本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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パドマ視点。


93話 ダンブルドア、取材に応じる

 パドマ・パチルは、取材は準備が九割だと思っていた。

 

 質問を決める。

 事実関係を整理する。

 誰がどの順番で聞くか決める。

 相手が答えなかった場合の聞き直しも用意する。

 

 だから、準備さえしておけば、たいていの取材はどうにかなる。

 そう思っていたのだが。

 

「新聞記者の取材ならば、魔法省として立ち会わないわけにはまいりませんわ」

 

 ドローレス・アンブリッジが、にこりと笑って言った。

 パドマは頭を抱えた。

 よりによって、アンブリッジ。

 

 しかも、言っていることが完全に間違いとも言い切れないのが腹立たしい。羽ペン通信ホグワーツ版は生徒新聞だが、今回は全国版も関わっている。ダンブルドア校長への取材で、ハリー・ポッターの保護環境や『ヘンリー・ポーター』の内容に踏み込むなら、魔法省が口を出したがるのは分かる。

 

 分かるが、納得はしたくない。

 

「先生がいると、取材対象が萎縮する可能性があります」

 

 パドマは言った。

 

「まあ。わたくしがいるだけで萎縮なさるような方が、ホグワーツの校長でいらっしゃるの?」

 

 アンブリッジは甘ったるく笑った。

 パドマは、羽ペンの軸を折らないように握りしめた。

 その横で、ロメルダがじっとアンブリッジを見ていた。

 

「先生」

 

「何ですの」

 

「あたし今日の先生の服、かわいくて好きです」

 

 アンブリッジの笑顔が、一瞬だけ素になった。

 

「そ、そうかしら」

 

 パドマは目を瞬いた。

 

 どうにかなるかもしれない。

 想定外に、アンブリッジは柔らかくなっている。

 少なくとも、ロメルダの前では。

 

 パドマは、取材班にロメルダを加えておいてよかったと思った。良いアンブリッジ対策だ。危険物の横に置く緩衝材である。

 

「僕も取材に参加していい?」

 

 ハリーが言った。

 

 ロンは、羽ペン通信社から届いた手紙を握ったまま、ハリーを見た。

 

「でも、ハリー。僕の出版の話も──」

 

「ごめん、ロン」

 

 ハリーは短く言った。

 

「君の本の話はすごく大事だと思う。でも、僕はダンブルドアに聞きたいことがある」

 

 その声は硬かった。

 

 怒っているというより、もう怒り疲れている声だった。

 

「僕をダーズリー家に置いたのが誰なのか。知っていたのか。知っていて戻したのか。僕は、それを他人の記事で読むのは嫌だ」

 

 ハーマイオニーがロンを見た。

 

 ロンは、少しだけ唇を噛んだ。

 そして、わざと軽い声を出した。

 

「分かった。じゃあ、僕の方はマインとハーマイオニーに見張ってもらう。契約書ってやつをな。僕だけだと、気づいたら自分の名前を五回くらい書いてそうだし」

 

「五回で済むかしら」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「そこは否定しろよ!」

 

 ロンは怒ったが、顔は笑っていなかった。

 

 ハリーも笑わなかった。

 

「ロン」

 

「いいって」

 

 ロンは手を振った。

 

「そっちを頼む。僕の本より、今はそっちの方が大事だ」

 

「本より、じゃないよ」

 

 マインが言った。

 

「どっちも大事。だから分かれるの」

 

 パドマは、その言葉に少し救われた。

 

 結局、魔法書研究会からダンブルドアの取材に参加するのは、パドマ、アーニー、ロメルダ、ハリーになった。

 

 ロンとハーマイオニーとマインは、ホグズミードで羽ペン通信社との出版契約の説明を受けるという。

 

 校長室の扉の前には、羽ペン通信全国版の記者たちも来ていた。

 

 一人は、ロルフ・スキャマンダー。

 

 もう一人は、デルフィーと呼ばれていた。署名では見たことがないので、アシスタントかもしれない。

 

 ロルフは小さな革張りの手帳を持っていた。デルフィーは、銀色のリボンで束ねた羊皮紙を胸に抱えている。どちらも記者の持ち物としては不自然ではない。取材メモ、質問票、資料、そういうものに見える。

