本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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88話 敵の敵は味方?

 

「アンブリっち先生……」

 

 呟いたのはロメルダだった。

 アンブリッジ先生の笑顔が、ほんの少し深くなった。

 

「まあ」

 

 その声は、砂糖を煮詰めて校則で固めたみたいに甘かった。

 

 終わった。

 

 わたしはそう思った。

 ハーマイオニーもそう思った顔をしていた。ロンはすでに両手で顔を覆っていた。ドラコは無言で一歩下がった。可能ならいなかったことにしようとしている様子だった。

 

 けれど、ロメルダだけは違った。

 

「アンブリっち先生何でここにいるの? この女子トイレは水浸しになるから使うのやめたほうがいいよ」

 

「ロメルダ!」

 

 ハーマイオニーの声が、悲鳴になった。

 ロンがぼそっと言った。

 

「いいやつだったよ、ロメルダ」

 

「縁起でもないこと言わないで!」

 

 ところが、アンブリッジ先生は怒鳴らなかった。

 彼女の視線は、わたしたちではなく、床に開いた暗い入口に吸い寄せられていた。

 

 にっこり笑ったまま、ゆっくり近づいてくる。

 わたしは覚悟した。

 

 怒られる。

 

 ものすごく怒られる。

 

 図書室から追い出され、女子トイレに集まり、秘密の部屋を開け、しかもそれを課外授業の練習場所候補として検討していたのである。言い訳の余地がない。言い訳の本を十冊積んでも足りない。

 

 なのに、アンブリッジ先生の目はきらきらしていた。

 

「秘密の部屋は……存在したのね!」

 

 感激していた。

 

 わたしは固まった。

 ロンも固まった。

 

 ハーマイオニーは、アンブリッジ先生を見る目つきが一段階鋭くなった。あれは「敵」ではなく「危険な読者」を見る目だった。

 

「アンブリッジ先生?」

 

 パドマが恐る恐る声をかけた。

 

 アンブリッジ先生は、はっとした顔になった。

 

「ェヘン、ェヘン」

 

 咳払いが二回。

 

 一回目は読者としての感激を隠すため。

 二回目は教師としての威厳を取り戻すため。

 

 たぶん、そういう咳払いだった。三回目があったら魔法省職員としての顔も戻っていたかもしれない。

 

「何故、このような場所に生徒がたくさん集まっているのかしら?」

 

 誰も答えなかった。

 

 答えられるわけがない。

 答えた瞬間、わたしたちは「秘密の部屋を実技の練習場所候補にしようとしていました」という話を説明しないといけなくなる。

 

 沈黙を破ったのは、セオドールだった。

 

「女子トイレから叫び声が聞こえましたので」

 

 セオドールはあまりにもしれっとしていた。

 

「何か危険があったのではないかと思い、集まりました」

 

 嘘ではない。

 

 叫び声は聞こえた。主にマートルの声だ。

 

「まあ」

 

 アンブリッジ先生は口元に手を当てた。

 

「女子生徒の悲鳴を聞きつけて集まった、ということですのね」

 

「はい」

 

 セオドールは涼しい顔で答えた。

 ロンが横で小さく呟いた。

 

「もう死んでる女子生徒だけどな」

 

「しっ、聞こえる」

 

 アンブリッジ先生は、開いた入口をもう一度見た。

 顔が少し引き締まる。

 

「闇の魔術に対する防衛術の教師としては、内部を確認しないわけにはまいりませんわね」

 

 ハーマイオニーが目を見開いた。

 

「先生、お一人で入るのは危険です」

 

「心配には及びません」

 

 アンブリッジ先生はにっこりした。

 

「教師ですもの」

 

 その一言で安全になるなら、ホグワーツの歴代防衛術教師はもっと長く勤めている。

 しかし、アンブリッジ先生は止まらなかった。

 ピンク色のローブをつまみ、入口の前に立つ。

 

 わたしは思わず言った。

 

「あの、中には本が」

 

「本? 『ヘンリー・ポーターと秘密の部屋』にもそんな記述がありましたわね」

 

 アンブリッジ先生の目が、また少し輝いた。

 

 しまった。

 

 この先生、今は教師と読者が同時に動いている。もっとも厄介な状態である。

 

 アンブリッジ先生は慎重に中へ入っていった。

 

