身体にまとわりつくんだけど」
人々は煙を払おうとするが全然払えない。
駅前には喫茶店があり、店内からも窓越しにその光景が見えていた。
煙はそんな窓や壁をすり抜け、店内にも入ってくる。
「火事?」
「だけどこの煙、酒の匂いがするぞ?」
駅前に酒呑童子がいる事を知らない建物の中の人々は、
入り込んだ煙に戸惑いながらその場所から離れようとする。
しかし、煙はさらに広がり、そんな人々を包み込んでいった。
「シュッシュッシュッ」
酒呑童子は煙が十分に広がって人々を包み込んだのを見計らい持っていたひょうたんを上げる。
ひょうたんの栓を抜くと、煙に包まれた人々の方へと向けた。
―シュウゥウウウウ……
瞬間、ひょうたんが煙とそれに包まれた人々を吸い込み始めた。
「うわああ!」
人々が次々とひょうたんの中に吸い込まれていく。
建物の中にいた人々も煙と共に窓や壁をすり抜け、ひょうたんの中へと入っていく。
「ひ、ひいい、何なんだ」
先程酒呑童子をつついた中年の男性は、あまりの恐怖に腰が抜け、その場に座り込んだ。
「煙に捕まった人々は、ひょうたんに吸い込まれて酒になってしまうんだよ」
酒呑童子の肩に乗っている紫音が男性に言う。
「酒って、そんなの」
「あなたもいい酒になってね」
ひょうたんが男性の方に向けられる。
「嫌だ! た、助けて!」
男性は逃げようとするが腰が抜けて動けない。
男性はそのまま煙と共にひょうたんの中に吸い込まれてしまった。
「ふふふっ、いいね。酒呑童子、次はもっと人が多いところに行こう。
確かこの町にはショッピングモールがあったね。そこならさらに多くの人間を酒にできるよ」
酒呑童子は紫音を連れて、ショッピングモールへと飛んでいった。
その頃……ショッピングモールでは、
琴葉のクラスメイトで親友の森永夏純と瀬戸由香里が買い物を楽しんでいた。
「まさか、由香里ちゃんに服を選んでほしいって言われるなんてねえ」
「急にごめんね。だけどどうしてもお願いしたくて」
由香里と夏純はそれぞれ学校から家に一度帰り、
自転車に乗ってショッピングモールにやってきた。
「それで、その気になる男の子ってどんな人なの?」
「ええっとそれは……」
由香里は今度の日曜日、
絵画教室で知り合った隣の地区の小学校に通う男の子とデートをするらしい。
「デートというか、一緒に美術館に行くだけだけどね」
「それを人はデートっていうんだよ」
夏純がニコニコしながら言うと、由香里は恥ずかしそうに微笑んだ。
由香里はその男の子と美術館に行くのを楽しみにしていたが、
どんな服を着ていけばいいのか分からなかった。
そこで夏純に助けを求めたのだ。
「夏純ちゃん、そういうの詳しそうだから」
「うんうん。実際にデートをした事はないけど、
デートコーデは動画でいつもチェックしているから、結構詳しいよ」
夏純は「任せなさい!」と胸を張り、早速ショップに向かおうとした。
その時、周りの人達がザワつき始めた。
「外に巨人が現れた?」
「みんなをひょうたんの中に吸い込んでる??」
人々が口々にそう言う。
それを聞き、夏純達は首を傾げた。
「みんな、何を言ってるのかな?」
「外って、ショッピングモールの外って事?」
由香里がそう言うと、誰かが一人の方へ走ってきた。
それは、クラスメイトの服部和也だ。
「ヤバいヤバいヤバい!」
「和也君、どうしたの?」
「あ! 夏純ちゃん、それに由香里ちゃんも!」
和也は焦った表情を浮かべたまま、後ろを見る。
「よかった。まだこっちは大丈夫みたいだ」
「一体何をそんなに焦ってるの?」
夏純が尋ねると、和也は早口で答えた。
「煙に包まれたら、ひょうたんの中に吸い込まれちゃうんだ!」
「どういう事?」
「何かの冗談かな?」
「由香里ちゃん、冗談なんかじゃないよ! ほんとに吸い込まれちゃうんだってば!」
その時、後ろの方から声が響いた。
「助けてぇ!」
見ると、振り返った通路の少し先に黒い煙が漂っている。
その煙に人々が包まれていた。
「あれだよ!」
和也が叫んだ瞬間、
煙とそれに包まれた人達が急に引っ張られるように猛スピードで後ろに下がっていった。
「どうなってるの??」
夏純はその光景を見て目をパチクリさせる。
「だから、ひょうたんに吸い込まれたんだって!」
和也は周りを見た。
「あ、こっちからも!」
通路の窓の向こうに黒い煙が漂っている。
それがだんだん窓の方へと近づいてきていた。
「逃げなきゃ! あれは窓とか壁とか関係なく入ってくるんだ!」
「えええ?!」
夏純達が驚いていると、和也の言った通り煙が染み込むように施設内に入ってきた。
「夏純ちゃん、逃げよう!」
「う、うん、由香里ちゃん!」
二人は和也と共にその場から走り出した。