 

「ホグワーツ版の編集長さんね。今日はよろしく」

 

「こちらこそ」

 

 パドマは返した。

 

 校長室に入ると、ダンブルドアはすでに待っていた。

 

 机の上にはレモンキャンディの皿。

 止まり木には不死鳥がいた。

 

 壁の肖像画たちは、明らかに聞く気満々だった。何人かは寝たふりをしているが、耳の角度が完全に取材向きだった。

 パドマは椅子に座り、羊皮紙を広げた。

 

「今日は取材のお時間をいただきありがとうございます」

 

「うむ」

 

 ダンブルドアは静かにうなずいた。

 パドマは深く息を吸った。

 

「近頃、『稲妻の少年』シリーズというハリーをモデルにしたような小説が人気になっています。先生はその本をお読みになりましたか」

 

「読んだとも」

 

「そこに書かれている出来事は、どの程度、事実ですか」

 

 アンブリッジの羽ペンが、かり、と鳴った。

 

「出来事そのものは、多くが事実じゃ」

 

「多くが、ですか」

 

「すべてと言ってよい部分もある。だが、事実と真実は同じではない」

 

 パドマは書いた。

 

 事実と真実は同じではない。

 

 便利な言葉だ。

 そして、逃げ道にもなる言葉だ。

 

「ハリー・ポッターがマグルの親戚の家で育てられたことは事実ですね」

 

「事実じゃ」

 

「魔法界について知らされず、自分の両親の死についても正しく説明されていなかったことは」

 

「事実じゃ」

 

「ダーズリー家で冷遇されていたことを、先生は知っていましたか」

 

 ダンブルドアは、レモンキャンディの皿を見た。

 食べるわけではなかった。

 ただ、皿の縁を指で一度なぞった。

 

「知っておった」

 

 ハリーの息が、少しだけ乱れた。

 パドマは、喉が痛くなるのを感じながら、文字を書いた。

 

「それでも、僕を戻したんですか」

 

 ハリーの声だった。

 

 低く、震えていた。

 

「僕を、あの家に戻したのはあなたですか」

 

 ダンブルドアはハリーを見た。

 いつもの優しい目だった。

 でも、その優しさが、今は残酷に見えた。

 

「そうじゃ」

 

「どうして」

 

「君を守るためじゃ」

 

 ハリーは笑った。

 

 笑い声ではなかった。

 息が壊れたみたいな音だった。

 

「守る?」

 

「君の母君が残した守りが、あの家にはあった。あそこを離れれば、君は殺される可能性があった」

 

「僕は守られていたんですか」

 

 ハリーの声が上がった。

 

「階段下の物置で? 食事を抜かれて? 殴られないように息をひそめて? それでも守られていたんですか」

 

 アンブリッジが、羽ペンを止めた。

 ロメルダは唇を噛んでいた。

 

 アーニーは怒っていた。普段の正義感が顔に出る怒りではない。もっと静かで、深い怒りだった。

 

「肉体の危険と、魂の痛みを、同じ秤にかけてはならなかった」

 

 ダンブルドアは言った。

 

「わしは、それをした」

 

「答えになってません」

 

 ハリーは言った。

 

「あなたは僕を英雄にするために、苦しませたんですか」

 

「いいや」

 

 ダンブルドアの返事は早かった。

 

「わしは、君を英雄にしたかったのではない。君がいつか、英雄であることを求められると恐れておったのじゃ」

 

「同じです」

 

 ハリーは言った。

 

「僕から見れば、どっちも同じです」

 

 パドマは羽ペンを止めた。

 

 これは書ける。

 でも、書いていいのか。

 

 ハリー本人が、ここにいる。

 本人の怒りを記事にすることと、本人の傷をさらすことは違う。

 

 パドマは、自分の羊皮紙の端に小さく書いた。

 

 本人確認。掲載許可。

 

 記者である前に、人間でいなければならない。

 そうでなければ、リータ・スキーターと同じになる。

 

「ダンブルドア先生、闇の帝王は本当に復活したんですか?」

 