 わたしたちは入口の前で待った。

 誰も喋らなかった。

 喋れなかった。

 

 少しして、アンブリッジ先生が戻ってきた。

 不思議そうな顔をしていた。

 

「ここは……何の部屋だったのかしら」

 

 誰も答えなかった。

 

 資料室です、と言えば押収されそう。

 

 秘密の書庫です、と言えば怒られそう。

 

 実技の練習場所候補です、と言えば全員終わる。

 

 アンブリッジ先生は首を傾げた。

 

「サラザール・スリザリンの遺構にしては、ずいぶん本が多い場所でしたわ。バジリスクもいないですし、やはりダンブルドアが処分したのかしら」

 

 ロメルダが、そこでアンブリッジ先生に近づいた。

 

「アンブリっち先生、こういう時はまずお茶ですよ」

 

「お茶?」

 

「秘密を見つけた時って、気持ちが高ぶるじゃないですか。高ぶったまま判断すると、恋も政治もだいたい失敗しますよね」

 

「恋と政治を並べるのはどうかと思いますわ」

 

「でも失敗例、似てませんか?」

 

 アンブリッジ先生が考え込んだ。

 

 考え込まないでほしい。

 今のロメルダの言葉を政治判断に採用しないでほしい。

 

「……一理ありますわね」

 

 あるの!? 

 

 わたしは心の中で叫んだ。

 

 ロメルダは得意げに笑った。

 

「本日は解散なさい」

 

 アンブリッジ先生はにっこり笑った。

 

「詳細は、追って確認いたします。私はティータイムにしますわ」

 

 生徒たちは、ぞろぞろと女子トイレを出ていった。誰も騒がなかった。秘密の部屋が本当に開いた興奮より、アンブリッジ先生に見つかった現実の方が重かったからである。

 

「アンブリッジ先生ってあんな感じだったっけ?」

 

 わたしが思わず呟くと、ハーマイオニーが隣で小さく言った。

 

「マインの置いた書庫を見たら、みんなそうなるわ」

 

「どういう意味?」

 

「何の部屋か分からなくなるという意味よ」

 

「ひどい」

 

 女子トイレを出ると、廊下にトムが待っていた。

 

 トムは、わたしたちを順に見た。

 

 わたし。

 

 ロン。

 

 ハーマイオニー。

 

 ジニー。

 

 アーニー。

 

 パドマ。

 

 ロメルダ。

 

 ルーナ。

 

 ハリー。

 

 それからドラコ。

 

 ハリーとドラコには、ほんの一瞬だけ視線を向けた。

 

「魔法書研究会の者は来い」

 

 声が低かった。

 

「ハリーとドラコは来なくていい」

 

 ドラコの顔が、ほんの少しだけ変わった。

 理解した顔だった。

 

「なんで僕たちだけ仲間外れなんだ?」

 

「いいから行くぞ」

 

 ドラコは不思議そうな顔をしているハリーを引っ張って消えていった。

 

 トムはそのまま歩き出した。

 誰も逆らわなかった。

 逆らえる空気ではなかった。

 

 トムの部屋に入ると、扉が閉まった。

 

 スリザリンの緑を基調とした部屋で、マルフォイ家にいたときと似ていた。

 部屋の中は整っていた。本棚にはたくさんの本が並び、机の上には羊皮紙がきっちり揃えられている。

 

 つい習性で本棚に新しい本がないかと本棚を見てしまう。

 

「座れ」

 

 トムが人数分の椅子を魔法で出して言った。

 

 わたしたちは出された椅子に座った。部屋に対して人数が多いはずなのに、不思議と部屋の中に収まっていた。

 

「なぜ、僕に相談する前に、課外授業の教室を探し始めた?」

 

 最初から本題だった。

 

 逃げ場がない。

 

「わたしは止めたんだけど、気がついたらハリーに秘密の部屋を開けさせることになってたんだよ」

 

 今回はわたしのせいじゃないという訴えは伝わったのか、トムはため息をついた。

 

「まあいい。これを見ろ」

 

 トムは机の上の羊皮紙を一枚取り上げた。

 

 そこには、ホグワーツ城内の簡略図と、いくつかの候補地が書き込まれていた。赤いインクで消された場所が多い。図書室にも、中庭にも、クィディッチ競技場にも、見事に線が引かれていた。

