マルフォイ家では、ここ最近、立て続けに子どもが生まれていた。
まず、ベラトリックスが娘を産んだ。
名はデルフィーニ。イルカ座に由来する名である。
続いて、そのデルフィーニが息子を産んだ。
名はパーヴォ。孔雀座に由来する名である。
二人ともブラック家の伝統に則った、実に由緒正しい命名だった。なお、闇の帝王には、娘と孫が同時にできた。
しかも、赤子のデルフィーニと、そのデルフィーニが成長した姿が同じ屋敷にいる。
ルシウスは、考えないことにしていた。
マルフォイ家で暮らすためには、理解力よりも、理解を諦める力の方が重要だった。
今、居間には二つの揺り籠が並んでいる。
片方にはデルフィーニ。
もう片方にはパーヴォ。
二人とも、ようやく眠ったところだった。
ベラトリックスも眠っている。
育児疲れで、昼過ぎから客室へ引きこもった。何度か赤子の泣き声が響いたが、起きてくる気配はない。
「我が君の御子を育てることが、これほどの大仕事だとは思わなかったわ」
そう言い残して、ベッドへ倒れ込んだらしい。
ルシウスとしては、ベラトリックスにも疲労という概念が存在したことの方が驚きだった。
赤子を育てるスペースのため、ルシウスはマインのために買った本棚と本を別邸に移動させた。ナルシッサは残念そうだったが、別邸を利用する機会もあるはずだ。
ロックハートたちは死喰い人としての仕事へ出ていた。
ロックハートは政治家や官僚の都合の悪い記憶を消し、バーティは殺したスクリムジョールの姿で魔法省へ出勤している。デルフィーはスクリムジョールの部下として魔法省を動き回っていた。
闇の帝王も、マルフォイ邸へほとんど顔を出さなくなっていた。
「育児放棄だわ」
ナルシッサは怒っていた。
ルシウスは、手にしていた紅茶を置いた。
「誰のことだ?」
「ほかにどなたが?」
「あの方は重要な調査をなさっているようだ」
「単なる杖探しでしょう」
ナルシッサの声は冷たかった。
闇の帝王は、オリバンダーを拷問してハリー・ポッターと自分の杖が兄弟杖だと知ってから、より強い杖を求めていた。
最強の杖。
決して所有者を敗北させない杖。
どこまでが伝説で、どこからが事実なのかは分からない。それでも闇の帝王は、自分にふさわしい杖がどこかに存在すると信じ、各地を飛び回っている。
「娘と孫より、杖の方が大切なのね」
「杖は大事だろう」
「子どもの成長は一瞬なのよ」
「デルフィーを見てそれを言うのか?」
ナルシッサは黙った。
赤子が生まれた瞬間に大人になった娘がいるのだから、闇の帝王も現実から目を背けたくなるだろう。
「父親の意識が足りていないわ。先日も、デルフィーが泣いた途端、シレンシオをかけたでしょう」
「あれは、泣き声を止めただけだ」
「赤子の泣き声を魔法で止めるなんて」
「本人は静かになった」
「本人ではなく、周囲が静かになったのです」
ナルシッサは、揺り籠で眠るデルフィーニの毛布を直した。
「赤子は泣くものだわ」
「我が君は、理由を尋ねようとしていた」
「まだ話せないもの」
あの時の闇の帝王は、ダンブルドアを前にした時よりも難しい顔をしていた。
命令が通じない。
脅しも効かない。
しかも、殺してはならない。
赤子は闇の帝王にとって、極めて相性の悪い存在だった。
「少なくとも、たまには顔を見せるべきよ」
「戻っていらしたら、君から伝えるといい」
「ええ。そうするわ」
ナルシッサは迷わず答えた。
闇の帝王へ育児放棄を指摘する妻と暮らすことも、ルシウスの胃にはよくなかった。
外出して屋敷を離れる人が増えたため、机には手紙が増えていた。
最も厚い封筒は、ロックハートから届いたものだった。
宛名はパーヴォになっている。
生まれて間もない赤子に読めるはずはないので、実質的には屋敷にいる全員へ向けた手紙だった。
『親愛なる息子パーヴォへ。お父様は今日も、魔法界をよりよい方向へ導くために働いている。
複数の官僚が、余計な先入観を捨てて、スクリムジョールの政策を支持するようになった。人間は時として、過去の記憶を忘れることで正しい未来へ進めるものだ』
「洗脳でしょう」
ナルシッサが言った。
「本人は教育と呼んでいる」