 パドマは核心を聞いた。

 

 アンブリッジが「ェヘンェヘン」と咳払いをしたが、誰も聞かないふりをした。本人は聞かせたつもりだったらしく、二度目の咳払いは少し大きかった。

 

「残念ながら、そうじゃ。彼は復活した」

 

「では」

 

 ロルフが穏やかに口を開いた。

 

「全国版からも確認を」

 

 ダンブルドアは、ロルフを見た。

 

「どうぞ」

 

「ゲラート・グリンデルバルドについて」

 

 ロルフは鋭い視線を向けた。

 

「あなたは若い頃、彼と親しかった。思想を共有していた。マグルを支配する思想に共鳴していた時期があった。彼に特別な感情を抱いていた。これは事実ですか」

 

 アンブリッジが小さく息をのんだ。

 ロメルダが「うわ」と声に出しかけて、慌てて口を押さえた。

 

 ダンブルドアは静かに答えた。

 

「親しかったのは事実じゃよ。思想を共有した時期があったことも否定せぬ。感情については、君の記事に都合よく飾れるほど単純ではなかった」

 

「マグルを支配しようとしたことがあると認めるんですね?」

 

「若さと野心と傲慢さは、たいへん相性がよい」

 

 ダンブルドアは言った。

 

「わしは、それを知るのが遅すぎた」

 

 ロルフはさらに一歩踏み込んだ。

 

「アリアナ・ダンブルドアについて」

 

 パドマの羽ペンの先が止まった。

 

 ダンブルドアの目から、柔らかさが消えた。

 

「アリアナ・ダンブルドアは周囲からはスクイブだと信じられてきました。ですが、私の調べでは彼女はオブスキュリアルですね?」

 

 オブスキュリアルというものをパドマはよく知らなかった。パドマは関連資料をまとめているアーニーに視線を向けると、アーニーはルーナがまとめた魔法生物関連の資料を出してきた。

 資料によると、オブスキュリアルとは、闇の魔術を体内で発展させた幼い魔法使い、魔女のことである。

 

「その通りじゃ」

 

「アリアナ・ダンブルドアの死には不可解な点が多い。彼女を殺したのは、あなたですか」

 

 肖像画たちの視線が、一斉にダンブルドアへ集まった。

 パドマは、アンブリッジの手が膝の上で強く握られているのを見た。ピンク色の爪が、布に食い込んでいた。

 

 アンブリッジは、この質問を喜んでいない。

 むしろ、痛そうな顔をしている。

 なぜ。

 

 ダンブルドアは、ロルフを見つめた。

 

「よく調べておるのう」

 

 声は静かだった。

 

「君はいつから、家族の悲劇まで新聞の材料にするようになったのかね」

 

「事実確認です」

 

「そうか」

 

 ダンブルドアは、わずかに目を細めた。

 

「では、事実を話そう。わしは若い頃、家族が重荷だと思った。父はアズカバン、母は死に、弟は怒り、妹は外へ出せなかった。わしには才があった。将来があった。名声も、地位も、研究も、旅も、わしを待っているはずじゃった」

 

 ロメルダが、目を見開いているアンブリッジを見た。

 アンブリッジはダンブルドアから目を離さなかった。

 

「わしは、弟と妹を愛しておった。だが、同時に邪魔だとも思った。口に出さずとも、心の底で思っておった。アバーフォースは、それを知っていた。アリアナも……もしかすると知っていたかもしれぬ」

 

 パドマは書く手を止められなかった。

 ハリーですら、ダンブルドアを見ていた。

 

「出世のために家族が邪魔だった、と?」

 

 ロルフが言った。

 

 その言い方には、刃があった。

 ダンブルドアは逃げなかった。

 

「そうじゃ」

 

 アンブリッジの喉が、小さく鳴った。

 

 パドマは見てしまった。

 アンブリッジの顔に浮かんだのは、軽蔑ではなかった。

 

 共感だった。

 自分でも認めたくないものを、他人の口から聞いてしまった顔だった。

 

「……家族が、足を引っ張ることはありますわ」

 

 アンブリッジが言った。

 