 

 わたしは身を乗り出した。

 

「図書室、最初から却下されてる」

 

「当然だ」

 

 ロンが横から覗き込んだ。

 

「クィディッチ競技場の理由は?」

 

「箒を持った者が混ざる」

 

「合ってる」

 

 ジニーが即答した。

 

 アーニーも図を覗いた。

 

「中庭は?」

 

「見えすぎる。アンブリッジの巡回経路に近い」

 

「物置部屋は?」

 

 ロメルダが聞いた。

 

「狭い。換気ができない」

 

 トムは羊皮紙を机に戻した。

 

「実技の授業に使う場所はもう決まっている。後で連絡するからもう練習部屋は探さなくていい」

 

 ロンが両手で顔を覆った。

 

「じゃあ、僕たちは何のために図書室を追い出されて、女子トイレに行って、秘密の部屋を開けたんだ?」

 

「全く無駄な行動だったね」

 

 トムは冷たく言った。

 パドマがすぐに手帳を出した。

 

「では、広告の問い合わせにはその場所を案内しても?」

 

「まだだ」

 

「なぜですか?」

 

「人数を絞る」

 

 トムの声が低くなった。

 

「実技を習いたい者、噂を見に来る者、こちらを探る者を分ける必要がある。今日、君たちはそれを証明した」

 

 部屋の空気が少し変わった。

 

「本に書かれていた。誰かが言った。面白そうだった。証明になると思った。それだけで、三階の女子トイレに集まり、秘密の部屋の入口を開けた」

 

 誰も言い返せなかった。

 

「アンブリッジがヴォルデモートとつながっていたら、どうするつもりだった?」

 

 部屋の空気が冷えた。

 

 ヴォルデモート。

 

 その名前をトムが言うと、いつも少し奇妙な気分になる。自分の古い影を、他人事みたいに呼んでいるようで、でも完全には他人事ではない声だった。

 

 ハーマイオニーが口を開いた。

 

「二人はつながっていないと思います」

 

「理由は?」

 

「あの人は魔法省側です。権威を疑わない。自分が正しい制度の側にいると思っている。だから、死喰い人の思想と重なる部分があっても、ヴォルデモートの部下として動いているわけではないと思います」

 

 ハーマイオニーは一度言葉を切った。

 

「たしかに、あの人は『稲妻の少年』シリーズの読者です。でも、白銀卿を本気で信じているというより、自分に都合よく読んでいる。あくまで読者であって、実行犯ではないと思います」

 

 トムの目が、ほんの少しだけ細くなった。

 

「いい洞察力だ。グリフィンドールに五点」

 

 ロンが小さくガッツポーズをした。

 ハーマイオニーは真面目な顔のまま、耳だけ赤くなった。

 

「ハーマイオニーが言うとおり、アンブリッジは敵ではない。少なくとも、今はね」

 

「じゃあ、味方?」

 

 ジニーが聞いた。

 

「違う」

 

 即答だった。

 

「敵ではないことと、味方であることは違う。ただし、敵に回すより、話が通る位置に置いた方がましだ」

 

 ロメルダがぱっと顔を上げた。

 

「だからトム様はあたしに、アンブリっちと仲良くしろって言ったんだね」

 

 全員がトムを見た。

 トムは一瞬だけ黙った。

 

「そんなこと言ったの!?」

 

 わたしは声を上げた。トムは顔をしかめている。

 

「ロメルダに相談されたんだ。どうすればアンブリッジに目をつけられずに済むかと」

 

「あたしよく教師に目つけられるんだよね。だから先にトム様に相談してたんだ。そしたら、友達になればいいってアドバイスくれてさ」

 

 ロメルダの制服の着崩し方がかなり自由なのが大半の理由に違いない。

 

「うへえ、アンブリッジと友達かよ」

 

 ロンがうめき声をあげた。

 

「でも仲良くなったよ?」

 

「なりすぎだ」

 

 トムの声が低くなった。

 ロメルダは首を傾げた。

 

「恋愛小説の貸し借りをしてるだけだよ?」

 

「なぜ教師と生徒が恋愛小説の貸し借りをしている」

 

「いいじゃん、細かいことは」

 

 トムは目を閉じた。

 わずかに疲れて見えた。

 