ルシウスは続きを読んだ。
『「ヘンリー・ポーター」シリーズも順調だ。
本物を名乗る少年が何を言おうと、熱心な読者たちは、今のハリー・ポッターこそ偽物だと理解している。もちろん、最新作に本物の英雄の名を奪う偽物を登場させたこととは、何の関係もない』
「関係しかないわね」
「本人に言っても認めないだろう」
『白銀卿の人気も高い。白銀卿を支持する読者たちはファンクラブを結成し、自らをデスイーターと名乗っている。少々、名前の使用権について問題が起きる可能性はあるが、ファン活動は尊重すべきだろう』
どうやら正規のデスイーターより、白銀卿のファンクラブの方が人数が多いらしい。
闇の帝王はその話を聞いた時、しばらく返事をしなかった。
「デスイーターとは、私の配下の名ではなかったか」
ようやく出た言葉がそれだった。
ルシウスはファンクラブについて調べる仕事まで自分へ回ってこないよう祈っている。
『最新作「ヘンリー・ポーターと炎のゴブレット」では、女性読者が大幅に増えた。ただし、一部の読者は、物語の中心人物ではなく、異国の英雄や金髪の貴公子や無口な青年ばかりを称賛している。
作者が誰なのかを公表すれば、彼女たちも作品の正しい中心人物を理解するだろうか』
ルシウスは手紙を下ろした。
「あの馬鹿、『ヘンリー・ポーター』シリーズの作者の名前を公表するつもりか」
「大丈夫よ。デルフィーが止めたようだわ」
ナルシッサがルシウスにデルフィーニの手紙を渡した。
『ギルデロイが覆面作家をやめたいと言っていましたが、父親がアズカバンへ入れられたら、パーヴォが困ると言って止めました。本人は、自分が捕まるわけがないと言っています。
捕まらないために政治家の記憶を消しているそうです。おそらく、しばらくは覆面作家を続けると思います』
「息子への愛情が、名声欲に勝ったのだな」
「僅差ね」
パーヴォは何も知らず、揺り籠の中で眠っている。
ロックハートは息子に夢中だった。
出発前にも、眠っているパーヴォを長いこと抱いていた。
「いつかお父様のように素敵な大人になるんだよ」
そう言い残していった。
素敵な大人にロックハートを含めていいものなのか、ルシウスは困惑した。
バーティからの手紙は短かった。事務的なことしか書かれていない。
『本物のスクリムジョールの処理および成り代わりは完了した。ただし、アンブリッジの支持率が予想以上に高く、実権掌握には時間が必要だ。迷惑なことにあの女は、なぜか国民に人気がある』
「なぜ、人を殺したことを事務連絡のように書けるのだ」
「慣れているのでしょう」
「慣れてよいことではない」
スクリムジョールは次期魔法大臣候補として有力だった。
バーティは彼を殺して成り代わることでその地位を奪ったものの、アンブリッジの支持率が高すぎるため、思うように権力を握れずにいる。
ルシウスには、なぜアンブリッジが支持されているのかが理解できなかった。
「ホグワーツのことを話した演説が好評だったそうね。英国魔法界はホグワーツ卒業生とホグワーツに通う学生の保護者で構成されているようなものだもの、賢いわ」
「魔法大臣の支持率は、それだけで上がるものなのか?」
「国民は政策だけを見ているわけではないもの」
スクリムジョールのような優秀な男が苦戦し、恋愛小説を愛読するアンブリッジが支持を集めている。
魔法界の政治は、ルシウスの理解できる場所から着実に遠ざかっていた。
ホグワーツからは、ドラコの手紙が届いていた。
最初に書かれていたのは、ホラス・スラグホーンについてだった。
『ホラス・スラグホーン先生が、魔法薬学の教師になりました。スラグ・クラブという集まりにマインが招待されていました。僕も今度クリスマスパーティーに参加する予定です。スネイプ先生はついに闇の魔術に対する防衛術の教師になるそうです』
「スラグホーン先生は良い先生だったわね。懐かしいわ」
ナルシッサが言った。
ナルシッサは学生時代、スラグホーンのお気に入りだった。
ブラック家の名があったからではない。
少なくとも、同じブラック家の娘であるベラトリックスは、スラグ・クラブへ一度も呼ばれていなかった。
