Kaikaeshi and Automata   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

紫音は魔王を解放するため、酒呑童子のエネルギーを使おうとする。
しかし、エネルギーが不足しているため、町の人々のエネルギーを集めようとする。
魔王の扉が僅かに開き、紫音はさらにエネルギーを集めるため、光の扉を次々と出現させる。
琴葉達は全てを終わらせようとする紫音を止めようとするのだった。


第43話 魔王を止める者達

「クイクイクゥウ」

「シーシンシシー」

 光の扉から、琴葉の見た事のない怪達が現れる。

「みんな戻って!」

 琴葉は怪達にそう言うが、状況を理解していない怪達は首を傾げるだけだ。

「さあ、魔王よ! 準備ができたよ!」

 紫音は聳え立つ巨大な魔王の扉に向かって声を上げた。

マアマアアアアア!

 ドアの隙間から、不気味な唸り声が響く。

 中から、ゆっくりと何かが出てきた。

 それは巨大な五本の指だ。

 指は震えるとその先端の形が変わり、それぞれ大きな口になった。

「あれが魔王なのか?」

 光一郎は立ち上がると、琴葉を魔王から守るように身構える。

「いや、違う」

 玲人がその横で身構えながら答えた。

「あれは恐らく魔王の身体の一部だ。ドアが完全に開いていないから指しか出てこられないんだ」

「だけどあの指の先の口はなんなの?」

 琴葉はその禍々しく不気味な指の口を見つめる。

 すると、指の口がゆっくりと聞いた。

マアマアアア! マアマアアア!

 五本の指の口が甲高い声を上げる。

 そして声を出すのをやめると、息を吸った。

「まさか!」

 玲人はそれを見て何かに気づき、琴葉達を見た。

「近くにある扉を掴むんだ!」

「わ、分かった!」

 身体がぐらっと動いた。

 物凄い力で五本の指の口に吸い寄せられたのだ。

「くっ!」

 ユズと光一郎は近くにあった扉を掴む。

 琴葉も慌てて掴もうとするが、手が滑った。

「きゃ!」

「琴葉ちゃん!」

 光一郎は吸い寄せられる琴葉の腕を掴もうと、手を伸ばす。

 だが、指先が当たっただけで掴めなかった。

「そんな!」

 光一郎は琴葉を捕まえようと扉から手を離そうとする。

 と、横から玲人が叫んだ。

「お前はそこにいるんだ!」

 玲人は琴葉を追って自ら掴んでいた扉から手を離した。

 吸い寄せられる力に身を任せ、玲人は一気に琴葉の傍まで辿り着く。

「手を伸ばすんだ!」

 琴葉の腕を支え、近くにあった扉に近づける。

 彼女はその扉を掴んだ。

 だが、玲人は何も掴むものがない。

「玲人さん!」

「琴葉さん! 光一郎! 絶対に魔王をこの世界に出すな!」

 玲人は必死にそう言いながら魔王の指の口の方へ引き寄せられていく。

マアマアアア!

 玲人は魔王の中指の先にある口の中に消えていった。

 

「兄さん!!」

「そんな!!」

「くそっ!」

「クイクゥゥウイイイ……」

「シシンシイイイ……」

 人間の世界に現れた怪達も、次々と魔王の指にある口の中に消えていく。

「マアマアアア! マアマアアア!」

 魔王は扉の向こうで歓喜の声を上げ続ける。

―ゴゴゴゴオオオオオ……

 巨大なドアが輝きながらさらに開き、隙間が広がった。

「いいぞ! 魔王よ。顔ぐらいなら出せるんじゃないのか?」

 紫音が嬉しそうにドアに向かって話す。

「マアアアア」

 不気味な唸り声と共に、ドアの向こうから何かが現れる。

 真っ白な山のような塊だ。

「あれってまさか……」

 琴葉とユズがゴクリと唾を呑み込む。

 その塊が大きな額だと分かった。

「マアマアア」

「『やっと外に出られた』」

 琴葉は怯えながらも、習慣でその怪の言っている事を訳した。

 次の瞬間、巨大な真っ白な額の中央に、血走った目が見えた。

 その目は琴葉達を観察するように見つめながら、

 白い山のような顔がさらにドアの向こうから出てくる。

 現れたのは、三つ目の真っ白な男の顔だった。

 肌はツルンとしていて剥いた卵のようだ。

 血走っているのは涙の目だけで、右目と左目は、澄んだ優しそうな瞳をしていた。

 