「ロメルダ、君はマインとは別の意味で想定外すぎるけど、アンブリッジと仲良くなったのなら上手くそれを生かしてくれ」

 

「はーい」

 

 ロンがハーマイオニーに小声で言った。

 

「ロメルダに人間関係を任せていいのか?」

 

「適任でしょ」

 

 ロメルダはにこにこしていた。

 

「でもアンブリっち、悪い人じゃないよ。めんどくさいだけで」

 

「その評価は油断を生む」

 

「めんどくさい人を放置すると、もっとめんどくさくなるよ?」

 

 部屋が少し静かになった。

 それは、妙に説得力があった。

 トムは、ものすごく嫌そうに認めた。

 

「……そこは否定しない」

 

「でしょ?」

 

 わたしは思った。

 トムの作戦が、ロメルダの解釈で別の生き物になっている。

 しかも、少し効いている。

 それが一番怖い。

 

「そういうトムはどう対処するつもりだったの?」

 

「服従の呪文を使わない程度に、上手くやってる」

 

 トムがさらっと言った。

 

 部屋の中が静かになった。

 ロメルダが小声で言った。

 

「使わない程度、って基準が怖くない?」

 

「怖い」

 

 わたしは即答した。

 トムは聞こえないふりをした。

 

「問題はアンブリッジではない。ホグワーツには敵がいる可能性がある」

 

 その言葉で、空気が変わった。

 

「敵?」

 

 アーニーが身を乗り出した。

 

「死喰い人か?」

 

「あるいは、その協力者。あるいは、本人がそう自覚していない駒」

 

 トムは淡々と言った。

 

「ダンブルドアから指示があった。魔法書研究会のメンバー全員に、閉心術を学ばせるように、と」

 

「閉心術?」

 

「心を読まれないための技術だ」

 

 本で読んだことがある。

 閉心術は人から心を覗き見されないために学ぶものだ。人の心を読むことができる開心術に対する防御術として有効な手段だった。

 

「特に君だ、マイン」

 

 トムがわたしを見た。

 

「欲望がだだ漏れだ」

 

「欲望って言い方やめて!」

 

 パドマが静かに手を挙げた。

 

「ドラコを呼ばなかった理由は?」

 

 トムはパドマを見た。

 

「ドラコは敵だと思え」

 

 その言葉は、部屋の中に重く落ちた。

 

「少なくとも、敵でないと確認できるまでは。本人に敵意があるかどうかの話ではない。僕の見立てだと、彼はすでに閉心術を学んでいる」

 

 ハーマイオニーが息を呑んだ。

 

「閉心術を?」

 

「完全ではないが、基礎はある。誰に教わったのか。何のために教わったのか。本人がどこまで自覚しているのか。分からない」

 

「でも、あの家なら、そういう教育を受けていても不思議じゃないんじゃない?」

 

 ジニーが言った。

 

「その通りだ。だから厄介だ」

 

 トムの声は冷たかった。

 

「家の防衛教育なのか、死喰い人側に備えるためなのか、死喰い人側に秘密を守るためなのか、外からは判別できない」

 

 わたしは黙った。

 ドラコは、嫌なところも多い。口も悪い。態度も偉そうだ。新聞を読む姿勢まで腹が立つ。

 でも、大切な兄だ。敵だと思えと言われると、胸の奥がざらついた。

 

「お兄さまは、わたしたちを裏切らないと思う」

 

「思うことと、確認できることは違う」

 

 トムは即座に返した。

 

「君たちが信用したい相手ほど、疑える形にしておけ。信頼とは、確認を放棄することではない」

 

 ハーマイオニーが唇を引き結んだ。

 パドマは、さらに一歩踏み込んだ。

 

「では、私たちは信用できるんですか?」

 

 トムは、少しだけ笑った。

 

「君たちは、まだ閉心術をまともに使えない」

 

「それは、信用できる理由になるんですか?」

 

「閉心術を使うより偽物の心を見せる方がよっぽど難しいからね」

 

 トムは順番にわたしたちを見た。

 

「パドマ。君は、僕が話した話のうちどの程度まで記事にできるか考えている」

 

「しません」

 

「もちろん、今の話は全部オフレコだ」

 

 次にトムはロンを見た。

 

