サスペンスー事件の始まり
ミレニアムサイエンススクール自治区上空 高度27,000フィート 午後10時18分
七度ユキノは輸送機の振動を感じながら緊張を顔に出すまいとしていた。
キヴォトスに怪獣が出現するようになってから半年が経過していたが、未だ新たな脅威と新たな職務について慣れることが出来ていなかった。
怪獣ー未知の物質で肉体を形成し、未知の生態を持ち、そして多くの人に等しく不幸をもたらす生物の姿をもつ厄災ー
それが表れ出した最初期は単なる噂に過ぎなかった。しかし、あらゆる学園の自治区に突如として出現し甚大な被害をもたらせばいかに腰の重い連邦生徒会とてその存在を認め、早急に対策を打たねばならないと認めざるを得なかった。
連邦生徒会長の失踪と時を同じくして結成された連邦捜査部S.C.H.A.L.Eを中心に、ミレニアムサイエンススクールの特異現象捜査部やヴァルキューレ警察学校公安局を始めとする組織の尽力により、対怪獣用特殊防衛部隊である
「Kivotos Defense Force」ー通称KDFーが結成された。
連邦生徒会長の失踪に伴い解体予定であったSRT特殊学園の生徒は、このKDFに身を寄せる事となり対怪獣用の特殊な訓練を受け、KDFの戦力となるべく日々鍛錬に励んだ。
ユキノはSRT特殊学園在籍時代においてトップクラスの成績を誇り、FOX小隊のリーダーとして活躍し七囚人の一人である孤坂ワカモを捕らえた実績を持っていた。
SRTの解体に伴いユキノらFOX小隊も皆ヴァルキューレ警察学校に編入予定であったが、連邦生徒会防衛室長に就任した不知火カヤの鶴の一声により、希望者はヴァルキューレではなくKDFに編入する事となった。
ヴァルキューレよりも実戦的な訓練を行ってきたSRTの生徒がどちらを選ぶかは誰から見ても明白であった。
そして今夜の出動に際し、ユキノ達FOX小隊ーコールサインや小隊名はSRT時代のものをそのまま用いているーが命じられたのは、怪獣の認知範囲を超えた高高度から自由降下を行いミレニアムサイエンススクール自治区内の高層ビルの屋上から、対怪獣用特殊弾頭を弱点と思われる鰓状の器官に二発同時に打ち込む事であった。
作戦開始前のブリーフィングによると、今回の目標は大型両性類怪獣ーコードネーム:ボグ・ウルグだ。
この名はとある名状しがたき邪神にまつわる書物に記載のある怪物に容姿が似ている事から名付けられたと言う。
ーやや緑がかった青い体色を持ち背丈は35メートル近くもある。イグアナに似ており、金属のような鱗を持ち、黄緑色の目に下顎には髭を生やし、背鰭はカミソリのように鋭く尻尾は平べったいー
これが報告にあった目標の外見的特徴だ。
午後9時20分頃、夜戸浦港から出現し1時間程でミレニアムサイエンススクール自治区内に侵入。現在はミレニアムの在校生とミレニアム自治区内に駐屯しているKDF部隊が交戦中との事。
怪獣との交戦はこれが最初と言う訳では無いが、何度経験してもやはり未知の生命体との戦いに身を投じるというのは常に恐怖が隣に居座っている。この感覚には一生掛かろうとも慣れないだろうとユキノは思った。
今回の作戦に際し降下用の装備を身につけている為、普段のセーラー服とは違う上下共に肌の露出を抑えたスーツを着ているのだが、スーツの気密性故に肌に張り付く様にフィットしている事が寒気を感じる要因かもしれないとも思った。
「皆、あと5分で降下地点だよ。」ユキノの隣に座る桃色の髪の少女ーニコが言った。
彼女はSRTの小隊時代から副隊長を務めている、ユキノにとっても小隊にとっても重要な友人にして仲間だ。
「帰ったら皆で焼肉行こうよ。」ユキノの対面の位置に座る薄い金の様な髪色の少女ークルミがJKらしさのカケラもない事を言った。
「それ、なんて言うか知ってる?死亡フラグってヤツだよ〜」クルミの右隣に座る鼠色の髪の少女ーオトギが軽口を返した。
作戦前に言うのはいくらなんでも不吉すぎないか?と思ったが、ユキノは特に触れない事にした。
「フラグはへし折る為に立てるものなんだよ〜」
「クルミの場合油断して回収するのがオチじゃん。この前の訓練の時だってさ〜」
二人は既にユキノとニコが済ませた点検と装備の着装をせずに談笑し続けている。
「二人とも軽口はそこまでにして任務に集中よ」
小隊の副隊長もといオカンを務めるニコが言った。
輸送機内のブザーがなり、クルミとオトギは慌ててジェットパックの簡易点検を行い呼吸用マスクとバイザー付きのメットを装着した。
ユキノが立ち上がり、直後に3人も立ち上がって輸送機の降下準備位置に移動する。
「「「「準備よーし!」」」」
ハッチが上下に開き、漆黒の夜空と灯りの灯ったミレニアムのビル群が瞳に映し出される。
これが任務でなければ最高の夜景だったろうにとユキノは一瞬考えたが直ぐに雑念を振り払った。
ハッチの先まで移動しいつでも降下出来る体勢を整える。背後に3人の気配を感じユキノは振り返った。
「降下開始!」
眼科のネオン輝きを放つビルが乱立する街の中に、蠢く巨大な影と立ち上る火と煙が見える。
4人の少女は深淵に吸い込まれるかの様に身を宙に投げ出した。
一瞬時が停滞したかの錯覚の後、眼科の大地が信じられない程の速度で近づいてくるーそんな錯覚をユキノは感じた。
身を叩きつける強烈な風と鼓膜を震わせる風切り音と共に目標地点に向かって降下し続ける。
巨影の主が突然空を見上げた。名状し難き蜥蜴の様な怪物と目があった様な気がした。
反射的に銃を構えようとして両手に装備したジェットパックを放棄する訳にいかない事に気づきユキノは舌打ちした。
兎に角、目標地点までの規定の高度を超過するまではジェットパックを両手に保持し続けなければならないし、その後に速度を落としつつ安全に屋上に降下する為にも今両手のブツを捨てる訳にはいかなかった。
ユキノは自身の感覚が杞憂である事を祈りつつ降下を続けた。
果たして、怪物は4つの影が見えなかったのか、あるいは興味がないのかは定かではないが再び摩天楼の街を移動し始めた。
つつがなくジェット噴射による降下を行い4人は別々のビルの屋上に降り立った。
「こちらFOX1、降下完了。直ちに目標地点に移動を開始する。」
「こちらFOX2、降下完了。こちらも目標地点に移動を開始。」
「こちらFOX3。2人と一緒〜」
「FOX4も同じで〜す。」
あんまりな通信に対してわざわざ文句をつける者はこの場には残念ながらと言うべきかいなかった。
4人の少女は行動を開始した。
最初なんでこんなもんで