廃人がダンまち世界に行くのは間違っている   作:沸騰

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フィリア祭 ベル・クラネルの場合 1

「レフィーヤ!凄かったよ!」

「ティ、ティオナさん!?」

 

 小さいアマゾネスが己の傷も構わずにエレアに抱き着く。先ほどの魔法、例えるならアイスボールの強化版といった感じか。ノースティリスではゼームの魔法と同等くらいの威力はあっただろう。問題はイルヴァの魔法って詠唱必要ない事なんだが……やはり攻撃魔法はイルヴァ世界の方が有利か?

 

「ロミアス君もお疲れ!いやーやっぱり強いね!」

「ありがとうございます」

「いやありがとうございますじゃなくて、アンタ一人で如何にかできたでしょうが」

「レフィーヤ、リヴェリアみたい……だったよ。凄かった」

「アイズさん!」

 

 ヴァレンシュタインさんに褒められてエレアの人が眼をうるうるさせている横で大きいアマゾネスがうんざりした顔でこちらを睨んでくる。俺が全部やったらつまらなくない?

 するとハッとした顔でエレアがこちらに頭を下げてくる。

 

「あ、あの……守ってくれてありがとうございます」

「いえ、後衛を守るのは前衛の役目ですから」

「そうよレフィーヤ、この男は普通の事をしただけだから!」

 

 大きいアマゾネスが声を張り上げるがほんそれ、一々MMOで後衛がありがとうスタンプ押して来たらうぜえわてめえってなる。でも一回もありがとうされないのもあれな気持ちになるからありがとうの用法用量は考えよう。

 で、俺の事をじっと見ているヴァレンシュタインさん。なんだろう?めっちゃ睨んでる。

 

「その――」

「いやーお疲れさん」

 

 ヴァレンシュタインさんが何か言いだそうとした時に赤髪の神、ロキ神が冷気によって霜が降りた瓦礫を跨ぎながらやって来る。その後ろにはギルド職員や【ガネーシャ・ファミリア】の眷属も見えた。

 どうやら地下に居るモンスターはこれ以上こちらにやってくる感じはしない。この都市下に地下迷宮もあるし色んな派閥があるんやろな。

 

「ロキ」

「いやぁビビったで……なんや地震かと思ったらでっかいモンスターがぽーんってふっ飛ぶんやから」

 

 ああ、あれね。加減したんだけど思ったより飛んでびっくりしたわ。ここのモンスター鍛え方がちと足らんとちゃうん?モルホル君は今日からシェルター生活を楽しんでほしいと思う。いやでもその前にクラネル君とやらせてみようかな……楽しみだね。

 

「ああ、すみません加減したんですが思ったより飛んでしまい」

「……いや、あれで加減したんまじ?おっかない兄ちゃんやとは思っとったけど……って、今はお話してる場合とちゃう。まだ仕事残っとるで!!」

 

 俺を見てドン引きしたロキ神がパンパンと手をたたいて眷属たちを見た。まだ残りの1体モンスターが逃げ出しているが……ペットフォンを見るとクラネル君の残りHPは40%ってところか。さて、どうなるかな。俺はワクワクしていた。

 

「おっかない兄ちゃん、聞きたいんやけどまだ地下にモンスターおる?」

「いますね。虫っぽいやつも何匹か」

「うげ、あいつら居るの?」

「んじゃあティオナ達は地下に行って貰ってええ?アイズは残ってるモンスターのとこ」

 

 ギルド職員から渡された武器を持ってダルそうにしているアマゾネス二人は流石にあの武器があれば負けることはないだろう。それはそれとして。

 

「回復しましょうか?そこまで傷は負っていないでしょうが、念のために」

「なんや回復魔法出来ん?ほな頼んでもええ?料金は弾むわ」

 

 一人一人治すのがだるいので治癒雨でちゃっちゃと治すわ。はい治癒雨。

 

「治癒雨」

「うわ、治った。回復魔法の超短文詠唱?」

「暖かい……」

 

 アマゾネス二人の負った怪我も手の皮が捲れたり足に痺れがある程度のものなので意味はないと思うが一応。そしてそれを見たエレアが驚愕の顔をしている。

 

「ちょ、超短文詠唱を2つも?」

「はいはい小娘ども、兄ちゃん気になるのは分かったからまずは仕事してきぃ」

 

