本好きの魔女、闇の帝王を読書仲間にする。   作:パラプリュイ

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少し遅れました!


124話 賢者不在のホグワーツ

 

「闇の帝王に殺された」

 

 わたしはスネイプ先生の腕の中にいるダンブルドア先生を見た。

 

 白い髪が腕から垂れている。半月眼鏡は少しずれていて、紫色のローブには煤がついていた。右手はだらりと下がっている。スネイプ先生が動くたびに揺れるのに、本人は少しも動かない。

 

 さっきまで、そこに座るはずだった。

 

 スネイプ先生の席と、ダンブルドア先生の席を空けていた。ケーキも二切れ取ってある。

 

 遅いな、とは思っていた。

 でも、来ないとは思っていなかった。

 来たのに、来ていない。

 

 意味が分からなかった。

 

「……どういうことですか」

 

 自分の声なのに、ずいぶん遠くから聞こえた。

 

 スネイプ先生は答えず、まずダンブルドア先生を長椅子へ横たえた。ハグリッド先生がいたら怒りそうなくらい慎重に、頭を支え、ローブを整える。それからようやく立ち上がった。

 

 髪はいつも以上に乱れていた。左の袖は裂け、頬には乾いた血がこびりついている。

 

 こんなスネイプ先生を見るのは初めてだった。

 

「今日、マルフォイ邸に不死鳥の騎士団が入った」

 

 ドラコが顔を上げた。

 

「……うちに?」

 

「本邸の方だ」

 

 スネイプ先生の声はいつも通り低かったが、その低さを保つことに力を使っているのが分かった。

 

 ダンブルドア先生を中心に、不死鳥の騎士団が複数でマルフォイ邸へ乗り込んだらしい。

 父が寝返った以上、あそこをいつまでも死喰い人の拠点として残しておくわけにはいかない。まだ屋敷に残っている者を捕らえ、使われている場所を押さえ、可能ならば闇の帝王側の戦力をまとめて削る。

 危険な作戦ではある。

 

 けれど、ダンブルドア先生がいる。

 不死鳥の騎士団は、それだけでどこか安心していたのだと思う。

 

 ダンブルドア先生がいるなら、何とかなる。

 ずっと、そうだったから。

 

「そこに、闇の帝王が現れた」

 

 スネイプ先生の言葉で、その思い込みが崩れた。

 

 ダンブルドア先生とヴォルデモートは、屋敷の奥で直接ぶつかった。

 二人が本気で戦えば、他の者は迂闊に近づけない。

 

 壁が崩れ、天井が落ち、呪文が飛ぶたびに廊下そのものが形を変えたという。ダンブルドア先生も無傷ではなかったし、ヴォルデモートも追い詰められていた。

 

「校長は蛇を狙った」

 

 ハリーが息を呑んだ。

 わたしも分かった。

 

 ナギニは分霊箱だ。

 

「……殺したんですか?」

 

「ああ」

 

 スネイプ先生が短く答えた。

 

「悪霊の火を使った」

 

 わたしの指先が冷たくなった。

 

 悪霊の火は、使った者自身すら呑み込むことのある危険な闇の魔法だ。燃やしたものを選ばず、普通の消火呪文では止められない。

 そんなものを、ダンブルドア先生が使った。最後の手段にしたかったはずだ。

 

「蛇は焼けた。完全にな」

 

 スネイプ先生の言葉に、ハリーが拳を握った。

 分霊箱が、一つ消えた。

 それだけ聞けば、喜ばなければならないことのはずだった。

 でも、その先がある。

 

「その直後だ。デルフィーが校長の杖を奪った」

 

「デルフィーが?」

 

 わたしは思わず聞き返した。

 スネイプ先生は頷く。

 

「校長は蛇を仕留めた直後だった。わずかに意識が逸れ、杖が手を離れた」

 

 デルフィーは、それを見逃さなかった。

 スネイプ先生はそこから先を、ひどく簡単に言った。

 

「激昂した闇の帝王が、死の呪文を放った」

 

 ダンブルドア先生は杖を持っていなかった。

 

 避けなかったのか、避けられなかったのか。

 

「命中した。即死だ」

 

 その言葉で、ようやく目の前の身体と話が繋がった。

 

 ダンブルドア先生は死んだ。

 

「……ダンブルドアは」

 

 トムの声がした。

 みんながそちらを向いた。

 トムはずっとダンブルドア先生を見ていた。

 

 顔色が悪かった。

 でも泣いてはいない。

 

「ダンブルドアは、もともと死ぬ予定だった」

 

 絞り出すような声だった。

 

「僕に殺せと言ったんだ」

 