スラグホーンの話題が出た時、ベラトリックスはひどく不機嫌になった。
「あの太った男は、将来有望な生徒へ媚びるだけの俗物だわ。教師としても大したことは──」
「スラグホーンは、良い教師だった」
闇の帝王が言った。
ベラトリックスは一瞬で姿勢を正した。
「もちろんです、我が君! 類いまれなる慧眼を持った教育者でした!」
「先ほど、見る目がないと言わなかったか」
ルシウスが尋ねると、ベラトリックスは胸を張った。
「私は学生時代から完成されていたため、指導の必要がなかったのでしょう」
ドラコはしばらくしてまた手紙をよこした。
『誰かがダンブルドア先生へ呪いを仕込んだファンレターを送ったようです。幸い、ダンブルドアは軽く手に負傷しただけで無事のようでした』
ルシウスは犯人が誰なのか知っていた。
セオドール・ノットだ。
闇の帝王は彼にダンブルドア暗殺を命じたのだ。
ルシウスとしては、学生にそんなことを任せて成功するとは思えなかった。失敗したと聞いても、やはりとしか思えない。
闇の帝王も、同じ結論に達したらしい。
計画を実行したセオドールを責めることはなく、スネイプへ支援を命じた。
問題は、ドラコの手紙の後半だった。
『羽ペン通信が記事を出す前に、こちらからお知らせします。セオドール・ノットが所持していた惚れ薬を、アストリア・グリーングラスが誤って口にしました。
スネイプ先生がベゾアール石を口へ押し込み、解毒には成功しています』
どうしてセオドール・ノットが惚れ薬を?
闇の帝王はそんな計画を命じていたか?
ルシウスは手紙を読み直した。
『なお、惚れ薬の本来の標的は、アストリアではなくマインだったようです。
母上、父上へ手紙を見せる前に、杖を取り上げてください』
ルシウスは立ち上がった。
二つの揺り籠が同時に揺れた。パーヴォが目を覚ました。つられてデルフィーニも泣き始めた。
「座ってくださいな」
ナルシッサが言った。
「少しホグワーツへ行ってくる」
「何をしに?」
「ノットと話をする」
「杖を置いて?」
「なぜ私が杖を置かなければならない」
「ドラコがわざわざ書いているでしょう」
「息子は父親を理解していない」
「理解しているから、先回りしたのよ」
ルシウスは手紙を握った。
「私の娘へ惚れ薬を盛ろうとした男がいるのだぞ」
「ええ」
「なぜ君はそんなに落ち着いていられる?」
「あなたまで騒げば、赤子がさらに泣きますもの。それに未遂でしょう?」
赤子はさらに大きく泣き始めた。ルシウスには消音呪文を赤子にかける趣味はなかった。
ルシウスは声を抑えた。
「ノットを殺すつもりはない」
「どこまでならするおつもり?」
ルシウスは答えなかった。
「それで、アストリアとドラコはどうなったのかしら」
ナルシッサは続きを読んだ。
『アストリアには惚れ薬でノットに夢中だったときのことを忘れてほしいと言われましたが、僕は一生何かのときに言う予定です。二度とアストリアを離すつもりはありません』
ナルシッサの指が、手紙の端で止まった。
「あらあらあら」
「そこが重要なのか?」
「一番肝心なところじゃない」
ナルシッサは手紙をもう一度読み返した。
それから、テーブルの端に置いてあった羊皮紙へ、何かを書き留めた。
「何を書いた?」
「ドラコへの返事よ」
「一行目に花の名前が見えた気がしたが」
「見間違いでしょう」
ナルシッサは羊皮紙を裏返した。
見せる気がないことだけは分かった。
惚れ薬騒動は羽ペン通信に書かれるとすぐに闇の帝王のもとまで伝わった。闇の帝王はセオドールの行為そのものには、そこまで関心を示さなかった。
ただ、惚れ薬が子どもの手へ容易に渡ったことには、明確な不快感を示した。
杖探しの途中で屋敷へ立ち寄った際、羽ペン通信全国版を読み、広告欄に載っていた惚れ薬の宣伝を指で叩いた。
『恋に勇気が持てないあなたに効果抜群! 恋を叶える最新式惚れ薬はウィーズリー・ウィザーズ・ウィーズでお買い求めを!』
ウィーズリー家の何番目かが悪戯道具店で売り始めたものらしい。
「なぜ、このようなものが平然と売られている」
「昔から、冗談半分に使われることはございましたわ」
ベラトリックスが答えた。