 ロキ神の一言で眷属たちは仕方ないかぁと各々の持ち場へと向かていく。去り際にはエレアとアマゾネス二人に感謝を述べられて、ヴァレンシュタインさんからはじーっと見つめられた。

 

「っし、ほな聞きたいことあるんやけど……兄ちゃん誰や」

 

 薄っすらと糸目を開眼して見るは朱の瞳孔。嘘は許さないと神眼をこちらに覗かせる。

 

「ロミアスって言いますけど……」

「ほかほか、ロミアスっちゅうんか~って!いやちゃうねん!名前聞いとら……ロミアス?」

 

 似非関西弁だが良いツッコミだ。俺が感心していると『んん?』と記憶の底から引っ張るような声を上げるロキ神。

 

「あー……兄ちゃんあのドチビ……ヘスティアの眷属か?」

「はい。神ヘスティアの眷属のロミアスですけど……」

「じゃああのドレス作ったちゅうんも!?」

「まあ俺ですけど……」

 

 かーまじかーと大げさに手で頭を押さえるロキ神。そしてうーんと手を組んでむむむと唸っている。何がムムムだと言いそうになったが俺は耐えた。

 

「よっし!ロミアスはんウチに来おへん?」

「まさかの神からヘッドハンティングされるとは……」

 

 なんか前にも同じファミリアから同じような事言われたな……

 

「いえ、神ヘスティアに恩義も……恩は無いか。ただまあ約束したので」

「そうなん?律儀やなぁ……ほな兄ちゃん個人にドレスの依頼とかは良いん?」

「恐らく大丈夫だと思います。一応神ヘスティアに聞いておきますが」

 

 なら先ずはええわ。と言って彼女はヴァレンシュタインさんの方を見てくると言い行ってしまった。あのドレスそんなに気に入られたのだろうか?

 俺はどうしようかな。クラネル君の方に行くか。恐らくだがこの騒動はクラネル君がターゲットになってるんだよな。理由は分からん。彼、物語の主人公だしなんかあるんだろう。で、この植物モンスターはまた別件だろうなぁ……クラネル君を追いかけてるやつとオラリオ全体を如何にかしたいやつがいる?にしてはあの程度のモンスターを4匹出すだけなのは被害もそこまでないし杜撰だが……考えても埒が明かないか。

 まあ俺が自ら進んでどうこうすることは無いと思うが……願わくばクラネル君の糧になってくれることを祈ろう。

 

「あれ、ロミアスさんなんでこんなとこに?」

「ミィシャさん」

「ここはさっきまで凶暴なモンスターが暴れてたから立ち入り禁止でーす。ほら、危ないから【ガネーシャ・ファミリア】の人のとこへ」

「ああ、成程。分かりました」

 

 俺は俺の事を知らない【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちに連れられて避難した。大丈夫ですか?と心配されて面白かった。避難所に行くとなんであんたが避難してんだよと言われてしまった。

 

「酷くないか?」

「いや、まあモンスター戻してくれて感謝はしてるんですけど残り一匹が、しかもあのシルバーバックでしょう?見つからないと安心できなくって」

「ん~多分もう死んだよ。あのシルバーバック」

「ほんとですか?何で分かるんだアンタって言いたいところですけどそれは置いといて、せっかくロミアスさんが連れてきてくれたのに、勿体ないですね」

 

 彼は残念そうにそう言うが俺的には嬉しい限りだ。

 

「いや、そうでもないかな」

 

 クラネル君がまた一つ強くなった。俺が笑顔を見せると彼は呆けた顔をして一言。

 

「やっぱロミアスさんこの事件の首謀者だったりします?」

「違うよ?」

 

 本当に違う。本当である。また訓練するぞオラ。昨日隙間時間作ってモンスター運ぶの手伝ったんだからな俺。

 

「一回俺と手合わせしとく?」

「えっ怖い、さっきの会話からその思考になる事と手合わせ自体が怖い……団長呼びますよ?」

「ヴァルマ嬢も一緒に訓練か……」

「ダメだこの人に通じねえ!」

 

 とりあえず俺ははぐれた仲間を探すと言ってその場を後にした。

 

 

――side ベル・クラネル――

 