 声はいつもの砂糖漬けではなかった。

 現実を直視した低い声だった。

 

「血筋も、立場も、振る舞いも、すべて見られる。誰と繋がっているか、何を隠しているか、何を持たないか。魔法省では、誰も口には出しませんわね。でも、皆、見ていますわ」

 

 ロメルダが目を丸くした。

 アンブリッジは、自分が言いすぎたことに気づいたのか、背筋を伸ばした。

 

「もちろん、だからといって責任を逃れられるわけではありませんわ」

 

 パドマは、書くか迷った。

 

 アンブリッジのこの言葉は、記事にするには危うすぎる。だが、今の表情は、ダンブルドアの過去よりもずっと現在に近いものを暴いていた。

 

 ロルフは、そこを逃さなかった。

 

「アンブリッジ先生は、ダンブルドア校長に同情なさるのですか」

 

「取材対象を誘導する質問はおやめなさい」

 

 アンブリッジは鋭く言った。

 

「その質問は品がありませんわ」

 

 ロルフの口元が、少し上がった。

 

「あなたが品を語るとは」

 

「失礼ですわね」

 

「失礼ついでに聞きましょう。ダンブルドア先生。あなたの野心が、妹さんを死なせたのでは?」

 

 ダンブルドアは、指先を組んだ。

 

「左様。わしの傲慢が、あの日を招いた。わしかゲラート、どちらの呪文がアリアナに当たったのかは分からぬ。だが、あの場にゲラートを招き入れたのはわしじゃ。未来という美しい言葉で、一番大切な家族を死に追いやったのも、わしじゃ」

 

 アーニーが苦しそうに眉を寄せた。

 ハリーは、何も言わなかった。

 

 パドマは、ダンブルドアを初めて少しだけ恐ろしいと思った。

 反省している老人ではない。

 罪を知っていて、それでも今まで権力の中心に立ってきた人だった。

 

「ところで」

 

 ダンブルドアは、ふいに声の温度を変えた。青い目がロルフを鋭く見ている。

 

「わしも一つ、事実確認をしてよいかね」

 

 ロルフの表情が、ほんの一瞬だけ止まった。

 本当に一瞬だった。

 

 でも、パドマは見た。

 

「つい先日、ニュートに手紙をもらってのう」

 

 ダンブルドアは言った。

 

「ニュートに預けていたバジリスクが、いつの間にか失踪しておると聞いた」

 

 アンブリッジが「バジリスク?」と小さく言った。

 

 アーニーは「まさかバジリスクはロルフさんが飼っているのか?」と言ったが、皆がまたアーニーの推理だと無視した。

 

「ニュートが言うには、ロルフは彼と共に旅に出ており、しばらく戻らぬそうじゃ。突然羽ペン通信から長期休暇を言い渡されて、今はノルウェーにドラゴンを見に行っておると」

 

 ロルフの指が、革張りの手帳に触れた。

 デルフィーの腕が、銀色のリボンで束ねた羊皮紙を抱え直す。

 

「さて」

 

 ダンブルドアは杖を持ち上げた。

 

「君たちの主人は、いまだにトム・リドルという名前が嫌いなのかね」

 

 次の瞬間、ロルフが動いた。

 

「逃がしませんわ!」

 

 誰よりも早く動いたのは、アンブリッジだった。

 

 パドマは驚きすぎて、羽ペンを落とした。

 アンブリッジの呪文がロルフの足元を縛る。

 

 ロルフが舌打ちした。

 

「魔法省の犬が」

 

「失礼ですわね!」

 

 アンブリッジが怒鳴った。

 

「わたくしはホグワーツの教師ですわ!」

 

 その訂正が必要なのかどうか、パドマには判断できなかった。

 しかし、次に動いたのはデルフィーだった。

 彼女の杖が、アンブリッジに向いた。

 

 黒い光が走る。

 

「先生!」

 

 ロメルダが叫んだ。

 

 ダンブルドアの防御呪文が、間に入った。

 

 光が弾け、机の上のレモンキャンディが宙を舞った。

 不死鳥が炎のように羽ばたく。

 