 わたしはトムを見た。

 

「嘘だ」

 

 ハリーは言った。

 

「じゃあなんで、ヴォルデモートに殺されてるんだよ」

 

「そんなの、僕が知りたい。僕に言ったじゃないか! なんで先に殺されてるんだ」

 

 トムはダンブルドア先生から目を逸らさなかった。

 

「残念ながら」

 

 スネイプ先生が言った。

 

「その命令は私も受けていた」

 

 トムが振り向く。

 

「……何だと?」

 

「校長は私にも、自分を殺すよう命じていた」

 

「どうして」

 

「知らん」

 

 スネイプ先生の返事は乱暴だった。

 

 スラグホーン先生が、ゆっくり椅子へ座った。

 

 さっきまで持っていたグラスは床に落ちたままだった。琥珀色の酒が板の隙間に染み込んでいる。

 

「アルバスらしいと言えば、アルバスらしいのかもしれんね」

 

 誰も答えなかった。

 スラグホーン先生は腹の上で両手を組み、しばらくダンブルドア先生を見ていた。

 

「自分の死を、信頼できる相手に委ねたかったのだろう。敵の都合で殺されるのではなく、自分で選んだ相手に、自分で決めた時に終わらせてもらいたかった」

 

 トムの眉が寄る。

 

「だったら──」

 

「だが同時に、それが頼まれた者にとって、どれほど酷なことかも分かっていたはずだ」

 

 スラグホーン先生は静かに遮った。

 

「君に背負わせることも、セブルスに背負わせることも、最後まで決めきれなかったのかもしれん。あるいは、どちらかが断ってくれることを期待していたのかもしれない」

 

「……そんなの」

 

 トムが俯いた。

 

「卑怯だ」

 

「そうだね」

 

 スラグホーン先生は否定しなかった。

 

「アルバスは、立派な人間だった。だが、立派な人間がいつも正しいとは限らんよ」

 

 その時、ハリーが突然椅子から立ち上がった。

 

「シリウス」

 

「何?」

 

「シリウスに聞く」

 

 そう言うなり、ハリーはローブの裾を持ち上げた。

 わたしは目を瞬く。

 

「ハリー?」

 

「違う、靴下だ」

 

 ハリーは靴下の中から、小さな鏡を取り出した。

 なぜ靴下に鏡を入れているのか聞きたい。

 でも今は聞く時ではない気がした。

 

「シリウス!」

 

 鏡に向かって呼びかける。

 最初は何も映らなかった。

 やがて鏡の向こうが揺れ、煤で汚れたシリウスの顔が現れた。

 

『ハリー?』

 

「無事!?」

 

『俺はな』

 

 その答え方で、嫌な予感がした。

 

「騎士団は?」

 

 シリウスが一度、目を伏せた。

 

『ムーディの意識がない』

 

 ハリーの指が鏡を強く掴んだ。

 

『ビルもやられた。生きてるが、ひどい怪我だ。今は癒者が見てる』

 

「死喰い人は周りにいないの?」

 

『ダンブルドアが死んだ直後、向こうは一気に引いた。まるで目的を果たしたみたいにな』

 

「ヴォルデモートは?」

 

『もういない』

 

 シリウスの後ろで誰かが叫んでいる。物を運ぶ音もした。

 まだ終わっていないらしい。

 

『ハリー、お前たちはどこだ』

 

「三本の箒」

 

『そこにいろ。いや──』

 

 シリウスが一瞬考える。

 

『ホグワーツはどうなってる?』

 

 誰も答えられなかった。

 

 ホグワーツなら安全。

 今までなら、そう言えた。

 ダンブルドア先生がいるから。

 

 でも、そのダンブルドア先生は今、目の前で横たわっている。

 

「……ホグワーツって、まだ安全なの?」

 

 口に出してから、自分でも分からなくなった。

 誰も答えられなかった。

 代わりに、ハリーが急にポケットを探り始めた。

 

「何してるの?」

 

「これ」

 

 小さな瓶が出てきた。

 中では金色の液体が、光を捕まえるようにゆっくり動いている。

 

 フェリックス・フェリシス。

 

「これを飲もう」

 

 ハリーが言った。

 

「今?」

 

「今じゃなかったら、いつ飲むんだよ」

 

 ハリーは栓を抜くと、ほんの少量ずつ蓋へ注いだ。

 

 全員に少しずつ行き渡る量だった。

 

「飲みすぎるなよ」

 

「君がそうするなら」

 

 スラグホーン先生がローブの内側へ手を入れた。

 もう一本、金色の液体が出てきた。

 

 ハリーが目を丸くする。

 

「先生も持ってたの?」

 

