トムは、誰にも明かさなかった自分の過去を、初めて最後まで話した。
校長室の窓は夜の闇を映し、分厚いガラスには暖炉の炎だけが揺れていた。
赤く焼けた薪が、ときおり小さな音を立てて崩れる。壁を埋める歴代校長の肖像画は、ほとんどが目を閉じていた。本当に眠っている者もいれば、薄く開いた瞼の隙間から、こちらを窺っている者もいる。
トムの正面にはダンブルドアが座り、その左右にハリーとマインがいた。
孤児院での生活。
他の子どもから奪った品々。
ダンブルドアが孤児院に来た日。
ホグワーツで初めて、自分が特別なのだと確信したこと。
秘密の部屋を開き、マートルを殺したこと。その罪をハグリッドに着せ、教師たちの前で善良な監督生を演じたこと。
途中で声が掠れても、誰も水を勧めなかった。
それでよかった。
トムは優しくされるより、三人の視線を受け続ける方がましだった。
「トムは、今まで誰にも話さなかったの?」
マインが尋ねた。
眠気を堪えているのか、普段より声が少し柔らかい。
「話す必要がなかった」
「今日は必要だと思った?」
トムは答えなかった。
闇の帝王の正体を本にする。
そう決めた以上、都合の悪い部分だけを伏せるわけにはいかない。
ヴォルデモートは、長い間、顔も過去も持たない怪物として恐れられてきた。人々が口にするのは、殺した人数と残した傷痕ばかりだった。
その怪物を、トム・リドルという一人の人間へ戻す。
そのためには、惨めな孤児院時代も、卑劣な嘘も、最初の殺人も、すべて本に記さなければならない。
けれど、本当にそれだけなのか。
自分の過去を誰かに知ってほしかったのではないか。
問いが浮かぶたび、トムは頭の中で握り潰した。
「今夜はここまでにしよう」
ダンブルドアが言った。
暖炉の奥で薪が弾け、火の粉が灰の上へこぼれた。
「まだ途中だ」
ハリーがすぐに言った。
両肘を膝に置き、組んだ手に額を寄せている。その横顔には疲労が滲んでいたが、目だけは冴えていた。
「夜もまだ途中じゃが、明日の授業は待ってくれんよ」
「僕は平気です」
ハリーは椅子から動かなかった。
続きを知りたがっているというより、話を途中で切ることを許せないようだった。
「わたしも、まだ起きていられるよ」
マインも言った。
その直後、大きなあくびを噛み殺し、慌てて口元を手で覆った。
「君は昨日も同じことを言って、朝食の席で眠っておったそうじゃな」
マインが少し恥ずかしそうにうつむいた。彼女はタイムターナーを使い授業を多く使っているせいか、睡眠時間が足りていないようだった。
「目を閉じて考え事をしていただけです」
「トーストを額につけたままかね?」
マインが口を閉じた。
ハリーの口元が一瞬だけ緩んだが、すぐに元の険しい顔へ戻った。
ダンブルドアは、再びトムを見た。
「次は、君の知らない君を見よう」
「僕の知らない僕?」
「ホグワーツを卒業した後じゃ。ボージン・アンド・バークスで働いていた頃。そして、職を辞してから姿を消していた時期。わしが集めた記憶や証言がいくつかある」
トムは眉を寄せた。
たしかに日記に保存されていた記憶は、マートルを殺した日で止まっている。
卒業後の自分が何を求め、誰を殺し、どのように顔を失っていったのか。トム自身は、あの男から聞いた断片的な知識でしか知らない。
自分でありながら、自分ではない男の人生だった。
「ヘプジバ・スミスという魔女の話もせねばならん」
ダンブルドアが続けた。
「君が非常に興味を持ちそうな品を、いくつか所有していた」
「何を持っていたんです?」
「それは次回じゃ」
「わざとですね」
「物語にクリフハンガーは重要じゃよ」
ダンブルドアが扉を示した。
「二人とも、もう寝なさい」
ハリーは不満そうだったが、マインが先に立ち上がった。眠気で足元が怪しくなっており、椅子の脚に靴をぶつけている。
扉の前まで行くと、マインはトムを振り返った。
「また今度、聞くから」
「マイン、君は来なくていいよ」
過去の記憶について話せば話すほど、トムは自分が嫌いになりそうだった。