「冗談で他人の意思を奪うのか」
「決して許されません、我が君!」
ベラトリックスはすぐに意見を変えた。
「惚れ薬など、この世から一滴残らず消し去るべきですわ!」
「賛成です」
ルシウスは言った。
全員が彼を見た。
普段なら、闇の帝王が新たな規制を口にすれば、既存の取引先や純血家への影響を考えるところである。
今回は考える必要がなかった。
「製造、販売、所持を全面的に禁止すべきでしょう」
「研究用には必要よ。解毒薬が作れなくなるもの」
ナルシッサが言った。
「魔法省が管理すればよい。個人宅へ置く理由はない」
「解毒剤を作る魔法薬師は?」
「免許制にする。保管量を記録し、使用後は一滴単位で報告させろ」
ルシウスは羽根ペンを取り、近くにあった羊皮紙へ書き始めた。
「未成年への販売は禁止。成人にも処方目的以外では販売しない。菓子や飲料への混入を想定し、無断投与は服従の呪文と同等に扱う。薬を渡した者、製造した者、使用を唆した者も共犯だ」
闇の帝王がルシウスを見た。
「やけに素早いな」
「娘へ盛られかけましたので」
闇の帝王が首を傾げる。
「飲んだのは別の少女であろう?」
「飲んでからでは遅いのです」
ルシウスは羽根ペンを止めなかった。
「惚れ薬を使った結果として成立した婚約、婚姻、契約、遺言はすべて無効。効果中に渡された財産も返還」
「ずいぶん具体的ね」
ナルシッサが言った。
「今考えた」
闇の帝王が、わずかに眉を動かした。
先ほど自分がバーティへ言うつもりだった言葉を、先に使われたからかもしれない。
「販売側も処罰すべきです」
ルシウスは続けた。
「購入者が未成年だと知っていて渡したなら営業停止。再犯なら閉店。商品の没収だけでは不十分です」
「ルシウス」
闇の帝王が呼んだ。
「何でしょう」
「私が想定していたより厳しくなっている」
ルシウスは顔を上げた。
「娘が男に惚れ薬を盛られたらと考えると厳しくしても足りません。何かあってからでは遅いのです!」
言ってから、ルシウスは気づいた。
闇の帝王にも、娘はいる。惚れ薬に思うところはあるはずではないか。
闇の帝王は、ルシウスの書いた羊皮紙へ目を落とした。
「続けろ」
「はい、我が君」
許された。
ルシウスは次の羊皮紙を引き寄せた。
「広告も禁じるべきです。『恋を叶える』という表現は事実と異なる。叶えているのは恋ではなく、薬物による執着です」
「それは愛ではない」
闇の帝王が言った。
ルシウスは一瞬だけ手を止めた。
まさか闇の帝王から愛という言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
「おっしゃる通りです」
バーティへ送られた法案は、闇の帝王の命令としては珍しく、人権を守る内容だった。
製造と販売を許可制にすること。
未成年への販売を禁止すること。
購入記録を残すこと。
本人の同意なく服用させた場合、服従の呪文に準じて処罰すること。
広告での過剰表現は規制すること。
バーティは戸惑いながらも、スクリムジョールとして法案を提出した。
法案は、あっさり通った。
それどころか、アンブリッジは原案より強い規制を求めた。
『本人の意思を奪って得た好意など、真実の愛とは呼べませんわ!』
ついでに今まで甘かった薬に関する規制が大幅に増えた。
アンブリッジの支持率は、また上がった。
「アンブリッジは、以前から惚れ薬に否定的だもの」
ナルシッサが言った。
「『薔薇色の惚れ薬は二度効く』の熱心なファンって彼女が言っていたわ」
ナルシッサはまるでアンブリッジから聞いたかのように言った。
ルシウスは妻を見た。
「言っていた? アンブリッジと話したのか?」
「手紙で時折やり取りするのよ」
ナルシッサは平然と答えた。
ルシウスには分からなかった。
妻はいつからアンブリッジと仲良くなったのか。
屋敷が静かになったのは、それからしばらく後だった。
赤子二人はドビーが世話していた。
ロックハートたちは仕事から戻らず、闇の帝王も杖を探しに出たままだった。
広い居間にいるのは、ルシウスとナルシッサだけだった。
ルシウスは、冷めた紅茶へ手を伸ばした。