 アーニーがパドマの前に立ち、防御呪文を唱えた。ジェドゥソール先生に教わった呪文だ。

 

「ハリー、下がれ!」

 

「嫌だ!」

 

 ハリーは杖を抜いていた。

 その顔は青ざめていたが、目は逸らしていなかった。

 

 ロルフだった男は、拘束を乱暴に破った。

 ポリジュース薬の効果が揺らいだのか、顔の輪郭が一瞬だけ崩れる。

 

 別人の目がのぞいた。

 熱に浮かされたような、狂信的な目。

 

 バーティ・クラウチ・ジュニアだった。

 

「原稿を守って!」

 

 パドマは叫んだ。

 自分でも信じられなかった。

 混戦の中で、最初に出た言葉がそれだった。

 

 でも、机の上には取材メモがある。

 

 ダンブルドアの証言を、悪意の手に渡してはいけない。

 

 デルフィーがこちらを見た。

 ぞっとするほど冷たい目だった。

 

 彼女の杖が、羊皮紙に向く。

 

 パドマは飛び出した。

 間に合わない。

 

 そう思った時、ロメルダがデルフィーにインク壺を投げた。

 ただのインク壺だった。

 

 だが、デルフィーの袖に見事に当たった。

 

「何を──」

 

「本物の記者ならインクくらい浴びちゃえ!」

 

 ロメルダが叫んだ。

 

「意味が分からん!」

 

 アーニーが叫びながら防御を張る。

 

 アンブリッジは床に膝をつきながらも、杖を構えていた。

 さっきの攻撃を受けて、顔色が悪い。

 それでも、退いていない。

 

 パドマは、ほんの一瞬だけ思った。

 

 この人、本当に変わったのかもしれない。

 いや、今それを考えている場合ではない。

 

 バーティが革張りの手帳を開いた。

 

 デルフィーが銀色のリボンをほどく。

 

 束ねられていた羊皮紙の内側に、小さな黒い金属片が縫い込まれていた。古い鍵の頭のようにも、割れた指輪の台座のようにも見える。

 

 パドマの背筋に寒気が走った。

 

 ポートキー。

 

「止めろ!」

 

 ダンブルドアが初めて声を荒げた。

 

 校長室の床に、青白い線が走った。ダンブルドアの杖先から広がった魔法が、扉と窓と暖炉を塞いでいく。

 

 だが、デルフィーは迷わなかった。

 

「撤退します」

 

 誰に向けた言葉なのか、分からなかった。

 バーティが笑った。

 

「十分だ。事実は取れた」

 

「まだ記事にはさせません!」

 

 パドマは叫んだ。

 男は、手帳ごと黒い金属片に指をかけた。

 

「記事にするのは君たちだけではない」

 

 デルフィーの目が、ハリーを捉えた。

 その目に、奇妙な感情が浮かんだ気がした。

 

 憎しみ。

 興味。

 それとも、もっと別の何か。

 

「事実だけで、人は十分に燃える」

 

 黒い金属片が震えた。

 バーティとデルフィーの体が、見えない鉤に引っかけられたように歪む。

 

 ダンブルドアの呪文が飛んだ。

 

 不死鳥が炎の尾を引いて突っ込んだ。

 だが、二人は次の瞬間、ぐんと空間の奥へ引きずり込まれた。

 

 音はなかった。

 ただ、銀色のリボンだけが床に落ちた。

 

 校長室には、焦げた匂いと、破れた羊皮紙と、床にこぼれたインクが残った。

 アンブリッジは、乱れた髪を震える手で押さえた。

 

「まったく……新聞記者というものは、野蛮ですわね」

 

「アンブリっち先生、あたしたちを守ってくれたんですか?」

 

 ロメルダが言った。

 

「守ったのは秩序ですわ!」

 

「はいはい」

 

「はいは一回!」

 

 そのやり取りに、パドマは少しだけ息が戻った。

 でも、手は震えていた。

 

 ハリーは、ダンブルドアを見ていた。

 ダンブルドアも、ハリーを見ていた。

 

 その間には、さっき聞かれた質問の答えが、まだ落ちたままだった。

 

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