次ダンブルドアが見せる記憶はトムですら知らないものだ。未来の自分が何をしたのかを知れば、マインがどんな顔をするのか怖かった。
「本を作るには、全部聞かなきゃ」
「君が聞かなくても、原稿は書ける」
「書いた本人は、自分に都合よく書くものだよ」
反論の余地がなかった。
マインは目を擦りながら校長室を出ていった。
ハリーはまだ残っていた。
椅子から立ち上がっても、扉へ向かわず、トムを睨んでいる。
「変なことするなよ」
「変なこと?」
「分かってるだろ」
ハリーの声が低くなった。
「僕に、自分を殺せって頼んだじゃないか」
肖像画の一人が、閉じていた目をわずかに開いた。
トムは口元だけで笑った。
「何の話だい?」
「その顔をするときは、大抵何か隠してる」
「君の思い込みだよ」
「もういい」
ハリーは扉を開けた。
出ていく直前、もう一度振り返る。
「僕に頼んでも無駄だからな」
扉が閉まった。
二人分の足音が、螺旋階段を下りていく。マインの軽い足音を、ハリーの少し重い足音が追っていた。
やがて、それも聞こえなくなった。
それでもトムは椅子から動かなかった。
ダンブルドアも急かさない。
机の上に置かれた銀器から、白い煙が細く伸びていた。天井近くで一度だけ人の横顔に似た形を作り、口を開く前に崩れていく。
「二人を帰したかったのじゃろう」
ダンブルドアが言った。
「最初から分かっていたなら、もう少し早く帰してください」
「君が自分から言うのを待っておったが、なかなか言わぬからのう」
トムはローブの内側に触れた。
布越しに、細い金属の鎖が指へ当たる。
そこにあることを確かめるだけで、心臓が一つ強く脈打った。
「僕は死ぬ必要がある」
口にした声は、驚くほど平静だった。
「ダンブルドア先生なら、僕を殺せるでしょう?」
ダンブルドアの表情は変わらなかった。
驚かなかったことが、トムには不愉快だった。
まるで、この言葉が出ることまで予想されていたようだった。
「なぜ、わしに頼むのかね」
「僕を殺せるのは先生か、ハリーしかいないからです。ハリーにも言っておきましたが、彼にそこまでのことができるかは怪しい」
「わしならできると思ったのかね」
「合理的なあなたなら、できますよね」
ダンブルドアはすぐには答えなかった。
半月形の眼鏡の向こうから、トムの顔を長く見つめる。
「そうじゃな」
否定されなかった。
トムは膝の上で指を組んだ。
「ヴォルデモートを殺すには、僕も壊す必要がある」
「まだ、そうと決まったわけではない」
「期待させるような言い方はやめてください。誰にも覆せるものではない」
希望は、何も知らない人間に与えるものだ。
手段がまだ見つかっていないだけなのか、最初から存在しないのか。それを曖昧にしたまま待ち続けるのは、死ぬより性質が悪い。
トムは暖炉の火を見た。
炎の中で黒くなった薪は、形を保ったまま、内側から少しずつ崩れている。
「マートルを殺したのは間違いだった」
トムは言った。
「ハグリッドに罪を着せたのも、分霊箱を作ったのも。すべて僕が始めたことです」
「そうじゃな」
否定されなかった。
それでよかった。
優しい慰めを口にされれば、杖を抜いていたかもしれない。
「なら、僕が生まれたことから間違いだった」
ダンブルドアの表情が強ばった。
「それは違う」
「同じです」
「違う」
ダンブルドアは静かに繰り返した。
トムはローブの内側へ手を入れた。
金色の鎖が指に絡む。
引き出されたタイムターナーは、暖炉の光を受け、胸元で鈍く輝いた。小さな砂時計の中では、細かな砂が音もなく落ち続けている。
「あなたが僕を殺さないのなら、これを使います」
ダンブルドアの視線が、タイムターナーへ向けられた。
先ほどまでの穏やかさが、青い目の奥から消えた。
「どこまで戻るつもりかね」
「あなたが孤児院へ来る前です」
まだ魔法界の存在を知らなかった頃。
自分を特別な存在だと信じてはいたが、人を殺してはいなかった。
小動物を傷つけ、他の子どもから物を奪い、恐怖で従わせていた。それでも、マートルは生きている。ハグリッドも退学になっていない。
