Kaikaeshi and Automata 作:アヤ・ノア
琴葉達は酒呑童子を元の世界に帰すために戦う。
夏純達は琴葉達を信じて逃げ、酒呑童子は巨大化し、黒い煙を吐く。
瑚江は煙の弱点を見抜き、琴葉達に伝える。
琴葉達は酒呑童子を追い詰め、交渉に成功する。
しかし紫音が裏切り、酒呑童子をひょうたんに吸い込んでしまった。
「一体何を!?」
光一郎達は紫音の行動に驚く。
「必要がなくなったものは僕の計画の一部にする。
このひょうたんは君達の想像通り、人間だけではなく怪も吸い込む事ができるからね」
紫音は微笑みながらひょうたんの栓を閉めた。
―コンコンコン!
ひょうたんの中から誰かが叩く音がする。
「シュウウウウ、シュウウウ!」
どうやら吸い込まれた酒呑童子のようだ。
「『何故俺を吸い込んだ。早く出せ」って言ってる」
琴葉が一人ごとのように言うと、紫音が微笑みながらひょうたんを見た。
「流石、ひょうたんの持ち主。なかなか酒にはならないようだね。だけど君の役目は終わった。
そこで絶望感を抱いていればいい」
紫音は笑いながらひょうたんを揺らす。
「シュアアア、シャヒャアア!」
酒呑童子は中で悲鳴を上げるが、紫音はまるで気にしない。
「やめろ!」
そんな紫音に、光一郎が怒鳴った。
「酒呑童子は僕達と交渉をした。帰ると言ったんだ!」
ひょうたんの中に閉じ込める意味はもうなかった。
「交渉? そんなもの怪とする必要はないよ」
紫音は冷たい目で答える。
「どういう事だ?」
「怪と交渉するのは、この世界から帰るための条件を教えてもらうためだろう。
だけどもう、この世界、いや全ての世界そのものが消えてしまうんだ」
「何を……言ってるんだ?」
ユズは紫音の言っている事が全く理解できない。
それは琴葉、光一郎と玲人も同じようだ。
紫音は不敵に笑う。
「僕が何のためにこの町に来たのか分かるかい?」
「怪達にただ人々を襲わせるだけじゃないって事だね?」
それだけなら、怪が元の世界に帰れば襲われた人々も元に戻り、紫音にとって意味がなくなる。
「光一郎君と言ったね? その通りだよ。
僕はそんな小さな目的のために何体も怪をこの世界に呼んだわけじゃない」
紫音はひょうたんを琴葉達に見せた。
「ここには、僕を捕まえようとした怪帰師や通役、それに酒呑童子が入っている。
だけど、それだけじゃない。この町に住む大勢の人間が入っている」
紫音はひょうたんを揺らして中の酒を確認した。
酒呑童子は中から必死に怒鳴るが、その声はだんだん小さくなっていく。
「もう文句を言う元気もないようだね。彼があまりに酒を飲むから少し心配していたんだよ。
僕が使うためのエネルギーが減ってしまうんじゃないかって」
「エネルギー?」
琴葉が首を傾げると、紫音は「決まっているだろう」と答えた。
「この町に住む君達のエネルギーだよ」
薄く笑いながら紫音は町を眺めた。
「何故この町に怪がよく現れるか、考えた事はあるかい?」
「それは、あなたが光の扉で怪を呼んで――」
「一部の怪はね。だけど多くの怪はそうじゃない。
この町のエネルギーによって、この世界と怪の世界の扉が繋がってしまったんだ」
「この町の?」
琴葉はますます困惑する。
住んでいるこの町はどこにでもある普通の町だ。
すると、玲人が口を開いた。
「そうか、この町は『パワースポット』だったのか」
「玲人さん、何なのそれ?」
「特殊なエネルギーが溜まりやすい場所だよ。そういうところには怪がよく現れるんだ」
玲人がそこまで言った時、今度は光一郎が喋った。
「だから、琴葉ちゃんも……」
「えっ、私?」
「君には通役の力がある。それはこの町のエネルギーの影響を受けたものかもしれない」
「そんな……」
戸惑う琴葉を見て、紫音はさらに笑みを浮かべた。