「魔法薬学教授だぞ、ハリー。こういう時のための蓄えくらいある」

 

 スラグホーン先生は大人たちへ自分の瓶を回した。

 

「これは勇気を出す薬じゃない。無茶をしても助かる薬でもない。少しだけ、正しい方向を選びやすくするものだと思いたまえ」

 

 わたしも口に含んだ。

 

 甘いような、冷たいような味がした。

 

 飲み込んだ瞬間、世界が変わったわけではない。

 

 ダンブルドア先生は死んだままだった。

 

「あ」

 

 ドラコが、突然声を上げた。

 

「どうしたの?」

 

「幸運薬」

 

「今飲んだよ?」

 

「違う」

 

 ドラコがわたしを見る。

 その顔を見た瞬間、わたしも思い出した。

 

「あっ」

 

 秘密の部屋に、まだ調合途中のフェリックス・フェリシスがある。

 あと数日で完成するところだった。

 

「まずい」

 

 ドラコが低く言った。

 

「もしホグワーツが押さえられたら、秘密の部屋も占領される可能性がある」

 

 ヴォルデモートなら、秘密の部屋を知っている。

 むしろ、あそこを自分の場所だと思っていてもおかしくない。

 そこに大量のフェリックス・フェリシスを置いておく。

 最悪だった。

 

「移そう」

 

「どこへ」

 

「必要の部屋は?」

 

 考えるより先に答えが出た。

 今なら、そこが一番いい気がした。

 フェリックス・フェリシスがそう思わせているのかもしれない。

 

 わたしとドラコは顔を見合わせた。

 

「行くぞ」

 

「うん」

 

 先生たちには事情を伝えた。

 スネイプ先生はものすごく嫌そうな顔をしたが、止めなかった。

 

「十五分だ」

 

「無理だったら?」

 

「戻れ」

 

「はい」

 

 ホグワーツへ入ると、城内はいつもと違っていた。

 

 生徒たちは寮へ戻されているらしく、大広間も廊下も妙に静かだった。

 

 ところどころに教師が立っている。

 けれど、遠くから爆発音がした。

 静かではなかった。

 

「死喰い人が既に入ってる」

 

 ドラコが言った。

 ちょうどその時、上の階で何かが砕けた。

 

「急ごう」

 

 スリザリン寮から秘密の部屋へ向かえば、誰かに見つかる可能性が高い。

 

 こんな状況で「どこへ行くの?」と聞かれて、「ちょっと大量の幸運薬を回収しに」と答えるわけにはいかない。

 

 だから、わたしたちはマートルのいる女子トイレに向かった。

 

「マインが来るなんて珍しいじゃない!」

 

「久しぶり」

 

 マートルに挨拶した後、蛇の印が刻まれた蛇口の前に立つ。

 わたしが蛇語で命じると、洗面台が動き、暗い穴が開いた。

 

 その直後。

 

「へえ、こんなとこに」

 

 背後から声がした。

 ドラコがすぐに杖を抜く。

 

 わたしも振り返った。

 

 入口に、男が立っていた。

 

 新聞で読んだことがある。

 フェンリール・グレイバック。狼人間だ。

 その後ろにも数人いる。

 

 口元を歪めたグレイバックが、わたしたちを見た。

 

「マルフォイのガキがこそこそ何してる?」

 

 ドラコがわたしの前へ半歩出る。

 

「裏切り者のマルフォイ家の子どもなら、噛んでもいいよな?」

 

 グレイバックが笑った。

 鋭い歯が見えた。

 

「俺は子どもが大好きなんだ」

 

 ぞっとした。

 怖いというより、ひどく気持ち悪かった。

 わたしはドラコの袖を引いた。

 

「お兄さま、マートル」

 

「何だ」

 

「汚いから、洗濯してもいい?」

 

 ドラコが一瞬だけわたしを見る。

 

「……何を?」

 

「全部」

 

 聞き返される前に杖を振った。

 

「スコージファイ!」

 

 普通の洗浄呪文では足りない。

 なので、かなり強くした。

 

 水道管が破裂して、水が周囲に広がった。

 

「な──」

 

 グレイバックたちをまとめて呑み込む。

 水は泡立ち、渦を巻き、狼人間たちを壁から壁へと回した。

 

「ぎゃあああああ!」

 

「マイン!」

 

「洗濯は回した方が落ちるよ!」

 

「そういう問題か!?」

 

 グレイバックが泡の中から杖を振ろうとしたので、回転を速くした。

 靴とローブと何かよく分からない黒いものが飛んだ。

 

「汚れがひどいね」

 

「感想を言っている場合か!」

 