飲む気にはなれなかった。
「ナルシッサ」
「何でしょう?」
「話がある」
ナルシッサは、書きかけの羊皮紙から顔を上げた。
ルシウスは、すぐには続きを言えなかった。
口にすれば、もう戻れない。
闇の帝王への忠誠は、何度も揺らいできた。
闇の帝王の助けなしでもマインが生きられると分かったとき。
屋敷が死喰い人の本部となり、家族よりも命令が優先されるようになったとき。
ドラコが寝返るように言ったとき。
そのたびに、ルシウスは時機を待った。
家族を守れる時。
失敗せずに済む時。
十分な勝算がある時。
そのような都合のよい時が来ると信じていた。
「私は、ダンブルドア側につくつもりだ」
ナルシッサは驚かなかった。
「知っていたわ」
ルシウスは妻を見た。
「知っていた?」
「ええ」
「いつからだ」
「マインが生きられると分かったときよ」
「まだ、今すぐではない」
「そうでしょうね」
「より良いタイミングがある。闇の帝王が屋敷を離れている今、情報を整理し、ダンブルドアと条件を──」
「あの子が、そんな都合のよいやり方を許してくれるかしら」
ナルシッサの声は静かだった。
「マインなら、説得すればきっと許してくれる」
「いいえ」
ナルシッサは首を横に振った。
「フェルディナンドのことよ」
その時、一羽のフクロウが窓を叩いた。
ルシウスが窓を開けると、フクロウは厚い封筒を置いて飛び去った。
封蝋には、ブラック家の印が押されている。
中に入っていたのは、フェルディナンドからの手紙だった。
『クリスマス休暇中、私をマルフォイ邸へ招待していただきたい。こちらから数名、客人を伴う予定だ。屋敷の場所と、訪問を許可する旨を記した返書を求める。客人は少々騒がしいので、ルシウスさんたちには別の場所にいていただきたい』
客人として誰が来るのか、名前は一つも書かれていない。
書く必要もないのだろう。
不死鳥の騎士団か、ダンブルドア。
あるいは、ルシウスがこれまで敵としてきた者たち。
「これは招待をお願いする内容ではないな」
ルシウスは言った。
「ええ」
「最後通牒だ」
「そのようね」
フェルディナンドは、ルシウスが本当に闇の帝王を裏切るつもりなのか疑っている。
いつか。
状況が整ったら。
家族の安全が確保できたら。
そう言い続けるルシウスへ、さっさと立場を明らかにしろと言っているのだ。
マルフォイ邸には、保護呪文がかけられている。
秘密の守り人はルシウスだった。
ルシウスが場所を知らせない限り、屋敷の所在は決して知られない。
闇の帝王や死喰い人たちが出入りできるのは、ルシウスが秘密を明かした者だからだ。
不死鳥の騎士団を招くなら、同じことをしなければならない。
屋敷の場所を書く。それだけだ。
書くだけで、マルフォイ家は闇の帝王の砦ではなくなる。
ルシウスは明確に闇の帝王を裏切ったことになる。
「断ることもできるわ」
ナルシッサが言った。
「その場合、フェルディナンドはどうすると思う?」
「別の方法でマインを守るでしょうね」
「我々を残して?」
「ええ」
迷うとは思えない。
フェルディナンドは、ルシウスよりもはやくマインを守る手段を選ぶ。
それはドラコも同じだ。
待つことを選んだルシウスだけが、いつまでも選ばないまま残される。
ルシウスは羽根ペンを取った。
マルフォイ邸の場所。
訪問を許可する言葉。
フェルディナンドと、その客人たちを招く旨。
書き終えた時、揺り籠から小さな声がした。
パーヴォが目を覚まし、泣き始めた。
つられてデルフィーニも泣いた。
ルシウスは反射的に杖へ手を伸ばした。
「シレンシオは駄目よ」
ナルシッサが言った。
「当たり前だ。ドビー」
「お呼びでしょうか、ご主人様」
ドビーが現れた。
「この手紙を出せ。これから私たちは別邸に移動するが、何があっても決してそのことを誰にも伝えるな。もちろん、場所もだ。聞かれたら、『何も知らない』と答えるんだ。もう時期、ここに客人が来る。闇の帝王は怒るかもしれん。赤子を守れ」
ドビーは目を見開き、そしてうやうやしくお辞儀をした。
「もちろんでございます。いってらっしゃいませ」
ルシウスはナルシッサの手を取り、姿くらましをした。