「ほらっ、急いで!」
和也を先頭に、三人は必死に通路を走る。
「みんな逃げて! 煙から逃げて!」
和也は走りながら、周りにいる人々にそう呼びかける。
三人は施設の出口の前まで辿り着いた。
「こっちの建物はもうヤバい。隣に逃げよう!」
ショッピングモールはA館とB館に分かれていて、和也達がいたのはA館である。
B館には煙はまだ届いていないと思ったのだ。
「だけど何なのあの煙は!?」
由香里の言葉に、和也は振り返る事なく答えた。
「巨人が吐き出したんだよ!」
「それって!」
先程ショッピングモールにいた人が言っていた事だ。
やがて三人は、A館とB館を繋ぐ連絡通路に入った。
刹那、由香里の目に何かが映る。
それは、A館の前に立つ酒呑童子だ。
「あれが煙を吐いたんだ!」
和也が走りながら言う。
酒呑童子の持つひょうたんに煙と人々が吸い込まれていく。
そしてある程度人々を吸い込むと、酒呑童子はひょうたんの吸い口に口をつけた。
「まさか、吸い込んだ人達をのんでるの?」
「分からないけど、逃げなきゃ僕達もそうなっちゃうよ!」
由香里と和也は戸惑いながらも、B館へ戻ろうとした。
しかし、一番後ろを走っていた夏純が、いきなりその場にしゃがみ込んだ。
「あんなの逃げられないよ!」
夏純は酒呑童子を見て恐怖を感じたのだ。
「夏純ちゃん、立つんだ!」
「ここにいたら見つかっちゃうわ!」
和也と由香里は何とか夏純を立たせようとするが、夏純は泣き出してしまう。
「夏純ちゃん……」
由香里達はそれを見て、思わず立ち上がらせようとしていた手が緩んだ。
「お母さ~ん」
不意に声がした。
見ると、A館から出てきた小さな女の子が泣きながら母親を探している。
帰りを見るが、母親らしき姿はない。
女の子はそれに気づき、さらに大きな声で泣き出してしまった。
すると、酒呑童子の酒を飲む手が止まった。
ジロリと女の子の方を見る。
そして、ニヤリと笑った。
「ヤバい!」
和也が叫ぶ。
このままでは女の子が襲われてしまう。
「助けないと!」
由香里も声を上げるが、恐怖で動けない。
「お母さ~ん!」
女の子は酒呑童子を見て泣きながらその場で立ち尽くした。
「だめえ!」
瞬間、そんな女の子の方へ夏純が走った。
女の子を助けなければと、咄嗟に身体が動いたのだ。
夏純は傍まで駆け寄ると、女の子を強く抱き締めた。
「夏純ちゃん!」
和也と由香里も慌てて夏純の傍に駆け寄る。
その様子を酒呑童子の肩の上に座っていた紫音が眺めていた。
「面白いね。さっきまで震えて泣いていたのに、女の子を助けるなんて」
酒呑童子は夏純達の目の前で立ち止まった。
夏純達は女の子を背中にして守るように立ち、酒呑童子と紫音を見る。
「な、何なの、あなた達は?」
震えながら言う夏純を見て、紫音は笑った。
「ふふふっ。僕達が何者かなんて君達には関係ないよ。だって君達はすぐに酒になってしまうんだからね」
紫音は酒呑童子をチラリと見ると、座っていた肩を軽く叩いた。
「さあ、この子達もひょうたんで吸い込むんだ。美味しい酒ができるはずだよ」
「シュッシュッシュッ」
酒呑童子は笑いながら大きく頷いた。
「夏純ちゃん……」
「和也君……。由香里ちゃん……」
夏純達はなす術なく、ただ女の子を守りながら身を縮めた。
「それ以上はもうさせない!」
突然、大きな声が響き渡った。
夏純達はその声に聞き覚えがある。
いつも教室で聞いていた声だ。
酒呑童子の後ろを見る。
同時に三人は声を上げた。
「琴葉ちゃん!」
そこには、琴葉が立っていた。
琴葉の横には光一郎と玲人、瑚江、ユズ、そしてたぬ吉が立っている。
「これ以上、暴れるのは許さないんだから!」
「お前はわたしが倒す」
琴葉とユズは酒呑童子と紫音を睨みつけた。
「ほう、君達如きで酒呑童子を止められると思っているのかい?」
紫音は見下すような目で琴葉達を見つめる。
すると、光一郎が答えた。
「簡単に止められるとは思ってない」
そう言いながら、力強く一歩前に出る。
「だけど、どんなに大変でも、絶対に止めてみせる!」
「僕は光一郎と一緒に戦う」
玲人が一歩前に出て力強く言う。
「私も負けない」
瑚江も一歩前に出る。
「私達は絶対に怯まない。今ここであなたを捕まえる!」
「わたしは、お前を倒す!」
琴葉とユズは大きく一歩前に出ると、紫音を指さした。
「……子供の癖に、随分生意気だね」
紫音はフッと身体を浮かすと、酒呑童子の身体を何度か軽く蹴り、地面に着地した。
「酒呑童子。まずはこの怪帰師と通役達を酒にしよう。
彼らの方が美味しい酒になるはずだからね。アンドロイドはスクラップにしよう」
紫音の言葉に、酒呑童子は笑みを浮かべる。
酒呑童子はゆっくりと琴葉達の方に身体を向けた。