 シルさんを探すためにロミアスさんと別れた僕は闘技場に行く道で神様と合流をした。祭りのショーが始まったのを皮切りにストリートにいた人たちが闘技場に流れて行ったのか、メインストリートにいる人陰は随分と疎らになっている。

 

「そういえばベル君、ロミアス君は一緒にいないのかい?」

「ロミアスさんですか?シルさんのお財布を受け取ったときに別行動になったんですけど……どうかしたんですか?」

「いやぁ……ちょっと頼みたいことがあってね……」

 

 神様がどこか遠い目をしている僕は良く分からずにうろたえる。

 

「あ、あの神様?」

「んん!まあそれは良くってだね!ベル君!今君が探している女の子と言いさっきのアドバイザーと言い君は本当に抜け目がないなぁ……駄目だからね!そんなにホイホイと女の子に付いていったらだらしなくなっちゃうよ!」

「ええっと、ホイホイ付いて行ってるつもりはないんですけど……」

 

 神様が此方の非を訴えてくるので僕もちょっと苦笑いしながら弁明するしかなかった。

 

「―?」

「どうしたんだよ、ベル君?」

 

 前触れ無く足を止めた僕を、数歩前で歩いていた神様がぶすっと振り返る。けどそれどころじゃない。僕の”感覚”が何か違和感を掴んだ。冷めきらない祭りのざわめきとは別の……獣が唸るような声が一瞬、耳に入った。まさか、モンスターの脱走?次の瞬間、女性の鋭い悲鳴がしっかりと聞こえた。

 

「っ!神様!モンスターが!」

 

 不味い!そう思い咄嗟に神様に警戒を促そうとした時にはもう遅かった。

 

「モンスターだぁあああああ!!!!」

 

 一瞬、街の人たちは動きを止めてまるで時が凍り付いたような耳に痛い静寂が訪れる。そして、聞こえた。巨体が一直線に走る重厚な鈍い音。僕が今までに相手をしてきたような人並みの大きさではないモンスター。闘技場方面からこちらに走ってくるモンスターを僕は見た。

 それは純白の体毛を持った一匹のモンスター、エイナさんから上層のモンスターを覚えた方が良いと言われて記憶だけはしていた……11階層以下に生息する怪物……シルバーバック!

 

 そのモンスターは明らかにこちらを、いや神様を狙っている!その姿を確認した住人は各々が散り散りになっていったが、逃げ惑う彼らに見向きもせずにこちらに照準を合わせている!

 

「べ、ベル君……」

 

 神様の手を握って僕は後ろへ駆け抜けた。正直に言ってあの巨体を見たときにミノタウロスの姿を幻視して身の毛がぶわっと逆立つのを感じて走ってる今でも背中から嫌な汗が止まらない。ロミアスさんに鍛えて貰った自分の感覚が叫ぶ。あれには勝てないと。だから逃げる。

 早く動けよ僕の足!そう思った瞬間、背中から特大の悪寒が身を焼く。

 

「っ!!」

 

 咄嗟に神様に腕を回して抱きかかえるように真横に飛ぶと、先ほど僕たちがいた場所にアイツの腕についている重い鎖が叩きつけられた。凄まじい威力で地面にクレータが出来て放射状に割れた地面の破片が弾丸となって周りに飛び交う。もしあそこで回避できなかったら、死んでいた。

 腕が、震える。先ほどの攻撃でより今の自分がどれほど危険に陥っているかを理解した。嫌な汗が全身から湧き出て口に入る。

 

 逃げるのは、不可能。アイツの狙いは何故か分からないけど神様。立ち向かうな、殺されるだけだ。どうにかして逃げろ。頭の中でガンガンと警鐘が鳴り響いて頭痛がする。

 

『グァア……!!』

 

 来る!と思ったと同時にシルバーバックはこちらにその丸太ほどの腕を振り下ろした。

 神様を抱きかかえたまま僕は攻撃を避ける。避けて避けて、何とか気が付く。ロミアスさん程の攻撃じゃない!あの人の攻撃みたいにこちらが近付いたらいつの間にか切られていたとか、予備動作無く首にナイフを当てられるような事もない。速度は僕より早いけど。

 

(起こりが見えるし動きも単調――!)