「ようこそ、魔王よ!」

「マアア」

 紫音が笑顔で魔王に話しかける。

 魔王は額の目だけを動かし、紫音を見た。

 光の扉から魔王の頭だけが出ている。

 五メートルを超えるドアとほぼ同じ大きさだ。

 扉の向こうにある隠れた身体を合わせれば、

 酒を飲んで大きくなった酒呑童子など比べ物にならないほど巨大な姿になるだろう。

「扉を開けるためには、さらにエネルギーが必要だろ? まだまだいっぱい材料はある」

 紫音は目の前にある無数の光の扉を指差した。

「あのドアの向こうには、多くの怪が住んでいる。そいつらを全員食べていいよ」

「なんだって!?」

「ふざけるな!!」

 その言葉に、光一郎とユズが声を荒らげた。

「これ以上は誰も食べさせない! 魔王をこの世界には絶対に出さない!」

 ドアの向こうにいる怪達を食べたら、魔王はさらにエネルギーを得るだろう。

 そうなればドアを開ける事ができ、この世界に魔王が完全に現れる。

「止めるってどうやって??」

「琴葉ちゃん、ユズ、魔王を止めるんだ!」

「ドアを閉めるしかない!」

 光一郎は駆け出すと、魔王の顔が出ている巨大なドアに向かった。

「光一郎君!」

「わたしが助ける!」

 琴葉とユズも慌てて後を追う。

 光一郎は魔王の扉の前に立った。

「魔王! お前は絶対に出てくるべきじゃない!」

 叫びながら光一郎はドアを押し、閉じようとした。

「琴葉ちゃんもユズも手伝って!」

「だけど」

「何とかしてドアを閉めないと! だから早く!」

「う、うん!」

「やらなくちゃ。魔王は、止める!」

 琴葉とユズは慌てて光一郎の傍に行くと、同じようにドアを押した。

 

「はっはっは、何をしているんだい?」

 紫音は三人を見て嘲笑う。

「いくら怪帰師だからといって、そのドアを閉じられるわけないだろう」

 魔王の扉は、怪帰師だけでは出現させる事はできなかった。

 それ故に自由に閉じる事も不可能なのだ。

「くう、動かない!」

「硬すぎる……!」

「光一郎君、こんなんじゃ無理だよ」

 琴葉、光一郎、ユズは魔王の扉を必死に押すが、ピクリとも動かなかった。

「だけど僕達が何とかしなくちゃ!」

 光一郎はドアを押しながら言う。

「父さん達も、瑚江も兄さんも、アンドロイド達も、もういない。

 この世界を、みんなを救う事ができるのは、僕達だけなんだ」

「んんんんんっ!!」

 ユズは腹の底から声を出しながら、全力でドアを押した。

「光一郎君、ユズちゃん……。そうだよね。私達しか」

 琴葉は前を向くと目の前に見えている魔王の顔を睨んだ。

「あなたを絶対に元の世界に帰す!」

 琴葉も力の限りドアを押す。

 しかし全く動かない。

「無駄だ、無駄だ」

 紫音は呆れながら首を横に振る。

 それでも琴葉達は諦めない。

 

 その時、誰かが琴葉達の横に現れてドアを押した。

「よう言うた! 琴葉はん、光一郎はん!」

 信楽焼のような姿のため吉だ。

「わても最後までお供するで!」

「たぬ吉さん!」

ぬううううんん!!

 たぬ吉はドアに身体をぶつけ、全身で押し始めた。

「やれやれ。無駄な事を」

 紫音はその姿にますます呆れ、鼻から息を漏らす。

「古ダヌキが一体増えたところで、何になるっていうんだい」

 紫音の言う通りドアは全く動かない。

 紫音はクスッと笑うと、魔王を見た。

「こいつらは無視して怪達を食べるんだ。

 こいつらにその光景を見せて、もう何をしても無駄だと分からせようじゃないか」

「マアアマ」

 魔王は額の血走った目をゆっくり閉じて、開く。

 「分かった」という合図のようだ。

 額の目が無数の光の扉の方を見る。

 魔王は口をゆっくりと開け、怪達を食べようとした。

早くドアを閉めなくちゃ!!

 琴葉は光一郎とユズとたぬ吉と共に、力を振り絞った。

 しかし、ドアは動かない。

 それでも押し続ける。

 琴葉達は全身に力を入れた。

 