ヴォルデモートという名前すら、まだ存在していない。
「子どもの僕を殺します」
指の間で、金の鎖がかすかに鳴った。
手が震えていた。
トムは今でも死を恐れていた。
死後に何もない可能性を考えるだけで、身体の芯が冷たくなる。
思考が止まる。
マインにもう会えなくなる。
誰の声も聞けず、自分という存在が跡形もなく消える。
トムが何より恐れ、他人の命を奪ってまで逃れようとしたものだった。
それでも、幼い自分を殺せば、すべてが始まる前に終わる。
「僕一人で済みます」
「その一人は、まだ何もしておらん」
「未来でします」
「未来の罪で、子どもを殺すのかね」
「彼は僕自身です」
「今の君とは別の人間じゃ」
「同じですよ」
「君は、その子どもを一人の人間として数えておらん」
「僕の命です。僕がどう使おうと──」
ダンブルドアが杖を振った。
金の鎖が強く引かれ、タイムターナーがトムの手から飛んだ。
鎖が指の皮膚を擦る。
熱い痛みが走り、細い赤い線が残った。
タイムターナーはダンブルドアの左手に収まった。
「返してください」
「ならん」
トムは立ち上がり、杖を抜いた。
机を挟み、ダンブルドアの喉へ杖先を向ける。
止まり木の上でフォークスが翼を広げた。赤と金の羽毛が膨らみ、一枚の羽根が机へゆっくり落ちていく。
ダンブルドアは杖を構えなかった。
椅子に座ったまま、トムを見上げている。
何もかも見透かしたような、その青い目が嫌いだった。
「あなたは僕を殺そうとしていたでしょう」
「ヴォルデモートを倒そうとしていたのじゃよ」
「同じです」
「今は違う」
「何が違う!」
声が校長室の高い天井へ響いた。
肖像画の一人が目を開け、隣の額縁へ何かを囁こうとした。ダンブルドアに顔を向けられると、慌てて顎を胸へ落とす。
「僕が後悔しているからですか。人を殺したことに苦しめば、殺される必要がなくなるとでも?」
「そうではない」
「なら、何です」
「君が選べるようになったことじゃ」
「僕は死を選びました」
「自分を消すことをな」
「一番多くの人間が助かる」
「昔の君は、目的のために他人の命を使った」
ダンブルドアの声から、柔らかさが消えた。
「今度は自分の命を使おうとしておる。それで、考え方が変わったつもりかね」
「自分の命なら構わないでしょう」
「君は今も、命を道具としてしか見ておらん」
「僕の命です。どう使ったっていいはずだ」
「今の君は、自分自身を一人の人間として扱っておらん。不要になった物を捨てるように、過去の自分を処分しようとしておる」
「それの何が悪いんです」
「そうじゃのう」
ダンブルドアは、トムの杖先を見ず、その顔を見つめていた。
「他人の命を軽んじるよりは、ましかもしれぬ」
杖を握るトムの指に力が入る。
「じゃが、トム。それは逃亡じゃよ」
杖の先が揺れた。
死ぬのが怖い。
それでも、死を選ぼうとしている。
逃げるために、最も恐れていたものへ向かっているというのか。
「逃げて何が悪いんです」
トムは言った。
「僕が生きても、マートルは戻らない。謝っても、ハグリッドが失った時間は返らない。僕が毎日苦しめば、誰かが満足するんですか」
「誰も満足などせんよ」
「なら、何のために生きるんです」
ダンブルドアは答えなかった。
トムへ向けていた視線を、自分の右手へ落とす。
ローブの袖口から覗く指は、黒く変色していた。
以前に見たときより、黒い部分が広がっている。
ダンブルドアは左手で袖をまくった。
黒い変色は手首を越え、腕の半ばまで這い上がっていた。皮膚は焼け焦げた木のように乾き、ところどころ深くひび割れている。
生きた人間の腕には見えなかった。
「わしは、もうじき死ぬ」
トムは杖を下ろさなかった。
冗談だと思ったのだ。
「何を言っているんです」
「ゴーント家の指輪に掛けられていた呪いじゃ。セブルスが進行を抑えてくれたが、止めることはできん」
「治す方法は?」
「ない」
そんなわけがない。ダンブルドアともあろう人が、死ぬだって?