「ふふふっ、光一郎君の言う通りだよ。そして影響を受けたのは君だけじゃない。
この町の全ての人が影響を受けているんだよ」
「全ての人が……」
「君のように通役の力が目覚めたのは潜在的にその力を持っていた家系の者だけのようだけどね。
だけど、この町に住む人達は皆、特殊なエネルギーをその身体に溜め込んでいたんだ。
そして、アンドロイドも人工知能ではなく、自我を有している」
紫音はひょうたんをまた揺らし、中の酒の音を確認する。
「僕もこの町に長く住む事によって封印されていた怪帰師の力が復活した。
そしてこの町のエネルギーを利用する事を思いついたんだ。
僕はね、人間を襲わせるために怪を何体も呼んだわけじゃない。
この町のエネルギーを溜める事ができる能力を持った怪をずっと探していたんだよ」
「まさかそれって……」
光一郎が声を上げると同時に、たぬ吉が慌ててひょうたんを指差した。
「そのひょうたんを使ってエネルギーを溜めたちゅー事か!」
紫音は不気味な笑みを浮かべ、はっきりと頷いた。
「……許さない」
「許さなくて結構。酒呑童子の能力は実に僕の計画にピッタリだったよ。
彼がひょうたんの中に入ってくれたおかげで、彼が飲んでしまったエネルギーも戻った。
これだけエネルギーがあれば、計画を実行に移せる」
「だからその計画というのは何なんだ!」
光一郎が怒鳴るように言うと、紫音は地面を指差した。
「今から、このエネルギーを使って、『禁断の光の扉』をこの世界に出現させるつもりだ」
「禁断の……」
琴葉は意味が分からず、光一郎と玲人を見る。
すると二人の表情が一変していた。
「まさか」
「そんなのただの伝説だと……」
二人は禁断の扉が何なのか知っているようだ。
「あかん。あれがほんとにあったなんて!」
たぬ吉も震えている。
「それは何だ?」
ユズが尋ねると、たぬ吉の代わりに紫音が答えた。
「その扉は、あの怪が住む世界と繋がるんだよ。破壊の神『魔王』の住む世界とね」
「魔王……」
禍々しい名前に琴葉は狼狽える。
そんな琴葉に光一郎が語りかけた。
「魔王は、酒呑童子やケルベロスとは比べ物にならない危険な怪なんだ……。
そもそもこの世界に現れた事すらない。存在しているかどうかさえ誰も知らなかった。
現れたら最後、この世界の全てを食べてしまうんだ」
「な、何なのそれ……」
「現れたら終わりか!?」
琴葉とユズの顔が一気に青ざめる。
紫音はその顔を嬉しそうに見た。
「酒呑童子が人や怪を酒に変えるのが子供騙しに思えるぐらい、魔王は全てを食べる。
その魔王の住む世界と繋がる禁断の光の扉は、出現させる事はできないと言われていた。
怪帰師の力では、出現させるためのエネルギーが足りなかったからね」
「エネルギーって」
琴葉は紫音の持つひょうたんを見つめた。
「このひょうたんの中のエネルギーを使えば、禁断の扉を出現させる事ができる。
僕を追放した愚かな怪帰師達よ!
そして、必死に怪と交渉をしてきたというのに、それを感謝すらしない愚かな人間達よ!
お前達は全員、魔王に食べられてしまえばいい。これが僕の復讐計画なんだ!」
「そうはさせない!!」
ユズは逃げ出した紫音を追いかける。
このままでは禁断の扉が開かれてしまう。
「捕まえなきゃ!」
琴葉達は紫音を追いかけようとする。
だが、そんな彼らの前に、影が立ち塞がった。
「紫音の邪魔はさせない」
行く手を阻んだのは、8号である。
「し、心音……!」
「あれは心音じゃない、わたしと同じアンドロイドだ!」
光一郎と玲人は、心音そっくりな8号に驚く。
まさかこんな形で再会するなんて、と二人は驚く。
しかも8号の隣には、一人の男性型アンドロイドがいる。
「どうして、そんな。……お父さん!!」
その男性型アンドロイドは、琴葉の死んだ父親だった。