「ウゥゥウウウウウウ」

 突然、声がした。

 その声を聞き、琴葉は戸惑う。

「『手伝うよ。一緒にドアを閉めよう』って?」

 琴葉は声がした後ろを見る。

 光一郎とたぬ吉も釣られるようにそこを見た。

「ああっ!」

 琴葉達の後ろに、一体の怪が立っている。

 その怪に、そのしゃべり方に、琴葉は覚えがあった。

「テケテケ!」

 琴葉が光一郎とユズと共に初めて怪帰師として元の世界に帰した怪だ。

「ウウウウ!」

 テケテケは琴葉達の傍に駆け寄るとドアを押した。

「君は、もしかして私と光一郎君が帰したテケテケ?」

「ウウウウウ」

 テケテケは『あの時はありがとう』と言った。

「まさか、怪が力になってくれるなんて」

 光一郎はその状況に戸惑う。

 すると、テケテケが喋った。

「ウウウウウウ」

 琴葉は慌ててそれを訳す。

「『だって、あの時、助けてくれたから』」

「それは」

「ウウゥウ!!!」

 テケテケは力いっぱいドアを押した。

「僕たちも!」

「うん!」

 光一郎、琴葉、ユズも必死にドアを押す。

「ちょっとは動くんや!」

 たぬ吉も身体全体で押し続けた。

 だが、ドアはビクともしない。

「ふん、怪が一体増えたところで何が変わるというんだ」

 紫音は光一郎達を見て苛立つ。

「さあ、魔王よ。さっさと怪達を……」

 紫音はそう言って魔王を見る。

 とその視線の先に、いくつもの大小様々な影が見えた。

「何だ?」

 紫音はそれをじっと見つめる。

 影は紫音を飛び越え、光一郎達の前に降り立った。

 

「あなた達は!」

 その影を見て琴葉は驚く。

 そこには、赤マントにトイレの花子さん、八尺様の親子にくだん、

 杉沢村の住人達、ひきこさんがいた。

「おお、光一郎はんと琴葉はんとユズはんが帰した怪達や!」

 赤マント達は一斉に魔王のドアを押しはじめた。

「みんな!」

 琴葉、光一郎、ユズは驚きながら彼らを見る。

「キイイィィイィィイイィィ!」

 赤マントがドアを押しながら琴葉達に話しかける。

「『これは君達だけの問題じゃない。全ての世界の問題だ』」

 魔王は光の扉の向こうにいる怪を食べる。

 人間と怪、今まさに全ての世界が崩壊しようとしているのだ。

 赤マント達は琴葉達と共に必死にドアを押した。

「ええい、鬱陶しい。碌な力もない怪の癖に!」

 紫音は苛立ちながら赤マント達に怒鳴った。

「ガルルルッ!」

「ひいい」

 するとその瞬間、背後で唸り声が響いた。

 ハッとして振り返ると、背後にケルベロスが立っていた。

 その横には、ヤマノケもいる。

 ケルベロスはガルルルッと紫音に向かって威嚇する。

 紫音はその力にたじろぎ、思わず尻餅をつく。

 そんな音を見て笑いながら、ケルベロスとヤマノケがジャンプした。

 彼らが着地したのは、他の怪達と同じように琴葉達の傍だ。

「ガルルゥウ、ガルルルルウウ」

「『あの怪帰師は許せない。だから一緒にドアを閉めるぞ』」

 琴葉はケルベロスの言っている事を訳す。

 彼らも協力してくれるのだ。

「あ、ありがとう!」

「ケルベロス、ヤマノケ、頼む!」

「ガルルル!」

「みんな、助けて!」

 ケルベロスとヤマノケがドアを押す。

「くうう、ふざけるな!」

 紫音は起き上がりながらケルベロス達に文句を言う。

「ソウゥゥウ!」

 ヤマノケが蛇の頭になった手を紫音に向け威嚇する。

 

「くうう」

 紫音はさらに苛立つ。

「無駄な事を」

 立ち上がると、魔王の傍へと走った。

「早く怪達を食べろ! あいつらに絶望を見せてやるんだ!」

 紫音は魔王に怒鳴る。

「早くしろ! お前はのんびりし過ぎなんだ!」

 すると、魔王はそんな紫音に苛立ったのか、額の血走った目をギロリと向けた。

「な、なんだ。僕はお前をこの世界に出してやろうとしているんだぞ!」

 狼狽えながらも、紫音は魔王に叫ぶ。

 魔王はフンッと鼻を鳴らすと、改めて口をゆっくりと開いた。

「そうだ、それでいいんだ! さあ怪達を食べろ!」

「光一郎君、このままじゃ!」

「ああ、みんな押すんだ!」

「ドアを閉ざす!」

 光一郎達は必死にドアを押す。

 しかし動く気配はない。

「もう諦めろ! 今度こそ終わりだ!」

 紫音は勝ち誇るようにそう言った。

 だが、光一郎が大声で叫んだ。

「絶対に諦めない。僕は怪帰師だ!」

 その言葉を聞き、ユズと琴葉は頷く。

 そして続けて言った。

「わたしだって、諦めるつもりは微塵もない」

「私も諦めない。私と光一郎君とユズちゃんは、怪を元の世界に帰すのが仕事なんだもん!!!」

 琴葉は左手を、光一郎は右手を、互いに重ねる。

 ユズは二人を守るように立った。

 