「でも今なら行けそう」

 

 不思議と、そう思った。

 

 たぶん幸運薬だ。

 ドラコも同じことを感じたらしく、何も言わず秘密の部屋への穴へ飛び込んだ。

 わたしも続く。

 

 秘密の部屋には、まだ薬の匂いが残っていた。

 巨大な石像の前に置かれた大鍋では、金色になりかけた薬がゆっくりと煮えている。

 

「無事だ」

 

 ドラコが駆け寄る。

 完成まであと数日。

 

 ここまで来て台無しにするわけにはいかない。

 鍋そのものを動かす必要がある。

 火加減も、温度も、揺れも変えたくない。

 

「浮かせるよ」

 

「僕が温度を維持する」

 

「蓋は?」

 

「閉めるな。蒸気が逃げなくなる」

 

「じゃあ固定だけ」

 

 わたしたちは手分けした。

 鍋を浮かせ、火を一定に保ち、揺れを抑える。

 

 それから来た道を戻る。

 

 女子トイレへ出ると、グレイバックたちはまだ回っていた。

 

「まだ落ちてないね」

 

「もう十分だろ」

 

 ドラコが呆れたように言った。

 

 わたしは水を止めた。

 

 狼人間たちが床へまとめて落ちる。

 全員、泡だらけだった。

 グレイバックが顔を上げる。

 

「お前……!」

 

「きれいになった?」

 

「殺す!」

 

「まだ汚いね」

 

 もう一度杖を上げると、グレイバックが一瞬怯んだ。

 その間にドラコと廊下へ出る。

 

「お兄さま」

 

「何だ」

 

「幸運薬ってすごいね」

 

「今のどこが幸運だったんだ」

 

「噛まれなかったよ」

 

「お前は幸運薬がなくてもなんとかなった気がする」

 

 鍋を浮かせたまま移動する。行く場所はトムと闇の魔術に対する防衛術の訓練に使っていた場所だ。

 

 城のあちこちで戦闘が始まっていた。

 

 死喰い人がどこから入ったのかは分からない。

 

 窓から赤い光が走り、石壁に呪文が弾けた。階段の向こうではフリットウィック先生が二人の魔法使いを相手にしていて、別の廊下ではマクゴナガル先生が机を生き物に変身させて侵入者を押し返していた。

 

 幸運薬を飲んでいたせいか、杖を振るタイミングが妙によく分かった。角を曲がる前に立ち止まりたくなり、立ち止まった直後に目の前を緑の閃光が横切ったこともあった。

 

 ロンが転んだことで呪文を避け、ハリーが何となく右へ曲がったことで教師たちと合流できた。

 

 幸運とは、もっと華々しいものだと思っていた。

 実際は、「そっちはやめておこう」という小さな選択の積み重ねだった。

 

 戦いは夜遅くまで続いた。

 

 やがて、死喰い人たちは引いた。

 マルフォイ邸から撤退したのとほとんど同じ頃だったらしい。

 

 ホグワーツを占領するつもりだったのか。

 ダンブルドア先生がいない間に何かを探していたのか。

 それとも、ただ混乱させるためだったのか。

 

 分からなかった。

 

 翌朝になって、一人いない生徒がいることが分かった。

 

 セオドール。

 

 スリザリン寮のベッドは空だった。

 荷物も、全部消えていたという。

 

「やっぱり死喰い人だったんだ」

 

 誰かが囁いた。

 

「逃げたんじゃない?」

「前から怪しかっただろ」

 

 噂はすぐに広がった。

 

 わたしは何も言わなかった。

 

 セオドールが何を考えていたのか、まだ分からない。

 でも、いなくなった。

 

 それだけは事実だった。

 

 ダンブルドア先生が死んだ翌日から、ホグワーツでは生徒の数が目に見えて減り始めた。

 

 玄関ホールには大きなトランクが並び、迎えに来た保護者が子どもを連れて帰っていく。

 ダンブルドア先生がいた頃、ホグワーツは世界で一番安全な場所だと言われていた。

 でも先生が死んだ翌日から、その言葉を口にする人はいなくなった。

 

 わたしとドラコのところにも、父から手紙が届いた。

 

『ダンブルドアのいないホグワーツが安全だとは思っていない。帰るのであれば、すぐに迎えを寄越す』

 

「どうする?」

 

 わたしが聞くと、ドラコはすぐに答えた。

 

「帰らない。葬儀に出る」

「わたしも」

 

 それに、必要の部屋へ移したフェリックス・フェリシスも、あと数日で完成する予定だった。

 

 何ヶ月もかけて調合したものを、完成直前で放り出すわけにはいかない。

 