「ニコラス・フラメルなら」
「彼にも無理じゃ」
「まだ試していないだけでしょう」
「既に尋ねた」
ダンブルドアは袖を戻した。
黒い腕が紫色の布の下へ隠れる。隠されたところで、目に焼きついた色は消えなかった。
「長くとも一年。おそらくは、それより短い」
トムはダンブルドアの右手を見ていた。
死ぬのなら、都合がいいはずだった。
ダンブルドアは長い間、トムを疑い、監視し、分霊箱として破壊すべきかを考えてきた。
いなくなれば、自由になる。
そう考えるべきなのに、頭の中では、ニコラス・フラメル以外に呪いを解けそうな人間を探していた。
そのことに気づき、トムは腹が立った。
「それだけではない」
ダンブルドアが言った。
「ヴォルデモート卿は、セオドール・ノットに、わしを殺すよう命じた」
トムは顔を上げた。
「セオドール・ノットに?」
「そうじゃ」
「誰から聞いたんですか」
「セブルスじゃよ」
「そんな馬鹿な」
セオドールの顔が浮かんだ。
魔法の腕は悪くない。だが、ダンブルドアと正面から戦って勝てるはずがなかった。
「あの男は、学生がダンブルドアを殺せると思っているのか?」
「成功するとは期待しておらんじゃろう」
ダンブルドアは、奪ったタイムターナーを掌の上で転がした。
「わしを消耗させるか、失敗した若者を見せしめにするか。どちらに転んでも、ヴォルデモート卿に損はない」
失敗すれば、セオドールは殺される。
成功しても、十六歳で人を殺した事実は残る。
どちらにせよ、以前と同じ人間ではいられない。
トムは杖を下ろした。
「もとから死ぬと決まっているのなら、セオドール・ノットに殺されればいい」
思っていたより冷たい声が出た。
「あなたは呪いで死ぬ。ヴォルデモートはノットに命令した。どちらにしても、僕が生きる理由にはならない」
「なる」
「なぜです」
ダンブルドアは、タイムターナーを持ち上げた。
暖炉の火を受け、砂時計の縁が金色に光る。
「君に、わしを殺してもらいたいのじゃ」
砂が細い管を通り、下へ落ちていく。
「僕に?」
「そうじゃ」
「あの男は、ノットに命じたんでしょう」
「その通りじゃ」
「なら、なぜ僕が殺すんです」
「若い命を、殺人によって散らしたくない」
「死ぬとは限らない」
「肉体が生き残ればよいというものではない」
ダンブルドアの言葉には迷いがなかった。
「僕なら構わないと?」
「君が先ほど、わしに同じことを頼んだからじゃ」
トムは答えなかった。
ダンブルドアが、わずかに身を乗り出す。
「君は死にたいのじゃろう」
否定する言葉は出なかった。
「わしを殺せば、君を殺そうとする者も現れるじゃろう」
トムは目を細めた。
「……僕を殺してくれる人が?」
「おそらくな」
ダンブルドアは黒ずんだ右手を机についた。
乾いた指が、磨かれた木の表面に並ぶ。
「わしを殺してくれ、トム」
フォークスが低く鳴いた。
肖像画の老人たちは、今度こそ誰も眠ったふりをしていなかった。
「僕に人を殺すなと言った直後に、自分を殺せと言うんですか」
「君に正しい人間になれとは言っておらん」
「では、何になれと?」
「生き残れ」
ダンブルドアは、はっきりと言った。
「わしは、君に、わしを殺すために生き残っていてほしい」
それは励ましではなかった。
トムには価値があるとも、未来があるとも言わない。