「魔王は元の世界に帰れ!」

 琴葉達は怪達と一緒にドアを押した。

 瞬間、光一郎の右手の紋章が光った。

 紋章の光が光一郎の身体を包み込む。

「光一郎君!」

「これは??」

 その光は、琴葉とユズも包み込んだ。

 そのまま光はどんどん広がり、怪達も包み込んでいく。

「な、何だあれは?」

 紫音は戸惑いを見せた。

 初めて見る現象のようだ。

―ズズッ

 刹那、魔王の扉が僅かに動いた。

「そんな! あり得ない!!」

 焦る紫音をよそに、光一郎たちはさらにドアを押す。

「魔王は僕達が帰らせる!!!」

 ドアはさらに動いていく。

「魔王! 早く怪を!」

 紫音は魔王に叫ぶ。

 だがその瞬間、周りが大きく揺れた。

 光の扉から一斉に怪達が飛び出し、空や地を駆け、紫音の前を通り過ぎていった。

「逃げられるとでも思ってるのか!」

 紫音は怪達が逃げようとしていると思って怒鳴る。

 だが、彼らは逃げているわけではなかった。

 怪達は皆、琴葉達のもとへ集まったのだ。

「みんな!」

「お願い、力を貸して!!」

「力を貸すよ……」

 怪達は琴葉達の言葉を聞き、それぞれの言葉で返事をする。

 怪の言葉が分からない光一郎でも、彼らが何と言ったのか理解した。

 怪達はそう言ったのだ。

 

 無数の怪達が光に包まれる。

 一斉に力を合わせ、魔王の扉を押す。

―ズズズズッ!

 ドアが勢いよく閉まっていく。

「ママアア」

「そんな!」

 魔王は引き戻されるかのように、扉の中へと入っていく。

 紫音は閉じようとするドアを慌てて掴んだ。

「やめろ! 閉めるな! こんな世界は滅べばいいんだ!」

 紫音は人間や怪を憎み、絶望を感じていた。

 だからこそ、皆を不幸にさせようと思っていたのだ。

 しかし、光一郎は首を大きく横に振った。

「この世界は希望で満ちているんだ! 思い一つでどんな辛い事も乗り越える事ができる。

 それを僕は琴葉ちゃんと知り合って気づいた。

 怪帰師として父親から期待されていなかった僕は、

 彼女と出会う事によって自信を、希望を持てるようになったんだ!」

「わたしだって、造られて、処分されそうになった。

 けれど、光一郎が拾ってくれて、わたしは嬉しかった!!」

「光一郎君……ユズちゃん……」

 琴葉の目に涙が流れる。

 それは嬉し涙だ。

「私も光一郎君とユズちゃんに出会えて成長できたよ!」

 光一郎と琴葉、そして怪達が魔王の扉をどんどん閉めていく。

「や、やめろ」

 紫音はドアを押さえながら狼狽える。

 そんな紫音の身体を誰かが握り締めた。

「ママアマママ……」

 魔王だ。

 魔王は元の世界に引き戻されながらも、紫音を連れにしようとしている。

「やめろ! 離せ!!」

 紫音は必死にもがくが、全く動けない。

 魔王の顔がそのまま元の世界に消えていく。

 腕も徐々に引き込まれていく。

「嫌だ! 僕は全ての世界を!」

 紫音は魔王の世界へと引きずり込まれていく。

 その時、紫音のもとに光が飛んできて傍に寄り添った。

 

「もう、やめましょう」

 光の中には女の人がいる。

 彼女は紫音に優しく声をかけた。

 その女の人を見て、紫音は目を大きく見開く。

「あ、彩夢……」

 紫音の通役だった幼馴染だ。

「霊魂のまま、この世界に残っていたのか……」

 紫音は8号に言って死んだ彩夢をアンドロイドとして蘇らせた。

 だが、通役の協力を拒んだので、また破壊して死者の世界に戻したはずだった。

『復讐なんて間違ってる。だから私はあなたに協力しなかった。だけど』

 彩夢は紫音に優しく微笑み、顔を近づけた。

『私はあなたが本当は優しい事を知っている。だからあなたの傍にいるわ。

 だって、私はあなたが大好きだから』

 そう言って、彩夢は紫音を抱き締めた。

「彩夢……」

 紫音の全身から力が抜ける。

 光に包まれながら、魔王の腕と共に扉の向こうへ入っていく。

 その表情は、どこか穏やかだった。

「彩夢……ごめんね」

 紫音は光に包まれながら、魔王の住む世界へと消えていった。

 やがて、ドアがゆっくりと閉まる。

 巨大な魔王の扉は花火のように大きな火花を四方に散らすと、そのまま消滅した。

 

「救えなかった……だが、あいつ的には、救われただろう……」

 ユズは、魔王の扉があった場所を見て、そう言った。

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