 

 これなら神様を逃がせる!大ぶりの攻撃を精一杯距離を取って避けると神様を降ろした。

 

「神様、なんでか知りませんけどあのモンスターは神様を狙っています!僕が足止めをするので、誰か呼んできてください!」

「おいおい!君はどうするつもりだよ!」

「今の僕なら何とか攻撃を避け続ける事が出来ると思います!」

「わ、わかった!ベル君!」

 

 ここでなんとか持ちこたえれば、そう思ったけれどアイツは走って行った神様を見逃すかと脚に力を入れて飛び掛ってくる。

 

「させるか!」

 

 何とか気を引こうと飛び掛る前の予備動作に合わせてナイフを当てるが、キィンと言う金属の悲鳴が聞こえる。ナイフが欠けることはなかったが、純白の体毛に阻まれてしまう……刺さらない!?いや、それどころか、傷一つ付かないだって―!?

 シルバーバックの動作は殺せたがその代わりにまるで鬱陶しいものを散らすようなシルバーバックの薙ぎ払いを受けてしまい僕は屋台に弾き飛ばされる。

 

「ベル君!?」

 

 不味い!ナイフで何とか直撃は免れたし受け身も取れた、僕の怪我はほぼない。でも神様が無防備だ。シルバーバックはまだ立っている僕なんか見向きもせずに神様に狙いを定める。脅威にさらされて立ち竦むあの人が見えた。周りに助けてくれる人は、いない。どうにか、どうにか……何かないか……そうだ!

 

「うおあああああ!!」

 

 僕は持っていた液体をシルバーバックに投げつける。

 

『グ?ギィアアアオオオオ!!?』

 

 パリンと甲高い音と共にガラスが割れて中の液体が飛び散る。僕の事を見向きもせずに避けようともしなかったシルバーバックはまともに液体を浴びる。純白の体毛は音と煙を立てて黒く変色して皮膚までもが液体に晒されて溶けだす。感じたことのない痛みにシルバーバックが大声を上げて怒りだす。

 

「神様!すみません、全然逃がせなくって!」

「ベル君!いや、それよりもあれは?」

「ロミアスさんから貰ったポーションです。溶かすって言ってました」

「溶かすんだ」

 

 体から煙を上げるシルバーバックは怒りに身を任せて手当たり次第にその剛腕を振るい始める。腕と、そして手首に着いた鎖によって周りの物は悉く破壊されてしまい、本来の逃げ道は危険地帯となってしまった。

 

「すみません神様!」

「おわっ!?な、なあベル君今更なんだが重くないよな?ボク重くないよな?」

「こんな時に何言ってるんですか神様!?」

 

 大通りだと逃げることも出来ない!そう悟った僕は神様を再び抱えて路地裏へと続く道に飛び込んだ。

 

 狭い路地裏で経路を考えながら走るけれど、後ろから物を破壊する音が響いてくる。このままじゃ追いつかれる。他にもモンスターが逃げ出したのか路地には誰もいなかったのが幸いか。どうにかして、そう思ったときにまた先ほどの悪寒が背中を走った。

 

「っく!」

 

 考えている場合じゃない!そう思うと同時に強く前へと地面を蹴ると間一髪で敵の攻撃を避ける。なんとか、なんとか少しでも気を引かないと――ロミアスさんの言葉が蘇る。

 

『ん?絶対に勝てない敵とあったらどうするか?』

『はい。ロミアスさんならどうするかなって……』

『あー……初心者の頃なんだけど、スライムに勝てねえってなってね。それで取った作戦は遠くから魔法撃ったり……後は壁生成で如何にかした時もあったなぁ。まあ要するにあれだ。敵の行動を制限して弱点を突くだね』

 

 制限は出来ている。巨体のシルバーバックにこの狭い路地裏はどうにも走りにくいようで先ほどから苛立ったような雄叫びを何度も上げている。弱点……振り返ってシルバーバックを見ると、先ほどポーションを被った場所が大きく焼けただれているのが見えた。

 

「あそこなら……」

「ベル君?待つんだ!ベル君!!」

 

 神様を置いて僕はナイフを構えて相手に向かって走る。怖いなんて言ってられない!見切ること自体は出来ている!僕はロミアスさんに技術を教えてもらったんだぞ!臆するなベル・クラネル!