 父には、ダンブルドア先生の葬儀に参列するため残る、とだけ返事をした。

 

 魔法書研究会でも、似たような話になっていた。

 

「私は残るわ」

 

 パドマは断固としていた。

 向かいではパーバティが頭を抱えている。

 

「お父さんとお母さんが帰ってこいって言ってるのよ!」

 

「私はダンブルドア先生の葬儀を取材するの」

 

「葬式よ!?」

 

「式の最中にはしないわ。世界中から人が来るんだから、話を聞ける機会を逃すわけにはいかないでしょう」

 

「そういう問題じゃない!」

 

 結局、パドマは両親から何度帰れと言われても聞かなかった。

 

 するとパーバティまで、「パドマ一人を残して帰れるわけないでしょう!」と言い始めた。

 

 それを見たロンが、「ウィーズリー家はみんな葬儀に出るし、僕も残る」と言い、ロメルダも残ると言った。

 ハーマイオニーは最初から葬儀に参列するつもりだったし、アーニーも「今帰ったら後悔する」と残ることを決めた。

 

 ルーナに至っては、「お父さんに残るって言ったら、記事を送ってって言われたわ」と言っていた。

 

 パドマが親相手にあれだけ強気に出たせいで、みんな妙に勇気づけられてしまったらしい。

 数日後、図書室を見回すと、いつもの顔が全部揃っていた。

 

「……結局、誰も帰らなかったね」

 

「パドマのおかげだ」

 

 アーニーが言う。

 

「どうして私なのよ」

 

「君が最初に親と喧嘩したから残らないともったいない気がしたんだ」

 

「意見が一致しなかっただけよ」

 

 パドマはそう言って、葬儀参列者への質問事項を書き続けた。

 

 ダンブルドア先生の葬儀の日が決まると、ホグズミード中の宿場が大混乱した。

 世界中から人が来たからだ。

 

 宿は一日で埋まり、三本の箒も豚の頭も泊まれない人で溢れた。普段なら見かけない外国のローブを着た魔法使いが通りを歩き、空き部屋を探す家族が荷物を浮かせながら行き来している。

 

 臨時の宿泊場所やキャンプ場まで作られた。

 ダンブルドア先生がどれだけ多くの人に知られていたのか、死んでから改めて見せつけられているようだった。

 

 魔法省からも大勢来て、ホグワーツに泊まった。

 その中心にいたのは、アンブリッジ魔法大臣だった。

 

 いつもより増してピンクの格好だった。

 

 記者に囲まれたアンブリッジは、何度か言葉に詰まりながら話した。

 

「アルバスとは、長い間、意見が合わないこともございましたわ」

 

 ホグワーツに来てすぐの頃のことだろう。

 

「けれど……」

 

 アンブリッジ先生はハンカチで目元を押さえた。

 

「アルバスもわたくしも、家族のことで深く悩みましたわ。彼も一人の悩める魔法使いだったのです。わたくしが魔法大臣になる時、推薦してくださったのは、彼でした」

 

 周囲の記者が一斉に羽根ペンを動かす。

 

「そのことを、わたくしは決して忘れません」

 

 声が震えた。

 

「ホグワーツで過ごした日々については……ええ、色々ございましたけれど」

 

 少しだけいつものアンブリッジ先生に戻った。

 でも、すぐに目を伏せる。

 

「最後まで、わたくしを一人の魔女として扱ってくださった方でした」

 

 わたしは少し離れたところから聞いていた。

 

 ダンブルドア先生とアンブリッジ先生が仲良しだったとは、どう考えても言えない。

 たぶん本人たちも絶対に言わない。

 

 でも、それでも残るものはあるらしい。

 

 インタビューが終わったあと、アンブリッジ先生はわたしたちのところへ来た。

 

「ダンブルドア先生の遺品について、魔法省がお預かりしています」

 

 ついこの間まで「先生の持ち物」だったものが、本人が死んだだけで「遺品」になる。それだけで、わたしは何とも言えない気持ちになった。

 

「ご本人から、誰に何を渡すか、いくつか指示が残されておりますわ」

 

「……そうですか」

 

「葬儀が終わってから、順番にお渡しします」

 

 アンブリッジ先生はそこで少しだけ声を柔らかくした。

 

「あなたにもありますわ」

 

「わたしに?」

 

「ええ」

 

 何だろう。

 

 本かもしれない。

 

 いつもなら、それだけで少し楽しみになったと思う。

 でも今は、何も欲しくなかった。

 

「先生本人からもらいたかったな」

 

 思わず呟いた。

 

 アンブリッジ先生は何も言わなかった。

 ただ、少しだけ目を伏せた。

 

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