罪を償えるとも、いつか幸福になれるとも約束しない。
ただ、殺すべき人間が残っているから、今は死ぬなと命じている。
「僕が断ったら?」
「別の理由を考えよう」
「僕があなたを殺す保証はない」
「それで構わん。君が過去へ戻り、すべてを終わらせようとするよりはましじゃ」
ダンブルドアはタイムターナーを机の引き出しへ入れた。
引き出しが閉まり、鍵の回る音が校長室に響いた。
妙に大きく聞こえた。
「わしを殺すまで、君が死ぬことを許さん」
「勝手ですね」
「知っておる」
「あなたも、僕の命を道具にしている」
「そうじゃな」
あまりにも簡単に認められ、トムは次の言葉を失った。
ダンブルドアは善人らしい顔をしなかった。
トムを救うためだとも、生きてほしいからだとも言わない。
トムが希望では動けなくても、命令なら受け入れることを知っている。その性質を利用していると認めたうえで、なお命じている。
「それが終わったら、死んでもいいんですか」
ダンブルドアは答えなかった。
「答えてください」
「それは、わしを殺した後の君が決めればよい」
「今の僕には決めさせないのに?」
「今の君は、まだ何もしていない子どもを殺そうとしておるからな」
「それも僕です」
「今の君ではない」
「同じですよ」
「ならば、確かめればよい」
ダンブルドアは黒い右手を持ち上げた。
指先が、重さに耐えかねた枝のようにわずかに震えている。
「わしを殺した後でも、君が同じ答えを選ぶのかを」
残酷な言葉だった。
許されるとは言わなかった。
罪を償えるとも、人生をやり直せるとも言わない。
トムに差し出されたのは、殺人の約束だけだった。
「あなたは、死ぬのが怖くないんですか」
「怖いとも」
ダンブルドアは即答した。
「まだ読みたい本がある。話しておきたい者もおる。自伝の下巻も、書き終えたからといって、直すところがないわけではない」
「なら、生きればいい」
「生きられるならな」
「時間を戻せば、指輪に触れる前に止められる」
「ならん」
「あなたを救えるかもしれない」
「わしを救うために、起きたことをなかったことにするのかね」
「何が悪いんです」
「わしは、自分の失敗を消してまで生き延びたいとは思わん」
「死ぬのに?」
「死ぬからじゃよ」
ダンブルドアは椅子へ戻った。
背もたれへ身体を預けると、先ほどよりも小さく見えた。長い白髪も、豊かな髭も、急に重いものを背負っているようだった。
「死ぬ必要がある時と、死ねば済むと思っている時は違う」
「僕には分かりません」
「いずれ分かる」
ダンブルドアは微笑んだ。
トムは校長室を出た。
背後で扉が閉まり、螺旋階段がゆっくりと下り始める。
タイムターナーは奪われた。
過去へ戻り、幼い自分を殺すことはできない。
ダンブルドアは、もうじき死ぬ。
ヴォルデモートはノットに、その死を命じた。
そしてダンブルドアは、トムに先に自分を殺せと言った。
螺旋階段を下りきると、人気のない廊下へ月明かりが差し込んでいた。
石壁に、トムの影が長く伸びる。
頭があり、肩があり、二本の腕と脚がある。
どこから見ても、人間と同じ形をしていた。
ダンブルドアを殺すまでは生きる。
その後は、誰かがトムを殺しに来る。
救いではなかった。
希望でもない。
それでも、しばらく生きる理由としては、十分すぎるほど残酷だった。