 

『ギュアオオオオオオ!!』

 

 先ほど自分に謎の液体をかけたのが僕だと理解しているのかシルバーバックは理性の無いような目を神様ではなく僕に向けてきた。そして雄たけびを上げて怒りのまま横からの腕払いが振るわれるが、狭いせいか壁に当たってしまい威力も速度も激減している。脚に力を入れて上に飛び見舞われたその腕に乗って走る。

 そして今僕が持てる全身全霊をもって焼けただれた右肩の部分に『襲影の刃(シャドウ・エッジ)』を振りぬいた――

 

『グ!?ギアアア!!』

「効いてる!……っく!」

 

 先ほどとは違い深々と刺さった襲影の刃(シャドウ・エッジ)はシルバーバックの硬い筋繊維をブチブチと切り裂く。痛みに耐えかねたのかシルバーバックは全身を振り回して僕を弾き飛ばす。これ以上は危険だと判断して僕は肩から飛び降りると右肩をだらんと下げたシルバーバックが眼に映った。行ける!油断でも慢心でもなくそう思った。奴の片腕は使い物にならなくなった。確かにその牙と左の腕に両脚はまだ健在だが先ほどと比べても大分楽になったのも事実。

 このまま、ここで倒す!

 

『グオオオオ!!』

 

 怒りのままに今度は左腕を振り回すけれど明らかに先ほどの右腕よりも遅く精度が甘い。だが威力はそこまで変わらずに破片の弾丸が結界の様になって中々詰め寄ることが出来ない。何よりも神様に当たるかもしれない。僕が神様に当たりそうな破片を見切ってナイフで弾いているとそれを隙だと感じたのかシルバーバックがこちらに突進してくる。でも!

 

『グアアオオオオオ!!』

「はあああ!!!」

 

 突撃してきたその腕と牙をギリギリのところで躱して無防備になったその胸へと――思い出せ、いつも訓練で見せてくれるあの人の業を!腕で振るわずに、相手の速度を利用して、体全体の体重を使い、弧を描くように!!襲影の刃(シャドウ・エッジ)を振り下ろす―!!

 

『グギッ!?』

 

 深い!夢にまで見たというか、本当に夢でも見たあの人の短剣技術とは比べるまでもないが今までの僕では考えられない鋭さでシルバーバックの胸を深々と切り裂いた。

 そしてシルバーバックは背中から倒れてあたりにズシンと地響きが鳴った。

 

「……ふ、ふぅ……っ神様!大丈夫ですか!」

「あ、ああ大丈夫だよベル君。ちょっとびっくりしちゃったけどね!いやあしかしあんな強そうなモンスターをほとんど無傷で倒すなんて凄いじゃないか!流石ベル君!」

「いえ、僕じゃなくてロミアスさんが凄いんですよ。ロミアスさんに短剣を教えて貰わなかったら絶対に最初の一撃も――っ!!」

 

 その時、先ほどとは比較にならないほどの悪寒が、いやロミアスさんとの地獄の訓練で培われた生命維持のための防衛本能が体を動かした。

 

「神様!危ない!」

「え?ベル君?」

 

 急いで神様を庇うように前に立つが、何も来ない。そこにあるのは倒れたシルバーバックのみ……いや、なんであのシルバーバックは消えていない?ダンジョン産のモンスターは外に出ても死んだら塵になるはずだ。であれば――あれはまだ死んでいない。

 

 不味いと思ったときには遅かった。シルバーバックは瓦礫をまき散らしながら立ち上がった。純白の体毛を深紅に染め上げて。

 

 ベル・クラネルは知る由もないが、これがあの時捕まり魔石を鱈腹食べさせられたシルバーバックであり、もしダンジョン内で現れたら強化種としてレベル1冒険者が幾人も犠牲になったであろう怪物。

 魔石を短時間に大量に摂取したせいで強化種になったそれは普段の状態でも他のシルバーバックの身体能力を圧倒し、更に生命の危機に陥ると体毛が燃えるように赤く染まる。特殊な能力こそないが高い再生能力に格段に上昇した身体能力によってレベル2冒険者ですらも危うい存在に変貌したものである。

 

『ギオオオオオ!!!!』

 

 一拍遅れて、咆哮。啼くはレベル2相当の化け物。対するは未だレベル1のステイタスも貧弱である駆け出し冒険者。その怪物が、白兎を睨みつけた。

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