「君は、ドラコを敵だと思いたくない。だが、ハリーに関わるなら疑うべきだとも考えている」

 

「……悪いかよ」

 

「悪くない」

 

 ハーマイオニー。

 

「君は、僕の判断が正しいかどうかを検証している。同時に、ドラコを除外したことで彼が本当に敵側へ押しやられた可能性が高いと思っている」

 

 ハーマイオニーは黙った。

 図星だったらしい。

 

 ジニー。

 

「君は、ハリーや兄が巻き込まれることに腹を立てている。だが、自分だけ外されるともっと腹が立つ」

 

「……悪い?」

 

「悪くない」

 

 アーニー。

 

「君は、市民的結束という言葉でこの状況を整理しようとしている」

 

「その通りだ」

 

「整理できていない」

 

「手厳しい!」

 

 ロメルダ。

 

「君は、アンブリッジをもう一押しで恋愛小説仲間にできると思っている」

 

「だってこの前、お茶しながら『マグノリアの令嬢は名乗らない』の三章について二時間話したし」

 

 二時間。

 わたしは思わずロメルダを見た。

 本について二時間話すのは分かる。とても分かる。三章だけで二時間使うのも、まあ、分かる。登場人物の言葉選び、視線の動き、章の終わり方について議論していたら、それくらいすぐ過ぎる。

 でも相手がアンブリッジ先生である。

 本好きとして理解できる部分と、生徒として全力で逃げたい部分が、心の中で取っ組み合いを始めた。

 

「ほどほどにしろ」

 

「ほどほどって、二冊くらい?」

 

「おそらくあと一冊でアンブリッジは陥落する」

 

「ほんとに?」

 

「惚れ薬が出てこない本にしろ」

 

「あの本結構お気に入りなのに」

 

 ロメルダは唇を尖らせていた。

 

 アンブリッジ先生を恋愛小説で陥落させる。

 そんな作戦を真面目な顔で聞く日が来るとは思わなかった。しかも、ロメルダなら成功しそうなのが余計に困る。

 

 トムはルーナを見た。

 

「君は、僕の背後に見えない何かがいるかどうか見ている……今もいるのか?」

 

 ルーナはゆっくり瞬きをした。

 

「今はいません」

 

「そうか」

 

 それでいいのだろうか。

 

 最後に、トムはわたしを見た。

 

「君は、ドラコが閉心術を学んでいるなら、自分も本を読めばすぐできるのではないかと考えている」

 

「考えてない!」

 

「考えている」

 

「ちょっとだけ!」

 

「それをだだ漏れと言う」

 

 わたしは机に突っ伏したくなった。

 

 閉心術はとても必要かもしれない。

 トムは机の上に置いてあった一冊の本に触れた。開きはしなかった。ただ、指先で表紙を押さえた。

 

「全員が薄っすら考えていることに答えを出すと、ハリーの記憶を元に戻す方法はある」

 

 全員が息を止めた。

 ロンが立ち上がりかける。

 

「本当に?」

 

「答えは、神秘部にある」

 

 神秘部には、分からないものが集められている。

 

 時間。

 

 記憶。

 

 死。

 

 予言。

 

 わたしが本で読んだだけでも、扱いに困るものばかりだった。扱いに困るものを集める場所というのは、たいてい本好きにとって魅力的で、同時にすごく危ない。

 

「神秘部って、魔法省の?」

 

 ロンが言った。

 

「そこに答えがあるなら、行けばいいんじゃ」

 

「罠かもしれない」

 

 トムは即座に言った。

 

「だから、今は神秘部にいるフェルディナンドに判断を任せている」

 

 フェルディナンド先輩。

 その名前に、わたしは少しだけ安心した。

 

「どんな罠?」

 

 わたしは聞いた。

 トムはわたしを見た。

 

「神秘部に何があるのか、想像がつくだろう」

 

 わたしの頭の中に、色々なイメージが浮かんでは消えた。

 わたしは唾を飲み込んだ。

 

 トムは、わたしの顔を見て、静かに言った。

 

「今の想像に近いものだ」

 

 わたしの心は思ったよりバレバレだったらしい。

 

「……閉心術、習います」

 

「よろしい」

 

 トムは満足そうに言った。

 





本作のアンブリッジはロメルダの影響をかなり受けてアンブリっち化しています。
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